命改変プログラム

ファーストなサイコロ

後悔をしない為に

 暁の空をバトルシップが優雅に進む。いつまでもあそこに居ても仕方ないから取り敢えず飛び立ったんだ。少し離れると暑い雲もなくなって、青い空が垣間見えて来た。やっぱりこう言う空は綺麗だよ。朝方の澄み切った空に映える太陽の光。うん、そう思える。
 バトルシップの甲板部分はどうやら開閉出来るみたいだね。上に透明な膜みたいなのを張れて、それで雨・風を防ぐ事が出来る様に成ってるみたいだ。だから今は太陽光だけを目一杯浴びる事が出来る。なんだか太陽光を浴びると、体が活性化して行く感じがする。
 目覚めるというか、なんと言うか……取り敢えずそんな感じだ。今までずっと時間の感覚が狂いそうな風の棲家の中に居たからこれで体内時計が正常になるかな?
 そう思って背伸びしてると、お腹の虫が「ぐ〜」と音を立てる。うう……そう言えばまともな食事をずっととってないかも。でも普通はこう言う時ってリアルに戻って、リアルに食事をする物なんだよな。
 LROでの食事もお腹は満たされるけど、体の栄養になるわけじゃない。それを利用して過剰なダイエットをする人達が問題に成ってるわけだしね。だけど今の僕は……


「まあ取り敢えずなんか食べよう」


 余計な事は考えない方がいいよね。ウインドウを開いて、僕は適当に腹が満たされる様な物を探す。取り敢えずシルクちゃんが作ってくれてた、ファーストフードでいいっか。誰かにお腹の音を聞かれて、リアルに戻った方が良いとか言われると面倒だ。
 小さなバスケットにサンドイッチが入ってるから、それを口にいれる。うん、シルクちゃんの手作りだと思うと、一味も二味も旨味が加わってる気がする。てか、ここは最新の魔導機械であるバトルシップの中で唯一の安らぎの場所なのか、緑が多い。
 普通の飛空艇はただだだっ広いだけなんだけど、ここはそこまで広くない代わりに、手入れされてるって感じだ。端っこの方は緑が植えられてて、ベンチもある。花壇も作ってあるし、小さな水の流れもあるんだ。
 どう考えても癒しの空間として設計されてるよ。バトルシップなのにね。いや、バトルシップだからこそ、なのかもしれないか。
 戦いに身を置く物だからこそ、心安らぐ場所が必要だと、そう言う事かも。


「スオウ君」
「!! −−んっぐ……」


 やばいサンドイッチが詰まる……僕は慌てて胸を叩いて流し込む。そしてさり気無くアイテム欄に戻すんだ。


「だ、大丈夫かい?」
「はは、全然へっちゃらです。ちょっとビックリしただけなんで……」


 僕は振り返る前に、口周りを腕で強引に拭う。変なカスとか吐いてても困るからね。テッケンさんは敏いんだ。何がきっかけでバレるか……それにテッケンさんは一番思慮深いし、あんな事があったのに、危険を犯してこんな所まで来てるんだ。
 もしかしたらノーヴィスが危ないって言うのに……そんな彼だからこそ、この事をバラす訳にはいかない。流石にもう完全に取り返しがつかない。それがわかったら、流石に止められるかも知れないからね。それは困るんだ。
 僕は平常心を保ってこう言うよ。


「どうしたんですか?」
「ああ、取り敢えずみんなに報告をしたから。君を無事に見つけたって。みんな安心してたよ」
「そうですか。メール来てたんですね。なんで届かないんでしょうね。僕からは送れもしないし……」


 まさかこれも落ちた影響なのかな? どうやらみんな心配して僕にメールを送ってたらしいんだけど、いかんせん僕の所には一切届いてない。そしてそれを聞いて試しにテッケンさんへ送ってみたけど、どうやら届かないらしい。
 今までは送れば即座に届いてたはずなのに……


「どうしたんだろうね? やっぱり世界に変容が起こってる影響かな? でもそれだと僕達にも起こらないとおかしいとも思えるよね。スオウ君だけなんて……何か最近変わった事はなかったかい?」


 ギクッ−−と頭にそんな音が響く。変わった事ね……やっぱりこれか? 僕だけに影響が現れてるんだから、やっぱりそうとしか思えない。でも言えない。だから僕は首を振るよ。


