命改変プログラム
戦場の花
激しい振動と、お腹を揺さぶる様な大きな音。響きあう悲鳴と不安の声。いつまで続くかわからない恐怖に、皆さん限界が近づいてる。
「シルク様」
「セラちゃん! 今の音は?」
私は親とはぐれた子供の面倒をみてたけど、立ち上がりセラちゃんの言葉に耳を傾けます。
「どうやら下層の結界が破られたようです。聖獣共が押し寄せてきます。シルク様も来て頂けますか。シルク様にはバックアップの指揮をお願いしたいんです」
「私は……そんな上手く人を操れないよ。僧兵の皆さんの中にはそういうのが得意な人も居るんじゃないかな?」
私はそんなに協調性ある方がないし、気も弱い。顎で人を使うのはセラちゃんやローレ様みたいには出来ないよ。するとセラちゃんはこう言うよ。
「ダメです。全然ダメ。今まで何をしてきたのかと思うほど、リア・レーゼの僧兵の練度は低い。簡単な命令は聞いてくれますけど、基本ローレの指示によっての突撃、後退くらいしかアイツ等出来ないです。
魔法は使える訳だから、もっと効率良く指示を出せたら、一応使い物にはなると思います。だからその役目をシルク様に頼みたいんです」
そ……それは思った以上の大役。私の小さな肩には荷が重いような気がする。お願いするのは得意だけど、誰かに指示を飛ばすとか、私は一番苦手です。
「で、でも私の指示なんて誰も聞かないんじゃ……」
「大丈夫ですよシルク様。ちゃんとローレから許可を取り付けて来てます。貴方の指示を前線の全ての僧兵が聞きます」
うう、流石セラちゃん。手際が良い。でもまさかローレ様がそんな許可を出すなんて……私の事嫌いだって言ってたのに。
それとも私が困る事を見越しての新手の嫌がらせ? うう~私は大好きなのに酷いよ。
「私達は前線で動かないといけないから、シルク様しか居ないんです。大丈夫、もっと自分に自信を持ってください。貴方なら出来ます」
強い瞳でそう言ってくれるセラちゃん。セラちゃんは何故か私を過大評価してると思う。私はテッケンさんや、セラちゃんとは違うんだよ。
特別優秀って訳じゃない。私が出来るのは傷を癒してあげる事だけ。本当にそれだけなの。それだけしかやってないからじゃない、それだけしかやれないってだけだもん。
セラちゃんがただ私に「私達の命を預けます」とかいってくれるだけなら、私は全力で「はい!」って答えられる。
でも……それ以外は即答出来ないよ。
「シルク様は誰よりも優しい」
「そんな事……ないよ」
なんだかいきなり恥ずかしいことをいわれちゃった。どうしたの?
「あります。私はシルク様は誰もを助けてあげたい……そう思ってると思ってます。違いますか?」
「そ……それはそうだけど……」
実際は自分のパーティー以外にはなかなか手が回らないんだよね。ピクのおかげで、二パーティー位なら一人で回せそうだけど、それ以上は一人じゃどうしてもだし……
「シルク様の思いを叶えるには一人じゃどうしても無理です。だけど、周りを上手く効率良く導ければそれだって無理じゃない。
一歩を踏み出しましょうシルク様。私達も次のステージに向かわないと、あの無鉄砲なバカに置いていかれちゃいます。それは困るんです」
なんだかちょっと寂しそうな顔をするセラちゃん。あのバカって……スオウ君の事だよね。確かにそれは困るかも。
「それは困っちゃうね。私はスオウ君の専属回復役でもあるものね。スオウ君が死んじゃたら、それは私のせい。私の今の目的は彼を死なせない事でもあるもの。それにはもっとレベルアップしなくちゃ……だね」
「ええ」
最近強敵が次々と出てくるし、もっともっと技を磨いて研究もしなくちゃ、確かに置いていかれるかも……とは思っちゃう。
でも自分自身がいきなり強くなれる訳でも、新たな魔法を得られる訳でもない。これからもしかしたら大規模戦闘が増える機会が増えるのなら……みんなを守る為にも、これは必要な事なのかも知れない。
みんなの力を合わせれば、今まで一人でせっせとやってた事をもっと上手く出来るようになれるかも。それはある意味、レベルアップしたと言って良いのかも。
「お姉ちゃん……」
