命改変プログラム

ファーストなサイコロ

召喚されしは戦火の街



 夜の空を怪しく輝く獣が走る。音も立てずに、四本の足を優雅に動かし、光る毛を靡かせる。僕とミセス・アンダーソン、そして僧兵の彼で先行して目指すは、リア・レーゼ。
 天から何の光も届かない闇の夜……漆黒に消えていくかもしれないその街を、消えさせない為に、僕たちはまだまだ足掻くんだ。


「おおお、すっげぇグイグイ進むな。その割に、当たる風はそこまで強くないし、乗り心地良いぞリルフィン」


 僕はそう言って、狼形態のリルフィンを撫で撫でしてやるよ。フワフワでサラサラな毛はとっても気持ちいい。イメージ的に剛毛だと思ってたのに……なんて反則的な奴だ。
 すると何ももの言わずに、後ろから尻尾でバチっと叩かれる。何するんだコイツ。折角褒めてやってるのに、失礼な奴だな。


「おい、リルフィン、何か言えよ。別に喋れない訳じゃないだろ? それともこの状態だと、頭まで獣並にでも成るのか――ってアダっ!」


 むむ、今度は二度もバチバチ叩きやがった……全く気が短い奴だな。ちょっとしたコミュニケーションを取るためのジョークじゃないか。


「彼は召還獣ですよ。召還獣は誇り高い生命体ですから、敬ってあげないと。それに元々、彼らは自分が認めた主以外には興味なんて持ちませんから」
「そう言うものなのか?」


 でも誇り高い割にはローレにこき使われてね? まあそれはローレだから良いのか。でも興味ない僕たちに、リルフィンはかなり接してた筈だけど……ローレのコイツの使い方は結構特殊だよな。
 僕はどうせ無視されるだろう事を想定して、聞いてみるよ。


「なあ、どうしてお前って人間の真似事なんかしてたんだ? ローレの指示か?」


 他の召還獣はそんな事やってないだろ? それともそんな事なくて、ローレは他の召還獣も各人型に化かして周りに配置してるのか?


「なんだよ~何か言えよリルフィン」


 人型の時はそれなりに饒舌だったじゃないか。するとようやく声が聞こえた。


「ふん、なれなれしい人間が。私はお前達と馴れ合うつもりであんな姿をしてた訳じゃない。アレもまた主を守るための手段。
 主の側で、守る役目を負う物が必要だったのだ。何せ主の周りの奴等は頼りないからな」


 なるほど、確かにそれは言えてるな。モブリって護衛とかには頼りないよな。てか、ローレは人に恵まれてない? アイツ、プレイヤーで知り合いとかいるのかな? ずっと空よりも高い所で高見の見物なんかしてるから、ボッチだったんじゃね?


「でもさ、お前人型の時は力抑えられてたんだろ? それで大丈夫だったのか?」


 意味成くね? だけどリルフィンはこう答える。


「大丈夫も何も、その状態の我に完敗したのはどこのどいつだ? 幾ら力を抑えられても貴様等などに遅れは取らん」
「うぐっ……痛い所をついてきたじゃねーか」


 確かに前は負けたけど、今はどうかわかんないぞ。僕だってそれなりに成長してるからな。イクシードの扱いだって少し制御効くようになったしね。


「全く仲間同士で無意味な意地のぶつけ合いはやめてください。仲良く協力すれば、良いだけじゃないですか」


 ミセス・アンダーソンが僕たちのやりとりにそんな横槍を入れてくる。そりゃあ僕はそれでも良いと思ってますけど~、こいつがな~。


「ふん、主の足を引っ張ってばかりのコイツと協力とはな。元々聖獣復活の原因を作ったのはコイツだぞ。今はまだその罪滅ぼしをしてるにすぎない。
 せいぜい死ぬ気で働け」


 うぐぐ~全くその通りだから反論出来ない。確かに僕のせいだけど……僕のせいだけど……頑張ってるじゃないか。自分で言うのも何だけどさ、精一杯やってるつもりです。
 精一杯やって、ちゃんと勝利をつかむ、その気で居る。


