命改変プログラム

ファーストなサイコロ

神の道

  開いた扉の中へ入った僕達三人。扉の向こうは一体どうなってるんだ? って思うくらいに広大な空間が広がってた。いや、マジで通路の狭さや、確か下に降りた筈ってのを考えるとおかしな広さだよ。
 これも魔法か何かなのかな? 周りに見えるのは松明のような揺らめく灯りだけ。僕達はとりあえず奥に進む。松明みたいな明かりが等間隔にどこまでもどこまでも続いてるから変な感覚になってくる。それが異常に多いからこそ、広いと思えるわけだけど……他に何もないとか味気無さすぎるよな。いつのまにか変態ジジイはは消えてるし……しょうがないから僕達は真っ直ぐに進む事しか出来ない。


「おいリルフィン。どこを目指せば良いのかとかわかん無いのか?」
「俺も入ったのは初めてだ。そんなのは知らんな」


 全くとことん役に立たない召喚獣なんだから。そろそろリルフィンに期待するの辞めちゃうかも知れないわ。いや、マジで。何を期待すれば良いのか……正直今でもわかんないもん。


「まあまあ二人とも、そんなピリピリしないで」


 あれ? なんだかセラがテッケンさんみたいな事を……ってこのセラはテッケンさんか。僕達は二人してマジマジとセラに扮したテッケンさんを見つめる。変態モブリがいつのまにか消えてるから、素を出したっぽいけど、う〜んさっきの印象が強すぎて違和感が優ってきてる。


「すっごいノリノリでしたよねテッケンさん。なんだか本当にセラみたいでしたよ。あそこまでテッケンさんが出来るって正直意外でした」
「あははは、まあ変身を操るのなら、あれくらいはね。ただの人間観察の賜物だよ」
「それだけとは思えん再現度だったがな」


 まさにリルフィンの言うとおりだよ。あれが人間観察だけの賜物とは思えない。姿形が全く別物になってるから、やりやすいってのもあるんだろうけど、本質的な部分は統合出来るってわけじゃないよね。それなら本質的に似通ってる部分もあるって事なんだろうか? 
 ああいう願望がテッケンさんにはあったと……


「それだけだよ。それ以上でも以下でもないよ」


 うう〜ん、結局テッケンさんはそれで貫き通す気らしい。セラの姿をしてるせいか、裏があると思えるんだよね。もしかしたらいつもの姿なら、あっさりとそんな言葉も信じれたかも。あれだね、モブリって姿だけでも純真さがある様な気がしてたのかも。あの丸っこくて小さな愛らしい姿に、純真さを僕達は感じてたんだね。
 マスコット的な可愛さがあるから、嘘とかつく筈ないとか、テッケンさんの人柄を補強してたかも。こうやってセラになっちゃうと、裏を疑わずにはいられないもん。


 そんな事を思いながら歩いてると、視線の先に何かが見えてきた。松明の明かりが円形上に輝いてる場所だ。


「あそこが目的地かな?」
「いってみましょう」


 駆け足気味で僕達はそこを目指す。近づくと変態仙人モブリの姿も発見した。どうやら先回りしてたみたいだな。一緒に連れて行ってくれれば良い物の。円形上に開かれた場所の中央には墓石が鎮座してる。墓守ってのはあながち嘘じゃなかったんだな。


「ぬほほ、来たかって、男もいるのか」
「なんだその言い方? 来たらダメだったのか?」
「ふむ……まあよい。今の儂は機嫌が良いからの。特別サービスじゃ」


 どうやらこの変態的にはここに招待したのはセラだけだった様だな。でも許可は降りたし、強制的に退場とかもさせられないのは良かったよ。テトラの事を知れるのなら、見逃す事なんか出来ないからね。


