命改変プログラム

ファーストなサイコロ

神の崇め方



 曇天の空を抜けて、星空が見える空の下まで僕達は来た。だけど実際、満点の星を見上げるほどの余裕は僕達には無い。
 だってこれからの僕達の行動……それがリア・レーゼを救えるかどうか……その鍵に成るんだ。失敗は許されない、それは一つの街が無くなる事を意味してて、そしてきっとそれだけでは済まない問題だから。


「はぁ、憂鬱だ……」


 そんな事をため息混じりに言うのは、こちら側に残らされたリア・レーゼ側の僧兵さんだ。一人はテッケンさんと共に、そしてもう一人は僕と共に来ることに成ったんだよね。
 それはきっと周り全部をサン・ジェルクで固める事がテッケンさんも不安だったって事だろう。この僧兵さんはもの凄く乗り気じゃなかったけど、リア・レーゼの為と言う説得の元、ここに居る。
 バトルシップのブリッジ。中枢だ。バトルシップはやっぱり近代的。既存の飛空挺は機械類とか操縦者の周りにしか無かったけど、バトルシップはなんだかビッシリと埋まってる。
 そしてそれを見つめる僧兵が四・五人常に居るし、連携しなきゃ飛ばせられない感じだね。


「あ~鬱るわ~ほんと~」
「さっきからうるせぇな。覚悟を決めろよ」


 全く、テッケンさん達と別れてからずっとこの調子だよ。みんな気を張ってるってのに、やめろよな。


「ふん、そもそも無茶な作戦なんだ。あんなのを提案するのも、やろうと考えるのもどうかしてる」
「僕はどうかしてるってか? だけどどうかしてるかもしれないけど、全く無理って思われなかったって事だろ。だからこそ、この作戦は受け入れられた。
 お前だって【やってやりますよ!】とか言ってただろ」


 手のひら返しか。


「それはほら、あの雰囲気で【無理無理無理、こんなの絶対に成功しないってプププ】とは言えないだろ。お前のメンツを守ってやったんだよ。
 実際、サン・ジェルクの奴らも作戦聞いたってどれだけの奴が出来ると思ってるか……」


 なんかコイツムカつくな。もう一方と逆なら良かった。いや、まあどっちも良く知らない訳だけど。サン・ジェルクの人たちだってそりゃあ無茶だって思ってるの位知ってるよ。
 みんな雰囲気そんな明るくないし、だけどこの人達だって仲間の為にもう引けない訳だよ。半分以上はテッケンさんと共に、リア・レーゼへと向かった。
 仲間を救うためにはサン・ジェルクを動かすしかないんだ。だからこそみんな黙々と作業をしてくれてるのに……


「仕方なくだろ」
「それでも、文句を垂れ流す奴よりマシだ。みんな仲間の為にやってるんだ。お前はリア・レーゼ救いたいんだろ。なら、やってみる前からやる気を無くしてるな。そんなんじゃ、迷惑なんだよ。
 こっちはやる気満々なんだからな。変な影響出たらどうする。無理矢理にでも、テンション上げてろ」


 僕の言葉を受けても、僧兵さんはなんだかイマイチシャキッとしない。床に尻をついて、ボケ~ってしてる。


「そんな事言ったって……こんな人数でサン・ジェルクに行くだけで不安なんだよ。それに純粋な仲間なんて居ない……この恐怖がお前に分かるか?
 しかもついさっきモンスター相手に敗戦したのに、更に無茶な事をやろうなんて……どこからその自信が沸いてくるんだよ」


 ようは敗戦がまだ鮮明で、その恐怖心が抜けきれないと? どうしても悪い想像しか出来ないって事か? 実際に鬱だなそれは。まあ酷かったしな、あの戦場は。同じモブリがモンスターに喰われてたし……あれは今思い出しても吐きそうになる。
 でもコイツは確か見てなかった筈だけど……


