命改変プログラム

ファーストなサイコロ

今を背負う事、未来を解き放つ事



 戦いが始まる。私にとっての戦い。私がどれだけの物を手にできるかを確かめる戦い。それにはこの世界は丁度良い。
 まだ未成熟のこの世界は、リアルほどドロドロしてないし、一年弱の期間しか経ってないから、横の繋がりもそれほどじゃない。
 やろうと思えば、きっと誰だってのし上がれるでしょう。それこそ、バランス崩しに選ばれた私や、他の使い手達以外だって、組織とかをくむことは出来るのだから。
 まあそれがギルドよね。それに何より、ここは誰もが前を向いてる。腐った思惑とか権力への固執とか、そういうのはきっと比較的に少ない。私は例外で。
 上昇志向はあるけど、汚くないこと……みたいな。誰もが自分達の国の発展を進んでやってるし、それに誰もが協力的だ。
 国を開こうとしてるって言うか、みんながこの真っ白――とはある程度下地があるからいえないけど、だけどこのLROと言う世界に、自分を刻もうとしてるんだと思う。
 こういうエネルギーはリアルでは見られないわよね。誰もが生きるために生きてるみたいな……あの虚無感はないわ。
 それにやっぱりリアルで偉くなるにはコネとか賄賂とか、色々と必要なのは当然だし……当然と公には言われてないけど、誰もが裏ではわかってる。
 良い大学に行くのはこれから偉くなるであろう奴ら、それに偉い奴らの子達と繋がりを持つためみたいな物でしょう。
 つまんないわね。私は廊下をカツカツ歩きながら、色々と考えてる。この道の先に既に五種族の代表が集ってる会場がある。


 既存の道を進んで社会の中に組み込まれる。それが私的にはとてもつまらないわ。別に社会を壊したい訳でも、戦争とかを望んでる訳でもないわ。
 だけど……生まれついたからには自分の価値を死ぬまでに確かめたいじゃない。自分に一体どこまでのことが出来て、どれだけの人の記憶に残る事が出来るのか。
 そんな事を試してみたいじゃない。権力や地位なんてどうでもいい。私は自分の知恵と知識と勇気とこの身で、この命が燃え尽きるまでにどこまで高く登れるか、それに興味がある。
 だからこれはキッカケで、予行演習でしかないわ。手始めに手に入れるのは、このLROと言う世界。


「あっ、ローレ様! あの二人はどうしましょう?」


 少し後ろを歩く子がそんな事を言う。あの二人と言うのはきっと大扉の前でこちらを見据えてる二人の事だろう。案外早いじゃない。宜しいわね。


「大丈夫よ。ほら――」


 私も前の二人を見据える。私の言葉で後ろから身代わりの子が顔を出して確認。「あっ」てな声を出した。
 私たちが近づくと、邪神の奴がこんな事を言う。


「随分と楽しそうだな」
「そう見える? まあこれから世界が自分の物になるんだからね」
「随分早計だな。足下すくわれるぞ」
「あら、一体誰が私たちに挑むのかしら? 召還獣を有する私に、世界の恐怖の対象邪神テトラ――刃向かえる奴らなんて早々いないわ。
 だからこそ、ここにノコノコと国の代表が来るんでしょう」


 そう私がいうと、何か含みのある表情で邪神は言葉を紡ぐ。


「風は……もう一度吹くかもだろ?」


 止まらずに歩いてた私の足が、邪神を通り過ぎる間際で止まる。私は確認するようにこう聞くわ。


「どういう意味かしら?」


 すると邪神は含み笑いを返すだけ。「わかってるだろ?」てな感じで。そして視線はちっこいのに向いてる? 私は反対側のクリエに対してこう言うわ。


「もう泣くのはやめたの?」


 私がそういうと、クリエは真っ直ぐな瞳で私を見てきた。純粋無垢……だけどただそれだけじゃない。なんだか強さを内に秘めた様な、射ぬく様な視線。
 まあキツい訳じゃないけど、真っ直ぐに私を見据えてる。


「止めたよ。クリエはもう泣かないの」
「へぇ~、まあピーピー泣かれてもウザいだけだしね。良い事じゃない」


 私は適当にその決意みたいなのを流しとく。実際どうでも良いしね。でも私が再び歩きだそうとすると、クリエは私の足にしがみついてきた。


「何するのよ?」
「クリエは自分で頑張るの! そう決めたの! 聞かせてよ。ローレはノーヴィスはどうでもよくなっちゃったの?
 このまま行ってどうしたいの?」


 それを聞いてこのちっこいのはどうしたいのかしら?