「変態、その墓は誰の墓なの?」


 スイッチが入ったテッケンさんが変態にそう尋ねる。素早いね彼は。


「これか、これは儂の墓じゃよ。他の誰でもない儂の墓じゃ」
「自分の墓を、自分で守ってるのか?」


 自分の墓の世話まで自分でやるとか、案外生真面目な奴だな。死んでるんなら、成仏でもしてれば良いのに。そうしたほうが楽だろ。そもそもなんでこいつはずっとここにとどまってるんだ? 悔いがあるって言ってたけど、それが女の子とイチャイチャ出来なかった−−−−では流石にないだろ。
 それも本気であるかもしれないけどさ、それだけじゃないと信じたい。なんだか大きな事をやり残してるとか……実は壮大な話があってもいいだろ。肩書きだけなら、それだけの人物なんだよこの変態。
 ただ行動が残念すぎるから、そうは見えないだけでね。


「何かおかしいかえ? これも必要な事なんじゃよ」


 必要な事? そう紡いだ変態の声は、今までの感じと少し違ってた。なんだか感慨深そうな声だったと言うか……ふざけた感じがなかった。


「ここで何が見れるんだ? お前の墓の前にくれば神を知る事が出来るのか?」


 焦らされるのが嫌いなのか、リルフィンの奴がさっさと本題を切り出すよ。でも確かにおかしいよね。こいつの墓で神の事が知れるってね。まあ色んな情報を抱えたまま死んだって事なのかな? それを共有出来るのかも。


「儂の遺物は全てこの空間に溶けとるからの。お前達に前に渡した鍵も元は儂のじゃよ。大切な物は全てここに見えなくてもあるんじゃよ。そしてそれを自由に出来るのが儂という存在じゃ。星の御子に選ばれた者もアクセスは出来るんじゃがな。
 取り出すのは儂しか出来ん」


 なるほどね。だから祠の鍵はローレが直接渡せなかったと。どうやらやっぱりかなり重要な存在だなこの変態は。思ったんだけどさ……


「あの鍵もあんたの所有物の一つって事は、聖獣達を使って結界を張ったのもあんたなのか?」
「そうじゃな、その通りじゃよ。昔のリア・レーゼは強力なモンスター達に悩まされておったからの。あまり繁栄した場所でもなかった。世界樹の下という好条件なんだじゃが、その世界樹の影響でここら一帯のモンスターは特殊な変化を遂げてたからの。
 この社が世界樹にへばりつく様に建ってるじゃろ? 昔は地上部分なんてなくて、全てがこう言う風になってたんじゃ。地上は危ないからの」


 なるほどね。この社とか他の世界樹にへばりつく様に建ってる建物が古びてるのは、名残みたいなものなんだな。聞くにそもそもリア・レーゼって人が住む様な場所じゃなかったのかもね。シスカ教にとって、大事な巡礼地ってだけだったのかも知れない。
 

「じゃが儂がここに拠点を構えると決めてから、色々と考えたわけじゃよ。そして一番始めにやる事はやはりついて来てくれた皆の安全の確保じゃろ。それにへばりついたままではいかんよ。地上を蹂躙されてたのでは、サン・ジェルクには対抗出来ん。
 そこで一番派手に暴れてたモンスターを使い、結界を作りあげたのじゃ。あれを聖獣とか呼んだのは儂じゃからの。実際は少し特殊なモンスターじゃ。ただこのリア・レーゼの礎になってもらったんでな。敬意を払って『聖獣』と伝えたのじゃよ」
「そういう事かよ」


 やっぱりどう考えてもあのモンスター共は聖がつくほど清らかじゃなかったもん。喋ったりとか色々と特殊だったけど、聖獣は違和感あった。でも変態の説明で納得した。


「まあじゃがお主らも中々に大変じゃの。儂からしたらついこの間まで聖獣相手にしてた筈じゃと思ってたが、いつの間に神の片割れまで復活しとるんじゃ?」
「それこそ色々とあったんだよ。星の御子である筈のローレが裏切ったりな。実質あいつがテトラを復活させた様な物だ」
「はっははは! 流石ローレはお転婆じゃのう」
「笑い事じゃねーよ」


