命改変プログラム

ファーストなサイコロ

月下に吼える

「そうだ、水……いや、水中か!」
「何よいきなり?」


 僕の荒げた声に驚くセラ。だけどこれは自分を褒めてやりたいから声を荒げずにはいられない。そうだ。そうなんだよ。水だ。それしか考えられない。


「だから水だよセラ!」
「だから何が水なのよ?」
「いや、だからローレの奴の居場所だろ!」
「居場所だろって言われても……言葉が足りないのよあんたは」


 全くこのテンションについて来てくれないなセラは。これってとっても重要な事なんだぞ。するとクリエ弱々しい声でこう言ってくる。


「スオウはいなくなったローレの居場所を見つけたんだよね……」
「そう言う事」


 流石クリエ。立派になったな。


「なんだか虫の息ね。やっぱりあの道を開いたのが影響してる?」
「みたいだな。このままじゃクリエは長く持たないらしい。回復薬も効かないし、正直このままじゃヤバイ」
「じゃあせめて願い位は叶えないとね」
「そうだな−−って、クリエだってこのまま消したりなんかしない。方法はきっとある筈だ!」
「そうは言ってもね……」


 セラは深いため息を吐く。確かにそのため息はわかる。だけどこのままクリエを消しちゃ、どうなんだって思う。願いが叶って消えれるのは、まだ良いのかも知れないけど……でもそれで良かったのかって僕はきっと思うだろう。
 クリエの本当の幸せはさ、この先にあるんじゃないのか? これが終わればそれこそ、普通に過ごせる日々が来るかも知れない。ここで消えたら結局、役目を果たしただけじゃないか。最初からその為の存在なんて、言わせたくない。
 ここはゲームでNPCは製作者の意図から逃れられないのかも知れない……けど、最近は意思に目覚めるNPCが増えて来てるだろうし、もう決められた出来事だけをなぞる方が珍しいだろ。それならこのクリエにだって、決められた消滅って運命とは違う道があってもおかしくない。それを掴んでやりたい。


「取り敢えず、クリエの事はローレの奴をとっ捕まえてからだ。テトラの奴が動かない今がチャンスだからな」
「方法があるのよね。まあ内容はいいわ。あの腹黒い女がどこで聞き耳立ててるかわかったものじゃないしね。で、そのローレの居場所って? 言っとくけど、上から見てる分には水上には見当たらなかったわよ」
「だろうな……あいつ言ってたよ。それぞれの召喚獣の特性を持つ技を使うには、その召喚獣を召喚してないといけないって」


 そしてそれをふまえて考えると、今はオルカだけを召喚してる訳だから、それだけって事になる。まあローレの事だからまだ何か隠しててもおかしくないけど、一応強力そうな召喚獣の技を使う筈だろう。
 元がヒーラーらしいし、そんなに通常魔法で攻撃特化の技を持ってると思えないしな。召喚士になって単独戦闘をよく行う様になったと考えれば、ローレの魔法はやっぱり召喚した召喚獣に依存してるって事になる。


「オルカはきっと水を司る召喚獣だ。そしてその特性が一番発揮されるべき場所はどこか? 考えれば直ぐに分かる事だろ」
「ようは、ローレの奴はオルカって召喚獣の魔法か何かで水中に身を潜めてるって訳ね。確かに一番安全かもね。水中はウンディーネくらいしかまともに動けないしね。戦闘には不向きな場所。そのウンディーネも今やローレ側。
 絶対に安全な領域って訳ね」
「そう言う事だ」


 そう今や水中は絶対安全圏。その中なら全ての手駒をローレは揃えてる。だからこそ、今まで良く見せて来たイフリートやエアリーロやノームじゃなく、オルカなんだろう。水中の優位性を最大限に活用して来たわけだ。


「どうするのよ。水中にこもられたんじゃ手の出し様がないわ。聖典も一応水中に潜れるけど、ウンディーネが居るんじゃ分が悪いわ。奴等はこう言う所なら敵なしだもの」


 珍しくセラが弱気を見せてる。まあ弱気ってよりも冷静な状況判断なんだろうけど、敵なしか。それは厄介だな。やっぱり水を得た魚は強いんだね。聖典の多機能にも驚くけど、でも潜水は一応出来るってだけなのかな。


