命改変プログラム

ファーストなサイコロ

ご褒美の為に

 光の中に包まれたテッケンさんは元の身長から、ぐんぐんと伸びる。そして光の中からまず手が出てきた。光から出る時にその姿を固定してるのか、光の中のシルエットでは何も着てない様に見えるのに、手には既に手袋が装着済みだ。
 そして逆側から出てきた手にも手袋が既に装着されてる。そして光から出ようと一歩を踏み出した足が光から出ると同時に、その素足にセラの装備が再現されていく。地面に足が着く頃にはロングスカートも見える部分だけ出来上がってる。
 更にここからもう一歩を踏み出して、全身を光の外へ。靡いてた髪は後頭部辺りでピンでまとめられて、体にはセラの代名詞とも言えるメイド服が完璧に再現される。そして全身が完全に出切った所で、魔方陣も光も消えて行った。


「おお……」


 僕は思わずそんな声をだす。てか、出さずにはいられない。だってこれぞ、まさに『変身』。その再現性はハッキリ言って、本物と区別なんかつきようもない。目の前でそのシーンまで見てる筈なんだけど……なんだかこう聞いてしまう。


「えっと……マジでテッケンさん? セラ本人じゃなくて?」
「ああ、僕だよ」
「声まで違う!? えっ? マジで?」


 声まで完璧にセラだから、余計に混乱しそうだ。だってもうセラだもん。完全にセラ。まあ細かい部分で言うと、ちょっと立ち方が男っぽいかな〜と思うけど、それは意識をすればいいだけだからね。ハッキリ言ってこれは言われなきゃ絶対にバレないよ。確かに使い方によっては鬼畜な所業が出来そうだ。
 目の前でこの精度の高さを見ると実感できる。変身恐ろしい。


「ほぉ、見事にあのクソムカつく女そのままだな。匂いまでも再現してるぞ」
「はは、バレない為の対策もあるからね」


 なんだかテッケンさんの今の発言は常用してそうな……いや、そんな訳ないよね。いざって時にバレたらダメだもんな。だからこそ、普段から変身の追求に余念がないってだけの筈……うん、多分。そう信じたい。
 てか、リルフィンの奴、クソムカつく女って−−そう言えば二人は仲悪かったね。セラの姿を見ただけで反応して……普段からよっぽど我慢してたのか? だけどここまで完璧なら、不安なんて必要ない。まあただ一つ問題なのは、人が良いテッケンさんが、どこまであのセラの言動を再現出来るか−−だよ。あいつあの仙人モブリを折檻してる時、酷かったもん。積年の恨みを晴らすか如くだったからな。
 まあそれはそれだけ女子達を追い詰めるような変態行為をこのジジイがしたからこそで、同情の余地なんかないわけだけど、この変態仙人モブリはあの時のセラに興奮してるんだよね。ようは、あれと同じ物を求めてる訳だ。
 テッケンさんにアレが出来る……か? いや、案外あの変態仙人モブリなら同じ姿してるんならなんだっていいのかも知れない。


「テッケンさん、その姿なら完璧です。頼みます」
「ああ、任せてくれた−−−−」
「ぬひょおおおおおおおおおおおおおおおお!! 会いたかったぞ娘っ子おおおおおおおお!!」


 直様反応した変態仙人モブリのジジイは突然テッケンさんが変身したセラの胸に飛び込んで来た。しかも凄い勢いでモミモミスリスリクンカクンカしてやがる。信じられるか? ここまで彼が変身してまだ五分もたってないんだ。
 どれだけ待ち望んでたんだよ。でもある意味テッケンさんが匂いまでも再現してたのは助かったかも知れないね。あいつ匂いも堪能してるようだし、あの姿で匂いが男の匂いだったら、疑われてたかも知れない。
 女の子は姿も大事だけど、同じくらい匂いも大事だとポリシーを持ってたテッケンさんのおかげだね。その拘りに救われた!


