命改変プログラム

ファーストなサイコロ

輪を掛けよう

  ピロリン! と頭に響く音がメールの着信を教えてくれる。極力ばれない様に最低限の縮小サイズでウインドウ出してメールを確認します。


【セラ様、私達も協力します。まずは状況を教えて下さい。離れ離れの今の状況でどこまで役に立てるかなんて分かりませんが、頑張りましょう】
「セラちゃん……」


  少しだけ気持ちが持ち上がった気がする。やっぱり仲間って大事です。弱気だった自分の心を奮い立たせてくれます。取り敢えず急がないとですよね。せめてクロードさんが戻って来るまでには行動を−−って!


「お待たせしまたシルク様。今度も完璧です」


   満面の笑みでその人は戻って来てしまった。やっぱりお茶を淹れ直すなんて数分も掛からなかった。迷わずに行動を起こしておけば……そんな後悔が脳裏に浮かぶけど、今更言ったってしょうがないです。
  みんなが協力してくれると言ってるんだ。まだチャンスはきっと作れます。クロードさんは私の前に淹れ直してきたお茶を笑顔でおいてくれます。なんと言う爽やかスマイル。なんだかこの人のこんな笑顔を見ると、まるで悪い事をしてる気になっちゃいます。
  でも例えこれが悪いことだとしたって、辞める訳にはいかない。私は笑顔を返しながらカップを持ち上げる。口に持って行く途中で、密かにウインドウの送信を押してセラちゃんにメールを返します。








   頭に響くクラシックの音色。どうやらメールが届いたみたい。きっとシルク様からね。私はメールを開きながら、アイリが出してくれたこの街の全体図に目を向ける。テーブル上に展開された3Dの立体映像はまるごとこのノンセルス1の縮小版。
  宮殿敷地内に建てられてるこの建物……この地図でまずはそれぞれの種族の位置を確認してる。


「私達はこの右側の建物三階部分に居ます。そして人は、この隣の建物の三階部分。確かモブリは人と同じ建物の一階でした。宮殿に対して斜め方向に建ってるせいでお互いの様子を伺えないのは痛いですね。
  ウンディーネは基本水が無い所は嫌いますから、きっとここには居なくて、川の自分達の船に戻ってるんでしょう。スレイプルは確かこの二つの建物よりも離れた位置で……確かこの建物ですね」
「まあウンディーネは仕方ないとしても、なんでスレイプルはこんな差別を受けてるの?」


  部屋はまだまだ余ってる筈でしょう。それともこの遠くから聞こえる音が原因とか? まあ今は落ち着いてるけど、ここに来た直後とかから暫くはカンカンと耳障りな音が漏れてた。ウンディーネが水が無いとダメな様にあいつらも鍛治やってないとダメな習性でもあるのかしらね。


「あるかも知れません。きっとそのせいでスレイプルの人達は遠くに部屋をあてがわれたんでしょう。別に差別じゃないと思います。それぞれが快適に過ごす為の配置でしょう。それを一応感じられますよ。普通サイズの階段の昇り降りも大変なモブリは一階ですしね」
「でもこれってあのローレが決めたんでしょう? 私のイメージ的にはサイコロとか振って決めててもおかしくないと思うって言うか……寧ろその絵しか浮かばない」


  だってローレって完全にそう言うやつで固定された。悪い奴、嫌な奴、あざとい奴−−−−だって超が着くほどにピッタリじゃん。


「あんな性格の捻じ曲がった女は珍しいわ。どうやったらあんな腐れるのかしら?」
「あはは、度合いの違いはあるかもですけど、セラはちょっと似てると思いますよ?」
「んな!?」


  どういう意味ですかそれ!? 聞き捨てならない言葉だ。実際ノウイとかが言ってたら一発殴るくらいの言葉だ。アイリだからそんな事しないけど、ショックだよ。


「私のどこがあの悪魔みたいな女に似てるって言うんですか?」
「う〜ん、気が強い所とか、策を練るタイプだとか後可愛い所とか!」
「最後のはアイリ様のただの主観じゃないですか。それに確かに見た目だけならあいつは可愛いかもですけど、私はそんな幼稚なイメージ売ってないです。私は大人の女の気品を出してる筈ですから」
「−−−−そうかな? 私はセラも可愛いと思うけど?」


  だから可愛いよりも気品溢れる大人の魅力を……いや、この人に言っても無駄だなって悟った。だってよくよく考えたらアイリの方が気品あるし。私のそう言う部分が潰されてるのって実はアイリのせいなんじゃない? 


