命改変プログラム
一輪が咲く
小さな女の子に落とされた欠けた僕。しかも認めたくないけど、認めざる得ない事実に頭はいっぱいいっぱい。白目向き欠けて意識がふっと無くなる瞬間――だけどその時、解放された。
「げはっ……がはっ……」
僕は空気を求めて荒い呼吸を繰り返す。
「全く幸運な奴ね。このローレ様の真の姿を拝めるなんて。折角だから私の犬にしてあげるわ。光栄に思いなさい」
何言ってるんだコイツ? 僕は締められた首をさすりながらそんな事を思う。何とか呼吸を整えて――――――言ってやるぞオラアアアア!!
「ふざけるなよ! 誰がお前の犬なんか……に――」
言葉が途中で尻すぼみになった僕。だって僕の視界には不味いものが……非常に不味い物が映ってるんだ。具体的に言うと小学四・五年生の女の子の素っ裸な姿が諸に。僕はローレに文句を言うために向けた体にストップを欠けずにそのまま一周。元の態勢に戻って、新たな問題に文句を言うよ。
「――なんで何も羽織ってないんだよ!! 変態かお前!?」
そんな僕の純真無垢な言葉をローレの奴はまるで汚らしい、変態の言葉として受け取ったらしい。
「変態はアンタでしょ? 何こんな子供の裸でそこまで狼狽えてるのよ。本気でキモいわよ。てか、良くこんな子供に興奮出来るわね?
胸だって成長始まった位だし、ウエストもお尻もキュっともボンともしてないわよ」
チラリと指の隙間から見ると、ローレの奴は自身の体をひねって見たりしてる。お腹あたりをさすったり……子供のお腹は太った人とは違う柔らかさを感じるね。
「良いから、何か着ろよ! 別にスタイルが良いって事だけを男が求めてるとか思うなよ。てか、スタイルとかの前に重要なのは異性なのかとかだし……後容姿とか……それで行くとお前は危険なんだよ。
僕だから襲ったりしないけど、男の前で平気で裸で居るなよな!! てか、普通そっちが恥ずかしがるものだろ!!」
女の子にはそんな恥じらいが大切なんだ。僕的にはね。だけどローレの奴は全然全く気にしてない様子だ。上はおろか下さえも全く隠そうとはしやがらない。もう見せたいとしか思えないよね。
そんなローレは腰に手を当てて重心を片側に傾けた格好をとる。それに併せて揺れる金の髪。白い肌に映えるその色はもうなんか眩しい。
「恥ずかしいとかそんなの私には無いわね。だって自分の本当の裸じゃないし、幾らでも別に見てもらって構わないわよ。寧ろこの世界で裸を見られて恥ずかしがる気持ちが分からないわね」
流石ローレ。無駄な所がデッカいぜ。バカにされたり、下に見られたら直ぐにカッカする癖に、裸は良いのかよ。バカにされたり下に見下されるのは人間性の部分だからって事かな?
