命改変プログラム

ファーストなサイコロ

シャナとサナ



「「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」」


 夜空に轟く僕達の叫び。だけどそんな叫びも、地面に叩きつけられた瞬間に爆発した飛空挺の音でかき消される。
 爆発と同時に発生した衝撃波が森へ一気に伝わり、周りの木々を吹き飛ばす。そして当然の如く、その爆発は森を焼く。
 雨が降ってるけど、それよりも勢いの良い炎は止まらない。視界は真っ赤だった。仰向けの形で倒れてる僕の目には、空を覆うほどの炎が見えてる。


「づぁっ……」


 体を動かそうとすると走る激痛。まだ生きてるのが不思議な光景だ。雨が顔に当たってる筈なのに、周りの熱のせいなのか、それとも僕の感覚がおかしな事になってるのか、熱い――――――というか、全身が焼かれてるみたいにズキズキする。
 息をしようとすると、一緒に血がこぼれてくるし、これは体の内側もやられてるな。


(テッケンさん達は……)


 僕は真っ赤な視線を左右に移動させる。無事なのかどうか……それを確認したい。だけど燃え盛る地面に、飛び散る火の粉が邪魔だ。見えにくい。それにこの視界じゃ炎と人の区別がしにくいってのもある。
 かなり激しい衝撃に晒されたし、もしかしてみんな別方向に飛ばされたのか? 僕はともかく、モブリはよく飛びそうな気はする。


(くっそ……)


 僕は腕を少しずつあげる。体にガタが来てるから、腕を振るのも一苦労だ。なんとか腕を振って、ウインドウを開く。けど、なんだかウインドウの調子も悪い。空中に出てきたウインドウは電波の悪いテレビみたいに、写りが悪い。
 ものスゴい衝撃だったからな……その影響を受けたのかも……僕はウインドウを進めようとするけど、案の定反応してくれない。
 くそ……最悪だ。これじゃあ回復も出来ないじゃないか。少しすれば元に戻ると思うけど……その少しを僕は生きてられるか……テッケンさん達が無事で居てられるのかが不安だ。
 それに僕だって……そう思って上を見てると、やばい奴の姿が見えた。


(ヤバ――っつ!?)


 僕は動こうとして全身に走る激痛に悶え苦しむことに。だけどそれどもどうにかしないと……見えたのは聖獣だ。きっと僕達が死んだか確かめる為に降りてきてるんだ。
 今見つかったら何も出来ずに終わりだ。どうにかしないと……だけど火が広がってない森まで行くのは不可能だ。このままじゃ僕は確実に見つかる。
 そうなったら止めを刺される違いない。抵抗できない僕を殺す事なんか、聖獣とっては造作も無いぞ。どうにかしないと……僕は必死に体を引きずる。自分の体なのに、思うとおりに動かせないもどかしさ。
 こう言うときこそ、火事場のバカ力が発動すれば良いのに……いかんせんそこら辺は制御が効かない力なんだ。僕はちょっとずつ進んでたけど、体を動かす事だけに集中してたせいで、障害物の事とか気にして無かった。ガシャンと腕を突っ込ませた所は、なんと燃え盛る飛空挺の破片だった。


(あづっ!?)


 僕は直ぐにでも手を引き抜こうとしたけど、その時、一筋の風が吹き荒れた。それはきっと聖獣の風だ。荒々しくて不作法な風。何となく分かる。
 このままじゃダメだ。僕は腕を突っ込んだ破片を見て覚悟を決める。板みたいな部分……この中に身を隠すしかないって考えたんだ。
 まさか燃え盛る所に隠れるなんて誰も思わないだろう。だけど、これはHPが減る所行ではないだろうか? 落ちた衝撃で、既にレッドゾーンに突入してる僕のHP。
 けどこのままじゃ確実に聖獣にやられる。どっちが生き残る確率が数パーセントあるか……それを考えたら迷う時じゃない。
 僕は歯を喰い締めて突っ込んだ腕で破片を少し持ち上げて、その中に体をモゾモゾと入れる。


(熱い! 熱い……いや、マジで死ぬ……息もまともに出来ないし……)


 今直ぐ出たくなった。いや、これはどっちがマシとかそういうレベルの話じゃない。死んだ方がマシなレベルだ。と……取りあえず息だけでも確保しないとマジで死ぬから顔を外側に向ける――


(降りて来やがった!?)


