命改変プログラム

ファーストなサイコロ

再戦は意外と早く



 モンスターの首が僕の一線で弾け飛ぶ。雲に近い場所で、大量の炎や熱気のせいだろうか……僕の頬を冷たい雨が打ち出した。
 ポツポツとまだその程度。だけどこの雲の厚さなら、直ぐにここも土砂降りに成りそう……そんな気がする。周りにはまだまだ大量のモンスターが居る。そしてそれらに応戦する飛空挺艦隊。
 激しい音と、ぐるぐる回る周囲の戦闘は目が回りそうになるほどだよ。この船の僧兵達も周りで魔法を出して応戦してたりしてる。
 この船自体も砲撃を繰り返してる様だけど、いかんせん敵は多く、すばしっこい。


「まさか降りて来るなんて……障壁はどうしたんだよ?」
「あれだよスオウ君」


 僕の言葉にテッケンさんは上を指さす。そちらに視線を向けると、なんとモンスターが数体で障壁をこじ開けてやがる。


「あそこから入ってきたのか。おい! 下ばっかりじゃなく上も見ろ。あそこのモンスター打ち落とせ!!」


 僕は魔法を放ってる僧兵に指示を出すよ。実際聞いてくれないんじゃないかと思ったけど、案外素早く反応してくれた。僧兵は集中して障壁をこじ開けてる奴らを攻撃する。中からの攻撃は通して、外からの攻撃は通さない様に上手く出来てるんだな。
 モンスター共は直撃を受ける前に、厚い雲の中へと消えた。


「すまんな。助かった…………などとは言わんぞ! 全員持ち場に戻れ!!」


 むむ、折角感謝を示そうとしたのに、僕を見上げた瞬間やめやがった。全く礼儀が成ってない。感謝を押しとどめて良いことなんかないのに。しかも既に、僕達の存在なんて忘れたみたいに魔法を放ちまくってる。
 だけどなんか違和感が……


「そう言えば下の奴らは結構ボロボロでしたよね? でもこの船には障壁があります。あんな風にどうなったら成るんですか?」


 よくよく考えたらおかしいじゃないか。大抵の攻撃は障壁が防いでる。モンスターの攻撃は中までは届かない。なのにあんなボロボロに……一体何にやられたって言うんだ。
 そう思ってると、再び大きく船体が揺れる。デカい分だけ、よく攻撃が当たる様だ。すると僕の目には驚きの光景が!!


「なっ――なんだこれ!?」


 いつの間にか船の端っこ部分から攻撃を行ってた僧兵達がみんな床に倒れてるじゃないか! マジで何があったんだよ。


「くっ……急げ! モンスター共は直ぐにでも攻めてくるぞ!!」


 そんな声を受けて、僧兵達はむくりと起き上がり出す。だけど今度は側面からの連続攻撃。大きく旗艦は流される。
 僕は態勢を低くしてその揺れに耐えるよ。だけど周りの僧兵達は何故かコロコロ転がってる。何遊んでるんだアイツ等?


「テッケンさん、あれは一体どういう――っていない!?」


 僕は奴らと同じモブリであるテッケンさんに意見を求めようと思った。だけど何故か彼まで居なくなってるよ。周りを見回すと、テッケンさんは反対側に他の僧兵達と一緒に転がってる。
 そんな、何故にあんな優秀な人まで転がってるんだ? 運動神経良いじゃん。耐えられない程の揺れってわけでもなかったと思う。
 いや、僧兵は全員漏れなく転がってるし、僕が異常なのかな? 実は相当な物だったとか? そんな筈ないけど、そんな気がしてくるぞ。
 そう思ってると、僧兵の間から顔を出したテッケンさんが後ろを指さしてこう叫ぶ。


「スオウ君! 奴らがもう一発放とうとしてる!!」


 それはまさか、どうにかしてって事でしょうか? まあ、どうにかするけどね!! だってこの船を落とす訳にはいかないんだ! 
 僕はセラ・シルフィングの刀身に青い雷撃を発生させる。そして今はセラ・シルフィングがあるのなら、この雷撃を自身から放てるって事だ。
 それであのモンスターを打ち落とす! 


