命改変プログラム

ファーストなサイコロ

心が見えない



 世界樹の葉が緑から茶色に変わり、降り注ぐこの場所。床に落ち葉が敷き詰められて、少し動くだけでも、カサガサと枯れた葉の擦れ合う音と、砕かれる音が響く。
 そしてそんな音を気にせずに響かせるのが前と後ろにいる。前方には魚の顔をドド~ンと乗せた不気味な姿の奴が、更に不気味に仮面……と言うかゴーグルを過度に装飾したみたいな物を被ってるからなんかね。
 かぶり物に見えるけど、あれが本体なんだぜ。何で死にたくならないんだろう? そして後ろに居るのが体中に入れ墨施した様な見るからに危ない奴だ。仮面はまあ、普通っちゃ普通だけど、体中の模様がね……気持ち悪い。
 てか、爬虫類っぽいんだよねこいつ。なんか鱗の皮膚してるし、堅そうな尻尾が実は生えてるし。背中には突起物が合ったりする。
 スレイプルは恐竜起源だったのかも……いや、聖獣同士での差別化? ウンディーネが魚なのは良いんだけど、実際その通りだろうしね。
 だけどスレイプルが爬虫類ってのはよくわかんないよな。


「スオウ……」


 聖獣二体に挟まれたからか、クリエが不安そうな声を出す。きっと怖い目に遭ったんだな。


「大丈夫、ここで終わらせてやるよ」
「シャナは……シャナは助けれる?」


 涙目でそんな事を聞いてくるクリエ。当然だけど、ずっと気にしてたんだよな。僕はサナとの会話を思い出して力強く答える。


「ああ、ちゃんと助ける!」
「うん!!」


 僕の言葉を聞いて、涙を飛ばしながらそう頷くクリエ。実際言うほど簡単じゃない……だけど、既に五体居た聖獣は三体まで減らせた。勝てない訳はない。


「追ってこなくても、直ぐにテトラ様の裁きがその身に降り注ぐのにな。あの方が復活したら、お前達がどれだけ束になろうがかなわない」


 魚聖獣がその不気味な顔を動かしてそういってる。テトラ……か。邪神テトラ、そういえば最初会ったときに少し手合わせしてたっけ。
 確かに聖獣が言うとおり強かったな。片手であしらわれた記憶があるよ。それでも全然本気じゃなかった筈だけど……


「セラ様奴らの一体が一番上で術を発動してるっす。世界樹がこんな風になってるのもそのせいっす」
「そう……ようはその一体、ここにいないモブリ聖獣を止めなきゃいけないって事ね」


 ノウイの言葉にセラがそう返す。アイツの術で邪神復活の儀を執り行ってるって事なんだろう。つまりはここに居るスレイプルと魚聖獣はさしずめモブリ聖獣の護衛か。


「あれ? おい、そういえばアイツ等盾を持ってなくないか?」


 僕は二体の聖獣の腕に例の盾がないのに気づく。


「え? どういう事よノウイ」
「えっと、そう言えば、モブリ聖獣に渡してたかもしれないっす」


 なんの為に? 僕達には盾も必要ない――って訳じゃないだろう。既に二体倒されてるんだ。そんな余裕をかます程バカじゃないだろう。一番バカっぽいと思ってたモブリ聖獣が邪神復活の要ってのも、コイツ等の誘導だったみたいだしな。
 もしも最初からモブリ聖獣が要とわかってたら、僕達はあそこまで奴に無関心じゃ居られなかった。どうせアイツだから、後回しでもいいか……そんな気持ちには成れなかったはずだ。
 そんな心理を利用して、奴はここまで余裕で生き残り、そして今邪神を復活させようとしてる。そのモブリ聖獣が求めたのなら、きっと何かに使ってる。
 僕達にとってとっても厄介な事へ。そう思う。


「邪神を復活させる訳にはいかない。早急にモブリ聖獣の魔法を止めなきゃ……だけど、こいつ等は手強い」
「生半可な気持ちで戦ったら、負けるかも知れません。急がないといけないけど、ここに集中するしか出来ないですよ」


 テッケンさんとシルクちゃんが、互いにそう言った。確かに聖獣は生半可な気持ちじゃ相手に出来ない。油断したら、それこそ食われる。
 けど……僕達全員で掛かったとして、この二体を速攻で倒せるとは思えない。それだけ強いしな……