そこは容姿で誤魔化してる訳じゃないから、自分自身に言われてる様でムカつくと。それに比べてローレとしての姿はこの世界で生きるための仮初めの体。
裸見られようが容姿で何言われようが別に自分自身を否定されてる訳じゃないから良いって事かな? まあこっちは困るけど……
「いやいや、女の子だろ」
「寧ろこの年の子はまだギリギリお父さんとお風呂一緒に入ったりするんじゃないの? その可能性だってあるくらいの年齢よ。
そんな体に興奮を覚える方が異常なのよ。だから前かがみになってるスオウは幾ら口で否定したって、体がロリコンだと言ってるわよ」
「誰が前かがみだ! これはただしゃがんでるだけだっての。変な捉え方するなよな!」
全く心外だよ。僕だってそんないきなりテント張らせたりしないっての。だって子供の裸だぜ? ないない……
「じゃあ立ってみなさいよ。起立!」
僕は下を向いて元の態勢を維持したまま動かない。体が動いちゃダメだって言ってる。
「ほら、何やってるのよ? さっさと立つ。それとも立てない理由でもあるのかしら?」
「うう……なんか貧血気味でクラクラする!!」
「めっちゃ元気に何言ってるのよ……」
うるさい奴だな。貧血って言ったら貧血なんだ。てか、マジで何か羽織れ。僕のナニが爆発しちゃうよ。必死に目を瞑っても瞼の裏にさっき見たローレの裸が焼き付いて、しかも想像がスパークするから実際目を開けてるよりも危険だ。
だけど目を開けると、ついついそっち方向に視線が流れるんだよね。男の性がそうさせるんだ。どうしようもない。
「まあいいわ。どっち道スオウがロリ変態なのは紛れもない真実。それはこれが証明してるわ」
そういってローレの奴はウインドウの映像を再び見せやがる。もうやめろよ。拷問だよ。僕がお願いしてローレを襲おうとしてる映像なんて卑怯すぎる。
そもそも誘ってたのはローレだし。
「誘ってたのが私だとしても、それを受けた時点であんたはロリコン。この事実は変わらないわね。普通はあんなの子供のイタズラで済ませるものよ。それをガチのロリコンは本気で受け取るんだから、困った物ね」
あれを子供のイタズラで済ませと? あんなあざとい子供いねーよ! あんな男を惑わせる事にその年の子が長けてたとすると異常だろ。教育を疑うレベル。
「だけど重要なのは過程じゃなく結果なのよ。私がどれだけ可愛く、そしてエロティックに攻めたとしても最後を決める権利はアンタにあったはずでしょ。
つまりは自分自身でアンタはこの私を受け入れたの。ロリコンじゃない。疑いようもなく」
「うう……でもあれは……」
幾ら小学生くらいだからって、あんな事されたら誰だって落ちると思う。だってローレ容姿ズルいしな。まあLROは誰もが理想とかを追い求めてる訳だから、美男・美女が多いわけだけどさ。
そんな中、僕みたいなリアルまんまの顔とかまじ拷問だよね。モブリとか居るからまだ良いけど、人間しかいない世界だったら、LROじゃ自殺したくなったかもしれないよ。
別に自分の顔がそこまでヒドいとは思っちゃ無いけど、LROのプレイヤーの顔は整い過ぎてるんだもん。そりゃあ劣等感覚えるよ。
しかもリアルではなかなか出会えないクラスの美女揃いばかりだから、子供だからってそのレベル半端ないもん。僕を責める事の出来る人なんてきっといないと思う。
「まあ私が可愛すぎるのがいけないのもわかるわよ。ローレ様最高と叫びなさい」
どういう要求だよ。
「そしたらこの映像をどうにかしてあげる」
「どうにか?」
そこは具体的にお願いしたい。モヤモヤとした表現するなよ。
「コピーしたのをアンタにあげても良いわよ」
「意味ないよな? オリジナル渡せよ!!」
コピーだけもらったってなんの解決にもなりはしない!! 寧ろコピーもいらないからそのデータ事消せ。
「そんなにいらない? この映像はアングルをいろいろ変えられるわよ? そしたら私の裸がいろんな角度から見れるのにもったいない。永久保存版なのに……」
「ローレ様最高ーーーーーーーーー!!」
はっ!? 僕は一体何を叫んだんだ? 話を聞いて想像してたら頭が真っ白になっていって気づいたら口が勝手に……どうしたんだ僕は? 何か催眠的な術でもかけられたのか?
