命改変プログラム

ファーストなサイコロ

向く場所、向かう場所



 さて、みんなの意志も合致した事だし、僕たちも動き出さなければいけないだろう。ここにはローレ達は居ないらしいし、目指すは五種族の長が集まって開かれるという、会談の場所だ。


「んで、どこなんだっけそれ?」
「確か中立の街で開かれるって聞きましたよ。『ノンセルス』のどこかだったはずで」
 ノンセルス……それって確かアルテミナスでドタバタやってたときに、ちょっとだけ世話になった街だよな。確かNPCだけの街だった様な。でもあそこって確か……


「ノンセルスって三つあって暗黒大陸を囲む様にあるって事じゃなかったっけ?」
「そうですね。ノンセルスは比較的暗黒大陸に近いです。だからそこでやるのは結構ビックリですね。重要人物達が集まるのに、何かあったら……」


 そう紡いでたシルクちゃんの横からセラが入ってくる。


「その為の邪神ですよきっと。ローレは邪神の影響力を彼らに見せつける気なのかも」
「なるほど、それは確かにあり得るかも知れないね」


 セラの言葉に納得するシルクちゃん。確かにそれを見せつける事は効果的かも知れないな。一気に他の国や種族を牽制出来る。
 あの場所に居なかった人たちは、実際邪神がどんな物か、わかってないだろうしね。それにテトラの奴は、見た目だけじゃ僕たちと殆ど変わらないし……あれ? でも既にローレの奴は今回集めてる奴らと接触したんじゃ?


「接触はしてないわよ。あの後、一方的に首脳陣にメッセージを送ったって聞いたわ。そのせいでアルテミナスはてんやわんやよ。
 まあきっと、それはアルテミナスだけじゃないでしょうけどね。だからこそ、現状把握の為にもどいつもこいつも集まってくるのよ」
「そういえば、そうだったかな……」


 アギトから聞いたかも。うん、多分そんな感じだったな。あの戦闘の少し後に、邪神復活の知らせがローレから直接来たって言ってたと思う。どうしてそんな直通通信が出来るかは謎だけど、まあ邪神にローレだ。
 なんでも出来そうな気がするよ。


「思うんだけど、この会談で世界中に邪神復活は宣言されるんじゃないのかな? 世界の異変には誰もが気付いてるだろうし、ローレ様は邪神さえも使い倒すと思う」


 テッケンさんが冷や汗を垂らしながらそういう。確かにあいつはそういう奴だ。でも世界中に邪心復活を宣言ってそれはヤバいだろ。


「そこで更に、邪神に危険がないと示すんじゃないのか? 五種族の代表ともども、その輪に入れば、アイツはもう世界の認識として同列になれる。
 いや、同列なんかアイツは望んでないか。やるなら頂点に立てる様にやるはずだ」


 鍛冶屋の奴の言うことも尤もだな。ローレは他の誰かと同じ場所に立つ気なんかサラサラない。上へ上へと目指してるんだ。


「自分を全面に押し出して来るかもな。これまでは変わり身を立てて裏で裏でコソコソ動いて来た訳だけど、今や邪神と言う大きなアドバンテージをアイツは手に入れてる。
 LROはローレの手のひらの上といっても過言じゃない。アイツは元々星の御子って特殊な位置だし、かつぎ上げられる要素はある」


 きっとこの会談で何かを企んでるのは間違いないな。すると今度はなかなか輪に入れなかったノウイが声を出す。


「あのあの! いつまでもここで会話してるより、早くその会談場所に行った方がいいと思うっす!」
「そんなのわかってるっての」


 そうしたいのは山々だけどさ、飛空挺って出てんのか? だって見れば見るほどリア・レーゼはボロボロだぞ。そもそもよく考えたら、着水場とかないよなここ。
 最初来たときは、ほぼ墜落だったから、気にしてなかったけど、いつもはどうやってるんだ? 実は世界樹の枝をクッション代わりにしてたとか? 実際下の街には降りる所なんか無いからな。
 戦闘中に見た、あの取り付きがリア・レーゼでの普通なのかも。でもそれだと、今はどこにも飛空挺がいないという……