「適当に攻撃を打ち込んでもきっと効果無いだろうしな……正確な一撃を叩き込めれば……」


 そんな方法があれば苦労しないんだけど……テッケンさんならなんらかのスキルを持っててもおかしくないけど、今は別の役目があるしね。それもとっても重要な役目。頼るわけにはいかない。


「こうなったらノウイの奴にってあいつのミラージュコロイドじゃ意味ないわね」
「ノウイの奴もこっち側に?」
「その筈だけど……あいつは飛べないから、船を調達しに行ってた筈だけど遅いわね」


 飛べないって飛べる方が珍しいけどな。僕も別に飛んでるわけじゃないし、支えてるだけ。ローレは聖典二機使ってるから飛んでる状態だけど、実際二機を操って飛ぶのってやり難そうだよな。まあノウイを待ってる時間はない。それにやっぱりミラージュコロイドは便利だけど、この場合あんまり訳に立ちそうにないしな。
 するとこの煙の中で、響く声が複数聞こえて来る。


「これはウンディーネ?」
「音攻撃かも、あんたが食らってた奴。流石に湖全体には無理だと思うけど、狙いは別にあるのかも知れないわ」


 別の狙いか、じゃあゆっくりしてる暇はないな。でもこの広い湖のどこにローレが潜んでるのか……それを見つける術がないと僕達は動けない。


「聖典を広範囲に広げて撃ち続ける? 何処かで当たりにぶつかるかもしれないわ」
「それってどうやって当たりを判断するんだ?   ぶつかった感覚まで感じ取れるのか?」
「……まあ、そこまでは流石の私の感覚でも無理ね」


 ただ闇雲にやっても無駄なんだ。必要なのは、ローレの姿を捉えれるくらいにこの水を弾けるくらいの攻撃をしないと、次に繋がらない。聖典一機の攻撃だと、流石にそこまでの威力はない。収束砲でないと……だけど収束砲は連発は出来ない。
 やっぱり正確な位置を知って、追い込める最高の一撃を決めないと……でもその術が−−


「スオウ……それにセラ……クリエならわかるよ」


 弱々しい声でクリエがそう紡ぐ。分かる? どう言う事だ?


「だからね……クリエはローレの居場所が分かるの。だってクリエはみんなとお話し出来るから」
「そうか、お前この湖と……」


 それで位置を教えてもらったのか。確かにクリエは世界のいろんな物と話す事が出来るのは確認してる。間違いない。


「悪いな無理させて。でも助かる。それでローレはどこだ?」
「うん……えっとね−−」
「待って! 何か聞こえ−−っつ!!」


  煙幕の中を切り裂いて水の矢が僕達に突っ込んで来た。咄嗟にかをしたけどこれってまさか、この煙幕の中で位置を正確に捉えたって事になる。そして今度は上方から大量の矢がが降り注ぐ。しかもやっぱり僕達がそれぞれ避けた位置にだ。
 僕はその矢をセラ・シルフィングで叩き落とし、セラは聖典で撃ち落とす。


「これって完全に位置バレしてるわね」
「でもどうやってだ? 視界は頼りにならないだろ?」
「……この音! ウンディーネの発するこの声が超音波みたいな役割をしてるんじゃないの? 奴等ならあり得るわ。イルカとかもそうやって障害物を見つけるでしょ」
「なるほど……水中が得意な奴等が持つ特殊技能みたいな物か」


 それにしてもマイナー種族には色々と特殊な力があるよな。スレイプルは鉱石操作が出来るし、ウンディーネは水陸両用の体に変身出来てさらにこんな位置特定の力まで……優遇されすぎだろ。だけどこれってウンディーネにバレてるって事はだよ……もしかしてオルカとかにも既にバレてる可能性が−−


「セラ避けろ!!」
「くっ!?」


 その瞬間煙幕の中を切り裂いて矢とは違う何かがセラの足元の聖典一機を貫く。赤い炎をあげて炎上する聖典が湖の中に消えて行く。すかさずローレは近くを飛んでた聖典を足元に来させて代わりにする。
 でも今のは明らかにウンディーネの放つ水の矢とは威力も速さも段違いだった。そう思ってるとさらに白い何かが鞭の様に僕とセラに襲い掛かって来る。その白い何かは水を巻き上げるどころか、当たった水面を切り裂いてる様に見える。どれだけ鋭利なんだよ。しかもあれだけ自由に動かせるって……