「おい、どういうことだそれ?」


 おお~と、ここで聞き捨て成らない言葉を見逃さなかった僧兵の奴が、会話に加わってこようとしてるぞ。ヤバい、また責められちゃうぞ。
 だってコイツの同胞は一杯聖獣にやられた。そしてその聖獣を復活させたのが僕だってわかったら……その怒りの矛先が向いても仕方ない物がある。
 そして僕にはそれを受け止めるしか出来ない訳で……心身がすり減るじゃないか。僕は必死に知らない振りで押し通すぜ。


「おい、こっちみろよ。さっきの事、詳しく教えろ。俺たちに隠してることあるんじゃないか?」
「私は全てを聞いてますが、そこまで自分を責める事はないと思いますよ。アレは事故――そう多分事故だったんでしょう」


 おい、なんかアンダーソンの反応おかしくないか? 多分ってどういう事だよ。言っとくけど、故意になんかやってないからな。そんな事知らなかったんだ。


「いえ、それはわかります。貴方の故意ではないでしょう。ただ、別の人はそれを狙ってたかも知れませんけど」
「別の人? ってまさかローレの野郎か?」


 こんなの狙うのはアイツくらいしか思いつかない。それにあの場に一応居たわけだしな。そう言えば、一言忠告する位できた筈では? まさかこんなに僕が自分を責めてるのに、元凶はアイツだったと?
 全てはあの性悪女の手のひらの上か?


「まあ確証があるわけではないです。ただ、目が覚めてこれまでの事情を彼女から説明されたとき、そんな感じがしただけですよ。
 もしかしたら、そんな事をちょっと望んでた……程度なのかも知れないですけどね」
「アイツなら確かにあり得る……けど、どうして?」
「おい、だから俺を無視して話を続けるな。説明しろよ」


 なんか耳障りな声が後ろから聞こえるけど、無視していいよね。うん、よし、無視で。


「それは彼女の野望と関係があるのではないでしょうか? 本当に全く……だからあの子は危険だとノエインには何度も忠告を……」


 なんだかもの凄くブツブツ言ってるぞ。まあ確かにシスカ教信者には信じれない事やろうとしてるよねローレは。反逆行為というか、背信行為か。


「でもアイツがそこまでアンタに喋るなんて意外だな」
「それは私を協力者に仕立てる為ですよ。今回の事で借りが出来ましたからね。私は彼女の召還獣の力で戻る事が出来たんです。
 きっと他に方法なんてなかった。だけど、戻れない事は覚悟してたつもり立ったんですよ。それなのに、自分的には一番最悪な形で引き戻された訳です。
 今の私は彼女の奴隷ですよ」


 奴隷って……確かにローレならそんな認識してそうだな。ピンチに陥ってる状況さえもアイツは色々と自分の糧にしてるのか……ホント恐ろしい奴。いや、見た目だけは本当に天使なんだけどね。残念すぎる。


「おい……いい加減にしてくれないと、俺泣くぞ!!」


 震える声で後ろの奴がドンドンと背中を叩いてきてる。流石にちょっと可哀想だな。全く、しょうがないからちゃんと説明してやるか。


「じつは、カクカクシカジカなんだよ」
「だから無視してたのかテメェは!! てか、全ての元凶お前じゃないか! この野郎、正義面で救いたいとか、当たり前じゃないか!
 こっちはお前のせいで取り返しのつかない物失ってるんだぞ!!」


 めっちゃ怒鳴られてる。こうなるってわかってたから言いたくなかったのに……


「まあまあ、さっきも言いましたがもしかしたら彼は上手く利用されただけかも知れません。それに、ちゃんとその責任を果たそうともしてくれてます。
 今、責めても意味はないですよ。その命を懸けて、聖獣を倒してくれる気なんですから」


 おい、利用されただけにしては責任重くない? 


