命改変プログラム

ファーストなサイコロ

お助けマン



「やあ、大丈夫かいスオウ君?」


 そんな言葉で声を掛けてくる、見た目僧兵なその人。周りには他の僧兵達が彼によって倒されてる。見た目は今、そこに倒れてるサン・ジェルクの僧兵と同じなのに、彼は彼らの仲間じゃない。
 しかも僕の名前まで知ってるし……気軽に呼んでくるこの声に僕は実際聞き覚えある。僕はこの閉じこめられた泡の中から、通路に佇む謎の僧兵に、こう声を掛ける。


「大丈夫……ですけど……その声……テッケンさん?」


 僕の言葉を聞いた彼は、ニヤリと笑い、自身が着てるその深い紺色の修行僧みたいな袴と三角帽を脱ぎ捨てる。派手にその場に舞う僧兵の衣装。
 それに目を奪われてると、前方からこんな声が聞こえてきた。


「その通り。僕だよスオウ君!」


 そこに居たのは紛れもなくテッケンさんだ。いつでも頼りになる、格好良い部類の珍しいモブリ。キリッとした瞳に、大きな自信をみなぎらせてる彼は、僕が最も信頼してるプレイヤーの一人だよ。
 なんてたってテッケンさんは最高! だからね。なんだか安心感って奴を感じれる。


「やっぱり。でもどうして?」


 僕が疑問を解決しようとそう訪ねると、テッケンさんは腰の短剣を抜きながらこう答えてくれる。


「ローレ様のご命令だよ。元から君一人に無茶を任せる気はなかったみたいだね。まああの人は君の為……とかじゃなく、確率を上げるためだと思うけど。でも僕は直ぐに了承したよ。
 心配だったからね。断る理由もないし」


 そう続けるテッケンさんの短剣には、スキルの光が宿り出す。


「少し離れててくれたまえ。この魔法をかき消す」
「は、はい!」


 僕は急いで後ろの方へ行くよ。そしてそれを確認したテッケンさんは淡く光るその短剣をこの泡に突き刺す。そして気合いを入れて叫ぶ。


「せい!!」


 気合いを入れて押し込む様に短剣を深く突き刺すと、その瞬間、勢いっていうか、何かの波みたいなのが僕まで届いた気がした。そしてその瞬間、大きかった泡は、無数の小さな泡へとなって床や空中で弾けて消えていく。


「おお、やった! 凄いですね。流石テッケンさん!」


 本当に頼りになる! 僕が尊敬の眼差しで見つめると、テッケンさんは謙遜してこういうよ。


「いやいや、そんな大した事じゃないよ。どんな魔法にも破り方ってのがあるんだよ。それを知ってれば誰でも出来る。凄くなんかないよ」
「そういう物なんですか?」
「そういうものだよ」


 あっさりとそう頷くテッケンさん。だけど流石にそれはどうだろう? そんな話聞いたことない……いや、僕が無知なだけかもしれないけど……それでもその破り方ってのを知ってるのは凄いことなんではなかろうか?
 まあ、ここではそんな突っ込む話をしてる場合でもないから深くは追求しないけどね。


「それよりも大丈夫かい? かなりその……ボロボロだよ?」
「あははは……結構無茶しましたからね。でも、テッケンさんが一緒に来てたのなら、この頑張りは無駄でしたね」


 なんでローレの野郎はこの事を隠しておいたんだ? 言えよ。僕の頑張り必要なかったじゃん。
 すると僕の言葉を聞いて、テッケンさんは申し訳なさそうにする。


「ごめんよスオウ君。ローレ様に言うなと口止めされててね。でも、君の頑張りが必要なかった訳じゃない。自分がやるしかないと思えば、どんな無茶だってして動き出す――そうローレ様が君の事を言ってたよ。
 スオウ君が成し遂げれば何も問題なかったんだけど、それは流石に期待しすぎ……じゃなく、そこまで背負わせるのはどうかと言う判断で僕が隠れて同行したんだよ。
 もしも成し遂げられない時の為と、救援とかの為にね。それに必ず一度は騒ぎを起こすだろうから、その時に僕にも動け――と、スオウ君の頑張りは全然無駄なんかじゃないよ」


 うう、テッケンさんは優しいね。なんか途中で言い直した部分があったけど、それはテッケンさんの言葉じゃなく、ローレのクソ野郎の言葉だろう。
 それをわざわざオブラートに包んでくれたって感じだった。全くあの性悪女は……全く……外見だけだなホント。くっそ……正体を知ってしまうとなんだか完全に憎めないぞ。外見がキラキラしてるのがいけないんだ。
 見た目に反して中身はドスグロいってわかってるのに!! 