「そっか……まあスオウ君は色々と特殊だからね。影響を一番受けやすいってだけかも知れないね。取り敢えず無事だったんだから良かったよ。本当に」
「心配かけてすみません。だけど無茶ですよテッケンさん。折角ノーヴィスの為にそっち側に行ったのに、こんな所に来ちゃダメでしょ? テトラの奴に滅ぼされますよ」
「それは大丈夫。まだバレてないよ。それにジッとなんかしてられないよ。それじゃあ自分自身を許せない」
「テッケンさんは生真面目ですね。どうしてそこまでしてくれるんですか? ぶっちゃけ、ここまで付き合う義理も義務もないですよね? 僕といたらゲームとしてのLROなんか楽しめないじゃないですか? 
 テッケンさんが何を夢見てここに居るのかは知らないけど、僕はテッケンさんの夢の邪魔はしたくない。見切りをつけたって良いんですよ」


 前にアギトに頼まれたってのは聞いた。その時にシルクちゃんと約束したとも。だけど二人にだってきっとやりたい事がある筈だ。この夢の世界で夢見てる筈の事。それを蔑ろにはして欲しくない。僕がやってる事に無理に付き合う必要なんてないんだよ。
 だけどテッケンさんは僕を見上げてこう言ってくれる。


「これは僕の夢で願いだよ。僕は誰かの役に立ちたいんだ。だからここに居る。それは誰にも強制された事じゃない。遠慮することなんてないんだよ。悪いなんて思わなくても良い。僕は好きでやってるんだから。
 それに付き合う義務も義理もないなんて酷いよ。僕達は仲間で友達のはずだ。それだけで十分じゃないか。友達が困ってたら手を貸す物だ。それは当然じゃないか」
「テッケンさん……」


 本当に全く……それは当然の様でそうする人なんかそうそういないですよ。


「はは、だけどこれはそんな立派な物じゃないよね。だって僕は僕の願いを叶えようとしてるだけだ。誰かの役に立ちたいっていうね。感謝される事じゃないよ」
「そんな事ないですよ。感謝してもし足りないくらいです。それだけ助かってます」


 やっぱり一人で挑むのと、誰かが居てくれるのは違うよ。心の支えみたいなのが全然ね。一人では行き詰る考えも、誰かがいれば「どうにかなるだろう」位にとどめておける。それって前に進む為には結構重要だ。だから……助かる。本当に。でも良いんだろうか? テトラに挑めるのか?


「大丈夫。変身して挑めば問題ないよ。様は僕だって気づかさなければ良いんだ。それならやれる事はあるよ。今度は最後まで付き合う。その覚悟だよ」


 そう言って上に拳を突き出して来るテッケンさん。ありがたい。まずは一人……だな。僕はその拳に自分の拳を合わせるよ。


「頼みますテッケンさん。実は一人は心細かったんですよね」


 ノンセルスではカッコ良い事を言ってたけど、離れてく皆を見て、不安が募らない訳はなかった。だけど、僕に巻き込んで、それで他の知り合いも仲間もましてや国までも潰させる……そんな事はさせたくなかったんだ。
 僕自身が責められるのはいいよ。これは僕が決めてやってる事だから。だけど他の皆が非難の対象になる事をやらせたくない。そう思った。だけどそれでもこの人はまだ、僕の力になりたいってここまで……いや、他の皆も協力してくれたんだよね。一人じゃない。それを感じるよ。


「一人じゃないよ」
「ああ、そうだな。そいつだけでもない」
 

 リルフィンが横からそう言って来る。どうやら自分も居るぞって言いたいらしい。珍しいな。自分からそんな事をいってくるなんてね。最初は敵だったけど、なんか色々とこいつも変わったよな。今は貴重な戦力だし、ありがたいよ。


「リルフィンは実際、どうしたいんだっけ? 邪魔したいんだよな?」
「なんだかそう言うと小物臭いな……俺は主に自分の考えをぶつけるんだ。俺はあの邪神を信じてないからな」
「そう言えば、そうだったな」


 まあローレの奴もリルフィンの事は放って置いてるよな。何か隠してるっぽいのに、教えないし、そのせいでリルフィンは反抗してる。あいつは自分の召喚獣をどうしたいんだろうな?てか、そう言えば、召喚獣がローレの考えを受け入れてる理由とかエアリーロに聞けばよかったな。
 確かあいつだって知ってる筈だ。今のテトラだけを見てたせいで、過去のアイツの事を忘れてた。いっぱいいっぱいだっただもん。


「お前以外の召喚獣はそんなにテトラを邪神扱いしてないよな?」
「俺は昔の……遠い昔の記憶が抜けてるからな。他の奴等にはそれがあるみたいだが、だがそれがあっても俺はやっぱり反抗する」
「なんでだよ」


 反抗する理由が邪神にあって、それは邪神の事を忘れてしまってる今のリルフィンが『悪』と決めつけてるからだろ? もしも邪神がそれほど悪じゃなかったら、別にローレの考えを改めさせる必要もない訳で、そしたらただの駄々っ子程度まで落ちるぞお前。


「もしもだ。もしもあの邪神が俺が思ってる程、そして言い伝え程に悪じゃなかったとしても、今更俺は引けない。それにこれは許されてるからな。俺はあの人の敵に選ばれたんだ。これは俺にとっても主にとっても、大切な一つの試練なんだよ」
「良くわかんないな? どう考えても内輪で終わる事をわざわざ外に持ち出してる様にしか思えないんだけど?」


 理解に苦しむな。ただのプライドの問題とかの方がわかりやすいぞ。ようは関係を進める為の試練って事か? 


