命改変プログラム

ファーストなサイコロ

夜闇が広がる



 暗く厚い雲をぶち破り、光の柱を立てた僧兵達。だけどそれでも聖獣は倒せなかった。けれど空では圧倒的アドバンテージを誇るバトルシップが聖獣を追いつめていた。
 このまま聖獣が倒される……それはそれで良いんだけど、調子に乗りだしたサウニー卿が僕的には心配だ。それは勿論サウニー卿自身がって事じゃなく、奴が調子に乗ってる事で僕たちにとって不利な事があるって事だ。
 まず、テッケンさんが唱えてたサン・ジェルクとリア・レーゼの協力関係なんか必要無くなると確信持たせる事になる。それに空での圧倒的戦闘力の証明は色々と危険だ。マジで元老院の奴らが世界征服を企てかねない。
 それにその力はこの戦闘が終わったらリア・レーゼに向いてもおかしくないしな。いろんな懸念がわいてくるよ。空に続く爆発の光。二機のバトルシップは縦横無尽に空を駆けて聖獣に攻撃を当てまくってる。


「テッケンさん……」


 僕は名前だけ呼んで彼と視線を交わすよ。テッケンさんの腰にはサウニー卿と繋がるお札がある。下手な会話は出来ない。
 実際どっちに転んでも僕たちの状況はあんまり変わんないんだ。聖獣が攻めて来るのもイヤだけど、元老院だってろくな奴らじゃないし、でもだからってローレを宛にするのも何かと危険……だけど全てを弾いてたんじゃ、クリエの願いは叶えられない。
 今僕たちはリア・レーゼ側に居る。なら、守る物はそこを最優先するべき。ローレの性格は不安要素だけど、嫌いなだけで悪い奴では無いってのがせめてもの救いだな。僕はテッケンさんに視線だけで意志を伝えようと努力するよ。
 必死にチラチラとリア・レーゼの僧兵さん達の方を見て、そして僕たちが乗ってきた台座の方を見る。なんか端に寄せられてるけど、そのおかげで僕たちの戦闘の影響を受けてない……そして思ったんだ。
 アレは浮ける。それを使えば彼らを助ける事が出来るんじゃないかって。まあどうやって操作してたのかとか、僕は全然知らないんだけど、テッケンさんなら……そんな願いを込めてます。
 だけど彼から帰ってきた返事は横に首を振る仕草。無理だって事? いや、ちゃんと伝わって無いのかもしれない。ここはジェスチャーを加えて……『僕』←指さし、僧兵さん達側へ。『テッケンさん』←指さし、台座へ。そして台座を僧兵さんたちが縛られてる下側へ。全身使って表現してます。
 『僕』はそこであの先端の棒をぶった斬る動作。これでOKだろ。後は逃げるだけ。どうだ? 伝わったかな? そう思ってると、周りのサン・ジェルク側の僧兵達の白い眼差しが僕を見てたよ。


「な……なんだその目は! 痛い奴を見てるような目はやめろよ! 傷つくだろ」


 僕は必死に噛みついた。だって恥ずかしかったんだもん。だけど彼らは僕の言葉を無視して、今度はその杖をこちらに向ける。


「おいおい、どういう事だよ……」


 協力関係でも締結してたんじゃないのか? 僕はテッケンさんを見るよ。すると彼は板を手に取り、そこに貼ってあるお札に向かって僕と同じような事言ってる。


「どういう事だ? 僕たちをどうする気だサウニー郷?」
『なに、逃げられる前に鎖をつけようとしてるだけだ。そんな事をどうせ考えてるんだろ? だが逃がしはせん。このまま聖獣を倒し、この空を制圧し、そしてこの武力を見せつけてリア・レーゼを屈服させてやる。
 それまで、貴様等を逃がすわけにはいかんな。まだ聞かなければいけない事も聞いてないしな』
 なんだかサウニー郷の奴……言ってることが大きくなってないか? リア・レーゼを屈服させるとか……やっぱ調子に乗ってきてるな。
『お前たちが逃げると、あそこの僧兵が死ぬぞ。大人しくしてろ。それか早く自分の必要性を説くんだな。言っとくがリア・レーゼからの音沙汰は一切ないぞ。見捨てたんだよアイツは。
 お前の判断で彼らの命運は決まる』
「くっそ……」


