命改変プログラム

ファーストなサイコロ

劣勢・逃走・爆発



 墜ちていく小さな体。いつの間にか大きさを増してた雨。この戦場に、その名が沢山叫ばれてる。だけどもう、その声に応える事もできないサウニー郷。
 彼のHPは既に尽きてる。一撃……障壁とか、あの服とか、何か仕込まれてても良さそうな物だったけど、そんな事は無かったのか?
 ああ言う奴らは、自分の身を守る術は万全に整えてる……そう思ってたんだけど、流石に一撃とは考えて無かったのかもしれないな。
 いや、そもそもNPCにはHPとか見えてるのか疑問だな。僕達はゲームとしてこの世界に身を投じてるから、HPという概念が見えるわけだけど、この世界に息づいてる人達がHP見えるのも変な話か……でも聖獣とか敵側は見えててもおかしくはない?
 よくわかんないけど、今大事なのはそんな事じゃないんだよな。


「これは……まずいよスオウ君」
「分かってます……ここから艦隊はどう動くのか……いや、動けるのか……」


 それが問題。幾ら叫んだってサウニー郷は応えてくれない。いくつかの船は降下しようと試みてるけど、下からのモンスターの攻撃でそれもままならない。
 諦めて周りを見ろよ。でないと、お前達までサウニー郷に続く事になるぞ。
 大将を殺した事で聖獣軍団の勢いがきっと増す。そうなったら次にああなるのは自分達だ。それをちゃんと理解してろ。
 すると夜闇に消えていくサウニー郷への興味は既になくなったかのように、聖獣は背を向ける。そして今度は眼下の旗艦を見つめてる。
 そして振り上げるは自慢の武器。黒い霧を発生させてる様にも見えるその長刀は、その霧の分だけ大きく見える。長刀から流れ出す様に出てる霧は下じゃなく、上へと上ってるんだ。
 それはまるであの黒い部分までもが奴の武器となってるような……そんな気がする。そして奴が何をしようとしてるのか、奴の態勢をみれば一目瞭然。
 振り下ろされる長刀。それに並列して、旗艦が大きく傾き、斬られた様な亀裂が入り煙が上がる。


「一刀両断!? まさか……あの大きさだぞ!!」


 どう考えてもあの武器の長さじゃ無理なはずだろ。僕のイクシードの風のウネリとかなら出来なくもないけど、ズレていく旗艦の切り傷はかなり鋭利に切れてる。まさに刀の痕の様な……そう思ってると、更に横に切れ目が入り、更に縦にもう二カ所攻撃が入った。
 切り刻まれた形の旗艦は空中分解を起こして無惨な形に。エンジン部分は炎で覆われ、旗艦に居た僧兵が大量の破片と同時に降ってくる。


「くっそ!」


 僕達には降ってくる僧兵を助ける余裕なんてなかった。必死に破片を避けて、それでも避けきれない奴を僕がイクシードで弾く。自分達の身を守るので精一杯だ。
 周りからは沢山のモブリの叫びが聞こえてた。断末魔の叫びを、僕達はどうすることも出来ない。


「スオウ君! 今度のはデカいよ!!」


 そんなテッケンさんの言葉で周りに散乱してた意識を上を戻すと、そこには旗艦の分解した部分のかなり大きな破片が迫ってた。
 いや、それは既に破片って感じじゃない。だってかなりデカいもん!! このままじゃ確実に潰される。だけどこれ……切れるのか?


「いや、斬るしかないんだ!!」


 僕は両の手のウネリを落ちてくる残骸へと突き出す。だけどぶつかった瞬間に風は四方に流れて、突き破る事は出来ない。
 しかもおもっ!? この狭い足場では耐えきれそうにないぞ。一瞬で処理していくならともかく、こんな風に処理できなかったら一気にピンチだ。くっそ……このままじゃ押しつぶされる。どうにかしないと……
 雨なのか汗なのか分からないけど、自分の顔から水が滴っていく。