 外側の僅かな空気を求めたのに、丁度聖獣が地面に降り立った。下手に顔を向けたら気付かれ兼ねない。だけどこのままじゃ、本当に死ぬ……小刻みに息を吸って吐く。熱せられた空気に肺がやられない様にだ。
 でも本当はおもいっきり空気を吸いたい。手足や背中が焼かれてる感覚もある。これは本当にやばい。マトモな神経してたんじゃ、こんな所に入れない。
 僕の命の火が消えるのが先か、聖獣が諦めてくれるのが先か……そもそもこのままじゃ本当に死ぬぞ。


(あれ? 僕はどうするのが一番なんだっけ? 生きなきゃいけないのか? 死んだ方がいいのか? どっちが……)


 体を蝕む熱さと、呼吸できない苦しさで、酸素が足りないのか、頭がおかしくなってくる。無意識の内に外に伸ばされ掛ける腕。だけど僕は直前でそれを止める。


(ダメだ……ダメだ!)


 僕は必死にそう言い聞かせる。すると視界がボヤケて来たぞ。それに頭がクラクラしてくる。酸欠? それとも体が余りの痛みでシャットダウンを警告してるのかも……痛みって感覚は危険を知らせる為にあるんだもんな。
 だけどそれでも命の危険が終わらない時は、人の体は意識を落とす。それはなるべく楽に死ねるように? そんなの……必死に抵抗を試みても意識が遠のいてく。
 そんな……こんな所で意識が飛んだら、本当に次ぎ、目が覚めるかなんて分からない。だけど……抵抗出来ない。意識が深い深いどこかへと引っ張られていく。


(ああ、死にたくなんかないのに)






「大丈夫ですよ。これは最新鋭の技術です。作られた世界ではありますけど、そこでなら娘さんはきっと自由を手に出来る筈です」
「本当ですか? 本当にあの子をもう一度ベットの上から連れ出せるんですね?」
「ベットの上から連れ出す訳じゃないです。意識だけを他の世界へ移すんです。僕が作り上げた、仮想世界へ。そこでならどんな障害を負った人でも、システムの補助と脳にある記憶で、優良な体を手にすることが出来ます」
「別の世界……そこに危険は……いいえ、それは野暮なお話ですよね。私たちは分かっててそのお話を受けた筈です。危険かどうかは分からない。だからこそ、臨床実験が必要なんですよね。
 私達は……この子を実験体にしようとしてる……」


 すすり泣く声が聞こえる。どこだっけここ? なんだか前にも来たことあるような……いや、聞いた事があるような声。一人は分かる、男性の方の声はきっと当夜さんだろう。
 だけど印象がちょっと違うかも。こんなハキハキと、というか好青年的に喋る人だったかな? 僕の印象では、だらしない姿格好で、パソコンに向かってる所しか知らないからこんな印象ないな。
 それにいつもパソコン見てるからか、口ごもった様に聞こえるんだよね。こんな風に元気いっぱいの声は初めてかも。
 ――で、一体ここはどこなんだろう? 登場人物は今の所二人。当夜さんと、見覚えのあるような……ないような……女性の人。そして二人は同じ場所を見つめてる。そこには無人のベットがある。
 違和感……二人にはそこには誰かが寝てる様に見えてるみたいだ。だけど僕には……何も見えない。真っ黒な場所で、二人とベットがある場所だけ、白く輝いて見える。
 一体どういう事なんだろう? 天国? にしてはちょっと殺風景だよな。蚊帳の外で見てる感じの僕。手を伸ばそうとすると、見えない壁みたいな物に阻まれる。
 向こうには行っちゃいけないって事か? さながら舞台と客席の境界線みたいな感じだな。こんなに近いのに、客は上っちゃいけない場所。
 僕は絶対にあそこに加わる事は出来ない……いや、重そうな話してるし、加わりたい訳でもないけど、この夢みたいな物にどういう意味があるかは探りたい――と思ったんだけど……無理なら大人しく眺めてるしかないな。
 何かを誰かが僕に伝えたいのかもしれない。そんな風に思って眺めてると、いきなり登場人物が増えた。


