命改変プログラム

ファーストなサイコロ

僕が敵へ落ちる訳

 後ろ手に縛られて、口は魔法によって喋ることさえ封じられた状態。しかも周りには杖を掲げた星羅の僧兵が数人。僕に膝をつかせて、目指すはサン・ジェルクの艦隊だ。
 小さな飛空艇……いや、小型艇? で僕は運ばれてる。まあでも小型艇とも言えないかも。船ってよりも独立して飛べる台座みたいな感じだもん。リア・レーゼの船からそうやって運ばれてる僕は、これからサン・ジェルク側に引き渡される様だ。
 てか……目の前のサン・ジェルクの艦隊……半端無いな。何あの数。バカなんじゃないの? って感じだ。何十隻居るんだよ。
 少なく見積もっても二十隻は数えられる。しかもバトルシップ系の最新が三隻も居るし、本気度がやばい。それだけクリエを必死扱いて欲してるって事だろう。


(てか、大丈夫なんだろうな?)


 もしもバレたら、今直ぐ打ち落とされそうな雰囲気なんですけど。奴らの砲門がこっちを狙ってる気がするぞ。幸いこの僕達を乗せて動いてる台座みたいなのは、バリアみたいな膜を張ってて、外からは見えない様になってるらしいけど……実際ローレの奴がどんな交渉をして、今こうなってるのか僕は知らないからな。
 実際向こうはクリエを引き渡される物だと思ってるのか……それともそこは事前にローレが代わりを差し出す様に言ってるのか? 気になる所だ。
 もしも言ってなかったら、向こうで確認された瞬間に僕殺されそうじゃん。てか、この膜で隠してる時点で言ってないだろって思うんだよね。
 周りの僧兵の人たちも、気丈に背筋を伸ばして職務を全うしようとしてるけど……杖とかカタカタさっきからいってるよ。


「はぁ」


 僕は深いため息を一つ付く。どうしてこんな事になってしまってるのか……それはつい数十分前まで遡る事になる。




 《回想》


「にひひ、良いこと思いついたわ」
「おいおい、今僕の背中に悪寒が走ったんだけど……」
「良い勘してるわね。だけどこれならアンタの大切なクリエを差し出さなくても良いかも知れないわよ」


 浄心水が溢れる場所。眩しいくらいに周りが光ってるその場所で、ローレは得意気にそう言って僕に背中を向ける。スケスケでフリフリの服のお尻がプリプリ揺れてるのが、長い髪の間から気になる程度に見えてた。
 なんて絶妙なエロさを演出してやがるんだ。くっそ、なかなか会話に集中出来ない。そう思ってると、ローレは偽の所へと歩いて行った。そして何気に開いた手を掲げたと思ったら、この場にとっても軽快な音が響いたよ。
 具体的に言うと、「パンッ」ってな音だった。気持ち良い位に加減って奴を知らないローレは、その一撃で偽を軽く吹っ飛ばしてた。おいおいだよ。


「起きなさい」


 冷徹な声でそう言うローレ。少し床を転がってた偽は、何故痛いのかわからない頬を押さえて、その小さな体を起こし出す。


「はっ、右頬が腫れてる!? 一体どうして? まさか……」


 そう言って何故か僕に目を向ける偽。しかも僕の姿を見て更に怯え出す始末だ。


「ヒイ!? なんで上半身裸なんですか? 一体私に何をしたの!? あれ? あれれ? どうやって私ここまで……記憶が曖昧……まさか記憶がおかしくなるまで既に私は………………はふぅ」


 なんだか一杯呟いて最後には頭から煙を噴きだして再び倒れた偽。おいおい、一体何を想像してたんだ? どう考えても僕が加害者な想像してたよな。マジでやめて欲しい。
 自分の記憶が曖昧なのは当然だろ。だって自分から階段を転がり落ちたんだからな。僕にいっさいの責任は無いはずだ。


「アンタ、小さければ誰でも良いの?」


 白い目でなんて心外な事を言う奴だ。ローレの奴、完全に僕をロリコンだと思ってるよな。何回もいうけど、それは違う。
 僕は別に小さい子が好きな訳じゃない。可愛い子が好きなんだ。もっと言うと別に自分の好みなら年上でも年下でも構わないと思う。


