命改変プログラム

ファーストなサイコロ

選ばれる時

 振り下ろされるスキルを纏った剣。青い輝きを放つそれは対象に当たった瞬間に、氷の刺を沸き立たせた。放たれる白い冷気が、周囲に満ちる。あの剣は氷結系の武器か。いや、それよりも!


「シルクちゃん!!」


 僕は目の前に現れてる氷の刺を切り裂いてその中心部分を目指す。だってそんな……シルクちゃんもきっと決死の覚悟で助けてくれた筈なのに、こんなのってない。すると無慈悲なオッサンの声が聞こえて来た。


「無駄だ。シルクはやられただろう。なんせアイツの魔法は封じてある。防ぐ術は無い」
「うるさい!」


 魔法が封じてある? だからシルクちゃんは魔法での防御じゃなく、その身を呈して僕を庇ってくれたのか。だけど彼女はヒーラーだ。そんなの無茶があるよ。だってヒーラーが好むタイプの防具って精神面の補助や詠唱補助なんかに特化してるのを選んでる筈。
 それは前衛系の防具とはどうしたって防御力が劣るんだ。それを補助して埋めるのが魔法なのに、それを使えない状態であんな無茶を……シルクちゃんらしいけど無茶すぎるよ。氷を砕き進む僕。だけどそこにイケメンさんが鋭い剣技をぶつけて来る。なかなかに速く重い剣戟。人間性が出てる様な真っ直ぐな太刀筋だ。


「貴方が居なければ……」
「ん?」


 なんだ? 瞳からポタポタと何かが落ちてるぞ。いや、何かなんて野暮ったいな。はっきり言おう、それは涙だ。イケメンが流す涙。随分と絵に成るな。まるでこっちがシルクちゃんを殺したみたいな感じをうける。
 いや、あながち間違っても無いのかも。確かに僕が居なければ……その言葉は正解だ。


「貴方が居なければ! 彼女は同胞である我々を裏切る様な事は決してしなかった筈だ!!」
「づあっ!」


 その迫力と勢いに弾かれるセラ・シルフィング。やっぱり伊達に代表の右腕を勤めてる訳じゃない。こいつは強いぞ。盾と剣をそれぞれ装備して、体は頑強なフルアーマーで覆ってる。まさに前衛で言う所のナイトタイプ。屈強な装備と盾で敵の攻撃を引き受けて、味方を守り攻撃のチャンスを作る。パーティーにはこう言うタイプも欠かせない。
 勇気をもって敵の前に立てる奴、己を犠牲に出来るその精神は素晴らしいと思うよホント。迷いの無い真っ直ぐな太刀筋も、反撃を恐れてないように感じる踏み込みも、それだけ彼は自身の防御性能に自信があるってことなんだろう。確かに一朝一夕で切り崩せる姿はしてないな。
 だけどスピードはこちらが上だ。僕は繰り出される攻撃をかわしつつ向こうの踏み込みに合わせて前へ出る。そしてそのまま交差して僕は後ろに抜けるよ。今はシルクちゃんが心配なんだ。悪いけど、後は背中側のウネリでイケメンを吹き飛ばす! こっちには推進力になるし、一石二鳥だ。
 だけどその時、おかしな事が起きた。バシュ!! っと弾ける様な音と共に、勢いがガクッと落ちる。


「スオウ避けろ!」


 そんなアギトの言葉に咄嗟に僕は体を横へ飛ばす。背中側から見えた刀身が真っ直ぐに僕が居た場所を突き刺してる。あれは……イケメン。どうしてまだそこに? いや、それよりもおかしな事は、背中のウネリが消えてる。力を消された? 僕は振り返り様感覚を研ぎすませる。消えたウネリを再び背中に集めるんだ。
 すると案外あっさりとウネリは再構成された。


(力自体を封じられたって訳じゃないのか)


 多分ウネリだけを一時的に弾いたって所だろう。でも……どうやって? 厄介だな。やっぱり特殊な力があるんだろう。でも今の僕にはそれを推測する情報が足りない。下手に動けなくなってしまったな。