「ありがとうございますテッケンさん。その言葉で少しは救われます。てか、じゃあやっぱり聖獣共を刺激するために森を攻撃したのはテッケンさんなんですね」
「ああ、その通り。まあそれもスオウ君が逃げ出してくれたおかげだね。甲板に居た僧兵達もみんな、君を捜しに言ったから自由に動くことが出来たんだ」
「それは……うん、よかったです」


 必要な事だった。そう言い聞かせる事が出来る。僕のこの手の痛みも救われるよ。


「流石ローレ様はどこまでもお見通しだね。まだ会ったばかりのスオウ君の事をよく理解してる。帰ったらお礼を言わないとね」
「それはイヤです」


 僕は断固拒否します。テッケンさんがちょっとローレの事を憧れてる眼差しな感じだけどごめんなさい。それだけは出来ません。


「ええ、なんでだい!?」


 驚愕の声をだすテッケンさん。まさか拒否されるとは思ってなかったらしい。


「何故なら、僕は基本アイツが嫌いだし、アイツの手のひらの上で踊ってたのにお礼って……どうしようなくムカつきます」


 まず、もうちょっとやりようがあったって思う! まあ元老院の船に潜り込むには、僕が一番都合言い言い訳を持ってたんだろうけど……それに無駄じゃなかったとしても、この手の痛みをローレにぶつけてやりたい。
 そもそも何に対してお礼を言う必要が? 僕には理解出来ないな。だってまず、そもそも僕がここに送られたのは無理矢理……というか強制だったし、しかも脅迫も入ってたし、それで無理難題を押しつけられてさ……頑張って頑張って、それで実は保険を用意しときました。
 当然でしょ? あんたじゃ無理っぽいんだもの――と言われてる気がしてならない。というか言われてるし。いや、保険を掛けとくのもわかるし、実際助かったよ。だけど……僕から感謝を示すのは何か違うと思う。色々と納得できない。


「ムカつくって……なんだかスオウ君らしくないよ。感謝はちゃんと示す筈だよ君なら」


 なんだかすがりつくみたいな視線だな。キリッとしてると言ったけど、こうなるとモブリの可愛さヤバい。ペットとして一家に一匹置いときたい可愛さだ。
 まあそんな失礼な考えは置いといて、とりあえず僕は乾いた笑いを出すよ。


「はははは、すみませんテッケンさん。僕はテッケンさんが思ってる程に出来た人間じゃないです。思春期真っ盛りの男子高校生なんで、下げたくない頭は下げない主義なんですよ。尖ってるんです」


 もう反抗期真っ盛り! ってな感じを出してみました。実を言うと反抗する親なんて居ないわけだけど。そもそも反抗期は中学で終わってるしね。
 親なんて呼びたくない親は居ないから、一番反抗したのは日鞠とだったな。まあアイツはアイツで引くことを知らないから、結局最後には僕が妥協させられて、反抗期も自然に消滅してた。
 でもここではその自然消滅した反抗期がぶり返して来たかもしれない。テッケンさんの言うことは大抵聞いてあげたいけど、ローレの奴に感謝する? 鼻で笑い飛ばしたいね。


「スオウ君……」


 うう、なんだか残念そうな目をさせてしまったな。テッケンさんには失望されたくないけど、こればっかりは無理なんです。本能がアイツに頭を下げたら終わりだと告げてるもん。
 絶対に調子に乗るよ。それが目に見えてるし。そう思って心を鬼にしてると、テッケンさんはウインドウから別のお札を取り出すよ。何それ?


