命改変プログラム

ファーストなサイコロ

予想外の事

 太陽が沈んでく。地平線を見渡せる様な高さの位置から太陽を見てると、黄昏の時間も少しは長く感じれるかもと思ったけど別段そんな事はなくて、ものの数分で僕達の周りにも夜の帳は降りる。地上に見える灯りが、あたりが暗くなった事で強調される。他に灯りを灯す場所なんてここ一帯にはないから、目指す村だけが明るく見える訳だけど……なんだかその明かりが前に一度訪れた時よりも半端なく広がってる気がする。
 前は湖の端にちょこんとある様な感じだった筈だけど、今見える範囲はその灯りで湖を浮かび上がらせてる様に見える程だ。テッケンさんがかなりの人数のプレイヤーが集まってるって言ってたけど、どうやらそれは想像以上みたいだよ。
 見せ物な訳じゃないけど、他の人にとっては世紀の瞬間に成り得るかもしれないんだよね。これはしょうがないのかも知れない。そう思ってると、湖で激しい光が炸裂する。まだ少し離れてる僕達の目までも眩ませる程の閃光。そしてその閃光が収まると、空に続く道が螺旋状に現れてた。


「これは……」
「あれが神の国に至る道?」


 テッケンさんは純粋に驚いてるけど、僕はこれを一度見た事がある。始めてあの村にクリエと行った時に、あれと同じ様な道を見た。だけどその時は確か、鳥居の内側に見えただけだった筈だけど……今はその光景が外に出て来てしまってる。
 あの時……もしかして登れなかったのは見えてただけだったからなのかな? あの鳥居から取り出して始めて道が開いたと言えるのかも。でも……


「あれは確かクリエに反応してた。って、事はもしかして既にクリエは使われたのも知れない。あの道を完全にこっちに出現させたのがクリエの力だとしたら……」
「クリエちゃんは既にその役目を終えたって事かい?」


 そうだったら不味い。クリエの力を使って道を開いたのなら、クリエを存在させてる力自体が枯渇する。そうなったら、あいつはこの世界にその存在を保てなくなる。


「状況はどうなんだ?」
「直ぐに映す」


 僧兵のそんな声と共に、確かに直ぐに目の前の大きな窓に映像が現れる。だけどそれは結構無差別に映してるのか、クリエの姿が映ってるのがないぞ。


「地上の方なんていいから、あの空に続く道の下を頼む! 鳥居がある筈だ。そこにきっとクリエ達は居る」
「わかってる。だけど、この道に近づくにつれて計器がおかしくなってるんだよ。ちょっと待て」


 待ってられるか! って言いたいけど、そんな事は流石に言えないよ。みんな頑張ってくれてる。この道の出現と同時に変な影響が出てるみたいだし仕方ない。落ちてないだけ、よしとした方が良いのかも。そう思ってると、幾つか映像が切り替わり、ようやく見覚えのある鳥居が映し出される。
 でも確か前に僕が見たのはボロっボロの古めかしい鳥居の筈だけど、今写ってるのは新品みたいだ。けど光ってる模様が同じだし、水面にはローレ達の姿があるから、一緒だろう。あの鳥居がきっかけなんだ。


「クリエの姿がなくないか?」
「確かにそうだね」


 リルフィンの言葉にテッケンさんがそう続ける。確かにクリエの姿が見えない。ローレもテトラも居るのに……まさか本当にもうクリエという存在は……そう思ってると水面がいきなり跳ねた? バシャバシャバシャと水飛沫を上げてる場所にカメラを寄らせる。あれは……まさか!


「クリエか!!」


 僕は思わずそう叫んで操舵室から飛び出る。すると後ろからテッケンさんとリルフィンもついて来てた。


「スオウ君待って!」
「そうだ、段取りを無視する気か?」
「段取り通りにやってたらクリエが溺れ死ぬじゃないか! 第二案に変更だ! 僕が先行します!!」


 その言葉に二人は顔を見合わせる。一番確実で色々と案を詰め込んで練り上げた最初のプランで行きたいのはわかる。だって元々勝率が少ない事をやろうとしてるんだ。その勝率を少しでもあげる為に、急いでここまで来る中で精一杯考えたのが最初のプラン。
 けどこうなったら仕方ない。クリエを失ったら、勝利なんてものも、ましてや目的までも無くしてしまう!


