命改変プログラム

ファーストなサイコロ

サン・ジェルクの決断



 キーーーーーン、と耳に響く音が鳴ってる。気づくとそこは元の長の部屋だった。白い霧の空間ではなくなってる。どうやら夢幻は解けた様だ。
 薄い緑色の膜の中の元老院の長はさっきまでと変わらずにその瞳を堅く閉じてる。


「これでいいよな」


 僕はそんな言葉を紡ぎながら、杖に目をやる。この杖が発動した魔法「夢幻」を使えば、この爺さんを起こして、思ってない事を言わせる事だってきっと出来たと思う。
 こっちの質問にスラスラ答えてくれたし、精神支配出来てた筈だ。でも……やらなかった。だってそれはそれで、後々問題になりそうな事だ。
 それにそんな操って、自分の都合の良いように他人を使う……それじゃあ腐った元老院共と同じだ。ノエインは手に手を取り合って行きたいみたいだし、そう言う後々問題にされそうな事はしないほうが良いだろうって判断です。
 きっと大丈夫だと思うしな。外の雰囲気はノエインに優勢だ。余計な事、しなくてもきっと……


「じゃあな爺さん。今度起きたときは、もしかしたらこの国は変わってるかも知れないぞ」


 深い眠りについてる長にそんな言葉を掛けて、僕は部屋を後にする。扉を開けるとそこには揉め合ってる二人の姿があった。


「ちょっとどこ触ってるのよこの変態! ただの僧兵の癖して私にベタベタしないでよ!!」
「ベタベタって……別にこっちだって元老院の関係者なんかに触りたくない。だけど邪魔させる訳にはいかないんだ!」
「邪魔ってなによ! アイツが本当にお爺さまに何もしないとは言えないでしょ!」
「言えるよ! 俺たちはここまで来る中でだって、誰も殺したりしてない! 今更アイツが誰かを手に掛けたりしないさ!」


 おお、なんだか嬉しい事言ってくれるじゃん僧兵。まあでもなんか楽しそうだから声掛けづらいよな。喧嘩するほど仲が良いとか、コイツ等には適応出来そうな気がする。
 僕とセラにはあり得ない言葉だけど……なんと無くコイツ等はそこまで嫌悪してない感じがする……かな?


「「あっ!」」


 ようやく僕に気づいたらしい二人。彼女は僧兵を押し退けて僕に詰め寄ってくる。


「お爺さまは無事なんでしょうね?」


 ズボンを引っ張りながらそう言う彼女。そんなにお爺ちゃんが好きなのなコイツ。


「そんなに心配なら見に行けばいい。自分の目で確かめた方が安心だろ」


 僕がそう言うと、彼女は部屋の中へと走り去る。


「どうだったんだ? 目的は果たせたのか? こっちは大変だったんだぞ」


 彼女の後に足下にきた僧兵がそんなグチを漏らす。大変ってそんな……本当は楽しかったくせに。


「お前は何か変な勘違いしてるよな?」


 僕がニヤニヤしてたからか、そんな事を言う僧兵。勘違いねぇ……まだ自覚がないのかな? かな? お似合いだと思うんだけど。
 まあだけど変なちょっかい出す気はないよ。僕はそんな野暮じゃないのだ。優しく見守っててあげるさ。


「おい、どうだったんだよ」
「ん? ああ、本題の方ね。知りたかった事は聞けたさ。外の方はどうなってるんだ?」


 僕たちは外側へ歩く。そして社の一番高い部分から下を見る。灯る明かりがウジャウジャと動いてて、まだまだ元気に叫ぶ声が聞こえてる。これだけの声があれば、元老院も折れざる得ないだろう。きっと。


「そういえばここからどうするんだ?」
「予定では、迎えが来てくれる筈なんだけど……なんか映像も消えてるし、どうなってるんだ?」
「転送陣もまだ使えないしな」


 ぬあ!? そうだった。小細工してたんだったな。どうしようか。下の階にいけないぞ。でも下の階は元老院お抱えだからな……ここまで元老院が不利でも襲いかかって来るかも……それはそれで厄介だし、どうにかして別ルートは無いものか。
 僕は身を乗り出してみるよ。


