命改変プログラム

ファーストなサイコロ

水の恐怖

 収束された砲撃が大きな水柱を打ち立てる。水面が激しく揺れて、足場が不安定になってしまう。セラの奴は飛んでるからいいだろうけど、こっちは一応は着水はしてるからね。ただ風で体を沈まない程度に浮かせてるだけ。基本の推進力事態は足を使って得てるんだ。
 だからこう水面を揺らされると結構しんどい。水面に着水し続けるバランスが大変なんだよ。しかもそれが動くとなるともう最悪。沈みそうになる。だけどそれに文句を言う気にはなれないよ。だってここでセラが来てくれた。実際、それで良いのかどうかは微妙だけど……助かった事は事実だよ。


「セラ……お姉ちゃん」
「クリエ、大丈夫か?」
「うん……まだ……大丈夫」


 背中側のクリエの声が更に弱々しくなってる気がする。息も荒いし、この大丈夫はきっと強がりだ。取り敢えず僕はウインドウを開いて回復薬をクリエに渡すよ。てかお姉ちゃんって……それはシルクちゃんにしか言ってなくなかったか?
 まあセラの奴をクリエは別に嫌ってるとかはなかった筈だけどね。ただお姉ちゃんっては呼んでたかなって思っただけ。


「取り敢えずそれを飲んでみろ。少しは楽になる筈だ」
「……うん」


 クリエは渡された瓶の中身をチビチビと流し込む。これでHPが少しは回復すれば良いんだけど……だけどここで僕はふと疑問に思う。


(そういえば、別に攻撃とかを受けたってわけじゃないよな? どういう風に今のクリエの状態はLROで認識されてるんだ?)


 よくよく考えると、確かにHPは減ってたけど、だけどそれは今すぐに死ぬほどの量じゃなかった。でもそれだと、このクリエの苦しみがおかしいことになる。僕の頭に嫌な考えが浮かぶ。


(もしかして……今のこのクリエの状態はそこまでHPに寄った物じゃないのかもしれない)


 そんな見方が出来るかも……流し込んだ回復薬は効果を発揮してくれるのか……僕は周囲を警戒しながら見守る。するとどこからかこんな声が−−


「私よりもクリエが気になるんだ」


 その瞬間、オルカと共に水中から飛び出してくるローレ。どうやら収束砲はかわされたみたいだな。考えてみれば直撃を取れなかったからこそ、派手に水柱が上がったってことだよな。


「ローレ!!」
「なにをやってるのよウンディーネ。神聖な戦いに邪魔が入ってるわよ」


 聖典をローレ側に送るセラ。それに対してローレはウンディーネを使う気の様だ。


「気に入らない言い方です−−が、今は従っときましょう」


 そんな声と共に、僕達の頭上を超えて幾本もの矢がセラへと向かってく。それを器用にかわしつつ六機の聖典も操るセラだけど、向こうも数で押してくるから、思う様に進めてない。


「さて、思わぬ邪魔者が入ったけど、展開上の問題はさほどないわね。でもセラの反旗を翻した行動は当然問題だし、アルテミナスには消えて貰う事になりそうね」
「つっ!」


 そうなんだ。セラの行動はアルテミナスを滅ぼす行動。どこもかしこも動けないのはそれが原因で、僕が皆を離したのもそれが理由だ。僕と共にこいつらに挑むって事は、関係ない人達や、その国で築き上げてきた全てを壊されるって事。
 まさかそれを覚悟して動いてるって事なのか? でもセラにとってアルテミナスやアイリとの関係を捨てられるとは思えないけど……そんなセラは、矢の隙間を縫って聖典の攻撃をこちらに通してくる。だけど聖典一機だけの力じゃ足りない。
 オルカの水の盾にやすやすと阻まれてしまう。


「あれがそれを理解してないなんて思えないし、全ては覚悟の上よねきっと。それとも負けない算段でもあったのかは知らないけど、ねえ分かるスオウ? あれはあんた為に全てを投げ出してるのよ。主人公にはそれだけの仲間が居てしかるべきよね」