「お母さんそれは違います! これはとても意味のあること何です。実験と言っても、薬を投与したりする訳じゃありません。娘さんがこの方法で苦しむ事はないんです。
 それにこれは医療と言うか……病を治せる訳ではありません。ただ、彼女の心のケアが、少しでも出来れば……良い方向に何かが変わるかもしれない。
 そんな医者としては情けない限りの思いです。ですが、これもまた一つの治療。その筈です」


 出てきたのは白衣を来たお医者さん達。それに伴って、ベットの横に機械も現れる。ドラマとかでよく見る、心音の動きを表示する奴だ。後は点滴とかもある。だけどそれを繋がれてる子はまだ見えない。


「分かってます……みなさんがこの子を別に実験体なんて風に見てないことは……分かってます。真摯な姿勢で、この子の為と……それも全部分かってるんです。
 でも……もうこの世界ではどうにも出来ないって思うと……」


 椅子に座ってるその人は、膝の上に両手を置いて、頭を俯かせて肩を震わせてる。見えないからわかんないけど、ベットに居るはずのその子……きっとこの人の娘さんは、かなり酷い状態なんだろう。
 現代の医療ではどうにも出来ない……だからせめて夢の中で位……そんな思いできっとLRO――と言うか、フルダイブシステムに頼ったんだ。だけどそれは結局何の解決になるんだろう……そんな悩みがあるんだ。
 夢は夢でしかない。フルダイブシステムで自由な体を手に入れても、リアルは何も変わらない……か。あれ? これってセツリが言ってた事とまんま同じじゃないか。
 それに気付くと、なんだか俄然興味というものがわいてくる。一体どうするんだろう? 沢山の大人に、立派な医者に天才まで居るんだぞ。僕なんかとは違う、納得できる何かを示してくれる……そう思えるじゃないか。
 だけどそんな僕の願いに反して、誰も言葉を発さない。そんな時、その女の人の肩に置かれる大きな手。するとそれと同時に登場人物がもう一人増えたよ。


(あれ? あの人って……)


 やっぱりこっちも見覚えが……二人で居る姿が、なんとなく記憶の隅の風景と一致するような。


「綾乃さん、何も出来ないなんてこの子の前で言っちゃダメだ。僕達は何も諦めた訳じゃない。それに皆さんも言ってたじゃないか。
 これで出来ることは夢だけど、この方法なら、この子は自由に駆けて飛んで遊ぶことが出来る。
 もうずっと出来てない事が夢の中だけでも出来る。例えそれが夢でも、そこでおもいっきり遊べるのなら、もう一度この子の本当の笑顔が取り戻せるかも知れない。
 それに価値がないなんてきっとないよ」


 優しい眼差しで女性を見るその人。二人は夫婦なんだろう。でもよく見たら、男性の腕も微妙に震えてるのが分かるよ。
 自分だって不安がない訳がない。だけど、父親の自分までそれを出すわけにはいかない。そんな心情なのかな? 良いお父さんだ。いや、良い家族なんだよな。
 僕が羨ましい視線を送って見てると、当夜さんが腰を上げるよ。両親とは反対側に居る彼は、真剣な顔してる。


「見いだしてみせます。お二人の期待に応えれると、自分は確信してる。夢だけど、夢でなんか終わらせない。それを僕は目指してる。
 フルダイブシステムなら、必ずお嬢さんに笑顔が戻る筈です! 腕を無くした人にも誰かと繋がれる腕を、足を無くした人にもおもいっきり駆ける足を、耳が聞こえない人には世界のありのままの音を、視力の無い人には色鮮やかな世界を……それら全てを完全に届けることが出来ると、僕は胸を張り約束します」