 マジで全然笑えないから。お転婆なんて可愛らしいレベルじゃないぞ。大問題だろ。そもそもシスカ教の御子が邪神を復活させるっておかしいから。お転婆なんて言葉で済ませるなよ。


「あのお転婆具合が可愛いではないか。ただ守るだけ伝えるだけなど、つまらんわ。野望を持ってる方がよい。ローレはここに最初に来た時から、ギラギラとした良い目をしとった」


 思い出に浸ってる変態はローレの事も容認してるようだな。全く、こいつがこんなんだから、ローレは強化されて好き放題出来るまでになったんじゃないか? 


「めんこい子には儂は弱いのじゃよ。特にローレは最高じゃ!」


 そう言えばローレの事は事あるごとにそう言ってるな。なに、モブリってロリ専なのか? ローレって小学生並みの体型だぞ。それともモブリは元が小さいから、ロリっぽい方が好みなのかも。でもそれじゃあセラはどうなるって思うけど、あれだな。
 この変態はセラの外見と言うよりも、このsっ気を特に気に入ってるって感じか。


「まあ色々と問題なのもわかるが、あの子はああ見えて頑張り屋さんじゃぞ。儂のセクハラ満載の教えにも耐え抜いて、かなりの召喚獣を物にしておるしな。真っ直ぐに見てる物があるのなら、死者である儂は止めたりせんよ。
 そんな権利はないからのう」


 なんだろう……ここに来て、この変態が少しはマトモに見えるようになって来たぞ。真面目な事をさっきから普通に喋ってるじゃん。まあ実際は、この変態がローレを気に入ってるってのはわかるよ。まず容姿は言わずもがなに直球ストレートなんだろうし、根性だって確かにあるんだろうし、目標を見据えてるって所も、昔のこの変態に通じる部分があるのかもしれない。
 こいつにとっては可愛い娘か孫と同等な感じかな。全く、そもそもローレが何か頼んで来たら色々と要求しても、断る事なんかこいつしないだろ。
 死者として、そのローレとの関係を楽しんでると思うな。でも死者である自分に止める権利はないって言うのは、一歩を引いてる感じだよな。死者である自分と、生者であるローレとの一線はこいつの中で引いてるのかも。だけど−−


「あんたはそれでいいかも知れない。でも、僕達は止めに行く。道が交わって、どちらか一方しか今の所は進めない。そんな道なら、止めに行くしかない。僕達には足掻く権利があるんだからな」


 生者として。僕はかなり危うくなってるけどね。だけどまだ死んではいないし、その権利はあるよね。  


「まあ無謀じゃが、やってみればええんじゃないかの?   個人的にはローレを応援しておるが、そこのセラもまた最高じゃからの。拒めんよ」


 ああ、やっぱり変態だな。頬を赤くしてなに照れながら言ってるんだ。


「それで、どうやって邪神の事をここで知るのよ? 生前に集めたアイテムでもあるわけ?」 


 変態の言葉なんてさらさら興味無さそうにスルーして、話を進めようとするセラに変身してるテッケンさん。まあそんな所もセラっぽいけどね。変態はそういう態度もお気に入りっぽいし、良いと思うよ。
 んで実際、どうやってテトラの事を教えてくれるのか興味もあるしね。すると変態は得意気に「ふふん」と鼻を鳴らす。


「儂らシスカ教には世界に隠す秘密がある。まあお主らならもう知って様が、その最たる物が、邪神と女神の関係じゃ。邪神は絶対悪と教えておるし、そんな邪神を女神が慈悲の力で退けたからこそ、世界は今の形を保ってると……そう思わせておるわけじゃよ」
「だけど真実は違う。邪神テトラは絶対悪なんかじゃない。それにこの世界を創造したのは二人で、なんだよな」


 でも実際、ちょっと熱心に調べたら、世界創造を二人で……位は結構簡単に辿り着けると思う。まあその後にテトラが邪神として裏切ったみたいな感じになってるんだから、絶対悪にはしやすいけどね。正義は女神。悪はテトラ。この構造をシスカ教は植え付けてる。


