命改変プログラム

ファーストなサイコロ

小さい事、大きい事



 空から降り注ぐノエインの声。そして目の前の僧兵達に訴えかける彼の声。いろんな人が、思いを伝えたくて、必死な心の叫びを言葉として放つ。
 どう受け取られるかなんてわからない、だけど伝わると信じて、僕らは訴えないといけない。対話は面倒かも知れないけど、それは僕達だけが見いだした暴力だけじゃない、解決策だからだ。




 大きく肩を揺らして空気を求める彼。言いたい事は言ったんだろう。後はただ、周りの同胞、僧兵達がどう受け止めるか……
 僕はもしもに備えて、僅かに手をセラ・シルフィングへと向ける。彼には悪いけど、僧兵達が止まらなかったら、やむを得ない。
 殺しはしないけど強力な雷光で怯ませて、その間に通り抜けさせて貰う。大切な事……聞きたいからさ、止まれない。きっともうサン・ジェルクには戻ってこない気がするし……このタイミングしかないんだよ。
 静かじゃない沈黙が流れる。僕達のせいなのか周りは慌ただしいし、外のバトルシップと飛空挺戦闘音も内部にまで轟いてる。
 近くで砲撃があると、微妙な振動もあるし、決して静かじゃないけど、だけど……今この時、この場所は誰も動かない空間になってる。
 息を呑んで佇む僕ら、すると外から騒がしい音が聞こえてくる。バトルシップの戦闘音とかじゃない、それは人の声のウネリの様な……何が起こってるのか、ここからじゃわからないな。だけどノエインが使ってる術式を通してか、僅かにだけど拍手とかも聞こえる様な……向こうの言葉はちゃんと届いたのかも知れない。


「この音は……」
「きっと伝わったんだ。そう思う」


 僕は彼にそう告げる。すると彼もコクリと首を縦に振った。そしてまた前を見る。既にどうして良いかわからなくなってる僧兵の皆さん。僕達はそんな彼らの方に、少しずつ歩んでいく。毅然とした態度で。
 すると僧兵の人たちは後ずさり始めた。僕達はゆっくりと確実に彼らに迫る。最後には転送陣の所で下がれなくなった彼ら。そんな彼らの一人がこう言うよ。


「どうすれば……いいんだ?」


 まさにそれは心の叫びなんだろう。弱々しく、迷いに満ちた声。今にも泣きそうな顔してるモブリの姿はなかなか胸にキュンキュン来るものがある。
 だけどまだまだ毅然としとかないとな。するとこちら側の僧兵が一言だけ、こう言い放つ。それはだけど、開き直った奴しか出来ないよって言葉。でも……その通りなんだろうとも思う言葉。


「自分の……心に従えよ」


 すると追いつめられた僧兵達は一瞬強く杖や武器を握った風に見えた。その心がどっちにあるかわからない僕はまたも警戒心を強くする。
 だけど彼らは魔法を発動したり、襲いかかってきたりしなかった。彼らは一斉に道を開ける様に左右に分かれてくれた。そしてこう叫んだ。


「「「これが我らの心の答えだ!」」」


 やっちまった……と思ってるのかみんな堅く目を閉じて、プルプル震えてる。僕達はそんな彼らを横目にその開かれた道を進む。
 転送陣に入る手前。彼は「ありがとう」と小さく言ってた。




 転送陣から出ると、そこは社の外側部分だった。廊下の右側は吹きさらしで、左側、内側は障子戸がグルーと続いてる感じの場所。次の転送陣を使えば上層階へと行ける筈だ。
 不思議な事にここの階には僧兵が見あたらない。延々と続きそうな障子戸はずっとピッシリ閉まったままだし、足音一つ聞こえないぞ。僕達の以外。


「この階ってなんなんだ?」


 僕はそんな質問を思わず投げかけるよ。


「さぁな。基本自分の通う所って定番化するからそれ以外はよく知らない。それに、こんな上まで来る事なんか下っ端僧兵にはないんだよ」


 なるほど。それは言えてるかも知れないな。それにしてもなんだか不気味と言うか……何というか……そう思って進んでると、街の方面に例の映像が見えた。既に僕達が居る場所の方が高いから、見下ろす形になってるみたいだ。
 街の方の声も次第にハッキリ聞こえて来だして、大きなウネリが出来てる感じがしてくる。僕達はそれをこの目で確かめたくて、廊下を走り出す。社の外側を回る通路だから、このサン・ジェルクの全方向が見渡せる場所な訳だけど、映像もノエインも一番大きな広場の所を中心にしてるからな。そこが見える位置に行かないと――って!?