 当夜さんは自信をみなぎらせてそう言った。全く天才だからってどれだけ傲慢なんだ――ってそうじゃないな。ここで開発者の当夜さんが「いや……そこまで期待されても……」とか言ったら二人に不安がまた襲う。
 それは繰り返される苦しみの輪廻だ。なぜ……どうして……そんな事を延々と……いや、もうずっとそんな事を思って二人は苦しんで来た筈なんだ。
 それを完全に拭い去ることは、フルダイブシステムじゃない出来ない。治療をする訳じゃないから。だけどその子が笑顔になれれば、少しはこの人たちの気持ちも軽くなるかも知れない。
 きっとそんな思いもあったと思う。まあ、本当に自信満々だったって事もあり得るけど、押しつけはしないだろ。自信を持って言うことが、不安を後退させる力になる。そして背中を少しは押してくれるだろうってね。
 するとそんな当夜さんに、両親と当夜さんの間に居る医者の人達は後付けみたいにこう言うよ。


「大丈夫ですよご両親。体の治療にはなりませんが、心の治療にはなります。心が病んでると体の調子も悪くなる物……だから逆もあり得ます。
 病は気からとは良く言ったものです。私達医者は、大抵その人の自己回復力を補助してるだけですからね。だから心が元気になれば、体に何か良い影響があるかも知れない。
 いえ、そういう例は沢山あります。それに心を支える場所があれば、まだまだきっと頑張れる。そうなれば、治療の方法だって見つかる可能性はあります。
 私達も諦めてません。夢に逃げるのではなく、私達は彼女が見る夢を必ず取り戻して見せます」


 数人の医者はコクリと頷いて見せる。なんだか一丸となってる感じがして良い雰囲気かも知れない。


「あ……あり――」
「ありがとう……ございます」


 綾乃さんが震えながらお礼を言ってた時、違う弱々しい声が、聞こえた。そんな声にその場の全員がその方向を見る。
 キラキラと光る光が溢れるようにして、その白いベットには一人の少女が姿を現す。これできっと全員。僕はようやく現れた少女の顔を見ようとする。
 だけど何故かここで窓から強烈な光が入る。それは太陽光にしても激しすぎる。
 最初は朝日が入ってきて眩しい……位が黄昏レベルで顔が見えないっ!? ってなって更に今は部屋全体を白くぼかしてる。
 まさかここまで!? 


「紗奈!」
「紗奈ちゃん!」
「パパ……ママ……私……もっともっと頑張る……頑張りたい。だって、また一緒にお星様……見に行きたいもん」


 そんな声だけが最後の最後に聞こえてきてた。光はどんどん遠くなる。僕を置き去りにして、眩しかったその光景は消え去ってく。




「何だったんださっきの?」


 真っ暗になった空間で、ポツンと佇む僕は今のを思い出してそう呟いた。そう言えば前にも似たような光景を見た気がするな。
 でも……その時のは確か……悲しくなるような光景だった。今のと前に見たのが繋がってるとしたら……アレが結末……そんなのって……僕はどうしようもない胸の感じを、一旦叩いて弾けさせる。
 そして大きく深呼吸。気持ちを落ち着かせよう。自分まで鬱になってどうするよ。てか、一体なんなんだろうホント……どうしてLROに居ると――というか、リーフィアを被ってると変な夢を見るんだ? 
 そう言う体質……なのかな? てか、僕は今もの凄く大変な状況だったような……なのに何故にこんな空間に居るんだよ。
 訳が分からない事多すぎる! 僕は天才でもなんでもないのに、このままじゃ処理落ちするわ! 何も無い暗い空間で悶々としてると、どこからか足音が聞こえてくる? いや、なんか駆けだした? 
 そう思ってると突然――――


「どーーーーーーん!!」
「ぐはっ!?」


 ――――背中に膝蹴り食らった。よろめく僕。


「なにすんだ!!」
「あははははははは、当たったね! よしよし、痛いの痛いの飛んでけしてあげるから許してね」
「いらんわ!」


 勢いだけでそこまで痛かった訳じゃないしな。まあビックリはしたけど……
「なんなんだお前? 僕がなにすんだって言ったのは痛いからじゃないぞ。どうして・いきなり・僕に膝蹴り・かましたのかって事だ!」


