命改変プログラム
絶えない可能性
酸の雨で出来た竜から降り注がれる聖獣の攻撃。倒れ伏したエアリーロにそれを避ける術はない。僕はイクシードのウネリを使ってなんとかその攻撃の軌道を逸らしてる。
ここまで僕を守って助けてくれたんだ。今度は僕が助けないとだろう。でも……容認出来ない事があったりもする。視界に映る範囲にはもう一本のセラ・シルフィングがあり、そしてその側にはさっき叩き落とした盾もあるんだ。
そしてそれを狙ってメドゥーサ聖獣が迫ってる。アイツが盾を手にしたら、それこそ攻守共に最強の状態に戻ってしまう。それは不味いんだ。だけど動けない。
だって僕がここを動いたらエアリーロが……
『私は大丈夫です。この程度のダメージなら、何とか出来ます』
「何とかって……どうするんだ?」
もの凄いスピードで盾に近づいてるメドゥーサ。ヤバイヤバイヤバイ。アイツがアレを取ったなら、迷わず僕達を石にしようとしにくるだろう。
『同じです。貴方と同じ事をします』
「僕と?」
『貴方の周りの力強い風を借りましょう。私の生み出す物とは少し違った感じで頼りに成りそうです。貴方は私の風を、私は貴方の風を借り受ける。
そう言う契約です。同意してくれますか?』
僕の風? 僕自身が風を生み出してた事ってあったっけ? 周りの風を取り込んでただけの様な……いや、多少はセラ・シルフィング事態が風を作ってたりもしてるのかも知れない。
「それで、本当にどうにか出来るんだな?」
『召還獣に二言はありません。貴方も私の純度の高い風で威力を上げられたでしょう。原理は同じですよ』
原理は同じ……かな? 疑問が残るぞ。だって対抗出来なかったからエアリーロの煌めく風に頼ったんだ。それを元から生み出せる奴が、僕の生み出す風を使うって……劣化してしまうとしか思えない。
『さあ、決断を!!』
「くっ、信じるからな! どうすれば良い!?」
もう時間がない、あと五十メートル位の距離にメドゥーサは迫ってる。
『私にそのウネリをぶつけなさい。貴方はその反動を利用して武器と盾の回収を!!』
ぶつけるって――けど迷ってる時間もなくて、綺麗に輝くその碧の宝石の様な瞳を僕を信じる事にしたよ。空に向けてたウネリを下に下ろす。狙いは勿論エアリーロだ!!
地面にぶつかったウネリが泥を大量に弾きあげる。近くに叩きつけたからウネリはバネみたいに曲がり、そして伸びる。僕はその反動を利用して一気に飛んだ。
まずは地面に落ちてるセラ・シルフィングを汚いとか関係無しに口で柄をくわえる。ついでに急ブレーキも足で掛けるよ。ぬめった地面を滑りながら、流れる視界に映るのは盾に手を伸ばすメドゥーサの姿。
僕がこっちを選んで向こうは勿論盾を選んだ。それだけの事。だけどみすみす奴に盾を与える為に僕はこっちを選んだ訳じゃない!!