「それに私の知ってるローレ様はちゃんと誰かの事を思える人ですよ。あんな姿だったのはびっくりでしたけど、中身が変わらないのであれば、これは納得の配置だと思います」
「あのローレが誰かの事を思える? きっとそれは演技だったんだと思いますよ。そうした方が支持を集めやすい。今の傍若無人ぷりが本性ですきっと。ですから、私はあんな悪魔みたいな女とは違います。それにあいつはアイリ様の事をバカにしてたんですよ。
 そんな奴を貴女が庇う必要ないです」
「ふふ、また私の為に怒ってくれたんですね。そうですね。親友がそう言うのなら、やっぱりあのローレ様は私の知ってる人とは違うのかも知れませんね。それにやっぱり私はセラの方が大好きですから」
「……なっ、何を言ってるんですか貴女は‼」


  思わずぽカーンとしちゃった。ある意味貴女の方がローレに似てますよ。その優しさで周りを惑わせる魅力を放ってる。私なんかよりもよっぽどアイリの方が可愛いわよ。


「何をお二人でラブラブやってるんすか?」


  私達がアホな事をやってたからか、ノウイの奴が横からそんな事を言って来た。だけどどうしてだろう。なんであんた中腰なの?


「あはははは、気にしないでくださいっす! これはちょっと体内のホルモンバランスがお二人の会話でおかしくなったと言うか……あははっはは」


  笑って誤魔化そうとしてるけど……それはつまり、私達の会話をはたから聞いててそのリビドーしたと? 死ね腐れ外道! 私もアイリも白い目をノウイに向ける。


「なっ、なんっすか二人してその目は!? だってお二人で百合百合してたじゃないっすか!! あんなの見せられたら男なら誰だって−−−−」
「百合百合なんてしてないわよ!!」
「−−ぶっはあああああ!!」


  あんまりにもアホな事を言うからぶっ飛ばしておいた。全く緊張感がない奴ね。こんな時に百合百合なんてアホな事をやるわけないじゃない。てか、私達がそんな……私はアイリをなんとはなくジッと見る。


(相変わらず守りたくなる可愛さね。最近は笑顔も増えて来たし、本当にこう……時々無性に抱きしめたくなるみたいな感情が生まれたり生まれなかったり……ってこれじゃあまさに百合?)


  私は頭を振ってそんな考えを追い払う。無い無い、そもそも私達にはそれぞれ想う人がいるんだから、百合なんて成り立たないわよ。だってそれって女しか愛せないんでしょ? それはやっぱり無いわ。大丈夫、私もアイリもノーマルです。


「ふふ、ノウイ君は顔も言動も面白い人ですね」
「アイリ様、その言葉はかなりあいつにダメージ与えてますよ」


  ぶっ飛んだ先で顔を上げられなくなってる。そしてブツブツと「自分の顔はそんなに面白いっすか……」とか言ってるのが聞こえる。やっぱり気にしてたのそれ? でも前にそこに突っ込んだ時は意味深に「これで良いんすよ」とか言ってなかった? 
  あれはただ単に格好付けただけか。


「大丈夫ですかノウイ君?」
「全然大丈夫っす。このくらいじゃ自分はへこたれないっすよ」


 自分の言葉に責任を感じてか、手を差し伸べに行ったアイリだけど、ノウイはその手を取らずに立ち上がる。流石変な顔をしてるだけあって、耐性がある奴だ。そして私達を見て、こういった。


「お二人とも、テッケンさんと鍛冶屋君からメール返って来たっすよ」
「あ……ああ、で、なんて書いてあったの?」


  なんだか余りにも普通に会話を戻すからちょっと戸惑った。


「お二人共協力してくれるそうっす。まあ具体的に何が出来るか……とかは書いてないっすけど、どうやらモブリは自分たちが乗って来たバトルシップを上空に待機させてるみたいっすね。それと鍛冶屋君の方は、スレイプル二十人位は協力者が居ると書いてるっす」
「それは結構使えるかもしれないわね」