「スオウ!」
「しまっ!?」


 避けた先でウンディーネの矢が降り注ぐ。どうやら誘われたようだ。そして更に鞭のような白い何かが迫る。僕はそれをセラ・シルフィングで受け止める。するとピチピチと顔に水が掛かった。


「これは水か……」


 どうやら高圧縮された水を鞭みたいに躍らせて放ってるみたいだ。そういえば魚聖獣もこんな攻撃をしてたな。高圧縮の水は使い勝手いいのかも知れない。威力も半端ないしな。すると更に勢いが増して来る攻撃にとうとう後方に押されだす。このままじゃヤバイな。
 受け止めるのは分が悪い。しかも視界の悪さが敵の位置をわからなくしてるのは実はこっちだったり今はしてるわけで……この煙幕が結構裏目ってる。
 だけどこの煙幕のおかげで周囲の他の種族の攻撃は来ないわけで、どうするのか微妙な所だな。


「スオウ……」


 不安気なクリエの声。押され出してるからな。心配してくれてるんだろう。周囲で光ってるいくつかの光はきっと聖典と水の矢のぶつかり合い。セラはきっと見えない所でフォローしてくれてる。まあだからこそこっちの救援に手が回らないのかもしれないな。
 ここは自分でなんとかするしかない。取り敢えず、この煙幕を有効に活用しようじゃないか。


「大丈夫だ。任せとけクリエ!」


 僕はそう言って集中する。高圧縮の水を受け止める中、自身の目の前に代わりに水を弾き飛ばすウネリを一つ作り出す。そしてそれに水の相手を任せて僕は一気に水面を蹴る。目指すはこの水の出どころだ。この先に必ずオルカは居る!
 真っ白な煙で満たされた湖を進んで高圧縮する水を放つ影を捉える。僕はその影にセラ・シルフィングの鋭い一撃を叩き込む。


『なっ−−に!? どうし−−ブッ!』


 鋭い一撃のあとに、回転蹴りをお見舞いしてオルカを吹き飛ばす。残念だけど、いちいち語ってる暇はない。まあだけどこれからローレを狙いに行くのに邪魔されるのもなんだし、吹き飛ばしたオルカに更に風の刃を放って追撃しとく。
 少しでもダメージが通ったのなら、多少は動きも鈍く成るだろ。よし、なんとか進路は確保出来た。ここからあの高飛車な女に一泡吹かせてやろう。


「クリエ、ローレの居場所はどこだ?」
「うん、えっとね……向こうの方」


 クリエはそう言って真っ直ぐ前方を指差す。かなり曖昧な表現。だけど様は逐一教えてくれるって事だろ。実際、そんな何回も声を出せるのも結構不安なんだけど……実際今でもクリエの指先はカタカタ震えてる。
 少しでも無理をさせない為には、僕達がいち早くローレにたどり着く。それしかない。


「向こうだな。良し!」


 僕はクリエが指差した方向にまっすぐに進む。すると複数の風切り音が周囲から聞こえてくる。視野を狭めてる煙幕の向こうから現れるのは水の矢。とことんウンディーネ共がうざいな。僕は当たる分だけを切って落とし、後はスピードで振り切る! 激しい水飛沫を上げて加速。
 だけどしつこくウンディーネの矢は降り注ぐ。すると後方から聖典の光が矢を葬ってくれた。後ろをチラリとみると、セラの姿がある。あいつ、この煙幕の中で良く僕達を見つけれたな。
 追いつかせてやりたい所だけど、でも今はスピードを落とす訳にはいかない。


「まだかクリエ?」
「もう少し、もう……少し。うん、ここだって」


 そう言われた所で勢いを殺す。煙幕で覆われてるから、どこも一緒に見えるな。クリエがいなかったら絶対に見つけられなかっただろう。この真下にローレが。気付かれると面倒だし、さっさとやるに限るよな。
 そう思ってると、後ろからセラが追いついて来た。


「なかなか速かったな。てかどうやってもう一回僕を見つけたんだよ?」
「そんなの簡単。聖典を一機、あんたの傍においてるもの。視覚は共有してるし、それにセンサー類もあるわ。聖典が広範囲に広がれば広がるほどに、私の感覚っていうか索敵範囲は広くなるのよ」
「なるほどね」


