命改変プログラム
アウラが吹く
再び生えた黒い光の柱……枯れる世界樹……やられたみんな……思いを違えたローレ……今も尚信じてる筈の下の人々……いろんな事を思いながら、僕は頂上を飛び越える。
イクシード3の力によってだ。
「やっぱり来たわね。ふ~~ん、それがアンタの最後の切り札って訳ね」
黒い光を背にして、ローレがそんな事を言う。僕はそんなローレを見据えて言葉を返す。
「ああ、これがイクシード3。この力で、お前を止める!」
そう言いつつ、冷静に状況判断。実際、ローレの奴がこの陣を発動してる――と思ってた訳だけど、ローレの奴は別に何もしてないっぽいぞ。
だって何かやってるのなら、こんな風に喋れない筈だ。あのモブリ聖獣でさえも、この陣を維持する為に余裕をなくしてた位だぞ、
だから今の余裕たっぷりで優雅にしてるローレはいつも通り過ぎる。僕を落とす前に詠唱に入ってたな……新たな召還獣を呼んだとしたら、きっとそいつがその役を引き受けてるんじゃないだろうか。
そう思ってると、何かが向かって飛んで来た。
【主!!】
そんな声を放ち、エアリーロがそれを風で吹き飛ばす。
(あれは、リルフィンの武器――)
視線がそちらに移ってる時、世界樹の枝が一つ激しく折れる。そんな音に反応して視線を戻すと、激しい咆哮と共に、ローレを巻き込んで土埃が上がった。
【主! ちっ、メノウの奴も何やってる!】
【今の咆哮はフィンリルでしょう。その効果は私達にも届きます。幾ら時を操作出来るといっても――おっとこれ以上はまずいですね】
イフリートの憤慨する言葉にエアリーロが返してた訳だけど、こっちを意識してか、その言葉をやめやがった。何か重要な事を言いそうだったのに、エアリーロの奴はやっぱ賢いな。
イフリートだったら言ってただろうに……惜しい。だけど気になる事は口にしてた。今の咆哮がリルフィン……まあ確かに、この場に居るメンツであんな野生的な叫びを上げるのはアイツ位だけど……リルフィンも下でやられてた筈だ。
こっちに無関心に……ってか気を失ってた風だったけど、あの状態でどうやってあんな動きしてるんだよ。リルフィンだって既に瀕死状態の筈だ。
それをいったら僕も実際にはHPはレッドゾーンでそうなんだけど、僕の場合はこれもセラ・シルフィングの特性なのかどうか知らないけど、HPが減ると逆にポテンシャルが上がってる気がしなくもない。
まあ大体は気合いで無理矢理なんだけど……あのみんなの状態を見たら、もしかしてそれだけじゃなくて、僕が瀕死状態でこれだけ動けるのは他の要因があるんじゃないかって思ってきた次第だよ。
まあきっとあるんだろう。普通はHPが減ると動きは鈍く緩慢になる。システム的に、付加がかかるんだ。だけどイクシード状態の僕にはそれがない。苦しくはあるけど、システムの付加からは解放されてる。
それは実はとてもありがたい事だよ。こうやって何度も何度も僕が立ち上がってこれたのは、こんな特性のおかげだ。まあそれでも限界……ってのはあるわけだけど。イクシード3はその境界が脆くて弱い。
綱渡りの感覚で、その綱を境界に張るために必要なのが、自分の命みたいな……イクシード3は自分自身をLROに透過してる……そう思う。
僕は背中のうねりを支えに空に浮かんでる。両の手のセラ・シルフィングには光の流星が丸い軌道を描き回ってる。そして刀身は深い宇宙のこの色と同じになって、星々の光の部分が光ってるんだ。
僕は煙が立ち上る場所の中心を見据える。
「リルフィン……」
どうなったんだろうか? 煙が晴れない事には状況がわからない。そう思ってると、煙が薄くなってきたのか、僅かに影が見えた。そしてその影から二人の実体が出てくる。
するとハッキリと状況がわかった。ローレを押し倒してるリルフィンは、ローレの喉元に鋭利に尖らせた爪を突き立ててるじゃないか。