「やめてくださいアギト。邪魔するのですか? 貴方はどちら側の人間ですか? 貴方が彼に味方するという事は、もうアルテミナスは言い訳出来なくなりますよ」
「くっ……俺は……」


 確かにアギトがこっちに付いたらそれこそもう、アルテミナスは言い訳出来ない。今ので結構ギリギリなラインだった。でも助かったよ。思わずだったんだろうけど、やっぱりアギトはアギトだな。


「おいおい、俺の獲物を奪うなよ。まあだが、久々に共同戦線ってのもいいかもな。こいつはそれだけの相手と認識出来なくもない」
「代表がそれでいいのなら、助力いたします! 私は彼が許せません。彼女の優しさにつけ込んで、たらし込んで、彼女を自身の命で縛る。この世界で自由を奪う……辛い選択をさせた。誰も彼女を傷つけたくなんかないのに……」


 なんだか彼が喋ると途端に僕が悪者っぽくなるのはなんでなんだ? イケメンって恐ろしい。なんだか周囲の空気もこっちを敵視してる瞳が多くなってる気もする。特に女性陣からの視線がなんか痛い。


「まあ確かに、俺もシルクは無くしたくは無かったよ。貴重な人材を捨てさせられた損害は払って貰わんとな!」
「はい!!」


 そう言って二人でこちらに向かって来るオッサンとイケメンさん。一人一人でも厄介なのに二人同時って反則だろ。だけど僕は世界の敵。悪者を倒すのに卑怯なんてないんだよな。それにシルクちゃんがこう成ったのも僕のせいらしいし……そこは否定しないけど、なんだかこいつ等の言い方は少しずつムカムカして来るというか……するとその時、こっちに迫ってたオッサンとイケメンさんの踏み込んだ足下に現れる魔方陣。そしてそれから出て来た白い鎖が二人の行動を束縛する。


「くっ--これはなんだ?」
「この魔法まさか……」


 そう言ってイケメンさんがこっちを見る。いや、正確には僕の後方か。すると現れてた氷の刺が光によって消されてく。なんだ? 何が? そう思ってると空からピクが降りて来た。そしてその光の中に入って誰かの手に止まる。誰か? --いや、ここに居たのは一人だけ。それは間違いなくシルクちゃんだ。


「やめてください二人とも。これ以上、彼を傷つけないで。殺そうとなんてしないでください」
「何を……それよりも何故魔法が使える? 魔法は封じてる筈だぞ」
「それはこう言う事だからですよ」


 そう言ってシルクちゃんは何かを投げる。なんだ? 腕輪? ボロボロだけどそう見えなくも無い。


「一体どういう……シルク様自身の力ではこうは出来ない筈です。それに貴方は、同胞よりも彼を選ぶんですか? どうしてそこまで!」
「確かに私の力じゃこれを壊す事は出来ません。だから他の力を使ったんです。さっきスオウ君を庇う為に飛び出した時、あの時に壊して貰いました」
「俺の力を利用したという事か」
「ええ、私にとってはそう、ゲームですから。貴方が言うように本当に死ぬなんて事はない。多少の痛みはスオウ君の苦しみに比べれば、我慢出来ない筈もないんです」


 そう言ってニコッと笑顔をくれるシルクちゃん。ヤバい、惚れ直しそうだ。やっぱり超可愛いなシルクちゃんは。それにこの暖かく包み込んでくれる様な感覚がたまらない。日鞠の奴が太陽なら、シルクちゃんはまさにシルクか綿みたいな……そんな感じだな。フワフワでスベスベで気持ちいいみたいな。
 でもシルクちゃんもなかなかに大胆な事をやってくれてたんだね。あれは僕を守る為だけじゃなく、自分を解放する手段でもあったんだ。流石だよ。そしてシルクちゃんは魔法を使ってピクの足にも付いてた枷を壊す。するとピクは大きく羽を開いて伸びをする。解放されて気持ちいいんだろう。


