命改変プログラム

ファーストなサイコロ

そこに居なくても戦える

  やれる事も決まっていよいよ作戦に移ろうとしてる時だったっす。自分達はどうやら、このLROという世界にまだまだ試されてる……そんな感じがするっす。僅かに感じる微細な揺れ。そして視界に走る、微妙な色の変化。それはどうやら自分だけじゃないみたいっす。


「なにこれ?」
「目がチカチカしますね」


  そんな事を頭を押さえながら言ってるお二人。自分だけなら、自分のリーフィアだけが調子悪いのかな? −−で済むっすけど、流石に三人ともってのはおかしいっす。ザザザっと聞こえる音に気付いて机上の地図に目を向けると、3Dで立体表示されてる地図にノイズの線が上から下に流れてた。
  そしてそんなノイズの発生に従って、ブレてる様に見えるっす。ちょっとちょっと大丈夫っすかこれ? ここから人の居る方はキチンと見えないんすから、調子悪いのは困るっすよ。ミラージュコロイドに視界は必須っすよ。LROの地図はそれを補うだけの精細さがあるっす。だからここでも問題なく出来ると思ってたっすけど−−そんな風に思ってる間に、ブチッという音と共に地図が机上から消えたっす。


「ノオオオオオオオオオっす!!」
「ちょっ! どうしてこのタイミングで?」
「一度回収してもう一度表示してみましょう」


  そう言ったアイリ様が地図を一度回収して、もう一度アイテム欄から選択して広げるっす。だけど3Dのモデリングが出てくる事はなく、机上に広がってるのはこれまで通りの2D表示のごちゃごちゃした地図っす。


「ダメそうね」
「一体なにが? これも変革の影響とかでしょうか?」
「そうかもしれませんね。今の状況とかLROでも予想外でしょうし、色々と負荷を掛けてる存在が居るでしょうから、最近安定しなくなってますよね」


  確かに最近一気に落ちたりしまたっし、LROにしては不安定になって来てるっす。これもその影響……最悪のタイミングっすよ。


「どうしましょうっす。これじゃあミラージュコロイドが!」
「落ち着きなさいノウイ。焦ったってどうにもならないわ」
「でも! もう鍛冶屋君達は動き出してるっすよ。モタモタなんかしてられないっす!」
「わかってるわよ! 」


  自分の言葉にセラ様も思わず声を荒げてしまった様っす。でもこのままじゃ……最悪ミラージュコロイド無しでもいけなくはないんっすけど、その場合テッケンさんを空に送る事は不可能になるっすからね。予定通り進めるにはミラージュコロイドが必要っす。
  やっぱりいつまでもスオウ君を一人にしてるなんて気が気じゃないっすからね。テッケンさんなら信頼できるっすから傍に行かせれるのなら、それに越した事はない−−それがきっとセラ様の見解っす。
  彼には分身のスキルがあるっすからね。自分達の中でバレずにここを抜け出す事が出来るのはきっと彼だけっす。後々のフォローはきっと教皇様や、ミセス・アンダーソン様が上手くやるんでしょうっす。
  だけどその構想も今のままじゃ泡沫に帰すっす。どうしたら……


「ノウイ君、構造や位置が正確にわかってたら視界に入れずともミラージュコロイドは展開出来るんですよね? 無理なのですか?」
「確かに正確に分かってれば出来るっす。でもそれってかなりしっかり把握してないと難しいんっすよ。一・二度訪れただけの場所はまず無理っす。飛空挺は定期船ならどれも同じ構造してるっすから、何度も乗ってれば内部構造は把握出来まっす。ですから出来た事っすよ。
  ここもあんまり複雑なダンジョンの中じゃないっすし、出来ない事もないっすけど、想像だとどうしても誤差が生じるっすよ。ピクはいいっすけど、テッケンさんを空のどこに放り出すかも分からなくなるっす」
「確かにそれはちょっと困りますね」
「でもバトルシップの機動性なら、多少位置がズレてもどうにか出来そうではあるわよね。だけど確かに正確性に疑問が残る物を作戦に組み込むのは危険でもある」
「自分は外されるっすか?」
「それをしたら、スオウの監視役がいなくなるわ。見つけれるかもまだ分からないけど、あいつを一人に……てか、シクラ達といつまでも一緒にいさせるなんて気になって仕方ないわ。テッケンさんがいればまだ少しは安心出来る」