これはチェックメイト状態だろう。だけどキツい顔してるリルフィンとは違って、ローレの奴は笑ってる。
「やっぱり、アンタは甘いわねリルフィン。そんなんじゃいつまで経ってもフィンリルなんて真名で呼べないわ」
「あなっ――たは!!」
ローレの言葉に頭を振り乱すリルフィン。そのままその爪をブッ刺しそうな勢いだぞ。
「リルフィン落ち着け! 挑発されてるんだぞ!!」
僕はリルフィンにそんな声をかける。すると「フィンリルと呼べ!!」と怒鳴られた。ローレじゃないけどややこしいんだよ。
「降参しろ。出ないとこの爪が貴様の喉元を貫き通す。邪神を復活させるなんて間違ってる」
リルフィンはなんとか冷静さを取り戻してそう紡ぐ。だけどやっぱりローレは笑ってるよ。その花の蕾の様な小さな唇を形よくしならせて笑ってる。
「言葉なんかじゃ止まらないって言ったでしょリルフィン。私を止めたいのなら、手段を間違わない事よ。そしてアンタには覚悟が足りないわ」
そう言ってローレは自らその爪を深く喉に突き刺す。
【主!!】
そんなエアリーロの声が頭に響く。確かに結構衝撃映像だけど、自分でもやってる僕としては「やるかも知れない」位には思ってた。
だってローレが今更言葉で止まらないのは分かってる事だ。それでもリルフィンなら……そんな気持ちは有ったけど、どうやら無駄らしいな。
「言葉を紡ぐ前に……私を殺すべきだったわね」
ローレの声とは思えない程に、しゃがれて潰れた声だった。喉をブッ刺されたまま喋ってるから、本当に酷い声。だけどそんなの関係無しに、ローレは杖を向ける。そしてその杖についてる一つの宝石が光ると、激しい炎が吹き上げた。
「おいおい、どうなってんだよ詠唱も無しに……」
「貴様……」
貴様って何だよ。折角助けて上げたのにそれはないよね。スオウ様と敬え――冗談だけど。
「へぇ~凄い速さね。それがイクシード3って訳。まさかエアリーロ達が全くの無反応なんて驚いたわ」
感心するようなローレの言葉。実際確かに驚いてはいるようだ。僕は背中のうねりを使って、炎が吹き上がる前に一気にリルフィンの元まで飛んだ。そしてそのままリルフィン抱えて、離れた訳だ。周りの状態がボロボロなのは、無理矢理うねりを使って止まったからです。
制御が難しいだよね。一気にトップスピードを出してくれる訳だけど、足でなんか止まれないからね。僕はリルフィンを無造作に放り投げて、ローレから近くの「何か」に視線を移す。
さっきまでは見えなかったけど、こっち側ならそれが見える。なんだか十センチ大の光があるぞ。
「よそ見なんてしないでよスオウ。そんな余裕ないでしょ?」
その瞬間、足下に広がる黄土色の魔法陣。そこから鋭利な岩が幾重も出てくる。だけどそれもうねりを使って体を浮かせる事で回避する。
するとそこを狙って、炎を放つイフリート。灼熱の炎が襲い来る。僕は片側のセラ・シルフィングを振り卸す。すると刀身にぶつかる前にイフリートの炎は真っ二つに切断される。
二つに分かれた炎は、僕の両側へ逸れて行く。
【我が炎をたった一振りで……しかも触れもせずにだと!?】
そんな声が頭に響く中、耳の端で風切り音が聞こえてた。
「上か!!」
その瞬間、セラ・シルフィングにぶつかって来たのはエアリーロだ。ノームの岩にブッ刺さらない様に、ウネリで岩を破壊しつつ、僕はエアリーロの突撃を受け止める。
【素晴らしい風ですね。力強く芯の通った伸びやかな風。何者にも支配されない、自由を感じる力】
「そりゃあどうも……」
拮抗しつつそんな言葉を紡ぐエアリーロ。すると下からローレが言うよ。
「やりなさいエアリーロ。貴方なら出きるでしょう?」
【はい、我が主。全ての風は私が抱きます!!】
エアリーロの瞳が光り、それに伴って体も輝く。するとこちらの風がエアリーロの方へと流れてく。くっ……こいつ風の召還獣の特性を生かして、イクシード3の風を僕から奪う気か!