「折角こうしてローレ様は君の為に色々と用意してくださってるのに……その思いを嫌いだからで投げ捨てるのはどうかと思うよ」
「どう言うことですか? てか、そのお札は……」


 僕の視線はお札を集中する。テッケンさんの言葉から察するに、そのお札は僕の為にローレが用意してた……って事? 信じられない。
 もしもそうだとしてもどうせ貸しになって後で高額な利子か脅迫してくるんだぜ。アイツの魂胆なんか見え見えだ。


「これにはセラ・シルフィングを始め、君の装備一式が納められてる」
「ええ!? そんな事が……」


 出来るの? てか僕に渡しとけよ……は無理なのか。怪しいものなんか持ち込める筈もなかったしな。でもお札なら体のどこかに隠すとかも出来たような気がする。
 まあそれでもリスクはあるか。もしもバレたらそこまでだし、変な企みがあると感づかれたかもしれない。テッケンさんに持たせてたのは一番安全な場所だからか。
 元がこの僕を助けた時に渡す手筈だったって事だろう。でもそれも僕たちが全てローレの目論見通りに動けばって事だったよな……まあ全てがその通りなんだけど。なに……アイツってもしかして凄いのか? なんかそんな気がしなくもないな。


「このお札は色々と万能なんだよ。それとローレ様は最初から凄い人だ」
「認めたくない」


 僕が速攻でそう返すと、テッケンさんは苦笑いをする。


「いや、これだけやってくれてるんだよ。スオウ君の事もちゃんと気遣ってくれてる証拠だよ」


 気遣ってる? 信じられない言葉です。普通ならそれでありがとう言えるんだけど、ローレの事を考えると素直になれない。


「人の好意に欺瞞を抱くのは頂けないよ。そんなんではこれは渡せないよ」
「ええ!? それは困ります!」


 だってここは敵地。しかもその結構奥だよ。流石に武器がないと辛いなって思ってたもん。それをお預けなんて殺生な!!


「それならちゃんとローレ様に感謝を示す事を約束するんだ。礼儀は大切だよ。自分が嫌いだから……相手が嫌ってるから……そんな考えはダメだ。
 相手が自分の事を嫌いでも、歩み寄らないと良い関係は築けないよ」


 うう、テッケンさんに説教されちゃったよ。まあ言いたい事はわかるよ。自分から心の壁を作っちゃダメなんだろ。そうしたら相手も入ってこれなくなるしね。
 どっちかが心を開かないといけないのなら、自分から……そんな風にテッケンさんはしてきたんだろう。この人立派だからね。
 僕だって大抵は波風立てない様に気を使ってる気ですけど、ローレの場合、嫌いとか苦手とかの領域じゃない気がする。
 アイツの場合、上か下かが重要そうだもん。そして僕はそんな枠組みに入れられるのはイヤなのです。ほら、もう相入れないよ。


「まあ、そこら辺は勿論自分でもわかってますよ……」
「それじゃあ納得してくれるね」


 テッケンさんも案外頑固だからな。ここで渋るとマジでお札を渡してくれないかもしれない。こんな敵地のど真ん中でいつまでも仲間と口論してても仕方ないし、ここは僕が妥協するしかないか。
 そもそも確かにローレの奴は間違った事をやってるわけじゃない。ただやり方が気に食わないだけだ。それなら、僕がただの頑固者の分からず屋みたいだしな。
 僕は真っ直ぐ見据えるテッケンさんに観念したように肩を竦ませて見せてこう言うよ。


「はいはい、ちゃんと感謝します。ローレ最高~~」


 僕はなんとかテンションを高めてそう言った。全く逆なら声高だかに叫べるのに……何だろうこの負けた感じ。ちょっとした屈辱を味わって気がする。
 でもこれで、テッケンさんも納得してくれたは――


「いけない……」
「ええ!? 一体何がいけないんですか?」


 いや、理由は思い当たる節いっぱいですけど……そう思ってると「しっ!」と声を征される。うん? なんだか様子が変だな。良く見たらこっち見てらっしゃらないし。
 テッケンさんの見てる方向は扉側。あの先にサウニー郷事、元老院の一人が居るんだよな。セラ・シルフィングとテッケンさんが居れば潰せるんではなかろうか……そんな考えをしてるのかも。