「ここから降りられないかな?」


 地上まで一直線でいけそうだけど……そう言ったら、呆れられたよ。


「お前な……どう考えても自殺行為だろ」


 確かにそうなんだけど……一刻も早くノエインたちと合流したい。それを考えるとここからが一番早いと思うんだ。どうにかして降りる術はないか……そう考えてると思いついた。


「そうだ、大丈夫。降りる術はあるぞ。思い出したら残ってるじゃないか! バトルシップから飛び降りたときのお札はまだある!」


 お札を使えば、衝撃吸収とか出来るし余裕だろ。だけど何故か僧兵の奴はあんまり浮かない顔してる。


「また落ちるのかよ。あれって苦手なんだよな」
「苦手ってそんな事言ってる場合か。一刻も早く、リア・レーゼへ! だろ?」
「そうだけど……」


 全く、バトルシップから飛び出す時はそんなに渋って無かったくせに、なんでここに来て怖がってるんだよ。


「それは……想像以上に怖かったからだろ!」


 何で威張っていうんだよ。まるで僕のせいみたいじゃないか。


「てか、お前たちって飛空挺で基本攻めるんなら、地上降下の訓練とかしてるんじゃないのかよ? 白兵戦仕掛けるには必要だろ」


 ずっと空でドンパチやるわけじゃあるまいしさ。


「確かに降下訓練はするけど、バトルシップはまだそんなに数があるわけじゃないし、最新鋭の兵器は俺たちみたいな末端まで回ってこないんだ。
 実際乗ったのなんて、今日が初めてだ!」


 ぶっちゃけたなオイ。そもそも初めから乗ってた訳じゃないのかよ。


「俺は違う。他の飛空挺の副官してた。だけど船が落ちる時に脱出したんだよ。モンスターに食われなかったのは運が良かったから……あのバトルシップに集まってたのは、そんな運の良かった奴らなんだ」
「元から乗ってた奴も居たはずだろ。バトルシップは何とかその姿を保ってた訳だし、バトルシップの乗員が一番生き残ってて良いはずだ」


 僕は真っ当な意見を言うよ。でもそしたら、コイツが艦長やってたのはおかしいんだけど……


「勘違いしてる様だからいっとくけど、バトルシップも最初は酷い物だった。お前達が見たのは俺たちが修理しだした後のだ。
 そりゃあ何人かは生き残ってたけど、偉い奴らが軒並み死んでたんだ。そこで引っ張りあげられたのが俺だ」
「なるほどね。それで納得」


 てかなんか、話ずれてね? そんな事聞いてるんじゃないよ。さっさとここから脱出して、ノエイン達と合流するぞって事だろ。


「ほら、これがあれば安全だからさっさと行くぞ」


 僕はアイテム欄から取り出したお札の半分を僧兵へ渡す。


「折角懇切丁寧に説明してやってるのに……」
「後で聞いてやるよ。今はその時じゃない。覚悟決めろよ。今度はバトルシップから飛び出す訳じゃないから、余裕だろ?」
「言ってろ。――――ってちょっと待て」


 なんだよ。折角行く気満々だったのに、揚げ足とるな。そう思ってると、僧兵は魔法で空に流れ星みたいな光をあげる。
 花火が収まってて良かったよ。ドカバカ上がってたら幾ら甲高い音を出してると言っても気づかれないかも知れない。


「やっぱりバトルシップは来ない……か。しょうがない、じゃあ行くか」


 バトルシップの姿も見えないし、なんかイヤな予感がする。でもようやく心を決めた僧兵。僕たちは手すりに足を掛ける。


「ん、ちょっと待て」


 遠くから何かが近づいてくる。まさかバトルシップ? と思ったけど違う。あれは……なんだ? 大きな光る狼? 随分格好いい狼が近づいて来てる。


「おいおい、なんだあれ? 新手か?」
「知るか。だけど新手だとすると相当強そうだな……」


 そう思ってると何やら声が聞こえる気がする。僕たちはキョロキョロと頭を動かして声の主を探す。


「ここですよ。ここ」


 僕たちはそんな声に導かれて、近づいてきてた狼へ視線を移す。すると青い毛と白い毛が入り交じる狼の頭からピョコンと何かが顔を出した。それは……


「アンダーソンのばば――――ブビャ!?」


 いきなり魔法を食らわせて来やがった。何しやがるんだこのおばさん。


「全く、相変わらず無礼ねアンタは」


 どっちがだ! と言いたい。相変わらず破天荒と言うか何というか、この人もある意味でサン・ジェルクやリア・レーゼと言うしがらみに縛られてないみたいな感じだよな。
 なんだか一番中立っていうか……そんな立場っぽい。と、いうかだ……