 軽い感じで言ったけど、それは全然軽い言葉じゃない。僕にとっては良く噛み締めないといけない言葉だ。セラは元々、アルテミナスの利益の為についてきた筈だったのに……今はそのアルテミナスを捨ててこっち側に来てくれたんだ。それはとても重い事実。受け止める必要が僕にはあると思う。
 主人公かどうかなんて関係無い。僕には勿体無い位の仲間がここでは揃ったんだ。テッケンさんにシルクちゃん。鍛冶屋にセラにノウイ……みんなこんな無茶ばかりする僕と一緒に居てくれてる。後味が悪い物語になるかもしれない……自分達にだってどんな影響が出るかわからない。けどそれでも……仲間を思って行動してくれるみんなだ。
 だから僕はその想いにできる限り答えなきゃいけない。でもセラの奴はバカだよな。普段はツンツンした態度しか取らない癖に、こんな時に真っ先にくるんだからな。本当にこれで良いのかって問い詰めてやりたい。でも今は、それができる状況でも無い。
 だから僕は、僕にやれる事をやらないと。


「わかってる……わかってるさ。だから僕はお前をここで倒す」
「私を? 大きく出たわねスオウ。でもそれに意味なんてあるかしら?私を倒せたって倒せなくたって、アルテミナスは潰れるでしょ」
「確かにいつも通りならな。だけど今はテトラはあの状態だ。まともにモンスター共に指示は送れないだろう。それなら遠くのアルテミナスの心配はいらない。問題はこの場に居るアイリ達をお前がどうするかだろ。
 だからこそ、お前の指示が飛ぶ前に倒すだ!!」
「そんなお荷物を抱えて?」
「お荷物だと……」


  ローレの奴が指差すのはきっとクリエだ。確かに戦闘ではちょっと邪魔だけど、お荷物なんて程じゃない。軽いしな。


「そうじゃないわよ。軽いとかの問題じゃない。さっき回復薬をやったみたいだけど、効いてると思ってるわけ?」


 その言葉を聞いた瞬間、ハッとしてクリエを見る。そうだ、さっきまでそれを気にしてた筈なのに、こいつが近くに現れたせいで流れてた。回復薬を飲んで時間が経った。実際直ぐに効果が現れる筈で、HPもそれなりに回復をしてる筈。
 だけど僕の目に入って来たのは、変わらないHPの量と(いや、むしろ僅かに減ってる様な)荒い息を吐き続けるクリエの苦しげな姿。


「どういう事だ? ちゃんと回復薬は飲んだ筈だろ」
「はは……大丈夫だよ。美味しかったから、さっきよりも楽になったもん」


 クリエはそう言ってくれたけど、そういう事じゃないだろ。回復薬が機能してないのがおかしいんだ。ちゃんと飲んだのに……どうして? やっぱりこのクリエの状態はHPとかでは計れないもっと潜在的な力の枯渇を意味してるかも……


「ふふ、そんな状態のクリエを抱えて、激しく動く事が出来るかしら? スピードを武器にしてるあんたには足でまとい以外のなんでもないわ」


 確かにローレの言うとおり、この状態のクリエを背中に乗せての高速移動は危なすぎる。きっともう、限界に近い筈だ。ここでこの細く小さな腕に負担がかかる様な移動をすれば、クリエの寿命を縮める事に繋がるかも知れない。それは……ダメだ!!