「創造までは別に良いんじゃよ。そこまで隠したいのはサン・ジェルクの連中だけじゃ。うちはそこら辺りまで開放しておる。上の像は見たじゃろ」
「ああ、あの妙に金ぴかの奴な」


 そう言えば確かにシスカとテトラが二人で居たな。サン・ジェルクじゃ、テトラは徹底的に廃してあるのかな?  でもどの道テトラを悪と見なしてるのは同じだよな。聖院も星羅もさ。


「歴史に悪は必要なんじゃよ。自分達を正当化するためにの。シスカ教が世界に本当に隠しておきたい事は、儂ら五種族が犯した罪じゃよ。儂らと元老院は隠し方の考え方が違う。儂らはある程度開示して行き当たる答えを用意しておる。
 そこで満足するようにの。じゃが元老院共は徹底的に隠して、信仰に影を挟まぬようにしておるのじゃよ」


 ある意味、この変態の方が高度な策略とってるな。まあだけど危ないとはおもうけどね。だってそこで興味が尽きないかも知れないし。いや、そこから先は徹底的に隠蔽してるのかもね。流石に星羅もシスカ教の信用を失墜させたいわけじゃないだろうし【罪】と先ほどこいつが言った事に繋がる事実は根こそぎ歴史の闇に葬り去られてるのかな。


「五種族の罪ってのは何?」


 ズバリ核心を的確に迷いなくセラになりすますテッケンさんが突く。いや、確かに一番興味深い部分だけど、いきなりいったね。流石セラになりすましてるだけあるよ。でも確かにそこ大事だな。もしかしたらそこら辺がテトラの願いに通じる部分かも知れない。


「邪神は復活したのじゃよな? 話しとかしとらんのか?」
「私達は特には……この中でならやっぱり……」


 そう言ってセラの視線は僕に向く。確かにこの中から、一番喋って意思疎通してるのは僕かもね。


「聞いとらんのか?」
「そんな重要そうな事は知らないな。僕が知ってるのはあいつはただ、シスカを求めてるってだけだ」
「ふむ、まあじゃろうな」


 納得してる変態。テトラから話す事じゃないと分かってたみたいだな。


「僕じゃなく、ローレなら聞いてるかもな。いや、そもそもあいつなら、その罪ってのも最初から知ってたんじゃ?」


 星の御子であるあいつならそれでもおかしくないよな。だからこそ、邪神の願いの推察も出来て、利用する事までも念頭において行動を組み立てた−−とも考えれる。


「それはそうじゃろうな。まあだからと言って邪神を駒にしようなどと考えるとはローレはやはり見込みありじゃよ。うむうむ、流石儂の弟子じゃな!」


 何鼻高々してるんだか。だからあいつはあんたの事を師だなんて思ってないって。てか、そんなの良いからさっさと全部教えろよ。てかなんだか見せてくれるんじゃなかったの? この変態と逐一言葉のやり取りして行くの面倒なんだけど。
 てか、それならここに入る意味がなかったよな。何か必要だからここに入ったんじゃないのか?


「おい、そろそろ何かもっとハッキリしたいのみたいぞ。そもそも言葉のやり取りだけなら、ここに招く意味もない訳だし、何かあるんだろ?」
「全く、最近の若者はせっかちじゃのう。シスカ教が世界に隠す真実を煽ってただけと言うのにの。ハラハラドキドキ感があった方がええじゃろ?」
「別にいらないってのそんなの」
「そうよ。あんたはただ私の望む言葉だけを紡いでなさいって言ったわよね?」


 更に冷たい目線で念を押すセラ(もといテッケンさん)。そしてそんな言葉に打ち震える変態仙人モブリ。うん、やっぱりこいつは変態だ。なんだか真面目な言葉が続いてたから、どう見て良いかわからなくなってたんだ。でも変態なら、変態としてみよう。それを改めて思えたよ。