「ちょっと、ローレ様から離れなさい!」
「ガウガウガウ!!」


 引き剥がそうとする変わり身の手を歯を尖らせて阻むクリエ。歯の音がカチンカチンなってる。全くいきなり何を言い出すのかしら。子供ってわからないわよね。
 私はクリエじゃなく邪神を睨む。


(何、吹き込んだのよ?)


 って目を向けてね。だけど邪神の奴は何も言わない。すると脚に痛みが走る。まさか……


「あうあ、あううあああうーーー!!」


 人の脚を噛んでるから、最早何を行ってるかわかんないわよ。てか、服に涎が付くから止めなさいよ。


「全く、飛んだ獣ね。アンタには私の考えなんて理解できないわよ。だって子供だもの」
「ローレらっひぇ、子供ひゃん!」


 あっ、なんかちょっと上手く声を出せる様になってる。流石にさっきのじゃ理解されないと判断したのかしら? 学習能力くらいは持ってるみたいね。でも私を子供とか……


「私は見た目は子供でも、頭脳は大人なのよ。本当の子供のアンタと一緒にしないで」
「クリエらっれクリエらっれ! ひゃんと色々考えてるひゃん!」


 ふ~ん、脳天気に生きてそうだけど。


「クリエはもう! ひゃれも犠牲になんかしたくない! ひゃから、頑張る! ひゃから、ローレの考えを聞くんだもん!」


 犠牲にしたくない……ね。それってついさっき私が言った事を考えて出した結論? 確かにその大きな頭は飾りじゃないみたい。全く……私は大きくため息を吐く。


「考えね。なんだっけ? ノーヴィスとかリア・レーゼはもうどうでもいいだっけ?」


 刻々と頷くクリエ。


「はっきり言ってどうでもいい――なんて思ってないわ。世界樹の傘でも言ったけど、私はこの世界を新しいステージに進めたいのよ」
「ひゃたらしいスヒェージ?」
「わかんないでしょ? アンタには」
「ひょんな事無い! それに大切なひょころ何も言ってないもん! 説明あきらめんな!」


 めんどくさいガキね。


「私はこの世界のモンスターと五種族の対立を終わらせたいのよ。そうしたら世界はもっと平和になると思わない?
 そして今ならそれが出来る。それにそれならどっちかが滅びる必要もなくなる。邪神の奴がここに居るのなら、それだって不可能じゃないでしょ?
 当然、そうなればノーヴィスやリア・レーゼ……いいえ、他の国だってきっともっと繁栄できるでしょう」


 まあそうなったらゲームとしての意味が無いのかもしれないけど。でもミッションだって最終的に求めるのは平和でしょ。それなら問題ないわよね。手順が違うだけ。用意されたミッションという道筋を無視して自分達で短縮する。
 LROならそれにだって対応出来るでしょう。道順なんて、プレイヤーの数だけあるんだからね。すると足下のちっこいのは一言――


「嘘だね」


 ――って言った。何なのこのガキ。ムカつくわ。


「どうしてそう思うのよ。今のは私の本心よ」


 三割くらい。


「それはきっと最後にはそうなる……てか、そうしようとしてるだけに思えるもん。ローレが欲しいのは、みんなが求めてる平和じゃないってクリエ感じる!」


 案外鋭い? いや、子供の妙な感覚って奴かもね。


「確かに、実は平和なんてどうでも良いわね」
「やっぱり」
「だけど世界を不幸に落としたい訳でもない。これは本当。それに基本的に良い方向に転ぶと思ってる。まあそこの奴がちゃんと協力してくれたら……だけど」


