命改変プログラム

ファーストなサイコロ

僕とサヨナラの世界

 風が吹き荒れて、空を陰らせるモンスターどもの瞳の光が空を覆ってる。周りは全て敵だらけ、そんな中、見出した決闘という舞台で僕はたった一人で邪神に挑み、既に最後の手段イクシード3まで行ってる。
 背中の四本のウネリを使っての高速移動は十分にテトラを翻弄できるだけのもの……けど、それでも僕には圧倒的には足りないものがある様だ。


 「速いな。相変わらず、その速さだけは一級品だ」


 確かに僕の剣は奴に当たってた。だけど、当たってるだけだ。食い込んでもいないし、傷一つついてない。予想してたけど、マジかよと言いたい。こっちはイクシード3だぞ。命を燃やすこの状態でも傷付けられないって……僕の命はその程度って事かよ。
 人一人の命なんて、神には遠く及ばないと、そう言う事か!


「くっそ!」


 僕は伸びて来るテトラの腕を、もう一方のセラ・シルフィングで弾くと同時に、その反動を利用して一旦離れる。速さだけ……そう言われたって、僕が最も、そして誰よりも自慢できるのはこれしかない! 僕は再び一気にテトラへと跳ぶ。そして交差際に一撃を入れる。激しい音と、腕に伝わる衝撃−−腕が僅かに痺れるけど、まだまだこれで終わりじゃない!!
 僕は背中のウネリを使って急旋回して、さらにテトラへと一撃を浴びせる。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 それを何度も何度も高速で繰り返す。風が激しく呻き、地面はウネリがめり込む事で抉られて行く。もう何度剣を振ったか分からない。だけど幾ら剣を振っても安心なんて出来ないから、僕はただ額から流れ出る汗を振り払いながら、体力の許す限り攻撃を続ける。
 攻撃をしてるのはこっちなのに、腕が痺れて来やがる。幾らぶった斬ってもテトラの奴はその場に立ったままだし、少しでも効いてないのかって不安になる。だけどそんな不安に奴は敏感だった。
 剣の動きにでも現れるのか、それともそういうのを察する力でもあるのか知らないけど、そう思った攻撃の瞬間にテトラの奴は動かさなかった頭を動かして僕を見据えて来るんだ。そして伸ばされるその腕は僕を捕まえて、僕の勢いを利用して地面に叩きつける。


「ぬっ!」


 だけど幸いか、背中からだったおかげで、ウネリが地面に叩きつけられるのを防いでくれた。四方に拡散してるウネリ。それを集中して行って、バネみたいに一気に弾けさせて、僕はテトラにタックルをかます。そしてそのまま範囲内の建物の壁へ激突。そこで始めてテトラの奴が少しだけ痛そうな声を出した。


「どうだ!?」
「どうだも何も、これでは俺はいつまで経っても倒せん」


 拳に宿る黒い力。それは不味いと知ってる力。今のHPで食らうわけには行かない。僕は急いでテトラから離れる。からぶった奴の拳。だけどその後に後方の地面が弾じけ飛んで周りに飛散する。範囲外には影響無いとはいえ、これはどういう事だよ。
 テトラの力の余波って事か? 体を壁から抜き出しながら、テトラは両の腕にその力を表してる。そして今度は自分の番という様に、こう告げる。


「さあ踊れ。愉快に楽しく、死へと繋がるダンスをな‼」


 距離なんか関係なくその手を振るうテトラ。だけど今の見た後じゃ、距離があるからって安心なんて出来ない。そしてその予想通りに、僕がその場を離れたと同時に、メキベキと嫌な音を立てて地面が抉れるじゃないか! さらに続けて、その腕を僕に向かって何度かサッサと動かす。
 すると肌を掠める大きな圧力と共に、地面がまたもえぐれ飛ぶ。だけどスピードだけは一級品らしい僕だ。幾ら見えなくても、腕を動かした後に来る攻撃なんて当たるわけもない。


「流石に速いな。なら、逃げられない範囲を埋めてやろう」


 そう言ってテトラは両の手を合わせる。その合わせた手のひらから、黒い力の閃光が見える。そして片足を後ろに置いて、少しだけ重心を落とし体の安定を計ると同時に、その両の腕を離してこちらに向かって突き出して来る。