 たく、理解力の無いガキだな。するとその少女は、悪びれた素振りを微塵も見せずにこう言うよ。


「必要だったから! コンタクトが良好か確かめたかったの」
「じゃあ僕も必要だから蹴り返して良いか?」
「暴力反対ーーー!!」


 口をい~~~とさせて、そんな風に叫ぶ少女。何が暴力反対だ。今さっき僕にしたことをなんだと思ってるんだ。


「てか……さっきから気になってたんだけど……お前なんだか見覚えある。その変な色のスカーフ? みたいなのとか」


 うん、それに浅黒い肌にしなやかな手足。活発そうな顔つきとか……


「これは私のお気に入りなんだから変なのとか言わないで! ママとパパに貰った宝物なんだよ。そう……ママとパパに……」


 なんだかちょっと震えてる様な……そう思ってると、頭を豪快に振って僕に詰め寄ってくる。


「そんな事より、私を覚えてないってヒドいです。ちゃんと前にも会いましたよ。クリエの事頼むって!」
「あっ……ああ!」


 思い出した思い出した。いや~最近頭痛くなる事が一杯で、近しい記憶も曖昧だな。参った参った。


「もう、ようやくですか? そんな調子じゃ、クリエの願い叶えられませ……いえ、それは良いんです」


 んん? なんだか急に口ごもったな。てか、最初気付かなかったのは、前に会ったときはもっと神秘的というか……そんな感じだったから、今のギャップでわからなかったんだと思う。


「とにかくクリエは私の友達なんだから、ちゃんと守ってくれないと困るんです!」


 なんだか色々と端折って自分の思いだけを押しつけてる感じだな。まあ子供らしいと言えばそうだけど……


「僕だって僕なりに一生懸命やってる。今だってその為にだな……」
「わかってます。一生懸命なのは……見てましたから。だけど、このままじゃクリエは……ううん、貴方の仲間が危ない」
「……どういう事だ?」


 なんだか不穏な空気を感じて、真剣な面もちでそう返す。


「聖獣です。残りの聖獣はリア・レーゼに既に攻撃してます。沢山のモンスターを引き連れて……」
「なっ!? いや……待てよ。どうしてそんな事がお前にわかる?」


 驚いたけど冷静に考えてそんな問いかけをする。だって、謎だろ? てか、そもそも何者だよこの子は。あどけない顔した子供以上には見えないぞ。どういう存在なんだ?


「私が何か……わからないんですか? 良く考えて見てください。もうヒントは一杯あるはずです」


 なんだそのクイズは。お前の話が本当なら、こんな所でクイズに頭を悩ませてる暇は……いや、重要な存在……か。
 僕はこれまでの事を色々と思い出す。まず絶対的な確認をしようじゃないか。


「お前はクリエの友達なんだよな?」
「ええ、そうですよ」
「じゃあ、お前がクリエが言ってたシャナだな? クリエはお前を月につれて行きたがってる」


 それがアイツの願い。だけどその大前提でいきなり首を振られた。ええ!? 


「クリエの考えは合ってますけど、重要な所で違います。私はシャナじゃなくて『サナ』です。あの子は舌足らずで、絶対にサナって呼べなかったんです。
 どうしてもシャナになっちゃうんですよね」


 なんだか微笑ましくそんな風に喋るシャナ――改め『サナ』。クリエの奴、友達の名前を適当に呼ぶなよ。


「あの子はサナって言ってるつもりなんですよ。だから責めちゃダメです」


 まあ、責めるなんてしないけど……でも、気になる事が一つ。サナってまさか……


「なあ、気を悪くしないでほしい……なんて言えないかも知れないし、こんな質問おかしいのかも知れない。だけど答えて欲しい。
 君は……その……生きてるのか?」


 すると彼女は儚い笑顔と共にその答えをくれた。悲しい悲しい答えを……

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