「性別も構わないと……」
「そこは構うぞ! 誰もそこまで言ってないだろ!」


 なんでワナワナ震えながらとんでもない項目付け足そうとしてるんだよ。性別ってとっても大切だからな。別に同姓愛者を否定する気は無いけど、やっぱり女の子とイチャイチャしたい。
 男子高校生ならそれが普通だろ。そりゃあ男友達とつるむのは普通に楽しいけど、だからってそれ以上を考えたりはしない。


「ふう、まあ流石にそこまでだったら、私も手の付けようが無かったわ。そういうの守備外だから」


 守備外って言うか……ローレの場合、同じ位置に他人を見てないじゃん。好きとかの問題じゃないよな。てか、そこまで発展しないだろ。
 こいつの中では、他人は下僕か敵か……そのどちらかしかいなさそうだもん。少なくともここではね。


「てか、変な方向に話を持って行こうとするなよな。何か思いついたんだろ?」
「ああ、そうだったわね。だってアンタがあの子に乱暴して精神面にダメージ与えるから――」
「何もしてねぇよ!! アイツが勝手に階段を転がり落ちたんだ! 僕は親切に、その場に放っておかずにここまで連れてきただけ。
 感謝こそされれど、変な容疑かけられる事なんて全くない!」


 ほんと、冤罪も甚だしいよな。


「でもアンタ、あの子殺そうとしてなかった?」
「はぁ? 誰がそんな事するかよ」


 何言ってるのローレの奴は。僕を貶めたいからって遂に権力使ってねつ造か? わかってたけど最低だな。


「違うわよ。ねつ造じゃなくれっきとした事実。思い出しなさいよ。アンタあの子を水没させてたじゃない。誰が助けたと思ってるのよ?」
「そんなこと………………あったかも知れないな」


 思い出した。そう言えばここに着いて初めてローレを見たとき、思わず偽を腕から落としたんだっけ? でもあれは水没させたくてやってない。事故だし……いや寧ろ――


「お前が悪い」
「やっぱりアンタも大概頭のネジがいかれてるわね。このローレ様に罪を擦り付けようなんて普通しないわよ。てか出来ないし」


 僕が指さしてそう告げると、ローレはイヤーな顔して僕を睨む。よっぽど誰かに楯突かれるのがイヤなんだな。てかやっぱり権力チラツかせてるよな。


「アンタ私の物になるんだから少しは首を素直に縦に振りなさいよね。全くどこから教え込めば良いのか面倒な犬になりそう」
「誰が、お前の物になるんだよ? てか、そろそろこんな言い合いも疲れたし、だから核心を話せ。そのお前の偽者の事とか実際どうでも良い。
 誤解は困るけど、それはお前と言い合いしてもどうにもならないしな。後からちゃんと説明すれば良いことだ」


 ほんと、この慌ただしい状況で、下の方では不安に怯える民衆がきっとコイツを信じてる。それなのに、とうのローレと言ったら、不機嫌になって話をブッチギったと思ったら、一人優雅に行水してるんだから、民衆はそろそろ切れても良いと思う。
 どうにかして、騙されてる事実を知って貰いたいよな。


「説明ね。変態ロリコン紳士の言葉と、崇拝して止まない私の言葉。彼女はどちらを信じるかしら?」
「お前……」


 なんて鬼畜な奴。敵でも無いのに、こんなに倒したいと思える奴は初めてだ。そのどっしりと腰を下ろしてる椅子から蹴落としたい、そしてマッチ売りの少女みたいに死んでいけ――と思う。寒い日の夜。雪が降る街でボロボロの格好でマッチを売り続ける。
 そして翌朝、誰にも気づかれずに、雪に埋もれて死んでるんだ。そしたら少しは同情してやろう。通りすがりの一人みたく「可哀想に……」とだけ言ってやりたい。