「倒さないのですか? 利用は、もしかしたら……ですから今の所、非は百パーセント貴方に有りますよ」
「倒します。はいはい、この命に代えても」


 くっそ、結局この汚名を晴らすには聖獣共をぶっ倒して、この状況を打破しない事には解消されないな。くっそ、ただ単に自分の責任……と思えてれば別にこんな不満もなかったんだけど、アンダーソンが変な可能性を示すから、どうにかしてローレの思惑をバラして責任転嫁を考えちゃうぜ。
 まあアイツならその程度やりそうってだけで、何の確証もないんだよね。ただアンダーソンの印象一つじゃ、どうしようもない。


「いっとくけどな、聖獣を倒しても戻らない奴らが居るって事を忘れるなよ」


 ああもう、僧兵の奴重いことをズシッと言うな。


「そんな事……わかってるっての」


 僕だってあの光景は目に焼き付いてる。沢山のモブリが、モンスターどもの餌となってしまうあの光景。あそこで消えた物はもう戻ってこない……のかな? NPCだし、この問題が解決すれば……ってそんなご都合主義は流石に無理か。
 これだけ大きくなってる事が、クエスト終わりに全て元通りってのは流石に幾らゲームでも無理がある。小さなクエストはそう言う事あるけど、これは大きく成りすぎだよな。
 国を巻き込んでやってること……個人で収まってない事は流石にね。するとその時、リルフィンの耳がピクンと敏感に動くのを見た。


「おい、どうした?」


 僕がそう聞くと、リルフィンは遠くを見つめたままこういうよ。


「主が呼んでる。行くぞ!」
「行くって――え!?」


 訳わからぬまま、リルフィンの体が光り出す。大きく雄叫びをあげると、目の前に現れる魔法陣。一体何が? そう思ってるとアンダーソンがこんな事を言うよ。


「もしかしたら有効範囲に入ったのかも知れませんね。召還獣は主の声に応える事が出来ると聞きます。有効範囲内ならどこにいようと、自分の側に呼び寄せれる。
 その声を聞いたのかも」
「――って事はこの魔法陣の向こうにはローレが居るって事か?」
「きっと」


 なるほどね。そんな風に自分の中で結論づけてると、魔法陣に引っ張られる様な感覚と共に、僕達はその中へ誘われる。




 そして瞬きをした一瞬で、匂いが変わった。風に混じる不快な臭さと、木々の焼ける焦げ臭さ。そして何よりも、打ちつける激しく冷たい雨粒。場所が変わったんだと理解できる。そして目を開けるとそこは雨のカーテンで覆われていてもわかる位に、真っ赤に燃えていた。


「上です!!」


 そんなアンダーソンの声に上を見ると、黒い大きな攻撃が迫ってた。いきなりどんな状況だよ! とか思ったけど、リルフィンの咆哮で欠き消えた。そして攻撃の向こうに居る奴を見つけて理解したよ。


「リルフィン、僕を飛ばせ!!」


 背に立ち、二対の剣を抜き去り僕は走る空中に黒い翼を広げて立つ奴を目指す。アイツは……アイツは――――――聖獣だ!! 僕の言葉を受け取ったリルフィンは僕が走ると同時に頭を下げてくれた。
 そして僕がその頭を踏みしめたと同時に、勢い良く頭を持ち上げて、僕を飛ばしてくれる。


「また貴様か!」


 そんな言葉と同時にもう一度さっきの攻撃を向けて来る聖獣。僕は打った斬る意気込みでセラ・シルフィングの柄に力を込める。だけど本殿外周に出た瞬間に吹き上げる強烈な風が僕の体を遙か彼方へと持ち上げる。


「うおああああああああああ!?」


 かなり上まであがると風が拡散したのか、体に自由が戻る。そして今度は重力に従って、下に落ちだした。眼下には丁度聖獣が居る。
 黒光りする奴の武器から沸き上がる黒い煙、それがなんだか刀身の続きみたいに成ってくような。今回はここに最初に来たときとは違って、空中にフワフワ漂わせられる事もなかったのは良かったけど、向こうは完全に迎え打つ態勢万全だ。
 聖獣の長くなった武器が横から迫る。僕はイクシードを発動させて、風のうねりを黒い刀身にぶつける。そしてそのまま滑るように根本の聖獣自身に迫るんだ。
 実は風のウネリは片方だけに集約して出して、片側は雷を纏わせてる。ウネリだけじゃ盾を持つ聖獣にはダメージ負わせられないからな。
 コイツ等に挑むには、近距離戦しかない。