「アンタのロリコン紳士ぶりには私も驚きを隠せないわ……」
自分から言わせといて何引いてるんだよローレの奴。失礼な奴だ。寧ろ僕はお前の洗脳って事にしたい。さっきの言葉をね。
自分の自己満足を満たすために、僕を社会から蹴落とそうとしてるんだろ。寧ろそうだと言ってほしい。
「良いからそれ渡せよ。ちゃんと言ってやっただろ」
僕は視線は変えずに自分のウインドウを表示させるよ。そしてそれをアイテム交換に設定。そのウインドをそのままローレに向ける。後はここにローレがコピーしたデータを入れてくれればあの映像が僕の物に。
「アンタ今まで必死に否定してきた事を全て無駄にしてるわよ。それでも良いの?」
ふっ、そんな今更な事なんて聞かないで欲しい。僕は力強く言ってやるよ。
「良いに決まってるじゃないか! だけどこれからもロリコンは否定するけどな。だけど……ローレのその姿だけは好きだからやれ」
ここで手放すのは惜しいじゃないか。それに一人は法律的にも良いんだって。悪魔が言ってた。
「なんだか変態にそんな事言われても微妙ね……好きとかこの外見だけがって事でしょ? それも相まって私自身に言われてる気がしないわ」
あれ? なんかローレの奴、ちょっとクネクネしてね? 丸い腰あたりがプリプリ揺れてる。くっ、可愛いからやめろよな。でもなにか勘違いする前にちゃんと釘は打っとくか。
「当然だろ。お前が好きなんじゃない、お前のその見た目が好きなだけだ。しかもロリって訳じゃなくて美少女って所が……勘違いするなよ、お前自身は僕にとって何の価値もない」
「そこまで言うか!!」
怒られた。なんだよ全く。本音を言ったら不満を漏らすなんてほんと傲慢だな。誰かコイツの性格直してやれよ。
「普通言うわよ。てか、アンタも私の事言えないと思うけどね。相当おかしいわよ。まあ、命の危険があるのにまだLROに居続けてるって時点でアンタの性格のおかしさは相当な物だと推測出来るけどね。
リアルには友達が居ないんでしょ?」
何勝手な想像で僕を哀れな奴みたいに言ってんの? 友達位いるっての。
「僕は友達に誘われてここに来たんだよ。残念だったな。お前こそ友達とかいないだろ。人の事より、自分の事心配した方がいいぞ」
「ふん、余計なお世話ね。そもそも私は友達なんていらないもん」
否定しないんだ。やっぱ友達居ないんだな。まあ、コイツの性格じゃ出来そうにないもんね。
「くしゅん!」
「おいおい、そろそろ服着ろよ。本当に目のやり場に困るし……」
いつまで全裸で居る気だよ。少しは男を意識しろよな。
「服着て良いの? 折角サービスしてあげてたのに。結局襲わないのね」
「誰が襲うか!」
人事の様に言ってるけど、自分事だからな。襲われて良いのかよ。
「良いわよ。別に本当の自分の体じゃないし、それに本当にイヤなら、最後まで出来なく出来るでしょ。まあ最後までやるのは裏技だけど……それに勿論、誰でも良いって訳じゃない。
アンタならそうね、良いかなって思っただけ」
そう言ってローレの奴は僕の後ろから耳に向かって息を吹きかけて来る。ぞわわ~ってした。
「ど、どうせまた弱みを握る為にそんな事言ってんだろ。お前が体を預けるとか考えられない。好き勝手にいじくり回されるのとか嫌いそうだし」
「ふふ、いじくり回したいんだ……この体。流石変態ロリコン。まあ確かに好き勝手にされるのはイヤかもね。でもわかんないな。私まだ処女だし」
何とんでも無いことカミングアウトしてんの? しかも軽いんだよ。普通に聞き逃しそうだったじゃないか。
「お前処女って……」
「意外? まあ勿論この見た目な年じゃないけど、リアルで生きてる男なんかに魅力なんか感じないわね。私は私が勝てないって認めた奴しか、自分の本当の体を預けたいなんて思わない」
流石高飛車。実際リアルのローレがどんだけかなんか知らないけど、相当優秀なのかな? まあここまで言うのならそうなんだろう。