「仕方ないね」
「全く、つくづく貴様と居ると思う通りに事が運ばんな」


 それはきっと僕のせいじゃないけどな。僕達はバトルシップ後方ハッチまでたどり着く。そして壁に刻まれてる文字をなぞって操舵室と通信を繋ぐ。


「行くのか?」
「ああ、ハッチ解放を頼む。助かったよ本当に。僕達が外に出たら、この空域から離脱してくれ」
「最後まで力になってやりたかったけどな」
「十分だよ。十分力になってくれた。みんなのおかげで、まだ間に合うんだ」


 そう言うと、バトルシップ内に居る僧兵達から、一斉に声が届く。ほんと一杯世話になったよ。みんなが居なかったらどうにも成らなかった事が一杯あると思う。本当に感謝してる。するとハッチが開いて、外の空気が入ってくる。
 外には空に続く鳥居と階段が直ぐ近くに見えてた。なんだか光の帯みたいなのが周りにある。


「行って来い! 助けてやれよな絶対!!」
「おう!」


 通信を終えて、僕はハッチの先に立つ。


「テッケンさん……大丈夫ですよね?」
「任せてくれ。これのおかげで寄り忠実になった筈だよ」


 そう言ってテッケンさんは指輪を見せてくれる。必死になって探し当てた指輪だ。きっと役にたってくれるよね。


「リルフィンも頼む。躊躇うとかなしだからな」
「そんな事をしたら、逆に失望される。ここまで来たのなら、貫き通すだけ。俺は主に立ちはだかる」
「それを聞いて安心した。じゃあ、先に行くから!!」


 僕はバトルシップから飛び出る。生暖かい空気を押しのけて、一直線に落ちて行く。この時の為に新調した防具を「頼りにしてるぞ」的な感じでコツンと叩く。まあ守ってくれる範囲は前と変わらず、胸くらいなんだけど、でも強度は前のよりも高い。
 そしてやっぱり何よりも大切なのが、この両腰に刺さる剣だよ。僕はその剣を同時に抜くよ。


「行こうセラ・シルフィング!! イクシードだ!!」


 風のウネリが刀身に集まる。そしてそこから更に周りの風を掴んでく。すると近くの道の光も僅かだけど巻き込んでウネリに加わって行く。光る風が落ちて行く様だ。なんだか自身が流れ星にでもなったかの様な感覚。
 願いを叶える流れ星……に、なれるかどうかはわかんないけど、全力を尽くす。今はただそれだけだ!! 眼前に広がる沢山の明かり−−そこを一直線に目指す。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおらあ!!」


 振り上げたウネリを水面に叩きつける。編み込んだ周囲の風のおかげでかなりの威力。一気に弾けた水飛沫で視界を奪う。そしてついでに、ウネリを水面に叩きつける事で、落ちて来た勢いも相殺させたんだ。そして風を操り、自身のウネリの一部を足の方に回す事で水面に着水する。
 僕はそんな器用でもないから、バランス取るのが難しいけど、なんとか沈まずには居れる。この場所をローレから聞いた時から、水上戦になる事は予想してた。だからこそ、これは考えてた。だってテトラやローレ相手に、足場を求めて戦うなんて出来る訳もない。自分には風がある。それを活かした訳だ。
 まあそれもエアリーロとの特訓あればこそ……だけど。なんだかローレにお膳立てしてもらった感があるな。でもそれでもやっちまったのはローレだからな。どんな目的があるにせよ、僕はこのクリエの為に、動くだけだ。
 溺れかけてるクリエを水の中から救い出す。そして僕は立ち上がる。


「死なせない……」


 薄くなる周囲の靄。辺りの灯りが透けて見えてくる。するとクリエも誰が自分を抱きかかえてるのかようやく認識した様で、キュッとその小さな手で僕の服を握って来る。小さいな。そして軽い。少し離れてただけで、それを実感する。どうして……こんな小さな子だけが世界の犠牲に成らないといけないんだろう。
 クリエは何も悪い事なんかしてないのに。