 私は邪神に顔を向ける。すると下のちっこいのがなぜか声を出す。


「大丈夫。テトラはクリエが止めるもん」
「それは……期待してないわね」
「むむー!」


 さらにガジガジと人の脚を噛み噛みしてくるクリエ。そもそもあんたの何に期待しろって言うのよ。まあ元老院を脅して吐かせた情報はあるけど……私にはハッキリ言って必要ない事だ。
 てか興味もない事だったしね。邪神は何か確信めいたみたいだけど……私たちが余りにも直前でモタモタしてるからか、先に行ってた給仕モブリが扉を開けて催促してくる。


「ローレ様、皆様お待ちですよ」
「わかってるわ」


 私はしょうがないから無理矢理チッコいのを引き剥がす。具体的には脇をコチョコチョくすぐってやった。


「むむー不覚!」


 何よその時代劇みたいな反応。一体どこで覚えたのやら。


「取り合えずアンタは部屋に戻ってなさい。必要ないから。邪神は来てもらうわ。クリエの事、逃がしちゃダメよ」
「お任せあれ!」


 私の言葉に元気に挨拶する身代わりモブリの子。大丈夫かしら? ちょっと不安だわ。


「さあ~クリエ、一緒に遊びましょう」
「いやだ~、クリエも行く~!」
「あらら~残念ね~。とっておきのオヤツや遊びがあるんだけどな~。今流行ってるものっすごく面白い遊びなんだけどな~」
「にゃにゃ!?」


 どっかの変な触手が反応しだしてるクリエ。なんだか大丈夫っぽいわね。そういえばどっちもアホだから気が合うのかも知れないわ。
 私たちはこの隙に扉の向こう側に。広い空間に、豪華なシャンデリアとかで飾られた部屋。その中央に一段高い壇上。そしてその周りに、それぞれの国の代表方が座ってる。それぞれの国の旗を後方に掲げての席。分かりやすくて良いわね。
 まあ私がやらせたんだけど。色々と席とか考えたのよね。どっちが前とか後ろとかうるさそうじゃない。そういうの気にしない奴が居るとしても、気にする奴もきっといそうだし。
 だからこの配置。中央の壇上にはもちろん私。この場に代表を収集した張本人だし、それは当たり前でしょう。そして五角形の角それぞれに、国の代表者達。


 なんだか強そうな側近をそれぞれ連れてるわね。たった二人なのはモブリとエルフだけ。自信があるって事なのか、人員不足か……まあモブリは人員不足でしょうね。教皇とアンダーソンだけって何かあっても……って言うより、何か起こせそうよね。
 一番見た目的に弱そうなんだから、そこら辺は見栄を張りなさいよ。だからモブリって他の種族にペットみたいな扱いされるのよ。
 それになんだか、アンダーソンの婆さんがキツい視線を送ってくる。まあいつもの事だけど。私たちはお互いに大嫌いだものね。
 その視線はかる~く流しとく事にするわ。今は小言を聞いとく暇はないの。そして同じような視線を送ってくる二人はエルフのお姫様とその従者ね。
 熱い視線だけど、そこまでまだ嫌われる事したかしら? ああ、そういえばスオウはアルテミナスに深く関わってたかしら。だからこんなに睨まれてるわけ? ちゃんと助けてあげたじゃない。
 後はなんだか人間・ヒューマの代表の後ろに行る奴ら怪しすぎ。腕の先まで包帯で覆われてるし、黒いフードで顔隠してるしで、怪しさ満点越えしてる。
 なんかきな臭い奴ね。だけど警戒なんてみっともないことはしないわ。私は堂々と、そして優雅にこの姿を見せつけて壇上にあがるだけ。


 壇上にあがると同時に、私は自身の髪を一度大きくかきあげる。ふわりと盛大に宙で靡く金髪の髪。それが元に戻った所で、口を開く。


「お待たせしました皆さん。では単刀直入に言いましょう。私が真のローレであり星の御子。これが邪神テトラです」
「「「「「………………………」」」」」


 余りにもあっけなく言ったからか、周りの反応が余りに薄い。てか、思考が追いついてない感じだ。私はしょうがないから、邪神にこう言った。


「アンタも何か言いなさいよ」
「しょうがない奴だな。よく聞け貴様等。我こそが邪神テトラだ。神を拝めた事を感謝するんだな」


 するとようやくザワザワとしだす。本物かどうか……それを見極めたいんでしょう。
「星の御子……モブリじゃない? いえ、姿形はこの際どうでもいいです。どうして世界樹を枯らしたのですか? そしてどうして邪神と共に貴女がいるのですか?」


