命改変プログラム

ファーストなサイコロ

花の城 2

   いたたまれ無い空気がこの場を支配してる。シクラのふざけた言葉に僕達は何も返せ無い。実際彼女に突っ込みを入れられるのは同じ姉妹か、セツリちゃん、それとスオウ君位だよ。僕達は実際、そんな気軽に接せれ無い。
  だってリルフィン君や僧兵のみんなはともかく、僕は……僕だけは彼女の危険さを知ってる。あの煌めく笑顔の裏には神とだって渡り合う強さがあるんだ。直接まだ戦ったわけじゃないけど、その強さはみんなも目の当たりにしてるからこそ、緊張に苛まれてるんだろう。
  なんだか彼女は突っ込み待ちみたいに目をパチパチしてるけど、その期待には誰も答えられないよ。


「全くつまんな〜い。どうしてだんまりなのよ? 私がとっても冴えた事言ったんだからもっとリアクション取ってよね。あっ、それとも見惚れてたとかかな? それならまあ許してやってもいいかもだぞ☆」
「「…………」」


  前かがみになってウインク際にピースまでしてるシクラ。でもやっぱる僕達はなかなか言葉を出せないでいる。そもそもなんて言えば良いんだろう? いきなりでそんな気さくにこられても正直困るよ。僕達は敵同士だろう。
  その大前提は彼女の中でどこにいってるんだろう?


「どうして何も言わ無いのよ? それじゃあコミュニケーションは取れないぞ。私はどんな相手にだって一歩を踏み出す勇気が大切だと思うな☆」


 一歩を踏み出させ辛くしてる張本人が良く言う。自分がやって来た事を振り返って貰いたいね。誰だって警戒するよ。でも実際、このまま睨み合いをしてるわけにもいかないのは事実だよ。まだ友好的に接してくれてるからいいけど、このままじゃイライラさせかね無い。
  このメンツじゃどうあがいてもシクラには勝てそうもないし、それにどうやらここは彼女達の拠点みたいだ。さっきの巨乳のお姉さんもシクラと同類なら、他の姉妹だってき−−−−


「何を悠長にやってるシクラ? こいつらはこの場所の存在を知った。さっさとコードを奪って消すべきだ。奴を呼び寄せろ」


  凛とした厳しい声。振り返るとそこには胸にサラシを巻いて、下は剣道の袴みたいな物を履いてる女性が何時の間にか居た。髪は黒なんだけど、毛先の方は紫っぽく色が変わってる? 大きなリボンでポニーテールにしてるのが特徴的。あと、剥き出しの肌には何か青い模様みたいな物がわずかだけどみえる。それに何故か片目を頑なに閉じてるよ。
  この人もシクラと同類なんだろう。聞いたことある声だ。あのアルテミナスの地で。


「蘭姉はせっかちね☆」
「せっかちだと? 姉に向かってその言葉はなんだシクラ!」


  なっ、なんだかとっても迫力がある人だ。てか最初から交戦態勢だし、これは不味いよ。更に下手に動けなくなった。きっとあの蘭と呼ばれた女性もチートな性能がある筈だ。それに奴って一体?


「だってそうじゃない? いつだって出来る簡単な事を、切羽詰まったみたいに慌ただしくやるなんてせっかち以外の何物でもないんじゃないかしら☆ 」
「いつだって出来ると思う事が、本当にいつだって出来るとは限らんぞシクラ。姐は手を下せる時に確実に手を下すタイプなのだよ。それがセツリ様の為に成る。お前は不確定要素を楽しみすぎる」
「ふん……まあ、それは否定しないけどね☆」


  後ろの人はどうやらかなり真っ直ぐで生真面目な方の様だ。まさにその格好通りに武士みたいな感じだね。一方シクラはいつだってどこかフワフワした感じで掴みどころがない。両者が相入れ無いのは仕方ない事なのかもしれない。