  そうっすよね。シクラ達となんか一緒にいられたんじゃ幾らまだ殺されてないからって、いつまでも安心出来ないっす。だからなんとしても−−でもいけるっすか自分。正確にピクとテッケンさんをバトルシップまで飛ばす事が……


「こうなったらしょうがない……わね」
「セラ様?」


  そう言ったセラ様は自分を見てるっす。そんな熱い視線で見られるとドキドキっすよ。まあ全然そんな感情が篭ってない事は百も承知っすけどね。でも自分はセラ様と目が合うだけでいつだってドキドキっす。


「ノウイはこのテーブルに仰向けに寝なさい」
「ええ!? 一体何を始める気っすか?」


  まさかセラ様から「寝なさい」なんて言葉を向けられるなんて……興奮がヤバイっすよ。でも今はちょっとまだ日が高くないっすかね? それに記念すべき夜はもっとこう、フッカフカのベッドの方が良いかな〜って−−


「何を想像してるか知らないけど急ぎなさい。なんか変なの外に見え出してるから」
「変なの?」


  そんな言葉に反応して、自分もセラ様の視線を追って外を見るっす。すると確かに変なのが見えたっす。何かよく分からないっすけど、形状し難い何かがモリモリと沸き立ってる様な……あれがスレイプルの建造物だとすると、いつあれに気付いてもおかしくないっす。


「つべこべ言わずに早く寝なさい。あと思考回路をオープンチャンネルにしなさい。普段はかけられてる数百のプロテクト全て外してね」
「マジっすか? そんな事したら脳に直接ハッキングされるっすよ」
「あんたね。私がそんな事をすると思う? あんたの頭の中なんて覗いてもなんの得もないわ。それよりも、私の方を覗いたら殺すから」
「ええ!? って事はセラ様も……」
「そうしないと出来ない事なのよ」


  脳で直接繋がるなんてそんなの恋人同士でもなかなかやる事じゃないっすよ。自分の全てを相手に晒す事になるっすからね。恋人同士でもせいぜい倫理観の部分を外して、SEXまでっすよ。これはある意味それ以上の事。
 ドキドキが止まらないっすね。てか加速してるっす。でもこれをしたら、自分の気持ち−−バレるかも知れないっす。だけど、ある意味でセラ様の気持ちを知るチャンスでもあるっす。いや、でも自分に気がない事は百も承知。きっと中を覗いたって落ち込む事しかないと思うっす。
  でも……自分の大好きな人と一つになれるチャンス。いや、それ以前にこれは必要な事で……でもそうしたら絶対に自分の気持ち隠しきれないっす。一体自分はどうしたらいいっすか!? 訳が分からなくなってきたっす。
  混乱してると、一応横たわった自分の顔の横にセラ様の手がおかれたっす。前を見据えると、自分に覆いかぶさる様にセラ様が見えるっす。視界一杯セラ様っす。ヤバイっす、超可愛い。


「良い? お互い無心で行きましょう。互いに互いの頭の中は覗かない。良いわね」
「えっと……ハイっす」


  無理っす。抵抗なんて出来るわけないっす。自分はウインドウを出して、階層を深めプロテクトを全て外すっす。これで、自分は無防備っすよセラ様。そして今は、セラ様も無防備なんすよね。いつものメイド服に身を包んでる筈なのに、どうしてっすかね。妙にエロく見えるっす。
  横たわった自分にセラ様が迫ってくるっす。良い匂いが鼻孔を擽るっす。無心なんて無理っすよ。セラ様を直ぐ傍に感じる。それだけで自分は幸せ者っすもの!  そして対には息が混ざり合う様な距離にまで……セラ様の手が優しく自分の前髪を掻き上げて、デコを晒すっす。セラ様も自分の白いデコを晒して、自分とセラ様のデコが優しく触れ合うっす。そして紡がれる言葉。自分は間近で動くセラ様の唇を凝視してたっす。