口でくわえたセラ・シルフィング。その刀身にもウネリが出来る。首を大きく振って僕はそのウネリで盾のすぐ近くの地面を弾く。泥が飛び散り、勢いよく弾け飛ぶ。そんな中、盾も聖獣の腕をすり抜けて上へと飛んだ。
だけどまだだ! 僕はエアリーロにぶつけてたウネリを使って更に盾を空に弾く。すると突如メドゥーサ聖獣がこちらを見てこう言った。
「きさまあああああああ!!」
完全にキレてる。そして当然の如く石化が来ると思った。実際蛇共もそういう風に動いてこちらにその頭を向けた。でも光はメドゥーサ自身が目眩ましに放った奴だけ……僕はどこも石化なんかしてない。
「何?」
困惑するメドゥーサ聖獣。どうやら奴は自分の現状に気づいてないらしい。僕はその隙を逃さずに走り出す。今の聖獣は無防備そのもの。逃せばきっと次はない!! 僕はセラ・シルフィングを突き出してウネリを伸ばす。真っ直ぐに伸びたウネリがメドゥーサ聖獣へと直撃して奴を後方へと押しやる。
だけどそこは聖獣だ。しかもパワーアップしてるからか、奴は耐えて踏ん張りだした。ウネリの風が四方に拡散しだす。
(押し切れないか……)
両腕があればまた違うんだろうけど、今無い物を欲しても意味はない。今ある物で出来る最高の事をして、望む結果を得る。それこそれが僕達がやっていかなくちゃくいけないこと。
僕には隠された出生の秘密とか、呪われた血とか流れてないしな。小説やマンガの主人公みたいに覚醒する素養なんてないんだ。
「舐めるな人間!!!」
そんな言葉と共に、風のウネリをかき消すメドゥーサ。まさかイクシードを破るとは……さっきの自分の攻撃で、奴の頭周りに付いてた泥も落ちてるし、これはピンチだ。
無数の頭の蛇の目が赤く輝き出す。だけどウネリはまだ一本残ってる事も忘れて貰っちゃ困る。僕はもう一度、かぶりついてるもう一本の方で奴の傍の地面を叩く。激しく飛び散る泥を盛大に被りやがれ!
するとその盛大に上がった泥が中央から一気に弾かれた。泥と衝撃がこちらに跳ね返るような振動が押し寄せる。
「づっうぅ!?」
口にくわえてる剣が落ちそうになる。見えるのは奴の拳? おいおい、まさか今一瞬大気が振動したのもアイツのあの拳のせい?
「だらしない口ね。でも大丈夫。今すぐその四肢も同じようにだらしなくしてあげるわ!!」
そう言ってメドゥーサはこちらに走り寄ってくる。だらしないとは言ってくれる。確かに涎だらだらだけど、これもお前達と渡り合う為なんだ! うねる風と聖獣の腕がぶつかりあう。
だけど奴は止まらない。その拳だけでうねる風を弾けさせやがる。だけどもうこっちも引くことなんか出来ないんだ。迫る拳をギリギリでかわしてカウンターの要領で腕側の剣を振るう。
だけど聖獣はその強度を武器に避けようとしない。ウネリを受けたままそのまま体ごと突っ込んで来やがった。衝撃と共に、地面を滑る僕たち。ヤバイ完全にマウントを取られた。
僕は首を動かしてウネリをぶつける。細かい動きが出来てたすか――って無い。奴は片腕でウネリを受け止めてその拳に力を込めてる。
まさかここまでイクシードが効かなく成ってるなんて……イクシードのウネリは遠距離にも対応してる分、近距離での鋭さってのものが落ちてるのかも知れない。そもそも刀身全体に風がウネってるもんな。
(鋭さか……鋭さ)
ウネリをもっと凝縮出来れば? いや、噛んでる方じゃどうやったってこいつを真っ二つになんて出来ない。
「死ね!!」
僕は思わず剣を離してその拳を紙一重でかわす。地面にめり込む拳。幾ら柔らかく成ってるからってそのめり込み具合は尋常じゃないぞ。二の腕くらいまでズッポシ行ってる。
「ちっ」
舌打ちする聖獣。ヤバイ、次は確実に当たる。剣を離した事で聖獣は両腕も空いちゃったし、頼れるのは片腕のセラ・シルフィングだけ。だけどこっちはウネリを潰されて、微妙にしか風が集まってない状態だ。刀身の周りだけに風が集まってる感じ。するとその刀身と風の間にあるものに僕は気付くよ。
(あれは雷……)
青い電流が刀身と風の間で生まれてる。そうだ、ただのイクシードにはまだその両方の特性が残ってるんだ。イクシード2・3と成ってく内に、完全に雷の力は消えて一極化するけど、この時点ではまだ二つの力が入り乱れてる状態。