「私は……いえ、私達はこれ以上自分を抑えるなんて出来ません。私を高く買ってくれてるのは嬉しいです。感謝します。だけど、私達はきっと相容れない。だって勝手に死ぬ方が悪いなんて、私には思えません! 
 私はヒーラーとして、誰よりもスオウ君を死なせない用に頑張ってきました。それが使命だって勝手に思ってやって来た。でも二人はそんな頑張りを否定しました。遊びの中に度を過ぎたマジが入るのは駄目ですか? 助けようとは思えないんですか? 真剣なんです。人事なんかで済ませていい事なんかじゃない! 
 どうしようもないから見守るのは仕方ない。だけど分かってる上で殺そうとする事は違います! 私は決めてるんです。私が彼を死なせないって!!」
「今更なにを。それをやると言う事は人の国の全てのプレイヤーに迷惑を掛けるという事だ。優しお前にそれが出来るのか?」


 確かにオッサンの言う通り、実際そうなって欲しく無いからノンセルスでは向こう側に行かせたんだ。そしてみんなそっち側を選んだ。それなのに、なんで今頃……いや、嬉しいけどさ。本当にそれでいいのか? っては思う。


「シルクちゃん……」
「大丈夫……大丈夫ですよ」


 僕達の深刻そうな雰囲気を打ち消す輝く声と笑顔。思わずドキッとしたけど、どういう事? 


「私は別に人の国を裏切る訳じゃありません。私もスオウ君に賛成するだけです。ここまで来たら、私達が全てを丸くおさめるにはもう方法は一つしかない。私だってスオウ君と世界は天秤になんか掛けられない。だって本当の命と仮想とはいえ、感動や思い出をくれた世界です。どっちだって選びたい。
 ならやるべき事は一つだけ。私達は勝つんです。この戦いに!」


 それはいつでも一歩引いて僕達を守ってくれてるシルクちゃんにしては珍しい言葉。争いが嫌いそうな彼女の願う本当の勝利。その重みは彼女だから出せるんだと思う。するとどこからか聞こえて来るこんな声。


「言ったな。勝つとは、この俺にか?」


 土埃を吹き飛ばす黒い力の波動が周囲に広がる。立ち上がった邪神の姿に周囲の人達は一斉に後ずさるよ。まあ巻き込まれたくはないだろうからね。少しだけ広がった空間に残ったのは、僕達と、そしてエルフの一部隊。後はオッサン率いる人の部隊だけ。残りの人達は結構パニック気味に離れていったよ。我先にって感じでね。
 今まで自分的にはテトラは邪神らしくないな~とか思ってたけど、どうやら大多数の人達にとってはそうでもなかったらしい。ちゃんと邪神と認識されてるんだね。やっぱり僕と周りの感性はちょっと違うのかな?
 周りで見てるだけか、接してるかの違いだろうとは思うけどね。まあ普通は邪神に近づこうとは思わないか。だけどそれじゃあ分からない事もある。言い伝えなんて曖昧だよ。思ったんだけど、テトラもずっとこんな感じだったんだな。案外僕と変わんないかもね。
 でもだからって譲る事は出来ないんだ。シルクちゃんは怯える事もなく、真っ直ぐにテトラを見つめてこう紡ぐ。


「勿論です! クリエちゃんの願いを叶えて、貴方には引いてもらいます!」
「それじゃあ世界は平和には成らないぞ。誰もが望む願いを、あんな子供一人の為に台無しにする気か? それこそ身勝手な考えだ」
「身勝手……そんなの分かってます。でも私達は彼女の友達なんです。世界の為に犠牲になって欲しいなんて言えない。あんな小さな子の願いを奪うなんて間違ってる! クリエちゃんにはもう誰も味方がいないのなら、だからこそ私達は見捨てちゃ行けなかった。犠牲の上に立つ平和なんて、リアルだけで十分です!」
「ピピーーーーーーーーーーー!!」