「おい、サン・ジェルクの艦隊とかどこいったんだ?」


 めっちゃ一杯来てたじゃん。跡形もないよ。するとノウイが簡単にこういいやがる。


「そんなのとっくに帰ったっすよ。てか、多分あの艦隊と共にローレとか邪神は外に行ったと思うっす」


 何? ノエインやアンダーソンも向こう側なのか? でもアイツ等こそ生粋のシスカ教信者だろ。そう易々と邪神につくとは思えない。
 そして更に僕はもう一つ気付く。


「そういえば、リルフィンの奴はどうしたんだ?」


 今や捨てられた犬みたいな存在だろ。召還獣の癖に主に捨てられた――って言ったら怒られるか。アイツは自分が捨てたんだって言ってたしな。


「リルフィンさんは全然見てないですね。どこに行ったんでしょうか? 心配です」


 シルクちゃんは優しいな。それに比べて――


「きっと自分の無能さに嘆いてるんじゃないですか? はっきり言って役立たずでしたからね。アイリ様をバカにするから、哀れな事になるんですよ」
「そんな!  ダメだよセラちゃん。リルフィンさんだって頑張ってたよ。助けられた時だってあったよ」


 シルクちゃんは頑張ってリルフィンをフォローする。確かにちょっと目立て無かったけど、頑張ってたよ。僕は知ってるさ。最後は二人で頑張ったしな。
 するとシルクちゃんには弱いセラ。少しだけ同情めいた事を口ずさむ。


「まあ、流石に今の状況はちょっとキツいとは思います。私なら身を投げるかも知れないですね」


 過剰になりすぎだろ!? 確かに自分に置き換えたらかなりキツいけど、それでも身を投げるって……投げるって……でもそう言われれば、もしかしてって思える。
 だって誰もアレから一度もリルフィンの姿を見てないんだよな? 僕はみんなを見回すよ。誰も「見た」って人は居ない。
 これはもしかしたら、もしかするのかも知れない。思い出してみれば、それだけの衝撃を奴は受けてたんだ。ずっと苦しんでた筈なのに……自分ではローレを止める事は出来なかった。
 そこでアイツは自分の存在価値を見失ってもおかしくは……僕は拳を握りしめてこう呟く。


「まさか本当に……人知れず消えて行ったのかよ……リルフィン」


 僕のそんな言葉で再びイヤな沈黙が流れる。誰しもが何を言えば良いのかわからない。するとその時、僕達の頭上に影が落ちる。周りから聞こえるモブリ達の驚きの声。


(なんだ?)


 そう思いつつ上を見ると、いきなり近くでダン!! っと激しい音が。思わず視線がそちらに移る。空から降ってきたそいつはなんだか黒い変な模様のコートを羽織ってる――って、この小汚いコートの主はまさか!


「ようやく来たか。遅いぞ貴様等」
「リルフィン! 生きてたのか!!」 


 僕は思わずそう言っちゃった。当然リルフィンの反応は「はあ?」てな感じだった。心外なんだろう。


「貴様等、俺がどうなってたと思ってたんだ? 行っとくが俺はまだ諦めてなど居ない。俺はローレ様の傷害にならないとダメなんだ。
 まあ今の所はローレ様の言ったとおりではあるがな」


 そう言って哀愁漂う表情を見せるリルフィン。実際こいつが立ちはだかる意味があるか……自分の中で自分自答してるのかもな。
 邪神は案外話せる奴だったってのも大きいんだろう。


「リルフィンさんも、まだローレ様に立ちはだかるんですね。でもどうして? いつだって戻れるって思いますけど」
「宣戦布告したからな。俺は立ちはだかるとか言ってるが、自分のわがままを通してるだけだ。このまま戻っても、召還獣と主でしかないじゃないか。
 俺は友としてありたいんだよ」


 友であるために立ちはだかる。邪魔をする。間違いを正すって意味でなら、それもあり得ると思う。けど自分でもローレの考えは今のところは間違いじゃないって認めてるよな。
 残るのは自分に気を向いてほしいって部分だけじゃね? まあそれをローレは認めてるか……んで、アレは一体どうしたんだ? バトルシップが、本殿外周の上空に停滞してるぞ。