 マジでローレの奴、なにもしない気か? 期待なんかしてなかったけど、ホント冷徹な奴だな。それに今のこの状況じゃ、ピンチに陥ってサウニー郷がローレに泣きつく展開も望めそうもないし……マジで思ったよりもバトルシッップは強力だった。
 何とか聖獣をこの船から引きはがしても、結局僕たちの状況はまるで変わってない。寧ろ追いつめられた感じだな。どうしよう……マジで。
 これだけの僧兵に囲まれてたんじゃ、思うように動けないしな。
 色々と詰んだ状況に頭を悩ませてると、テッケンさんがポツリとこう言った。


「スオウ君はあんまりローレ様の事好きじゃない様だけど、僕はまだ信じてるよ。そしてきっと信じてくれてる。僕達なら、リア・レーゼに不利な状況は作らないと。だから今は何も言わないんだ」
「それは………………夢見すぎですテッケンさん」


 ゴメンだけど、全然その意見には同調出来ないです。「そうですね。なら頑張らないと!」ってならないもん。きっとアイツが何も言わないのは、次の手を考える為に傍観してるからだ。この戦闘の行く末を見極めてるんだろう。
 どうやったら手柄を横からかっさらえるか……それか、どうやったら、ここでどっちも潰せるか……そんな事を考えてる思います。どっちも生き残る事は望んでなくて、どちらかが圧倒するのも望んでなんかない奴だ。
 このままじゃ厄介……とか思いながら「聖獣の奴何やってるのよ」とか言いながら舌打ちしてる絵の方が思い浮かぶな。
 ローレの奴が僕達を信じて両手を併せて祈ってる? 想像も出来ないです。


「そ、そんな事!」
『ふっははははは! 確かにそれは夢見すぎだな。生意気な小僧だが、そこは賛成だ。あの女が誰かを信じるなんてするわけがない。
 アイツが信じるのは自分だけ、後は駒位にしか思ってない。そういう奴だ。シスカ教さえも、あの女にとっては道具だ。自分の信仰に厚みを持たせるための道具。奴はきっとシスカ教を食いつぶす気だろう』


 おお、サウニー教の奴案外的を得た事を言ってるな。まさにその通りです。シスカ教の信者を取り込みながら、ローレ教を立ち上げようとしてるもんなアイツ。


『意見が合うではないか。それなら我らに協力したほうが――』
「ふざけるなよ。僕は確かにローレの奴が嫌いだけど、まだアイツはそれほどクリエに興味がないからいいんだよ。お前たちがクリエにしたことを、そしてこれからどうする気なのかを知ってるのに、お前達に協力なんか出来るかよ。
 それに……シスカ教を食い物にしてるのは元老院だって同じだろ。正義ぶるなよ」


 同類になんかなりたくない。僕はきっぱり言ってやったよ。


『ふふ、折角の提案を拒否するとは愚かな奴だ。なら貴様は道具として、使い捨ててやろう。まあそれも、貴様に道具としての価値があればだがな。
 気が変わったよ。リア・レーゼからの答えが期待できない以上、直接聞くしかあるまい。今から五数える内に、貴様の価値を教えろ。
 さもないと、僧兵の一人を落とす。いや、まずは一人を落として本気を示すべき……だったな。冗談ではないと知れ。そしてこれは我が身可愛さに渋った貴様の責任だ!』
「やめっ――」


 その瞬間、誰かの叫びがこの戦場に響いた。視線を船の先端に向けると、一本の光縄が風に揺れている。


「お前……」
『こちらの本気はわかって貰えた様だな。なら、答えて貰おうか』


 同じ種族、同じ国の人間のはずで、アイツだって一応はシスカ教の信者だぞ。それをその手で殺しておいて、この態度……元老院にとってリア・レーゼの連中はもう異教徒と同然か。
 僕はシルフィングを握る腕に力を込める。だけどここには切るべきサウニー郷はいないんだ。自分のせいで……その思いが募る。
 残りは二人。このままあの二人も見殺しになんか出来ない。


『五』
『四』


 刻まれる数字。僕は覚悟を決めるよ。


「分かった。言うよ。だから僧兵さん達は解放しろ」
『それは貴様の有意性しだいだな』


 この野郎……だけど僕に他に選択肢はない。先に言ってもコイツが僧兵さん達を解放するか分からないけど、必要じゃないのなら、殺すまではきっとしないだろう。そんな希望的観測をしてみるよ。
 これ以上足掻いても、どうしようもない。直ぐにどうにかされる……そんな訳じゃないしな。戦闘がまだ続いてる限り、僕に掛かるのはその後のはずだ。なら、チャンスはまだある。
 ここは僧兵さん達の安全が最優先。