「大丈夫……だよスオウ。クリエはまだまだ全然へっちゃらだもん。だから……そんな奴に負けないで」
「クリエ……」
「私はそんな奴扱いね」


 不満を一言漏らすローレ。だけどそれは妥当だろう。クリエの印象じゃ、きっとローレは敵だろ。
 だけどこんな状態でもカラ元気を見せようとするクリエに僕は胸が締め付けられる。もっと……もっと早く来れてたら……また何かが違ってたのかも知れないのに……肝心な所でもたついてしまった。
 これでも精一杯急いだと言えることは言える。実際、僕達はなんとか間に合った−−そう思ってた。ギリギリだったって、認識だ。けどさ、このクリエを見てそうは言えない。はっきり言えば、やっぱり僕達は遅かった。遅かったんだ。


「さあスオウ。そんな奴の私はどこからでもかかって来て良いわよ。遠慮なんていらないわ。さあ、どうぞ」
「っつ……」


 ローレの奴、何て嫌味ったらしく言いやがるんだ。今動けば、クリエはきっと背中から落ちてしまう。それをわかってる上で僕が動くわけないって結論づけてるのにそう言うか。だからドス黒いんだよ。


「ふふ、まあそっちが来なくてもこっちから行くだけだけどね。足で纏いなんて捨てれば? って出来るわけないわよね」


 そう言ってローレからオルカが離れて、その周りに大小一杯の水球を空中に浮き上がらせる。僕は咄嗟に背中のクリエに手を回して強引に抱える。その瞬間大量の水球がこちらに向かって発射される。ただの水の玉……なんて威力じゃない。無限に生成出来るその球体は一つ一つが信じれない位に重かった。


「くっ−−ハァハァ……」
「スオウ……大丈夫?」
「この位、なんともないさ」


 コンマ一秒の差で完全にはよけ切れなかった。何とか切り落として避ける事を優先させた訳だけど、クリエを抱えた腕は使えなかったから、必然的にそっち側の防御が薄くなってしまった。脇腹にのめり込んだ水球は一発で肋骨を砕いたかも知れない位の衝撃があった。でもそれでも何とか一発で済んだんだ。上出来だろ。それに新しい防具も訳にたったと思う。結構後ろに下がった訳だけど、オルカの奴は休ませる事なんかさせずに撃ち続けたまま、方向をこちらに向けて来る。
 だけど不意さえ突かれなければ、避ける事はそう難しい技じゃない。確かにあの無尽蔵な玉の生成は驚異的だけど、これと似た攻撃は魚聖獣も散々やってたからな。威力はこっちの方があるけど、真っ直ぐに飛んでくるだけなら一緒だよ。イクシード3状態なら、早々捉えられる訳がない。湖を縦横無尽に駆けてながら、僕は時折前へ進む。距離を離され続ける訳にはいかないからね。そうなると周囲から厄介な攻撃がきちゃう。
 それに逃げるだけじゃダメなんだ。このままじゃクリエは自分を責めてしまうだろう。自分が足で纏いになってるって、今のままじゃ思ってしまう。助けに来た筈なのに、自分が追い込んでどうするんだって事だよ。だから!
 僕は右手のセラ・シルフィングを握る腕に力を込める。


「クリエ、お前が居たって僕は全然やれるって所を見せてやるよ!!」


 目の前に迫る水球を二・三個切って、完全に捉えられる前に背中のウネリを使って、斜め前方に飛ぶ。それを確認したオルカは当然、そっちに向けて来るわけだけど、僕はもう一度今度はさっき飛んだ逆側前方を目指して進む。その際、こっちに向かって来てる水球と交差する事に成るけど、でもそれは実際一瞬だ。その一瞬の交差点を切り抜ければ、完全に無防備な反対側に出れる! そしてそれを出来る自身がある。
 高速で水球の中に突っ込んで高速で自身に当たるだけの水球を切る。それだけで良いんだ。正面で向かい打つわけじゃ無い。全部を相手にしない最小限で良いのなら、片手だって十分だ!! 僕はジグザグに進んで、ぽっかり空いてる空間に出る。


『速い』
「いや、こんなもんじゃないぜオルカ!!」


 背中のウネリを可能な限り接近させる。いつもはこの勢いが四方に向いてるから、それぞれのウネリの勢いはそこまで感じない訳だけど、意図的に同じ方向にウネリを向けると、それはその一方向に向かう流れとなる。様はウネリの勢いを定めれるって事だ。勢いの向きが定まると、それを利用して、スピードを上げる事が……出来る!!