「わかったのなら、さっさと奴を呼び戻せ。あいつはお前以外のいう事は聞かんだろう?」
「別に私のいう事も聞いてるわけじゃないのよねあれは。でもまあ他の誰かよりは、確かにこの私よね☆ でも残念。この程度でノリノリでコードを集めてるあいつをわざわざ戻せないわ。だってもうすぐ……なんだもの」


  なんだ? なんの話をこの二人はしてる? 僕達を挟んで、まるで僕達が存在して無いかの様な自然な会話だ。でも実際、彼女達の眼中に僕達は無いのかも知れない。僕達はただここに居る石ころと同義なのかも……彼女達にとってはきっとその程度だ。


「じゃあ、どうするんだ? 私が食っても良いのか?」
「だからどうしてそう物騒な方に言っちゃうかな蘭姉は?」
「ではどうする気だ? どうせまたおかしな遊びをやる気だろう? 言っとくがこれ以上お前の好き勝手にはさせないぞ。姉達がいるのだ。妹は出しゃばり過ぎるな」


 妹……なのか。シクラの態度見てると全然そんな風に見えないから、違和感しか無い。


「姉や妹なんてただの設定でしょ。まだ目覚めて間もない人に何がわかるのかしら☆」
「何!?」
「蘭姉は頭が固過ぎなのよ。せっちゃんの為にやれる事は邪魔者を排除するだけなの? それなら獣じみたあいつと一緒じゃない☆」
「きっさま!! 幾ら妹とてその侮辱は許さんぞ!!」


   ど、どうしよう。なんだか兄弟喧嘩が始まってる。今もしも技を打ち合ったら、丁度僕達に当たるんじゃ無いのかな? それはとってもまずいよ。だけどこの二人をどうやって止めるかも全然思い浮かばない。
  てか、なんで喧嘩なんか……相性悪そうとは思ってたけど、ここまでとは。どうやらシクラはシクラで、さっきの蘭姉さんの発言が気に入らなかったみたいだね。なんだかそこから少し空気が変わった気がする。
  あのお姉ちゃんを押し付けるみたいな言い方で、自分の頑張りが否定されたみたいに感じたのかの知れない。


「覚悟はできてるかシクラ? 謝るなら今のうちだぞ」
「謝る? 何に対してかわかんないかな☆」


  やばい、周りの花が二人から吹き荒れる風で、激しく靡いてる。このままぶつかられたら、間違いなく僕達にもとばっちりが来そうだ。


「やばいな。ここから離れた方が良さそうだ」
「それはそうだけど……それが出来るか問題だよ」


  リルフィン君の言葉に僕はそう返す。だって僕達はバッチリと彼女達の視界に入ってるからね。無視してくれるだろうか? 蘭姉と呼ばれた彼女の肌の模様がさっきとは違って、なんだか紫っぽく輝いて光の粒子を出してる。
  あれが彼女の戦闘態勢なのだろうか? 一方シクラは別段変わった様子はない。気に入らない事はあるけど、姉妹とは拳を交わせないタイプなのか? それともやっぱりただの余裕?


「姉相手にその態度。少しお灸が必要だと思ってたぞ」
「私に対して何にお灸するのかわかんないんだけど? 私はただ、猪突猛進なだけじゃダメだって言いたいのよ。蘭姉は真っ直ぐで誠実だけど融通がきかな過ぎ。それって本当は自分だけが大好きだから出来る事じゃない? 
  ねえ、蘭姉はちゃんとせっちゃんの事考えてる? 私はせっちゃんの為なら自分だって曲げられる☆」
「私の忠誠心が温いとでも言いたいのか?」
「ああ〜、忠誠心……なの? 蘭姉のせっちゃんへの思いって?」


  忠誠心……その言葉を聞いた瞬間、シクラの反応がちょっと変わったみたいに見えた。思ってた事と違ったのかな?


