命改変プログラム

ファーストなサイコロ

その身を呈して

 夜空から世界を照らしそうなほどの光を纏って現れた女神シスカ。その姿には流石に邪神テトラも動揺せずにはいられない。だってどこからどう見ても、そしてどう感じても彼女はシスカなのだから。
 肩まで届かない切り揃えられた白銀の髪に、華奢な体。黒を貴重としたちょっと大人っぽい服に、無邪気な笑顔。それはまさにあの変態仙人モブリに見せられた時と同じ姿。見た目じゃまさにシスカなんだから、テトラは目の前に現れた彼女から目を放す事が出来ない。


「シスカ……なのか? 本当に?」
「他に誰に見えるんですか?」


 イタズラっぽい言い方。目の前の彼女はまさに彼女をしてるんだろう。こっちはハラハラドキドキなんだけど、その仕草から雰囲気まできっと完璧なんだろうなって思う。そこまでしないとあのテトラは欺けないだろうしね。


「いや、そんな筈はない! あいつがここに居る訳がないんだ!」


 頭を降って目の前の存在を否定するテトラ。腕も振り払って後ろに後ずさる。


「私の事、テトラは信用出来ない?」
「信用するかしないかの以前の問題だ! あいつはここに、この世界に既にいない。だから貴様は誰だ! 神を愚弄するその行為……いや、シスカになりすます事自体が気に入らない」


 ヤバイかも。テトラは必死にここにシスカが居るなんてあり得ない--その事を否定出来る材料を揃えてる。まあ冷静に考えれば確かにあり得ないとわかる訳だけど……実際、本物だと示す術は何一つ持ち合わせちゃいないからな。
 それにこっちは断片的に過去を知って繋げただけ。だからテトラに絶対と言わせるだけの何かがあってもそこを変につく事なんて出来ない。ボロが出そうだしね。


「貴様、その罪の覚悟は出来てるんだろうな?」


 そう言ってテトラの腕には黒い光が集まり出す。


 ダメ……か? いや、まだだ。シスカは微動打にしてない。この部の悪い賭けをまだ信じてる。もの凄くそれはテトラの意思や感情に偏った賭け。ここでは僕達だって動くわけにはいかない。僕とリルフィンも信じるしかない。自分達が推測してだした希望って奴をさ。


「ねえ、あれって……本物?」


 そう呟くのはセラ。セラとノウイはこの事は知らないから目の前の出来事に釘付け状態。まあ周りだってそうだろう。二人の神を同時に観れるなんて、この世界で生きてたってそうそうあることじゃないだろうからね。
 それにシスカの姿は実際テトラのあの反応がないとわからない位に言い伝えと違う。てか残ってる資料と違う。誰もが髪が長いと想像してただろうし、服だって黒はちょっとイメージなかったと思うんだ。なんてたって女神だからね。黒のイメージがまったくない。
 でも実際はああで、あのテトラの反応から「あれが女神なんだ」と誰もが納得行った筈。誰も知らず、そして唯一知ってるテトラが思わず名前を呼んだんだ。誰にも反論なんて出来ないだろう。まあだからこそ、論点が本物か偽物かって所に行くんだけど……


「本物か偽物かなんてそんなのどうでもいいだろ。問題はここからのテトラの行動だ」
「どうでもは良くないでしょ? でもその様子からして、あんた達の仕込みっぽいわね。でもその行動も既に目に見えてるわよ。攻撃しようとしてるじゃない」


 確かに、セラの奴は察しがいいね。まあ僕達が息を呑んで見てれば流石にわかるのか? でもテトラの奴は目の前のシスカに釘付け状態だから問題ないだろう。その問題よりも、セラが言った攻撃の方が重要だしね。僕は前を見据えたまま、こういうよ。


「まだわかんないだろ。僕達はあいつにとってのシスカって奴を突こうとしてるんだ」
「テトラにとってのシスカ?」


 ハテナが頭の上に見える。だけどそれ以上は言わないよ。見据える先のテトラは既に動きだしてる。手のひらの先に集った黒い光を目の前のシスカに向けて放とうとしてる。


「これで貴様を! 貴様の正体--をっ……っつ」


 微動打にしないシスカの姿に、テトラの振りかぶった腕が前に行かずに止まる。やっぱりそうだ。テトラは迷ってる。いや違うのかな? あいつにはきっと確信がある筈だ。目の前のシスカはシスカじゃないと。その位、きっと神ならわかる。だけどそれでも、奴はシスカに攻撃出来ない。あいつの中を占めるシスカの割合がそれだけ大きいから、わかってても躊躇ってしまうんだろう。
 そしてそれは、僕達の望んだ通りの結果だ。僕は小さく拳を握りしめる。すると固まってしまったテトラに向かってシスカが歩み出す。その時にフとこちらと目が合う。あれは……動く気だ。そう受け取った。