「お前……アレは?」
「借り受けてきたんだ。教皇からな。お前たちを会談場所へ連れてきてほしいとな。その気があるのなら、乗せていってやるぞ。
 正直、数は多いに越したことはない」


 おいおい、絶対に物騒な事考えてるよこいつ。いや、それは僕達もなんだけど……


「おおラッキーっすね。流石教皇様は太っ腹っす!」


 脳天気にそう言ってはしゃいでるノウイ。するとテッケンさんが質問する。


「教皇様たちは先に会場に向かってるのかな?」
「そうだ。本当は俺もその船に搭乗させて貰う気だったんだが、何故かお前たちを迎えにいけと言われた。必ず来るだろうから――と言ってたぞ」
「ノエイン……」


 僕達はなんだか胸に熱い物がこみ上げる。あんなに助けて貰って……それなのに失敗した僕達をまだ信じてくれてるんだ。そう思うと……どうしても胸が熱くなる。良い奴だなホントに。
 上に立つには不便かもしれないけど、そのままでノエインには居てほしい。間違ってもローレの様にはなってほしくないね。
 そう思ってると、本殿外周に降り立つバトルシップ。誘うように開く中へ通じる扉。


「行くぞ。目指すは『ノンセルス1』だ。そこの迎賓館で会談は行われる」


 なるほど。僕達はお互いの視線を交差させてアイコンタクトをかわす。そして頷いて、リルフィンの後に続いてバトルシップの中へ――行こうとしてたら、ボールが転がってきた。
 転がってきた方を見ると、小さなモブリの子供の姿……僕はその子たちにボールを返してやる。


「ありがとう!!」


 そう言って笑ってくれる子達。すると一人の子供モブリがバトルシップを見ながらこう言った。


「お兄ちゃん達、お空の遠いところ行くの?」
「うん? ああ、まあそうだな」


 すると他の子たちもなんだか加わってきて言葉を掛けて来る。


「ねぇねぇどこに行くの?」
「私も飛んでみたい! 乗ってみたい」
「アレって早いの~?」


 わいわいガヤガヤと周りにガキどもが……その様子を見てたセラが、横から笑ったような声を出して言ってくる。


「ふふ、アンタって意外と子供に好かれるのね。まあクリエもそうだったけど、ちょっと意外ね。アホ面してるからかしら?」
「おい、どういう意味だそれ?」


 子供達の警戒心をアホ面が緩和してるとでも言いたいのか?


「ほら、子供は危ないからもっと遠くで遊んでなさい。あんまり近づいちゃダメよ」


 セラの奴は僕の言葉は無視して、子供達を追い払う様なことを言う。こいつはこいつで意外と子供の安全って奴を考えてるんだな。
 だけどそこは子供だ。結構デリカシー無い事言い出す。


「ああ~メイドだ! メイド!」
「ご主人様って呼べーーー!」
「可愛い服ですね~」


 どうやらセラの格好は子供にとって良い獲物だったみたいだ。めっちゃ引っ張られりしてる。ヤバいって、そんな事やってたらキレられるぞ。そのお姉ちゃんは僕とは違っておっかないんだからな。
 既にプルプル震えてるもん。するとダン!! と地団太を踏むセラ。そして殺人危も怖がる瞳で子供を見下げる。


「あんた達……私にご主人様って呼ばせたいのなら、それだけ価値のある大人になりなさい。まあ直ぐに大人にはなれないから、せめてこれだけ理解しなさい。
 聡く賢くあらないと――――――――――ね」
「「「あい」」」


 おいおいおいおい、超びびってるじゃねーか。怖いよ。一体子供に何をさとらせてるんだ? 