「なっ、なんだか仲間に失礼な事を思われてる気がする。気のせいかな?」
「そんな事よりも早くそいつを殴って下さい! セラならそのくらい速攻でやります!」


 それも保証出来る。てかそもそも女の子が胸を鷲掴みにされて感心ないとか、どのみちあり得ない反応だよ。感覚はないの? あれだけ再現しててそれはないと思うけど。まあだけどちょっと「んっ」とかピクッと体が時たま反応してる節は見える。感覚はあるけど、まだ変身した直後で疎いのかも知れないね。
 まあ取り敢えず、一発ガツンとかまして下さい。それがセラです。テッケンさんは決意した顔で拳を握る。


「なにしてんのよ、この変態が!!」


 そんな罵声と共に、ひねりを加えた拳が変態の腹に炸裂した。「ぐぼっ!?」ってな声と共に変態仙人モブリは吹き飛ぶ。モブリだからね。軽いから吹き飛びやすい。天井にぶつかって、そして地面に落ちた変態はさながらスリッパで叩き潰されたゴキブリのようだった。
 相応しい格好だ。だけど変態仙人モブリはピクピクしながらもこう言った。


「た……堪らんのぅ……これじゃあ、これが……イイ!」


 なんという変態魂。本当にそれがいいのか? と思うけど、本人が良いって言ってるんだから良いんだろう。求めてるのなら、もっと与えた方が口も軽くなるよね。


「おいセラ、あの変態はこのくらいじゃ全然応えねーよ。もっとキツイのをお見舞いしてやらないと!」


 僕は煽るようにそう言うよ。もっとケチョンケチョンにしちゃえ。テッケンさんは心苦しいかも知れないけど、妥協なんて出来ないよ。それにあいつもそれを望んでるんだしね。利害は一致してる。思う存分罵りながら痛めつけてください! 


「はあ〜」


 ん? どうしたんだろう? 大きな溜息だ。セラ(もといテッケンさん)はなんだか途端につまらなそうな表情をしてるぞ。い、一体どうしたんだろう? やっぱり罪悪感に嫌になったとか? そんなバカな! それじゃあ僕達の希望が!!


「あ〜あ〜」
「ど……どうしたのじゃ? なんで踏みつけてくれないんじゃ?」


 いや、変態のその言葉もおかしいんだけど、実際に僕もそう思ってた。どうして追撃をしないの? めっちゃ面倒そうに欠伸したり、肩を自分で叩いたりしてるけど、その意図が僕にもわからない。テッケンさん頼みます! そいつを快感に溺れさせて情報を! 情報を取ってください! 
 もう頼りはそんな変態しかいないんですよ。藁にも縋る思いってこの事なんだ。そしてそれが出来るのはテッケンさんしかいない。わざわざカミングアウトまでして変身したのに、それはないですよ。勇気を持って! これは罪じゃない、その変態も望んでる事なんです!


「つまんないのよね」
「な……何がじゃ?」


 終わった……そんな言葉だと思う。テッケンさんはこの変態仙人モブリをこれ以上痛めつける事は出来ない……そういう事じゃないのかこれって。テッケンさんは良い人だからね……良心の呵責はしょうがない。それがある方が人としてはずっと素晴らしいしね。責められないよ。


「だから私があんたを痛めつけた所で、それが気持ち良いんじゃつまらないって言ってるのよ。ほら、いくらでも触りなさいよ」


 そう言ってセラ(もといテッケンさん)は受け入れるかの様に両手を広げる。まさかそんな、セラの体をこの変態に明け渡すっていうのか? 流石にそれは不味いよ。セラの体の全てをこの変態が知る事に……それはセラが可哀想過ぎる。てかなんかイヤだし。


「ちょっと待て! 自暴自棄になるなよセラ! そんな変態に良い様にされて平気なのかよ?」
「……」


 どうしてテッケンさんは僕の声を無視するの? 悲しい……こんな悲しい事はないよ。


「うへっへっへ。ようやく娘っ子も儂の魅力に気づいたんじゃんな。まあそこまでいうのなら〜仕方ないの〜。思う存分その体……ジュルル……堪能させて貰おうかのおおおおおおお!!」
「やめろおおおおおおおおおおおお!!」


大きく叫ぶ僕。だけどノリノリでしかもこんなチャンスをあの変態が見逃す筈なんてない。変態仙人モブリは殴られる前よりも元気になって一直線にセラ……の姿をしたテッケンさんへ向かう。


「むひょひょ! むひょひょ! っむひょーーーーー!!」


 気持ち悪い叫びが響き渡る。今すぐにでももう一度胸に飛び込んで行きそうな勢いだ。だけど不可思議な事が起こった。興奮冷めやらぬ感じで叫んでた変態は、セラに飛びつく手前で急遽勢いをおとしたんだ。
 一体どういう事だ? トボトボ歩きにまで勢いが落ちた変態仙人モブリは、ついにはセラの目の前で足を止める。