「いっけぇ――!!」


 僕が雷撃を放とうとすると、それよりも早くモンスター達が打ち落とされる。そして落ちていくモンスター達とは逆にもの凄い素早さでバトルシップが上昇してきた。
 そして雲に突っ込み。あっと言う間に出てきたかと思ったら。その縦横無尽な動きで次々とモンスターを落としていく。


「凄いな……」


 僕は素直にそんな感想を呟いた。敵の時はこんなの技術的にもおかしいだろ! って叫びたかったけど、今は素直にありがたい。すっごく頼りに成るな。
 まさに空でバトルシップの右に出る物はない……そう思える程の無双っぷりです。しかもそれが三機……かなり賭けてるよな。


「ようし! 押し返すぞおおおお!!」


 そんなかけ声と共に、再び動き出す僧兵の諸君。僕は中央付近に戻ってテッケンさんと合流するよ。


「んで、何遊んでるんですかテッケンさん? らしくないですよ」


 モブリの中でも唯一格好良い……それがテッケンさんのキャラの筈だろ。あんなの格好良くない。冗談だとしてもそんなの誰も求めてないんだ。方向を間違えないでほしいよね。


「いや、誰もそんな方向目指してないけど……違うんだよスオウ君。あれにはちゃんとした訳があるんだ」


 みんな一斉に転がった事へのちゃんとした理由? それは是非に伺いたいな。あんなの見てる側からしたらギャグだよ。いつの時代のコントだよってね。


「ほら、モブリって等身が低く頭が大きいじゃないか」
「ですね。マスコット的なあざとい可愛さ狙ってますね」


 三次元にこんなの居たら宇宙人にしか見えない……とか最初は思ってたけど、実際ちゃんと存在してたらそうでもなかった。
 案外ちゃんとかわいく見える不思議。あれだよね。モブリってヌイグルミが動いてる感じなのかな? だから案外違和感無い。


「まぁ、あざといかはおいといて、この体の小ささにこの頭だから、なんて言うのかな? 揺れに弱いというか、足も短くてちっちゃいしね」
「ああ……なるほど」


 確かに言われてみれば、なかなか不便な感じだよね。だってモブリの足って体重をアレで支えられるのか? って位細く小さい。しかも頭は一番重いし、揺れに弱いってのはわかるかも。
 だからみんな一斉に転がってたのか。て、待てよ……


「それじゃあ下の奴らのボロボロ感は……ほぼ自業自得というか何というか……」
「恥ずかしながら、弁解の余地はないね」


 なんてこった。どんな激しい戦場を戦ってるんだ……と思ってたのに、ゴロゴロ転がった成果かよ! でも室内でそんな事………………………………あったな。よくよく思い出したら、中でも良く転がってたよアイツ等。


「そんな事より、リア・レーゼの僧兵達はどこに? 彼らの身を確保して、戻らないと」


 そうだった。あまりにも面白い光景だったからつい、気を取られてたけど早くリア・レーゼ側の飛空挺に脱出を。それにはこちら側の僧兵さんを見つけないと……というか、ここに居るはず何だけど。


「見あたらないな」


 無駄に広いから僕達は手分けする事に。前の方と後ろのほう。それと更に甲板から上がれる二階部分と、案外調べる所は多い。
 僕達はそれら全部を調べるしかない。甲板のどこかに居るはず……なんだよな?


「僕がトイレと言って離れるまではここに居たはずだ。その後の事は正直わからないが、移動させるとも思えないよ」


 確かにテッケンさんの言うとおりだな。サウニー卿はリア・レーゼの連中が中へ入るのも嫌がってた。それならこの範囲に必ず――ん? 


「どうしたんだいスオウ君? 僕はとりあえず後ろの方から調べようと思うんだけど……」
「待ってください。アレはなんですか?」


 僕は船の先端部分を指さす。だけどどうやらテッケンさんには見えないようだ。そう言えば僕の視力はこの世界ではかなり上昇してるんだっけ? 
 自分に見えるから他の人にも見えるだろうは通用しないのか。


「こっちです。あの船の突き出してるのの先端部分」


 僕達は急いでその近くに駆け寄るよ。するとはっきり見えてきた。間違いない……アレだ。


「まさか、先端部分に縛られてる?」
「ですね」


 ロープで仕切られた部分を跨いで僕達は更に近くに寄る。旗艦の一番先端部分から飛び出した棒みたいなのに括られた三人の僧兵さん。なんてこったな光景だ。
 これは遅かったって事だよな。僕は助けようと、その棒に進み出ようとする。だけど――