「ふふふ、アンタは既に私の手から逃れる事は出来ないの。私興味のある物は取り合えず欲しいのよね。まあ持ち続けるかはその対象次第だけど。
 アンタはなかなか面白そうって評価してあげてるんだから、有り難く私の誘いを頂戴すれば良いのよ。そうしないと、この変態ロリコン紳士の証は手に入らないわよ」


 むむむ、そう言ってまたウインドウの動画を僕に見せやがる。どんどん条件付け足しやがって、その動画だけはさっさとやれよな。
 僕だってそれだけは諦めてないぞ。ローレの犬にはならないけどな。


「まっ、私のこの素晴らしい思いつき――じゃなくて、作戦を聞いたらアンタは直ぐに私の物になるわ。それだけ素晴らしい作戦だからね」


 なんだか自信たっぷりにそう言うローレ。そしてふんぞり返って再び偽に手を伸ばす。だけど今度はいきなり叩くんじゃなく、小さな偽を持ち上げて数発パンパンとその場で彼女の頬を叩くんだ。
 なんでアイツは、あんなにも容赦なく叩けるんだ? 仮にも自分を慕ってくれてる側の奴だろうに……まるでヌイグルミとかを叩くような感じで、躊躇いがない。


「ほら、起きなさい。仕事の時間よ」


 だけどなかなか偽はその瞳を開かない。既に頬がジンジンと赤くなってるように見えるのに、どれだけ鈍いんだアイツ? そう思ってると更に連続でローレは偽の頬を叩くよ。


「起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ起きろ、さっさと起きなさいよ!」


 最初はペシペシとやってたのがどんどん強くなって最後は再び力強い加減無しの一撃が出そうだった。だからだろう、僕は思わずローレの細腕を掴んだ。


「やめろ。幾らなんでもやりすぎだ。そんなに叩かなくったって起きる。てか、逆に叩きすぎて起きたのに、お前がまた意識をとばしてるんじゃないのか?」


 あり得るぞソレ。


「何よ、犬が主人に喜んで尻尾を振らないのが悪いのよ。それに、どうせこのくらいじゃ死なないわ。気にする程の事じゃないでしょ」


 その瞬間、なんだか異様に高まってた沸点が境界を越えた気がした。そしてこの空間にもう一発の乾いた音が響く。
 それは僕が、ローレの頬を打った音だ。


「なっ……」


 自分がされた事を理解できてない様なローレ。だけど直ぐに僕を殺す様な目つきで睨んできた。おー怖い怖い。


「今の行為は、私にハードなお仕置きをして欲しいって嘆願で良いのよね?」
「気にするほどの事でもないんじゃ無かったっけ?」


 僕は軽くそう言ってやるよ。だけど今度はローレは流してくれなかった。「下民が!!」そんな荒々しい言葉と共に、ローレの周りに幾何学模様の魔法陣が現れる。
 そして詠唱を始めるローレ。すると足下の魔法陣から大きな腕が這い出て来る!? これはまさか召還獣? やばいな。どうみてもローレの逆鱗って奴に触れたみたいだ。
 まあこの高飛車な女を打ったんだ、一応覚悟くらいはしてたけど……まさかいきなり召還獣とは思わなかった。でも実際、さっきのローレの言葉は本当に気に入らなかったんだ。実際、何も考えずに打った様なもんだったしな。


(どうする? この距離ならイクシードで先手を取れる。だけどそれをしたら、僕達の関係はここまでな気がするんだよな……)


 だけどこのままじゃ僕死んじゃうし、一体どうすれば?
そう思ってると、いきなり近くからこんな声が聞こえた。


「キャアアアアアアア、襲わないで! 打たないでええええええええええ!!」


 そして僕の顔面に彼女の魔法が速攻で炸裂した。両手に火の玉を作って対象にぶつける、魔法としては初期の部類の奴。だけど流石に至近距離でいきなりだとかなり効いた。
 僕はいきおいよく飛ばされるよ。そして後頭部を床に強打。なんで僕がこんな目に!!! と心で叫びながらジタバタしてました。