 そう言ったのはエルフの姫様。


「確かにそれは聞きたい所だ。シスカ教の御子様が、何故邪神の復活を許し、あまつさえ行動を共にしてるのか? 納得出来るだけの理由があるんだろうな?」


 エルフに続いたのは人。しかも威圧的な態度。こいつ嫌いなのよね。女の事を男に劣る存在っていかにも見てるもの。そう言う所が大嫌いなのよ。
 まあだけど今は我慢しといてあげるわ。どうせ直ぐにひれ伏す事になるのだから。そのいかにもな筋骨隆々な体がひれ伏す様はさぞ滑稽でしょう。
 今から楽しみでならない。


「納得ね。それはどうかしら? だけど別に納得なんて私は必要としてないわ。だって邪神は今ここに居る。その事実は受け止めてるわよね?」


 そう言って私は周りを見回す。それぞれが邪神を見てるけど、実際まだ半信半疑なのだろう。異変は確かに起こってる。だけどそれをここに居る邪神――と宣言した奴のせいには出来ないと……確信が持てないんでしょう。


「儂等を納得させる必要がない……それなら何故にここに儂等を集めた?」


 重低音な声でそう紡いだのはスレイプルの長だ。バランス崩しを所有してないスレイプルは唯一長がNPCなのよね。
 話が通じる相手なのかどうか、実際一番難しい気がしてる。まあだけど質問には答えてあげるわ。


「そうね、まずはちゃんと集まるかの確認。自分の影響力の確認。そしてあなた達の危機感の確認……かしら?」
「危機感……暗黒大陸との境はなくなってこの世界にも凶暴で凶悪な太古の魔物共が解き放たれた。それを指しての危機感ですか?」


 伸びるような声、力強くそしてよく通る。それはウンデーネの女王だ。過度に露出してメロンみたいな胸部の脂肪をブルンブルンさせてる。
 まあ水の中に居る種族だし、布の少ないの服を好むのはわかってるけど、あの胸はなによ。当てつけ? ペッタンコな私への当てつけか。
 見てるだけでイライラするから、こいつも嫌いね。でもまあ、この会談で立場がハッキリするだろうから、その時はその胸を垂れるまで揉みしだいてあげるわ。覚悟しときなさい。


「どうしましたか星の御子? 質問には答えてください」


 余りにもあの胸が憎たらしくて言葉を忘れてた。後ろの甲冑を身にまとった護衛がまた、厳しい視線を向けてるわ。でも奴らは私へじゃなく、邪神に向けてるんだけどね。


「はいはい、えーとまあ危機感はそんな所ね。自分たちの国が、世界が危ない。そう思えたでしょう? てか、バランス崩しを持ってる貴方達なら、誰よりも早く世界樹の異変には気づいたはずでしょう?
 だからこそ、危機感も人一倍強かったはず。他の国にバレたくはないわよね? バランス崩しの力が弱まってるってこと。でも現状は把握したい。後手には回りたくない。だからこそ、ここまで来たんでしょうけど……残念。貴方達は既に後手でしか行動できない。
 私の言葉に応じて、こんな所にノコノコやってきた時点でその確信があるわ」
「なんじゃと貴様! 世界の柱を枯らさせただけで重罪じゃ。守りの役目がある御子が、闇の力にたばかれおって!! 儂等は貴様の言いなりに集まったんではないわ!!」


 そう言ってスレイプルの爺が腕を掲げる。するとそこに鉱石が現れて、一瞬で巨大な斧に形を変えた。スレイプルお得意の鉱石操作ってやつね。だけどあれって一瞬で原石から武器を作れる力だったかしら? NPCでも流石は一つの国の長って訳ね。


「物騒な物を出して、それでなにをやる気かしら?」
「なにをやるじゃと? そんなのわかりきっておることじゃろうて。貴様の首をはねて、世界樹に捧げる。その魂を生け贄に捧げて復活させるのじゃ!!」