「イツツ……この野郎、いきなり何するんだ。それにどうしてここに? どうやって? 何で目が覚めてる?」


 僕は思い浮かぶ疑問をぶつける。だってコイツがここに居るなんて、想定外過ぎる。なんだかノエインがそんな事を言ってた気もするけど、その時点ではちょっと信じてなかった。
 でも今、こうやってここにミセス・アンダーソンがいる。それが事実。箱庭から出るときに僕たちを行かせる為にその身を犠牲にした筈のこの人が……今ここに。
 箱庭の中に精神が取り残されたんだと思ってたから、この人を助けるにはもう一度箱庭を使わないといけない……とか勝手に思ってたけど、そうじゃなかったって事か。


「質問が多いですよ。全てに懇切丁寧に答えてる暇はありません。リア・レーゼはピンチなのですから。なので一つだけ、こちらが請け負った伝言を聞いてください」


 そう言って狼の頭の上に立つミセス・アンダーソン。狼の毛がサラサラ揺れ、光の粒子がキラキラ光ってる。そんな中で、大切そうにミセス・アンダーソンはその言葉を紡ぐ。


「あの子から貴方へ『待ってる。信じてるよスオウ!』だ、そうです」


 その言葉……なんだか胸に来る。それを紡いでるクリエの姿が見えた気がした。それにそれは、まだアイツが無事な証。映像じゃ観れなかったからな。


「確かに受け取った。サンキュー、ミセス・アンダーソン」
「どういたしまして。それでは急いで戻りましょうか、元老院も既に折れてます。上空に展開してる艦隊は直ぐにリア・レーゼを目指します。そして残りの全艦隊も、時期に教皇様が編成されて向かいます」


 もうそこまで……流石アンダーソンが居ると仕事が速い。こいつ元老院にも通じてるみたいだし、教皇側と元老院側、双方を取り持つのに向いてたのかな? 
 こいつを今、このタイミングでここにやった奴……まあ考えられるのは一人しかいない訳だけど……やっぱり油断ならない奴だな。
 テッケンさんから聞いた後に思いついたのか? それとももしかして僕たちの行動を予想して、準備をしてた? 流石にテッケンさん達がリア・レーゼに到達してからじゃ、早過ぎる気もするか……まあそれもリア・レーゼに行けばわかる事か。


「ではこちらに、さあさあ早く」


 そう言うミセス・アンダーソン。すると狼がこちらに背を向けてくれる。そしてその大きく力強い尻尾を手すり部分に巻き付けて梯子みたいにしてくれる。
 僕たちはそれを伝って狼の背に。てか、この狼は何なんだろう? 召還獣かな? そんな事を考えてると、狼は尻尾を放して動き出す。するとその時、後ろから声が。


「ちょっと待ちなさいよ!」


 なんだ? お爺さまは無事な筈だけど、まだ何か様な訳?


「い、言っとくけど、元老院の決定権はお爺さまにあるからね! 幾ら今日があんた達の思い通りにいくとしても、今後お爺さまが目を覚ましたらそうは行かないから!」
「あーはいはい。肝に銘じておくよ」


 僕は適当にそう流してやる。だってねぇ、負け犬の遠吠えにしか聞こえないぞ。


「むむむ、何よその返事! 私に向かっての口の効き方がなってないわよーーー!!」


 ああ、もううるさいな。僕は後ろに居る僧兵にこういうよ。


「お前どうにかご機嫌取れば? ポイントアップになるかも」
「何で俺が……だからさっきから変な勘違いをお前はしてると……いや、いいよもう。早く行きましょうアンダーソン様。
 あれは無視して結構です」
「あらそう? なら私が知らぬ仲でもないですし、言葉を返しましょう」