「ふん!!」


 その瞬間にテトラのすぐ前の地面がえぐれ出す。そしてそれは一気に広範囲に広がって僕まで迫って来やがる。これはまさに逃げられない範囲。見えない圧力が僕に襲い掛かる。でっかい何かが押しつぶそうとして来る。まだ完全に到達してないはずなのにこの圧力……地面まで抉られる程のが到達したら、防ぎ切れるか分からない。


「……っつ−−−−つああ!」


 僕はウネリを使って空高く舞い上がる。飛ぶ事は出来ないけど、普通にジャンプするよりも何十倍も今の僕は高く飛べる。これで何とか……すると上から聞きたくない声が聞こえた。


「ここしか逃げ場所はないよな?」
「テトラ!?」


 誘われた! そう思った時には遅かった。奴の黒く光る拳が僕の背中を捉え−−させるかああああ! 僕はウネリを使ってその拳を防ぐ。攻守共に使えるのが、このウネリの強みなんだよ! そしてそのウネリで奴の腕を捕らえて、そこですかさず、こちらかも攻撃を仕掛ける。
 だけどそこは邪神テトラ。奴はやつで、既に次の攻撃の準備をしてた。空いてた片側の腕の先には、黒い球体が収束してる。そしてそんな球体から放たれる攻撃と、イクシード3状態の刀身が激突。空中で激しく爆発し合う。


「づああああああ!!」


 多少のダメージをくらいながらもなんとか地面に着地する僕。身体からはさっきの攻撃の後か、煙が立ち上ってる。ちょっと焦げたな。それにしてもテトラの野郎と来たら……僕はまだ煙で覆われてる空を見上げる。
 煙が晴れていくと、悠然と立ってるテトラの姿がある。その黒く長い髪を靡かせて、服に付くは多少の汚れ。勿論HPなんか減っちゃいない。化物め。


「その程度か? あの子供の願いを叶えたいんだろう? ならもっともっとその命を燃やせよ」


 十分燃やしてるっての……だけど確かにまだまだ足りないか。空から降りて来るテトラは傷一つどころか、汗一つかいてない。こっちはなんとか立ち上がって、足フラフラだってのに……まったくムカつく野郎だ。
 でもこんな簡単にやられる訳には行かない! 僕は息を整えて、前を見据える。そして背中のウネリを再び集めて、今までよりも激しく回す。うねらせる! 背中がビリビリと激しく感じる。その回転のせいか、あたりの空気もウネリに流される様に加わって来る。
 そして四つのウネリを一つに合わせて背中から真っ直ぐに伸ばす。それは踏ん張っとかないと、吹き飛びそうな程の勢いだ。


「んっ……ぎぎぎぎぎ!」


 必死に堪えつつ、僕はセラ・シルフィングを前方に構える。そしてその刀身を回る流星が輝きを増し大きく回り出す。そしてこちらも一つになって、刀身から僕の全身を回す位に大きく回る。その光のトンネルはただ一点……テトラの姿を指し示す。


「そうでなくてはな。この程度で終わるなよスオウ!!」
「ウオオオオオラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」


 ブレーキを踏んでた足で地面を蹴る。その瞬間、周りが光に包まれて、音が後ろで弾ける。僕自身が一つの刃となって、持てる限りのすべての勢いと共に、僕はテトラへと進む。世界の運命とかそんなのはどうでもよくて、僕はただ月に願い事をした、一人の少女の為にこの命を燃やす。


今持てる全ての風を纏い、今持てる全ての勢いと、後は最大限の勇気。それらを全て込めて、僕はこの一撃を行う。自分のスピードを最大限フル活用しての、たった一箇所の一点突破。今の僕がテトラに一撃を加えられる手段は、小細工とかじゃなくて、真っ正面からぶつかる事しか見出せなかった結果がこれだ。
 背中のウネリが一個に纏まり、ロケットブースターのような推進力を生み出す。後はただ、構えたセラ・シルフィングを真っ直ぐなまま保って、テトラに突っ込むだけ。うねる風が僕の体を前へ前へと押し出して、あっという間にテトラの伸ばしてた腕とぶつかる。
 回転を続ける流星の光に包まれてる僕の体の光がその瞬間メッキが落ちるように飛散した。すると自分の飛んでもない推進力とテトラの力の板挟み状態で、一気に体が悲鳴を上げた気がする。腕の骨が悲鳴を上げて、この勢いを全身に受け止める体が潰されそうな、そんな感覚。
 口に滲む血の味を知りながらも、でも僕は引かない! 僕は再びこの回る流星の光を纏い、体を保護して全身に力を込める。