「――っつ……うわっ」
「ダメだスオウ君。揺れが激しすぎる。自殺行為だよ」


 確かに……こうも揺れちゃあんな先端までいけない。先端に行くほど、この棒も細く成ってるし……一体どうやってあんな所に縛り付けたんだ? モブリのバランス悪い等身じゃあんな場所まで行けないだろ。
 いや、そもそも三人を担いで――って所からして無理がある。


「何か方法はないんですか?」
「それは……」


 僕はテッケンさんの豊富な経験とスキルを宛にしてみるよ。だって僕のスキルは人助けには使えない。避けてぶつけて壊す。それが基本なんです。
 しかもそれ以外のスキル所持してないしね。だからテッケンさんの中に宿る豊富なスキルに頼るしか……何かこの状況からあの僧兵さん達を助ける術を。だけどその小さな体に幾つ物スキルを宿す彼も、芳しい返事は返してくれない。
 流石にそんな都合の良いスキルはないか。それならやっぱり直接行くしかない。この棒を綱渡り宜しく、進んでいくしか……下を見ると思わず唾を飲み込んでしまう。
 しかもここで僅かに降ってきた雨がイヤな効果を発揮してるな。なんだか滑りやすく成ってる気がする。


「ダメだ。危険すぎるよ」
「大丈夫……綱よりも全然太いし、案外やってみたら楽勝って事も……」


 自分で自分を奮い立たせる為に適当な事を口に出してみる。だってここで「やっぱそうですよね」なんて言えるかよ。絞り出した勇気が落っこちるよ。
 心臓が締め付けられるような緊張感……もういっそ、この棒を叩き斬ってその瞬間こちら側にぶっ飛ばす――という方法はどうだろうか? 
 いや……危なすぎるかな? 僕がそんな物騒な事を考えてると、再び障壁をこじ開けてるモンスター共の攻撃が中の僧兵を襲う。
 しかも今度は同時に三カ所位をこじ開けて三体程入ってきたぞ。だけどそれに僧兵達はすかさず攻撃をし出す。まずはこれ以上モンスター共が入ってこない様にして、それから進入してるモンスターを叩く。
 そんな感じだ。


「なんだ、やっぱりあのボロボロ感はただ転がってるだけじゃ無かった様ですね」


 一応激しい戦闘をしてる。まあHP減ってたし、よくよく考えると、転がるだけじゃHPは減らないよね。こうやって時々進入してくるモンスター共を相手にしてたのか。


「面目躍如だね」


 そう一言告げるテッケンさん。面目躍如なのかどうかはわかんないけど、最低限の体裁は保てたかもね。まあ入ってきたモンスターは取りあえず僧兵に任せて、僕達は僕達のやるべき事に集中するべきだろう。
 どうやって助ける……それが問題だ。すると今度はどこからか聞き覚えのある声が聞こえてきた。


【やっぱり現れたか。来ると思ってたよ】


 このしゃがれてる割には嫌みを残す声は――


「サウニー卿か。何の真似だよこれは? 彼等と僕達の問題は関係無いだろ。今直ぐに解放しろ」


 どこから声だしてるか知らないけど、向こうの声が聞こえるならこちらの声も聞こえるだろうと言うことで適当に喋ってみた。
 するとやっぱりちゃんと伝わってるみたいだ。


【関係ない? そんな訳はない。貴様等が我らとの取引を破ったのだ。ならその取引を破った代償は払って貰わねばならぬ。貴様やローレがそれを拒むのなら、彼らにそれを求めるしかあるまい。
 そいつ等にはそうする前にこう言ってある。『恨むなら、約束一つ守れぬ自分達の上の奴等と、怖じ気付いて逃げ出したチキン野郎を恨め』とな】


 誰がチキンだ。別に逃げ出したんじゃない、それが目的だっただけです。だけどそれを言うと、はなっから教える気無かった事になるよね。
 二つの街の亀裂を決定的な物にはしたくないし、まだ黙っといてやるよ。既にそんなの意味ないかもしれないけど、確実な証拠と確証が提示されない限り、ローレの奴はうやむやに出来るだろ。
 そういうの得意そうだしな。