「全滅だぞ……あれだけの艦隊がこの一隻を残して全滅……言っとくけど、自分が生き残ってるのが不思議だ」


 それは僕達が頑張ったからだね。一人助けられなかったけど……


「だけどサン・ジェルクは話が通じないモンスターじゃない。それに僕達は、戦いに行くわけじゃない。知って貰いに行くんだよ。そしてお願いするんだ」


 こう言うと平和的だろ。


「元老院の権力は絶大だ。お前は甘く見てる。外の人間だから知らないんだ」
「そうかもな。でも、怯えてるだけじゃ全部なくすことになる。今度は飛空挺一隻分の同僚だけじゃ済まないぞ。大切な人達、家族……そしてあの地に息づいてからの思い出、そんな全てが蹂躙されようとしてるんだろ。
 自分が救ってやる! その位の気概を持てよ」
「そんな大それた事……考えたこともないんだ。だって毎日がそれなりに楽しかったし、平和だった」


 なんだか涙ぐんでないか? あの頃……って奴を遠い日の記憶みたいに思い出してるのかな? こう言うのを見ると、やっぱりLROは世界なんだなって思う。息づいてるんだよ。一つ一つ……一人一人。
 僕は僧兵さんから目を外し、窓の外を見るよ。遠くに街の灯りが見えてきてる。そしてその上には青い光を放つ大きな塊。
 あれは……まあそういう事だろうな。僕は誰に向けるでも無く、だけどみんなに聞こえる様にこう言うよ。


「だからこそ、救うんだ。僕達の手で、行動で、無茶を可能に変えてみせる!」




 ピピピピとブリッジに鳴る音。どうやら通信が入ったらしい。まあ気づかない訳ないよな。既に見えてるサン・ジェルクの街の上には飛空挺が集まってるんだ。どうやら第二陣を行かせる気はあったようだな。
 だけど実際、今の状況だとあれは邪魔。でもだけど……互いに潰しあうなんて事はしたくない。通信をどうするのか……艦長席に座る僧兵はその対処の為にこちらに視線を向けてる。
 このまま無視して突っ切るか? でもそれじゃあ、敵と判断されかねないよな。言うだけの事は言ってみるか。


「通信を開いてください」


 僕はそう言った。ここからだな。テッケンさん達はもうリア・レーゼについてるだろうか? そろそろ合図があっても良いはずだけど……まあ焦らなくてもあの人なら大丈夫。信頼してる。
 だからこっちは、全力でこっちの戦いをするだけだ。そんな覚悟を決めてると、回線を開いたのか、ブリッジの上の方に映像がパっと現れた。
 そこには薄暗い部屋でVの字の机に勢ぞろいしてる小さな姿が見えた。顔までは見えないけど、全員が長い帽子を被ってる……しかもなんだか映像が映し出された瞬間に、僧兵達がビクっとなったし、コイツ等はきっと……元老院。
 しかも二つの席が空席で、残り全部が埋まってるって事は、全員集合か。


【何が起きた? ここまで何の通信もしなかった言い訳も聴こう……ん?】


 何かに気付いたのか、言葉が止まる元老院の一番手前の奴。きっと下っ端なんだろう。てか、めっちゃブリッジに居る僧兵達怯えすぎだろ。特に艦長席に座る奴。


【サウニー卿はどうした? それにそこの人間は確か……】


 画面の向こうもザワザワしだしてるな。そして【貴様がどうしてそこにいる?】って聴かれた。めっちゃ警戒してるよ。
 まあ指名されたのなら、仕方ない。僕は前へ進み出てこう言った。


「それは勿論、狙いがあるから」
【乗っ取ったと言うのか!? 貴様……】


 ガタッと立ち上がる数人の元老院。いやいや、待てよ。なんだか目の前の飛空挺群の砲芯がこちらを狙ってる気がするぞ。


「落ち着けよ、元老院なんだろ? もっと大層偉そうにしとけ。それに別に乗っ取った訳じゃない。僕達は今、利害が一致して協力関係にあるんだよ」
【協力関係だと?】


 なんか巻き舌でそんな風に言ってブリッジの僧兵を見渡す元老院。権力という圧力を掛けてるな。みんなビクビクしてる。
 手前の元老院が変な圧力を掛けてると、奥の元老院の一人がなんだか凄みのある声を出す。