「スオウ君、大丈夫なのかい? 僕も加勢を――」


 そんな風に言ってくれるテッケンさん。だけど彼には舵を握っててくれないと困る。それにテッケンさんは僕のいろんな期待に応えてくれてるんだ。僕だって彼の期待に応えたい。
 自分の役割くらいこなせないでどうするよ。だから僕はこう言ってテッケンさんの行動を止める。


「大丈夫です! やって見せます。だからテッケンさんは舵を放さないでください!」
「だ……だけど……」
「大丈夫です!!」


 不安気な顔を見せるテッケンさんを僕は畳みかける様にそう言うよ。大丈夫……この人は信じてくれる。僕はそれを信じてる。


「わかった。任せたよスオウ君! おもいっきりやってくれ!!」
「はい!!」


 ああ、やっぱりね。期待したことを、期待したとおりに言ってくれたよ。だからこその期待を裏切られない!
 僕は片腕を残骸から外して、今度は横から叩きつける。更に体を回転させてもう一回。この時点で、残骸を支えてたウネリは両方とも外れた事になる。だけど僕達の場所に落とさせはしない。片側を叩きまくる僕。
 斬れないのならせめて、押し弾いてやる。それで軌道を変えるんだ。


「どっせえええええええええええええええい!!!」


 何十回叩いたかも分からないけど、軌道はどうやら変えられた。僕が叩きまくった片側だけ、かなり損傷激しくなってるけど、やっぱり斬るまでにはいかなかった。
 でも結果オーライだ。巨大な残骸は僕達の数センチ先を通って落ちていく。


「はぁはぁはぁはぁ……なんとかこれで……」


 そう思って落ちていく残骸を辿って下を見ると、そこには思わず口元を押さえる光景があった。艦隊よりも下の空域に居るモンスター共が、落ちてきてる僧兵を食べ――


「あいつ等!!」


 僕はイクシードを向けようと思った。だけどそれをやる前にテッケンさんにこう言われたよ。


「無駄だよスオウ君。地面に叩きつけられるか、奴らに食われるか……その違いだ。君がその力を向けた所で、彼らは助からない」
「それは……そうかも知れない……けど! こんな光景酷すぎます。テッケンさんとは同類じゃないですか! 耐えられるんですか!?」


 轟く悲鳴や、苦しみの声。それをただ見てろって……そんなの……テッケンさんはそんな風に言う人だなんて思ってなかった。
 だけどテッケンさんに視線を向けると、彼の身体が震えてるの分かった。


「耐えられる訳がない……だけど! 今の僕達は無力なんだ! 何もしてやれない。死に方が残酷だから……見るのに耐えられないからって、生かせる訳でもないの干渉するのはエゴだよ。
 それは……僕達が弱いだけだ。自分達の無力さを、あの時僕達はこれだけやったんだって思いたいだけ。そんな見栄を張ってる場合じゃないんだろう。
 今は助けられない命に構ってる場合じゃない。僕は良いけど、君だって限られた命だよ。僕は君をみんなの元に無事に届けると言う使命がある。
 残酷だと思われても、僕は彼らに手を差し伸べて上げられない。僕達は生き残らないといけないんだ!!」


 彼は必死にそう言うよ。真っ直ぐな瞳だ。テッケンさんの言うことは……やっぱり正しいと思う。


「すみません。そうですね……これは僕の弱さです。僕は助けて上げられないのに、残酷過ぎるからって、この死に向き合う事をしたくなかった。
 だけど……ここは戦場なんですよね。そして彼らは兵士だ。誰もがここでは命のやりとりをしてる。それから目を逸らしちゃいけない。
 生き残りましょうテッケンさん。そしてみんなの元へ!」
「ああ、勿論だとも!!」