「俺達はまともな主従契約を行ってないんだよ。もっと特殊な事に成ってる。それは枷であり、強みでもあるんだ。他の召喚獣達が契約で出来ない事を、俺はできるからな」
「それが主への反抗か?」


 随分と安っぽいぞ。いや、こっちにしたら戦力増強としてはいいんだけど、それでいいのかな? とは思うんだ。召喚獣ってもっとこう高尚だと思ってたからなんかね。


「そうだな。だがこれはお前が思ってる程にショボい事じゃない。俺達は契約をすれば主の道具でしかない。いくら喋り、その意思を伝えたとしても、主の決定には逆らえないのが、契約を行った我等の定めだ。
 幾ら不本意な事でも我等はその力を行使して、天災クラスの被害を世界に与える事だって出来てしまう。我等の意思を汲むかどうかは全て、その時の主次第だ。だが今回は違う。俺は俺自身が主の抑止力に成れるかもしれない。
 それはお前が考えるよりも大きい事なんだよ。そしてそれは俺自身が主と対等の位置に居れるという事だろう。俺はあの人の隣を誰にも譲る気はない」


 ものすっごく真剣な表情で決めたリルフィン。だけどこれって要約すると「ローレは俺だけの物だ!」って事じゃないか? 召喚獣としてじゃなく、対等な存在として見て欲しいんだろ。いや、わかってたけど、抑止力になれるかな? 
 結局の所、リルフィンの力はローレが握ってる様な物なんだろ。今だって完全体……もとい元の姿になれない様だし、他の召喚獣を自由に使えるローレの抑止力としてはリルフィンは正直弱いよな。


「確かにただの召喚獣って位置にはリルフィンは居ないと思うけど、ローレの奴が自分と対等なんて評価を下すかは正直微妙だろ。あいつは大抵の奴を下に見てるじゃん」


 言っちゃうと、あのテトラだってローレの中で上に居るか微妙だぞ。だってノンセルスではタメ口だったしな。あいつには恐れる物がないのかよって思う。だけどリルフィンの奴は自信満々に含み笑いをみせてこう言うよ。


「ふふ、だが俺は別格だ。俺達の出会いこそ色々と運命だからな。俺も主も、互いに出会って……そこから色んな事が変わったんだ。特別だと、きっとお互いに意識してる」


 う〜ん、なんだろう……初めてリルフィンがちょっと乙女っぽく見えた。寧ろローレよりも乙女してないかこいつ? すっごく色んな夢見てるしな。少女漫画の主役張れるんじゃね? って程に。


「お前とローレの出会いって?」
「他人に話す事ではないんだが……」


 おいおい、ここまで協力しあってるのに他人ってそれはないだろ。すると大人しかったテッケンさんがこう言ったよ。


「そう言わずに、僕も興味があるよ。誰も触れようとしてなかったけど、きっとローレ様のあの姿は君が原因なんだろう?」


 あの姿……というと、モブリの筈なのに何故か人の子供の姿をしてる事だよな。モブリの特徴なんて、耳がフワフワのモコモコに成ってる位しか残ってないからな。実際、あれがあっても、言われないと、モブリなんて思えない。
 いや、宣言されても「そんなバカな」なんだけどね。あんなのアクセサリー程度にだって思えるもんな。まあ今の時期にあんな防寒グッズは無いと思うけど、もうちょっと季節が進めば、きっとLROでも同じようなのつけた人をいっぱい見かけると思うんだ。


「テッケンさんも知らないんですね」
「僕が彼女に出会ったのは、あの姿になった後だったしね。その頃はかなり話題にもなってたけど、領土戦争が終わってからめっきり彼女の姿は見なくなったから、そんな話題はなくなったんだ。彼女自身が身を隠したのも、そこら辺の追求が面倒だったんじゃないのかなって言われてたし」
「でもそれなら、その領土戦争の時に聞かれた筈でしょ?」