(だからお前は、僕が必ず救ってみせる)
「遅くなって悪いクリエ」
「信じてた。クリエはきっと来てくれるって信じてたよ!!」


 涙ながらに抱きついて来るクリエ。信じ続けてくれてたってだけで嬉しいよ。結局ノンセルスじゃ守ってやれなかったからな。そんな感動の再開を果たしてると、靄の向こうから声がこちらに向けられる。


「今更来てどうなる? 道は既に開かれた。そいつは辛うじてまだ存在してるが、次第に消えるだろう。遅かったんだ。諦めて後は大人しくしてろ」
「テトラ……」


 靄が晴れる中で絶対的な存在がそんな言葉を紡ぐ。確かに道は開かれてる。こいつがクリエを捨てたのは、もう用済みだからだろう。僕達は確かに遅かったのかも知れない。だけど−−


「まだだ」
「何?」
「まだ、奇跡の種はある!!」


 セラ・シルフィングをテトラに向けて振り下ろす。だけどそれはテトラの腕に防がれる。相変わらず硬い体だな! しかもクリエを抱えてるから一本しか使えないのも痛い。攻撃を受け止めたテトラは黒い霧を出して金色の液体が入った瓶をその手に表す。


「奇跡の種とはこれの事か?」


 金魂水……たった一度だけ願いを叶える奇跡のアイテム。ああ、確かにそれだよ。


「道は開いた! ならもう様はないだろ。やれよそれ!」
「ふざけるな。それにまだ完全じゃない。これはちゃんと使い所があるんだよ。貴様が見つけれなかった使い所がな」


 そう言ってテトラが力任せに僕を押し戻す。一旦距離が空くと、いきなり水がグニャングニャンと波打って引く事もせずに数メートルの高さにせり上がる。


「スオウ、私もいる事を忘れないでよ」
「ローレ!」


 波に飲まれ無い様に更に後方に、鳥居との距離が更に空いた所で岸の方から光が見えた。するとローレがこう言って来る。


「それと、この光の全てがスオウの敵である事もね」


 その瞬間、様々な属性の魔法が水面に落ちる。激しい水飛沫と共に、再び水面が激しく揺れる。どうやら岸の方から攻撃を放ってるみたいだな。あの大量の光はその光。だけど結構な距離があるからか、近くに落ちるだけで精密さがないのは救いだ。とか思ってると、魔法の雨の中を突っ切ってくる何かが見える。


「スオウ危ない!」


 そんなクリエの声で咄嗟に避ける。服を裂いて脇腹を掠めたのはスキルの光を纏った矢だ。派手な魔法攻撃に目を行かせて矢で精密射撃を狙ってやがるのか。厄介な事を!


「クリエ、背中の方に回れるか? 首に手を回してていいから、しっかり捕まってろ」
「うん……」


 かなり辛そうなクリエの力だけでしがみつかせとくのは心苦しいけど、片手だけで対処出来る量じゃない。四方八方敵だらけ……だけどそんな簡単に沈んでたまるか!


 鞘に納めてたもう一本を取り出して、取り敢えず上空から迫ってる魔法をウネリで撃ち落とす。だけどその中からも矢が飛び出して来やがる。僕は足のウネリを使って一気にその場を離脱。だけどこの湖全周に五種族は展開してるからな。どこに逃げても魔法も矢も降って来る。
 幾つもの水柱が上がる中を止まらずに走り続ける。止まったが最後、きっと一斉照射の魔法と矢が降り注ぐだろう。余裕はないけど、外側にばかり気をやってられ無い。本当にヤバイ奴らの方が近いんだからな。


(って待てよ)


 思いついたけど、外側の連中が攻撃出来るのはテトラやローレと離れ気味だからだよな。最初に落ちてきた時はそんな事なかったし、明らかにローレの攻撃は僕を離す目的だった。それなら!