 今の僕達は何も出来ない。だけど、ここを切り抜けて、みんなと合流出来れば、ここで死んでいった人達の分まで僕達は戦える。
 だから今は前を……前だけを見て進もう。激しさを増していく雨。次々と落ちていく飛空挺。二十機程居たのに、もう一桁位にまでなってる。
 一体、どこでローレの奴は出てくる気なんだ? それとももう見捨てたのか? ここで出ても意味はないってそう言う判断? でもそれじゃあ僕達は……くっそ、どうすればいいんだ?
 そんな事を考えてると、再びドデカい塊が僕達の上に降ってくる。まだ旗艦の残骸があったのか? いや、それとも他の飛空挺の破片か? でもわざわざこんなピンポイントに落ちてくるものだろうか?
 でもこの台座、移動速度遅いし、無くもないのかな? そう思いながらも僕はウネリを向ける。だけどやっぱりデカいのはそう簡単に砕けない。またさっきみたいにしたい所だけど……そう思ってると、なんだか更にデカい残骸が上からぶつかって来て、速度を増した。


「何!?」


 いやいやいやいや、おかしいだろ。なんで自然に落ちてきてる筈なのに後からのがぶつかるんだよ……って普通重い方が落下スピードも速くなるか。
 別におかしく無かった。


「いや、おかしいよスオウ君! こんな大きな破片が重なって何度も僕達の真上に落ちるなんておかしい! まるで僕達を狙ってるみたいじゃないか!」


 狙ってる……確かに言われてみればそう感じるな。だけどそんな事言ってる間に、もう目の前だ。これだけデカいと、避ける場所なんて無いぞ。
 そもそもこの台座にはそんな機動性もないわけで、だからこそ僕が破片を払う役目をしてるんだ。


「くっそ……」


 ただのイクシードじゃもうだめだ。けどだからって段階を上げるにもHPは全快にしちゃってる。後自分に出来る手段は……ただ一つか。
 いけるかな? いや、迷ってる場合じゃない。雨も強くなってきて破片はその雨に濡れてるし、通りはよくなってる筈だ。
 右側のウネリを残骸から外して意識を集中させる。左手側は少しでも支える為にそのまま。だけど実際支えられてるのかは微妙だ。既に台座ごと下に落ちてる感覚だしな。
 だから急がないと。このままじゃ押しつぶされるか、地面に激突した後に、また押しつぶされるかのどっちかだ。今のイクシードは風と雷が内包されてる。そしてウネリは風が強く出てる。それをまた、あの時みたいに自分で制御するんだ。
 風の中に僅かしかない雷を、自分の意志で前に押し出す。でも片側はそのままで、もう片側だけをって所が出来るか懸念すべき所なんだけど……出来るか出来ないかじゃない。今はもう「やるしかない!」が現状だ。
 意識を集中して、右側のウネリを沈める。そして現れるのは青い光。そしてバチバチとスパークする音。


「スオウ君!」


 そんなテッケンさんの「もうだめだ」的な声が上がったとき、僕は右側のセラ・シルフィングを下から上へと振り抜いた。一瞬雷が鳴った時の様な光が走り、残骸が焦げ目を上げて真っ二つになる。
 だけどまだだ! まだこの後ろに更にデカいのがある! 左側のイクシードもこれで支える必要が無くなったし、僕は両腕のイクシードを雷系へシフトさせる。両方のセラ・シルフィングには風のウネリの代わりに、刀身の外側で雷の刃ができあがってる。
 遠くへ届くリーチを犠牲にして、鋭さを増したこの刃で、直前で切り刻む!! 両の手に鋭い刃があるのなら僕にはこれほど心強い物はない!


「荒々しくたけろ! イクシード!!」


 そんな叫びと共に、気合いを入れて僕はラッシュをかける。デカい残骸を一気に切り刻むんだ。縦に――横に――斜めに、様々な角度でセラ・シルフィングを振るう。
 一閃する度に入る鋭い雷の刃。なんだか通りが良いような気がする。雨のおかげかなやっぱり。雷撃事態を通りやすくしてくれてるのかも。
 だから雷の刃が入りやすい。雨に濡れた台座の上で、僕は荒々しく息を吐いて動きを止める。だけどまだ破片は目の前にあるように見える? 大丈夫。これが最後の仕上げだ。
 僕は歯を食いしばって両方の武器をそれぞれ交互に振り上げる。別に何かを斬った訳じゃない。空気をぶつけるみたいに、その残骸に向かって剣を振り上げた。すると一瞬で切り刻んだ分だけ小さくなって残骸は落ちていく。
 うん、一度こう言うのをやってみたかったんだ。実を言うと「あれ~斬った筈だよな?」とかドキドキしてたけど、良かったよかった。


