命改変プログラム

ファーストなサイコロ

種を巻きたい 3

   先に行ってくれた聖典の報告を待ってクリエはちょっとずつ動くよ。セラのおかげでこの建物の構造がわかったのも大きい。今までどれだけ闇雲だったんだよって言われそうだけど、クリエはここには始めて来たんだもん。
  しょうがないよ。地図なんて貰ってないしね。ハッキリ言って自分がどこに居るのかさえ分かってなかった。


【彼女はなかなかに素晴らしい才能を持ってますね】
「セラの事?」
【ええ、聖典を使いこなしてるのがわかります。余裕も感じられますし、相当の使い手ですね】
「そうだよ。セラはい〜〜〜っぱいの聖典を一度に使うんだから」


  なぜかクリエが得意気にそう言ってあげる。なんだか自慢したかったんだもん。他人の事で得意気になれるクリエちゃんなのだ。


【いっぱいですか。具体的な数字は?】
「え〜とえ〜と、両手じゃあ足りないくらいだよ!」


  指を何回も折ってやってたけど諦めた。算数は苦手なの。


【それは十以上ってことかな? 微笑ましいですねクリエは】
「か、紙に書けばクリエだって数くらい数えられるからね。クリエの手が十までしか数えられないのが悪いんだもん」
【そうですね】


  むむむ、彼女はクリエの中でにっこにっこしてるよ。別にバカにしてるとかは感じないけど、なんだかこそばゆいんだもん。反抗したくなっちゃう。


【ですが十以上とは凄いですね。感服する数字です。頼りになる筈ですね】


  なんだか納得したみたいな彼女。でもでも今のままじゃ不便な所もあるよね。ちょっとした事だけど、どうにか出来るのならどうにかしたいよね。−−って事で言ってみる事に。


「ねぇねぇ、確かにセラの協力でやり易くなったけど、いちいち見て来て貰うってなんだか悪いよね? 電話みたいにやり取り出来ればもっと便利になると思うんだけどな?」
【確かにそうですね。ですが道具も無いですし、クリエにはその知識もないでしょう?】
「お、教えてくれれば良いと思うな!」


  その選択肢は彼女にはないの? クリエだって言われた事をするくらい出来るよ。てかさ……


「そういえばクリエの代わりに前に出ること出来るんだから、寧ろやってくれても良いよね?」


 その手があるじゃんだよ。なんでやってくれないの? それで一発解決だよ。カーテナに何かする時、前に出てたし、出れない訳ないし、魔法だって使えるのならそれで良い様な?


【確かにその方法はありますね】
「だよね! だよね!」


  クリエは責める様にそう言ってあげる。だってだって彼女が前に出てくれればもっと色々と出来る筈なんだよ。


【だけどクリエ、それはダメです】
「なんでなの?」
【言ったでしょ? 力を使いすぎるとテトラに感付かれる可能性があるの。それは避けたいわ。警戒も嫌なの。今の私じゃこの世界に存在してるテトラには及ぶべくもないのだから。私と言う存在は匂わせてはいけないの。
  クリエの願いが叶わなくなるかもしれないわ】


 むむむ、それを言われるとクリエは何も言えなくなるよ。でもでも今の段階でも叶わない可能性はとってもおおき……これは言わない方が良いよね。スオウはまだまだ頑張ってくれてる。離れちゃったみんなだって本当はクリエの為に一生懸命な筈だもん。
  言い出したクリエがもう一度真っ先に諦めるなんて出来ないよね。


「それじゃあ、仕方ない……かな」
【ええ、それに実はそこまでの干渉はしたくありません。あくまで行動をするのはクリエでないといけない。そうでしょう? 貴女の願いなのだから。誰かの後を追い掛けるんじゃなく、自分でやる事に意味がある。私はクリエのお手伝いをしてるだけ。
  それを忘れないで。自分でやらないで良いのは簡単かもしれないし、楽でしょう。だけど自分が本当に望む物は自分の手で手に入れてこそ、その価値が本当になるんです。わかりますか?】
「……なんとなく」