『くっ』
「遅い!!」


 オルカは水球をこっちに向けようとするけど、無駄玉を撃ち続けるせいで遅い。僕は背中から真っ直ぐ後ろに向けたウネリの勢いを利用して、一気に水面を蹴った。ウネリの勢いで水面が左右に割れる。そしてぶつかる空気の壁を押しのけて、一気に前方に飛び出る。激しく飛び散った水が空に登る道の光に照らされてキラキラしてる。だけどそんなものは気にせずに前だけを見据えるよ。
 取り敢えず一気にオルカを素通り!


『何!?』


 当然自分を狙って来ると思ってたんだろうけど、甘かったなオルカ。僕の狙いは最初から術者であるローレだよ。これ以上の召喚をさせる訳にはいかないし、もう十分仕込みは終わってる筈だ。だからここらで、作戦を実行しないといけない。ローレの無双はここで打ち止める。


「ローレエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!」


 真っ直ぐに突き出したセラ・シルフィングの切っ先を迷う事なく、オルカの後方に居たローレに向ける。大丈夫だ。ローレの奴もたかを括ってて反応できてない。後はこいつの自動防御機構であるメノウの反応を上回れるか。召喚獣の感覚……その更に上にいかなきゃいけない。だから僕は更にウネリをの回転を強めて、加速を促す。風の勢いで電気が帯電してる音がする。そしてもう一段階ここで勢いが付く!!
 視界が一瞬で進み、ローレの姿を超えた所で大きく水を揺らしながら止まる。完全に決まった……筈だけど、違和感がある。幾ら速かったとは言っても、この感触のなさはなんだ? 貫いた感じがしない。僕は振り返る。すると其処には確かに体の半分が吹き飛んだローレの姿が−−って、あんなグロイ表現LROがするか?  
 するとそのローレは次第に色も輪郭もぼやけて行って、バシャンと水になってしまった。


「これは……」
「甘いわねスオウ。私はちゃんと想定してたわ。あんたは私を狙いに狂ってね。でも残念それは私の姿を写した水分身だったのよ」
「水分身?」


 なんだその忍者みたいな技は。普通の分身じゃないのかよ?


「スオウも知ってるでしょ? 私は契約した召喚獣の司る属性の技を使える。それも独自のね。だけどそれって召喚した召喚獣の技に限るのよね。だから今はオルカの属性を得たスキルを使えるって訳。だから沢山召喚すれば、それだけ技のバリエーションも増えるのよ」
「なるほどな。だけどそんな大事な事をほいほい教えて良いのかよ?」


 確かにローレの奴が得た召喚獣の技を使える様に成るってのは知ってたけど、その技が召喚獣を召喚しなくちゃいけないってのは初耳だぞ。重要な事をあっさりとゲロするとはローレにしては大失態だろ。だってそれって今はオルカの属性の技しか使えないとカミングアウトしてる様な物だ。


「大丈夫よ。だって私は負けないもの。ねえオルカ」
『その通りです主!』


 するとなんだか大きな音が迫って来るような……音の方を見ると空中に浮いたオルカが水面ギリギリを滑空してて、その後ろにあり得ない位のビックウェーブが追い掛けて来てた。おいおい、まさかあれをここで落とす気か? どう考えても岸の方にも影響出るだろ。