  てか、完全に忘れてた。私達が乗って来たバトルシップあるじゃない。でもそれを待機させてるだけって事は、捜す術がないからって事よね。バトルシップはそもそも派手には使えないから、寧ろここから上手くピクを逃がせれたら、その後を追って貰う役目をしてもらった方が良いわよね。
  それなら逐一連絡をとれる。スレイプルの協力者は結構使えそう。実際私達だけでどれだけの事が出来るかって事だもんね。まあだけどこっちも、国を潰す訳にはいかない範囲で−−とは思っといた方が良いわよね。
  でも相変わらず愛国心が無い奴らね。まぁ助かるけど。


「良い情報ですね」


  嬉しそうにそう言うアイリ。私は「ええ」と言って地図を見る。そこに二人も加わって来る。


「ローレや邪神、クリエは宮殿の方に居るんですよね?」
「その筈です」
「本当なら、スオウの代わりに私達がクリエを助け出す……くらいしたいけど、それは流石に自殺行為ですからね。私達にとっても……そして国にとっても」


  そんな事をしたら、完璧に国がなくなる。それにそれをやるだけの情報が少な過ぎるし、リスクが大き過ぎる。今の私達の反乱はせいぜいピクを逃がすと言う事だけ。どれだけ小さいのよね。だけど今はそれに全力を傾けるしかない。
  どんなに小さくても、出来る事を全力で……それが次に繋がると信じて。


「アイリ様、ここと他の種族の部屋は構造は一緒なんですか?」
「う〜ん、絶対とは言えませんが、多分同じだと思いますよ。そこまで部屋ごとに色々と変えないでしょう? 内装は確かに部屋ごとに多少違いはあるでしょうけど、こっちの建物と向こうの建物は基本同じですから、内部も同じ筈です」
「そうですか、ならイメージしやすいですね。アイリ様はクロード・リードの事をどれだけ知ってますか?」
「藪から棒ですね。必要な情報ですか?」
「勿論です。どうやら人の方にそいつが置かれてるみたいです。それにこっちと違って、警備も向こうは中に更に二人、外に二人。シルク様は魔法も封じられてます」
「それは……随分と警戒してますね。たった一人の女の子に対してそこまで……」


  確かにこっちと比べたら、それは仰々しく感じる警戒態勢だ。だけど、実際こっちがゆる過ぎるって見方も出来る。この差がスオウの側かそうじゃないかの違い。もしもこっちに最初からピクを持って来てれば、ピクだけを解放するなんて簡単だった。
  だけどあの直後にそれは考えられなかったんだ。


「クロード・リードは人の代表の右腕の方ですよね。あの銀甲冑に身を包んだ聖君王子……その武勇はセラだって知ってるでしょう?」
「確かに知ってます。あの二人で今の人の国は築き上げたと言っても過言じゃない事も。だけど、こっちに入って来るのは噂ばかりじゃないですか。私達は直接対決してないですしね」
「そうですね。領土戦争の時は、基本防衛戦でしたからね。領土を取り返した後、私達は攻めてない。その後直ぐに停戦を進言しましたからね」
「アルテミナスにもバランス崩しが出現した事で、三種族の領土を進軍するのはかなりリスキーになりましたからね。連合を組んでた他の種族も二の足を踏まざるえなくなった。そして自然と領土戦争は終結でしたもんね。
  何か特殊なスキルがあるんでしょうけど……ノウイは何かしらないの? 情報収集が担当でしょ」
「う〜ん、でも自分は言われた命令をこなす位しか出来ないっすから。それに正直、ああいう内面までイケメンは嫌いっす」


  別にあんたの主観なんか求めてないわよ。そもそも情報収集担当が自分の感情を混ぜちゃだめでしょ。それにしても全く、役立たずねこいつは。


「取り敢えず戦うわけじゃないのですから、そこまで彼の能力を気にする事もないのでは? どんなに強くても、油断してる時はあります。意表を突くのが私達の作戦でしょう」
「そう……ですね。わからない事は幾ら考えても分かりませんし、私達が考える事は、ピクが抜け出せる隙を作る事。奴らの意表を最大限について」


  意表を突く為にも、情報は大切。監視は扉にきっと張り付いてる。ピクを逃がすとなれば基本窓からだ。クロード・リードとシルク様は近くに居る前提がいいわよね。二人が居るとしたら、この私達が集まってる場所が妥当。ピクは基本、シルク様の肩でしょう。
 でもなんだかピクにも鈴がつけられてるらしいから、動いたらわかる? ちょっと動くだけでチリンチリンいう代物なら、目くらましした後にピクが動いてもそれほど違和感はないかも。ここら辺は確認しと来たい所だけど、細か過ぎて別にどうでもいいとも思える様な……取り敢えず流石シルク様って思えるのは、ちゃんとストック魔法のリストも送ってくれてる所ね。