「お前が勝てないって認める相手なんか居るのかよ? そもそもその時点で、悔しくて相手のこと嫌いになりそうだよな。ローレの場合」
上に誰かが居ることなんか許さないだろ。だから無理じゃ無かろうか。寧ろローレには人畜無害な無能くらいが丁度良い様な気がする。
「無能なんて論外ね。そんなの生きてる価値無いじゃない。それにそんな無能の為に割く時間なんて私の人生には一分一秒たりとも無いわ。
そもそもそんな奴らは恋や恋愛にうつつを抜かす前に、自分の存在価値を上げなさいよって思うわ。まあ奴隷にならしてやってもいいわ。勿論餌は与えないけど」
やっばいなコイツ。Sの女王様だね。他人に恐ろしく厳しい。無能は自分の奴隷以外は生きてる価値がないらしいよ。全くどこの独裁者だ。
「まあ無能なんて口にするだけ無駄だから、その勝てないって方の話しましょうか? 確かに私はきっとソイツの事殺したくなる程嫌いになると思うわ。自分を見下す存在って腹立つじゃない。
教師ってだけで私の上に立とうとする奴とか、上司ってだけで上に立とうとする奴とか、あと一番最悪なのは歳を振りかざして来る奴。あいつらって無条件で私を見下すからいつも死ねって思うわ」
きっと最後のは自分がやってそうだなって僕は思った。寧ろ自分より年上を殺せば自分が頂点に立てるとか思ってそう。そして自分より下には強制的に見上げさせるんだろ。
それはお前の嫌いな奴らと同じだぞ。まぁ今更そんな事指摘しても意味ないから、大人しく聞いといてやるけどね。てか、さっきから背中をなでられたり、指でグリグリされたりパンパン叩かれたり微妙にされてるの地味に効いてるんですけど。
なんかちょっとドキドキしちゃう。少し視線を向ければ。女の子座りしてるのかローレの白い膝小僧とか見えてるのが……なんかもう危ない。くっそローレなのに。
見た目だけ……見た目だけ……そう唱え続けてないと、実際ヤバいよ。
「まあ私見下されるのはイヤだし、ソイツは嫌いになること確定してる。だけど絶対に自分が勝てないって認めたらわかんないわ。
だってそんな経験無いもの。そもそも私がそう認めたらきっと惚れてるんだろうなって思うの。どう思うソレ?」
そう言って片側の肩に両手を置いて身を乗り出す様に体と顔を近づけてくるローレ。ほんとコイツは自分が素っ裸なのを意識しろ。マジで襲っちゃうぞ。
横に出てきた顔を見ると、長い金髪がきらきらしてて、幼い顔がなんか異様に綺麗に見える。もしかしたらちょっと無邪気な顔……だったのかも。どう思う? とか考えたら僕の意見を聞こうとして思わず身を乗り出したって感じだもんな。
実はこういう話を誰かとしたかったとか。だけどどう思うと聞かれてもな……
「さあ、でもきっとお前に惚れられる奴は不幸なんだと想うよ」
「ああ~~~確かに――――って、何よそれ。私に惚れられるなんて一族総出で喜ぶ所でしょ。私を崇拝する所でしょ?」
お前は恋愛や結婚を何と勘違いしてるの? 僕だってそこら辺は経験無いけど、新興宗教じゃない事は知ってるぞ。どこまで行っても崇められたいんだな。
「一族総出……いや、孫の代まで呪われた事と動議だろ」
「アンタ、私を妖怪か何かと勘違いしてるんじゃないの? バラマくわよ」
そう言ってウインドウを顔に押しつけてきやがる。つっ……そう言えば弱みを握られてたな。
「そもそも僕はお前のリアルの姿なんか知らないし、なんとも言いようがない。まあその姿なら、性格に目を瞑る奴も出てきそうだけど……リアルじゃおばさんだろ?」
「失礼ね。私はバリバリのお姉さんよ。おばさんなんて歳じゃないわ」
ふ~ん、だけどここじゃ何とでも言えるよな。でもなんか、今の会話って不毛な様な……
「まっ、確かにアンタとこんな話したって意味ないわね。それよりどうなのよ? 心は決まった?」
「何がだよ?」