「随分苦しそうだぞ?」
「う−−−−っるせえええええええええええええええええええええええええええええ!!」


 大きく吠えて、奥歯を噛みしめる。背中から伝わるウネリが激し過ぎて、自分を削ってるとかそんな事も考えない。ただ、目の前のこいつに一撃を!! 吹き荒れる風に混じって、僕の血液が飛んで行く。それでも! 僕はさらにこいつのこの障壁を砕けるだけの力を求める。
 セラ・シルフィング……イクシード3……僕はこの二つを信じてる!! 


 二つの切っ先がテトラの張る障壁にぶつかり続けると、わずかに見える亀裂の兆し。誰もがそんな事あり得なだろうと思ってるのかも知れないけど、でも僕には見える。そしてテトラだって、それを感じてる筈だ。


(あと……少しだけ……もう少しだけ力を!!)


 そう願うと、僅かだけど更に背中から感じる勢いの増加が分かった。だけどそれと同時に、胸回りの防具が、ウネリのせいか砕けて落ちる。けどそれを気にしてる余裕なんかない。僅かに亀裂が入った障壁にセラ・シルフィングが突き刺さると同時に、僕はその腕を外側に振るう。
 二つの剣がそれぞれ別方向に力を加えて傷を押し広げるものだから、テトラの障壁もついにはその機能を失って砕け散った。透明なガラスの様な障壁の断片が舞い散ってる。でもこれで満足なんかしない。
 流星の軌跡を残すセラ・シルフィングの活躍はここからだ! 外側に振るった剣をクロスさせる様に一気に戻し、そのままテトラの体に食い込ませる。そしてその勢いのまま振りかぶって、更に一蹴り入れて、テトラ自体を吹き飛ばす。そしてそれに追いついて再び剣尖を刻む。


「うああああああああああああああああああああああああああああ!!」


 ただ無我夢中にその腕を振り抜いて行く。テトラの反応なんてどうでも良かった。ただこの剣が届いてる。その感触だけで、十分……奴の腕を、足を胴を腰を首を頭を本気で切り落とす気で何度も何度も、力の許す限り振るう。
 そして到達したのは、フィールドの範囲ギリギリ。真っ直ぐ……ただ真っ直ぐ進む事しかしてなかったから、ここで打ち止めか。激しくぶつかった事でこの決闘のフィールドを形作ってる何かが激しくブレた様だけど、壊れるまでは行かなかった。


「ハァハァハァ……っづ!」


限界が近づいてるのか、随分背中のウネリも刀身を回る流星も大人しくなる。片膝を付いて見つめる先には大量の土埃。それにテトラの姿は隠れてる。ざわざわとざわめく周りの空気が伝わってくる。「まさか……」とか、「やったのか?」とかそんな声がチラホラ聞こえてくるけど、実際僕はこれで終わりなんて微塵も思ってない。
 だって本当にテトラがやばかったら、ここに集ってるモンスター達がこんなに大人しくしてるとは思えない。たとえそれがテトラの命令だったとしても、もっと吠えたりしてもおかしくない。それなのに、ただずっと静観してるだけってのがまた……なんか不気味なんだよ。
 それにローレの奴もまだまだ余裕を崩してなんかいない。てか、心配なんか微塵もしてない。そう思ってると土埃の中から声が聞こえてくる。


「良い攻撃だった。思いを乗せた重い剣尖……だが、足りないな。済まないなスオウ。俺は神であるが為に強すぎる」


 そう紡ぐ声と共に、黒い風が吹き抜けて土埃を押しのける。漆黒の髪が見えた……白い生地に金の装飾を施された服を靡かせて……テトラはその場に立ってる。白い服に見える少し焦げついたみたいになってる所が僕の攻撃の後か?