  シスターも同じ様な事いってたしね。前にも『どんな協力を受けたって−−』って思い出したけど、今クリエが求めたのは協力じゃないって事なんだよね。クリエは楽をしようとしたって事。あくまで彼女はお手伝いしかしてくれない。
  クリエが自分で彼女の望んだ状況を作らないと、何もしてくれないんだね。それはお手伝いの範囲なんだ。なんだかアイテムっぽいよね。ちょっと特殊なアイテムって感じ。でもそれがお手伝いの範囲なら仕方ないのかも。
 そう、だってこれはクリエの望み。クリエが言い出した事。クリエがみんなを巻き込んだ。クリエはずっと思ってたもん。守られるだけじゃ嫌だって。クリエは自分の頬っぺを叩いて喝を入れるよ。パン!! と乾いた音が石造りの通路に響く。


【クリエ?】
「大丈夫。ちょっと目を冷ましただけだよ。クリエは自分でやってみる。だからモシモシする方法教えて。セラが戻ってくる前にやってみたい」
【そうですね。そこまで言うのなら、協力しましょう。取り敢えず直接掛けるのはクリエの年齢や技術的に心配なので、補助が欲しい所ですね】
「補助? さっきいってた道具? 直接掛ける事は無理ってなんでなの?」


  ??がいっぱい出てくる。魔法の事は聞きたい事が一杯だよ。ほんと、今までまともに向き合ってなかったツケだよね。


【クリエは自分の魔法が危ない事をわかってるでしょう? だからですよ。自分の魔法に自分は耐性がありますからドッカーーンとなっても大丈夫でしたでしょうけど、他の人はそうはいかないです。ましてや今魔法を施す相手は聖典です。これも結構特殊なんです。ですから危険はなるべく排除したい。
  こんな所でドッカーーンとなろうものなら、直ぐにでも兵隊が駆けつけますよ】
「確かに……それは不味いかも。でも道具があればなんとかなる物なの?」


  クリエは道具ってのが良くわかんないよ。あれかな? 魔法の杖とか、薬品とか、身近な所で言ったらお札? かな。


【お札は良いですね。補助はその通りに、魔法発動の手助けや簡略化に使える道具です。お札に描く文字は力の発動の形を示してくれてます。ですから簡単に誰もがその魔法を使える。詠唱も必要ないですしね】
「なるなる。確かにそう聞くとお札って凄いね。魔方陣とは何か違うの?」
【魔方陣の中心核はその人の先天性で決まり、色は属性を示します。形はより複雑な魔法を使うとなれば二重・三重の術式を重複させる事で変わって行くので、あれはリアルタイムの思考が必要です。まあ使う側は意識はしてませんが、詠唱がその魔方陣を構築して発動まで導くので、詠唱も魔法発動の簡略化の手段の一つなんですよ。
  ですがそれはクリエには厳しいでしょう?】
「た確かにちょっと長いのは無理かな。でも詠唱も面倒だなって思ってたけど意味があるんだね」
【当然です。一言一句に力を導く道が示されてるんです。だからこそ、判定もシビアなんです】


  あれってちょっと噛んだりすると直ぐにリセットされちゃうんだよね。クリエみたいな小さな子には絶対に不向きだと思うんだ。だってまだまだクリエは舌足らずな所あるもん。全部お札で出来れば詠唱もいらなくてモブリがもっと強くなれると思うんだけどな。


【お札に込められる魔法は単純な物しか出来ないのですよ。初歩の魔法程度です。どうやら意識を通さない魔法使用には指向性が単純方向に流れるみたいですね】
「えっと、指向性? 単純方向?」


  良くわかんないよ。つまりはお札には簡単な魔法しか込められないって事だよね。まあ前にも誰かがそんな事は言ってた気がしなくもないんだけど。てか、売店で売られてるって事はそんな物……なんだよね。
  便利は便利なんだけど、切り札にはなり得ないって感じだね。


【難しかったですか? ようは大きく強力な魔法はお札では発動出来ないんです。それでもやり方は色々と模索したんですけどね。可愛い子達に不便はさせたくなかったですからね】
「それで見つけたの? あっ、でもそれなら、ノーヴィスにその技術がないのはおかいしよね?」


  だってノーヴィスが魔法の国だもん。どの種族よりも数歩先の魔法技術を持ってるってのがモブリの誇りだよって、シスターに教えてもらった。それならお札よりも便利な物があるならそれを使ってる筈だもんね。
  ノーヴィスに無いって事は結局見つけられなかった事だよね?