「よし、このまま一気にこちら側の飛空挺まで行くよ」
「飛空挺の位置、分かるんですか?」


 見渡してもどれが僕達がつれてこられた奴かわかんないんだけど……


「大丈夫だよ。この台座がどちらの物だと思ってるんだい? まあ厳密にはこの台座というか。これに掛けられてる魔法に、ちゃんとそういう機能があるんだけどね」


 なるほど、台座は台座って訳ですね。重要なのは、この台座に掛けられてる魔法か。って待てよ。


「そうだテッケンさん。リア・レーゼに……ローレの奴に通信しましょうよ。アイツがどういう考えか知りたいです。出来ますよね?」


 てか来るとき、通信受けてたし、ならそういう機能があるってことだ。そんな長々と通信は出来ないけど、今後の事とか、簡潔に話したい事はある。
 それにこの状況も伝えた方がいいだろうし……いや、リア・レーゼ側の飛空挺が近くにいるなら、既に知ってるのかな? 
 でも……それでも取りあえずは通信は必要だ。どうなんですかテッケンさん?


「それがだね、通信は出来るよ。だけどそんな遠い距離は無理なんだ。この台座は今は乗ってきた飛空挺の子機みたいな物なんだ。だから、リア・レーゼに通信するには飛空挺を通さないといけない」
「どんな手段でも通信できるのなら良いですよ。それなら飛空挺経由で繋げて貰えばいいんですから。頼みます」


 僕はもう一度テッケンさんに頼む。別にどんな方式でも通信できれば良い。今は急いでるんだしね。だけど何故かテッケンさんの反応は芳しくないぞ。


「それがだねスオウ君。さっきから呼び出してはいるんだよ。だけど、反応が返ってこない」
「どう言うことですか? 位置は分かってるんですよね?」


 僕は片側だけウネリを戻して、襲いかかるモンスターや破片に対処しながら尋ねる。だって飛空挺は健在してる訳……だよね? それなのに応答がないってのが分からない。


「位置はね。反応はある。だけど幾ら向こうとコンタクトをとろうとしても反応がないんだ」
「どうして……雨のせいで電波状況が悪いとかですか?」
「それは……きっとないよ」


 冗談だったんけど、案外真剣に返されてしまった。恥ずかしい。でもそれなら何があったっていうんだ?


「分からない。だけど、僕達が向かえるのはそこしかない」
「……ですね」


 不安はある。だけどテッケンさんの言うとおり、僕達はコンタクト出来ない飛空挺に向かうしかない。だってこの台座でリア・レーゼまではきつい。
 本当なら、ここら辺でリア・レーゼの艦隊が颯爽と登場してもおかしくない……とおもってるんだけどな。


「本当にローレの奴は何やってるんだか……」


 漁夫の利を頂くんじゃ無かったのか。それなりの損害はでてるし、実際サン・ジェルク側が潰されてから出てきても遅いと思うんだ。
 出てくるなら今しかないと思う。そしてそのタイミングをローレの奴が見逃すとは思えない。でも来る気配はない。この戦場には降りしきる雨と、暗い空。それを所々照らす赤い炎の光と砲撃と爆発と、入り交じる悲鳴だけ。


「ローレ様が途中で意志を曲げるとも考えにくいんだけど……僕はずっと気になってた事があるよ」
「なんですか?」


 テッケンさんが気になってた事なんて、僕も気になるよ。一体何が気になってるんだ? そしてそれがローレの現れない理由に関係あるのか?