 流石スーパー高性能な聖典だ。羨ましい能力持ってるな。でもそれを使いこなせるのはセラだけなんだよな。聖典は基本複数同時運用で能力が底上げされるみたいな感じだもん。でも複数の聖典を同時に操るのはかなり難しいらしいから、一つ二つ程度じゃ、その恩恵は得られないんだろう。
 けどセラは普通に五機位は常時飛ばせるし、最大で二十だからな、聖典を最大限に活用出来るんだろう。まあだけど今は聖典に憧れるのはこの位で。僕はセラを見てこういうよ。


「クリエを頼んでいいか? ここばっかりは流石に両腕が必要だ」
「そうね。あの女に片手じゃ挑めないわよね。私は別に片手でも最大攻撃撃てるし、問題ないわよ」
「んじゃ頼む。クリエもありがとな。お前の情報、無駄にはしない」
「うん……頑張って」


 そう言って笑顔をくれるクリエ。けどその額には汗が溜まってるのが見て取れる。辛そうだ……本当に。もしかした、僕達が考えてるよりも時間はないのかもしれない。ここで状況を引っくり返さないと、ダメになりそうな……そんな気さえする。だから失敗は出来ない。
 テッケンさんはまだ上だろう。演出的に、それがいいと決めたんだ。でもリルフィンはきっと近くに居る。存在感を匂わせてないのはこれが一度きりのチャンスしかないからだ。僕がそれを成し遂げる事を信じて、リルフィンは待機してくれてる筈。実際かなり辛い役目だけどね。
 どんなに目の前で危ない事が起こっても出て行っちゃいいけないってのは辛い。リルフィンって結構ローレ絡みだと感情が先走ったりするしね。でも今回ばっかりは自分を制御してる様だ。対立までしちゃったんだし、一泡位吹かせないと戻れないもんな。
 それに案外、リルフィンの闇と言う属性と、狼と言う特性はこの役割に適してる。しかも今は夜。そして満月だ。リルフィンは本来の姿には戻れないけど、ある程度力は取り戻してるらしい。だからこそ、神にも他の召喚獣にも気度られない行動が出来る。まあ完全にわかんないから、こっちも把握の使用がないけど、そこは信じるしかない。


「は〜ふぅ〜」


 僕は一度大きく深呼吸して、背中のウネリの回転を増させる。そしてウネリを使って高く舞い上がり、二本のセラ・シルフィングに流星の輝きを纏わせる。そして見据える水面に向かって、輝く風の刃を連続で撃ち放つ!!


「いっけええええええええええええええええええええええええええええ!!!!」


 連続して水面に直撃する刃はどんどん大きくなって広範囲の水を抉って行く。だけどまだまだだ!! 僕は最後に両腕を同時に振り上げて背中まで持って行き、身体ごと振りかぶって風の刃を放つ。そしてその直撃で、湖全体を覆ってた煙幕まで巻きこんで風の刃はその役目を果たす。激しい風の音がたち消えると同時に、湖は元の姿をさらし出した。
 水面に映る大きな満月が欠けている。澄み渡った景色の中で、それははっきりと見て取れる。そしてその欠けた中心に探し求めた奴が居る。ポッカリと抉れた水の中心に、青い球体に入ったローレ。奴が握る杖のクリスタルの一つが緑色に輝いてる。あの色を僕は知ってる。あれはエアリーロの輝きだ。
 やっぱり次に召喚するのはエアリーロだったか。水を得意とするオルカの次に出すとなると、水を物ともせずに戦える奴が望ましい。それなら場所と相性が悪そうなイフリートやノームは無いと思ってたよ。縦横無尽に飛べて機動力も高いエアロリーロがベストだろ。
 だけどまだ召喚まではしてないよう。クリスタルの輝きは九割位は溜まってるけど、残り一割は元の色のまま。どうやらギリギリで詠唱を止められた様だ。これはラッキーだな。


「スオウ、よくわかったわね。流石だけどちょっイラって来ちゃったか−−」
「その口そろそろ閉じなさいローレ!!」


 ローレの言葉を遮って、その瞬間セラの奴が収束砲を放つ。しかも聖典を更に増やして八機での収束砲だ。えげつなさではセラもローレと良い勝負してるな。激しさを増した黄金色の輝きは真っ直ぐにローレを捉えてる。
 だけどその時、抉れた水から何かが飛び出して来る。