もしかして今なら、その比重は操れたりするのかも知れない。いままで必要じゃなかったから試した事無かったけど、イクシードの別の面が今は必要だ。
求めるは遠くまで届く力じゃなく、目の前の対象を確実に切り避ける鋭さ。思い出せ、僕は一回完全雷化までしてるだろ。
あの感覚で自身の雷を支配するんだ。
「今度こそ――死ね!!」
メドゥーサの拳に不気味な光が宿ってる。さっき地面を抉ったのもその力のせいって訳だ。こんな拳をまともに受けたら、僕の頭部はそれはもう映像表現出来ない位、悲惨な事に成ること間違いなし。
顔面が砕かれて、脳はきっとトマトを潰したみたいに、グロテスクに飛び出るんだ。そして僕の命も終わり。迫る拳……そしてその先ではほくそ笑むメドゥーサの姿。赤く光ってる大量の瞳。
終わりたくなんか無い。こんな所でなんて……頭の中に走馬燈の様に今までの思い出が流れ出してた。なんだかこれってまさに死んじゃうみたいじゃないか。
僕は走馬燈を振り払って、セラ・シルフィングに繋がってる腕に力を込める。
「そんなの、イヤだああああああああああああああ!!」
迫る拳に向かって……とかじゃなく、僕はただガムシャラに腕を振るった。すると突如メドゥーサ聖獣が僕の上から居なくなった。
バシャンシャン――と聞こえる音を頼りにその方向を見ると、泥だらけになりながら地面を転がってる聖獣が居た。助かった……のか?
ようやく勢いがなくなった所で、立ち上がろうとするメドゥーサ。だけど一瞬「つっ……」と痛覚でも感じたかの様な声と共に、左腕を押さえつけた。
「貴様……やってくれたな!!」
「??」
何が? が僕の本音でした。だけど、奴の押さえつけられた腕から、緑色の液体が流れ出てるのを見て、もしかしてそういう事か? と思った。
今の一撃が効果的だった事だ。あの傷は僕がつけた。ウネリじゃ決して離れなかっただろうメドゥーサが勢いよく離れてまで避けてしまった攻撃。
それを僕は繰り出してたって事の様だ。僕は自身の握る腕の先を見る。イクシードの状態で、いつもそこにあったのは、風のウネリを纏った剣だった。
けど今は違う。風じゃなく雷に比重を傾けた新しいイクシード……それが刀身に輝いてる。風のウネリが弱くなってるけど無くなった訳じゃない。
風が優しく刀身を包み、その風の外側で、力強い雷撃が剣を一回り大きくしてる感じ? 刀身の外に切っ先を雷撃に変えた刀身が出来てる。まさに力を凝縮してるって感じだ。
風のウネリとは全くの逆だな。あれは外へ外へと力を惜し気も無く解放していく物だったけど、こっちは刀身と言う場所に力を固定してる。
だけど、まだ完璧じゃないのか、その雷撃の刀身で時たま放電が起きたりしてる。
でもそれもなんだか頼もしく感じる。「早く暴れさせてくれ」って言ってるみたいでさ、良い感じだ。
僕は立ち上がって前を向く。そして何も言わずにメドゥーサへと迫る。ばしゃばしゃと響く足音。
「いい気になるなよ人間!!」
両の拳に例の不気味な光を宿らせた聖獣は、僕を向かい打つ為に迫り来る。あいつ完全に自分のアドバンテージ忘れてるよな。まあ既に殴り殺さないと気が済まないってだけかも知れないけど、僕には距離を置かれるよりはよっぽどいいさ。
そのアホらしい威力を秘めた拳。だけど僕は退かずに、真っ正面からその拳と対峙する。メドゥーサの拳と、セラ・シルフィングの雷撃の刀身が拮抗――する事は無かった。
鋭さを増したセラ・シルフィングは楽に振り抜く事が出来たんだ。思ったけど、僅かに残ってる風のおかげか、一回り大きく成ってる筈なのに、剣事態は軽く成ってると感じるよ。
きっと刀身に残った風が僕の腕の負担を軽くしてくれてるんだろう。これは振りやすい。振り抜いた剣の後に出るのは緑色した液体。それが拳の先端から飛び出した。
だけどメドゥーサは痛みをかみ殺してまだまだ迫ってくる。聖獣としてのプライドか何かか、その仮面の中の光は強まってる。
けどな、こっちだってもう負けてられないんだ。こっちにだって背負う物がある。守らなきゃいけない物がある。逃げて、助けられ続けてようやく手に入れた一つの回答かも知れないこの力。接近戦を続けてくれるのならありがたい!!