って事はノームもイフリートもエアリーロを僕に接近させる為の囮。こいつらいつそんな相談しやがった? 主と召還獣は口に出さなくても意志疎通が出きるのかも知れないな。
イクシード3の風がエアリーロに少しずつ流れてく。
【素晴らしい……私の存在が事態が強まるような……そんな――っ!?】
「エアリーロ?」
気持ちよさそうにしてたエアリーロの様子に異変が起きる。それをいち早く察したローレ。僕は目の前のエアリーロに言ってやるよ。
「そんなに欲しけりゃくれてやる。だけどなエアリーロ……幾ら召還獣だからって過信するなよ。イクシード3の風は、今までのLROのシステムで生み出されたそれじゃない。
この力は僕の命そのものだ!! たやすく受け止められると思うなよ!!」
僕は無理矢理、エアリーロに吸い込まれる風を強める。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
【ぬっ!? これはっ――】
エアリーロが異変に気付く。ピシッバシッとエアリーロの体から聞こえる軋む様な音。僕は更にエアリーロの中へと風を送り込む。
軋む音は更に続き、エアリーロの内側から風が体を裂いて溢れ出す。
【――風が私の支配をうけなっつっっ!!】
エアリーロの羽が激しく振動してその体から落ちる。全身の至る所から広がる風の傷。エアリーロは既に僕の風の侵入を阻むことも出来ない――てか、何故か風は止まらない。
どんどん溢れ出す。これはセラ・シルフィングの意志か? 覚悟を決めろってそう言うことか? エアリーロとは分かりあえた仲……だからって、ここでやめるべきじゃない……そうセラ・シルフィングは言ってるのかも。
そうかもな。手を抜いたら、こちらがヤられる。煌めく羽が舞う中、僕は青い宝石の瞳を見つめる。
「エアリーロ――遠慮はしない!! だから今回は消えてろ!!」
【スオウ、主が貴方にこだわる理由……それはどうやら私のためだけではないようですね。今回は素直に引き下がりましょう。
私は二人が共に歩める事を願ってますから】
そう言ってエアリーロの体が風に成って弾けた。
「エアリーロ……」
ポツリとローレがそう呟く声が聞こえた。
「共に歩める事……ね。アイツらしい」
僕もそう呟いた。するとその時異変が起きる。セラ・シルフィングの刀身に現れる紋章。それは前に、風帝武装の時に現れたそれだ。
そしてその紋章に集う、エアリーロだった煌めく風。その風が紋章を通してセラ・シルフィングの中へと入ってく。
「これはっ!?」
なんだ? セラ・シルフィングを通して、体に伝わるこの感覚。心臓の鼓動が一際強く脈動する感じが全身に伝わる。そして頭に直接走る通達。
【セラ・シルフィングに『風帝』の承認。新たなる力を持って新たなる形を創造します。貴方の意志をお伝えください】
意志? 困惑が広がる。なにがなんだか……だけどこれって、ようはエアリーロが僕の風を受け入れて『風帝武装』を成し得たあれと同じ何じゃないか?
あの時の逆バージョンってことなんじゃ……エアリーロをセラ・シルフィングが受け入れて、こちらにも『風帝』という力が覚醒した?
とりあえず、これは願ってもない事だ!
「意志……僕の意志は……何者にも屈しない、どこまでも流れる最強の風を!」
【風帝の姿を認識。イクシード3のシステムの再構築に入ります】
そして風が僕を包み込む。眼球に流れる意味不明な数式やアルファベットの数々。なにがどうなってるかは僕の頭では理解できないけど、つまりはイクシードは進化してるって事だけは分かる。
セラ・シルフィングの刀身に表示されてる紋章の色が少しずつ薄い黄緑色に変わってく。これもエアリーロが風帝武装状態になった時に纏ってた風と同じ色だ。
少しずつ紋章事態に色が付いていくのは更新状況を示してるのか、頭の中で十パーセント……二十パーセントと紡ぐ言葉に連動してるみたいに、溜まっていってる。
そして百パーセントの声と同時に、全ての風が一度この場から消え去った。
「おっ!? ――とっ」
僕を包んでた風が急に無くなるから、浮遊感が消えて下に落ちる羽目に。何とか着地したけど、結構危なかったな。
てか……どういう事だ? 周りの視線もなんだかガッカリしたみたいに感じるぞ。なんにも変わらず……と言うか、寧ろイクシード3状態でも無くなってるから「なんだったの?」みたいな視線が透けて見える気がする。
「おい、どうしたんだ? なにがどうなったんだ?」
リルフィンがそんな言葉を投げかけて来るけど、僕はどう返したらいいか分からない。でも刀身だけはまだ唯一イクシード3状態のままで、その刀身には紋章もちゃんと浮かんでる。
多分今はインストール中とかなのかも。うん、きっとそうだろ。変更を実行に移すための作業をきっと……
「なにが起こるかと思ったけど、失敗でもしたのかしら? イクシード3でも無いようだし、ここは狙い目よね?」
そんな風に呟くのはローレだ。確かにここは狙い目だな。でも別に失敗とかじゃない……と思う。でも言い返せないな。すると体の奥から、何かがトクン――と一度波打つ様な感覚が来る。
(なんだ?)