「お前な、子供ビビらせてどうするんだよ」
「良いじゃない大切な事よ。社会で生きていく上では、他人の踏み込まれたくない場所って奴を察知しなきゃでしょ? だからこれ以上は来るなって教えてあげたのよ」


 何爽やかな顔して難易度高い事言ってるんだよ。それを子供に理解させるのは酷だろ。てか、そんなの子供の内から気にしちゃダメだと思う。そう言うのって子供の内はズガズガ他人とかかわり合いながら、大人になっていく内に距離感って奴をつかんでいくんじゃねーの?
 子供のやることにはもうちょっと寛大になってほしいよね。涙目でプルプル震えてる子たちは流石にちょっと可哀想。僕はしょうがないからフォローしてあげる事に。


「大丈夫、別にこのおっかいないメイドは怒ってる訳じゃないんだぞ。ただこういう不器用な性格ってだけ。まあ取り合えずはお前たちは気にせず遊んでな。
 バトルシップに近づきすぎないようにな」
「「「うん……」」」


 元気なさげだけど、少しは持ち直したかな? 子供達は互いの手を引いて走ってく。すると一番後ろを付いて走ってってた女の子がふと振り返る。
 どうしたんだろうか?


「ねえお兄ちゃん。遠くに行くのなら、ローレ様にも会う?」


 コテンと首を傾げる可愛らしい仕草をするその子。とっても可愛いけど、その質問はちょっと返答に困るな。ローレに「会う」なんて偶然は期待してない。
 だって僕達はローレに立ち向かいに行くんだからな。さてどう答えようと思ってると、子供達は全員でこっち見てるじゃないか。
 何か期待されてるのかな? そう感じたから、僕は質問に質問で返すよ。


「ローレ――様に戻って来てほしいのか?」


 危ない危ない。いつもの癖でローレって呼び捨てる所だった。子供の前だから癪だけど様付けしてやるよ。するとそんな僕の質問に彼女は元気に頷く。


「うん! だってみんなローレ様の事大好きだもん! 信じてるの! 世界樹が黒くなってみんな不安がってたけど、初めてその姿を見せて『心配ない』って言ってくれたの。
 そしてそのままお空に飛んで行っちゃった。早く戻ってきてくれたら嬉しいよ!」
「…………そっか」


 無邪気にそう言う子供達の姿が眩しく見える。きっとそのローレは身代わりの方だよな? この子たちはまだこんなに……いや、リア・レーゼの人達はローレをまだ信じてるのかな? 大人の人達は世界樹が黒くなったことをどう思ってるのだろうか? 世界の終わりだーって発狂してる奴がいてもおかしくないと思うんだけど。
 それだけ信仰に厚い人達がいるはずだしな。でもそれでもローレの言葉を信じて、街の復興をしてるのだとしたら、幸せ者だろあいつ。
 あんな好き勝手やってるのに、信じ続けてくれてる人達がいる。きっとリア・レーゼの人達は、世界樹が枯れてるのを目にしても、ローレが居たからこうやって前を向いてるんだよな。
 同じ前を見てる……とここの人達はきっと思ってる。でもそれは違うんだ。ローレはリア・レーゼだけを見てる訳じゃない。
 アイツはこんなちっぽけな街一つじゃ、全然満足なんかしてない。アイツは世界中の人達を自分の信者にする気だぜ。
 まあその野望は自分に関わりなかったら、別に勝手にやってて貰ってよかったんだけど……でもアイツの道をそのまま進ませたら、クリエの願いが阻まれる。
 だから無関心ではいられない。


「おい、何やってる? リルフィンがさっさと乗り込まないとおいていくと言ってるぞ!」


 バトルシップの方から鍛冶屋が顔を出してそんな事を言ってる。もう行かないとな。リルフィンの野郎は、マジで僕達をおいて行くおそれがある。
 僕は子供達にこういう事にしたよ。


「じゃあ、もしも会えたらそう伝えるよ。お前たちの気持ち。ちゃんと伝えてみる」
「うん! ありがとうお兄ちゃん! それと……メイドのお姉ちゃんも」


 不意にそう付け加えられたから反応に困るセラ。でも子供達は既に満足したのか、とっととボール遊び再開してたよ。
 僕達は今度こそ、バトルシップに乗り込んで、目指すはNPCの街『ノンセルス1』だ!!