僕はしっかりと見て、メドゥーサの攻撃を紙一重でかわしてく。こいつの拳の威力は確かに凄い。だけどスピードはそこまで劇的に速い訳じゃない。元が攻撃全て、頭の蛇に任せるタイプだろうし、肉体派って訳でも無いんだろう。
聖獣だから体の使い方とかはわかってるみたいだけど、どこかガムシャラな感じは否め無い。僕は攻撃の隙を付いて、セラ・シルフィングで奴の体を刻み続けるよ。
僕の攻撃が自身に届く度に、仮面の中の光が強く光ってる気がする。そう言えば、この仮面の中には、何もないんだよな。それがどういう事かは今の所謎だ。
けど今は、そんな事考えてる場合でも無いよな。ようやくだ……ようやく僕は聖獣と互角に戦えてる。体力の限界とか、そんなのどこかにおきやって動き続ける。
メドゥーサは動きはガムシャラだけど、モンスターとしての高い身体能力を活かして攻めて来るから、どうしたってこっちも動き回る事になる。
それに、手数がどうしても足りなくてもどかしい。もう一本あれば、もっと効率的にやれるし、きっと強引にでも押し込める。
だけどHP的に後一発でもマトモな攻撃を受けたら僕はそれまでだ。だからこそ、致命的な一撃が入れられない。こいつの足を止めるには足を切り落とす位しなくちゃだけど、いかんせん頑丈なんだ。
でも緑の血は流れ出る多さを増してる。確実にダメージは通ってる筈だ。
「ちょこまかと、うざったい奴が!!」
ふん、正々堂々と石化しまくる奴に言われたくないな。そう思ってると、奴の頭の蛇が一斉に動き出した。まさかとうとう石化攻撃が来るのか? そう思って身構えたけどどうやら違うらしい、蛇は頭から伸びて、僕の腕や足に巻き付いてきやがる。
「くっ!?」
こんな事を出来たのかよ。いや、そう言えば前も一匹だけを長く伸ばしてたっけ。そうだ……一匹だけしか延ばせないなんて事、あるわけ無い。
「さあ、これで避けられはしないでしょう。大人しくあの世に言ってなさい。大丈夫、直ぐに大量に仲間が来る。だから一瞬で楽に逝かせてあげるわ!!」
奴のありったけの力が右拳に集中してる。僕は必死に蛇の拘束から抜け出そうともがくけど、しっかりと巻き付いた蛇達からは全然抜け出せそうも無い。
「今度こそ……本当に……絶対に……間違いなく……終わり――だ!!」
わざわざ途切れ途切れでそれぞれの言葉を印象づけるかの様に紡いだメドゥーサ。迫る拳は外しようの無い、胴体位を狙ってる様だ。
確かにどこに当てたって僕のHPはきっと尽きる。別に格段に小さな頭を狙う必要性なんか初めから無かった。やられる……いや、まだだ!! まだやりようはある!! 自分の体にまとわりつく蛇、こいつら全員に僕はスパークする雷撃を打ち放つ。
それは刀身の周りに集まってたのを解放させた代物だ。青光りする雷撃は僕とメドゥーサ、両方を包む。耳の傍で激しく鳴り響く、スパーク音。
「んぐぅぅぅああああああああああああ!?」
迫り来てた拳も止まり、聖獣はこの雷撃の中で断末魔の叫びをあげる。そして蛇どもは僕に巻き付いたままぐったりとして力が抜けたようになった。
僕はこの瞬間を見逃さずに、蛇どもをセラ・シルフィングで奴の頭から切り離す。これは僕自身の雷撃だ。ダメージは受けない!!