「うわ~ん怖かったですよおおお」


 そう言ってローレの胸にうずくまる偽。なんだろうこのムカつき。どう考えてもアイツ間違ってるよ。


「ローレ様……ああ! お美しい肌が赤く腫れてます! よもやあの変態、ローレ様にまで手を出したのでは? 許せません!!」


 おいおい、誰が拷問から助けたと思ってるわけ? すると何を思ったのか、ローレの奴、いきなり怒りを静めてこう言いやがった。


「お止めなさい。別に良いわよ。大切な貴方を守る為だもの。私の身がどうなろうと、貴方が無事ならそれで……許して差し上げましょう。
 男性の方はその有り余る欲望に忠実なだけです」
「そんな! もったいなきお言葉です! 私めなどよりも重要視されるべきはローレ様なのです! あんな輩にその柔肌を弄ばれたかと思うと……私……断腸の思いです!」


 そう言って何故か啜り泣く偽。おかしい……もの凄くおかしい。ローレが言い含める前から僕が悪者なんですけど……


「おい、あのな僕はお前を助けて――」
「来るな変態!!」


 ええー、またも速攻でローレに征された。そして満足気にニヤニヤしてやがる。ある意味機嫌は偽の崇拝振りで直ったみたいだけど、今度は僕が切れそうだよ。
 何、この理不尽な扱い。納得出来ない!


「ローレ様……お逃げください。私が、立派に貴方の代わりを努めて差し上げますので。あれはダメです。ローレ様の事を悪く言う仲間と繋がってるのです。
 リルフィン様ともぶつかってます! きっと野蛮なエルフの先兵なのです!」


 もの凄い想像を炸裂させてるな。使命を偽は果たそうとしてるんだろうけど……いかんせんその忠誠心が奴にはもったいない。だってそんな事を言われてる間、終始ニヤニヤしてるぞローレの奴。
 僕に「どうよどうよ?」的な視線を向けて来てるし、この崇めたてられてる感じがローレは堪らないらしい。なんか、幾ら声を上げても無駄と思えるな。
 先兵とか、全然そんな事あり得ないけど、偽の奴聞く耳持ちそうにない。全く誰があの危ない戦闘場面から連れ出したと思ってるんだ。少しは耳を傾けてくれたって良いのに……もしかしてそこら辺の記憶も飛んじゃってるのか?
 僕の唯一の偽にとっては見せ場だったシーンが彼女の中から消えてるんじゃ、無理もないのかも。しかもこの状況だしな。
 僕は上半身裸でローレを打ったんだ。端から見ると、変態かも知れない。しかもローレを崇めてる奴からすると、そんな行為信じられないだろうし、速攻で悪人判定されてもおかしくはないのかも。
 思いこみって怖いよね。


「野蛮なエルフの先兵ね。もしもそうだとしても気にすることはないわ。奴らは無闇にノーヴィスの地を荒らす事は出来ないもの。それにアレも、扱い辛いだけでもうすぐ私の物になるわ」


 そう言って僕を見てニヤニヤするローレ。何がもうすぐ自分の物になるだ……誰がなるか! 


「ダメですローレ様。あんな野蛮な奴を御身の傍に置くなど危険です。我達だけで良いじゃないですか」
「あらら? いつから貴方は私に意見しちゃう程になったのかしら? 影だからって私と同等じゃないわ。いつだって影は私の足下で、私がやることを真似してれば良いのよ。
 意見なんて影に求めてないわ」


 うわ、これは酷い。折角の忠誠心もこれで崩壊だ! そう僕は期待してました。横暴なローレの態度。業を煮やしてもおかしくない。
 だけど偽は、何故か瞳を甘くトロケさせて「はい」としか言わない。何でだよ! なんであんな事言われて、キラキラした視線を送れるんだ? マジで洗脳としか思えない。
 だって、ローレを崇拝出来る要素が僕にはわからないよ。一体さ、この街ではシスカとローレどっちに価値があるの? 普通に考えたらシスカだろうけど、ローレの事だからな、自分の街くらい既にすげ替えててもおかしくない。


「さて、目もちゃんと覚めたみたいだし、通信をお願いできる? 良いこと思いついちゃったのよ。このピンチを色々と挽回できるかも知れない奇策よ」
「喜んで! 流石ローレ様です!!」