「どうしたの? 好きにしても良いのよ?」


 受け入れ態勢万全のセラ(に扮したテッケンさん)。彼はこの状況をどう思ってるんだろう? 僕にはそれを知る術はない。


「違うんじゃ……」
「うん?」
「だからこんなの違うんじゃ! 恥ずかしがられもせずに触るなど、なんの楽しみもないんじゃ! オナゴは恥じらってナンボなんじゃよ! 受け入れ態勢万全じゃ、儂の心は燃えたぎらん……やっぱりお主はその綺麗な足で儂を踏みつけてこそ! なんじゃ!!」


 どういうポリシーだ? また他人には理解出来ない拘りかよ。面倒いジジイだな。まあだけど恥らいが大切って部分はわかる。キャーキャー言う姿にもこいつは興奮してたんだろう。でもだからって、こんな大チャンスは普通は放り出さないよね。
 やっぱりこのジジイは特殊だよ。ちょっと痛めつけただけでポックリいきそうな体をしてるくせに、そんなに痛めつけられたいか。流石変態。


 パン!! −−するとビックリ、渇いた音がこの通路に響く。どうやらセラ(テッケンさん)が変態仙人モブリに平手打ちをかましたみたいだ。どう言う事? ますます持って訳がわからなくなって来たかも。つまらないって言ってなかったっけ?


「これが欲しいんだっけ? 気持ちよかった?」
「あ……あ……最高じゃが、今度はその手袋を外して欲しいのじゃ!」


 平手打ちをされた実感を噛み締めて、更に要求も重ねるとは、とんでもない変態だよやっぱり。一体セラ(テッケンさん)はどうするんだろう?  そう思って見てると、おもむろにその手が片方の手に向かい、白い手袋を摘まむと少しだけ引っ張る。
 「取るんだ」そう思った。だけどそれはフリだったらしい。


「取る−−−−とでも思った? ふざけないでよ。あんたみたいな気持ち悪い変態を素手で殴れる訳ないじゃない。腐るでしょう?」
「お……おおおおおおおおおおおお!」


 セラ(テッケンさん)の言葉に打ち震える変態。実際僕も打ち震えそうだよ。えっと……なんか正に目の前の奴がセラに見える。下手すると本人? と思うほどだ。だってテッケンさん……結構ノリノリじゃね?
 今の言葉もそうだし、なんてったってその視線だ。今のゴミを見る様な瞳は、まさにセラだった。あの突き刺す様な凍る視線……厳しいというか、冷徹さが染み出てただろ。まさかそこまで再現出来るなんて……正直予想外。


「ど、どうしたら? どうしたら殴ってくれるんじゃ? 踏んでくれるんじゃ?」
「わからない? 脳味噌の皺が表面まで出てきた様な体をしてるくせに、ちょっとは考えなさいよ。
それとも頭の中身はつるっつるなの? 私たちが何を欲してるのか……それはちゃんと伝えてる筈でしょ?」
「あ、あれか。邪神と星の御子の事じゃったな。言うぞ! なんでも教えるから儂をその足で踏みつけておくれ!」


 そう言って変態は床に仰向けに大の字に寝る。まさに踏みつけられる万全の態勢ってやつだ。どこを踏んでも良いけど、あの態勢なら踏みつけられながらでもパンツを狙えるのか。流石変態、ご褒美に更にご褒美を重ねようとしてやがる。
 その執念には感服してやろう。情報をあっさりと明け渡すのはどうかと思うけどね。こんな奴がいたんじゃスパイとかでも重要な情報抜きとれるよね。色仕掛けすれば一発だ。まあ実際、過去の情報を必要とする時なんて早々ないんだろうけど、こいつの昔話みたいなものだろうしね。それにこんな変態を相手にするのはきついよね。
 テッケンさんは新たな一面を見せてノリノリだけど……まさか変身は相手の性格まで写すとか? それならまあ、納得できる。だってテッケンさんがあんなSな訳がないよ。きっと……


「じゃあそうね、まずは詳しそうな星の御子の事からお願い。あんたが最初の星の御子なの?」
「おふっ! ぐふふふふ、わ、儂が形式上最初の役目を担ったのは確かじゃな。まあ教皇という肩書きを捨てて星羅を作った訳じゃし、民衆が仰ぎ見る何かが必要じゃったから世界樹の元で新たな肩書きを披露したんじゃよ。おふっおふ!!」
「ふ〜ん、それであんたなら召喚士の弱点も知ってるわけ?」
「もっ……あっ! ……モチロン……じゃ! じゃからもっと強くグリグリしておくれ!」