 なぬ!? ミセス・アンダーソンはあのヒステリック女の事知ってるのか。


「ファニーお久しぶり。私どもは今大変急いでてね。次に合う機会があればそれの時にゆっくり話しましょう。
 これからはきっと、元老院と教皇の垣根はなくなって行くでしょうから、私たちの距離もきっと近づく筈ですよ」
「ミセス・アンダーソン……私、貴方の事嫌いなんだけど」


 うおい、なんて事を面と向かって言う奴だ。いや、ある意味気持ちいいけど。するとミセス・アンダーソンもニコニコ笑いながらこう言った。


「安心して、私も貴方が嫌いです。良かったわ。これからはこの感情を素直にぶつけられそうで」
「言っとくけど、ノエイン様は元老院をどうにかする気はないんでしょ? 図に乗らないでくれるオバサン。アンタが私を敬うのはこれからも変わらなくてよ」


 おいおい、なんだか火花が散ってるんですけど。なんでこんな事になってるんだよ。


「敬う? はて、私は一度も貴方を敬った事なんかないんですけど。一体どうすれば自分よりも年下でバカな娘に敬意を払えるのか……私的には謎です」
「ア……アンタね~~~」


 プルプル震えてちょっと涙目な彼女。ファニーだったっけ? なんか可哀想だぞ。すると僧兵が「もうそこら辺で……」とミセス・アンダーソンに提言してるやっぱりなんだかんだ言って、気にしてるよなこいつ。


「さて、私達は忙しいので、これで。お爺さまが目を覚ましたら宜しく言っといてください」
「だ、誰が言うか!」


 狼は空を駆け出す。そして動き出してた飛空挺艦隊の側面につける。その時、出航を祝ってか、もう一度盛大にサン・ジェルクから花火が上がる。そんな花火を背にして、僕達は一路リア・レーゼを目指す。




 飛空挺の甲板に狼は降り立つ。僕達が背から降りると、狼の姿がどんどん人型になっていく。


「えっえっえ?」


 僕がそんな声を出して見てると、狼は人間っぽい体型に。てか、その人物を僕は知ってる。


「お前、リルフィンじゃねーか!」
「うるさい人間だな。ギャーギャー喚くな」


 いや、喚くだろ普通。どういう事だよ! するとミセス・アンダーソンが説明してくれる。


「彼は召還獣なのですよ。『月の化身フィンリル』それが彼の正式な名で、今の狼みたいな姿が彼の本来の姿です。まあ、この事実を知ってる者は少ないですが」
「フィンリル……フィンリル……リルフィン……ちょっと文字をモジッただけじゃーか!」


 単純にも程がある。


「主が付けてくださった名に文句を付けるな」


 いや、絶対に適当に考えたよねアイツ。ローレの奴が「フィンリルって普通に呼んでたらバレるわよね~。そうだ! じゃあ、リルフィンにしましょう。ちょっと女の子っぽいけど、まぁいいわよね」って感じで決めた所が想像できる。


「貴様、どこかで見てたのか?」
「モロ当たっちゃったよ!」


 てか、見てる訳ないだろ。ローレの奴がいつ頃あの立場になったのかとか知らないけど、きっと確実に、僕がLROを始める前だろうし、知れる筈がない。
 僕達がそんな会話をしてると、突然扉が開いて大量の僧兵達が僕達を取り囲む。なんだなんだ? 罠だったのか? とか一瞬思ったけど、どうやら違うらしい。彼、彼女達は一斉に頭を下げて来たよ。


「「「これまでの数々の非礼、謝らせてください。許されるなんて思ってないですけど、どうかこの通り!!」」」


 そう言って頭を下げる様はなんか圧巻。でも実際、謝られるのもどうかと……この人達がやってたこともまた当然だ。


「いや、謝らなければいけない。我々は君たちの仲間を……」


 僧兵の皆さんは俯いて震えてる。そして更に……


「自分達の同胞を……手に掛けたんだ!!」


 そう言って、涙を流す人も……そうか、バトルシップは落ちたのか。だから……映像も消えてた。危険な事だとわかってた。そしてこの人達がどういう行動をとらなくちゃいけないかもわかってた。
 それでも僕達は強行した。いや、僕が無理を言った。この人達のせいじゃない。バトルシップが落ちたのは……僕が無茶を押し通したから……