突然何言い出すんだ? 何を決めるんだっけ? ロリコンを認める事とか? 僕が色々と考えてると、ローレの奴は体の一番柔らかそうな部分を僕の肩に押しつけて来て、更に耳元でこう言った。
「勿論、私の物になるかどうかのよ」
「どういう意味だよソレ」
「だってアンタ今はアルテミナス側でしょ? アイリとか言う女側でしょ? そんな所よりもこの機会にリア・レーゼ、引いてはノーヴィス側につかないかって事よ」
何を言い出すんだこいつ? しかもノーヴィス全体はローレの物じゃないだろ。
「大丈夫、どうせ私の物になるわ。とりあえず元老院をぶっ潰して、教皇に権力を戻して、そこで私が頂戴って言えば、現教皇は私に全部くれるわ」
そう言えば、思い出したけど確か教皇さんはコイツに惚れ……「はあぁ」僕は思わず深いため息をついたよ。全ては計画か……
「お前さ、教皇にワザと惚れさせただろ?」
「チョロかったわね」
コイツマジであざとい。向こうは純粋に想ってるのに、その恋心をコイツは利用する為だけに芽生えさせたんだ!! 極悪人だよ。コイツを裁く法律が無くても、どうか天罰があたってくださいと願うよ。
てかさ、今考えると僕たちはこんな奴を頼ってサン・ジェルクから飛び出したんだよね。恐ろしすぎる。この性格を知ってたら、きっとリア・レーゼには来ようとはしなかった。少なくとももっと躊躇ったのは確実だと思う。
「で、どうなのよ? 当然私の物になるわよね?」
「その当然が訳わからん。誰が好き好んでお前みたいな悪女の物になりたがるんだ?」
いや、マジで。よくここまでその本質を出して、当然なんて言えるよな? どんな人生過ごしてきたんだよ。
「だって、私がここまで本音で誰かと話したのなんて初めてよ。貴重だから嬉しいでしょ? 光栄と思いなさい。そもそもアンタに拒否権なんて無いしね」
そう言って脅迫材料を見せつけてくるローレ。ホントミスったなそれだけは。コイツ僕の人生終わらせる気だよ。しかも僕はお前等と違ってこの姿のまんまだしね。リアルに戻れば関係無い……とかいかない。
でもコイツの下につくとか、どんな罰ゲームよりもイヤだ。なんか人としての尊厳が失われそう。
「別にそんなに悪い環境じゃないと思うけど? アンタだってリア・レーゼの人やこの星羅に属する人達を多少なりとも見たはずでしょ? 思い出して見なさい。みんなどんな顔してた?
嬉しそうに私のこと崇めてたでしょ」
おいおい、なんて良い笑顔で飛んでもないこと言ってるのこの子。今日最高に輝かしい笑顔放ってるよ。それだけ自慢なのはわかる。わかるけど……それを自分で言うなよ。
途中までは「そう言えば案外誰もが良い顔してたな」って位に思えてたのに、最後のローレの言葉で「あっ、洗脳か」って思った。
イヤだ、イヤだ。洗脳なんてされてたまるか。でも拒否権が皆無に等しいしな……どうすれば……まあ取りあえず。
「そんな事よりもデータやれよ。くれるって言っただろ。まだ貰ってない」
「流石変態。流してたのに見逃さないわね。だけど残念。私の物になるならあげるわ」
コイツ条件に上書きしやがった。くっそ、主導権を完全に握られてるよ。
「僕は……お前が本当にローレか確認したい」
苦し紛れに今更な事言ってみた。
「今更何言ってるのよ? 私は私以外いないわよ」
「いやいや、よく考えたら証拠ないし。だって替え玉1は実際いただろ? ならもっと精巧な替え玉2だとしてもよく考えたらあり得なくもないかな~て。
だから証拠見せてみろよ。自分がローレだっていう紛れもない物を! でないと、なんとも言えない。そもそもローレはモブリの筈だし」
そうそうモブリモブリ。確かにこの子はローレだと思う。だけど根本的にその問題ってのがあるじゃん。もしかしたら本当に替え玉2――偽二号なのかもしれない。一号があんまりポンコツだったのも、コイツを本物と見せかける為なのかも。苦しいか?