「おいローレ」
「何よ?」
「召還獣居るだけ出せないのか? 邪神が復活するかの瀬戸際なんだぞ。出し惜しみしてる場合じゃないだろ」


 召還獣なら通常状態でも聖獣と渡り合える。ローレが何体の召還獣を従えてるか知らないけど、ここに居るメノウとリルフィン、あと見たことがあるエアリーロにイフリート、それにノームが居ればなんとか出来そうな気がする。
 奴らは今盾がない。これはチャンスだ。


「そう言えばアンタ、エアリーロに風帝武装施したわね」


 何で知ってんだ? いや、モブリ聖獣が動き出すまでは見てたのか。てか、質問に答えろよ。華麗にスルーしてるんじゃない。


「それがなんだよ? 言っとくけど、あんな風になるとか思ってなかったんだぞ。自分の物に勝手に手を加えないでよ――とか言うなよな」
「別にそう言う訳じゃないけど……アンタちょっとここで脱げない?」
「「はぁ!?」」
「ちょっローレ様そんな……大胆」


 僕とセラが大声で呆れて、シルクちゃんは頬を染めちゃったよ。いや、マジで何言ってるんだこいつ? 状況理解してないのか?


「大切な事なのよ。風帝武装を発動させたとき、何か体に異常はなかったか確かめて起きたいの」


 ううん? ふざけてるのかと思ったら、なんだかローレが珍しく真剣だ。しょうがないそんなに言うなら、一回位は信じてみるか。


「そう言えば、胸の辺りが痛かったかな? 後はセラ・シルフィングに紋章みたいなのが浮かんでた」
「ちょっと胸見せなさい!」


 そう言ってローレは僕の防具を持ち上げて内側の服のファスナーを上げ出す。


「ちょっ!? いきなりは恥ずかし――」
「乙女みたいな事を言うな!」
「あわわ……スオウ……」


 やばい、クリエが見てる。こんなの教育上よろしくない。


「ちょっとローレ! アンタ状況を考えなさいよ!」


 セラもローレの行動に流石に怒鳴る。既にどっちが上とか下は関係なくなってるな。


「おいおい、俺達を無視するなよな!!」
「まともに戦うことも出来なくなったか? どうせ死ぬんだから、もう少し足掻けよ!!」


 そう叫んで、二体の聖獣が動き出す。前と後ろから落ち葉を舞い上がらせながら迫る。


「ローレ様!!」
「ちょっとおおお、何やってるんすか!?」


 ついにはリルフィンとノウイまで……魚聖獣はその手に水の槍を、スレイプル聖獣は凶悪そうな剣をその胸から取り出してる。


【止まりなさい!!】


 頭に響いて、一瞬クラッとするレベルの声が響いた。なんだ今の? 僕だけじゃない、この場の全員がちょっとよろめいてるぞ。しかも聖獣もだ。


「っつ……今の声お前か?」


 僕は服の中でモゾモゾしてる奴に聞く。てか、ローレの髪が肌を直接刺激してなんかカユい。しかもローレの手はびっくりするくらいに冷たいのか、触られてる部分がよくわかって逆に暑くなるような……そう思ってると「ぷはっ」てな声と共に、ローレが出てきた。


「貴様……何を……」


 魚聖獣が耳部分を押さえながらローレを睨む。するとローレは軽くこう言うよ。


「周りがうるさいから……私が許すまで幾ら聖獣でも動くんじゃないわよ」


 なんて不遜な奴。すると反対側のスレイプル聖獣が床を蹴って迫る。


「ふざけるな! お前程度に指図されてたまるか!!」
「スオウ!!」
「お前な!」


 ローレの言葉に僕は服もそのままにセラ・シルフィングで聖獣の武器を受け止める。くっそ……デカい武器だけあって重いな。すると僕が必死に受け止める時に背中にトスっと体を預けて来やがるローレ。
 もう一体、本当に何考えてるんだコイツ? 訳が……訳が分からないよ。


「ほらほらスオウ、魚が私を狙ってるわよ」


 いや、自分で対処しろよ!! コイツその位出来るだろ。そう思ってると、スレイプル聖獣が口を開いてそこから矢を発射してくる。
 人間ボウガンかコイツ!? いや、今更だけど……僕は首だけを動かしてそれを避けるけど、顔を掠った矢は僕の頬の皮を削っていった。


「ちょっとスオウ」


 何でコイツに催促されないといけないのかがわかんないけど、とりあえずこのままじゃヤバい。僕はスレイプル聖獣の武器を受け止める刃を返して、滑らせる。そして奴の横っ腹を斬って、そのままローレを軸に回転、前へ回って放たれた水弾を斬り割く!! と思ったら、ベチャッてな感触が? 見てみると、水がベタベタしてて、刀身にまとわりついてる。
 これって、奴の体液か。やられた。