「リィ・コンタクト」


 思わずキスしたくなるその唇がその言葉を紡いだ瞬間、自分とセラ様の思考が混じり合うっす。いろんな彼女の記憶が一斉に流れ込んだりしてくる。瞳はセラ様を見てるはずなのに、大量の情報が流れるせいで何が何だか分からないっす。きっとこれはセラ様も同じなんすよね。今セラ様には、自分の全てが晒されてる。意識を集中しないと、全然わかんないようっすけど……それでもなんだか恥ずかしいっす。


「流しなさい。今は全力で!」
「セラ様こそ流してくださいっす! 全力で!」


  自分達は互いにそう言って自分の中身を見る事を牽制するっす。だって知られる訳には行かないっす。脈なんてないって分かってるっす。鼻で笑われるだけかもしれないっす。でも自分はそれだけじゃいられないっす。この関係を壊したくなんか……ないんすよ! だから自分も全力でスルーっす。でも気になる物は自然と目に入る物っすね。
  キラキラしたエフェクトで飾られてる映像は自然と目がいくっす。そしてそれに無意識にでも意識がいくと、その映像がハッキリと見える。それは大体、スオウ君との記憶っす。最近のキラキラした記憶には、絶対に彼が入ってるっす。だけど同じ位に、黒い霧をだしてる思い出にも彼は居たりして、どういう事かなってもおもうっす。
  でもそれを考えちゃういけないんすよね。きっとセラ様は自分になんて全然興味なくてスルーしてくれてる筈っす。それを思うと、こんな卑怯な真似しちゃだめだって思うっすけど、それはある意味で悔しくもあるんす。少しは自分にも興味を持って欲しいっす。でも気持ちはやっぱり知られたくないっすし、ジレンマっす。
  そう思ってると、ようやく大量の映像が落ち着いてきたっす。オープンにされた最近の記憶とかが整理されたのかな? すると額が合わさったセラ様と自分の視線がバチっと鉢合うっす。するとセラ様は頰を染めて目を閉じるっす。


(え? なにっすかその反応?)


  嫌な考えがめっちゃ浮かぶっすよ。まさか……自分の気持ちに……


(別に、知りたかった訳じゃ……)
(あれ? セラ様口動いてないのに声が聞こえるっすよ?)
(ええ!?)


  頭に直接声が響いてるっす。これは思考が直接共有されてるからっすか? てか、知らなかったんすか!?


(しょうがないでしょ! 私だってこんな事をするのは初めてなのよ!)


  口には出さずに頭で喋ってるからか、頰を染めたセラ様は自分を見つめて、眉を逆への字にして片頬を膨らませた仕草で睨んでるっす。なんすかちょっと……超カワイイっすけど。これはヤバイっすよ。脳内でシャッター切りまくりっす。
 速攻で保管を! 自分の中のセラ様フォルダの中に分別しないと!


(あんた、私に筒抜けなのわかってる? 恥ずかしいから……その、カワイイとかちょっと……)
(ぬあああああああああああああああああああああああああああああっす!? 聞かなかった事にしてくださいっす!!)


  しまったっす。全てが筒抜けなのに、自分ときたらなにをやってるっすか! 気持ちを知られただけじゃなく、どういう目でセラ様を見てたのか、これで完全にばれちゃったじゃないっすか! 


(聞かなかった事って言っても……忘れる努力はしてあげる。お互いのためにもね)
(それが……一番っすよね)


  虚しいっすけど……元々伝える気なんかなかったんす。自分みたいな目が点な変な顔の奴と、アイリ様の親友で侍従隊のトップで密かにファンクラブまであるセラ様とは月とスッポン、美女と野獣も良いところっす。
  ひっそりと思ってるだけで、こうやって傍に居て、頼られるだけで満足だったんっす。だから、忘れて貰うのが一番っすよね。自分は心で涙を流すっす。


(いや、だから全部聞こえてるから。あんたの本音がズバズバと脳内に響くわ。せっかくこっちはとにかくなんの関係もない事を唱えて無心に成ろうとしてるのに、あんたの思いばかり垂れ流さないでよね!)
(す、すみませんっす!)