「僕には……僕にも神の力が二つ宿ってるそうだ。ローレによるとな。テトラから受けた腕の呪い……それと今は、クリエを助ける時にたまたま、わずかに移った女神の力が僕にはある……らしい」
『証拠を見せて貰おうか?』


 そんな事を言われたので、僕は自分の腕と手の甲を見せる。


『確かに……その可能性はあるようだな。珍しいな、あの女が本物を寄越すとは』


 だろうね。どうせ渡さない気ではいたんだろうけど、ここまで来たらどうなる事やら。


『では、クリューエルの力が失われたのも本当か?』


 気になるところはそこか。いや、まあ分かるけど……


「それを僕達の口から聞いて、お前は信じれるのかよ? 自分の目で見たことしか信じないタイプじゃないのか?」


 疑り深いんだからな。僕達がどれだけ必死にそういったって結局信じないだろ。


『そうだな……確かにそうだが、聞かない訳にもいかない事だ。それにあの聖獣の姿……色々と、それを裏付ける要素は既に自分で見てるつもりだ。
 そこから判断するなら、確かにクリューエルはその価値を無くしてるのかも知れないな』


 案外ちゃんと考えてるんだな。意外な感じにサウニー郷はそんな事言ってる。
 てかちゃんと言ったんだから解放しろ。約束だろ。だけどそこで急に、奴の声は一段落ちた様に聞こえた。


『そうだな……約束か。貴様がその武器を捨てて、我らの軍門に完全に下るなら、考えてやろう』
「なっ!? 話が違うぞ! 誰がそんな話を交わした。僕が価値を証明すれば良かった筈だろ」


 汚い大人のやり方か。いや、想像はしてたけどね。


『有利な立場の時に、自分達の都合の良い条件に変えるのは政治の基本だ。我らは貴様とは違う大きな物を背負ってるんだよ。
 さあ、軍門に下らねば、残りの僧兵も死ぬことになるぞ』


 調子良さげにベラベラと饒舌に喋るサウニー郷。何が背負ってる物が違うだ。貴様等が僕やクリエを求めるのは私利私欲じゃねーか! 大義名分みたく言ってるんじゃない。
 自分達が神と言う存在に近づく事は、そのままシスカ教の為でもある……とか、当然みたく考えてるんだろうな。このまま調子付かせると、どんどん僕は不利な条件を飲まされて行くことになる。
 まさに暴力団とかのやり方だよな。一度妥協すると、ずっとその弱みを握られる。ちらつかせて脅迫される……そんな感覚だ。
 結局は何もやらなかったら現状は変わらない……それはいろんな物語で言われてる事だ。黒い奴らには妥協なんかしちゃいけない。今を変えるのは突発的な何か……じゃなく、自分の行動でしかない。
 それがよく分かりました。僕は両の手のセラ・シルフィングを握りしめる。


「スオウ君……」


 テッケンさんが僕を見上げて不安気な顔をしてる。僕の決断を待っててくれてるようだね。テッケンさんも、結局こうなる事は分かってただろう。ローレの奴が何があっても弱みを見せたり妥協しない理由が分かったよ。
 常に気を張ってないと、食われる訳だ。アイツもそれなりの物を背負ってた。まあそれでも養護はしないけど、ちょっと見直したかも。


「テッケンさん……すみません」
「スオウ君まさか!」


 何を考えたか知らないけど、テッケンさんは慌てた様にそういうよ。


『覚悟は決まったか? なら両手を前に差し出せ。魔法の錠を掛けてやろう』


 僕は言われた通りに腕を前に差し出す。ただし、武器は放さずにね。


『何やってる? その武器は必要ない』
「いや…………必要だろ?」


 僕は僅かに口をつり上げさせて、そういうよ。そんな僕の言葉はお札越しでは聞き取りづらかったのか『は?』とか言うサウニー郷。
 まあ、それはそれで良いよ。僕は見上げるテッケンさんに視線を送る。その眼差しは弱々しくなんか無いよ。屈する奴の目なんかじゃない。
 仲間を信じて、共に戦ってくれるよね? って、そんな信頼の視線を送ります。テッケンさんは何かを感じ取ってくれたのか、頷いてくれる。
 流石テッケンさんです。彼がいれば、どうにかなる。そんな変な自信が生まれる。僕の無茶も、いつだってテッケンさんは手伝ってくれた。だから僕は信じてます。
 僕の髪が外からの風じゃなく、周りに集い出す風でフワリと浮く。集い出す風はセラ・シルフィングの刀身を覆い出す。
 さあ、叫ぼう。どうやら僕にはやっぱりこっちがあってるみたいだ!!


