命改変プログラム

ファーストなサイコロ

神の憂鬱

「ねぇ、テトラ」
「うん?」
「うん? だけじゃなくてこっちも見てください!」


 彼女はそう言って頬を膨らませてる。俺はしょうがないから、面倒臭い感じを全面に押し出しつつ起き上がる。


「ほら、新しい命です。新種ですよ。世界が少しづつ回り出してる証拠です!」
「そうだな」


 彼女の手には見たことない花があった。小さくてか弱い、一輪の花。彼女はその花を愛おしそうに見つめてこういった。


「たった一つだけじゃ寂しいですよね。私が直ぐに家族を増やしてあげます」


 彼女の手は輝き、その光が地面にしみ込む。するとそこからポコポコと同じ花が顔を出す。


「これで新しい種が世界には記録されましたね。世界はまた一つ、成長したんです」
「それはいいんだけどさ、なんて言うか……芽吹きすぎだろ」


 一気に周辺にまでその花が群生しちゃってるじゃないか。限度って物がある。神が干渉していい限度。世界はなるべく自然に任せる物だ。


「わ、わかってますよ〜。でも嬉しかったんですもん。私達の世界に新しい命が芽吹いたんです。ちょっとはしゃいでも良いじゃないですか」


 プンプンと言う効果音が似合いそうな仕草をする彼女。全く、何にでも一喜一憂出来て羨ましいよ。こっちは既に一つの命が種として出てきても別にどうでもよくなったけどな。新しく芽吹いても、それが生き残り続けられるわけじゃ無い。
 こんな不安定な世界じゃ、尚更だ。その度に泣いて笑って、彼女が居るから俺はまだこんな事を諦めないで居れる。


「テトラ」
「ん?」


 何時の間にか、目の前にきてた彼女がスカートを腕で抑えて隣に腰掛ける。


「ありがとうテトラ」


 唐突にそう告げた彼女。何を今更……それにまだまだだろ。


「そうだけど、これからもずっと二人でやって行きたいし……テトラは私にとって必要ですから。いっぱい感謝してます」
「……感謝してるのは俺の方だけどな。こんな綺麗な世界に俺の力が通ってる。それはこの目で見て感じても、やっぱりなんだかこそばゆい。だけど……良かったって思える。お前のおかげだよシスカ」


 そう言うと彼女は膝を抱えてそこに顔をうずめて、照れ臭そうに笑ってた。だけど少しするとそこから横顔を覗かせ真っ赤な顔を笑顔に変える。そんな彼女が俺は堪らなく愛おしくて……






「ん……」


 伸ばした手は空虚に宙を描いてる。見えるのは無機質な天井で、薄暗い部屋には他に誰もいない。カーテンの隙間から差し込む日差し。誰が持ってきたのか知らないが、近くには氷水が入った水差しとコップも用意されてた。
 暑い時期だからな。誰かが気を聞かせたのだろう。予想としてはローレのお付きの給仕の奴らだろう。俺はコップに水を注ぎ、それを流し込む。冷たい水が体内に染み入る様だ。そして再び俺はベットに沈み込む。


「夢か……」


 俺は自分の手のひらを見つめながらそう呟いた。懐かしい夢だった。懐かし過ぎる夢だった。ずっとあのままでも良かったのにと……今の俺は思う。だけどそれはあり得ない事だ。この記憶は結局作られた物で、設定上の物だ。
 だけど俺はそれでもこの思いを否定はしない。たった一つ設定されてる大切な物が、他人が決めた物でも、俺はこの気持ちだけは感謝してる。だからこそ、目指すんだ。製作者の意図とは違うかも知れんが、子供の犯行だ。多めに見てくれると信じてる。設定された年月が長過ぎるんだ。
 実時間は違うが、俺の中にはその年月分の思いが蓄積されてる。だからこそ、ここでやらないと俺は爆発しそうなんだ。


「摑んでいたかった……ずっと」


 手のひらを見つめてそう呟く。自分は道化の神だとしても、何も掴めず、ただ成長したこの世界に必要とされなくなって退場を迎えるだけなんて嫌なんだよ。最後の役目は五種族の手によって世界から退場……そんな用意されただけのシナオリじゃ、俺は満足なんて出来ねーよ。


「でも……ここまで来た」


 そう思ってても、少し前まではここまで自分が制約を振り払い自由に出来るとは思ってなかった。行動範囲は暗黒大陸に限定されてた訳だしな。時たま迷い込んで来るプレイヤーに適当に意味深な事を言ったって、何も起こる事はなかった。
 だけどあいつは違った。それに少し前から、この世界は不安定にもなってたし、現状が変わるきっかけはあった。そして聖獣達の復活にと、風が向いてくれたのも大きいな。