(ぬあっ!)


 僕はとっさに走ってた僧兵さんの首根っこを掴んで障子戸を開いて中へダイブ!! 畳の部屋の中へ転がり込む。そこには巻物が一杯積んであって、いくつかは机の上に無造作においてある。
 なんだここ? よくわからないけど、直感を信じるなら、何かの研究室? みたいな感じかな?


「イツツ……何するんだ?」


 はっ! 異様な中の様子に気を取られて無理矢理掴んだ彼の事を失念してた。いや、だけどあのまま進むと不味かったんだ。


「気付かなかったのか? どうりで異様に静かな筈だ。だってこのフロアの奴ら全員、ノエインが見える場所に押し寄せてるんだから」
「ぬあに!? 本当かそれ?」
「声デカイ」


 僕は大きく口を開けて、だけど声は極小しか出さない。それに反応した僧兵も言葉を尻すぼみにしたよ。どうやら大丈夫だったみたいだけど気をつけて欲しいよな。なんとかここに入って鉢合わせを回避したんだからな。どうやらこのフロアは障子戸のみで仕切られてるみたいだし、信じれないなら、隣の障子を開ければわかるだろう。
 てな訳でそ~と隣の障子戸を開いてみると、通路側に大量のモブリがわんさか居る。だけど今まで見たモブリとは服装がこれまた違うな。
 僧兵でもないし、神官さんでもない。曼陀羅模様が入ったローブに口元を隠す大きな目玉模様が描かれた布。ハッキリ言って不気味です。


「アレはなんの部署の方々だ?」


 僕は怪しい集団を見ながらそう聞く。だって怪しい……てか怖い。すると僧兵はこう応えた。


「あれは多分開発局の魔導師だな。彼らもエリートだ。エリート。サン・ジェルクの魔法技術を支える役目にあるお偉い方々だ」


 なるほど、サン・ジェルクの今日の繁栄はこの人達のおかげと言っても過言じゃない訳だ。て、事はこの大量の巻物は極秘資料とかそういうものじゃないのか?
 他国に持っていけば大金になりそうな気がするな。なんたってどこの国も最新の魔法技術は欲しいだろうし、需要はあるよね。


「おい、何かよからぬ事企んでないか?」


 ちっ、何故か見透かされたぞ。一個くらいこっそりアイテム欄に入れてもバレないだろうって思ってたのに……そう思ってると、外からノエインでもリア・レーゼ側でも無い声が聞こえる。




【何を言い出すのかですか教皇様。貴方はこのサン・ジェルクまであんな火の海にしたいのですかな?】




 なんだかどこか聞き覚えのある声……ここで教皇であるノエインに反抗してくるって事は、きっと元老院のどいつかだろうな。




【我ら元老院は何もしなかったわけではありません。そこを市民の皆様には勘違いしないで頂きたい。我らとてリア・レーゼの為に艦隊を投入しました。
 我らが同胞の一人、サウニー郷が率いてです。ですが結果はお伝え苦しいですが、サウニー郷は殉職、艦隊は全滅です。その事実をどう受け止めれば良いのでしょうか?
 ここで闇雲に軍を動かし、リア・レーゼの救出にむかったとて、我らだけで聖獣率いる軍団に確実に勝てるとは言い難い。もしもサン・ジェルクの総力を持ってしてもどうにも出来ない時、そうなれば次にあの映像の様になるのは無防備になったここなのです!!
 それを皆には理解して頂きたい。それに我らは聖獣共をいつまでも野放しにしてるつもりはありません。我らはこの事態をノーヴィスだけの問題と考えずに、世界全体の危機と捕らえております。
 ですから今、多種族と交渉して、連合軍を作りあげるつもりです。五種族が合わされば、確実に奴らに勝てる。それは皆さんもおわかりになられる筈です。
 これぞ唯一の安全で、そして確実な手段です】