私の服を引っ張る感触。下を見ると、不安気に私を見つめるモブリの子供達。不安で怯える瞳。みんな親とはぐれて不安がってる子達。
私が行っちゃったら、この子達はきっともっと不安になってしまう。固まりかけてた思いが、その頼られる様な瞳に揺らされる。するとセラちゃんが膝を追って成るべくみんなの目線にあわせてこう言うよ。
「ごめんねみんな。お姉ちゃんは今からとっても大切な役目をしなきゃいけないの。それはここに居る全ての人の為に成ることなの。
お姉ちゃんが来てくれてないと、今必死にモンスターをくい止めてる人達が帰ってこれなく成っちゃうかも知れない。
みんなのお父さんで僧兵やってる人も居るでしょう? お姉ちゃんはその人達を後ろで支える要になるの。だからお願い。行かせてあげて」
優しく優しく、そう言ったセラちゃん。セラちゃんって案外子供の相手も出来るんだと、意外な所にビックリ。まあ実はとっても女の子らしいし、母性は備わってるのかも。
でもそんなセラちゃんの言葉を聞いた子供達は意外な事を言ったよ。私もセラちゃんも思ってた事とは違うこと。
頭を左右にフルフル振って、真剣な眼差しで見上げて来るみんなは小さな手をしっかり握りしめて口を開く。
「ううん、違うの! 私達ね、お姉ちゃんに行って欲しい。私達は大丈夫だから……寂しいけど……我慢する。お姉ちゃんが行っても、それも私達を守るためだってみんなわかってるもん!
だから、行ってらっしゃいお姉ちゃん」
笑顔でそんな聞き分けの良いことを言うこの子達。私の目頭は奥からジンジン熱く成っちゃいます。最初は不安と恐怖で泣きじゃくってたのに……今は私の方が泣きそうです。
だけどダメ……私は必死に堪えて、みんなに笑顔を向けます。そしてセラちゃんとアイコンタクトを取り「行ってきます」そう紡ぐ。
私たちはリア・レーゼの人々が集まってる大部屋を後にして、聖獣軍団が迫る前線を目指します。
赤く燃えてるリア・レーゼの町並み。ゴミの様に沸くモンスターの黒い姿。今すぐにでもケチらしたいと思える光景に、胸くそ悪くなるから、常に側に行る奴を杖でポカポカ叩く。
「イタッ――イタッ――ちょっローレ様――やめ――――やめてくださいいいいい」
ポロポロと水の欠片を目から流して懇願してくる彼女。ちょっとスッキリしてきたから、もっと叩いてあげるわ。
「ううう~~~~~~~痛いです~~~~」
「……ふう、飽きたわね」
「その止め方も酷い!」
一通り叩き終わったから止めてあげたのに何よその言葉。
「ローレ様機嫌悪いです~」
「アンタね、無闇にこんな所でローレローレ言わないでくれる。世間一般では一応秘密の御子なんだから」
「それなら私を叩くのも止めて欲しいです。一応私、それっぽい衣装着てるからもしかしたらって思われてるかもですよ~」
まったりとした口調でそんな事を言う彼女。説明しとくと彼女は私の身代わり。替え玉なの。普段布で隔てた所に姿を現してるのこの子。
そして今は珍しく、二人して本殿まで降りて来てるから
何かと神経質になってる訳だけど……この子は相変わらずなのよね。
この現状をどうにかしたいとは思ってるみたいだけど、いかんせん緊張感が足りない顔つきしてる。それにこの声。甘ったるいのよね。
だから普段話す分には良いけど、今の状況じゃ感情を逆撫でるというか、なんと言うか……それに私は普通の格好で、コイツが十二単クラスの羽織物を身につけてるのもちょっとプライドが傷つく。
まあ私がやらせてるんだけど。
「大丈夫よ。誰もアンタをローレだって思わないわよ。衣装だけ豪華でも、今のアンタは雰囲気も声も違うでしょ」
「それならローレ様だって大丈夫だと思うな~。だって誰もがローレ様は私たちと同じモブリだって思ってる筈だもん~。
私が名前呼んだって御子様だって思う人はいないですよ~」
確かに、それはそうだけど……そう思ってると頭に響くピーピーという音。私はウインドウを開いて通信回線をあける。
『ローレ様、時期に第三次防衛ラインで戦闘が始まります。部隊の展開と配置、結界の構成も終了してます。ですがその……良いのでしょうか?』
「何がかしら?」