「うらあああああああああああああ!!」


 突き出したもう片方のセラ・シルフィング。奴の武器はもう一方で抑えてるし、雷激で鋭さを増したこの一撃。必ず叩き込む!! その気概で僕は迫る。


「舐めるなよ人間!!」


 そんな言葉と共に聖獣は盾でセラ・シルフィングを受け止める。ぶつかり合った瞬間に青い雷撃の光が周囲に弾けた。
 目の前の聖獣の仮面がそんな光を受けて怪しく照らされてる。視線が絡み合う……気がする。実際目は見えないんだけど、大量の何かに睨まれてるような……そんな変な感じ。
 一瞬のそんな視線の交錯の後、僕達は直ぐに次の行動に移る。聖獣は長くしてた武器を元のサイズに戻して、ウネリを流し斬りかかってくる。
 僕は体を回転させて背中側に回って避ける。そしてそのまま奴の羽を斬り裂く!


「それはこっちの台詞だろ! いい加減、僕達を下に見るのは止めるんだな!!」


 更に足蹴にして、二人して地面を目指す事に。その間に何度も何度も刃をまじ合わせる。だけどどちらも決定打を入れられない。
 流石にそこまで甘くはないか。どうにかしてこの翼を両方とも捥いで地面に完全に落とせれば、まだどうにか出きるかも知れない。だから地面にぶつかる直前まで諦めない。
 これだけの近距離――手数でなら誰にも負けない自身が僕にはある!! この距離は僕の領域だ。奴が斬り返す前に、更に斬る。防御の上から、息をつかせずに、反撃の隙間さえ与えずに、剣を振るう。


「ぐうっ……きさっまああ!!」
「落ちろおおおおおおおおおおおおおお!!!」


 黒い力と僕の雷撃が炎で赤く染まった地面に加わる。激しい音が轟いて、同時に激しい衝撃が体全体に伝わる。どうやら勢いそのままで地面まで来ちゃったらしい。まあ地面にしてはちょっと違う感じもするけど……下を見ると、ドスグロい緑色した血をぶちまけてる聖獣が居る。どうやらこいつを下にしてたから、何とか僕は無事で居られた様だ。
 でも流石に足も腕もジンジン来てる。けどこれは収穫だ。決定打は自分で入れる事は出来なかったけど、既に聖獣の奴瀕死だぜ。僕の攻撃を防ぐ事に必死で、地面との衝突対策を何もしてなかったんだろう。
 今なら止めをさせる。そう思ってると、前方から回転をかけた水の固まりが僕の肩を打ち抜く。


「づっ!?」


 後ろにドサっと倒れる僕。そこに追い打ちをかけるかの様に更に土埃の向こうからさっきの攻撃が迫る。だけど今度は剣でそれらをたたき落とす。
 すると今度は追いかけて来てたのか、空に居たモンスター共が一斉に僕に向けて炎の玉を吐き出すじゃないか。ヤバい、流石にこの肩じゃあの数は捌ききれないぞ。
 そう思ってると、後方から打ち出された光によってその炎が打ち弾かれていく。そして前と後ろ両方から聞こえる、地響きの様な音。
 僕は前と後ろにせわしなく頭を動かすよ。


(えっ? えっ? どうすれば?)


 ちょっ、どうなってるかわかんないんですけど!? そう思ってると双方向共々、土煙の向こうから勢い良くその姿を現す。前方からは大小さまざまなモンスター共が赤く光る瞳を爛々に輝かせて迫ってる。そして後方からは全体的に小さな兵隊達が頑張って走ってきてる。
 なんか頼りなさそうではあるけど、その後ろでは大量の魔法の輝きが見える。ようはこの前衛ポジションは後衛の詠唱の時間を稼ぐだけの役目なんだろう。
 仲間が居る事にホッとしたけど、基本歩幅が小さなモブリ。完全にモンスターが僕へ迫る方が速いんですけど!? くっそ……まだ空から降りてきたダメージが抜けない。心なしか、聖獣軍団は僕に狙い定めてる様にも見える。一番近いからかな? 