 シルクちゃんの宣言に大きく呼応するピク。随分大きく出たねシルクちゃん。本当に彼女がこんなに大胆な宣言をするなんて思いもしなかった。誰よりも優しいから、立ち上がれる時だってある。彼女の芯は強いからね。
 綺麗事だと沢山の人は笑うかも知れないけど、でも彼女は本気だろう。誰よりも優しくこの世界に居るシルクちゃんはそれこそ、平和とかを誰よりも願ってそうだけど、認められない手段だと、そう言う事だね。
 まあ勿論大多数にはきっと指示されない。だから僕は世界の敵だし、これでシルクちゃんも仲間入りだよ。その考えに至れるのは、クリエと関わったから。その大前提が一番大きい。


「甘いなシルク。いや、優しすぎる! だがそんな優しく世界は出来てなんかいない! そんなのは砂上の楼閣・机上の空論だ。知ってるだろうお前だってな!!」


 テトラに向いてる時に、オッサンがその武器を荒々しく振るって来る。シルクちゃんの魔法をやすやすと跳ね避けやがったよアイツ。このままじゃ人の国もテトラの殲滅対象になり得る。だからこそ容赦なくその剣を向けてきたって事か。


「くっそ!」
「させません!」


 イケメンさんがシルクちゃんを庇おうとする僕の進行を阻む。この人も鎧が光ったと思ったらシルクちゃんの魔法が消えた様に見えた。くっそ、両手が使えればまだどうにか出来るのに……シルクちゃんは直ぐさま詠唱を始めるけど、流石に間に合いそうもない。しかもオッサンの武器の威力の前には直ぐに張れる程度の障壁じゃきっと壁にもならない。
 ついさっき力を取り戻したシルクちゃんには準備が足りない。きっとストック魔法も切らしてるんだろう。いや、だからこそここをオッサンは突いて来た訳か。見た目と違って抜け目がない奴だよ本当に。


「退けよ! アンタはシルクちゃんをこのまま殺させる気か!」
「薄汚い口を開くな! 貴様の所為ではないか!! 貴様のせいで彼女はこっちに居てくれない! その悲しみが一体どれ程か、貴様にわかるかあああああああ!!」


 イケメンさんがいきなり僕の言葉でブチ切れた。その整った顔に怒気を表して、涙を流してラッシュを掛けて来る。下手な言葉で感情的にしてしまったな。これじゃあ助けにいけない。余計振り払いにくくなった。だけどその時、僕達の横を赤い髪が通り過ぎる。あれは--


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 紅い炎が線を引いて巨大な剣とぶつかり合う。一気に広がる炎の明かり。明るくなった中で、更にはっきりと確認出来た。おいおい、良いのかよ。


「アギト! 貴様この行為がどういう事か分かってるのか! そこをどけえええええええ!!」
「誰が退くかああああああああああああああああああああああああ!!」


 二人の武器がぶつかり合う。ぶつかりあう度にアギトの槍からは炎が噴出してる。どっちも一歩も引かない。


「スオウ君! アギト君!」


 杖を構えたシルクちゃんがそう叫ぶ。一体何? そう思ったけど僕達はそれを直ぐに察したよ。取りあえず近くのアギトはともかく、こっちは範囲内まで行かないとな! するとピクがブレストファイアでイケメンさんの隙を作ってくれた。
 その隙をついて攻撃を叩き込む。これでなんとかシルクちゃんの側へ。すると彼女は詠唱してた魔法を解き放つ。


「私達に迅速の加護を!」


 光が体を包む。背中のウネリが一気にその勢いを増して復活。そしてアギトはその補助魔法を受けた瞬間にオッサンの攻撃をかわして直接槍をその体に叩き込んだ。スピードアップの補助魔法……まさか元からこれを詠唱してたのか? 誰かがくる事を信じて? 随分分の悪い賭けだよそれは。結果的には良かったけどさ、アギトの奴が動いたのは奇跡みたいな物じゃないか? てか、マジで良かったのか? このままじゃアルテミスと人の国は……