『我らの指揮を部外者が担当する様ではないですか。勿論ローレ様の采配を疑う訳ではないですが、我らはどんな形でもローレ様の言葉に従いたいのです』
真剣な眼差しでそう告げて来る隊長格僧兵の一人。ああ、もうゾクゾクしちゃうわね。この隷属っぷり。本当に堪らない。
私の言葉を犬の様に待っちゃって、キチンと躾られた犬は本当に可愛いわね。だけど今は無理なのよね。それにここから指示を出すのも限界があるし、使える物は使わないとね。
私ってある資源は使い果たすタイプだから。
「ごめんなさい、私も皆と共に戦いたいのだけれど、やることがあるわ。負けない為に必要な事。私の魔法は時間も掛かるし、準備も大変なの。
だから皆にはその時間を稼いで欲しい。それに私を信じてくれるのなら、彼女の指示に絶対に従いなさい。癪だけど、なかなか出来る子よ」
『そう……ですか』
ああ、飼い主に見放された子犬の様な顔しちゃって――ううん、ビンビンきちゃうわ。涎垂れちゃいそう。ホント、可愛くて虐めがいがある生き物。
私は通信を切って、両肩を両腕で抱きしめる様にして、悶える。すると横から的外れな声がした。
「どうしたんですか? そんなに打ち震えなくても、みんなきっとやってくれます!」
「そうね」
ふふふ、適度にバカだからホント可愛くてしょうがない奴らよねモブリって。すると今度はちょっと落ち込んだ様に俯く彼女。
「やっぱりローレ様だけで完結しちゃうと、手間がないですよね。私を通し手だとワンクッション必要に成るし……だけどやっぱりちょっと物足りないかな~なんて」
なるほど、通信では自分の役目がないからつまらないって事ね。通信は相手側にはいつも同じ映像を見せる様に設定してるから、別に替え玉必要ないのよね。
実は全部私への連絡は通信性にして欲しい所だけど、時にはちゃんと動いてるの見せないと、色々と変な噂が出かねない。
私は彼女の頭に手を置いて撫で撫でしてあげるわ。ふふ、大サービスって奴よ。
「別に安心なさい。貴女をいらない子になんかしないわよ。だから堂々としときなさい」
「は……はい!」
うれしそうな顔しちゃって。こんな嬉しそうな顔を見ると、思わずどうしたら絶望させられるか考えちゃうわね。私の悪い癖。
でもこれでも良くなった方かしら? LROを初めて、無能な奴らの事を寛大に受け入れられる様になったわ。それまでは、学校や社会にいる底辺な奴らが作り出す空気が息苦しくて溜まらなかったけど、ここに来てそんな奴等の扱いを学んだし、私は知った。
無能が悪いんじゃないわ。まあ中には悪い無能者も勿論いるけど、指導者がちゃんとやればそんな無能も有能に出来る。
それを私はここで証明してる。ハッキリ言って、リア・レーゼの人達は全然、全然全く優秀なんて一人もいないけど、烏合の衆が烏合なりに色々と頑張ってる姿は、ちょっとは楽しい物がある。
それにやっぱり崇められるのは悪くないしね。そんな寛大な心を私はここで養ってるの。だからリアルで屑で無能な奴等を見ても今は吐いたりなんかしない。
私があの国のトップに立って、無能共を有意義な人柱に仕立ててあげるんだから、とっても暖かな目で見てるわ。だからLROでやってる事なんか予行演習の様な物。私がどうやったらトップに上り詰めれるのかのね。
今はまだこんな森の中の街一つの代表だけど、必ずノーヴィスを手にして、そこから目指すは世界征服よ。言葉にしたら笑っちゃうけど、私はそれを夢物語になんかしないわ。
そう思ってると、大きな振動が床から伝わって来る。
「きゃあ!」
そういってふらつく彼女を支えつつ、私は遠くを見つめる。
「始まったようね」
さていつまで持つかしら。決定的に戦力が不足してるし、時期に第三防衛ラインも破られる事は確実。そしたらもう最終のここしかないわけで、ここには戦闘用員とは違う民間人も一杯。
流石に上に移した方がいいかしら? やることがあるとかさっきは言ったけど、実は何もしてないのよね。フィンリルの全能力解放と、メノウの精神渡航で精神力がすり減ってるのよ。
「あのオバサン、私が折角復活させてあげたんだから、役に立ちなさいよ」