「騎士道精神も武士道も、自分が見定めた主に一生の忠誠を誓うのは当然だ。その美しさが私とセツリ様の絆なんだ!」
「蘭姉のそれはやっぱり自己満足だよ。せっちゃんの気持ちが全然わかってない。そしてマスターの気持ちも理解してないね」
「何を妹の分際で知った口を……私達はセツリ様の夢を支える為に生み出された存在だ!! 先に目覚めて、気が狂ったかシクラ?」
「寝過ぎてまだボケてるんじゃない蘭姉☆」


  蘭姉さんの模様が掲げた腕の先へと昇ってく。なんだかそれが剣にみえる様な……あれ自体が武器なのか? そしてここまで来てようやくシクラもやる気になったのか、背後に絵の様な翼が描かれて行く。


「これで私が勝ったら、二度と口答えはさせん!」
「出来るかな? 私の三十五戦三十五勝中だけど☆」


  蘭姉さん負けすぎだよ。良くそれだけ挑んだね。寧ろそこまで挑んで、まだシクラを妹扱いしてるのが凄いよ。


「じゃんけんや睨めっこなどの下らん勝負の数をいれるな! お前の身勝手なルール設定の遊びも対象外だ! 純粋な力での勝負はこれが初めて……姉の威厳を教えてやろう!!」
「いつだって勝負は勝負だ! って言ってる割には小さいよね☆ それに力でもきっと勝てないよ」
「抜かせえええええええええええええええ!!」


  咆哮と共に、吹きすさぶ風が更に開放されて、掲げてた両手の先の光が一気に弾けた様に見えた。そして次の瞬間、振り下ろされた巨大な刃が僕達の頭上に降ってくる。ほら、やっぱり。やっぱり僕達は完璧に巻き込まれてる!
  目の前が真っ白になって行く。慌てて逃げ出そうとしてる僧兵君達。だけど今からじゃ到底間に合わない。どうにかしてはじき返す術を考えようとするけど、だめだ……スケールが違い過ぎて頭が回らない。
  シクラはこれだけの攻撃をどうする気なんだ? 防げるのか? それとも避ける? でも避けてしまったら僕達が消滅しそうだよ。


「「「うああああああああああああああああああああああああああ!!」」」


  僕達はただその場でそう叫ぶしか出来なくなってた。近くのリルフィン君は大きく息を吸って上体を反らしてる。一体何を? そう思ってると、落ちて来てた光が動きを止めた? すぐそこに迫ってたのに、落ちてこない。
  視線を前へ向けると、シクラがその手を掲げてる? どうやら片腕で支えてるらしい。なんて桁違いの姉妹なんだろう。すると今度はリルフィン君がその貯めていた空気を吐き出す様に光に向かって吼える。
  彼の咆哮はこれまで幾つかの能力を無効化してきた。きっとそれをリルフィン君も狙ってたんだろう。だけど彼の咆哮は光に何の影響も与えない。


「なっ!? この状態じゃ強制力が弱いか……」


  強制力、本当にそうなのかな? 確かに元の姿のリルフィン君の咆哮ならもしかして……いや、やっぱりどうだろう。なんだかこの姉妹の攻撃とかは消せるのか疑わしい。聖獣の攻撃には効果あったけど、この姉妹はどこまでこのLROに縛られてるのかわからないからね。
  LROに存在してる以上、多少はLROの影響も受けてる筈だろうけど……基本なんでもありにしてる奴等だ。生半可な技は通じない。


「と、取り敢えず逃げましょう! 今ならあの二人は身動き取れないでしょうし!」


  僧兵君が必死にそう言ってくる。確かにそうだね。今なら二人とも固定されてる。今が絶好の好機だ。邪魔に成らない場所まで僕達は離れたいんだ。そうできたら、後は勝手にやって貰って構わない。潰し合いなら都合いいしね。
  僕達はこの場からの離脱を試みる。