「ノーム、イフリート、スオウを捕らえなさい。倒しちゃダメよ。死んじゃうから」
ローレの言葉を受けて動き出すニ体の召還獣。イフリートが巨体にも関わらずにその野生的な体を駆使して、飛び出して来やがる。
【主も面倒なことを言う。脚を飛ばせば問題ないだろう?】
「おまっ!? なんて物騒な事を!!」
信じられない。脚を飛ばすとか、ショック死しちゃうかも知れないじゃないか。痛いのは痛いんだぞ。もうちょっと考えろ。
【我は壊すことしか出来ない召還獣だ。エアリーロと同じに考えるな。焼き付くし蹂躙する。それが我が断罪の咎の炎を宿すイフリート様だ!!】
そう言ってイフリートはその鋭い爪に炎を宿す。あれで僕の脚を吹き飛ばす気か。
【案ずるな。斬り裂いた瞬間に炎が傷を焼いて止血してくれる。出血死は無い】
「なるほど、それなら安心――――――――――――っな訳あるか!!」
超怖い。どうやって安心するんだよ。痛さが生々しくなったよ。なにが傷口を焼いてあげるだ! 拷問だろそんなの!!
「避けろスオウ!!」
「言われなくても――」
僕はイフリートの爪を避ける為に後ろに跳ぶ。すると自分でもびっくりするくらいに体が跳ね上がった。
「――って…………なんじゃこりゃああああああああ!?」
取りあえずイフリートの爪を避けようとしたはずなのに、地面から十メートル位離れてるんですけど。こんな力入れた覚えないし、そもそも力入れたからって僕個人の力でこんなに飛べないぞ。
それこそイクシード状態なら、ウネリを使って飛べるけど、こんな楽じゃない。すると今度は床を転がる金色のボールが見えた。
そしてそのボールの進行方向に魔法陣が現れて、地面が生えて来る。ようは発射台みたいに成った。金色のボールはそこを進んで、一直線に僕へ向かってくる。
なんて単純な攻撃。それは召還獣として良いのかと言いたい。だけど今は思いがけずに空中に居る。そのせいで避けれないぜ。
今のセラ・シルフィングで受け止めても大丈夫だろうか? 不安だ。それにこのノームの回転はかなり激しい。足場の無い空中でまともに受け止める事が出来るとも思えないな。
「こうなったらスキルで……」
僕は目を閉じて絶対回避のスキルを発動させようとする。だけど頭に響くアラーム音。
【システムのバックアップ中です。スキルの使用は出来ません】
「ふざけんなあああああ!!」
その瞬間ノームと衝突する。僕はセラ・シルフィングをクロスさせてその回転を受け止める。だけどまあ……受け止めると言ってもノームの動きは止められない。
奴の回転が自分まで届かない様にするのが精一杯だ。体は当然後方に押される。このままじゃ地面に叩きつけられて、この回転に擦り卸される羽目になる。
すると再び体の奥から、伝わるトクン……と言う響き。だけどそれを考える暇もない。
【このまま地面でお主を拘束させて貰う。大丈夫じゃよ。主の命じゃ、殺しはせん】
ノームはそう言うと、落下地点になるであろう場所に魔法陣を表す。ようはあの魔法陣に落ちると、拘束魔法が発動するんだろうな。このままじゃやばい。僕は必死にどうにかしようと脚を動かしてみる。
すると何かを踏みしめたみたいな感触がした。僕はその場所を軸にノームから離れる。
【なっ!】
「っつ!?」
そしてやっぱり異常に勢いがついてしまう。僕の体は勢い余って儀式場から出てしまった。そしてそのまま傘の枝部分に落ちて突っ込んだ。
世界樹が枯れかけてるせいで、葉が無くなっててクッション材が……
「いっつ……どうなってんだいったい?」
するとまた体の奥でトクンと響く何か。
「変化は、まだ続いてる。それは間違いないって事だよな」