「それにきっと、このままならアイツとの約束も果たせそうだ」


 天井を仰ぎ見て、俺はそう呟く。世界に見切りをつけるわけじゃない。もう良いと、本気でそう思えるからこそ、最後に残しておいた道を開くんだ。そもそもこれは俺が仕込んでいたって設定なのに、使わせずに終わらせる気だったのかと言いたい位だしな。
 俺が仕込んだ俺の物なら、俺がここで使ってもいい筈だ。文句なんて言わせない。俺の行動のせいでこの世界はますます人の手を離れるかも知れないな。だが、それが世界という物だ。誰かが管理出来る世界なんて、まだまだ世界なんて呼べないんだよ。独り立ち出来るのなら、それをさせない手は無い。俺の事情としては……だけどな。


 俺はベッドから立ち上がり、窓に近づく。カーテンを掴み、サッと開くと、暖かな日差しが眩しく照りつけて来た。夢で見た頃と比べると、随分と広くなった。空も高いし、目に見えない所までも、どこまでもが世界だ。縦に長い窓は、部屋の奥までその姿を浮かび上がらせてる。
 俺は静かに目を閉じる。そして体が輝き、服が寝巻きからいつもの格好に変わる。白地に金刺繍のいつもの服だ。邪神なのに……そんな声を聞くが、俺は元からそんな呼ばれ方をしてたわけじゃ無い。だからそんな声は無視だ。こだわりもあるしな。
 瞳を再び外に向ける。別段何かが変わった様子の無い世界。だけどそれも今夜大きく変わるだろう。


「そう……今夜だ」


 俺はそう呟いて、心で確認する。今夜で全てが終わる。それはきっと間違いない。不安要素は一つだけ。いや、二つだけか。一つはスオウ……まあ今更何をしても、俺に追いつけるとは到底思えないが、もう一つの不安要素が何かをする事はある。てか、既にしてるかもな。
 一番近くに居る筈なのに、その真意を図りきれない相手だ。俺はそう思いつつ、歩みを進めて、扉に手を掛ける。ガチャリとノブを回して個室の方から広いリビングへ。すると扉を開いた瞬間、パンツ一枚の金髪少女の姿が目に入った。鏡ごしに濡れた髪を乾かす為にバスタオルを頭に被ってる。
 俺が扉を開けた音に反応してこっちを向いて「うん?」とか言ったまま別に無関心に再び濡れた髪をバスタオルでゴシゴシって! ちょっと待て。俺の方が思わず一歩引いて再び部屋に戻ったじゃないか。
 くっそ、あんなのが一番の不安要素なんだよな。でもまさに不安要素って感じを再確認出来たかもしれない。色々とあいつは危険だ。


「お前、なんで朝からそんな格好してるんだ? 服を着ろ、服を!」


 扉越しに俺はそう言う。てか、当然の事を言わせるな。一人で来てるならまだしも……いや、そんな格好でリビングに居るなよ。自分の部屋があるんだから、そういう事は自室でやってろ。


「私は朝にシャワーを浴びるのよ。気持ち良いでしょ?」


 裸を見られたのに、全然声に動揺が見られない。そもそも俺が出て行った時も目が合ったのに、別段気にした風じゃなかったか。図太いやつだな。普通はもっとリアクションがある筈だろ。こっちが無駄に気にしてる風に思われるじゃないか。


「知るかそんな事。とりあえず自室でやってろ。そして服を来て出て来い」
「なんで? 私はあんたに見られたって気にしないわよ」
「いや……少しは気にしろよ。迷惑だろうが」
「迷惑ね。子供の裸を見てあーだこーだ言う方が迷惑じゃない? 男は自分の変態性を女に押し付けるわよね。それって悪い事だって思うのよ」


 どっちが変態だ。全くこいつは何か言えば変な理屈を振りかざして来やがって……くっそ、どうせこんな反応を予想してからかってるんだろうと思うと、こうやって引っ込んでしまったのはなんか悔しいな。


「なら、堂々と入って行っても問題ないって事か?」
「そうね。でもウブな神様に出来るのかしら?」


 こいつ確実にバカにしてるよな。尊敬の「そ」の字も見当たらない。別に誰かに崇められたいわけじゃ決してないが、バカにされるのは気分がいい物じゃ無い。


「言っとくが別に貴様の裸なんぞに興味は無い。ただ邪魔臭いだけだ」
「だけどここは共有スペースだし、追い出す権利はないわよ。私は部屋ではラフな格好しときたい派なの」