 LRO内でもっとも長い運河『コラッド大運河』に面した森中の遺跡のような街。まるでアンコールワットを模したようなデザインの建物が軒を連ねて、森の中に一つのコミュニティを形成してる。
 いつも以上に賑わう町並み……そこにはNPCも冒険者も多数居る。どうやらここで行われる会談とかに興味を持った奴らが集まってるみたい。そう思いながら高い建物から見下ろしてると、運河からいきなり氷で出来た様な船が浮上して来た。
 あれはウンディーネねきっと。とことん水の中が大好きでイヤになっちゃうわ。だってあいつら直ぐに乾燥してる~とか言ってくるんだもん。それに手を触れただけでピシャって水が弾けるし……瑞々しすぎるのよ。
 それにやけに目立ってる。なにアレ? パフォーマンスのつもり? なんだか感嘆の声とかあがってる。


「むかつくわ~」


 そう思ってると微妙に床が揺れてるような……


「わわ、地震ですかローレ様?」


 そう言うのは私の身代わりのモブリ。まあまだ一応この子が世間的にはローレな訳だし、居ないわけには行かないでしょう。
 でも既に身代わりなんて必要ないかもっても思ってる。でもまあ……まだね。お茶を持ってきてくれた彼女のカップはカタカタと揺れてて、そして次第にその振動は大きく強く。そしてそれは街全体にも広がってた。
 でもこれは地震って感じじゃない。私は振り返り森の方をみる。するとビックリ、山が一つまるまる動いて来てるように見えるんだけど……


「わわ、なんですかあれ? 汚いですね」
「汚いは言い過ぎよ。無骨なのが格好いいって思ってるんでしょ? 汗くさそうなスレイプルにはピッタシな住処じゃない。
 ようはアレが噂に名高いスレイプルの移動要塞であり移動都市『剣山』ね」


 はじめてみたわ。だって、スレイプルを選択しないと、いけないのよね彼処って。他の種族には未知の領域。なんだか山の皮を被ったカラクリ機械って感じね。無数の足がガシャガシャ地面を踏みしめてる。
 あれじゃ中は振動で大変な事になってそうだけど……実際は胴体部分はほとんど揺れてないところをみると、そうでもないのかしら?
 流石個性が強すぎる二つの種族。悪く言えばマイナーで人気がない種族ね。でもその登場の仕方は一級品じゃない。他の三国は揃いも揃って飛空挺だし、面白味に欠ける。
 いえ、モブリは良いわ。飛空挺はそもそも私たちの技術だしね。だけどエルフと人は頂けない。まあエルフは土人だから仕方ないにしても、人の国は魔法に頼らない技術があるはずでしょ。
 でもそれじゃあリアルと変わらないって感じなんだけど……確か少し前から『錬金術』って奴を研究しだしてるって聞いてた。
 でもそれっきりで、ここにも普通に飛空挺できたってことは、上手く言ってないのかしらね。
 うぷぷ、良い気味じゃない。


「あっ、ようやく止まりましたね」


 確かにようやく振動がなくなった。だけど……


「アンタ盛大にこぼしてるわよ?」
「ああ!? うう……ごめんなさいローレ様」


 そういって肩を落とす彼女。急いで拭こうとすると、今度はつまづいてズッコケる始末。


「あう~」
「やっぱり座ってないとだめね」
「そ、そんな事ないです。私はずっとローレ様の側に居るために頑張ります!」
「別にまだ必要なくなるかわかんないよ?」


 自分のお役御免のその時の為に色々と頑張りだしてるみたいだけど、この子は元来のドジッ子体質だからね。厳しいな。
 だけど何に対しても一生懸命な所は好きよ。そんな彼女は必死にコボレたお茶を拭いてる。


「ねえ……邪神と居て怖くないの? それに邪神とともに居る私を疑わないの?」


 すると彼女はバカっぽい笑顔を向けてこういった。


「信じてます! 邪神が復活しちゃったし、それなら下手に戦うよりはって考えですよね! 不安だし怖いけど、私もローレ様の力になりたいんです」


 都合の良い解釈ね。まあ、勝手に思ってればいいわ。するとノックと共に開くドアから、姿を現す給仕モブリ。


「ローレ様、準備は整ってます」
「そう……じゃあ行きましょう」


 ヒールの音を響かせて、私は私の戦場へ向かう。さあ世界の偉い人達を相手取りましょう。

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