「その中で使えるものはあるんですか?」
「取り敢えずやっぱり目くらましのスリープミストは絶対に必要ですね。薄い霧の様な煙ですけど、密閉状態なら、視界を妨げる事は出来ます」
「密閉状態ね。でもこの時期とこの環境でそれは難しい様な……今は暑い時期ですからね。普通に窓は開け放たれてます。しかもこの建物は風を良く通す構造になってると思いませんか?」


  確かに言われてみれば……古代の建物みたいだから、暑い時には涼しく、寒い時には熱を逃がし辛い構造を追い求めててもおかしくはないかも。でも寒いはこの地域にはないかな。それなら思いっきり風を取り込む構造か……厄介ね。
   しかもこの時期だから、自然と窓も閉めれない。きっとどこだって同じ様に、窓は全開になってるはずだし、それを全て閉める自然な理由は流石に考えつかないわよ。


「でも目眩ましに出来るのはこの位しか……後は回復・補助魔法が大半です。シルク様らしい構成……だけど、これじゃあ使える物なんて」


  どれだけ私達を思ってくれてるか……それはこれだけでわかるけど、一人で戦うには余りにも心許ない。


「シルクちゃんに補助魔法かけて身体能力を上げてもあんまり意味ないですもんね。戦うわけじゃないし」
「寧ろそれならピクに掛ければいいんじゃないっすか? スピードアップとか、頑丈さを付加すれば少しは心強いっすよ」
「アンタ……案外良い事いうわね」


  確かにその選択はいいかも。ピクにだって魔法をかけれない筈はないと思う。今まで注目して無かったけど、きっとピクにだって掛けれる筈。頑丈さはあんまり期待出来ないけど無いよりはマシだし、スピードはあればあるだけマシだ。
  でも根本の問題がやっぱりある。


「だけどそれだけじゃやっぱり弱いわ。あのクロード・リードをこれじゃあ出し抜けない。どうにかして気を逸らす必要がある。それにシルク様の情報だと、監視の役目の兵士も通常の奴らとは違うらしいです」
「もしかして怪しい感じの人達ですかね? 確か異様な雰囲気の人達が一部にいました」
「何か分かりますか?」
「定かじゃ無いですけど、親衛隊みたいな物? なのかな? でも雰囲気的にはそんな感じでも無かった様な……寧ろ兵士っていうよりかは魔導士に近い格好だったし……」


  う〜ん、そんなの居たかな? 全然気付かなかった。あの時は周囲に気を配る……なんて出来もしなかった。


「あれじゃ無いっすか? 怪しい感じの魔導士って言ったら、錬金術士っすよ。確か人の国はそっちに力をいれてた筈っす」
「確かにそんな事を言われてますけど、事実かはどうかはわからないですよね」
「いえいえ、錬金術なんて怪しい物に手をだす理由は分かりますっすよ。人の国は中途半端っすからね。騎士の国のウチには剣の道で先にいかれてるっすし、モブリ達は魔法に特化して魔道技術まで持ってるっす。
  オールラウンダーって言葉は良い響きっすけど器用貧乏なんす。突出してる物が無いっす。普通の機械技術じゃ魔道技術には勝てないっすしね。だから錬金術。やつら危ない道に行ってるっすよ」


  錬金術……確かにそんな事を言ってたかも。ノウイの言ってる事は大体正しい。ヒューマは無個性であるが為に一番人気。無個性だからこそ、何にでも成れる。そんな感じ。まあ、今は種族の優劣なんか考えるてる場合じゃない。問題なのは−−


「錬金術士って何が出来るのかよ?」
「それはっすね……やっぱり指パッチンで炎をメラメラ〜〜〜っと!!」
「どこぞの大佐様よそれ」


  てか、そもそも錬金術って何? あんまりそこら辺がわからないわ。


「錬金術は確か、金を作る技術の筈ですね」
「それはリアルの事でしょ? しかも古い古い時代の目的じゃないですか。今錬金術なんて物を持ち出してまで金なんて作りませんよ」


  特にLROじゃ金はそれほど高価値じゃない。もっともっと貴重で高価値の鉱石はいっぱいあるもの。ここでの錬金術は魔法に対抗出来る物? 