  自分はバカっすか。だからこうやって考えてる事も、全てはセラ様まで届いてるんすっよ。無心にならなきゃいけないんっす。さっきから般若心経が聞こえてると思ったら、それはきっとセラ様が余計な事を考えない様にしてるんっすね。でも般若心経って……よく出てくるっすね。実は適当なのかもしれないっすけど。それっぽく言ってるだけかも。


(ところで−−)
(ハイっす?)


  折角自分も全力で何か別の事を、具体的には延々と円周率でも数えて様かと思った矢先に、セラ様の言葉が響いてきたっす。


(さっき聞き捨てない事をあんた言ったわよね? ファンクラブがどうとか……なにそれ?)
(セラ様のファンクラブっすよ。まあ具体的には「メイド服を愛で様の会」っすけど)
(なにそれ……気持ち悪い)


  確かに字面で並べて見ただけじゃ変態っぽいっすけど、全然そんな事はないっす。自分達は純粋にメイド服が、そしてそれを着た人達に興味があるんす。そういう人達が集まってて、侍従隊はLROでも珍しい公式のメイド部隊っすからね、人気があるんっす。その中でもやっぱりトップはセラ様っす。


(あんまり嬉しくないトップねそれ。てか、それはメイド服を着た私が人気であって、私自体の人気じゃなくない?)
(そんな事ないっすよ。セラ様はアイリ様を支える影の立役者として、その甲斐甲斐しさも人気っすよ。やっぱりメイドは甲斐甲斐しくなくては−−って風潮ですから)


  まあセラ様の場合はただ甲斐甲斐しいだけじゃないっすけど……それを知ってるのは結構身近に居る人達だけっすからね。


(ちょっとノウイ、それはどういう意味よ?)
(ギクっす−−)


  だから全てが筒抜けだと何度思い知れば覚えるんすか自分! この間抜け! どうにか話を逸らし−−ってああ!  外に目を向けると、なんだか変な物体がそびえ立ってるっす。


(セラ様、スレイプルの建造物がヤバイ感じになってるっすよ!)
(げっ!? 何よあれ? あれがスレイプル達の芸術センスだとしたら武器や防具とかだけ作ってた方がましね)


  ひどい事を……でも確かにあれが美しいと思ってるのなら、その美的感覚は疑いものっすけどね。なんだか適当に鉄柱を組み合わせて積み上げて言ってるだけの様な……でもそのバランス感覚は凄いっすよ。まあ実際鉄柱だけじゃないみたいっすけど、空に聳える一本のオブジェが姿を表してるっす。
  これはもういつ気づかれてもおかしくないっすね。そう思ってると、自分の頭の中に視界とは別の映像が表されるっす。それは部屋の中に居るシルクちゃんとクロード・リードの姿を映した物と、その周囲を映した二つの映像っす。


(これは−−)
(聖典からの映像よ。これで正確に周囲がわかるでしょ? しっかりミラージュコロイドを配置しなさい)
(了解っす)


  とりあえず今はお仕事モードに入るっす。どうやら、まだクロード・リードは気付いてないっぽいっすしね。でも流石にそろそろ気付くと思うっす。何か派手な事を鍛冶屋さんはやるっぽいっすしね。
  それで強制的にでも意識を向こうに向けさせる−−その時を自分達は見逃す訳には行かないっすからね。それにしても……こうやって覗いてると確かにクロード・リードはシルクちゃんの事を−−いや、そんな事は今は関係ないっす。自分は気を引き締めて、こう紡ぐっす。