【誰だろうが構わん。現状を説明せよ。貴様がそこに居るということは……もしやサウニー卿はやられたか?】


 その瞬間、元老院全員が更にざわめいた。そして失礼な事を言う奴も――


【貴様がやったのか!?】
「失礼な! 僕じゃない……聖獣にサウニー卿はやられたんだよ! そしておまえ達ご自慢の飛空挺艦隊は、このバトルシップを残して全滅だ」
【【なっ!!】】


 信じられない……そんな反応を見せる元老院。だけど一人一番奥のやつだけは落ちついてるな。きっとアイツがリーダーだ。


【そんな……本当か?】


 身を乗り出す手前の奴が、サン・ジェルク側の僧兵に聴いてる。


「はい……本当です。艦隊は全滅、サウニー卿を含め、数百人の同胞が犠牲に成りました」


 震えながらそう報告する僧兵。辛そうだな。だけどこれで信じるだろう。


【まさかそれほどとは……これはここの防衛を強めた方が良いのでは?】
【確かに……】


 おいおいなんで誰もリア・レーゼの事を口に出さない。コイツ等の中ではリア・レーゼ落ちるのが前提だな。確かにまさにそんな感じだけど、一つの街だけじゃ勝てないから、手を取り合う……そんな発想はないのかよ。
 まあ期待なんかしてなかったけど、我が身可愛さも極まってるな。


「おい、待てよ! 防衛なんてやってる場合か。同じ国の連中が大変なんだぞ! 助けようとは思わないのか!?」


 僕は必死にそんな風に叫ぶ。だけどそんな言葉は元老院にとっては今更言うべき事じゃ無かったようだ。画面の向こうから次に聞こえて来たのは不愉快な笑い声。
 それに誰もがバカにしたみたいな……そんな笑い方だった。


【くはははははっはははは!! 助ける? 我らがリア・レーゼを? あり得ない事だ。お前達は我らとリア・レーゼの関係を知ってるだろう?
 それを理解した上でそんな戯言を言ってるのか?】


 戯れ言と来たか。そりゃあサン・ジェルクとリア・レーエの関係は知ってるし、もう分かってる。だけど同じ種族同じ国の民同士だろ。その前提はどうした? 
 僕が言ってるのはそんなにおかしな事なのか? 肌の色で人を差別して、住む場所で人を差別して、言語の違いで人を差別してきた事と同じじゃないか。
 さしずめノーヴィスは宗教の相違で争ってるって所だろ。リアルで言うところの中東みたいだな。宗教は根付いてる程にその人たちの支えに成ってる。
 信仰の強さ故の危うさ……それがサン・ジェルクとリア・レーゼの確執。二つの街は信仰は同じでも考え方が違うもんな。それを元老院もローレも疎ましく思ってる。
 だけど実際、対立してるのは上の方だけって気もする。そりゃあ、サン・ジェルク側の市民もリア・レーゼに負けたくない気持ちもあって、こここそがシスカ教の総本山。その誇りって奴があるんだろう。
 そしてリア・レーゼの人達は追いつけ追い越せの勢いであるのも確かだと思う。でもそれ自体は別に悪い事じゃない。
 普通だよ。互いに激しく対抗意識を燃やしてるのはこの画面の向こうの奴らだけだ。実際、リア・レーゼはまだシスカ神を崇めてるし、普通の人達にとっては別にどっちだろうと変わらない事だろう。
 サン・ジェルクの人達はリア・レーゼを悪だとは思ってないし、リア・レーゼもまた然りだ。もしもそれぞれの街の人達の心がそこまで行ってたら、きっと既に内紛状態だよな。
 それこそ中東みたいにさ。不愉快な笑い声はまだ続いてる。僕はそんな笑いの中に、静かに切り込むよ。


「お前達がリア・レーゼを、いやローレを疎ましく思ってるのはイヤって程分かってるさ。だけど……それでリア・レーゼを見捨てるのか?
 それはお前達の信じる神の教えに準じる行為なのかよ? お前達の対立はあくまでお前等とローレの問題だろ。アイツの人気がその影響力が、お前達は怖いだけだ。
 それで一つの街に生きる普通の人達を見捨てるなんてそんなのおかしいだろ。あの街に居る人達だってシスカ教の信者だぞ。お前達上の争いなんか関係無い人達が沢山居るんだ。
 その人達は今この瞬間もシスカの神に祈ってるんだぞ。お前達はそんな普通の人達まで見捨てるのか? お前達はサン・ジェルクだけじゃなく、全てのシスカ教信者の上に立ってるんじゃないのかよ」