(たったあれだけ……)


 あれだけ……命を燃やしても服に焦げ目を作っただけかよ。これは流石に、少しだけ絶望しそうになる。違いすぎる……力の差が……あり過ぎだ。シクラとやった時だってここまでじゃなかった。それに、最初暗黒大陸でやった時だって……全然本気の欠片さえ出してないとはわかってたけど、あの時は自分も……って思ってた。
 でも元々隠してた実力差は、どうやら天と地ほどの差があったみたいだ。この絶望感は、まさにラスボスに相応しいと考えれば納得だけど……ここで納得してたんじゃ、僕に明日はない。でも一体どうしたら、この場を切り抜けられる? 
 自分が望む形……その方法はやっぱり一つもないのか? 無謀だとはわかってた筈なのに……これは今までなんとかなってたからって、状況を甘くみた結果か。いや、甘く見てたわけじゃない。後悔もも言い訳もやっぱりいらない。
 『示す』その事に命をかけたんだ。ただ、クリエに届けたかったから、僕はこの場を逃げなかった。


(ただ……それだけ!!)


 僕は歯を食いしめて、片膝をついた状態からセラ・シルフィングをまた振るう。


「おっと」


 だけど当たらない。テトラの奴はヒラリと身軽に僕の攻撃をかわす。僕はなんとか届けさせようと、身体に鞭を打って体を動かす。だけど聞こえるのは、剣が虚しく空気を切る音だけ……直ぐそこに居るのに……当たらない。


「恥じる事はないさ。相手が悪かった。ただそれだけだ」


 人の心を読んだ様な事を言いやがって……


「それで……納得できるか!! 諦めちゃいけないだろ!」


 僕はそんな声を上げる。すると呼吸が乱れて、足元がふらついた。そして地面い足を取られて、みっともなく倒れてしまう。


(なんだ……これ? イクシード3なのに……身体がついてかない)


 今までこんな事なかった。なんでこんな大事な場面で……セラ・シルフィングの特徴として、火事場の馬鹿力があるんじゃないのか? 諸刃の剣のHP減少での身体能力アップ。いや……それにも限界があるのかも。でも……どうしてここで。
 僕はそう思いながらもなんとか立ち上がろうとする。すると今度は全身に襲う痛み。関節や筋が悲鳴を上げてる様な……そんな痛みが襲う。


「づっ……づっううううう」


 それでも必死に堪えてなんとか身体を起こす。身体が燃える様に熱い。変な汗が全身から出てるのがわかる。ヤバイな……どうやってリアルに戻るんだろう? なんだかもう、普通にログアウト押すだけじゃ戻れない気がしてきた。
 

「その状態でなにが出来る? いや、例えベストな状態でも、たった一人じゃ何も出来ない。納得出来なくても納得して、そして諦めるしかお前には出来ない」


 そう言ってこちらにその腕を向けるテトラ。するとその腕の先に黒い光が収束して針の様な細さの光線が僕の額に直撃する。


「づぁっ!?」


 超強烈なデコピンでも食らったかのような衝撃。頭が後方に押されて脳が激しく揺れる。体も同時に吹き飛んで地面にまた倒れる羽目に。視界に映る空がぼやける。頭の中で沢山のノイズが発生してるみたいに、不快な音が鳴り響いてた。
 でも……まだ苦しいって感覚はある。これはまだHPがあるって事だよな。でも……完全に遊ばれてる。今の一撃だって、ワザと威力を調整して僕が死なない程度のダメージにしたんだ。あいつの力なら、今の僕を消し炭にする事なんか息をするよりも簡単な筈……それなのにそれをしないでまだ生かしてるんだから遊んでるって言える。


「スオウ! おい! スオウ!! 邪神テトラ、もう勝負は付いてる様なものだ! そうだろ!!」


 アギトの声が聞こえる。必死に僕の為に……だけどそんなアギトに、野太い声がこう言ってる。


「これは決闘だ。それは最初に決めた条件のみで決着が付く。エルフなら、そこら辺詳しい筈だろ? それにあれは大罪人だぞ。エルフの代表付きのお前がそんな事を言って良いのか? 立場を悪くするだけだ」
「−−っつ!」


 確かにその通りだアギト。僕の心配なんてしちゃいけない。今の僕に味方なんていないんだ。僕は必死に腕に力を込めて、ウインドウを開く。アイテムの使用は無制限だ。ならつか…………僕の思考が停止する。
 ウインドウを開いて、アイテム欄を開こうとして気づいたんだ。ウインドウのある筈の場所に、それがない事に気付いた。上方右側の端っこにある筈の『ログアウト』それがない。


「                                                                        」
「使わないのか? 別に止めはしないぞ」