「大口叩いた割にはこんなもの? 中々軽いよ蘭姉☆」
「だろうな。これはあくまで下準備に過ぎないんだ!!」


  そんな言葉と共に、シクラが触れてる光が、蘭姉さんから離れて、シクラの事を大きく包み込む。コソコソと移動してる訳だけど、二人を注視してると、歩みが止まりそうになるよね。欲深い事なんだろうけど、いずれ僕達はこの存在と戦う事になる。
  だからこそ、今この場で戦闘が観れる事はある意味でラッキーかもしれない。誰も彼もが反則的な強さを誇る姉妹だ。けど、初見じゃなければまだ対策は取れる。その為にも見ておきたいって心理がどうしても働くよね。勿論巻き込まれない所で高みの見物が理想なんだけど……近くで見た方が得れる物があるときもある。
  でも流石にそんな余裕を持てる相手じゃないからね。下手すればこっちが殺されかねない相手だ。注意しながらもやっぱり離れて安全を確保するのが大事。


「これは……何? 変な気持ち悪さがあるわね」
「シクラ、もうこれが本当に最後で最後のチャンス。謝るなら今のうちだ」
「だから、何に対してかわかんないんだって☆」
「そうかそうか……残念だ。これを成した時点で私の勝ちだというのにな。これからは姐の言う事を素直に聞く妹になれよ」
「負けたらね☆」


  あくまで余裕を崩さずにそう告げるシクラ。だけど蘭姉さんもシクラを自分が振り下ろした光で包んでからは勝利宣言と共に、余裕がみえる。


「負けるさ。知ってるかシクラ? 相手を知り、己を知れば、百選危うからず−−って言葉を」


  そう告げると、クリエを包んでた光が幾つもの帯へと変わり、蘭姉さんの元へと帰る。そしてその帯は大きく広がり何かを召還し出した? いや、あの帯自体があの武器に変わったのかも知れない。それは大きく機械的な銃……いや、銃じゃ片手で扱えそうだね。
  あのサイズは銃と言う言葉ではくくれないかも知れない。何とか持って扱えるみたいだけど、本人よりも随分大きい。トリガーは下じゃなく上についてて、両手で持つ為の取っ手もある。遠距離を精密射撃するライフルも長いんだろうけど、きっとそれよりも長くて大きいよ。
  銃の先までその厚みも殆ど変わってないもん。普通のライフルとかは細く成ってるだろうけど、本体部分と変わらない太さはある。だけどその先の先端は平べったく細長い板が上下についてるね。色はベースが黒で所々に紫。どうやら彼女の髪の色と同じみたいだ。
  てか、サラシ晒して、袴履いてる彼女には似つかわしくない武器の様な……どう見ても薙刀の方が似合うと思う。だけどその手にしてるのは、近代兵器を通り越した、近未来兵器みたいなのだ。


「それが私を知った結果の選択肢?  じゃあ蘭姉には私の座右の銘を教えてあげるよ。それはね、人生楽しんだ者勝ち☆ だよ」
「ふん、ならせいぜい今からの状況を楽しんでみろ!!」


  トリガーを押し込むと、先端に紫色の光が集まり出す。そして指を離すと轟く咆哮と共にエネルギー砲みたいなのが射ち放たれた。強力そうな砲撃。だけどそれをシクラは難なくかわす。てか、今更な攻撃の様な気がする。シクラなら避ける。それが想像に難しくない攻撃のはずだ。


「やっぱり大口の割にはショボい攻撃ね−−って、ああそう言う事」


  冷静にそう言うシクラは、避けた筈の砲撃をもう一度避ける。だけど更にそのエネルギー砲は旋回してシクラに迫る。どうやら追尾機能でも付いてるみたいだ。だけどそれも特段目新しいって事ではない。
  上級者の弓術スキルにも同じ様な物はあるからね。まあ威力が段違いそうだけど。普通はああいう複雑な機能をつけたら威力がある程度なのを覚悟しないといけない。でもあの砲撃は威力もありそうで、しかも追尾機能まである。僕達に向けられたらとても厄介な代物だ。
  だけど同じチートな存在のシクラはそれを驚異とは思ってない様子。けどそんな余裕を見せるシクラを追い詰める為にも、蘭姉さんは続け様に数発のエネルギー砲を発射する。