「なんで……なんでアイツ等が死ななくちゃいけないんだ!」


 そう言って打ち震えてるのは今までずっと協力してくれてる彼。伝えられた事実は、彼にとっても辛い物だ。同じ戦場を経験して、なんとか生き残った戦友なんだから、当然だ。
 厚い雲の空の下に、悲しい雰囲気が流れる。するとそこであんまり事情に詳しくない奴が一人場違いな事を言うよ。


「ちょっと、何暗い顔を揃いも揃ってしてるのよ。やる前から敗戦ムードを漂わせてどうするの。もっと心を奮い立たせなさい」


 みんながしんみりしてる中で、そう言ったのはミセス・アンダーソン。まあ場違いではなかったかも。アンダーソンの言うことも最もだよ。
 これからなのに、こんなムードで居ちゃいけない。バトルシップに居たみんなが何のために、その身を犠牲にしたのか、僕達は忘れちゃいけないんだ。


「わかってます。そんなことは! だけど仲間ですよ。同胞じゃないですか。その死を誰が悼むんですか。せめて黙祷くらい、してあげなくちゃ浮かばれません。
 そうしたら、ちゃんと心を切り替えます」


 彼はミセス・アンダーソンにそう伝えて。みんなで遠くになっていくサン・ジェルクの方を見つめる。そしてみんな両手をあわせて、静かに黙祷。だけどそこでミセス・アンダーソンがこんなことを言った。


「全く何を言ってるのか? 爆発したバトルシップの乗組員なら、私が助けておきましたよ」
「「「「えっ?」」」」


 僕達一斉にアンダーソンの方へ振り返る。なんて言ったよコイツ今。


「ですよねリルフィンさん」
「ああ、私達は湖を渡って来たからな。その時丁度、バトルシップがボロボロになるところだった。だから、乗組員を救出したんだ」
「――って事は……みんな無事なのか?」


 僕は恐る恐るそう聞いてみる。


「だから無事だと言ってるでしょう。皆さんキチンとお医者様に預けてきましたよ。命に関わる者はいません」
「「「お……おお…………おおおおーーーーー!!!」」」


 ミセス・アンダーソンの言葉で、僧兵達は顔を見合わせながら最初はぎこちなく、だけど一斉に安堵の叫びをあげる。
 僕もホッと胸をなで下ろすよ。


(良かった。本当に良かった)


 心の底からそう思う。誰にも死んで欲しくなんかないもんな。雰囲気も明るくなったし、これからの戦闘に向かう影響はなくなったな。
 これならいける。でも一つ気になる事が。


「なあ、この飛空挺じゃ十五分位掛かるんだよな? もうちょっと速度出ないのか?」


 そう、それが一番のネックで気がかりな事。一分一秒でもこちとら急ぎたいんだ。バトルシップならその半分でいけるのに……今更十五分ものんびりと行きたくない。
「確かにこの形状の飛空挺はそこまで速い訳じゃないですね。ですがこれは戦闘用ですから、もうちょっとは速くいけるでしょう」
「もうちょっとって、半分でも不安なのに、結局十数分掛かるなら変わらないだろ」
 結局三十分位、サン・ジェルクにいたんだし、これ以上はヤバい気がする。今から十分後に付いてもトータルで四十分も掛かってる。小規模な戦いなら終わっててもおかしくないよな。
 無事なんだろうか……


「心配なら、先行しますか? 教皇様もきっとバトルシップも入れた艦隊を後から出すでしょうが、それよりもここからリルフィンに乗せて貰った方がきっと速いですよ」


 先行か……もう確実にサン・ジェルク艦隊は動き出したんだ。それも良いかも知れない。艦隊が到着するまで、先に行って、リア・レーゼを支えるか。
 悶々としてるよりも、よっぽど良い。僕達は再び狼の姿になったリルフィンに乗り、先にリア・レーゼを目指す事にした。

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