「くっそ……」


 あんなのに呑まれたらひとたまりもない。なんたって僕にはまともな泳ぎスキルがないからな。何度それで死にかけたか……僕はセラ・シルフィングの周りを回ってる流星の勢いを増させて、刀身の周りに出来てる風の刃にその光を乗せる。そして一歩を踏みしめて、大きく振りかぶりその光が乗った風の刀身を撃ち放つ。刀身側にウネリはなくなったけど、風を纏ってないわけじゃない。もっと高密度な風で威力をあげてるのがイクシード3だ。
 そしてその風はウネリほど自由に動かせないけど、撃ち放つ事位は出来る。しかも一点突破の威力はこっちが上だ! 光を纏った斬撃は大きな波に直撃すると、エアリーロが撃ち放ってた風の玉の様に、その場で大きく広がる。僅かに勢いが削がれた? だけどその削がれた部分から折れて両サイドから波が迫る形になった。効果は合った……だけどこの効果は予想外だろ。威力が足りなかったって事か。


『これはただの波じゃない。そうやすやすと壊せません!!』


  くっ、二つ使えれば続けざまに打てた訳だけど……今はそれが出来ない。こうなったら岸の方に全力で逃げるしかないか。流石に数十メートルくらいの波を飛び超えるのは無理がある。一足で越えれればいいけど、それは流石に無理そうで、うまく風を使っても二・三足は必要だろう。そうなったら途中であの波に巻き込まれそうだ。ある程度後ろに下がれば、この波は両サイドで折れてるんだから、ぶつかり合って消えるだろう。岸までも下がらなくて良さそうだし、それでいこう。僕のスピードなら、やれる。


「んな!?」
「逃がさないわよスオウ」


 そんな思いで反転して僕が見たのはこっちに迫り来るもう一つの巨大な波だ。どうやらローレの奴が作ったらしい。さっきから声だけ聞こえて全然姿が見えないけど、向こうはこっちの動きを把握出来てるようだ。これはヤバイ、このままじゃ逃げ場がなくなる。どんどん波の音が迫って、波の高さで暗くなる。
 波がこんなに怖いと思えたのは初めてだ。まるで巨大な壁が押し迫るようなプレッシャー。するとその時、わずかな隙間から一機の聖典が入ってきた。そして上へ向けて一発の光を放つ。僕とクリエはその光を目で追った。空に登っていくその光。僕はその時にセラからのメッセージに気付いた。


(そういう事か!)


 僕は少し助走をつけてウネリを使って高くジャンプする。だけどやっぱり一回じゃこの波の高さを超える事は出来ない。だけどそこに下から猛スピードで聖典が上がって来る。僕はすれ違い樣に聖典の腹部分の取っ手に手を伸ばす。これを逃す訳にはいかない!!


「届けえええええええええええええええええ!!」


  精一杯伸ばした手がなんとかそれを捉える。その瞬間聖典のブースターが勢いを増して、僕達は夜空に引っ張られる。その下では派手に波がぶつかって崩れていってた。滝みたいな音をだして落ちていく大量の水。あんなのに飲まれてたら数分位水の中だったかもしれないな。そうなってたら流石に息が続いてなかっただろう。ホント、セラには助けられ−−


「ん? −−うわっ!? うおうおうおおうお!」


 いきなりブースターがポスンと変な音を出したと思ったら、どんどん高度が落ちていく。そういえば聖典はそんなに馬力はないんだっけ? 人を運ぶ事はセラはしてなかったし、ここでもセラは二つの聖典に乗ってようやくって感じ。それなのに僕とクリエ二人分の重さを一つの聖典が支え続けるのは無理があるんだろう。
 さっきまではブーストを使ってなんとか飛んでた状態で、それが切れたから、支える力がなくなったと。聖典はでもなんとか大波の影響のない所まではいってくれた。助かったよ本当に。セラはまだウンディーネ達の矢に晒されてるって言うのに、よくやってくれた。どうやらまだローレやオルカに動きはない……ならお礼をしないとな。
 ここからならウンディーネ共の姿が確認出来る。僕は再びさっきの光を纏った風の一撃を矢を放つウンディーネ達の中心に炸裂させる。炸裂地点から周囲に広がる技だから、数体は巻き込めるだろう。そして動揺してる所に近づいて、接近戦に持ち込んだ。混乱が広がったウンディーネ達を片っ端から切って行く。
 