 流石にあの姿を誰も彼もがスルーしたなんて思えないんだけど。話題になってたのなら尚更だよね。でも確かノンセルスで代表達はローレのあの姿を知らなそうだった様な……代表同士なら繋がりくらいありそうだけど。


「忘れちゃいけないよスオウ君。ノーヴィスの代表はローレ様じゃない。教皇様なんだ」
「ああ、そう言えばそうでしたね。でもバランス崩しを持ってるのに国を治めてないって珍しいよね? アイリはアルテミナスの実質トップだし、あの人間のおっさんもそうっぽかった。それにウンディーネの人もそうだろ? スレイプルはバランス崩しが無いからプレイヤーが治めてないっていってたし」


 まあ実際はアルテミスには王族が居るらしいんだけど、いかんせんアイリに人気がありすぎて影が薄いもんね。てか、アイリはただのNPCでしかないその人達に実権を譲って貰ってる立場かな? 


「アルテミナスは一つの柱を強固に支える一本の騎士の国だからね。あそこは全てが王の国だ。だからこそ、王族の仲間入りを果たしてるアイリ様は王族として国を任されてる。だからこそ、実質アイリ様がトップなんだよ。独占国家みたいな物だよね。
 だけどノーヴィスは違う。二大政党制だよ。まあそれもちょっと違うけど、ノーヴィスには二つの柱があって、それが支え合って一つの国という形を保ってる。本家の聖院と枝別れた筈だったのに、同等の力を持った星羅。それぞれがサン・ジェルクとリア・レーゼに拠点を置いてるからこそ、ローレ様の星の御子とノエイン様の教皇と言う立場がぶつかるような……そうでないような……なんだか微妙な感じになってるんだよね」
「だけどこの一件が終われば、ローレの奴は国どころか、世界を手に入れるかも知れないんだよな。国なんて一足で飛び越えて世界を取ろうとするんだから、恐ろしい奴ですね」


 考えが飛び抜けてるよあいつは。代表達は少なからずどこかで世界を狙ってそうだけど……どこも踏み出せないで居た感じだと思うんだ。領土戦争が終わった事できっと僕が知らない微妙なバランスをどこもとってたんだろう。
 あれからどこも大きく動けなく成ったんだよね。だけど領土戦争って考えるとサービス開始の最初のドデカイイベントなんだよな。いきなりそんな物を持ってくるって……だってサービス開始から数ヶ月後だよ。まだまだ続ける予定はあった筈なのに、人間関係が色々とギクシャクするようイベントを真っ好きに持ってくるってある意味凄いよね。
  そう言うのってある程度慣らしておいて、そして人も増えた所で目玉の追加要素とか銘打ってやる物じゃないの? あんまり詳しくはないけどさ、始めら辺にやる物ではないよね。誰も彼もが領土戦争を過去の事と捉えて話すから「そうだったんだ〜」位で聞いてるけど、おかしいよね。


「はは、確かにおかしくはあったよね。いきなり種族間で戦争可能ですってアナウンスされるんだから、ビックリだったよ」
「アナウンスの後にいきなり?」
「いや、そうじゃなくて、それは予告だよね。この日から、こういう事もできる様になります〜ってね。そしたら明らかにピリピリした感じにはなったよね。自分の種族以外は信じられない……みたいな。現に嘘か本当かわからない噂も戦争が始まる前から流れてたよ。この種族が、別の種族を集団リンチとか」
「その頃には入らなくて良かったかも知れないですね」


 僕は素直にそう言うよ。だって実際、マジ戦争してたわけだろ? 無理無理、やってられないよ。だって今はそんな事気にしないでいいもんね。普通にどの国にだって、色んな種族が行き来してる。でもそれも実際数ヶ月前までは出来なかった……とは考えられないよね。別のゲーム? とか思っちゃう。


「でもそう言えば映像をみせて貰った事がありましたよね? ローレが召喚獣を使ってる奴。あれも戦争の時だった筈ですから、リルフィンと出会ったのは戦争前?」
「そうだな。実際、主と我等が居なければノーヴィスはどうなってたかわからないぞ。主が俺を見つけた事でその資格を得て、彼女は星の御子になったんだ。そうでなければ、世界の標的はノーヴィスになっててもおかしくはなかった」
「確かに……確か最初はアルテミスにはバランス崩しもなく、統率も何もなかったんだよな。デカく古いだけの国……そこを狙われたって言ってた」
「だけど途中でバランス崩しと共に、カリスマが現れて滅びは回避した。アイリ様の人気は盤石だよ」


 確かにそうだね。そう言うと本当ただ者じゃないよ。あんまり頼もしい印象は僕にはないんだけどね。普通に可愛いお姉さんって感じが強い。んで、なんでローレはあんな姿なんだ?