 僕の言葉に、僅かに静かな時が刻まれる。少しは何かが響いたのだろうか? そう思ってるとやっぱり切り込んで来るのは一番偉そうな位置に居る奴だ。


【我らは確かに全てのシスカ教信者を束ねる位置にいる。だが、これだけは言っておこう若人よ。神も全てを救える訳ではない。
 神が救う事を決めるのは、信仰心の厚さなのじゃよ】
「リア・レーゼの人達だって信仰心は厚い方だろ。最も宗教を大事にしてる国なんだからな。お前達は同じ神を讃えてる筈だ。
 手を差し伸べる事をしなくちゃいけない筈なんだ」


 僕は引かない。ここでこいつらの首を縦に振らせる事が出来れば、無茶な事をしなくて済む。
 だって元老院は直接軍を動かせる筈だからな。それが出来れば一番なんだ。例えそこに思惑があったとしても……いや、それじゃあ今までと変わらないか。本心から『助けないと』と思わせられれば……この老害共に。


【儂等とリア・レーゼの考えは少々違うのじゃよ。厚い信仰もその矛先が少し変われば宗教と言うのは簡単に分裂するのじゃ。
 奴らはシスカ神を崇めてるとしてるが、その心のより所は神ではなく、星の御子そのもの。儂等シスカの子は等しく神の存在を曇らせてはいけないというのにのう……それは神を貶める暴挙ではないか!!】


 髭のボリュームの多さだけが見て取れてた奥の元老院の一人。そいつはいきなりその腕をおもいっきりテーブルに叩きつけた。
 一人でに勝手にキレたよ。周りの奴らのワインか何か入ってるグラスが転倒して、元老院の他の奴ら結構慌ててる。
 だけどそいつは大きく息をして、再び椅子に正しく座り直す。なんだかこっちの僧兵さん達がかなり怯えてる。それだけあいつを怒らせるのは不味いってことか? 
 確かに一番偉そうだけどさ……ここで引くわけには行かない。ローレは確かに異端審問とかに掛ければ断罪受けるのは確実だろうけど、僕が言ってるのはもっと大きな事だ。
 上の問題とかじゃない、そこに助けを求める人達が居るのなら……それに手を差し伸べるべきだと、そういう事を言ってるんだ。


「それでも崇めてるじゃないか。ローレがどんな思惑かなんか関係ない。そしてお前達の思惑も……リア・レーゼの人達は今、ローレを信じて神に祈ってる……それは奇跡を求めてるんじゃない。
 信じれる人が居て、導いてくれる人がそこに居るだけだ。そう思われる事の何が悪いって言うんだ! きっとこのサン・ジェルクの人達は、今のローレの役目をお前達か教皇に願うだろう。
 それなのに、頼られる事を拒絶するのか? どこに居るかも分からない神に、奇跡だけを願えって言うのかよ! そんなのはただ、神に全てを押しつけてるだけだ。信仰は心は支えても、今を覆したりはしない……今を確かに歩くために信仰が必要で、それが世界を動かす程に強大に成ったのはどうしてか……それは誰もが共感したからだろ。
 その心に、その思いに……慈愛は周りを慈しむ事だ。一人の信者がきっとその心で誰かに優しくした、その誰かもまた他の誰かに……そうやって神が望んだ慈愛って奴は育まれて、世界にこれだけシスカ教が広がったんじゃないのか?
 リア・レーゼを異端だとして見捨てようとしてる貴様等元老院は……誰か一人でもその心に他人を慈しもうとする心があるのかよ」


 僕は眼力込めて映像の向こうの奴らを見据える。真っ直ぐに、目を逸らさずだ。


【も……】


 手前の奴が何か言いたげに口を動かそうとしてる。だけど自信なさげだな。やましいことしかないから、そういう風に口ごもるんだ。堂々と言ってみろ。
 まあ無理だろけ――


【勿論じゃ。我らはこの国、この世界の全ての信者の為に、神の近くに座っている。慈しむは、この世界の全て!!
 それが儂等、元老院じゃて】


 勢いよく立ち上がったと思ったら、最後の一文と共に「よっこらしぇ」と言いつつ座る。年だから立ったままだときついのか? 折角決めたのに、決まってないぞ。
 だけど……まさか今の本気で言ってないよな? まあ本気でも嘘でも、随分堅い皮の面だけど……