「ハラハラドキドキ感は十分だから、見せれる物は見せて頂戴」
「分かっておる。分かっておるぞおおおおお! 」


 気合を吐き出すようにそう叫ぶ変態。すると自分の墓石に手を置いた。すると円形上の魔方陣が現れて墓石自体が光り出す。生暖かな風が吹く。ざわざわと松明の明かりがざわめいて火の粉が舞う。するとその火の粉が墓石の方に流れてくじゃないか。どうなってるんだ? 
 そしてその火の粉は何かの形になってく。詳しく言うと、欠けた石板……みたいな? なんだあれ?


「それは?」
「石板じゃよ。ただしただの石板ではない。世界に残った創生の欠片じゃ」
「創生の欠片?」


 なんだそれ?


「簡単に言えば歴史を記す欠片じゃよ。誰が残したかは不明じゃが、真実が葬られた歴史を訴えるように生み出されておる。これは壊しても意味ないのじゃ。また生み出されるからの。だから聖院はこれを幾つも世界中から探し出して保管しておる。
 ここにあるのは儂が独自に見つけた分じゃよ。まあまだ幾つかあるが、創世記の奴はこの五つだけじゃ。触れてみるがよい。鮮明にその時の事実が見えるぞ」


 そう言われて僕達は最初に差し出された石板に触れる。すると脳内に直接映像が再生され始める。今の世界とは違う鬱蒼とした緑は太古って感じの植物で溢れてて、空は良く色を変えている。花は今よりもビビット感が強く、風はキラキラとした光をはなってた。
 これが創世記の世界。そんな中で聞き覚えのある旋律が聞こえてくる。懐かしいような、暖かくなる声と歌。視線を向けると、そこには一人の少女の姿があった。基本銀髪なんだけど、毛先の方だけなぜか金髪に色を変えてるのショートの髪にフリルいっぱいの黒のワンピースに赤いリボンがアクセントの服に身を包んでる。
 なんだか一瞬シルクちゃんに見えたけど、シルクちゃんよりも髪は短い。シルクちゃんは肩にかからない程度に長いけど、彼女はショートだ。あれがシスカ? なんだかイメージと違う。てか、上の像はロングじゃなかったっけ? しかも金ぴかだったから金髪を想像してた。一部だけじゃん。
 するとそこにテトラも登場。あいつはまあ今と同じだな。別段どこも変わってない。強いていうなら、幾分か表情が柔らかいって感じか? 二人は幸せそうにしてる。微笑ましい光景だ。世界は順調に育ってるように見えるよ。
 見た事ない動物も集まったりしてて、それらは全部シスカに懐いてるみたいだ。テトラは他の生き物がいる時は一歩引いた感じで見守ってる。そんな世界の映像が頭に流れて、数分で消えた。


「どうじゃた?」
「う〜ん、まず言えるのは、シスカのイメージが違ったな。女神っていうからどれだけ母性に溢れた人かと思ってたけど、普通に女の子だった」
「そうね。でも案外あんな物なのかな〜とも私は思ったけど」
「……」


 なんだかリルフィンだけが何も言わない。感慨にでも浸ってるのかもね。僕達部外者よりも繋がりが深いだろうし。


「まあ違和感など直ぐになくなる。シスカ様はちゃんと女神と呼ばれるだけの神じゃからの。では次にいくぞ」


 そう言って二つ目の石板に触れる。見えたのはこんどは灰色の空に異臭を放つ地面。緑色した水の吹き溜まり。それはまるで世界が腐ってるみたいな光景だった。そして地面は剥がれ落ちる様に真っ黒な奈落へと落ちて行く。そんな世界を二人の神は空から見てた。「またダメだったな」とテトラが紡ぎ、シスカが「まだまだ諦めんない!」って言ってる。目に涙が見えるけど、それを落とす事なく拭い、二人はこの世界を終わらせて、再びその力を混ぜて一つの種を奈落に落とす。それからずっと、二人は交互に力を注ぎ続ける。それで暗転だ。