「ミラージュコロイド発動っす!」






  届いたメールを密かに見て、私はその時を待ってる。セラちゃんに少しだけだけど、マルチタスクの練習教わってて良かったかも。普通に話しながらも、頭で設定をいじって透過ウインドウを設定、そして色々と更にいじって、頭の中にメールを展開させる術を見つけました。
 まあそもそもLROなら全てを意識一つで完結出来たっておかしくないんですよね。でも普段は誤作動とかを防ぐために、わざわざアクションをとってるだけで、意識をすればメールを確認する位はリスクはないです。
  でも実際、これだけで相当頭を使いました。普通に会話しながら、頭でビジョンを展開させて操作する。知恵熱出そうです。赤ちゃんじゃないけど、頭って使いすぎると熱くなるイメージがあるんです。機械みたいに。
  たった二つの事を同時にやってこれなんですから、二十の聖典を同時に操るなんてちょっと考えられないですね。セラちゃんの頭は一体どんな風になってるんでしょうか? きっと私なんかよりも、よっぽど凄い脳みそなんでしょうね。流石セラちゃんです。
  そんなセラちゃんからの最後のメール内容は−−


【監視達の意識を外に向けさせます。その時にシルク様はスリープミストを全開で放出してください。ちまちまなんてもういいです。それに合わせて、テッケンさんがきっとフォローをしてくれますので全力全開でお願いします。そしてピクにはそこから一番近い窓へ飛ぶ様にお願いします。
 外には見えないでしょうが、ミラージュコロイドは設置済みです。全力で飛び込ませてください。上空のバトルシップへ飛ぶ様になってますので。作戦はすでに始まってます。スリープミストのタイミングはお任せします】


  −−こんな感じでした。そして視界にさっきからちらちらと映る変な建物? よく分からないけど、歪な何かが塔の様にそびえ立ち始めてた。メールの後から直ぐにあれが見えてきたって事は、あれも作戦の一部なのかな? きっと間違いありません。だけど不運な事に、この部屋の誰も気付いてない様な……私がさりげなく言った方が良いのかな?


「シルク様? どうかしましたか?」
「あっ、え〜と」


  どうしよう、でもここで私がキッカケを与えるのはある意味で後々に関連を疑われるかもしれないよね。そう思ってると、外からおっきな音が聞こえました。私達全員ビックリです。だけど慌てる二人の兵を落ち着かせて、クロードさんはこう言います。


「大丈夫ですよ。シルク様はここに居てください。私が外をみましょう」


  なんて落ち着き様でしょう。流石にこれじゃあ使えません。まさかあれで終わりじゃないですよね? 私は早くも作戦失敗の危機に陥りました。クロードさんはピクをテーブルに残して、窓の方に近づいて行きます。


「あの方向には確かスレイプル達が集められてた筈ですね。一体何を作ってるのでしょうかね。あんんな大きな物を−−ん?」


  何かを訝しむ様な声。もしかしてミラージュコロイドがばれたんじゃ?  ハラハラです。


「いや、あれは作ってるんじゃないのかも知れないですね。歪に組まれた柱が消えたり、別の場所に出て積み上がったりしてます。まさか……スレイプル達は自分たちの鉱石操作の能力を使って、大掛かりなジェンガをやってるのでは? いや、そんなまさかですよね?」


  いいえ、多分そうなんだと思います。さっきのは失敗したって事でしょう。でもそれが予定通りだとするなら、もしかして−−−−


「なんてはた迷惑な事を。今直ぐ苦情を言ってやめさせましょう。今にも崩れそうで−−」


  クロードさんの言葉がその瞬間に掻き消えた。一斉に崩壊し出した歪な塔は、地響きと激しい音、そして粉塵を大きく立ち上らせる。


「ぬおおおおおおおおおおお!?」
「きゃああああああああああ!?」


  その振動の激しさに思わず私も声を出してしまう。だけど、今しかない! 私は手に握ってた羽に力をこめて、だけど静かにこう言います。


「スリープミスト発動!」


 手の中で輝く羽の感触が消えた瞬間、一気に部屋に淡いピンク色した煙が立ち込める。だけど全開の窓です。きっと持っても数秒が限界でしょう。そう思ってたけど、次の瞬間に妙な光が私の魔法を打ち消します。


(え?)


  目を細めてみると、かろうじてその原因がわかります。クロードさんの鎧が光ってる?