「じゃあ、リア・レーゼをその全てに入れろ。全てなら当然だろ。てか……あんた達元老院がそんな訳あるわけないだろうけどな」
【何を言うか、儂等はその理念で太古よりも結束しておる。シスカ教の繁栄を築いたのは元老院なのじゃよ。今のこの世界こそが、いわば我らの功労じゃ】


 あれれ……まさかこいつ本気で言ってないか? いや、なんか本気っぽい。冗談でも嘘でもないような……そんな気がする。
 僕は他の元老院にも振ってみるよ。


「本当にそうなのか?」


 僕はめっちゃジトーと手前の奴を見つめる。するとそいつは【と、当然だな】と言ったよ。そして周りの他の奴らもウンウン頷いてる。
 やっぱりあの一番偉そうな爺以外はなんとも怪しい臭いがプンプンする。てかこの場合……あの爺さんだけが、純粋にそう思ってるって事かも。
 年取って盲目になったんだな。あんたのその崇高で理想的な元老院は今はないっぽいぞ。でもそれなら、あの一番偉い奴には話が通るかも知れない。
 僕は更に続けるよ――いや、しようとしたけど一歩早く爺さんが話し出す。


【これで分かったであろう。儂等の正しさ、その行動の理由】
「いや、ハッキリ言ってお前達はただ単に我が身可愛さとリア・レーゼを疎ましく思ってるからだと思ってた。どうせリア・レーゼがなくなった後に、世界樹だけ取り返せばなんの問題もない……とか思ってそうだなって。
 そっちの方がお前達には都合が良いだろ。まあそうなったらクリエの事はどうするのかって事になるけど……」


 そういえばリア・レーゼを見捨てるって事はクリエを諦めるって事だよな。それで良いのか?


【失礼な奴じゃ。儂等はそんなゲスな連中とは違う。まあクリエは惜しいがな。あの子を無くすのは爺的には寂しいのう】
「何言ってるんだ? クリエを利用しようとしてた癖に」


 僕がそう言うと、爺は【何の事じゃ?】と言った。え? まさか知らないのか?


「いや、そんなしらばっくれるなよ。全部僕は知ってる。サウニー卿からお前達の目的を聞いてるんだ。お前達はクリエを犠牲にして――」
【ぬああああああああああああああ!! 長よ、奴の口車に乗ってはいけません!! 奴は我らを上手く動かしてリア・レーゼを救おうと考えてるのですぞ!!
 今の我らにそれほどの余裕はありませぬ。先行艦隊が全滅したのなら尚更です。今我らだけでリア・レーゼに向かうのは得策ではありませぬ!】
【ふむ……そうじゃな。そう言うことじゃよ】


 ぬぬ、明らかに今邪魔したよな? まさか本当にこの爺さんはあの計画を知らないのか? だけど今はそれよりも今まさにリア・レーゼへの救援が絶たれようとしてるのが問題。
 僕は疑わしい周りを無視して、爺に照準をあわせる。


「待てよ! 本当に見捨てるのか? お前達の慈しむ世界に、リア・レーゼは入ってないのかよ!」
【若人よ先に言ったじゃろう、神は全てを救えない。そして儂等の力は神よりも小さい。選ばなければいけない事があるのじゃ。より多くを……この世界を終わらせぬ為に、リア・レーゼには人柱になって貰うしかない。
 その間に我らは他の種族との連合艦隊を編成する。そしてその後に、まっさらになったリア・レーゼを取り戻し、犠牲に成った物達を供養しようぞ。それでどうじゃ?】


 なんて事だ……僕は思わず下を向く。なんだか正しい事を言われてる気がした。それに実際、その判断は間違ってなんか……上としてはきっと正しいんだろう。でもその時――


「ダメだ!!」


 そう叫ぶ声がこの場に響き渡った。

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