「別に取引を破った訳じゃない……というか、前にも言ったけどな、自分の頭の上で勝手に決められた事に従う気なんか僕に無いってだけだ。
 それにお前達の態度が気に入らなかっただけ。お前も、そしてローレの野郎もな! だからお互い様なんだよ」
【そんな屁理屈が通ると思うなよ。さっきもローレの奴が同じ様な事を言ってたぞ。貴様が喋らないのは自分達の知った事じゃない。そこまで自分達は干渉してないとな。取引は貴様の引き渡しまでで、貴様から情報を得れる事を確実に保証した訳じゃない……などどふざけおってあの女!!】


 うおっ――いきなりデカい声出すなよな。だけど今のでどこから声がしてるのかわかった。テッケンさんが見つけてくれたよ。
 どうやら周りの樽みたいなのの一つにお札が貼ってあるみたいだ。そこから声が出てる。映像も向こうには見えてるのだろうか? いや、見えてるから僕達が来たのがわかったはずだよな。
 ただの薄っぺらいお札なのに、どうやって映像を撮ってるんだか……最先端技術もビックリだね。でもサウニー卿は怒ってるけどさ、それも取引前にローレは言ってたと思う。
 しかもそれに対してアンタは「上等だ、どんな情報も聞き出してやる」とか自信満々言ってなかったっけ? 言ってなかったかな? でもそんな風な事は言ってただろ。だから今こいつが切れてるのは逆ギレだろ。
 自分の無能っぷりを嘆けよな。しかもそれを僧兵さん達にぶつけるとは、許しがたい暴挙だ。
 するとテッケンさんが進み出てお札に向かってこう言うよ。


「まあ自分的にはどちらを擁護する事も出来ませんが、貴方がとった行動は軽率だと思います。今はリア・レーゼ、サン・ジェルク……それぞれで対立してる場合ではないですよ。
 リア・レーゼが墜ちて世界樹をモンスター側に取られてはあなた方も困る筈です。いいえ、世界樹がモンスター側に墜ちると、この世界がどうなるかわかった物では無いです。これは世界中の問題なんですよ。
 今は些細ないざこざを叩きあってる場合ではないんです」


 うんうん、その通り。もちょっと寛大になれよな。よし、その言葉をローレにも送ってやろう。実際こいつだけに言っても意味ないしな。


【ならまずはリア・レーゼ側の誠意のある態度を見せて貰おうか。奴等にその気がないのなら、我らが腰を引くする理由はない!】


 やっぱりそうなるよね。確かにどっちかだけじゃダメなんだ。これは双方が同じ思いでなきゃ成り立たない。だけど……元老院とローレだからなぁ。まず協力態勢とか無理だよ。
 どっちも自分達の利益から目が離せない連中だもん。表ではニコニコしてても腹の中はドロドロしてる……そんな連中です。


【リア・レーゼ――星羅などこの機会になくなれば良い。その後で我らサン・ジェルク――聖院が世界樹を取り戻せばいいのだ。無駄にこの戦闘に参加する意義など無い】
「既に参加してるだろ。この状況はなんだよ。おもいっきり戦闘してるぞ。参加する気が無いのなら、後退させれば良いだろ。元々僕を返す気なんか無かったんだから」


 それなら損害だってもっと少なく出来たはずだ。それなのにわざわざ戦闘してまでここに止まる理由はなんだよ。ああ、そっかまだ僕で良いのかがわかんないからだっけ? もしもローレの言葉が全て嘘の時は、クリエを取り戻す為に交渉をしないといけない。それまでは離れられないか。


【我らはいつだって最大の保険を用意するのが主義なのだ。そうやって元老院はこのシスカ教を今日まで守り抜いて来たのだからな。
 だからこそ新たな条件を奴等には提示してやった。そこの僧兵の命と引き替えに我らが求めるのは、クリューエルか貴様の有意性の証明だ。どちらを取るかはあの小生意気な女が決める。
 それと言っておこう、貴様が逃げ出そうとしても奴等は殺す。一番早く……そして確実に彼らを助ける方法を教えてやろうか?
 貴様が自分の口からその有意性を語れ。自分の存在価値を証明してみろ。我らへの必要性をな。そしたらそこのゴミは解放してやろう。まああの女を信じて待つのも良いかもしれんが、言っておくがあの女は部下の命さえも道具としか捉えてないぞ】


 それは知ってる。しかもプレイヤーじゃなく、NPCならなおの事だろう。ローレの奴が彼らを助けるかは正直微妙だな。わからない。
 だけど僕が自分の事を喋れば彼らは助かる――でも、こいつの言葉もあんまり信じれないような。本当に解放するのか?