「イクシーーーード!!!」


 前に出してた腕の先、セラ・シルフィングに集った風の渦がまっすぐに伸びて、目の前のサン・ジェルク側の僧兵を吹き飛ばす。そしてすぐさま、更に両の手を広げて、体を回す。
 僕達を囲んでた僧兵を一掃するためだ。


『きさま!! 自分の行動を後悔するんだな!』


 金切り声でそう叫ぶサウニー郷。きっと残り僧兵さん達を落とす気だろう。だけど――


「させるかあああああああああああああああ!!」


 僕はイクシードを発動させたセラ・シルフィングで甲板をおもっくそ叩く。それによって旗艦が大きく下に揺れた。


『ぬおおおおおおおううおうおう!!?』


 そんな声がお札から聞こえて、周りの僧兵達は転がってる。更に僕はもう一発お見舞いしてやる。大きな衝撃と激しい揺れが更にヒドくなる。
 これで少しは時間を稼げるだろう。


「テッケンさん! 今の内です。脱出を……」


 そう思ってテッケンさんが居た場所を見ると彼は居なくなってた。しまった、きっとテッケンさんも今の揺れで転がったんじゃなかろうか?
 そう思ってると、どこからかこんな声が聞こえて来た。


「僕は大丈夫! こっちだスオウ君!!」


 そんな声に甲板の端っこ部分を見ると、テッケンさんが僕達の乗ってきた台座に居る。なんて手際の良さ。もしかして自分が転がっちゃうのを利用してあそこまで? 流石です!! しかもいつの間にかお札が貼ってある木片捨ててるし、サウニー郷の奴、良い気味だな。
 僕は急いでテッケンさんの所へ向かう。船体が船首部分を下にしてる状態だから、僕はスライディングの要領で、テッケンさんの元まで滑る。


「テッケンさん、これ動かせるんですか?」


 僕がそういうと、テッケンさんはグッと親指を立ててくれるよ。


「僕は浅く広いことは何だって出来るよ!」


 ははは、それは自虐なのか? 反応に困るんですけど。そう思ってると起動出来た様で僅かに台座が浮きだした。自立制御出来るのか、浮いたら勝手に水平を保ってくれる。


「急ぎましょう。サウニー郷の野郎が、転がってる間に僧兵さん達の救出を!」
「ああそうだね。そしてこの空域からの脱出だ!」


 本当は落ちた僧兵さんも助けてあげたいけど、実際そんな時間も余裕もない。ご冥福をお祈りするしか出来ない。でもだからこそ、残りの僧兵さん達は見捨てたりなんかしない。
 テッケンさんが色々と何か操作してると、甲板の入り口付近の扉に下に居た僧兵達が何事かと出てきた。


「げっ……大人しく治療に専念してれば良い物を……」


 なんでこのタイミングで現れるんだよ。しかも現れた僧兵達は僕達を見つけるなり、魔法の詠唱に入りやがる。攻撃しないように命じられてたんじゃないのか?


「逃げようとしてたら例外無く攻撃対象とみなす様に言われてたんじゃないのかな?」
「そうかも知れないですけど、そうじゃないですよ! まだ動けないんですかこれ!?」


 僕はバシバシと台座を叩くよ。浮いたのは良いけど、なかなか動き出さないぞ。このままじゃ蜂の巣にされる。


「もうちょっと、もうちょっとなんだ」


 そういって空中に現れてる術式みたいなのを組み上げて言ってるテッケンさん。何あれ? よくわかんないけど、頑張ってるのは伝わるよ。
 だけど入り口付近の僧兵達はもう、詠唱が終わりそうだ。しかもまた合唱魔法らしい。複数人での同時詠唱で強力な魔法を発動させる奴等。
 空中におっかない光の玉が出来上がってるぞ。


「テッケンさん!」
「スオウ君これを!!」


 叫びと同時にテッケンさんから渡された物……これは!! その瞬間、放たれる合唱魔法。光る大きな魔法が僕達を襲おうとしてる。
 目の前に迫る魔法。僕はそれに向けて受け取った物を向ける。するとその大きな魔法を一瞬で吸収したそれは、向かって来てた魔法を奴等の方向へ放出する。