僕は胸を押さえて立ち上がる。追いかけてこない……ここから儀式を邪魔される事はないって判断か。だけどドカバキと戦闘音は少し聞こえる。
リルフィンの奴、あの傷で戦ってるのか? トクン……と胸に刻まれる確かな鼓動。
「少しずつだけど、感覚が短くなってきてる? 本当はこれが終わるまで待ってた方が良いのかも知れないよな。でも――」
僕は儀式場を見据える。少しずつだけど、あの黒い光の柱……大きく成ってる気がする。それにリルフィンもあの状態で召還獣ニ体に勝てるなんて思えない。
今の僕の状態なら、きっとここからでもひとっ跳びだろう。悠長に新しい力を待ってる暇はない。僕は脚に力を込めて、枝を蹴る。その瞬間一気に僕の体は上昇する。
もうジャンプじゃない、飛んでるみたいだ。世界樹の天辺さえも越えてしまった。
トクン……トクン……
下を見るとリルフィンが追いつめられてる。ノームの回転に弾き飛ばされた所へイフリートの炎が迫ってる。あれを受けたら、間違いなくリルフィンは終わる。
主を無くした召還獣はやられたらどうなるんだろうか? 分からないけど、不味いことは確かだろう。でも完全に飛びすぎた。ようやく落ちだしてるけど、ここから自然落下じゃ間に合わない。
僕はさっきの感覚に懸ける事にするよ。さっき、僕はどこを蹴ったのか……ノームの体じゃ無かったのは確か……なら!!
「うらああああああ!!」
僕は何もない空中を踏みして加速する。思った通り、どうやら空中を踏みしめれた。僕は更にもう一回空中を蹴って、リルフィンを横から救出する。
そしてそのまま地面を滑って勢いを殺す。
「スオウ……今のは何かしら?」
少し驚いた感じでそう言うローレ。驚きだな、こいつのこんな反応は珍しい。すると頭にようやく響く、待ちに待った通達が来る。
【新システムの構築、完全終了しました。新たな風が、貴方をどこまでも進ませてくれる事でしょう。力に名称を。それで全課程を終了致します】
【主、こいつは危険だ!!】
すると義務的な言葉に割り込んで後ろを取るのはイフリート。こいつローレの命令を無視してもでも僕を殺す気――イフリートの口には既に炎が揺らめいてる。
そしてその炎が近距離で放たれる。肌を焦がす炎。だけど僕はそれを横に跳んでかわして、更にそこから空中を蹴ってイフリートの頭上に、回り込む。
そしてイフリートが気付かない速さで奴の顔面を地面に叩き付ける。炎が地面を焼いて回りから宇宙に向かって逆に昇る。イフリートの顔面は床に埋まってる。その上で僕は前を見据えるよ。赤いイフリートの炎が僕を照らしてる。そしてそんな炎に照らされて浮かぶ煌めく透明の衣。それと両手と両足には小さく細いウネリが出来て、そこからエアリーロの名残の様な羽……
最後に一番目に入るのは僕の回りを回る周回軌道の様な白い衛星が二つ。ウネリで定められた道を一定の速度と感覚で飛んでるよ。
これはまんま刀身にあった奴が体回りまで移動したみたいな感じだ。僕は小さく息を吐いてイフリートを踏みつけながら立ち上がる。
なんだか周りの空気が違う気がするな。いや、実際に違うのか。
「お前……それは……」
床に投げ捨てたリルフィンが、細くしか開かない瞳を向けてそういうよ。僕はリルフィンに視線を向けて、少しだけ余裕って奴を見る。
そしてそのまま僕はローレに視線を移す。ローレは僕の視線を受けて僅かに足が下がった。だけど直ぐにそんな自分を許さない様に足を戻して、僕を見据える。
「随分シンプルに成ったじゃない。まさかそれが……」
「ああ、どうやらこれが新しい力……新しいイクシードの形。そうだな【イクシード・アウラ】とでも名付けよう!!」
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