  「今の煙……まさか貴女ですかシルク様? そうだとしたら私は……」


  光ってる鎧と共に、彼の眼光が一段落ちて斬りつける様な視線に変わります。身体中に走る悪寒。まるでさっきまでのクロードさんとは別人の様。彼がその腰の剣に手をかけようとする。するとその時、その手を蹴り上げて誰かが現れた。
  え? 何? 一体どこから? 突然現れた第三者にビックリです。だって扉には監視の兵が健在してる。それなのに……そう思ってると、ピクが自分の頬を突ついて、テーブルの床を示してくれます。そこに目を向けると、魔方陣が現れてた。まさかこれって転移魔法陣ですか? じゃああれはテッケン……さん? でも等身がモブリじゃないです。人みたいなんですけど。でも深い帽子をかぶってるのはもしかしてモブリの特徴的な耳を隠すため?


「何者ですか貴方は? 一体どこから?」
「そんなの答える義務はない!!」


 そう言って彼はクロードさんを更に蹴って吹き飛ばします。もう実際何がなんだかわからないけど、あの人をテッケンさんだと信じるしかないですよね。でも流石に一瞬で魔法が打ち消されたせいで、ピクを大々的に逃がすのはまずい様な……とりあえず、必要なストック魔法の為に羽を拝借。


「「クロード様!!」」


  そう叫んで、クロードさんに加勢しようとする二人の兵に帽子を目深に被った彼は短剣を投げて足に刺して足止めする。更に別の刀身にお札が貼られた様な短剣に持ち替えて、彼は蹴り飛ばしたクロードさんを襲います。
  その銀甲冑に突き立てられる短剣。だけどその瞬間短剣の刀身が光に消えた? なんなんですかあの鎧は? 魔法を打ち消したり、刀身を消したり、あんな鎧聞いたことないです。


「残念でしたね」
「いや、これで良いんだよ」
「何?」


  その瞬間、刀身がなくなった筈の短剣から噴き出す四色の煙。


「むっ、さっきのも貴方の仕業ですか! だが!」


  再びさっきと同じ光が走る。だけど消えたのは四色の内の一色? まさか四色の煙には別の特性があるとか? それで判定が煙という単体じゃなく、それぞれなんとかミストとかに成ってて、一色しか消せなかった? それならあの光の消失効果は一度に消せるのは一つの物だけって事に……その時、チリンと響く鈴の音と共に、ピクの鳴き声が聞こえました。
  そうか、この煙には乗じて……煙を四色用意したのは、時間稼ぎの為。それなら今がこれを使うチャンスです。お願いピク。テッケンさんと共に、スオウ君を見つけて!!


「アクセル3 発動です!!」
「ピピーー!!」


  直ぐ近くでピクの羽が羽ばたいて、煙を僅かに吹き飛ばしてくれた。そのおかげで一人と一匹の背中が見える。桜色の羽を羽ばたかせて、一直線に進んでくピク。そしてその足に捕まってるきっとテッケンさんであろう人。二人は窓を飛び出してそのまま鏡に突っ込みます。
  その時煙を全て消して私の前に現れるクロードさん。間一髪ですね。既にピクの姿はどこにもありません。


「くっ、直ぐに厳戒態勢をとれ! 捜索隊を編成して今の奴を探すんだ!」


  そんな指示を出して、私の元に戻ってくるクロードさん。実際なんて言われるかドキドキです。


「シルク様はお怪我はありませんか?」
「私はなんとも……ですがピクが連れ去られました」
「なっ!? 奴の目的はピク? 一体どこから侵入を……私がついて居ながら、一生の不覚です」


  そう言って頭を深く下げるクロードさん。騙してるからか、なんだか心苦しいです。


「そんな……奇襲でしたからしょうがないですよ。それにピクはああ見えて強い子ですから!」
「いいえ、それだけじゃない。私は貴方を疑ってしまいました。本当にすみません。この命に代えてもピクは必ずや取り戻して見せます!」


  私はどうにか気にしないで欲しいんだけど、この人の性格上それは難しいそうです。慌ただしく動き出す人達。ごめんなさい皆さん。騙してしまって。だけど……このままでなんていられない。スオウ君の事は放っとけないんです。
  私は心の中で願います。


(必ず見つけてください。信じてまってますから)

「命改変プログラム」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く