「ノウイ、ミラージュコロイドを階段の部分に一つやっといてくれ」
「りょ、了解っす」
「それとクリエの事も頼む。お前が一番生存確率高いからな」
「自分で良いんすか? てか、一体なにすれば良いんすか? 何もわかんないっすよ」


 ご尤もな意見だな。本当はリルフィンに任せる気だったんだけど、セラとノウイも来てくれて状況が変わったよ。僕達はクリエの願いを叶えてあげたいんだ。それにはあの階段を登る事と、そして後一つ、重要なアイテムが必要。でも今からそれはきっと手に入る。
 彼は成してくれると信じてる。だから僕達はそれの準備をしとくんだ。


「クリエをあの坂の一番上まで連れてってやってくれ。後一つ金魂水も託す事になる。それと一緒にさ」
「スオウ君達はどうするんすか?」
「決まってるだろ。僕達は全力でテトラを阻むんだ。だからお前しかいない。頼む」


 ノウイと一緒で状況があまり把握出来てないセラの奴は、いきなりそんな事を言われた筈なのに、文句も言わずにこう言ってくれる。


「あんたが適任よノウイ。信じてるわ」
「…………わかりましたっす。これが自分に出来ることなら、全力で頑張るっす!」


 決意を決めてくれたノウイにクリエを託す。ノウイに渡す際にクリエはこんな事を言ったよ。


「スオウ……お母さんが居るよ。また……来てくれたんだね」


 お母さん……はまだわかる。実質女神シスカは全ての生命の母みたいな存在だろ。それにクリエは二人の神の力で生まれた存在。五種族よりも直接的な力で生まれたクリエにとってはお母さんは間違いじゃない。でも−−


(また?)


 それがよくわからない。またって事は一度クリエは会ってるみたいな言い方じゃないか? でもそんな事……既にこの世界にシスカはいないとされてるんじゃ? 


「動くぞスオウ」


 リルフィンのそんな言葉に神の方を見る。取り敢えず今の疑問は置いておこう。どういう事か、クリエに聞く暇はない。大丈夫、全部が上手く行けばきっと、また話せる。そうだよな。


 黒い光を収束させた拳を振りかぶったまま固まるテトラにシスカは近づく。そして僅かに手を屈伸させてコキポキ鳴らした。やる気だ。普通では見えないだろうけど、僕には見える。彼は既に始めてる。


「やめてテトラ……ううん、攻撃なんてしないよね」
「シス−−−−っ!?」


 テトラに向かって伸ばされた腕が胸の所で空中に現れた四角い穴に消える。二つのスキルは既に発動してる。盗みの上級スキルとそして千里眼【梟】の組み合わせで今の彼は相手のアイテムボックスから任意のアイテムをかすめ獲れる。
 あの瞳には今、テトラのアイテム欄に納まってるアイテムが全て見えてる筈だ。そしてその一つを選択、逃がす事はない連携スキルの賜物。


「悪いわねテトラ。つ・か・ま・え・た!!」
「ぬぐぅあ!」


 抜き出された手に輝くガラス瓶。アイテム表示は勿論『金魂水』だ。流石、上手くやってくれた。


「スオゥ−−−−」
「やらせるか!!」


 手にしたアイテムをこちらに投げようとした腕を捕まえたテトラ。今ので確実に割り切ったか、テトラの奴はその腕に集めて収束した光を炸裂させる。激しい爆発に二人の姿が消えた。


「テッケ−−−−はむ」


 名前を呼びかけて僕は口を閉じた。だって下手に呼んだら不味いよね。彼の変身の意味がなくなってしまう。すると煙の中からシスカとは違う姿の人物が吹き飛んで出てくる。彼は水から顔を直ぐにだして、こう叫ぶ。


「上だ!!」
「上?」


 その人物の声に爆煙の上を見る。するとクルクル回るガラス瓶が見えた。金魂水か! どうやらまだテトラに奪われてない様だ。爆発の衝撃で上に飛んだんだろう。僕は足に風を集めて聖典から飛び出す。そして水を蹴って一気に金魂水を目指すよ!するとそれに続いてセラもリルフィンもついてくる。
 あれをテトラの手に再び戻すわけにはいかない。それをみんなわかってる。だけどその時、爆煙の中心から風が吹き荒れてテトラがその姿を表す。そしてこちらを見据えてその手を向けた。不味い予感がするな。