「戦争だな。お前の行為は戦争の引き金だ!」


 オッサンの発したその言葉でイケメンさんだけじゃなく他の怪しげな奴等も動き出す。そいつ等は変なアイテムを取り出した。機械仕掛けの盾みたいな……でも盾にしてはちょっとね。歯車とかがむき出しだし、なんか中央に怪しげに光る鉱石に裏から変なチューブが出てる。そこからゴボボと何かが出てるのか、それとも入ってるのか……本当になんだあれ? 
 何に使う物かも分からない。僕達は用途不明のアイテムに警戒する。だけどそこに大きな黒い陰が落ちる。


「戦争など起きはしないさ。何故なら、どちらの国も滅びるからだ」


 黒い大きな球体をその手に作り出しながらテトラの奴がそう紡ぐ。やっぱりそうなるよな。こいつに取ってはどこが争おうがどうでも良い事だ。要は自分を邪魔した奴を出した国は滅ぼす--それだけ。


「待て邪神! これは我らの意思じゃない。シルクを殺せば問題ないだろ! エルフとは違ってこっちは完全にシルクの独走なんだよ!」
「確かにそうかも知れんが、だからといってこれ以上待ってるのも飽きた。さっさとしないとクリエの奴が上へ付くかも知れんしな。そう成ったら終わりだ。
 時間はない。悠長に待っとく時間はな。疑わしきは全て灰にする。それが確実だろ」


 だからその黒い玉か。あのデカさだと周りの人達も巻き込む事になるぞ。邪魔な僕達も灰にして、そして国も灰にする気か。周りの被害なんか考えない……邪神らしいな。


「それに貴様等にシルクを殺せるか? スオウ達の壁を抜いて、それが出来るのか? 俺が待てる時間は精々一分だ。それで殺せたら考え直してやる」
「我らを見くびるなよ邪神!! 準備は出来てるな?」


 一分、その時間で何が出来るって言うんだ? 一分なら僕達だって持ちこたえる事は出来る。だけど実際、それじゃあ駄目なんだよな。こっちは別に人の国を滅ぼしたい訳じゃない。そう言う事はさせたく無い。ならやる事は決まってる。
 僕達はオッサン達にやられる訳にもいかなくて、人の国もエルフの国も灰にさせる訳にも行かない。それなら僕達はオッサン達をかわして狙うはテトラ。攻撃を向ける事で、どっか遠くに居るモンスターに指示を出せないようにするんだ。
 だけど問題はオッサンの声を受けて頷いた怪しげな奴等だ。あの盾みたいなアイテム……一体どんな効果があるものなんだ? 怪しげな雰囲気はプンプンするけど、実際のヤバさはまだ分からない。でもあれがオッサンの自信の原因に成ってる所を見るとそうとうな物なんだろう。
 こいつらをかわしてテトラに向かう--出来るか? 


「アギト、後悔してるのか?」
「ふん、もう腹は決めた。後戻りなんか出来るか。俺もシルクと同じだ。こう成ったら、何が何でも邪神を倒すしかないだろ。それしかアルテミナスを守る方法はないし、俺だって仲間を手にかけたい訳じゃない」
「やっぱり心に素直に……それが一番ですよね」
「そう出来ないしがらみがあった筈なんだけどな。けど……アイリなら許してくれるよな」


 僕達は互いの心を確認し合うよ。諦めてなんか誰もいない。


「スオウ君、セラちゃんは私が預かります」
「助かります。さて、こっちから仕掛けるか」


 僕はセラをシルクちゃんに預けて両手でセラ・シルフィングを構える。これで思う存分戦える。人の奴等の怪しげなアイテム。あれは気になるけど、だからって後手に回る訳にはいかない。