「スオウ……光が一杯……」


 そんなクリエの声に空を見ると、こっちに向かって大量の魔法が飛んで来てた。ウンディーネ達が居るのに−−って種族間で同盟を結んでるんなら、攻撃は通らないんだっけ? それかアライアンスか? どっちにしてもここ居るのは不味い。僕はこの場を離れる。魔法が炸裂してその衝撃でまたも大きく水面が揺れる。だけどやっぱりこの程度じゃ終わらないか。光は次々と迫って来る。また厄介な事の繰り返し……そう思ってると聖典が煙幕を湖中にばら撒いた。
 視界が一切奪われてく。
 取り敢えず事前に放たれて分の攻撃が終わると、それ以降攻撃は来なくなった。流石に闇雲には打てないって事か。これでなんとか一息つけるな。そう思ってると、煙の中から聖典に乗ったセラが現れる。僕達は互いの視線をぶつける。本当はありがとうとか、色々と言おうと思ってたんだけど、その視線の邂逅でそんなのは済ませた。


「随分苦戦してるわね。いや、善戦してるっていった方が良いのかしら? それよりもなんであんたは一人なのよ? テッケンさんは?」
「まあ、案外戦えてる……な。テッケンさんやリルフィンはちゃんと居るよ。作戦待機中だ」


 僕のそんな言葉にセラはピクって反応する。


「作戦って事は勝機があるって事?」
「勝機もなく、ここにくると思うか?」
「あんたなら例え負けるとわかっててもくるでしょ」


 う〜ん随分あっさり言うな。でも言い返せない。確かに勝機がなくても来たかもしれないな。


「まあ取り敢えずできる限りの作戦は組んでる。後は実行するだけだ」
「作戦内容は?」
「それは−−って待て、どこでローレの奴が聞いてるかわからない。あいつこれをする前に既に姿を隠してたからな」
「って、それじゃ早く見つけないと他の召喚獣も召喚されるわよ」


 確かにそれはその通りなんだけど……いかんせんどこに居るかわからない。しかもあいつの位置がわからないんじゃ作戦の実行も出来ない。これは最悪だ。でもここで大事な事を思い出した。


「おい、思ったけどお前が僕達に協力したらアルテミナスが……」
「そんなのわかってるわよ。だから私は役職を捨てたわ。それにアギト様には私の行動が無駄になった時はその手で殺してくださいって頼んでる。その国の不始末は、その国の者が取れば問題ないでしょ?」
「セラ……お前」


 そこまでの覚悟で来てくれたのか。無駄になんかさせてたまるかよ。ようは僕達がこの戦いに勝利すれば言い訳だ。状況は厳しいけど、思ってたよりもやれてるのも事実。希望はある!
 するとセラは少しモジモジしながらこう言うよ。


「言っとくけど、これには私が適任だっただけで、私が任された仕事ってだけだから。役職は捨てたけど、それは別にあんたの為じゃなく、仮にだから。勘違いしないでよね」
「わかってるって」


 セラにとってアルテミナスやアイリを捨てられるわけないもんな。それよりも僕の比重が大きいなんて思ってない。だけど次にセラは顔を赤くして不可解な事をいう。


「でも……これだけ聞かせなさい。あんたは……その……私が来て嬉しい? 他の誰よりも私で良かった?」


 うん? なんだかよくわからないけど、この状況だ。そして自分の心に素直になれば、答える言葉に決まってる。


「勿論だ。お前が来てくれて心強いよ」
「……そっか」


 そう言って何度かセラは頷く。何だったんだろうか? まあ仲間との信頼を噛み締めてるって事だよな。セラにしては殊勝な行動でビックリだけど、嬉しいよ。素直に嬉しい。ここに来てくれた事も、思ってくれてる事も。その時僕の足が動いて風が水を跳ねて波紋を広げる。円状に広がる波紋……それを見てて僕はある可能性に気付く。

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