「歴代の御子の写真が飾ってある部屋がリア・レーゼにはあるけど、みんなモブリだったと記憶してるよ。ローレ様みたいに姿が変わった写真はなかった。どういう事なんだい?」


 僕達はリルフィンへ視線を向ける。ローレの謎を解き明かして何がどうなるかなんてわかんないけど、少しでもあいつの力を防ぐヒントがどこかにあるかも知れない。テトラやシクラ達も問題だけど、ローレの奴も大概だからな。
 召喚獣はハッキリ言って強力過ぎる。それに儀式の場所はきっとあいつが教えてくれた場所だろう。そうなると、ローレの力もきっと万全だ。対策はどうあっても必要だろ。だからこれからの為にどんな情報も必要なんだ。出し惜しみなんかさせないぞリルフィン。


「言っただろう、俺と主の契約は特殊なんだ。きっとそれが関係してる。俺は力を無くして森に倒れてた所を主に拾われた。その時は主もただのモブリに変わりはなく、俺は小さな子犬だったよ」
「そこで契約をしたのかい?」
「いや、そもそも俺が召喚獣……精霊だとは気づく訳もない。主はただ見捨てれずに俺を抱えて出口を目指してくれた。だがそこは結構危険な場所だったんだ。戦闘タイプじゃない主一人にはキツイ場所だ。それでも主は俺を囮にする事も投げ出す事もしなかった。
 俺も無力だったが、加勢したよ。一人守られてる訳にはいかないからな。夢中だった。気付いたら、森を抜けてそこで俺達は友達の証を交わした。きっとそれが原因だな。俺達の契約は成立し、主には俺が元に戻る分の力が均等に流れる様に成った。
 その影響で主はあの姿に変わったんだ」
「へ〜」


 案外良い馴れ初めだな。もっとこう、騙し騙されがあるのかと思ったら、なんて真っ直ぐに行動を起こしてるんだよ。そんなの僕の知ってるローレじゃない。様は普段からリルフィンに流れる筈の力を貰ってるから、ローレはあの姿に成ってるって事か。
 でもそんな事があり得るのか?


「あり得てるのだから、あり得るんだろう」
「確かにそうだね。現にローレ様がああ成ってるんだから納得するしかないよ」
「思ったんだけど、あの姿になってローレにはメリットがあるのか? 力が強まったとか? もしもそうなら、全部の力をリルフィンに戻す事で、あいつを弱体化できるかも知れない」


 うん、可能性はあるよな。どうなんだ一体?


「どうなんだろうな? 見た目意外に何が変わったとかは主も実感はしてない様だったが? いや、もしかしたら、我等召喚獣と心を通わせ易くなってる……のかもしれんな。主を見てたら思わんだろうが、実は召喚獣・精霊は畏怖の対象でもある。それを従える事が出来るからこそ、星の御子は敬まれたんだ」
「なるほどね。でもそれじゃああんまり意味はないよな。何かもっと他にないのかよ? 召喚獣の事でも、ローレの弱点でもいい。寧ろテトラの事ももっと思い出せ! そもそもなんで精霊のお前が子犬になって倒れてたんだよ?」


 そこが謎だろ。何があったんだ? だけどリルフィンは肩を竦めてこう言うよ。


「思い出せん。だが、そんなのはどうでも良いんだよ。ああなってたからこそ、俺は主に出会えたんだ。過程なんて些細な事で、俺にとってはその結果が何よりも重要だ。それにテトラの事は世界中の国を回れば、其れなりの資料は出てくるだろ」
「お前な……まあ二人の関係はどうでもいいとして、資料ね」


 それにどれだけの価値があるのか今は疑わしいだろ。やっぱりエアリーロに聞くべきだった。なんてたって当事者だろ。資料を集めるよりも信憑性がある。だけどあんな別れしたのに、また戻るのは……それに今度も手を貸してくれるかは正直わかんないよな。
 そもそもローレに口止めされてるっぽいし……やっぱり自分達で調べるしかないか。夜までまだ時間はある。やれる事を全部やらないと、後悔が残るからな。


「どこが一番良いいんだろう? やっぱりノーヴィス?」
「そうだね。サン・ジェルクには古い資料もいっぱいあるだろうし、リア・レーゼにも神関連の物は沢山あるよ。どっちに行くにしても、この二つの街はやっぱり外せないかな」
「そうですね。よし!」


 僕達は方向を定める。目指すはノーヴィス魔法の国だ。ここからなら結構近いな。やっぱり始まった場所に帰る事になる様だ。そして終わりもきっとこの国になる。

コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品