 だからって男の前でまで裸で居るなよ。もしも自室では全裸で過ごしてるとしても、せめて誰か居る時は服位着ろ。でもそれを言うと、どうせこいつの事だからな。色々とそのご立派な口で捲し立てて来るんだろう。たち悪いなコイツ。
 たった数日だが辟易してきた。でも本人が気にしない、別に見られても良いって言うのなら、こうやってるのも馬鹿らしいよな。俺はガチャリとドアノブを回す。


「俺は水じゃ無い朝の一杯を飲みたいんだ。だから入る。文句言うなよ」
「どうぞご勝手に」


 なるべく見ない様に……そう思ってた訳だが、ドアを開けた瞬間に俺は突っ込まざる得なかった。


「なんでパンツ脱ごうとしてるんだよ!!」
「なによ? 改めて入って来て第一声がそれって変態じゃないの? 変態神に改名したら?」


 いや、明らかに変態はお前だろ。なんで唯一まとってた物までこのタイミングで脱いでるわけ? 絶対にワザとだろ。こいつ絶対に神をからかって遊んでるだろ。くっそ、何にも反応しないで無視しようと思ってたのに……だけど流石にこれはない。
 信じれない女だなこいつ。まさか本当は襲って欲しいのか? そんな考えを持たれても不思議じゃない。俺はもう頭を抱える。だめだこいつ、早くなんとかしないと。


「ここまでバカにされたのは始めてだな。俺が変態ならお前はなんだよ。なんで入るっていってパンツを脱ぎ出してるんだ? 明らかに変態はお前だろうが!」
「別にあんたの為に脱いでるわけじゃないわよ。今日の気分的にブルーじゃないかな〜っておもっただけ。もっと刺激的な赤とか、それかやっぱりピンクとかもいいかなって? それともこの容姿で黒も良いかもね。この金髪に良く映えるのよね黒って。
 ほら私って肌も白いから、下着が黒だと、キュッと全身が引き締まるの」


 別に下着談義なんか求めてない。何色だって別にいいだろ。それよりも脱いだパンツを指に掛けてくるくる回すな。うざったいんだよそれ。


「まったく、テトラは女の子にとっての下着の重要性がわかってないわね。特別な日には、特別な下着をつけるのが女の子なのよ。勝負下着って奴。ゲン担ぎみたいな物なのよ」
「ゲンなんて曖昧な物をお前が信じてるとは思えないな」
「まあ、それもそうね」


 あっさり認めやがった。この女は本当に口からでまかせもいい所だな。息を吐く様に嘘を言う。性格に難があり過ぎる。


「なによその顔? 信じる者も救わない神に文句なんて言われたくないわ。それに今日が特別になるだろうから、特別な下着にしようってのは本当よ。ゲンとかじゃなく、特別な日には格別に可愛い下着が良いの。
 女の子は下着にだってこだわるんだから」


 だからわざわざ脱いだパンツを広げて見せるな。「可愛いでしょ?」って同意でも求めたいのかしらないがな、脱ぎたてとかマジでやめろ。それにこっちを向くな。色々とまずい物が丸見えだ。いや、まあ大切な部分が見えるわけじゃ無いが、つるっつるだとは確認出来る。まったく神に何を言わせるんだ。
 なんか威厳とかそんなの全部なくなるわ。


「全く、可愛い反応しちゃって……シスカとはやってないの?」


 こいつは本当にもうダメかもしれん。そう思えるだけの言葉だな。ウブな顔してるのに、言う事が全く可愛くない。こいつと居ると何回溜息が出るか……


「なんだよそのヤるって?」
「そりゃあ男と女がヤる事は一つでしょ? そう言う事、してないの? それともさせて貰えなかったとか?」
「下賤なお前とシスカを一緒にするな。それに俺達神とお前たちは作りが違う」
「まさか……付いてないの!?」


 震える声出して俺のどこを見てるんだよ。明らかに下腹部に目が言ってるぞ。こいつ、本当にどうにかした方がいい。マジで一回誰か痛い目にあわせろ。それを切に願いそうだ。


「体の作りがって意味じゃない。お前たちの様に年中さかってる訳じゃないって言ってるんだ」
「ふ〜ん、でも聖書とかで読む神って大抵いつでもさかってるわよ? 神もやりまくりじゃない」


 こいつの中での神の立場がどん底なのは、その聖書のせいか。なんてはた迷惑な。どこの神が年中盛ってるんだよ。一緒にされたくない。


「そんなの人が書いたからだろ。創造物と一緒にするな」
「あんたも人の創造じゃない。それとも完璧な神を想像してつくられたの?」


 床に届きそうな金髪を揺らして小生意気な瞳を向けて来るローレ。白いタオルは両肩に掛けて、それがちっちゃな膨らみを隠す役目を果たしてる。だけどやっぱり一番大切な部分はモロだしだ。こいつさっさとパンツはかないかな〜っとずっと密かにおもってるんだけど、いくらなんでも羞恥心なさすぎだろ。
 まあ俺は完璧な神だから、子供の全裸になど反応しないがな。