解放された僕。雷撃は再び刀身へと戻って鋭き刃へと収束される。沢山の蛇を失って体中が雷撃で焦げ臭い煙を上げてるメドゥーサ。
それはこれ以上に無いチャンス。
「ずあああああああああああああああああああ!!」
踏み込む一歩。これは正真正銘の渾身の一撃だ!! 目の前のメドゥーサに僕はセラ・シルフィングを振り下ろす。その瞬間、メドゥーサの後方の地面にも衝撃が伝わり、一筋の亀裂が走る。それと同時に、メドゥーサの左腕が飛んだ。
そして空をつんざく様な断末魔の間の叫び。だけど僕はその声に怯まずに更に腕を振るう。叫びをあげて無防備になった胴体を横に凪ぎ、右肩、左足と深い傷を付けていく。
思わず後ろによろけるメドゥーサ。ここまでで一番の手応え。まだまだ行ける!! だけどその時、地面を抉る水の弾丸がこちらに迫ってくるのが見えた。エアリーロの方を放置して、狙いをこちらに変えてきたんだ。
「っつ……」
弾け上がる泥の柱。それが僕とメドゥーサの間を隔てる。すると更に足下に大きな陰が落ちる。上を見ると、全身に爬虫類みたいな鱗の模様を刻んだ聖獣が、曇天の雲から延びてる竜の頭に乗って大量の武器をその腕に抱えてる。そしてそれらを一斉に放って来やがった。
僕は片腕でそれを必死に打ち落とす。くっそ……意外だけどこいつらにも仲間を思う気持ち位はあるようだ。まさか助けに来るとはな。
後ろと前から武器と水の弾丸が迫る。腕一本じゃどうしても防ぎきれない。するとその時、激しい風が武器と水を巻き込んで吹き荒れる。
この激しくも暖かな煌めく風は勿論――
「エアリーロ!!」
地上から僅かに浮いてエアリーロはその翼を羽ばたかせてる。全くそんなボロボロの羽で本当によくやってくれた。吹き荒れる風は聖獣共の遠距離攻撃を悉く狂わせてくれてる。
「何やってる!? 早く貴様は退け!!」
魚聖獣が厳しい声でそう紡ぐ。だけどメドゥーサはそんな声を聞いてるのか聞いてないのかわからない状態だ。
「私が……退く? またあの屈辱を味わえと? そんな事出来るか!! 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!」
メドゥーサ聖獣から黒い何かが立ち上り始めてる。そして残った蛇もワサワサと蠢いてた。なんだかヤバい感じ。でもここで退く訳にはこっちだって行かない。
「うがああああああああああああああああああああああああ!!」
ガムシャラに走り出すメドゥーサ。僕はセラ・シルフィングを構えて一撃を入れるタイミングを見計らう。だけどその時、上空からもう一匹の竜の首がメドゥーサに落ちた。一気に酸の水が周りに溢れ出しやがる。
「うわっ?」
まさか狙いを間違えた? とか思ったけど違う。強制的にメドゥーサを回収してるんだ。竜の首に食われたメドゥーサは上空に吸い上げられて行ってる。
「まったくもう、キレちゃって見苦しいったらないよね。ちょっと反省して貰わないと。それから負けない為にはやっぱりこれが必要だよね」
そう紡ぐのはウサ聖獣。あいつまたメドゥーサの盾を回収してやがる。
「くっ……このままあそこまで行かれたら……」
『乗りなさい!!』
僕がどうにも出来ないで居ると、エアリーロがしつこく攻撃して来てる聖獣共をかわして僕の側に。
「大丈夫なのか?」
『迷ってる暇なんて無いでしょう。あの一体に止めを刺すんです』
そう言ってエアリーロはもう一本のセラ・シルフィングを差し出してくれる。僕はその剣を咥えて力強く頷く。背中に乗り、エアリーロはその翼を動かして、メドゥーサを追う為に一気に上昇する。激しく吹き荒れてた風を抜けると待ってましたと言わんばかりに聖獣共の攻撃が迫る。吹き荒れる風のせいで当たらないから上空で待ってたみたいだ。だけどそれらを全て置き去りにするが如く、一直線に加速するエアリーロ。
だけどメドゥーサは酸の竜の中。周りもまだまだ鬱陶しいし、どうすれば……
『曇天の雲を晴らしましょう。あの竜はあの雲から出来てます』