【いいえ、見つけましたよ。お札よりも効果的な魔法の運用技術を】
「ええ!? そうなの? じゃあじゃあ何でノーヴィスはまだお札使ってるの?」


 必要ないじゃん。それとも元老院のお爺ちゃん達が独り占めしてるとか? クリエはそんな悪い印象ないんだけど……スオウ達やローレの話を聞いたから、そんな印象を持つようになっちゃったよ。まあローレの場合は簡単には信じれないけどね。
 でも実際にはちゃんと見てたりもしてるし、やっぱり悪い印象は拭えないかな。元老院のお爺ちゃん達なら、その位出来そうでもあるよね。だけどそんなクリエの考えはアッサリと彼女に否定されたよ。


【それは簡単。私が途中で取り上げたからです】
「取り上げたって……どうして?」


  気になるね。そんな事をしそうじゃないのに、まるでガキ大将だよ。一体どんな事情が?


【誰もが複雑な魔法を簡単に使える……確かにそれは魅力的でした。でも弊害もあったんです。魔法とは本来、正しい教育を受けて、正しく使い方を覚えて行くものです。そして強力な魔法を会得するにはそれなりの修練が必要だった。
  そこには努力があり、頑張る事での絆も生まれる。そして努力した分の羨望だってあった。だけど誰もが簡単にそれを使える様になれば、違ってきます。羨望はなくなり、人は次第に怠惰になって行く。
  それに今まで上に居た者に挑む者も出てくる事も。それはいろんなバランスを崩す程の物だったんです。ようやく安定してきてた世界には痛すぎる問題でした。それに一番厄介だったのは、私の開発したその技術を悪用しようとした物達が居た事です。
  最初は純粋な研究だったのでしょうけど……自身が扱える以上の魔法を気軽に使えるその技術のせいで、危ない研究が増えたんです。それは確実に世界の均衡を崩していきました。街が幾つかいきなり消えたりもしましたし、もう見過ごす事は出来ないと判断したんです】
「なんだか怖い話だね」


  ちょっと寒気がしちゃったよ。


【実際怖い事ですよ。やはり大きな力は気軽に使えるよりも、それなりの試練を潜り抜けた者だけが使える方が良いんです。ですが驚きではありました。あそこまで色んな発想が出来るのは凄い事です。ですから、もっと正しい方向を向いて欲しかった。
  もうあれは魔法とは違うカテゴリーに分類される程に進化してましたからね。お札では出来ない複雑な魔法の交わりと、多層魔方陣を使っての創造】
「なんだかまた難しくなってきたかも……その力の名前は何て言うの?」


  重大な事をまだ聞いてなかったよ。するとちょっと重い空気を醸しながら彼女はこう言ったよ。


【五種族の間では確かこう呼ばれてましたね。無から有を生み出す禁断の技術『錬金術』と】
「錬金術……なんだか凄そうかも」


  話だけじゃ実際良くわかんないけど、彼女の話し方もあって思わず唾を飲み込んじゃったよ。でも聞いた限りじゃ、あんまり魔法の上級者と出来る事は変わらないのかな?


【変わりますよ。錬金術と魔法は別物です。そこまで言えるほどに進化したんですよ。まあ脱線した話はここまでにしておきましょう】


 あう、そう言えば話が全然別の所にいってたね。本当はクリエに魔法を教えてって頼んだのに、何時の間にか彼女の話に夢中だったよ。まあある意味で魔法の勉強みたいだったけど、錬金術は関係なかったよね。
  使えたら便利そうだけど、彼女が教えてくれるとは思えないもん。気持ちを切り替えて行こう。


「じゃあじゃあ、クリエはお札で魔法使うの? それが確実?」
【そうですね。それが良いでしょう。必要以上の力を使う事も無いですし、確実に発動出来ます】


  錬金術の話を聞いた後だと、お札がショボくなっちゃったみたいに感じてしまうけど、まあしょうがないよね。でも一番簡単なのはお札みたいだし、悔しいけどやっぱり簡単なのは良いよね。魅力的だよ。
  クリエの魔法のレベルじゃお札が精々だって自分でもわかる。今はワガママ言う時じゃないし、我慢だよね。そう思ってると、窓の外に聖典が見えた。あらら、戻ってきゃったよ。戻ってくるまでに通信用のお札を用意して置く筈だったのに、残念。
  セラをあっと驚かせようと思ったのに。すると聖典からこんな声が聞こえた。