 もういいや。なんか色々と口を挟むと、また話が変な方向に向かいそうだから、僕はこの悔しさを飲み込む事にしたよ。
 僕は一人ウインドウを出して、せっせと服を着ることに――と思ったら、ローレの奴が「気が利くじゃない」とか言ってその服もはぎ取られた。なにするんだ! 
 そんな抗議の声をだすと、「何事もいつも通りを見せないとダメなのよ」と言って、ウインドウと偽の間にその服を垂らすローレ。いつも通りってそう言う事?
 シルエットにしたいが為に、僕の服を奪ったのか。コホンコホンと喉の調子を確かめる様にしてる偽。だけどアイツって喋らないよな? そう見せかけてるだけであって実際喋ってるのは、ローレ本人だ。
 ウインドウの画面の向こうに現れたのは、下で会った僧兵の爺さんだった。


「ローレ様。民が不安がっておりまする。どうか貴方様のお言葉を掛けては貰えないでしょうか?」


 画面の向こうには不安気にうずくまってる小さな姿がいっぱい見えるな。アレがこの街の現状だ。それなのに、僕たちは何やってたんだか。
 なんか申し訳ないね。まあローレはそんな事ヒトカケラも思いはしないだろうけど。口には出しても、きっと心こもってない。それが今の僕にはわかる。


「そうね。近々大々的に言葉を贈るわ。私が与える希望の言葉をね。それと下に降りるから、メンバーを収集しときなさい。後、飛空挺を一隻、いつでも出立出来るようにね」
「飛空挺ですか? 一体何に?」
「それも後で教えてあげる。いい、今リア・レーゼは未曾有の危機に瀕してる。聖獣とこの期を狙ってのサン・ジェルクの同時侵攻。
 だが、私達は屈する事は出来ないわ。何故なら、権力の傀儡となった元老院が支配するサン・ジェルクの侵攻を許せば、この聖羅も犯されるでしょう。そして聖獣の侵攻を許してこの世界樹を取られれば、世界のバランスが大きく崩れる事になる。
 我らが信仰する母なる神の教えと大地を守る最後の砦こそが、このリア・レーゼであり、私達聖羅。引くことはしない!! いいわね」


 凄い……なんかローレがまともっぽい事言ってる!? ほんと、口達者な奴。自分の欲望がその裏にあることを感じさせい立派な言葉。
 ほんと言うことだけは感心出来るな。やっぱり世界を動かす奴ってのは、戦いに秀でた奴じゃなく、こんな風に口達者な奴なんだなって改めて思った。ヒトラーしかり、オバマしかりだよ。
 どっちも演説上手かったらしい。ローレもきっと加われるよ。だってローレの言葉を受けた老人僧兵はなんか感動の極みで泣いてるもん。そして自分の使命に燃えて通信を切った。


「痺れましたローレ様!!」
「まあ当然ね。この街も世界樹も守るわ。そして元老院は潰す。その為にもまずは……」


 その瞬間、止まってた詠唱が開始されて、鎧に身を包んだ大きな腕が再び蠢きだした。そしてその腕は僕を強引に鷲掴みにするんだ。


「なに!?」
「スオウ、私の役に立ちなさい」


 そう言った瞬間、僕を鷲掴みにしてる腕が僕をめいっぱい床に叩きつける。痛みと共に、ボヤケる視界の向こうで何かを詠唱し始めたローレが見えた。
 するとその直後、僕の意識は途切れたよ。




「スオウ! スオウ!! こんなのダメだよ。絶対にダメエエエエエ!!」


 そんなウルサい声と共に、僕は目覚める。そこはどうやら飛空挺の発着場らしき場所。


(ってあれ?)


 なんだか体が自由に動かないぞ。しかも変な所に寝かされてて、視界の向こう側にクリエやシルクちゃん達が見える。みんな不安そうな顔してるな。どうしたんだろうか一体?
 そう思ってると、発着場のドデカい画面に、布越しのローレの姿が映った。いや、アレは偽か……ああもう、ややこしいな。


「うるさいわね。これはアイツの願いなのよ。クリエを差し出すくらいなら自分がってね。それにただ差し出すだけじゃない、重要な任務をおってるの」


 何の事? と言うか、どういう状況?