「真面目に言うと、錬金術は特殊なアイテムの製造技術の様な物の筈です」
「じゃあその怪しい奴らの能力には関係無いと?」
「それはどうでしょう? アイテムですからね。持ってるだけで、何か特殊な効果があるのかもしれません」


  うう、ちょっと不確定な要素が多くなって来た。錬金術か……マイナーな技術だけに詳細がわからないわね。でも気にしすぎてたら何も出来なくなる。するとノウイがまたも変な事を言う。


「もうなんだか面倒っすから、気付かれない様に逆にちょっとずつそのシルクちゃんの魔法を蔓延させるのはどうっすか? うすーくうすーく撒き散らして、少しだけ眠くするのもありだとおもうっす!」
「少しずつだすなんて……そんな調整出来る物なのかしら? それにそれこそ、風の影響と諸に受けそうじゃない? 実用的じゃないわね」


  全部一気に出しても、窓が全開じゃ一気に外に漏れ出しそうなのに、少しずつだしたらそれこそ窓から随時出て行くだけじゃない? 意図的に少しでも操作出来るって言うのなら、まだ希望はあるけど、これってそういう魔法? 


「だけど、少しでも意識を朦朧できれば、隙にはなるっすよ」
「確かにそうですね。聞いてみたらどうでしょう? わずかでも操作出来るかどうか?」
「……わかりました。アイリ様がそういうなら」
「自分のアイディアなのに……」


  不満そうにそういうノウイ。採用しただけでもありがたいと思いなさいよ。取り敢えず、必要な情報は得てるに限るからメールを作成。これが出来るのなら、私のとっておきももっと安全に出来るかも……取り敢えずシルク様にメールを送信!






  頭に響くピロリンの音。メールだ。だけど目の前にはクロードさんが居る訳で、簡単には見れない。さて、どうしましょう。


「そうですか、シルク様はミルクティーがお好みで。なんだかピッタシですね。イメージ通りというか」
「そうですか?」
「ええ、やっぱりシルク様にはミルクティーですよね。今は用意はありませんが、今度はそちらに……ああ、そうだ。良い茶を作ってる職人を知ってるんです。ご紹介しましょうか? 冒険者では無くて、LROで茶の生産ばかりしてる変わり者なんですが、やはり一味違いますよ。
  シルク様のお口にも是非一度入れていただきたい。気に入って頂ければ、二人でティータイムを嗜む事も……いや、はっは」


  なんだか最後の方はブツブツ言ってて良く聞こえなかった。それにしても本当に気さくで気の効く人です。さっきから私が暗くならない様に、話を振って楽しく……じゃなくても、気が紛れる様にきっとしてくれてる。
  こういう人を出し抜く様な事は気が引けるけど……放っとくなんてできないからやっぱりやらないと。でもどうしたらこの人の気を紛らせる事が出来るでしょうか? 「あ! UFO!」とか言って見ますか? ダメダメ、そんなの本当に通じるわけないです。
  この人はただキョトンとしそうです。するとピクがテーブルに飛んで、クロードさんの方へ。


「おお、えっと……触っても宜しいですか?」
「ええ、どうぞ」


  まさかピク、私の気持ちを察して、自らを犠牲に? なんて健気な子でしょう。


「実はずっと気になっていたんです。これが噂のサポートモンスター……この子もその……シルク様にピッタリですよね」


  そう言って恐る恐る手を差し出すクロードさん。するとその手をハムハムと甘噛みするピク。そんな行為にクロードさんは「ほあ〜〜」と目を輝かせてる。案外可愛い所がある人ですね。


「えっと、名前はピクでよろしかったでしょうか?」
「はい」
「宜しくお願いしますピク。私はクロード・リードです」


  ピクにまで自己紹介をしてるクロードさん。本当に律儀な人です。するとピクは「ピー」と鳴いて、その腕に乗った。そんなピクを顔に近づけるクロードさん。するとピクは自分の頭を彼の顔に擦り付けようとする。
  良く私にやるのと同じ様な事だけど、随分と今やってるのは激しい。頬擦りをねだりまくって、クロードさんはジタバタしながら笑ってます。


「あっはははは、ピクは甘えん坊さんですね」
「あはは、きっとクロードさんが気に入ったんですね」


   そんな事を言いながら、メールを確認。そして一気に返信です。ナイスピク!!

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