「ヤバい! スオウ君、急いで隠れるんだ!」
「え? えっ?」


 どうやら僕の考えとは全然違った警戒をしてたみたいだ。テッケンさんはそう言うと素早く屏風の裏へと身を隠す。僕もそれに続くよ。だって他に身を隠せそうな場所ここしかないしな。
 僕たちがいそいそと屏風の後ろに身を隠すと同時くらいに、大きめの扉が両側にスライドして開いた。そこから一人の僧兵……と言うか、見覚えのあるサウニー郷の護衛の一人が姿を現すよ。


「どうした? なにやら騒がしい――ぬ!?」


 何かに気付いた護衛。てか、寝てる僧兵そのままだよ。気付かない訳ないよ。テコテコと寝てる僧兵に近づく護衛。彼は僧兵を揺さぶって生死を確かめてる。


「おい、どうした? 大丈夫か? 何があったんだ?」


 そんな声がこの静かな通路に響く。だけど反応は返ってこない。あんなに揺さぶられたら起きるんじゃないかと思ったけど、どうやらかなり深く眠ってる様だ。


「てか……何したのテッケンさん?」


 一撃で奴らを昏睡状態に落としてたよね? 


「少しスキルの複合技をね。まあ必殺技とは言えないけど
、奥義とは言える位の事を試してみただけだよ」


 おお~~奥義なんて初めて聞いたよ。そういえばLROってスキルの組み合わせが色々とあるって最初に誰かから聞いたような気がする。
 その後、自分にはまだまだ全然関係ない話だなって思って忘れてたけど……そんな話が周りから再び出始めるとなると、僕の必殺技拾得も近いかも知れないな。これはそのフラグだよね?


「必殺技はいつどうやって生まれるかまだ良くわかってないんだよ。だからこれがフラグかどうかはちょっと……そもそもスオウ君のスキルはどれも必殺技っぽいよ」


 うん……まあ言われてみれば確かに。だけど僕の技は全てスキル単体なんだよね。複合なんてやったことない。いや……待てよ。
 よくよく考えたら今のイクシードには雷と風の属性がついてるけど……あれは複合なのか?


「イクシードは二つの効果を併せ持つ攻撃スタイルって感じだね。そう言うのは他にもあるよ」


 ちっ、別に特別って訳じゃないのか。


「いや、十分特別で凄い技だけどね」


 苦笑いを見せるテッケンさん。僕たちが屏風の裏でそんな話をコソコソやってると、他の護衛も異常を察知して通路に出て来だしてた。


「どうした? ――ってうわ!?」
「なんだこれ?」
「わからない。だが、どうやら誰かにやられたみたいだな」
「やられた……だと? ここは部外者が易々と立ち入れる空間じゃないぞ」


 なんだかざわざわしだしてるな。まあ目の前で仲間がやられてるんだ。穏やかでは居られないか。てか、奴らも言ってたけど、ここは確か特殊な場所な筈……僕はテッケンさんを見つめるよ。


「どうやってここに先回りしてたんですか?」


 疑問が残る所だよ。乗ったことがある? とか? 先の大戦……というか領土間抗争の時にあるのかな? その時からテッケンさんはLROに居た筈だ。古株らしいしね。


「簡単な話だよ。あの衣装を奪う際に、ちょっと質問をね。勿論簡単には教えてくれないから、少しだけスキルを使ったけど」


 あれ? なんだろう……なんだかテッケンさんも黒く見える。一体どんなスキルを使ったの? てかどんな使い方をしたのかが気になるな。拷問ですか? テッケンさんはそんな人じゃないと思ってたのに。


「違うよ。拷問なんて出来る筈がない。少しだけ情報を抜き取れるスキルをね」
「万能ですね」


 ホント、なんでも出来る人。てか、そんなスキルまであるんだ。それならテッケンさんがそのスキルを使って直接サウニー郷とか捕縛すれば早かったよね。
 いろんな問題に発展しそうだけど、今のゴチャゴチャした状況を利用すればいけそうだ。だけど僕の「万能」とか言うところは、照れながらも否定する。