「スオウ君は気にならないのかい? 聖獣は他にも居るんだよ。それなのに何で一体しか姿を現さない? 残りの三体はどこに行ったんだ?」
「それは……森で休憩でも……」


 なかなかに苦しい希望的観測だな。我ながらそう思った。でも確かに言われてみれば、聖獣が一体しか出てきてないのはおかしいな。


「僕達はここで聖獣対サン・ジェルク艦隊を戦闘にさせる事が目的で、それが出来たから良かったと思ってた。だから聖獣が一体しか居なくてもそれほど気にして無かったけど、違和感はずっとあった筈だよ。
 そしてそれが、ローレ様からの返信がこないってサウニー郷が言ってたので違和感は大きくなった。それでこれだよ。既に何かが起きてる……そうじゃないのかな?」


 テッケンさんの言葉は僕の不安を大きく煽るよ。確かに考えると、ローレが何も言わずに引き下がるのはおかしいよな。
 嫌みの一つくらいは絶対に言うだろアイツ。それが何も言わないでって……


「そういえばあの後、聖獣と戦闘してる間、テッケンさんはサウニー郷と話したんじゃないんです――か!?」


 迫ってきてたモンスターをウネリで弾きとばして、そんな疑問を投げかける。


「あの時は、リア・レーゼの事を聞く暇なんか無かったよ。聖獣の危険性をわからせるのに精一杯だったからね」


 なるほど。確かにそこまでの時間はないよな。それじゃあ結局は、自分の目で確かめるしかない。


「どのみち、この台座じゃ限界があります。飛空挺に行ってみましょう」
「それしかないね……」


 イヤな予感を僕もテッケンさんも感じてた。だけど安易にそれを口に出したくなかった。だから僕もテッケンさんもその「もしかしたら」みたいな予想は口に出さなかったよ。
 だけど、だからこそ、この戦場を一刻も早く抜ける。その思いが強くなる。


「くはははははは、さあ次は貴様等の番だ!!」


 そんな声に空を見上げると、聖獣がとんでもない物を掲げてこちらを見下ろしてる。次は僕達の番ってのは、サウニー郷の次にあの世に送るのは僕達……って意味か? 既に大量の僧兵が送られてそうだけど……奴の手でって意味だろうな。
 そんなの頼まれても拒否したいんですけど……


「まさか、あれを投げる気か? スオウ君でもアレは……」


 そんな不安げな声を漏らすテッケンさん。だけどそう思うのもうなずける。だって僕もアレは流石に……引く。聖獣の奴……飛空挺を丸々持ってるんだ。あれはダメだろ。やっちゃいけない事だろ。違うの?
 だけど僕はそんな心を押し隠して強気にこう言うよ。


「何が来たって切り落として見せます。セラ・シルフィングならそれが出きる!」
「面白い。そうでなければな!! やってみろ人間!!」


 僕の言葉に反応した聖獣は掲げた飛空挺を僕達に向かって投げつけて来る。そんな様子を見て、一斉に周りのモンスター共が巻き込まれないと散っていく。このヘタレ共が!! 流石に丸々一隻は受け止めるとかそんな次元にない。受け身に入ったら何も出来ずに終わるだろう。向かうしかない!! 
 僕は再び両方を雷撃優先のイクシードに切り替えて、台座を蹴って飛び出した。この飛空挺を全て斬る! 片っ端からだ!!
 そんな思いでセラ・シルフィングを振りかぶ――――


「なっ!?」


 ――――――飛空挺の先端に第一撃を加える所で僕の腕は動きを止めた。何故なら、そこにはまだ僧兵が居たからだ。


「ふはは!! どうした? 切り刻めば良いではないか!!」


 高笑いして無茶な事を言ってくる聖獣。そんな事、出来る訳ないだろ。それが分かってるからこそ、こんな惨い事を……彼らの怯えた様な表情が僕に向けられてるんだぞ。
 迫る飛空挺に僕は何も出来ない。


「スオウ君!!」


 そんな声が聞こえた瞬間、大きな衝撃が僕を襲う。一応セラ・シルフィングでガードしたけど、自分の身を守る以上の事なんか出来ない。だってこの飛空挺にはまだ沢山の僧兵が居るんだ。
 僕の手でこの人たちを冥土に送るなんて……それは今までとは意味合いが違う。ここで死んじゃいけないのは分かる……だけど……無理だ。


「「「うあああああああああああああああああああ」」」


 下に居たテッケンさん達をも巻き込んで落ちていく。木々をへし折り、落下の衝撃で爆発し、地面事態が燃え盛る。

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