「あれは……嫌味な事をするなあの女」
「どう言う事だい?」


  リルフィン君が言ってる事の意味がわからない。別に数発加えるのは普通だと思うけど。


「そこじゃない。嫌味なのは追加した砲撃のスピードだ。それぞれシクラを追い掛けるスピードが違う。あれじゃあ避けてる方は感覚が狂うだろう」
「なるほど」


  確かに極端に速いのもゆっくりなのもある。ゆっくりなのは一見避け易そうだけど、速いのに慣れてる時に不意にああ言うのが加わって来ると、リズムが狂うんだよね。結構あの人も意地悪い事をするんだね。
  そしてそんなリルフィン君の見掛け通り、感覚が狂わされたのかまんまと直撃コースにシクラと砲撃が重なる。だけどそう成ったらシクラの決断は速かった。悠長に避けてるのがしょうに合わなかったのかも知れないけど、一気に砲撃を無視して狙いを蘭姉さんに絞った様だ。
 迫ってたきてた砲撃の一つとぶつかる寸前に一気に加速してスレスレでかわし、真っ直ぐに蘭姉さんを狙う。けど向こうもそれを見越してたのか、迫って来るシクラに対して目一杯貯めてた砲撃を射ち放つ。
  空気が震えて、紫色の光が強く輝く。それに突っ込むシクラ。打ち破って目前に迫れる自信がきっと奴にはあった。だけど次の瞬間、響き渡るはシクラの悲鳴だった。


「きゃああああああああああああああああ!!」


   光の中から投げ出されるシクラに更に先程から放たれてたエネルギー弾が迫る。シクラは落ちながらも全身を包む様な障壁を張る。だけどそれを素通りしてエネルギー弾はシクラへとぶち当たった。


「なっ!? 通り抜けなかったかい今?」
「確かに、そう見えたな」
「そのせいでその前の砲撃に押し戻されたって事でしょうか?」


  そうとしか考えられないよね。シクラは防ぎ切る自信があった。だけど何故かわからないけど、シクラの障壁はあの砲撃の前には紙以下の防御力でしかなくて、その結果あの様……シクラはお花畑にドサッと落ちてくる。


「ど、どう言うことなんだろう? 私の障壁が役に立ってないんだけど……」
「さあな、参ったと言えば教えてやるぞ!」


  そんな言葉と共に、追い打ちを掛けて来る蘭姉さん。だけどそれを一気に上空に飛び上がり避けるシクラ。いっぱい食らった割には結構元気−−ってわけでもなさそうだ。背中の翼がボヤけてる。追い掛けてきてた砲撃をその月光色の髪ではじき返そうとする。
  けど今度はその髪が逆に燃えた。


「ちょ!? 私の自慢の髪が!」
「早く降参しないと丸坊主になるかも知れんぞ」


  強い。あのシクラがここまで押されるなんて想像も出来なかった。あれが姐の威厳。けど髪を燃やされた事で、シクラの雰囲気が変わる。


「あ〜あ、流石の私もプッツンしちゃうよ蘭姉☆」
「本気で来い。遅いがな」


  するとシクラは手を地面の方にむけて大きな魔方陣を展開する。すると足下に咲いてる花が一斉に輝きを強める。


「百花−−」


  そんな言葉が紡がれると同時に、花びらが一斉に舞い上がる。


「−−繚乱!!」


  花びらの竜巻。それが一気に蘭姉さんを包み込む。やっぱりなんて奴だシクラは。こんな魔法を一瞬で……詠唱をどう省いてるんだ? アルテミナスでメテオを使った時もそうだ。あのクラスの魔法を腕を突き出すだけでやるなんて、反則すぎる。
 いや、そもそも魔法の括りなのかも疑わしいかも知れない。
  