(多少無理してでも奴らに張り付いた方が−−て、詠唱してる! 魔法か……いや」


 ローレの杖のクリスタルの一つが輝きを増して行ってる。あれはきっと召喚だ。やらせる訳には行いかない。大きく回り込んでローレを目指す。だけどその時、一気に前方に集中放火の嵐が降り注ぐ。


「づっ!?」


 激しい水飛沫と衝撃で止まらざる得無い状況。どうやら徹底して近づけさせ無い気だな。そう思って意識を周囲の五種族に向けてると、水飛沫の向こうから声が聞こえてくる。


「この程度の攻撃、俺にとっては気にする程の事でもない」
「テトラ!」


 まさか今の攻撃の中を突っ切って来やがったのか? どれだけの攻撃が降り注いだと思ってるんだよ。あれを毛程も気にせずに突っ来れる奴なんてお前かシクラ達くらいだ。迫るテトラの手には小さな黒点が見える。


(小さい……けどあれは)


 ヤバそうだ。こいつの攻撃でヤバくなかったのなんて一つもない。小さいからってだけじゃ安心出来無い。てか寧ろ、力を収束させてるって見方が出来るしな。だけどどうする? 当たるのは論外だとしても、完全に不意を疲れてる。このタイミングじゃ完璧には避けれない。かと言って防げる保証もない……それなら反撃を−−


(だけど今までこいつに入れれた有効打は数える程しか……)


 一瞬のうちに頭がフル回転して選択肢を提示する。だけどそのどれもこれも最善とは言えない。いや、どれかが妥協案として最善なんだろうけど……有効とは言えない。風をある程度上手く使える様にはなった。だけど……今までの経験があるから踏み出せ無い。通じるのかどうかがわからない。


(ここはやっぱりダメージを減らす方が−−)
「スオウ! 斬って!!」


 僕の心を読んだのかどうかはわからないけど、クリエがいきなりそう叫んだ。その瞬間、防御に傾いてた意識が一気に切り替わる。理屈なんかない。ただその言葉が僕に一歩を踏み出させた。


「イクシード3!!」


 刀身に集まってたウネリが弾けて、流星が回り出す。背中から四本のウネリの翼が広がり、風の勢いをもたらしてくれる。そして一瞬で僕はテトラと交差する。


「−−っづ! なんっ……だと?」


 バシャンと、テトラが膝を崩す。手のひらに集ってた黒点は消失。湖に黒い淀みが混じり出す。どういう事だ? ちょっと自分でも信じられない。だけどこの光景は確かに僕の瞳が捉えてる事実。それに感触も確かにあった。手応えを……ちゃんと感じたんだ。
 膝を着いたテトラの光景に周囲も驚いてるのか、攻撃が止んでる。無理もない……だってこんな光景、誰が予想しただろうか? 正直、自分もしてなかった。だってこいつの強さは他の誰よりも、数回戦った僕が一番良く知ってる。
 まさに神に相応しい強さをこいつはもってるんだ。ノンセルスじゃ、僕の攻撃なんて殆ど通じなかった。命をありったけつぎ込んでの攻撃でやっと一死を報いた位……なのにそのテトラが今はイクシード3の通常攻撃でその膝を折ってる。にわかには自分が一番信じれ無い光景だな。
 演技でもして油断を誘ってるんじゃないのか? けどそんな必要ないか。じゃあ一体何が起こったんだ?


「どう言う……事だ? 一体……何が起こった」


 フラつきながら立ちあがろうとするテトラが、僕が心で思ってた事と同じ事をつぶやいてる。いや、こっちが聞きたいけどな。まさか想像異常に風を操れる様になったのが大きい……とか? いや、そんな劇的に変わるわけ無い。
 それだけの実力差が僕とテトラの間にはあった筈だ。エアリーロだってそんな劇的に強くなれるとか言ってなかったしな。でも無理矢理でも自分が強くなったとでもしないと説明がつかないよな。テトラのやつが勝手に弱体化した訳でもなかろうに。


「お前の仕業か?」
「さあな。だけど、もしかしたら僕は僕が思ってたよりも強くなってたのかも知れない」
「ほざけ!!」


 テトラの奴はその瞬間、自身の周囲の水を弾けさせる。また一気に視界が奪われる。だけど今度は水飛沫の向こうからテトラ自身じゃなく、黒い玉が幾つもの放たれて来た。僕はそれをイクシード3の速さを生かしてかわす。
 するとその時かわした前方に黒い靄が出て来て、そこからテトラの姿が! こいつ読んでたみたいだ。黒い力を纏った拳が振り下ろされる。あれは確か、ノンセルスで地面を抉ってた奴だ。当たったらヤバイ。
 だけど僕は逃げないよ。さっきのがマグレじゃないかどうか、確かめる必要がある。だからここでそれを確かめるんだ!! 僕はセラ・シルフィングの柄を強く握る。そして背中のウネリを更に回転させて加速。真っ正面からテトラに挑む。