『主はやらせない!!』


 その瞬間渦を巻いた水の壁が収束砲とぶつかる。オルカの奴、まさかこんなに速く追い付いて来るとは予想外。さすがは水の召喚獣と言った所か。だけどセラも負けてない。一歩も引かずに、寧ろ更に気合を込めてオルカ事セラを打ち抜く気だ。


「退けええええええええええええええええええええええええええ!!」


 拮抗した二つの力は大きな爆発と成ってその場で弾ける。煙を上げながらオルカは水中に落ちて行く。どうやら、僅かだけどローレが押し勝ったみたいだ。だけど巻き起こった爆発の向こうで、新たな光が輝いてる事に僕は気づく。まさか詠唱を再開してる? 召喚獣の詠唱は途中からでも再開出来るのか? 
 それってズルい!!


「スオウ!! 後はあんたがやりなさい!!」
「わかってる! これ以上の召喚なんかせるか!!」


 空中でウネリを再び可能な限り接近させて、四つの勢いの方向を定める。そして風をまとう足で空中を蹴って、一気に加速。爆煙を突っ切ってローレを目指す!! セラは短時間で収束砲を使いすぎたのか、聖典共々、飛ぶのがやっとの状態になってる。
 だけどおかげで邪魔者はもういない。いや、後一体厄介な奴が居る筈だけど、それこそが僕の担当。ローレに近づいたから周りの攻撃も来ないしな。だから後は僕がやるだけだ! 爆煙を突っ切った先にローレは確かに居た。だけどその前にはもう一体の召喚獣が上半身をローレを包む膜から出して手を広げてた。


(メノウ!! どうしてローレから離れて……)


 突っ込んだ先には待ってましたと言わんばかりに両手を広げた時を操る召喚獣メノウの姿がある。だけどこいつはローレを守る為に居た筈で、ピンチや不意打ちを防ぐ為に、ローレとその周囲の時を止めて守ると言う、荒技を繰り出すやつだ。
 だけど今はそのローレ自体が止まって無い?


「あんたは一度メノウの反応速度を超えたでしょ? だから対策をあんただけは変えたのよ。メノウは勿論、相手の時だって周囲ごと止めれるわ。制約の多い私と違ってね」
「っつ!?」


 一度破られた物にはちゃんと対策を講じる……当たり前だけど、ローレの強さにはこういう事も入ってるのかもしれない。一度出来たから、もう一度……そんな甘い考えは許さない。喪服のドレスでも着てるような格好のメノウの両腕から、色を失った空間が広がってく。これが時を止められるって事なのかも。まず周囲を止めるから逃げ場がない! ウネリの勢いも時間が回らないと動きもしない。意識を最後の瞬間まで持たせてるとか、えげつない攻撃だ。流石ローレとその召喚獣らしい。
 前にも後ろにも、上にも下にも進めない。だけど一気に時を止められなくてまだ良かったよ。様は僕の周囲以外の時は普通に動いてるわけだ。それなら、今の僕にはやれる事がある!


(吹き飛べ!!)


 周りが完全に色を失う前に、僕は動いてる空間にウネリを作り出してそれをメノウにぶつける。その瞬間、色を失いかけてた周囲が元の色に戻った。やっぱり、時魔法はデリケートなんだ。僅かな衝撃でその均衡を崩せる。強力だけど、その分繊細なのが時魔法。


『予想外−−主−−危険』


 相変わらず不思議な喋り方をする奴だ。だけど危険なのはローレじゃない! 僕は目の前のメノウを叩き落す!! そして更に追い打ちをかけて空中で水にぶつかるまでに何度も斬りつける。


『主−−焦点−−ズレ』
「違うな、僕の狙いは元々お前だよメノウ。ローレを守る絶対防御であるお前をローレから引き剥がすのが僕の目的だ」
『疑問−−目的−−問う』
「目的なんか決まってる。勝つ為だ! リルフィン!!」




 メノウが離れた事で、ローレを包んでた膜が無くなった。ここしかない!! 僕はその名を叫ぶ。その瞬間、どこからか狼の咆哮がこの場に響いた。月光に映える狼の咆哮。そして黒いフードとローブをまとったあいつが現れる。

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