【言っておくがそいつ等を縛ってるのは魔法だ。解除などたやすいぞ。そうなったらこの高さから落ちる事になる。確実に死ぬだろうな。
 貴様は我が身可愛さに、関係のないモブリを殺すのだ。そんな貴様が我らの何を否定する事が出来る?】


 僕は思わず歯を喰い締める。好き勝手言ってくれるなこの野郎。僕がおまえ達と同じだなんて心外だっての。良い奴とは思わないけど、良い奴であろうとはしてるぞ。


「僕は……」


 前を見据えると、縛られた僧兵さん達のグッタリ具合が目に入る。いつまでもあんな風にさせとくのも悪い気がするよ。ローレは実際宛にならないし、ここは僕が自分を犠牲にするしか……そうなったらリア・レーゼには戻れなくなるかも知れない。
 いや、やりようはきっとある……筈だろう。僕は言おうと思う。だけどその時、テッケンさんと目が合うと、首を横に振られたよ。


(えっと……どういう意味?)


 僕の考えを見透かしての事なのかな? それなら言うのは止めといた方が良いって意味? でもどうして。僕は必死に視線に「どう言うことですか?」を込める。
 伝わるかな? テッケンさんとはこのLRO内だけの関係だし、厳しいか。アギトや日鞠なら、視線だけで大抵の事は伝わるし、日鞠の奴は怖い位に見透かすんだけど……それは何年も一緒に居るから出来ることだ。
 流石にどれだけ濃厚な日々を送ってても一月も経ってない段階だと難しい。でもテッケンさんは雰囲気を読める人。だから何となくは伝わったらしい。
 テッケンさんは周りに視線をさまよわせる。それは周りを見ろと言うことか? 周り……今は戦闘中で、この空域は激しく唸ってる。
 戦闘中だから、言わない方が良いのか? でもだからこそ早く伝えて、解放させて、隙を見て逃げ出す……のが良いような。
 いつこの船も墜ちるかわかったものじゃない。そうなったらみんなで心中だよ。いや……まさか!? なんだかとんでもない事に僕は気づいたかも知れない。それは寧ろ、テッケンさんの考えじゃなく、ローレが考えそうな事……それをテッケンさんは考えて今はまだダメだと? やっぱり案外黒いかも知れないな。
 でも……それはかなりの賭けなんですけど。


【さあ、どうする? お前の言葉で彼らは助かるんだぞ? 我らを否定しても、しょせんはその程度か?】


 なんだか上機嫌だなサウニー教の奴。


「その程度か……お前こそ、随分余裕だけど、大丈夫なのかこの戦闘? 交渉やら取引やら、やってる場合か?」
【愚問だな。しっかり外を見るが良い。我らがバトルシップはたった三機で奴等を圧倒してるではないか!】


 確かに、成り損ねたドラゴンは圧倒してるな。でも確か聖獣が居たはず……その瞬間、上を横切ったバトルシップが盛大に爆発する。


【ぬな!?】


 爆発の中から現れるのは漆黒の翼と長刀。見上げる僕とそいつは目が合う。


「貴様は……貴様っがああああああああああああ!!」


 障壁を軽々と斬り裂いて甲板に激しく降り立つ聖獣。僕とテッケンさんはその勢いに吹き飛ばされて後方へ。顔を上げると、さっきまで僕たちが居た場所に、『奴』が威風堂々と立っている。


「なぜここに貴様が居るか……などはどうでも良い。ただ仇は取らせて貰おう。我らが同胞の仇を!!」


 振りおろされる長刀から放たれる黒い攻撃。それが僕へと迫りくる。コロコロと吹き飛ばされた樽が床を転がってた。

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