 元老院の奴ら、人の心の透き間に入り込もうとする術が上手いな。不安を煽った上で、自分達の方がここの人達の安全を守れる――そう言ってる。
 確かに誰かを助けて自分が不幸になるとか、そんなのは誰もがいやだろう。貧乏くじも良いとこだ。でも……こんな妨害工作は想定済みだ。
 いきなり飛空挺艦隊がノエインに発砲しなかっただけ、まだマシとも言える。対抗できるんだからな。このサン・ジェルクがどっちに転ぶか、それはここからのノエイン次第。
 あいつにとっての戦いはここからだな。


「僕達も急ぐぞ。元老院も動き出したから、余計に外に気が行ってる今の内だ」
「……そうだな」


 なんだか心配そうに外を見てるな。確かにどう転ぶかわかんないけど、僕達はノエインを信じるしかない。そしてただ信じてるだけじゃ駄目だから、僕達も動くんだ。
 慎重に体が通る位に障子を開いて、体を滑り込ませる。直ぐそこの廊下には大量のモブリ……今誰か一人でも振り向いたら速攻でバレる。
 そんな緊張感の中、僕達は慎重にだけど素早く向かいの襖に向かって動き出す。畳だから音が出なくて良いけど、流石に畳を土足で踏むのは日本人としては抵抗があるな。
 そう思ってると、無造作に置いてあった開かれた巻物を踏んでしまった。するとその中に書かれてた陣が発動。なんだか極小サイズのモブリが一杯出てきた。


「「「まぁーまぁーまぁーまぁーまぁー」」」


 そんな声を発しながら動きまくりやがる。


「ん?」


 小さなモブリの声に反応したのか、廊下側の一人がこちらに向きかけてる!


(ヤバい!)


 僕は周りの足下に集まってる極小モブリ共を抱えて転がってる巻物を咥える。そして上向きに寝そべって、机の横にカモフラージュだ。
 くわえた巻物は足先から通常の机まで伸ばせば、何とかそう見えなくもないかなっ…………って。


(どうだ? どうなんだ!?)


 説明してると間抜けな奴にしか見えないだろうけど、こっちは真剣だ。僕は必死にバレません様に――と願う。腕の中の極小モブリ共がモゾモゾしまくってヤバい。一匹でも落ちたら気付かれる事間違いない。


「うん?」


 こちら側をジッと見つめて一歩を踏み出そうとしてる研究員モブリ。ヤバいヤバいヤバい、こんなの近づかれたら速攻でバレる。薄暗いからまだ大丈夫だけど、流石に至近距離では……心臓の鼓動が足先から、頭の天辺までもくまなく響く。
 トコトコと二・三歩寄ってくる研究員モブリ。


(ああ、これはもうダメかも知れないな)


 そう思った矢先、空から響く声が聞こえる。




【確かに貴方達の言葉もわかります。安全で確実な方法、それは確かでしょう】




 ノエインの言葉が始まると、こっちに向かってたモブリは再び外の方に食いついた。僕はこの瞬間を見逃さない。


(今だ!)


 そう思って勢い良く立ち上がり、先に襖の向こうに行ってた僧兵が開けてくれてる場所に飛び込むよ。そして僕の全身が入った所で、ピシャと襖を閉める。


「全く、冷や冷やしたぞ」
「僕の方が冷や冷やしたっての、それよりもよくもさっさと逃げやがったな」


 本当に、いつの間に向こう側にいってたんだ。


「しょ、しょうがないだろ。俺だって見つかったら面倒なんだよ。それよりも……それ、どうするんだ?」


 そう言って僧兵は僕の胸に居る極小モブリ達を指さすよ。


「どうするたって……戻し方もわかんないし……」


 てか、こいつらが出てきた巻物、置いて来ちゃったし。流石にもう一度あの体験をする気にはなれないな。腕の中から解放してやると、極小モブリ達は僕から逃げる所か、胸から頭の方へよじ登ってくる。