「ふざけた真似をしてくれたなスオウ。あれは……やってはいけないことだっだ!!」


 そう叫んだ瞬間にテトラの周りに無数の黒い光が現れる。そしてそれは一つを一つが禍々しく周囲の空間にヒビを入れて行ってる様に見える。すっげぇヤバそうだ。


「潰れろ……」


 テトラがその前に出した手を握ると同時に、ひび割れた空間から黒い光が発射される。それに応対する様にセラが展開してた聖典から黄金色の光を打ち返した。ぶつかり合う二つの砲撃。だけどそれはあっさりと勝敗を決した。
 数秒も持ちこたえる事も出来ずに黄金色の光は飲み込まれ、テトラの砲撃が水面に炸裂する。あたり一面で起こる激しい水の爆発。しかもテトラの奴は既に第二波を放ってやがった。続けざまに炸裂した爆発にリルフィンとセラが立ち往生する。
 二人ともこの水の嵐に足を取られた様だ。だけど僕はそのスピードを使って強引に抜ける。目の前に出来た大きな水の膨らみも超えて、迫ってくる砲撃を剣の背で払って受け流し方向を変える事で自分の勢いを殺さずに前へ進む。


「やはり貴様が抜け出すかスオウ。だが間に合うか? そこから自慢のスピードで?」


 そう言ってテトラは攻撃をやめて、落ちて来てる金魂水に向かってジャンプする。流石にここからじゃテトラよりも速く金魂水に辿り着くのは無理だ。でもそれなら!


「させるか!!」


 僕の両方の剣に光の風を纏わせる。そして一つをテトラに向かって放った。刀身から放たれた刃は真っ直ぐにテトラへ向かう。効く筈だ。今のテトラは何故だか知らないけど、弱体化してる。余裕で受け止めることが出来ないのなら、避けるしかない。
 だけどそんな僕の狙いをあざ笑うかの様にテトラは言うよ。


「神を舐めるな!!」


そう叫んだテトラは腕を上から斜め下に振るった。すると何かに弾かれる様に風の刃は水面に落とされる。水面で大きく膨らむ風の刃、だけどあれは別にあれで良いんだ。


「避けるとでも思ったか? 図に乗るなよスオウ」
「図に乗ってるのはお前だろ。忘れたのか? セラ・シルフィングは二刀の剣だ!」


 その瞬間テトラの頭上を通ってもう一つの風の刃が金魂水とテトラの間で炸裂する。


「くっ! 最初の一撃は俺の注意を引くための囮か!」
「その−−−−通りだよ!!」


 膨張した風に金魂水は飛ばされて、テトラの手の届かない所へ。そして僕はその金魂水を追うんじゃなくテトラへ一撃を浴びせに行った。真っ直ぐに突いた剣をテトラは手のひらに集めた黒い光で受け止める。


「貴様、金魂水じゃなく俺に来るのか?」
「ああ、僕の役目はお前を足止めする事なんでな。金魂水は大丈夫さ。こっちには飛び切り優秀な移動手段を持った奴が居る!」


その言葉にテトラの視線は金魂水へ移る。クルクル回りながら落ちて行く金魂水。だけど水面に落ちるその瞬間に、その水面から突如一人のエルフがクリエを抱えて飛び出して来る。


「獲ったっすうううううううううううう!!」


 勇ましい声をあげるのは紛れもなくノウイ。水面に鏡を配置して、上手く金魂水をゲットしてくれた。基本ミラージュコロイドは飛び出す仕様してるから、水中に潜らない様にしたんだろう。空中でガッツポーズを取ってるノウイは今までで一番輝いてるかもしれないよ。


「貴様等の思い通りになど行かせるか!」


 そう言ったテトラは黒い靄の中に消えて行く。受け止めてる奴がいなくなったから、僕は水面に着水する。これは既に何度も見た技だ。靄に消えて靄から現れる。つまりは奴の狙いは−−


「ノウイ! テトラがそっちに行ったぞ!」
「ええ!?」


 驚くノウイの背後に現れる黒い靄。僕は更に叫ぶよ。


「後ろだノウイ!」
「うわっす!!」


 靄から現れるテトラが素早くその手を掴もうと腕を伸ばす。


「返してもらうぞ、そのアイテム」
「おっ、お断りっすね!!」


 回避・逃亡スキルだけは超がつくほどの一級品性能なノウイは用意してたらしい、真横の鏡に手を突っ込む。その瞬間ノウイはテトラの目の前から消えた。そして次に現れたのは湖の中心に立った鳥居の真下だ。そこはまさに天上へと続く道の始まり。