『そっちに兵隊が向かってるわよ。さっさと移動しなさい。取り敢えず下の階に行って』
「わ、わかった!」


  クリエは分身達を引き連れて指示された方向の階段を目指す。鉢会ったら大変だからね。小さなモブリにはちょっと辛い階段を降りていくと、外にはまたまた聖典が先回りしてた。流石空を飛んでるだけ早いね。羨ましい。
  大きさはクリエよりもちょっと大きい位で、小回りも聞いて、なんだかかっちょ良いデザインしてて、聖典の魅力にクリエも気づいてきたかも。でもあれって、頭が痛くなるんだよね。そこだけ残念。でも一つ位ならクリエにだって操れる気がするんだよね。根拠ないけどね。なんとなくだよ。なんとなく。
 そう思ってると、どこかからドタバタと足音が聞こえてくる様な。


『タイミング悪いわね。反対側に居た奴らが回ってきてるわ。どうにかしなさい』
「ええ!? どうにかってどうすれば良いの? どこに逃げれば良いのか位教えてよ!」


  全くなんの為に外から偵察してる? って感じだよ。


『そう言っても、結構ローレの奴も人数割いてるのよね。だから普通に行き詰まりって言うか。それよりもあんたのその周りの使いなさいよ。その為に居るんでしょ?』
「むむ、それはそうだけど、逃げ道がわからないんじゃ可哀想だよね」
『何が可哀想よ。そもそも囮にする為の存在でしょ? さっさと使いなさいよ』


  酷い。やっぱりセラはけっこう酷いよ。みんなクリエと同じ姿なのに、簡単にそんな事出来ないよ。


『あんたね。そんなゾロゾロいたらどこに隠れるのよ? 速攻で見つかるわよ』
「あう〜」


  確かに考えてみればそうかも。そうこう言ってる内に階段の下側からも足音が聞こえてきた。不味い、誰かが階段を登ってきてるよ。このままじゃ廊下を歩いてくる人達と、階段を登ってくる人達のどちらかに先に見つかっちゃう。


「あわわどうしよう?」
【クリエ落ち着いて。冷静さを失ってはダメです。とにかくまずは通路側の人達がどちらから来るか聞いてください】
(わ、わかった)


  彼女の指示を受けてクリエはセラに質問するよ。


「あのあの、通路はどっちから来てるの?」
『ん? あ〜左側かな』
「ありがとう」


  お礼を言って直ぐに彼女に報告だ。


(左側だって)
【聞こえてますよ。感覚は共有してますからね。左からですか。なら分身の一体をワザと下からと通路側から、どちらからも見える様に置きましょう。そしてどちらかが気付いたら通路の右側に逃げさせるんです。
  時間差があってもこれなら、どっちも囮を追うでしょう】
(なるほど。でも可哀想……)
【その感情はしまいなさいクリエ。その分身に意思はありません。あくまでも魔法で作り出しただけの虚像なのです】
「むむむ……わかった」


 クリエは渋々分身一号を通路からも階段からも見える位置に行かせる。素直に従うその姿がまた可愛いのに……心が痛むよ。だけど失敗するわけには行かないの。ごめんと心で呟きながら、クリエと後の子達は階段の壇上の端っこで体を縮めて置く。
  これでもきっとバレない筈。だって兵隊達は見つけたクリエが囮だなんて微塵もきっと思わないもん。そう思ってると、下の方から大きな声で「対象発見」って声が聞こえた。それと同時に勢いよく階段を駆け上がる足音が複数。


【分身に逃亡させてください】
(うん! 逃げて!!)


  クリエのそんな思いに答えて分身一号は通路の右側へ走り消える。その後を追って兵隊達も、通路へと入ってく。勿論上段には目も暮れずに。そしてその後に別の声が聞こえた。


「居たのか?」
「こっちだ!!」


  そんなやり取りと共に、通路を歩いて来てた人達も駆け足で追って行く。


【今です】
「うん」


  クリエ達はこの隙に階段を更に降りるよ。するとまたまた窓の外には聖典が。


『なかなかやるじゃない。そうやって使えば良いのよ』
「わ、わかってたもん。それよりも、良い場所は見つけてくれたの?」
『そうね、やっぱり建物内は不味いわ。人も多いしね。今なら慰霊碑辺りが良いと思う』
「慰霊碑?」


  そんなのあったっけ? 殆ど動き回れてないからわかん無いよ。


『あるのよ。昼間に集まった広場の端っこの端っこにこじんまりとね。丁度木に隠れてるし、良いんじゃない?』
「そっか、ならそこで良いよ。取り敢えずテトラをおびき出さないとね」
『私は周囲の警戒に当たってれば良いのよね? でも直ぐに報告出来ないのは面倒よ』