「なんだか懐かれてないか?」
「懐かれてるって言うか、呼び出した相手だからじゃないか?」


 意図せずだけど、僕が呼び出したみたいな物だろう。だから僕に懐いてるんじゃないかな? けどこの生き物(いや、生きてるかは知らないけど……)かなり愛くるしい。
「まぁーまぁー」言いながら懐いてる来る姿はハッキリ言って振り払う事なんか出来ないよ。
 だってただでさえモブリって愛くるしい姿してるのに、それのミニチュア版だよ。犬や猫で言うなら、子犬や子猫の分類に入る愛くるしさだよ。無碍になんて出来ない!
 出来うる事なら、リアルにまで持って帰りたい可愛らしさだもん。幾らこいつらが魔法の術者程度の認識で懐いてるんだとしても、振り払えない。


「おいおい、どうするんだよ? 邪魔にしかならないぞ」
「酷いこと言うなよな。傷ついちゃってるだろうが」


 僕の頭や肩に乗ってる極モブ達がショボーンとしてるだろうが。


「何で一気にそいつ等を受け入れてるんだ? 全く、俺達がこれから行くところを考えればそんなの連れて行ける訳ないだろ」


 むむ、下っ端僧兵の癖に真っ当な事を言うじゃないか。だけど……僕は肩にチョコンと座ってる極モブの頬を一本の指で撫で撫でする。すると「まぁ~」と言いながら花びらを散らす様な癒しの顔をしてくれる。


(ヤバすぎる。超カワイイ)


 コイツを売り出せば、巨万の富を築けそうな位だな。いや、マジでそれくらいカワイイ。そっちが真っ当な意見で来るなら、こっちも真っ当な意見で、コイツ等を連れていける理由を述べてやるぜ。


「で、でもコイツ等をここに置いていったら、それはそれで問題だろ。コイツ等が出てると気付かれたら、侵入者を疑われるかも……」
「お前、それ……ただそいつ等を連れていきたいだけだろ?」


 バレたか。だってだって、こんなに可愛くて、しかも自分が懐かれてるのに置いて行けるわけない。鬼かお前は。


「誰が鬼だよ。本当に邪魔にならないんだろうな? 教皇様にお前の事頼まれてるんだ。足手まといなんか許容出来ないぞ」


 頼まれてる? 必死こいて付いて行きたいって言ったのお前だろ。てか、僕たちの会話を理解できるのか、極モブ達は僕に必死にしがみついてきてる。なんてカワイイ奴らだ。


「足手まといかどうかなんかわかんないだろ。思わぬ所で役に立つかもしれない。とりあえず、ここでこんな言い合いしてる事が無駄なんだよ。
 先に進むぞ」
「うやむやにして流したな……」


 僕は頭や肩に極モブを乗せたまま走り出すよ。コイツ等実はちゃんと一体一体特徴があるんだよね。色分けされてるって言うか、七体居て、七色に分かれてるから、それぞれのイメージカラーで呼んでやろう。
 僕はそんな事を考えて、後ろから聞こえるヤジを無視してました。




【皆さんも自分達の身まで危険に晒したくは無いのかもしれない。その気持ちは分かってるつもりです。ですが、絶対に安全で安心な事など、この世界にはありません。
 幾ら準備を整えて万全と思える策を労しても、何が起きるのかがわからないのです。それに聖獣の目的は世界樹。そこに彼らが願う何かがあるのなら……リア・レーゼが落ちたとき、世界がどうなるのか、わかりません。
 元老院方のタイミングでは遅いのかもしれません!】




 そんな演説を聞きながら、僕たちは半円状に通路を進んだところまで来た。ここからは社の外側じゃなく、内側に通路が続いてる。この奥に、上層階への転送陣がある。
 僕たちは早速そちらに向かう。ここからは今までの様に緩くは行かないかな? でも覚悟はとっくに出来てるんだ。
 僕たちは一気に転送陣に飛び込むよ。




「誰だ貴様等?」


 転送が済んだと同時に、そんな声をかけられた。まさに早速だね。僕たちはどう返していいかわからないよ。まさかここまで速いとは……流石に想定外だ。


「おい、どうした? 何か言え。いや……待てよ。貴様見覚えがあるぞ……」


 黙ってると、キツい顔したモブリの一人が僕を見上げてくる。流石にここの奴らには顔がバレてるのかな。言い逃れも出来ないぞ。ちょっと元老院とぶつかり過ぎたか。
 でも今更後悔もないんだけど……この目の前の奴をぶっ飛ばして行くのかが問題。そう思ってると床に三つ位現れる魔法陣。おいおい、今度は何だ?