「厄介な力を! だがにがさ−−」
「行かせない!!」


 再び靄を使って移動しようとするテトラに、テッケンさん変身バージョンが巨大化してるガントレットとでテトラの奴を叩き付ける。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 気合を込める雄叫びに呼応する様に大きなガントレットは手首に続く所から機械が現れてジェット噴射で勢いを増して振りかぶった。テトラを吹き飛ばせる程の重い攻撃。流石テッケンさんだ。いつもの姿でも頼り甲斐はあるんだけど、長くなった手足と、素顔を隠すための縦長に成ってる帽子がなんだかとてもキザったらしくて格好良いよ。マントもバサバサ揺れてるし、放浪の旅人みたいな格好で謎の人物って感じがよく出てる。
 そしてそんな謎の人物感をだしたテッケンさんのまさに鉄拳制裁で吹き飛んだテトラは一回背中から水面にぶつかり跳ね飛ぶ。だけどそこは神なんだろう、跳ね飛んだ所で態勢を整えてその後は足から水落ちて水面を滑る。
 だけどそこに今度は空から追い打ちが掛かった。無数の光がテトラを追いかける様に放たれる。無数の水柱があがり、それ等がテトラを囲む様に追い詰めて範囲を狭める。そして止まった所で出てる聖典全機を使っての一斉放射が炸裂した。眩しいくらいに輝く聖典の光。
 だけどそれをテトラは両手を使って頭上に広げた黒い靄の塊で軌道を逸らしてる。半円状に展開する事で受け止めずに自身の周囲に落としてるんだ。そのせいで拡散された砲撃が周囲に大量の水柱を挙げて行く。
 するとそんな水柱の中を駆ける白銀の姿が見えた。あれはリルフィンか! 今テトラの両腕は聖典の防御で塞がってる。それを狙っての攻撃。いけるかもしれないな。既にリルフィンの腕には突起物のついた例の武器が握られてる。剣と言うよりも相手を叩き殴るタイプの物騒な武器だ。


「テトラアアアアアアアアアア!! 主をお前から取り返す!!」
「何も知らない犬があああああああああああああああああああ!!」


 振りかぶったリルフィンの武器が激しく水面を叩き弾いた。三人の連携した攻撃。それが見事にはまった様に見えた。テトラに回避する時間はなかったはずだ。流石に倒せたとは思わないけど、今のテトラになら多少は通った筈だ。
 すると次の瞬間、大量の水飛沫を貫いて、黒い光がリルフィンを吹き飛ばす。


「リルフィン! −−−−つ!?」


 大きく飛ばされて行くリルフィンを見てると突如吹き荒れる黒い風の嵐。風の中心に居るのは当然テトラの奴で伸ばした腕の方向に向かって大きく風が回ってる? 乱れた風に煽られて、聖典も吹き飛ばされて行ってる。
 そして次にテトラは上から下を向く。するとその風を今度は拳に纏わせて一気に水面を叩いた。すると僕が数発風の刃を撃ってした事をたったの一撃でやりやがった。つまりはその瞬間、吹き荒れた風と拳の衝撃で水面が抉れたんだ。
 そしてその衝撃は水中にいたらしいテッケンさんへ炸裂した。


「おい!」


 彼は通常よりもかなり長く息を続かせるスキルとかを持ってたから、虚を着くために水中にいたのかも知れない。それに水面に立ってる方が実際難しいだろうし、テッケンさんも流石にそんなスキルは持ち合わせがなかったのかも。
 だからこそ水の中をあまりハンデにさせないスキルを使ってたんだろうけど、テトラはそれに気付いてたって事か。一気に三人を沈黙させたテトラ。神の名はやっぱり伊達じゃない。そして向けられる多大な殺気。
 背筋が一気に凍る。全身の毛穴から嫌な汗が染み出して来てしまいそうな程のプレッシャー。僕は直ぐに身構える。


「遊びは終わりだ」


 そんな言葉と共に靄が奴の身体を隠してく。例の靄を使った空間移動……僕は当然の様にテトラが次に狙うのは僕だと思ってたけど、ふと頭に今の言葉が蘇る


【遊びは終わりだ】


 遊び? テトラにとっての遊びは、それこそこの戦闘自体なんじゃないか? 奴が本気で意識を向けるべき相手は実は僕じゃない。あいつが必要な物を握ってるのは−−−−


(ノウイ!!)