「これ、どっちが勝った方が居んだろう?」


  隣の僧兵君がポツリとそんな事を言う。難しいけど、一応僕達を泳がせる気でいるシクラ……の方が良い気はする。蘭姉さんじゃ直ぐに殺されそうだ。でもこれで勝負は決したか? そう思ってたら、花びらの竜巻に一つの剣尖が鋭く光った。
  そして次の瞬間、回転は止まり、花びらが空中に散り出す。そんな中に凛と佇んでるのは、大きな一振りの大剣を握ってる蘭姉さん。おいおい、武器が変わっちゃってるよ。機械的で大きくて、そしてやっぱり黒い。


「言っただろう。今や私に、お前のどんな攻撃も効きはしない!」


 一歩を踏み出し、大きくその剣を一振りのすると、激しい風が吹き荒れる。そしてその風がシクラの体に傷を作る。赤い血が弾け飛ぶ。今更だけどこの姉妹……本当に殺しあってないかい?


「はは、だんだんわかってきたわ蘭姉のその力の正体。私の技は全て通じないか……面白いじゃない☆」


  そう言ってシクラは自身の口元にあった血をペロリと舐めとる。この状況でもあいつはまだ楽しんでそうだ。異常だね。二人は睨み合って、次のデカイ一撃の用意をしてるみたいだ。蘭姉さんは気付いてるか知らないけど、空のかなり上の方に、いくつもの複雑な魔方陣が見える。そして彼女の方はそのドデカイ剣に光の帯が溢れてる。


「なんでこんな事になってるんだろう……」


  僕は素直に疑問を口にした。スオウ君を探してた筈なのに、どっかの頂上決戦に出くわしてるよ。だけど誰もが思ってた事だったのか、みんなただ固唾を飲んで見守るだけで、何も返してくれない。すると何処かから女性の声が聞こえた。


「本当にどうしてこんな……お姉ちゃんは悲しいです」
「「「え?」」」


  みんなで一斉に振り返ると、そこにはさっき泣きながら走り去った女性がいた。巨乳の。でもジャージだ。だけどそのジャージが妙に小さくてムチムチの体がパツンパツンしてる。髪は胸まであるドリルがいっぱい。
 顔だけ見れば貴族風のお嬢様なんだけど、どうみても格好がおばさんだよ。髪型にあってない。どうせならドレスを着た方がいいと思う。てか、なんで泣いてるの? 


「すみません皆さん〜。粗末な妹達は私が今止めますので〜」


  そう言って彼女は胸を揺らしながら進み出る。でも一体どうやって? 緊張しながらみてると、彼女は足下の花にでもつまづいたのか、顔面から地面に転ぶ。お尻もかなりエロいね。そんな事をやってる間に、雲行きは変わり、変な空間が空には空いちゃってる様に見える。そして蘭姉さんの剣は禍々しくその形を変えてた。
 地面を蹴って蘭姉さんがシクラに迫る。それと同時に、シクラも空の魔方陣を発動させる。この空間全てを埋め尽くすほどの圧倒的な光が降り注ぐ。巨乳のお姉さんは急いで立ち上がり走り出す。


「やめなさ〜〜〜〜い二人ともぉ〜〜〜〜〜〜!」
 

    そんな弱々しい声が響く。だけどその次の瞬間だった。自分が今まで見てた物は幻覚だったのかと思う程の光景が目の前にはあった。咲き誇る地面一面の花に、日の出始めの空の色。そして向かいあうシクラと蘭姉さん。少し前の光景と全く同じ? 一体何が起きた?
 するとそこにイレギュラーが一人、パンパンと手を叩いて現れる。


「もう……姉妹で喧嘩はいけません。もっと仲良く百合百合しましょう〜〜ね!」

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