 その叫びと共に、後ろに控えてた別のスレイプルが長の生成した武器を手に取り、私に向かってくる。全く血の気が多い奴らね。汗くさいし、暑苦しいのよ。
 それに職人気質で頑固なのもうざったいわ。正直スレイプルも私嫌いなのよね。大きくジャンプして、私の頭上からその斧を降りおろして来るスレイプル。だけどそんなのは届く筈もない攻撃よ。
 だって邪神がいともたやすくその斧を叩き壊すんだからね。


「んな!?」


 席でその様子を見てたスレイプルの長がそんな声を出して驚いてる。だけどその様子に私がビックリよ。だって本当に通用するとでも思ってたのかって感じ。


「なんだか随分見くびられてるわね私たち」
「しょうがないだろう。信じろと言う方が難しい。誰しもが都合の悪いことは目を閉じ耳を塞いでたいものだ」


 武器を無くしたスレイプルを適当に突き飛ばしてそう言う邪神。地面に倒れたスレイプルは怯えながら長の方へと戻ってった。


「さて、これでわかったでしょう。貴方程度の力じゃ私達には傷一つつけられないって事が。周りの方々も邪神の機嫌をなるべく損ねない方がいいわよ。
 言い伝えは知ってますよね? こう見えて、いつ暴れ出すかわからない存在です。そして一度暴れ出したら、この世界は闇へと墜ちる」


 周りの空気が重く、暗くなる。あわよくば倒してしまうおう……そう言う考えの奴らは他にも居たのかも知れない。
 でもこれで下手には動けなくなったかしらね。まあ後動きそうなのは、人の方くらいだけど……そう思ってみてみると、何か自信満々な顔してる。
 むさ苦しい中年のオッサン顔で、無精髭にタンクトップ。その上から無造作に羽織ってるだけの豪華なコート。髪は短めでツンツンしてる。肌は日に焼けた感じで浅黒く、端から見ると完全に土方の人だ。
 てかコートなかったらそうとしか見えない。私の視線に気づいたのか、口の端をニヤリとつり上げるそいつ。なんかゾクっとする。気持ち悪い。


「闇へと墜ちる……か。確かに邪神の力はそれだけ凄まじいものなんだろうな。だが実際まだ世界はいつも通りでもある。これはどう言うことだ? まあそれが貴様がそこで偉そうにしてる理由ではあるんだろうがな嬢ちゃん」


 嬢ちゃんとは言ってくれるじゃない。なにを企んでるか知らないけど、あんた達はなにも出来ないわ。自分達の国をもって、そして背負ってるあんた達にはね。
 選べる物は共存か対立……だけど対立は悪役になるって事よ。それを今教えてあげるわ。


「そうね。邪神は私と取引してるわ。だからこそ、この世界はまだいつも通り。多少の天変地異は暗黒大陸とここが繋がる為の物だから仕方ないわ。
 でもまだ向こうのモンスターが大々的に襲ってきたりはしてないでしょう。それもひとえに邪神の存在あってこそよ。
 私達はこの世界でモンスターと戦って土地を切り開いて来たわけだけど、それも終わるかも知れないって事よ。邪神の力と言葉で、モンスターに新たな使命を書き加える。
 そうすることによって終わり無き戦いは終わりを告げる。その約束を私達はしてるわ」
「約束……取引の内容は?」


 エルフのお姫様も良い食いつきようね。


「それは簡単、邪神の願いを叶えてあげること。まあそれは勝手にやってくれるから、私達は邪魔さえしなければいいのよ。その約束をここで皆さんにして欲しい」
「口約束で良いのか?」
「そんなまさか、神との契りを交わして貰うわ。絶対不可避の神との契り。破ったらどうなるかはわかるでしょう?」


 鋭い視線が私に一斉に向けられる。ゾクゾクするわね。


「邪神の願いというのは何だ? それ次第だ」


 人の長が背もたれにドサッと自身の体重を掛けながらそう言う。確かにそれはそうね。教えてあげないといけないわよね。
 でもきっと拍子抜けしちゃうと思うけどね。私は語る。光り注ぐ会場で、その言葉を悠然と。

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