 なんだ……僕達は一体何を見てるんだろう。なんのプレイの鑑賞会だよ。マジでそう思う。でもテッケンさんは凄いね。僕はただ奴に暴力を与えて、奴の望むままにさせてやればいいじゃんって思ってた。でもテッケンさんはどうやら違ったんだ。
 折檻のあとに息絶え絶えな変態に色々と聞くのは時間的に長丁場になりそうだった。だけどこうやって求める物を焦らしながらその都度ご褒美にするのなら、変態は喜んでベラベラと喋る。この効率の違いは大きい。すっげー……すっげーぜテッケンさん。あんたプロか!? と僕は心で思ってた。


「ほれほれ、変態はこれが良いんでしょ?」


 グリグリゲシゲシドスドスと容赦なく靴を履いたままの足で踏みつけるセラ……に変身してるテッケンさん。実際あれは痛そうだ。てかストッキングの感触はいいのか? と思う。それを感じたかったんじゃないの? まあ満足してるならいいんだけどね。


「うう〜堪らん!!  良いんじゃ! これが良いんじゃ!!」
「じゃあ早く召喚士の弱点を教えなさい。あんたあのローレの師匠とか言ってなかった?」


 そう言えば最初こいつに会った時に、リルフィンの奴がそんな事を言ってた様な……「貴様を主に会わせるの召喚絡みで十分だ」とかなんとか。多分こんな感じだったと思う。あんまり覚えてないけどね。
 リルフィンをチラリと見ると、別段いつもと変わらない表情をしてるな。不機嫌そうな顔だ。


「そうじゃよそうじゃよ。儂がローレに色々と教えてやったんじゃ。召喚の事、それにヒトシラのこともな。儂はあの子の誇るべき師なのじゃよ!」


 無様な格好で自信満々に何をいってるんだか。それにローレの奴はあんたの事を誇ったりとか全然してない。寧ろ自分の唯一の汚点くらいに考えててもおかしくないぞ。こんな変態に教えを乞うなんて……って思ってても不思議じゃない。てか思ってると思うな。そんな感じだったもん。


「あいつがあんたのを誇ってるなんて思えないけど、そんなのどうでも良いのよ。余計な言葉なんていらない。あんたは私の望む言葉だけを紡ぎなさい。わかった?」
「……ワン!」


 あっ、犬に堕ちた。モブリに尻尾まであったら、絶対に高速回転してるな。それ程にイイ鳴き声だった。躊躇いも少しは見えたけど、最終的には犬になる事を受け入れたもんな。あんな事を言われても嬉しいって異常だろ。
 人権とかいらないみたいだな。いや、ある意味好きに生きる権利かなこれも。まあ望んで情報をくれるのなら、どう生きようといいけどね。人の目なんかこいつは気にしないだろうし。


「ほら、弱点」
「召喚士の弱点は基本ないんじゃ! 召喚獣がいれば全属性の魔法を操れるしの。それに召喚獣を戦わせてる間に自分は詠唱に専念出来る。儂は一人で暗黒大陸のモンスターの大群を退けた事もあるぞ」


 なんだそれ。半端ないチート性能じゃないか。だけどこいつの場合は結構特殊なんだよな。召喚士の中でも別格っぽいし、実際同時に召喚出来る召喚獣には限界があるみたいだからな。それに実際は一つくらい何かあるだろ。弱点ないとかやめろよ。
 あっ、後自国でしか使えないとかはなしな。それはどのバランス崩しも一緒みたいだし、しかも今回はその自国だろうし、意味がない。


「それでも何かあるでしょう?」
「う〜んそうじゃな。じゃが、ヒトシラが揃ってない状態なら、それ自体が弱点とも言えるのう。最高の力は出せぬのじゃからな。召喚士一人で複数の召喚獣を操るにはリミッターが必要なんじゃよ。それでどうにか召喚獣を操れる程に力を押さえておる。
 ヒトシラはそのリミッターを召喚士自身から、そのヒトシラにリミッターを割り振ってるんじゃよ。それによって一体一体の最高の力を開放出来るという仕組みなんじゃ。更には全ての枷を外された召喚士自身にもメリットはあるしの。
 その状態でなければ、対抗の使用はあるじゃろ? 普通の力でも」