「そんな、万能ではないよ。器用貧乏とでも言うのかな。自分には何か一点突出した部分がないと悩んでる所だよ。全てが中途半端……浅く広くという感じだよ。
 それじゃあ特徴がないと良く言われる。その魔法の扱いには定評のあるシルクちゃんや、他の誰も使いこなせない聖典を複数同時に操れるセラ君……それに鍛冶能力に鉱石操作の鍛冶屋君や、逃げるだけでもそれだけに価値を見いだしてるノウイ君。
 みんなそれぞれ自分だけの武器を持ってる。それに比べて僕は、何一つ突出したものはないんだよ」


 なんだか寂しげな事を言うテッケンさん。そんな物なのかな? 僕にはテッケンさんも凄いと思うけど。てか、テッケンさんが一番マトモだと思ってる。
 シルクちゃんもそうだけどね。後はちょっと性格に問題あるよね。それにテッケンさんにだって誰にも負けない物はあると思う。それをちゃんと伝えてあげよう。
 初心者からちょっと毛が生えた程度の僕の意見なんて意味ないかもだけど、テッケンさんには色々とお世話になってるし、励ましてあげたいもんな。


「テッケンさん。テッケンさんには何もないなんて誰もおもいませ――」
「――しっ、元老院だ」


 僕の渾身の言葉が遮られた。超ショック。何故にこのタイミングで姿を現すんだサウニーの癖に!! あの長帽子を脳天からクシャっと潰してやりたい。


「何事だ?」
「いえ、どうやら何者かにやられた様でして……って、サウニー卿はそこでお待ちを。どこに敵が潜んでるかわかりません!」
「ふん、逆にまだここに居るのなら好都合よ。その犯人を閉じこめる事が出来る。だが流石にここに入れる奴が、いつまでもここに居るとも考えられんな」


 ギクッとビクつく僕とテッケンさん。実はまだここに居たりして……


「いえ、それはどうでしょう? この侵入者の目的がサウニー卿なら、そう易々と立ち去ることはしないのでは? こいつらをここに残したままと言うのも……もしかして我らも通路側に誘い出す罠!」


 その護衛の一言で、他の護衛が急に警戒してサウニー卿の周りを囲む。おいおい、どこまで深読みしてるんだよ。確かにぶっ殺せる物ならそれも良いけど、ここで頭をとってもあんまりメリットがない。
 だって今は聖獣軍団と戦闘してくれてるんだしな。なるべく善戦してほしいから、ここで頭を取って命令系統を混乱させる訳にはいかないんだ。サン・ジェルクをアテにしないといけないってのがそもそも悔しいけど、しょうがない。
 聖獣軍団の驚異は僕達はよくわかってるからな。僕が緊張してると、テッケンさんが例のお札を差し出してくれる。


「良いんですか?」
「こんな状況だからね。『リリース』と言えば、中身が解放出来る。スオウ君の手元にあった方がいいだろう」


 僕はテッケンさんから、お札を受け取るよ。その際、テッケンさんは僕のボロボロの手を見てこう言った。


「その手もなんとかしたいけど、生憎回復薬は使いきってしまったんだよね。すまない」
「いえ、これは自分の無茶のせいなので。それにセラ・シルフィングがあれば百人力です」


 頼りになる相棒だからね。僕達の会話の向こうで、サウニー卿と護衛の話も進んでる。


「儂が目的か……それはどうだろうな? こいつらは例の人間を運んで来てたのではないのか?」
「そ……そう言えば、そんな報告ありましたね」


 むむ、サウニーの癖になかなか鋭い。そう思ってると、テッケンさんが「これは不味いかもしれない」とか言い出した。どういう事だ?


「ですが、人間の姿はないですよ。これは……」
「儂目的ではなく、これをやったのは奴の仲間と言うことだろう。ここで待ち伏せて襲った……それなら、今の状況を作り出したのもリア・レーゼ側の策略か」


 おいおい、かなり見透かされてるぞ。そう思ってると、サウニー卿はとんでもない事をあっさり言いやがった。


「そうだな……丁度良い。甲板に居るリア・レーゼ側の僧兵……奴らを殺せ」


 それは一体何が、丁度良いんだ!?

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