「だけどどうやって?」
『私と貴方の力を合わせるのです。私の風とその剣の力。何の為に二本あるのですか? 咥えてたって上手く使えはしないでしょう。全ての風をその一本の剣に収束させます。後は貴方の思うとおりに。
あの小さいのは私が防ぎます。雲が晴れてあの聖獣が無防備に成ったところを決めてください!!』
一気にそう紡いだエアリーロ。思うとおりに……か。僕は首を縦に振るう。そして早速くわえてる方にエアリーロの風を纏わせる。
後ろからは二体の聖獣の攻撃が続いてる。これが成功すれば、奴らも手出しは出来なくなる! 僕はくわえてた剣を離し、一気に上空へと蹴りあげる。そして雲の中に消えたタイミングを見計らって、その纏わせた風を解放させる。
「吹き飛べ!!」
その瞬間煌めく風が雲を一気に追い払う。戦場一帯に漂ってた厚い雲が円形状に晴れる。その先には晴天の青空。そんな空にセラ・シルフィングが風を纏い鎮座してる。
雲が晴れると、竜はその姿を維持できなくなり崩れてく。聖獣共は同時に地面へ真っ逆様。
「僕の魔法が!! この野郎!!」
そう紡いで指を鳴らそうとしてるウサ聖獣。
『させません!!』
だけどその瞬間、超高速のエアリーロがウサ聖獣へと突っ込んだ。二つの盾で防いだ様だけど、どんどんと上空へ僕たちは上る。
『ここは私が引き受けます。貴方は奴に止めを!!』
「ああ! 必ずやってやる!!」
僕は一人、エアリーロの背中を飛び降りる。目指すは竜が無くなり落ちてるメドゥーサ。他の聖獣も既に距離は遠く、足場もない。援護が入ることはもう無いんだ。まさに最後の一騎打ち。
これで決める!!
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
太陽の光が僕の背を押してくれてる気がする。
「返り討ちにしてやるわ!!」
あれだけ切り刻んだのにまだまだ元気なメドゥーサ。奴は残った数匹の蛇をこちらに向ける。石化――だけどもう止まれない! 止まるもんか!! 輝く奴の体。その瞬間に紛れて輝く数匹の蛇の瞳。僕は体をひねって空中で強引に体を動かす。
光を抜けて目の前に迫るメドゥーサ。奴は僕が完全に石化したと思ったんだろうけど、お生憎様僕はまだ動ける!!
「くっそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
片目が真っ暗……体も所々石化してる。だけど僕はまだ動ける。意識を保っている。完全には避け切れなかったけど、腕が動けば十分だ!!
ようやく見えた恐怖の顔と声。メドゥーサの仮面の奥の光が激しく明滅してる。終わりだ……そう終わりにしよう。
「お前の存在だけはここで絶つ!!」
雷に比重を置いた腕側のイクシード。僕は体を大きく前回転させて、何回も何回も大車輪の様に切りつける。聖獣の体に縦に幾つも入る傷。それと併せて舞い散る緑の血。HPがみるみる減っていく。仮面にも亀裂が……そして迫る地面が近づくと、僕は腕にありったけの力を込めて、メドゥーサに突き刺した。青い雷撃の光が激しくあがる。雷撃の音と、メドゥーサの叫びが僕の耳には響いてた。
そしてその勢いのまま僕たちは地面に激突する。その瞬間、奴の顔から仮面が飛んだ。そして僕の頬を掠めてパキっと割れた。
その瞬間、セラ・シルフィングが貫いて地面に串刺しにしてたその体が消えていく。淡い光が僕を包むように昇ってく。
「はぁはぁはぁはぁはぁ……」
戦場がとても静かだった。僕の激しい呼吸音しか聞こえない。だけどその視線は感じてた。この戦場にいる誰もが、今この瞬間を見つめてる。消えていく聖獣と、その上に立ち剣を突き刺した僕。
「相変わらず薄気味悪い顔だな……」
聖獣の仮面の下には何もない。そしてそんな言葉と共に、メドゥーサ聖獣は完全に消滅した。
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