 真白になった僕の頭に、テトラの声が遠くで響いてた。どういう反応して、何を言えば良いのか……わからない。なんで……どうしてこのタイミング。誰にも頼れない、誰も仲間がいないこのタイミングなんだよ。
 僕はそっとウインドウを閉じた。まるで一度夢にでもしたいみたいに……僕はきっと何かを願ってる。そして間違いであって欲しいと、自分に言ってた。そんな訳……ないのに。ある訳ないのに、今みた事を素直に受け入れるなんて出来ない。


「少しでも死に近い方を選ぶか」


 そう呟くテトラ。死に近い方……か。ログアウトがなくなった今、HPがゼロになったらどうなるんだろう? 僕のこの魂は消滅して、眠ってるリアルの体も死に至る。そう考える方が妥当だよな。


「お前がそこまであの子供に入れ込む理由がわからんな。まあ単なる同情だろうが。親も知らず、権力者に利用されようとしてた小さな子供。自分をヒーローにするには持って来いの存在だ。だが良く考えろ。あの子供にそれだけの価値があるか」
「価値だと?」


 僕はその言葉にも反応する。価値ってなんだよ。僕はなんとか上半身だけ起こす。


「お前はあの子供の存在理由を知らない。二人の神の力を持つ子供。あれは厳密にはモブリじゃない」
「モブリじゃない? じゃあなんだって……」
「あれはそもそも命ですらない。俺の力とシスカの力が集まり流す、世界樹が数千年に一度生み出す力の収束体だ。世界樹はゆっくりと余分な力を為続ける……それが限界を迎えた時に、相対してるこちらの世界樹と暗黒大陸の世界樹が神の力を混ぜた存在をこの世界に落とすんだ。
 つまりあれは元々俺の物でもある。なら、どう使おうが良い筈だ」


 クリエが……ただの力の塊だっていうのか? 僕は泣きながらこっちを見てるクリエに視線を流す。あいつがただの力の塊? 命ですらない……空虚な存在−−


「−−っな訳あるかあああ!」
「っつ!?」


 ガツンと言う音が響き、セラ・シルフィングの一本が弾かれて地面に転がる。思わず投げたセラ・シルフィングにテトラは今までで一番驚いてたかもしれない。だけどそのあとに、投げた方の腕に広がる痛み。今の一瞬も火事場の馬鹿力だったけど、ログアウトが無くなったせいか、痛みが今までよりもより、リアルになってる様な気がする。
 今の僕はリアルと薄くしか繋がってないのかもしれない。殆どの感覚をこっちに落としてるのかも。だからこそ痛みがここまでリアルで、この体が血と肉で出来てる様に感じるのかも。今はきっとリアルの身体にはなんの影響もない。
 こっちにすべてが来てる様な物だから。セツリだってそうだった。あいつは怪我がリアルに反映される事はなかったんだ。それはこう言う事だったんだ。どうして僕の方がリアルに影響を持ち越すのか疑問だったけど、それは落ち切ってなかったからなんだ。
 でもこれは……喜べる事なんかじゃ絶対にないよな。僕は痛む方の腕を押さえながらこう紡ぐ。


「命じゃない……訳ない! ちゃんと見ろよテトラ。あいつは泣いてるんだ! それにちゃんと笑えるし、楽しめるし、怖がったり不安になったりだって出来る。ただの力のなんかじゃない! それにお前の理論では半分だけがお前の物だろ。
 そんなのお前が自由に出来るには値しない。もう一人の神の意見を貰って来い!」
「ははっ、無理するなよ。だが確かにな。でもそこはこいつの存在意義が解決してくれる」
「存在意義?」


 そう言えばさっきもそんな事を言ってたな。するとテトラはクリエの方を向いて幾分か優しい瞳をする。そしてこう紡ぐ。
 

「俺の力とシスカの力は相反する物だ。普通は交わらない。だが世界には相反する力が必要で、それをなす為に有るのが世界樹だ。だからこそ世界樹から生まれたアイツは二つの力を宿してる。交わりし力は貴重で、重要だ。神の最後の願いを叶える存在……それがあいつが生み出され続ける理由なんだ」


 神の最後の願い……その為に生み出され続けるのが二つの力を宿したクリエみたいな存在だって言うのかよ。それがクリエの存在意義……それが真実? 瞳を閉じると蘇る。クリエとの出会いから今まで……その全てが神の願いの為だとしても、やっぱり僕は受け入れられないよ。

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