「スオウ、お前は奴等を突破する事だけを考えろ。俺が奴等を引き受ける」
「よし--ん?」


 走り出そうとする僕の視界に何かが映る。赤と白を基調とした防具に、ストロベリーブロンドの髪が揺れてる。そしてその手には細身の剣が白いスキルの輝きを放ってる。あれは--アイ……


「サッザンカアアアアアアアア!!」


 その瞬間見えない速度で幾回も突きが炸裂する。そしてそれを受けた黒い球体がその形を弾かせて消えていく。


「正気か? 血迷った様だなエルフの代表!」


 テトラはその拳を直ぐにアイリへと向ける。てかやっぱりアイリかよ! アイリの細い体じゃあの攻撃はきつい。そう思ってると、その後ろから侍従隊がスキルで次々暗器をテトラにぶつけて、その隙にアイリを救出する。


「アイリ様、あまり先行しないんでください! 相手はあの邪神ですよ!」
「ごめんなさい。だけど私も居てもたっても居られなくて。それにちゃんと貴方達を信じてたもの」
「うっ……アイリ様はズルいですね」


 そう言われると何も言えなくなるのか、侍従隊の面々は下がった。そこにアギトが駆け寄る。


「アイリ、お前どうして? てか、何やってんだよ!」
「何って、エルフの意思を表しただけですよ」
「意思?」


 笑顔でそう言ったけど、それはつまり……


「エルフは邪神に楯突くとそう言う事か? やはりお前は人気で持ってるだけの代表だな。ガイエンの奴の方がまだ見込みがあった」


 オッサンはそう言って僕達を怪しげな奴等で囲ませる。


「アイリ様、奴等の手にあるアイテムは危険です。そんな気がします」
「確かにそうですね。でも下がる事はしませんよ。私は人の代表に語りたい事があります」


 語りたい事? そう言ってアイリは気丈に胸を張ってその背にアルテミナスの代表という肩書きを背負って話しだす。


「確かに私はガイエンに比べたら色々と至らない所が多いと思います。だけどこの選択が間違ってるなんて思わない。平和は確かに魅力的です。でも私達が得たい平和は、こんな形なのでしょうか? これじゃあ私達は何も掴み取れてなんかない。与えられるだけ。
 それにやっぱり私は一番の友達が惜しいし、大好きな人と離れるなんて嫌なんです。結局このままならアルテミナスは潰される。それなら大切な人達を切り捨てて取り入るなんて私はしません。私は全てを取り戻す選択をします!」
「私情だな! そんな代表に一体誰が付いて来る!!」


 確かにわがまま……だとは思う。代表はその国にいる全てのプレイヤーの代表。国の事を考えなきゃ行けない立場。でもこれも国の為……なのかな? アギトが牙を剥いた今、テトラはアルテミナスを許さないだろう。
 それを許して貰うのは大変だ。だからアイリは大切な人達を切り捨てて国を守るよりも、僕達に賭けて全てを守ろうとしてるってことだよね。どんどん重い物が増えていくな。


「付いていきますよ」
「ええ、我らエルフの結びつきは人とは違います。貴方方には信じられないでしょうけど、アイリ様にはそれが出来る!」
「私達はようやくアイリ様に笑顔が戻った事に喜びを感じてる。それを無くしてまで守って貰うくらいなら、私達エルフは個々で全てを取り戻しにいきますよ。そして今度は自分たちの手で、アイリ様の笑顔を守るんです!」


 侍従隊の面々が力強くそう宣言する。これが……今のエルフ……なのか。なんか泣けるな。いや、素晴らしいよ。他の代表達は流石にこうは行かないだろう。アイリだから、許されてる事。面白く無い様な顔をするオッサン。
 流石にこの面子から一分でシルクちゃんを倒す事は難しい--そう思ってるんだろう。僕は逆に増えていく仲間の頼もしさに胸がいっぱいになってくよ。そう思ってると、空中のテトラが冷めた声でこう言った。


「虫が次から次へと……終わりだな。両国とも灰になれ」


 侵攻するのか? 二つの国が火の海に成る光景が目に浮かぶ。 

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