「やっぱり思った通りね」


 おいおい、なんでここで納得してるの? 言っちゃうとピンチなんですけど。この粘液、自力では取れないんだぞ。人を使ってばかりいないでどうにかしろよ。別に攻撃しなくてもいい。さっきの奴をお願いします。


「ぐあははは! ようやくコイツの出番だな!!」


 そう言って魚聖獣は水の槍を投げてくる。あれはヤバい。確かイフリートの腕を一瞬でガリガリにした奴だ。イフリートでああなるのなら、僕なんて一瞬で体中の水分が飛ばされるかも知れない。


「きゃあ、危ないわ!」
「うぎっ!?」


 ローレの奴がスゴい棒読みの台詞を吐いたと思ったら、股間に走る激痛が……僕は思わず腰を落とす羽目に。すると頭上を通り過ぎる水の槍。
 それが後ろから攻撃を仕掛けてたらしいスレイプル聖獣の武器とぶつかり合う。


「ぬお!!」


 その瞬間そんなスレイプル聖獣の声と共に、弾ける水の槍。僕達は浴びせられる水の衝撃で吹き飛ぶ羽目に。それは僕達だけじゃなく、近くに居たみんなも一緒だった。


「いつつ……これは予想外ね」
「お前な……」
「何よ。私のおかげで助かったでしょ?」


 助かったは助かったけど、もっとやりようがあっただろって言いたい。何でわざわざ攻撃するんだよ。しかも結構おもいっきり蹴りやがって、ある意味死んだと思ったよ。


「もうちょっと加減をしろ」
「そんな事したら、変な感触が足に残りそうじゃない」


 変な感触ってなんだよ。コイツは男の痛みをわかってない!!


「そんな恨めしそうにみないでくれる? 痛がってくれなきゃ膝折れないじゃない。タイミングバッチリだったし、私達って良いパートナーになれると思わない?」
「思わない」


 即答してやった。誰と誰がパートナーだ? そもそもコイツに対等って考えないだろ。犬と主人の関係だろ? お断りだ。


「あっ、斜め上七十五度から水弾くるわ」
「ちっ!」


 僕はローレを抱えて、その場を離れる。今はセラ・シルフィング使えないんだ。すると、今度は避けた先にスレイプル聖獣が……くっそ、なんだって僕達ばっかり狙うんだよ。


「良いよく聞きなさい。奴はアンタの横っ腹を狙ってるけど、本命はあの口の中にある矢よ。私達の脳天を纏めて貫きたいみたいね」
「お前――なんでそんな事――」


 そんな言葉を発してる間に、聖獣の剣が横っ腹に迫る。いやいや、本命は口の矢だって言われても、これもどうにかしないと……こうなったらしょうがない、二本の剣がハサミみたいにくっついちゃってるけど、僕はそんなセラ・シルフィングを前に突き出す。
 すると放たれた矢がそんなセラ・シルフィングに当たって弾かれる。


「ぬが!」
「良い判断ね。そこから武器を、斜め下に卸しなさい!」
「――こうか!?」


 もうどうにでもなれって感じで僕は武器を言われた通りに降り卸す。すると直線で向かって来てたセラ・シルフィングを事前に交わそうと動いてたスレイプル聖獣の軌道が変わった剣と接触。
 拮抗しあう羽目になったけど、片手でしかも二本分の武器の重量を支えてる僕は不利だった。力負けして吹き飛ばされる。


「づああああ!!」
「大丈夫、これで良いわ」
「何?」


 すると僕達が吹き飛ばされると同時に、僕達の背中側から水弾がスレイプル聖獣へとぶつかった。


「ぐぬあああああ!!」


 そう叫びながらスレイプル聖獣も後方へと下がる。


「ねっ、バッチリだったでしょ?」


 ローレの奴……まさか僕が押し負ける事までも想定してたのか? なんだ……なんか超怖い。何やってるんだコイツ? 


「くっ……貴様何をしやがる!」
「俺のせいじゃない! お前がさっさと吹き飛ばすせいだろ!!」


 なんか聖獣共は互いに文句を言い合ってるぞ。そんな奴等を見て、ローレはクスクスとほくそ笑んでる。何故か僕の背筋がゾッとするよ。


「ねえアンタ達、知能があるのならこんな事やめない?」


 ローレが口を開くと、なんだかズシっと肩が重くなる。てか今更何を言ってるんだコイツ。


「何を言ってやがる!」
「そんな事今更過ぎて議論する余地すらねえええええ!!」


 ほら、聖獣も同じ事を言って向かってくるぞ。するとその時、奴等の周りに魔法陣が現れる。そして結成されるは水晶のような固まり。
 その中に奴等は閉じこめられる。


「ふう、甘いですよ。私達だっているんですからね」


 そういって拳を握りしめるのはシルクちゃんだ。流石シルクちゃん頼りになる。


「全くアンタいきなり何するのよ」


 頭を押さえながらそんな文句を言うのはセラだ。みんなようやくまともに動ける用になったのかな?