「逃げないか、調子に乗るなよ!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 奴の拳は近くじゃなくても相手を粉砕出来る。拳が伸ばされると水面が激しく陥没する。だけどだからこその加速だ。僕は一気に加速する事で奴の照準をズラしたんだ。そしてジャンプして奴の頭上に。そこから更にウネリを使って急降下して、テトラの脳天に剣を振り下ろす。
 かわされたけど僅かに掠った剣先が奴の黒い髪を切った。これは本当に、もしかするともしかするかも知れない。テトラの懐の中。奴もその拳に力を乗せて僕に向けてるけど、スピードなら元から負けちゃいない!!  僕は振り下ろしてた剣の一つで奴の向かって来る方の腕を切りつける。いつもなら弾かれてた筈の剣戟……だけどその感触はなく、セラ・シルフィングは高々と空に向かう。そしてついでにガラ空きに成ってる胴体にもう片方のセラ・シルフィングを振ってみた。


「ぐっ!」
(やっぱり……ちゃんと通る!)


 腹から胸に掛けて奴の服がちゃんと裂ける。今までは汚れをつける事すらも困難だったのに、目に見えてそれがわかる。これは確定的だ。確実にダメージを通せる様に成ってる! どうしてかなんてのは今はいい。これは好機だよ。テトラはこの現象が信じれ無い様で動揺してる。
 僕は更に追い込みを駆ける為に、テトラの顎を柄で殴って脳を揺さぶる。そして更に斬る斬る斬る。更にはイクシード3の勢いを利用する為に、数メール離れた位置から一気に踏み込んで交差際に斬る。そして覚えた風の扱いで勢いを衰えさせる事なく、更に反転して斬る。それを繰り返す事で全周囲攻撃だ。テトラは反撃をしてこようとしない。
 ただ僕の攻撃に蹂躙されるがままだ。飛び散る血がちゃんとしたダメージに成ってる事を僕に教えてくれる。


(このままなら、もしかして……勝てる……のか?)


 そんな希望も僅かながら見えてきたかも知れない。確かに奴のHPは減ってるんだし、それもあり得なくない。だけどまだまだ膨大なんだけど……でもその可能性が光って見える事が大きい。力になる気がする。


「どうして……」


 ボソッとテトラがそんな事を呟いた。まだこの状況を理解できてないのかも知れないな。それなら出来る限りここで削っておく。いつまでもこう動き続けるのはキツイ訳だけど、止まれる訳がない。だってこれは千載一遇のチャンスなんだ。だから僕も荒い息を吐き、汗を垂らしながらでも、次第に重く感じてく体に鞭を打って攻撃を続ける。


「そこまでよ」


 そんな声と共に、テトラを飲み込んで大きく水が盛り上がる。厚い水の壁はどんどん盛り上がって行き、流石に貫けない。僕が止まると、水はテトラを飲み込んだまま一気に沈んでく。荒い息を吐きながら前を見据える。
 元の高さに戻った水面の向こうにはローレとそして初めて見る召喚獣の姿がある。やっぱり……そうだろうと思った。どうやら召喚されてしまった様だな。この場所と今の技を鑑みるにきっとあれは、水を司る召喚獣なんだろう。
 鰻みたいに細長い体だけど、気持ち悪いって感じじゃない。寧ろ綺麗と思える白い輝きを放ってる。透明なヒレもなんだかカッコいい感じにギザギザ入ってるし、何よりも長い背ビレは虹色に輝きを変えてる様に見える。顔は魚の間抜け差はなく、寧ろ龍みたいな感じだね。
 他とは違うとよくわかるよ。てか、なんか浮いてる。細長い身体なのに水中じゃなく水上に浮かんでる。するとローレの足元に、テトラが水中から浮かび上がって来る。倒してはない筈だけど……動かない。ザワザワとざわめきだってる周囲を気にせずにローレはこう言って来る。


「面白くなって来たじゃない」


 本当にこいつは見た目に似合わない図太さだよ。まだ夜は長いって、こいつはよくわかってる。

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