「その人間は先日飛空挺をハイジャックした極悪犯ですよ。捕まえないと」
「ええ、そうしましょう」
「そうしましょう」


 不気味な声が魔法陣から聞こえてくる。そして出てきたのは、紫っぽい色したロープに全身を包んで、顔まで変な模様を書いた布で隠した奴ら。


「なんだお前等? 言いがかりも大概にしとけよ」


 確かにハイジャックはしたかもだけど、凶悪犯なんて言い過ぎだろ。僕がそう言うと、そいつ等は不気味な笑い声を上げながら黒い鳥が先端にあしらわれてる杖を構える。


「言いがかりなどではないですよ。この街の法は元老院。だからあの方々が黒と言えば、白もまた真っ黒なのです。飛んで火に居る夏の虫――貴方の身柄確保は最優先事項です」


 そんな言葉と共に、残りの二人が魔法を発動する。すると何も無いところからいきなり光の輪が僕の体の回りに三つ現れて、腕と腰と足を縛る。


「ぬあ!?」


 いきなり縛られたせいで、床に倒れる。肩や頭に乗ってた極モブ達も振り落とされるよ。なんて事をしやがるんだコイツ等。


「さあ、大人しく元老院様方の道具と御成なさい」
「そうだ」
「そうだ」


 とことん不気味な奴らだな。でもこれはヤバい。いきなり大ピンチだ。警戒してた筈なのに、やっぱり魔法とは相性悪いな。こんなの回避不能だろ。
 こんな狭い場所ならなおさら。すると僕の前に僧兵が立ちふさがる。


「なんの真似ですかねぇ~。貴方もこのサン・ジェルクの守り手でしょう。それならば誰の指示に従わないといけないのか、わかってる筈ですが?」
「確かに、元老院の方々の言葉はここでは神の言葉みたいな物。だけど……今回はそれを黙って受け入れるなんて出来ないんです!」


 そう言って僧兵も武器を構える。それは杖じゃなく短剣。魔法も使えるみたいだけど、パーティーのバランス的に前衛の役目をおってたんだろう。


「異端者。貴方の行動は神に反逆する行いです。粛正しなくては。どんな時でも神の言葉は絶対。それを代弁する元老院に従えないのは神に反する意の現れです」
「異端者」
「異端者」


 三人の不気味な杖に黒い固まりが収束しだす。それなのにまだ僧兵の奴は動かない。異端者言われたのがショックだったのかもしれない。でもこのままじゃ……


「くっそ……おい、やられるぞ!! 自分の思いを貫くんじゃなかったのか? やられた同胞の為に!!」


 僕は後ろからそんな声をかける。


「俺は……」




【後悔が、私にはあります。もっと速く、もっと前に決断しとけば、今日この日に犠牲になった僧兵を助けれたかもしれない。
 最初からリア・レーゼときちんと連携を取れれば、事態はここまで深刻になることもなかったかもしれません。私の不徳のいたす所です。
 元老院方が言うようにタイミングは確かに重要で、今からでは遅いかもしれない。ですが、元老院方が言うときは既に取り返しが付かない時かもしれない。私は思います。世界とリア・レーゼの命運は同じではないかと。
 それに私には知ってしまった皆にまでこの後悔を押しつけたくない。この街の皆は優しい筈です。リア・レーゼの人々を見捨てての勝利にどれだけの人が価値を見い出せますか?
 笑顔に成れない勝利など、勝利ではない。誰もが良かったと思える勝利を私は皆と掴みたいんです!!】




 聞こえるノエインの声。だけどそれに、目の前の不気味な三人は「あれはもうダメだ」とか「異端の者だ」とか言ってる。
 すると僧兵は大声上げて、いきなり三人に突っ込んだ。そして剣を振るう。だけどその剣は空を切る。不気味な三人組は直前で消えた様に見えたぞ。でも関係なしに彼はこう言った。


「シスカ教を貴様達の価値観だけで汚すな!! 俺達は、教皇様は異端者なんかじゃない!」


 僧兵の心の叫び。だけどそれに反応する奴等は、通路の少し先にいつの間にか現れて、魔法を完成させてた。そして彼の言葉も笑い飛ばして、奴等の黒い魔法が放たれる。

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