「責められるいわれはないわね。寧ろ感謝してほしいくらい」
「何よそれ……てか、何を考えてるのアンタ?」


 火花が相変わらず散ってる様に感じる。まあ一方的にセラが敵対心って奴を飛ばしてるみたいだけど……そう思ってるとシルクちゃんの悲鳴が聞こえた。


「この程度の結界で、俺達を閉じこめておけると思うなよ!!」


 内側からドシバシと叩きまくってる聖獣の攻撃で、結界にヒビが入り出してる。ヤバいな……


「ピク、これを頼む!」


 僕はピクを呼んでその炎で再び聖獣の粘液を焼いてもらう。これでセラ・シルフィングが復活だ。するとローレが結界に近づいてるのが見えた。
 あいつ、今度は何を?


「ちょっと落ち着きなさいよ。話合いをしない? 知能があるのにそれを使わないなんて、宝の持ち腐れだと私思うの。
 アンタ達はわかってないわ。自分達が完全体になって取り戻した一番有意義な力って奴をね」
「なんの事だそれは!!」


 奴等の腕が結界を破壊して外に出る。


「主! そこを離れてください!!」


 そう叫んでリルフィンが駆け寄ろうとする。だけどそれを腕を突き出してローレは止める。


「主……」
「大人しくしてなさい。私なら大丈夫よ。いざとなればメノウが動くわ。それよりもこの時を逃したくないの」


 そんな事を言うローレに、魚聖獣がこう返す。


「ふざけるな!! 貴様等の言葉などに我らが動かされる訳がない!!」


 そう言って水晶の破片が次々と周りに吹き飛んでる。ヤバいぞ、もう結界は持たない。でもそれでもローレの奴はその場から動こうとしない。


「戦って勝ち取る。それって実はとっても非効率的なのよ。戦争や戦はバカがやるものだと私は思ってる。まあ大多数のモンスターは言葉も通じないし、しょうがないんだけど、アンタ達は違うでしょう?
 言葉を理解して、主張を発し、そして考える事が出来る。もっと先進的に行きましょうよ」
「「そんな事に、何の意味がある!?」」


 二体の聖獣の言葉がシンクロして、その瞬間結界は完全に破られた。どうやらローレの言葉に相当イライラしてるご様子だ。落ち葉を巻き上げて地面に降り立った奴等は今すぐにでもローレを食らう気満々……そう見える。


「意味ならあるわよ。私達は互いに理解し合って、互いの主張の妥協点を見つけましょうって事。そうすればお互いこれ以上被害を出さずに済むわ。
 それにね……私は邪神テトラは復活しても良いと思ってる」
「「「「んなっ!!!!!!」」」」


 その場の全員が驚愕した。だって、それをコイツが言っちゃいけないだろ。でも、その言葉のおかげで、少しは聞く耳を持ったらしい聖獣。息を整えながら口を開く。


「どういう事だ? あの方が復活したら、この世界は終わるぞ」
「そうです主! 邪神の復活を許しては行けません!!」


 聖獣の言葉の後にリルフィンも必死に声を出す。


「アンタは黙ってなさいリルフィン。私はね聖獣、邪神が復活してもこの世界を終わらせたりしないんじゃないかって思ってるわけ」
「バカなことを! あの方のこの世界への恨みは海よりも深い! 許されるなどと思うなよ!!」


 う~んどういう根拠があってローレはこんなとんでもない事を言い出したんだ? 邪神って言われてる位の奴だぞ……滅ぼすだろ? 
 まあテトラの奴が邪神ってなかなか実感ないんだけどさ。でもよく考えたらおOPで見た事以外でアイツの事はあんまり知らないな。
 一体どんな恨みがあるんだっけ?