私は厚い雲に覆われてる空を見つめながらそう呟く。激しい雨の中でも消えない町中の火。それは敵の勢いの強さを示してるような……そんな気もする。
「皆さん大丈夫でしょうか?」
「今回はそれなりに大丈夫じゃない? 頼りに成る奴等も戦闘に加わってる訳だしね。それに万が一の保険もあるわ。
問題はサン・ジェルク側が間に合うかどうか。そして聖獣共の狙いね」
「狙いは世界樹を奪う事なんでしょう?」
「バカね、それは取りあえず目の前の目的でしかないわ。もっと奥を読みなさい。聖獣が世界樹を手にして何をしたいのか――をね」
「何をしたいのか……」
考え込む彼女。私はカウントダウンを初めて、五秒後にブブーと言う。
「は、早いですよローレ様!」
「一分一秒を争ってるのよ。五秒で答えにたどり着けないなんて贅沢だと思いなさい」
「ううーそんな~」
涙目で落ち込む彼女。可愛いからホント虐めがいがある生き物。
「じゃあじゃあ、ローレ様は聖獣の目的わかってるんですか? はい! イ~チ――」
対抗していきなり始めるとはやるわね。いつも側にいるから少しは鍛えられてきたかしら? でもまだまだ甘々ね。
「そんなの簡単。聖獣は自分達の主を待ってるのよ。世界樹は世界の柱。あんまり知られてないけど、世界ってのはこの私達の世界の事よ。暗黒大陸にも実はその世界の世界樹がある。
でも今はこちらの世界樹の方が大きな力を有してるから、暗黒大陸を隔絶出来てる。でももし、この世界樹の力が弱まったらこちらとあちらの境界が緩く成るわ。
そうなると、向こう側に閉じこめられた闇の主が現れるでしょうね。何かの媒体を持ってしての一時的な顕現なんかじゃない、その本体がこの地に降り立つかもしれないわ」
私の言葉を聞いて、アワアワと震え出す彼女。
「それって、邪神がこの世界に復活するって事ですか? 大変じゃないですか!」
大変なんて物じゃないんだけどね。世界が大混乱の事態よ。まあ一度ここに顕現したって言う邪神の話を聞く限り、話が通じない相手でもなさそうだけど……でもそんな危険な綱渡りは私もしたくないのよね。そもそもこれはあくまで想像だけどね。
「でも、ローレ様の言うことは外れた事ないです。きっとそうなんですよ! 邪神が復活するなんて……世界の終わりです~」
確かに喜ばしい事ではないわね。だけど気になる事はまだあるわ。邪神がスオウに頼んだ事……それも気になる。金魂水を使って邪神はスオウに何をさせたいのか……
もしかしたら聖獣の目的と邪神の目的は相反したりするのかも。わからないけど。
色々考えてると、更に激しい音が世界樹全体に響く。パラパラと天井の埃が落ちて来て、下の階から不安な叫びが聞こえる。
みんなこれ以上後はないと思ってるからね。刻々と迫る敵の恐怖に怯えてる。やっぱり上に……でもここまで来られたらあの場所に行っても行かなくても同じのような……幹の中心はここだしね。
上の方が世界樹の力の恩恵を受けれる訳だけど、その源がやられちゃ意味がない。やっぱりここが最終防衛ラインなのは変わらない。
そう思ってると、本殿の外苑部に配置してるそう兵達の悲鳴が聞こえた。
「ローレ様、アレ!」
彼女が指さす方を見ると、モンスター共が必死に羽を動かして攻撃をしようとしてる。だけど残念。世界樹の周りには乱気流が発生してる。空を飛べる奴等も、その気流の乱れのせいで攻撃までは手が回らないでしょう。
実際モンスターが吐いた炎は有らぬ方向に飛んで消えて行ってる。せいぜい原始的に足で上って来る事ね。そう思ってると遠くに雰囲気の違う奴がいることに気づいた。
長い長刀を構える姿。怪しい仮面に黒い雰囲気。あれは……「聖獣」
私はウインドウを開いて一斉に近くの僧兵に指示を送る。
「全員結界の出力をあげなさい! 聖獣がデカいの撃つ気よ!」
乱気流の影響受けない箇所から最大攻撃をしようって事らしい。だけど普通はそれだけ離れちゃ意味ない訳だけど……私の直感が告げてるわ。
奴はヤバいと。ここから見える範囲でも僧兵達の魔法陣の輝きが増したことがわかる。大丈夫、どうにかこの本殿を守る事は出来る。
そう思ってた。だけど何も攻撃を受けてないのに、結界に入る亀裂。どういう事?