「今のが世界の終わりって事か? だけど宇宙があったのに、二人はどこで世界を作ってるんだ?」


 謎だな。もしかしたら世界想像の空間を隔離してるのかも。そして成功した世界だけが宇宙と言う総合空間に出現出来る……そんな感じかな。ローカルネットワークとオープンネットワークの違いみたいな感じか? 今の世界はオープンネットワークに上げられてる完成版で、さっきみたのはローカルで作成中の物で神の固有端末内ってみたいなね。


「神の事など神しかしりようがない。力の根源など、儂等では想像出来んよ。しっかりと自分達が見つめないといけない事だけを見ておれ。ほれ三個目じゃ」


 三個目は既に五種族が居た。世界も大分安定してるのか、随分と今の形に近づいてる。五種族はそれぞれシスカの愛を受けてるみたいだ。みんなまだ小さなアダムとイブ達。ケンカとかもしてるけど、笑えてる関係は微笑ましい。テトラはでもやっぱりいつも通りにちょっと遠くにいる感じだな。でも二人きりになるとラブラブだ。なんかそんな感じで三個目も終わり、四個目は一変種族間闘争に発展してた。
 それぞれの種族のアダムとイブと一族の抗争は代を継ぐ毎に激しさをまして行ってる。それは次第に世界を壊す。未完成の世界は結構脆いみたいだ。そんな争いが裏目に出て、結局は世界と共に、滅んでく。そんな光景が早回し的に続いてく。
 もう記録も面倒くなったんだろうか、ここら辺の端折り具合が凄まじいよ。でもこれでもきっと一部なんだよな。一体どれだけ失敗したのか。てか、もっと成熟させて五種族は投入すれば良いのに……とか思うけど、きっとそれじゃあダメなんだろうね。
 でもそれでももう一度と、二人の神は世界を作る。シスカは同じ様に愛情を注ぐ。いや、前がダメだったからこそ、もっと大きく優しく愛を与えてる。でもそれでも、いやだからこそ、五つの種族は対立をするんだ。
 女神の愛を独占しようと、そんな思いに成長するとなるみたい。愛を与えれば与えるほどに、狂ってしまう。どうやらここで二人はつまづいてる様だ。大きな叫びが世界を曇らせる。そこで四個目の記憶は終わる。


「これで最後じゃよ」


 雰囲気が明らかに重くなってる。だけどしょうがない。女神の嘆きは胸が痛かった。だけど見ないわけにはいかない。ここまできたんだから向き合おう。真実をしらないと、テトラに向き合えない気がする。僕達は頷き合ってその手を石板に重ねる。


 五種族の争いにその激昂を示したのはテトラ。黒い涙が地面に落ちる時、新たなる生物が生まれ出る。それはモンスターだ。そいつ等がシスカの目の前で五種族達を蹂躙していく。飲み込み喰らい、割いていく。
 泣き叫ぶシスカ。だけどテトラは止まらない。僅かに五種族を残してテトラは紡ぐ


「貴様達が生み出す憎しみは、全て俺が引き受ける。俺を憎み恐れ、恐怖しろ!!」


 その言葉と共に、テトラはシスカと袂を分かつ。ただ一人で、全てを背負う為に。これが邪神の真の思いか。


 石板に残された記録はこれだけ。だけど十分だ。十分にテトラの事も、五種族の罪がなんなのかもわかった。だけどハッキリいって対応策は見出せないな。いや、一つだけ、思いついたのはあるけど、今の映像を見たあとだとちょっと後ろめたい気もする。まあよう検討だな。


「為になったかの?」
「ああ、あいつの事が良く分かった」
「それは何よりじゃ。では、今度は擬似契約解除の方法を教えようかの」


 色んなピースは揃ってきてる。対応策も少しだけど、見出せてる。亡くした光を、この手にもう一度集められてる気がする。

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