だけど僕に体を寄せてるローレはちょっと笑って「そうね」って言ったよ。
「確かに私がローレじゃないかも……そう思うのは当然ね。なら知らせてあげるわ。私がローレで偉大なるこのリア・レーゼ、そして星羅の支配者であることを」
「……どうやって?」
僕がそう言うと、ローレは僕の耳の穴に指をつっこんで来る。何するんだ。ドキドキするだろ。
「聞こえるでしょ? 私の城をボロボロにしてるバカの音。今すぐ消してあげるわ。あのムカつく女も相手がいなくなれば止まるでしょ?」
相手がいなくなる? 僕は疑問符を浮かべるよ。すると穴をほじくり回す動きが早くなる。はにゃにゃ……
「リルフィンは私の言うことしか聞かないわ。逆に言うと、私の言うことならなんでも聞くのよ。それが証拠。興奮してる一匹の犬を飼い主の声で止めてあげるわ」
「だけど……興奮してる犬に飼い主の声が届くのか?」
「それが出来るのが私なの」
そう言ってローレは僕の耳の奥から指を出して今度は耳の内側の表面部分をなぞりやがる。もうマジでやめて欲しい。耳なんて他人に触れられないから、触られてるだけでなんかおかしいのに、こんな色々とされたらおかしくなりそう。
しかも真っ裸の女子に弄くり回されてると思うと、ホント危ない。僕が必死に理性を保ってると、一瞬ローレ自体が光ったような……髪の毛がフワリと浮いた? 気がした。そして耳元でこう言われたよ。
「ほら、止まったでしょ?」
「え? ――確かに聞こえなくなった……かな?」
遠くで聞こえてた激しい音は確かにしない。でもこれってローレの仕業だって判断しづらくない? 現場見えないし。
僕とローレはそれから一分位、耳を澄ましてみた。うん、確かに静かになったな。
「ほらね。私がリルフィンを回収したからね」
「回収? 止めたんじゃないのか?」
それに回収ってなんかおかしいだろ。一歩も動かずにどうやって回収するんだよ?
「忘れたの? 私は魔法使いなのよ。それもそこら辺の雑魚とは違う召還士。出来ることの幅が違うのよ」
そんな物なのか?
「さて、じゃあ証明もされた事だし、私の物になるわよね?」
「物になるって、そっち側に付くとかじゃなかったっけ?」
扱いヒドくなってるぞ。
「こっちにつくって事は私の物になる事と同義なの。良いじゃない、こんな可愛い子と一緒に入れるのよ。それに後少しの命なら、彼氏持ちのおばさん側より、純真無垢な少女の側が良いでしょ?」
彼氏持ちのおばさんって……まさかアイリの事か? セラが聞いたら切れるだろうな。それに純真無垢って……ボケだよね。更に後少しの命って……決めつけるなよ。
「僕は後少しを止めるためにここまできてんだよ。諦めてなんてなんかない!」
「ふ~ん、諦めてない――ね!」
その瞬間、後ろから押し倒された。そして背中から僕の服を強引に引っ張り出すローレ。何するのこの子!? しかも僕が起きあがらない様に踏んづけてるし! それなら脱がせられないだろうって思うけど、どうやら右側だけをはだけさせたいみたいだ。
「何するんだ!? おい、やめっ……」
「大人しくしなさい! 直ぐに身ぐるみ剥がしてやるから!!」
どういう状況だよこれ!? 小さな女の子に身ぐるみ剥がされるとか、理解不能だよ。そしてグイッと服を引っ張られて、僕の右肩が露わに――
「いやああああ!?」
「乙女か!?」
僕の悲鳴にそう突っ込み入れるローレ。ならお前は野獣か!? この獣!!
「うるさいわね。変な事言うな。ただちょっとあんたがいつ死ぬのかを見ようと……」
なんだ? なんで言葉を止めた? もうそんなに進行が進んでるのか? でもまだ二日位はあるはずだけど……って短い!? 今更だけど短いよ。
僕が絶望やら女の子に身ぐるみ剥がされた屈辱やらの感情がごっちゃになって落ち込んでると、ローレの信じられない言葉が僕の耳に届く。
「ねえ、アンタの呪い……なんか引いてない?」
「へ?」
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