 変態のくせになかなか解りやすく言うじゃないか。ヒトシラというのは召喚士が預かってたリミッターをヒトシラに割り振る事で一体一体の力の限界を上げてるって訳か。じゃああながちヒトシラが召喚獣一体に対して一人ってのも間違いじゃないな。
 複数の召喚獣を操る為に召喚士が元からリミッターを掛けてるのなら、それをヒトシラにもすると結局意味がない。それじゃあ召喚獣の最高の力は発揮出来ないもんな。だけど今でも対抗できるってのは無理がある。確かに複数対召喚士一人の構造なら、召喚獣相手にもどうにかなるだろう。だけど今は違うんだよ。


「それは無理。確かに今の召喚獣ならやり様によってはいけるかも知れないわ。でも私達の戦力はこの三人だけなのよ。後は全部敵。世界も神もね」
「それは……流石に全盛期の儂でも無理じゃぞ」


 だろうね。誰がやったって流石に無理がある勝負だ。そんなのわかってる。だけど……僕達はやるんだ。引くわけにはいかない。


「わかってるわよ。だけど引けないの。だから必要なのよ弱点が。いいからとっとと役に立つ情報を教えなさい。今のところ毛ほども役にたってないわよ。このままだと……」


そう言ってセラ(テッケンさん)は足を退けようとする。するとそれが心底イヤなのか、変態はその足にしがりつく。なんて情けない光景だ。


「イヤじゃ! やめないでおくれ!!」
「じゃあ役に立つ情報を教えなさい」
「そ、そうじゃな。なら儂が開発したとっておきの方法を教え様ぞ。それも擬似契約解除じゃ!」
「擬似契約解除?」


 なんだそれ? 使えそうだな。


「まあこれはちょっと特殊な方法なんじゃが、役に立つんじゃよ。色々とな。契約の枷というのがあるのでな。それを抜ける為の方法として編み出したんじゃ。いっとくがこれはまだローレにも、それに歴代の御子達にも教えておらんからな。極秘じゃぞ」
「いいからさっさと教えなさい」


 そう言って顔面を踏みつける。ご褒美だね。ありがたみが薄れるけど、まあいいよ。


「うほっほほほ、堪らんのう! 擬似契約解除はその名の通りじゃよ。擬似的に契約を解除……した様に認識させる術じゃ。召喚獣達にの。というか、まあ一時的に繋がりを遮断するという方が正しいの。強制的にの」
「なるほど、それは使えそうね。私達にもできるのそれ?」
「道具さえあればいけるぞ。色々と必要じゃが、儂がいるんじゃから問題ない! 今の時代にあわせた方法を探ろうではないか」


 おお、変態の癖になんだか頼もしいな。これが上手くいけばローレの事はどうにか出来そうだ。だけどここでリルフィンが疑問をぶつける。


「擬似契約解除は、ちゃんと元に戻るのか?」
「そりゃあ問題ないの。擬似的じゃもん。てか、お前さんの契約は良くわからんからの。そこら辺はわからん。じゃが本当に契約が解除されるわけではないからの」
「そうか……ならいい」


 安心出来た様で何よりだ。リルフィンはローレと本当の意味で離れるなんてイヤなんだろうね。


「ローレの事はなんとか出来そうね。じゃあ神の事は? 邪神テトラの弱点は? 金魂水や、神の国へ繋がる橋ってのは?」
「し、質問だらけじゃの。まあめんこいお前さんの為にジジイは頑張るぞ! じゃが流石に神の弱点は無理じゃな。あれに弱点はないぞ。そもそも邪神の方が戦闘タイプじゃしな。まあじゃが、より邪神を知りたいのなら、方法はある」
「それは何?」
「あれじゃよ」


 そう言って変態が示すのはこの通路の先の扉だ。あれ、確か開かなかったんじゃ? そう言えばこいつは墓守とか言ってたよな。じゃああの扉の向こうにあるのはお墓? 誰の?


「あそこにいけば、色々と見る事が出来るぞ。邪神を倒す術はないが、ヒントくらいは得られるかも知れん」


 セラ……に化けたテッケンさんがこちらに視線を向ける。僕はその視線を受けて止めて頷くよ。いくしか無い……いや、いかないわけにはいかないよ! その意思を汲み取って、彼女(彼?)は伝える。


「お願いするわ」
「お安い御用じゃ!」


 あっさりと承諾する変態。あそこってかなり重要な場所じゃないのかな? だけどまあ認められた……そう思う事にしとこう。古びた扉の中央には赤い鉱石が埋まってる。変態はその鉱石に光を飛ばす。するとその鉱石が光り、その光りが扉全体に広がり、振動を響かせながら両側に開いてく。
 弱点はない……それは明言された。だけどヒントだけでも掴んでみせる。僕達はそう決意して、その扉へ進む。

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