 −−−−移動先は僕の所じゃない!! さっきの僕の使ったフェイントと同じだ。殺気で意識を僕だと思わせて置いての本命狙い。それを使い返す気だ!!


「行かせるか!!」


 僕は走り出すと同時に、意識を集中して消えて行くテトラの靄の傍にウネリを作り出す。そしてそれを弾けさせて奴の周りを覆ってる靄を流れさせる。すると消えかけてたテトラの姿がハッキリと再び見えた。
  そして移動を失敗したテトラに一気に詰め寄り、二刀のセラ・シルフィングで接近戦に持ち込む。


「ノウイ達の所へは行かせない! 人のやり方パクルなよ。神様だろ!!」
「気付いたか! だがパクったとは心外だな。応用をしたんだ。やはり貴様はここで潰しておかないとダメな様だな!!」


 セラ・ シルフィングとテトラの黒い光を纏った拳がぶつかり合う。黒い光が防御を高めてるのか、切れない。だけどセラ・シルフィングだって競り負けちゃいない!! 僕達はぶつけ合い、かわし防いで互いの攻撃を潰し合う。


「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおらああああああああああああああああ!!」」


 水上で激しいぶつかり合いが続く。一歩だって引かない、引けない。互いに僅かだけど傷が身体について行く。二刀の速さについて来るテトラは流石だ。奴の目にはちゃんと僕の動きが見えてる。テトラの奴も既に余裕を見せてないけど、弱体化してようやく少しは迫れた程度かよ。
 相変わらずパワーは向こうが上の様だし、一瞬の気の緩みがこの拮抗をきっと崩す。すると一瞬テトラの動きが僅かに鈍った? いや、ガタついたとでも言うのか、一瞬だけ動きが止まった様に見えた。だけどこのワンテンポを見逃す事は出来ない。
 僕はその瞬間位細く息を吐いて僅かに身体の緊張を解く。そして次の一瞬に音を消して片側の剣を振り下ろす。煌めく緑色の風の輝きが線を引いた。一瞬遅れて水面に伝わる剣戟の衝撃が水を割る。そしてテトラの身体に刻まれる傷は血を表現せずにパリパリと切られた場所が剥がれる様に身体と言うオブジェクトを損壊させる。


(ここから一気に攻勢に出る!!)
「ぬぅおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「−−ガっ!?」


 テトラの奴の拳が次の瞬間に僕の腹を捉えた。この野郎、切られた衝撃を無理矢理立て直してその攻撃を当てて来た。弾け飛ぶ僕の体。だけど踏ん張りが効かなくなってたテトラも反対側に飛んでた。
 だけどテトラの奴はあくまで自分一人で立て直す。水面にまだまだ力強くその両足をつけて立つ。僕はというと飛ばされたのをセラに助けて貰って、その肩を借りながら水面に僅かに浮かぶ。そして両脇にはそれぞれテッケンさんとリルフィンも戻ってきた。
 こっちは四人、向こうは一人。だけどこんな人数、ネットゲームのボス戦にしたらあり得ない少なさだよ。しかも相手はラスボス(予定)だ。途方もない敵。月光を映す水面に映えるその姿は僕達と同じ姿で同じ様に見えるけど、その迫力はやはり神そのもの。でも向こうも僅かだけど、肩が上下してるのが見て取れる。
 一人じゃ一死報いるのが精一杯でも、今の僕達と今のテトラの状態なら、希望はある。そう思える。


「セラ様! みんな!」


 聞こえた声の方を見るとまだそこにはノウイの姿が。いつまで見学してる気だ。不安そうな顔を見せるなよ。ただでさえ、ノウイの顔はゴマ粒みたいな目で悲しみや不安が良く伝わるんだからさ。
 すると突然に姿を消すテトラ。そして次の瞬間、セラを聖典から吹き飛ばす。黒い光の近距離砲撃! だけどセラは自分が乗ってた聖典でテトラを狙う。黄金の光がテトラの手のひらで防がれて拡散する。でもセラは吹き飛ばされながもこう言うよ。


「行きなさいよ! 早く!!」


 セラの聖典を防いでる状態のテトラを狙って僕達も動き出す。それと同時に僕達もノウイの背中を押すよ。


「行くんだノウイ君!!」
「貴様は気にせずに登れ!!」
「テトラは僕達が、絶対に阻んでみせる! だから!!」


「「「「いけえええええええええええええええええええええええええええええ!!!」」」」


 満月の夜。水面を激しく揺さぶる攻撃がぶつかり合う。走り出した背中を僅かに見つめて、僕達は倒すべき敵に意識を向ける。

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