「少なくとも俺は神を想像して創造された筈だ。俺とシスカは体で繋がりを確認し合う様な、関係などではない。心が繋がってるんだ」
「あ〜あ〜付き合い始めは誰でもそんな事を抜かしてるわね。これって運命なの! って言うバカ女を良く見るわ。そういう奴ほど数ヶ月後にコロっと男を変えてるのよね。運命の出会いって案外安っぽいわよね」


 荒んでるなこいつ。心がもうカラッカラなんだろう。今のはなんだか行き遅れた女みたいな発言だったぞ。


「貴様らは移り変わるだろうが、俺はシスカ以外に目移りした事などない。一緒にするな」
「ふ〜ん、でも今私にドキドキしてるんじゃない?」


 そう言って胸の中心に手を添えて、前屈みなるローレ。別にそうやってもお前のちゃっちいおっぱいじゃ垂れもしてないぞ。


「私はオッパイなんて下品な物には頼らないのよ。あんな男に揉まれるだけの部位なんて必要ないわわ。言っとくけど、あんなの大きかったら邪魔でしかないからね。重いのよあれって」
「無いからって僻むなよ」
「僻んでなんかないわよ。この体のラインを見なさいって事!」


 ラインね……胸が膨らみ掛けて、ようやく第二次成長期に入り掛け? 位な物だろ。あそこはツルツルだし、くびれは……前かがみにしてワザと体を捻ってるな。でもまあ、好きな奴は居るんじゃないか? 
 容姿は格別に良いんだし、それだけでも補正は入る。肌は白く柔らかそうではあるしな。てか、こうして見るとほんと子供だ。手は小さいし肩も首筋も華奢、腕も俺の力なら簡単に折る事が出来そうだ。体の根幹部分も出来上がってると言えない細さ。線がどこも細い。
 だが不健康そうってわけじゃなく、肉付きは標準的。でも容姿のせいか妙に変な色気がある。体は確かに子供だ。だけどこいつはただの子供には見れないのが厄介だ。しょうがないからこう言うしかないな。


「さっさとパンツ履けよ」
「さっさと孕ませたい?」
「どういう聞き間違いだそれ?」
 

 こいつの頭おかしい。一回開いて医者にでも見てもらった方がいい。絶対にどこかのネジが飛んでるぞ。


「まあ私は可愛いからね。シスカ以外に孕ませたくなる気持ちもしゃーなしね」
「何がしゃーなしだ。そんなのしゃーなくねーよ」
「シスカとは一回もやってないんでしょ? いくら神だからってそれはないと思うな。だってどっちも男と女なのに」
「どう言う事だよ?」
「ふふ−−」


 なんだローレの奴? 凄く不敵な笑みをしてる。間違いなく失礼な事を言う笑みだなこれは。面白がってる。それがわかる。


「−−心が繋がってるって言ったわねテトラ。でもそれはシスカもそうだったのかな?」
「何が言いたい?」
「だから〜実は良い様に利用されて、置き去りにされただけじゃないかって−−っつ!?」


 ドスっと言う音と共に、白いタオルが宙を舞う。床に広がった金髪の髪。タオルもなくなった今、俺の押し倒したローレはまさに素っ裸だ。だがこいつは最初床に押し倒された時に苦痛の表情をしただけで、それ以降は割と冷静だ。
 乱れた呼吸を整えた今は、真っ直ぐに間近で俺を見つめてる。


「怒った? 図星だったんじゃない? 実は相手にされてない事を自覚してたとか?」
「そんな訳あるか。何も知らないくせに、わかった風な事を言うな」


 ローレの肩においた腕に力がこもる。柔らかい肌に、指がやすやすと食い込んで行く。


「っつ……ちょっと女の子を傷物にする気?」
「傷物どころか、消し飛ばしても良い位だ。既に俺の障害になりそうなのは、お前とスオウくらいだからな」
 「こんなに仲良くやってたのに、酷い言い草ね。まあそれはそれで邪神らいしけどね」


 消し飛ばす……そう言ってるのに、恐怖を感じたりはしてないなこいつ。やる気がないと思ってるって事か。だけど実際、天罰はきついがやろうと思えばやれないわけじゃない。なんてたって俺の術だからな。
 自立式で既に交わした契約を消す事は出来ない。だがそれでも、これ以上の侮辱は許せん。