「許されないのかしら? だけど私は思う。邪神テトラはこの世界を壊せない。五種族は憎いでしょうけどね。だけどだからこその言葉よ」
「何を根拠に! 俺たちの方が貴様なんかよりもあの方を知ってる。あの方は貴様等を滅ぼす為に我らを生んだんだ。そこに会話の余地などない!!」


 二体の聖獣はその手にそれぞれの武器を表す。そして同時にローレへと向かう。


「残念、やっぱり低脳なモンスター風情ねアンタ達。邪神の内側をアンタ達は察しようとしない。まあそう言う風に創造されたんでしょうけど、成長しなさいよ。
 創世記から幾つの年月が流れたと思ってるのよ」


 いやいや、流れてねーよ。ゲームの設定としては確かにもう数百? 数千と流れてるのかも知れないけど、この世界が出来たのは一年前位じゃん。よくもまあプレイヤーであそこまでこの世界に沿った事をいえるなアイツ。
 てか危ないぞ!! 迫る聖獣の標的は間違いなくローレだ。


「自分達の事を棚に上げるな!! 何も変わらないのは貴様等とて同じだろう!」
「そうだ! 何も変わらず俺たちはずっと争って来た!! それしか出来ないからだ!! そしてそれで良いからだ!! 気に入らないんだよお前達が!!」


 二体の聖獣の攻撃に対応しようとしないローレ。てか、僕達もついうっかりローレの言葉に耳を傾けてたら、出るのが遅れた。今度は助けられないぞ。


「気に入らないから争うしかないって、子供の考えね。強者と弱者を決めないと納得できない? でも私達が争うことって今の所ないわよね。
 私は邪神を復活させても良いって言ってるんだし、そんな私を殺したら後ろの奴等を止めるのはとっても厄介よ」


 そんな言葉を掛けると、聖獣の攻撃が寸前で止まる……ってか、おいまさか裏切る気か?


「ローレ……お前……」
「そんなに怖い顔しないでよ。アンタは邪神とあったんでしょ? どうなの? 言葉が通じない相手?」
「それは……神なんだろうし、聡そうには見えた」
「ならどうにか出来るわね」


 いやいや、舐めすぎだろ。だから大丈夫って、言いくるめられるとでも思ってるのか?


「思うわね。邪神はこいつ等よりも少なくとも話し通じるでしょう。それにね、私が世界を滅ぼそうと邪神がしないって思うのはアンタが居るからよスオウ」
「僕?」
「どういう事ですかローレ様?」


 ローレの言ってる事がわかってないのは僕だけじゃない。てか、理解できてる奴なんか居ない。


「アンタに邪神は依頼した。金魂水を使っての何か……私はその何かの宛があるわ。金魂水は願いを一つ叶えるアイテム……って事は――」
「つまりはテトラ様はこいつを使って自身を復活させようとしてるのか!」
「おお!」


 そう言ったのは聖獣共。だけどそんな答えにローレは「ブブー」と言う。


「それなら邪神はそう告げるでしょう。わざわざ目的を隠す必要も意味もない。言わなかったんじゃない、言えなかったのよ。それはきっと邪神と伝えられる自分には伝えられない事だった。だけど金魂水をスオウって言うバカに託して、動向を見守るのは私的には非効率的としか言えないわね。
 だけどきっと、奴は干渉出来ないんでしょう。自分で望めない物を他人に望ませるには、ただ待つしかないのかも」


 自分で望めない? テトラの願いはきっとシクラの事だろう。それは途中で気づいた事だ。でもそれなら、金魂水を手に入れた時点で願えた筈の事でもある。
 あれ? 違うのか? てかさっきさりげにバカにされたよな?


「よくわからないぞ。どうして邪神を肯定する? 奴がスオウに託した望みはなんだ?」


 鍛冶屋がなかなか答えが見えない問いに痺れを切らしてそう聴いた。


「邪神は実は、そんな悪い奴じゃないかもって思ってるだけ。そもそもこの世界はシスカとテトラによって創造されたとされてる世界よ。
 テトラはそもそも、この世界に必要な神なのよ。きっと。そしてスオウに託した望み……それは……」
「それは……」


 一番興味のある部分だ。僕達は既にローレの術中にはまってるのかも知れない。だけどこれは聴き逃せる事じゃない。だって、僕の命が掛かってるんだから。


「まあサービスはここまでにしましょうか」
「なんだそれ!!」


 ローレの奴、やっぱりこの状況を一人だけ楽しんでるな。


「これ以上は答えを聞かないと言えないわね」
「答え?」
「なんのっすか?」


 僕とノウイが警戒心を表しにしてそう答える。そしてそれは僕達だけじゃない、みんなもそうだ。するとローレはその煌めく金髪の髪を靡かせてこう言った。


「簡単、ここは邪神を復活させて貰いましょうよって事よ」
 

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