「え?」


 そんな呆気にとられる声が聞こえたと思ったら、自分達の攻撃の爆発が自分達に炸裂した僧兵達。きっと何が起きたから理解できないままに攻撃を食らっただろうな。


「ふう、なんとか凌げましたね」


 それにしてもやっぱりこの盾は厄介だな。どんな魔法でも吸収して弾き返しやがる。僕がテッケンさんから受け取ったのは、聖獣から奪った盾だったんだ。
 まあ手元にあると、これほど心強い物も無いけどね。


「よし、行くよスオウ君!」


 ようやくか、そんなテッケンさんの声と共に、台座は動き出す。甲板から空中に出て、僕たちは砲撃してる所の上を通って先端へ回る。
 僧兵さん達が縛られてる部分の下に来た僕たちは、イクシードでその棒の所をぶった斬って僧兵さん達を回収した。


「よし!」


 これでもうここには用はない、さっさと脱出を! そう思ってると、甲板から大量の魔法が飛んでくる。どうやら僧兵達が復活したらしいな。しかもなんだかサウニー郷の声までするぞ。


『逃がすな!! どんな手を使ってでも絶対に奴らを捕らえるのだ!! 死なない程度になら殺してかまわん!!』


 おいおい、言ってる事おかしいぞ。僕は取りあえず盾で魔法を弾くよ。この盾がある限り、遠距離攻撃など無意味なのだ。
 だけど、どうやら計算違いがあった。


「テッケンさん、もっとスピード出ないんですかこれ?」
「無理だよ。これはそもそもそう言うのじゃない。元が偉い人たちが演説の為に、民衆の上に優雅に現れる為の様な物なんだ。こんな戦闘、想定して作られてない」


 なるほどね。どうりでノロノロとしか移動できない訳だ。これじゃあいくらたっても逃げられないんですけど。しかも飛空挺から離れると、船の砲弾も向けられるし、僕たちに気付いたモンスターの攻撃まで来だす。
 いくらなんでも盾一つじゃ追いつかない。こんな事なら、別の船に移って、それを奪うべきだったな。そう思ってると、桁違いのスピードの船が直ぐそばを通り過ぎる。それはバトルシップ。
 待てよ、バトルシップが近くを通ってるって事は……その瞬間、僕が構えてる盾に別の腕が加わった。目の前に現れたのはやっぱり聖獣。


「まだ死んで無かったのかよ!」
「うるさい! 我の盾は返して貰うぞ!」


 そう言って聖獣は盾を強引に僕から奪い取っていく。くそ、空で自由に動ける奴には勝てなかった。盾を手に入れた聖獣は逃げることをしなくなった。向かいくるバトルシップの砲撃を正面から受けても盾ではじき返し、すれ違いざまにその羽を奪い取る。
 バトルシップは森へ墜ちていく。なんだかやばい感じがするな。そう思ってると、奴の腕が靄に包まれて、今度はその手に長刀が戻る。おいおい、ちゃんと回収しとけよな。完全武装。そして一気に奴は旗艦に向かった。
 下部から突っ込んで上部から再び姿を現す。その腕には小さなモブリの姿がある。おいおい、あいつ見覚えがあるぞ。あの服……まさかサウニー郷か? 通信用のお札でもくっついてるのか、サウニー郷の声がこの空域に響く。


『は……離せ! その汚らしい手をどけろ! 私を誰だと心得るか! 薄汚いモンスター風情に触られるなど耐えられん!!』


 案外気丈に振る舞ってるサウニー郷。僕の予想では情けなく命乞いをしするイメージだったけど、誇りとかはあるようだ。甲板のモブリ達は何とか助けようと、魔法を繰り出してるけど、それらは盾によって全て弾かれてる。
 そこへ最後のバトルシップが向かう。だけど……黒い靄に包まれた刀が一線すると、同時に炎に包まれて森へと墜ちていくバトルシップ。


『誰かなど知らん。つまらんモブリ風情が我の楽しみを邪魔した報いを受けろ。脆弱……それが貴様等種族だ』
『違う! 我らモブリはもっとも気高く神に誓い――』


 途中で途切れた言葉……振りおろされた長刀。投げ捨てられるサウニー郷のHPは僕の目からは見えない。
 HP事態が見えない訳じゃない。HPがあるように見えない。つまり彼は殺された。今この瞬間。その小さな魂は、戦場の空に散ったんだ。

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