「丁度良いわ。起きたみたい。これがアンタの望みよね?」
「ん……ああ?」
「ほら、この通り」


 え? 何が? 僕はまだクラクラしてるから、唸っただけ何だけど。


「そうですか……スオウ君、がんばってください」
「まあせいぜい死ぬな。死ななければいい」
「ふん、また一人でなんであんたは……せいぜい自分の身を危険に晒しときなさい!」
「スオウ君、セラ様の事は自分に任せるっす!」


 みんな思い思いの言葉で見送ってくれてる。なんだか、みんなの言葉が妙に重たいな。最後の一人は別として……だから状況わかってないんですけど。てか一人足りなくない?
 そう思ってると、飛空挺が動き出す。そして僕が乗ってる台座みたいなのはその動き出した飛空挺へと上がってく。そんな僕を見上げて最後にクリエがこう言うよ。


「スオウ! 絶対絶対死なないでね。戻ってきてね! 一緒にシャナちゃん助けるんだからね!」


 僕はとりあえず、頷いた。だって涙顔したクリエを安心させるにはそれしかなかったんだ。僕が一番不安なのに……どういう事だよ。
 とりあえずこの拘束は解いてもらいたい。


「ふがー」


 ??? 「あのー」と言おうとしたのに、言葉がでない。なんだこれ? そう思ってると、目の前のシャボンみたいな膜の中に小型のウインドウが現れた。そこには例によってローレの姿がある。今回は本人が出演だ。


「どうだった? 私の粋な計らいの別れは? 悔いはないわね」
「ふがーふがーふあがー」


 訳としては、「ふざけんなーこの野郎ー死ねー」だ。だけど理解できないローレは淡々と話だけを進めるよ。


「まずは状況説明から行きましょうか。アンタはこれからクリエの代わりにサン・ジェルクに引き渡されるわ」
「ふんが!?」


 訳は「なんだって!?」だ。


「丁度良いじゃない、奴らが欲しがってるのは神の力を両方宿した存在な訳でしょ? それなら今の該当者はアンタよ。条件クリア。文句言われる筋合いないわね。
 だからアンタを引き渡すの。だけど本題はここから。丁度良いから元老院の目的探りなさい。それはあんた達にだって重要でしょ?
 そして期を見計らって森に攻撃しなさい。そしたら聖獣共もそっちを向くわ。強制的に巻き込ませてやるのよ。そして双方が弱ったら、私達が叩く。一石二鳥でしょ? リア・レーゼの損害も少なくて済むし、万々歳ね。
 まあ問題は、いつ聖獣どもが動くかわからないって事と、この作戦はアンタへの依存度が高い事ね。だけど、聖獣共の多さにはリア・レーゼだけじゃ太刀打ち出来ない。かといって、サン・ジェルクに頭を下げることはしたらダメなの。
 それは弱みになるわ。理想はこちら側に不利がない状態でこの戦局を乗り切ること。それが出来たら、今度こそこれ……アンタにあげるわ」


 そう言って再び見せてきたのはあの弱みの動画。そう言えばまだ貰ってなかったな。だけど今の話聞く限り、そんな物なくてもやるしかないじゃないか。
 これは僕にしか出来なさそうだしな……


「わかったら、一つ頷きなさい」


 僕は覚悟を決めて頷いた。


「よし、じゃあ私の物になるって了承するならもう一度頷きなさい」


 僕はもう一度うなずき――ってあぶな!? なに同じテンションで自分の欲望叶えようとしてるのこいつ? びっくりだよ。危うく頷き掛けたじゃないか! 僕は必死に首を横に振る。


「まあ良いわ。この作戦が終わる頃には私に跪くだろうから。健闘を……というか、絶対に成功させなさい。でないと許さないから」


 最後脅迫して切りやがった。ほんとなんて身勝手な奴。目の前に見えてくるサン・ジェルク艦隊。そして飛空挺から独立して僕の座る台座は動き出す――――今ここです。回想終了!!

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