「ちょっと、サボるんじゃないわよ!」
「サボってなんかないですよ~。でもなんだか穴でもあいたみたいに、結界が維持できなくなってて~」
穴? 結界に穴をあけられたって、どこも攻撃なんて受けてないわよ。それになんだか攻撃を受けた時とは様子が違う……か。
「解析するわ。もう少し踏ん張りなさい」
私は沢山の装飾がぶら下がる自身の杖を床に着いて幾何学模様の魔法陣を発生させる。そして大量に周囲に現れるウインドウ。
シャラン……シャラン、とそんな音を装飾からたてる度に、ウインドウの画面が切り替わる。更に私は自身の魔法陣をこの本殿全体に広げる。
(おかしいわね。魔法の結合部分が引きはがされて行ってる。この結界を解析して中和してる奴がいるって事? 厄介なスキルを持ってる奴がいるじゃない。
しょうがないわね。応急処置だけど、私の陣を組み込むしかないか)
私は結界維持の僧兵達に自身の魔法陣を上乗せさせて、強制干渉を起こす。足下に自分の魔法陣の他に私の魔法陣も現れる物だから、彼女はビックリしてる。
「ちょっ! ローレ様これは――ああん!」
「変な声出さないでくれる。集中できないでしょ。強制干渉して、結界構造を組み直すわ。全員結界をそのまま維持しなさい!」
誰かの力を受けながら魔法を発動させるのは困難な訳だけど、一回でも結界を解くわけには行かない。無茶でも何でもここが踏ん張り所なのよ。
「くっ」
だけど、組み直す側から紐解かれる用に結界が溶かされていく。そして遂に完全に結界が消滅。その瞬間、貯めてた攻撃を打ち放つ聖獣。黒い斬激が本殿へと迫る。
「「「うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」」」
響く僧兵達の叫び。斬撃は本での前の広場を切り崩しつつここに迫ろうとしてる。するとその時、装飾の一つが青紫に輝いた。これは! 私は外に杖を向けて言葉を紡ぐ。
「我の元に戻りし召還獣よ。その契約の元に我に立ちふさがる全ての厄災を打ち砕け。月光を背負いし夜天の覇者――――――――『フィンリル』!!!」
本殿前に現れる巨大な魔法陣。そこから飛び出したのは輝く大きな狼。その狼の彷徨が黒い斬撃を打ち砕き、更にそこから誰かが聖獣へ向かい飛び出した。
だけど向かい撃つが如く更に斬撃を飛ばす聖獣。それを彼は乱気流を使いかわしてそのまま遙か高見へ。そして落下しながら一気に聖獣へと迫る。三つの武器が交錯し打ちつけあう。眩しい位に輝くその姿に、私達その場にいた全員の目がその彼に注がれる。
間違いない。二対の剣に風と雷を宿すその姿……全く、遅いったらないわ。私を一瞬でも待たせるなんて、許せない所業よスオウ。
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