 うう、やっぱりセラも思ってたんだ。でもそれの対策はちゃんと考えてるよ。さっきは邪魔が入ったけど、まだ諦めてないもん。


「大丈夫、ちょっと待っててセラ」


  クリエはそう言って辺りをキョロキョロ見回す。そして手近な部屋へと侵入を試みるよ。誰もいない事を確認して、書く物を探す。すると机に丁度紙とペンがあった。


「これでいけるかな?」
【十分です。お札自体は特殊な紙を使ってる筈ですけど、これでも代用出来ます】
「なんて書けば良いの?」


  自分の手には大きなペンを必死に持ちながら聞くよ。上手くかけるか心配かも。だけど自分でやらないといけないんだもん。クリエ頑張る。


【そんなに震えなくても、大丈夫ですよ。文字と言うよりも模様みたいな物ですからね。これは詠唱ほどシビアじゃありません。描く模様に意味があるので。頭に通信用の模様を映します。同じ様に書いてください】
「うん、わかった」


  頭に現れたのは波が中心の円に集まる様な模様。中心の円には星が入ってる。これってこの波がよく見たら文字が繋がってる様に見えるんだけど、そこまで再現しないとダメなの?


【言ったでしょう。そこまでシビアじゃなくて良いと。取り敢えず、形だけを真似してください】
「が、頑張ってみる」


  クリエは慎重に頭の模様を映してく。不格好だけど、なんとかなったかな? かなり手が汚れたけど、一応出来たと思う。でもそこで重大な事に気づいたよ。


「あ……あれ? そう言えば二枚必要じゃない? クリエと、聖典につけるの?」
【そうね、頑張って】


  優しい声に震えるのはこれが始めてでした。だけどやるしかないから、もう一枚の紙に同じ模様を描く。神経がすり減っちゃうよ。


「はひ〜」


  なんとかもう一枚も完成。顔がいっぱい汚れちゃったよ。


「これでお札が完成だね」
【いいえ、まだこれじゃただの紙。力を込めないといけません。目を閉じてクリエ】


   まだあるんだ……とか思ったけど、それは言わないで置いた。早く終わらせたかったからね。取り敢えず目を閉じて心の中へ。


【今回も黒の力を使いましょう。だけど掬い過ぎないで。お札に込めれる力は多くないですから。微妙な調整を心がけてください】
「わ、わかった」


  膝をついて、黒い水が溜まる池に手をいれる。集中すると、その力がクリエの中に染み入ってくる様な感覚が来る。目を開けると、持ってる二枚のお札に黒い炎が灯ってた。


「わわっ!?」
【力を抑えてクリエ。燃え尽きてしまいますよ】
「うう、うん」
 

   必死に力を調整してみる。すると炎の勢いが弱まって行く。だけどなんだか白い紙が黒くなって行く様な……逆に黒いペンで書いた模様が白くなってく。


「えっと、これ大丈夫なの?」
【まあ、問題無いでしょう。後は二つをリンクして発動させてください。中心の円に同じ番号を力で刻めばリンク出来ます。お札の使い方は知ってますよね?】
「うん、それは大丈夫」


  何度かみてるもん。その位出来るよ。取り敢えずとっても小さな力で番号一を割り当ててみる。そして後は「発動!」を唱えて準備OKだね。なんだかお札から黒い炎が湧き上がってるけど、大丈夫だよね? 一応聞こえるからいけるかな?


【きっとこれもテトラの力の影響でしょう。使用上は問題ない筈です】


  彼女のお墨付きも貰ったし、通路に出て聖典にお札を貼り付ける。


「これで良し!」
『よくこんなの作れたわね。やっぱりどこか変ね、今のアンタは』


  セラは何か勘ぐってるみたいだね。別にちゃんと説明しても良いけど、今はその時間もないよ。


「とりあえず、これで更に便利になったし、頼むよセラ!」
『しょうがないわね。全部終わったら、色々聞き出すから、最後まで諦めないでよ。あっそうそう、スオウはきっと生きてるから。あんたも生きなさい』


 そんな言葉を自然と言い残して聖典は再び外に消えて行く。空いた窓から生ぬるい風が入ってくる。虫の鳴き声もけたたましい。これで全部の準備は整ったよね。クリエはニッと笑って歩き出す。そろそろこっちから攻める時!!

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