「こうなったら――」
 僕は握りしめるセラ・シルフィングに風のウネリを集める。別に奴らを一人で迎え打とうとか考えてる訳じゃない。ただ、目の前のこいつだけはここで潰そうと、そう思った訳だ。
 だってこれ以上のチャンスはないだろう。復活したらどうせ厄介なんだ。止めはさしておける時に刺しておかないと。
 盾があるけど、あの瀕死の状態じゃ発動はしないだろ。多分。僕は聖獣の方を見る。するとそこには不思議な光景が……なんだか服がぺっちゃんこになってて、仮面がない。それにあれだけまき散らされてた血がなくなってる? 雨で流されたのか? そんな風に思ったけど、何かイヤな予感がした。


【殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す――】


 そんな呪いの呪詛みたいな声が聞こえる方を向くと、そこには緑色した何かが大きな羽を広げて体を屈めてた。おいおい、まさかこれって……


【――殺す!!】


 顔を上げたその緑色の何かは、さっきまで聖獣がしてた仮面をしてた。伸ばされる腕――だけどその時、モブリ達の背の上から黄金色の光が放たれた。
 その瞬間緑色の生物は空へ離脱。光は迫ってたモンスター共にぶつかる。激しい爆発で再び、煙が立ちこめた。だけどその位じゃ双方止まらない。立ち籠もった煙を踏みつぶす様にしてモンスター共は近づいてくる。
 その時こんな言葉が聞こえた。


「彼を守るんだ! 全員臆するな!!!」


 その瞬間モブリたちがその小さな体で飛んでくる。そして一気に戦闘が始まる。


(今の声、テッケンさん? それにあの光は……)


 そう思ってると、空のモンスター共が次々と落ちていってるのが見えた。それを成してるのは五機の聖典。やっぱりセラか。
 そして僕の足下に現れる魔法陣。それが癒しの光をくれる。体の痺れが瞬く間に消えていく。それにこの暖かさ……きっとシルクちゃんだよね。ありがとう。
 その時、モブリたちをケチらしてこちらに迫る緑色の獣の姿が見えた。何とか止めようとしてくれてるみたいだけど、奴の羽が縦横無尽に動き、それを成させない。奴はまっすぐにこちらに向かって来る。
 僕はセラ・シルフィングを構えて魔法陣から飛び出した。その瞬間奴の背中の翼がこちらに向かってくる。僕はそれを剣で防ぎ受け流す。
 飛び散る火花――どうやらこの羽、随分鋭利になっちゃってる様だ。


【あっががあああああああああああああ!!】


 雄叫びの様な声を上げた緑色の怪物は、腕をこちらに向ける。するといきなり腕事態が延びて来やがった。


「んなっ!? ぐっ……」


 首を押さえられて持ち上げられる。もの凄い力……早く逃げ出さないとヤバい。僕はセラ・シルフィングで腕を叩き斬る。だけど直ぐに修復しやがって意味がない。やっぱりこの体は液体……つまり奴の血なのか。
 斬っても意味がない筈だ。ギリギリと食い込んでくる手の感触。ヤバい、目の前が霞んできた。この力の入れ具合……実際窒息で死ぬか、首の骨が折れて死ぬか、わからないかも。僕は最後の力を込めて、セラ・シルフィングの雷撃で全身を包む。


(これならどうだ!?)


 液体なら雷を通す筈……だけど基本、風のおまけ程度でついた雷の力。ただ放つだけじゃたかが知れてる。強力な敵である聖獣にはそれほど効果が出ない。


「くっそ……」


 僕は薄れていく意識の中、そんな言葉を紡ぐ。周りはそれぞれ大量のモンスターを相手にしてるし、助けは望めないのか? このままじゃマジで……【死】 
 そんな言葉が見えた瞬間、いろんな方向から光が敵の腕へ降り注ぐ。空気が戻る……そして地面に落とされる僕。噛みしめる様に僕は肺に空気を送る。


「がっは――――かはっ」


 上を見ると、そこには聖典が……セラに助けられたのか。するといきなり耳が潰れる様な叫びをあげる聖獣。周りの動きも思わず止まったその瞬間、奴の羽が素早く動いた。
 そして次の瞬間、展開してた聖典が真っ二つになって落ちる。まさか、今の一瞬で五機の聖典をいっぺんに斬り裂いたのか……滅茶苦茶な野郎だな。
 いつの間にか腕も戻ってるし……炎に包まれて落ちていく聖典を背にする奴には、恐怖心を抱かずにはいられない。

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