「冗談じゃない。お前は俺と立場が対等だとおもってるのか?」
「今更な質問ねそれ。私は誰の下でもないわ。それは神も悪魔も同じなのよ」


 ローレの奴は本気の目をしてる。自分は誰の下でもない……を本気で言ってるのかこいつは。だけど不思議とそれがこいつらしいと俺は思える。


「全く愉快で不愉快な奴だよお前は」
「それは褒め言葉と受け取っておくわ」


  別に許したわけじゃないが、こいつが失礼なのは日常茶飯事だからか、なんだかこっちが寛容になってる気がする。これじゃあ邪神の名折れだな。


「ねえテトラ」
「なんだよ? って、退くから待て」


 いつまでもこうやってるのはなんだかまずい気がする。見た目はどう見ても子供だからなこいつは。それを押し倒す俺は、完璧に犯罪者だ。誰かに見られる前に早く退かないと。そうおもって気を利かせ様としたのに、何故かローレの奴が俺の髪を引っ張る。


「私には負けるけど良い髪ね。ねぇ、本当は私は知ってるわ。二人の関係。召喚獣達にある程度は聞いたし、実は契約の際に召喚獣達の記憶の一部が流れたりしてたからね。安心していいわ。通じ合ってたと思うわよ。二人とも」
「どうしたんだ? 気持ち悪いな。お前らしくないぞ」


 マジで全然全くローレらしくない。逆に気持ち悪い位だ。


「酷いわね。せっかく素直になっててあげてるのに。まあいいわ。だからテトラの気持ちはわかってるつもり。きっとシスカも待ってるんでしょう。いつか二人になれるその時を。そしてそれが実現しようとしてる。
 でも、私には結構惜しいのよね」
「惜しい?」
「ええ、だって私とあんたが組めば最強じゃない。このまま終わらすのは惜しいかなって……ねえテトラ、好きにしていいからもうちょっと一緒にいない? 死なないのなら、私に付き合う時間なんて一瞬でしょ?」


  そう言ってローレの奴は顔に垂れてる俺の髪をその唇に加える。小さな花の蕾の様な唇だ。こいつを見てると、変な物に目覚める奴が大量に出てきてもおかしくはない……そう思える。だが、相手が悪い。


「言ったろ。俺はブレたりしない。この命、この思いはシスカに捧げてる。それに俺の後にはスオウを取り入れる気なんだろ? 浮気するなよ。そもそもそんな簡単に体を使うな。せっかく綺麗なのに、贋作になるぞ」
「簡単になんか使ってないわ。それに誰にだって触らせてる訳でも見せてるわけでも無い。認めた相手にだけよ。でもまあ、ちょっと相手が悪いわね。女神様じゃしゃーなしよね。ここは素直にスオウの為にとっといてあげるかな」
「あいつも簡単に落ちるとは思えんがな。そもそも利用する目的て体を使うのは感心しない」


 もっと自分を大切にしろ。本当に勿体無い位に良い体してるんだからな。


「こんな作り物の体なんて、使ってなんぼでしょ? それにそれで釣れる相手にはね。でも確かにスオウはそれじゃ落ちないかも。でも取り入れる算段は着実に進んでるわ。しかも簡単じゃないから、面白いのよ」
「お前が企んでるその算段にはちゃんと俺の目的の成就は入ってるんだろうな? あいつにまだ肩入れしてるのは印象操作か何かか?」


 まだまだ腹の中を明かさない奴だからな。今更な道が変わるわけもないが、何かを企んではいるよな。


「当然。それで私の願いも叶うもの。前提としてちゃんとあるわよ。だけど私はね、常に目指す場所を失いたく無いのよ。掴める物は最高の形で掴み取ってこそでしょ」
「ふん、全く欲深い奴だな」
「当たり前でしょ。私は、神も手に入れようとする女だもの」


 自信満々にそう紡ぐローレ。本当にそうだな。この金髪の美少女は自分さえも利用して、どこまでも高い所を目指してる。それには感服してやるよ。だけどそれを紡ぐ格好は全裸に男に押し倒された状況と、ちょっと間抜けだけどな。
 見つめ合う俺たち。別に甘い雰囲気とかじゃなく、お互いを認め合う視線をかわしてる訳だ。だがそんな感覚を理解出来ない奴がこの部屋に入ってくる。


「ふああ〜、お腹へっ……え?」


 クリエの奴が思考停止したみたいに固まった。さて、どう言い訳をするか大変だな。どう見ても俺は性犯罪者だ。まあ、今更印象なんて−−と、開き直ればいいか! いいか?

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