命改変プログラム

ファーストなサイコロ

アップダウン



 闇が崩れる。得意気に成ってた聖獣様々、奴の手がこちらに延びる前に、エアリーロの言葉通りに、新たなる召還獣の介入が起きた。
 闇を強引に砕いたのは、荒々しく猛る炎をその身に宿したかの様な召還獣。これは僕でもわかる。この召還獣はきっと――
『イフリート』
『猛! 我が炎が全てを消し炭にしてやろう!』


 エアリーロの言葉に耳を貸さずに、やっぱりイフリートだったその召還獣は、砕いた闇から閉め出されたエルフ聖獣へと迫る。
 流石炎の召還獣だけあって荒々しいな。でもこれがイフリート……炎の魔神とかのイメージで全身炎に覆われた、人型の奴かと思ったけど、LROは違うんだな。なんか精霊的な感じじゃなく、もっとこの世界に息づいてるって感じ。まあエアリーロもそうなんだけど、動物的なんだよね。
 モンスターっぽいって言うか……角に牙に爪に、筋肉質なその体。エアリーロはある意味神々しくて、普通に出会っても神聖な何か? かな~とか思えるけど、イフリートの場合は火山とかで出会ったら、間違いなくボスモンスターだと思うだろう。
 それだけ荒々しく猛々しい印象だ。凶悪な顔してるし、その真紅の毛からは火の粉が常に舞ってる。明暗もその毛は変わってるから、炎だと思ってたけど、どうやら毛っぽい。
 手首と足首の所には金色のリングとかしてるし、よく見たら、アクセントに所々金色に輝いてる所はそこらのモンスターとは別格って現れなのかな。てか、イフリートには雨って当たらないんだね。当たる前に蒸発して消えてるみたいに見えます。


『本当にイフリートは前しか見ない猪突猛進野郎で困ります』


 勢いよく聖獣へ向かったイフリートを見てため息混じりにエアリーロがそう言うよ。まあ僕からしたら「らしい」と思うけどね。
 まあ召還獣はどこか神聖で知的なイメージも勿論あるんだけど、そこら辺はエアリーロで補ってるし、あの猛々しい炎を醸してる奴がエアリーロみたいな性格だと違和感ありそうだから、やっぱり良いんだと思う。


「でも助かったのも事実だし、エアリーロの読み通りだな。僕達は急いでみんなを助けに行こう!」


 少しタイムロスしてしまったからな。みんなはまだ無事だろうか? そう思って下を見ると、案の定みんなは大ピンチ陥ってる。
 モンスター共に囲まれて、今にも食べられてしまいそうだ。


「エアリーロ!!」
『分かってま――いえ、どうやら大丈夫な様です』


 どういう事? なんだかエアリーロは動く気が無くなったみたいだぞ。早くしないとみんながモンスターにやられてしまう。すると地面がゴゴゴゴと空に居ても分かる程に揺れだした。
 そして次の瞬間、新たな召還獣が現れる。地面から飛び出してきたそれは、クルクル回って、みんなの周りを囲んでたモンスターを弾き飛ばす。堅い外郭に覆われたその姿はまるで……


「アルマジロ?」
『ノームです。大地を司る召還獣ですよ』


 いや、どう見てもアルマジロです。まあそこらのアルマジロよりもカッコいいと思うけど……元がアルマジロなのが何とも……なんだろうこの残念な気分。


『おいこりゃ! 何が残念じゃ! 貴様の仲間を守ってやってるんじゃぞ!!』


 周りを囲んでたモンスター共を吹き飛ばして通常状態に戻ったノームさんが怒ってらっしゃるよ。てか、気づいたけどノームさん神々しいな。回転中は気づかなかったけど、ノームさんの外郭は金色に輝いてる。流石は大地の召還獣。その堅い外郭部分……と言うか、爪とかまでも金で出来てる感じだな。


「てか、何故に爺言葉なんだ?」
『ノームは転生を繰り返す頻度が長いですから、お爺さんなんです』
『こりゃエアリーロ! 年寄り扱いするでないわ!!』


 なんか召還獣の間にも色々と細かな設定があるんだな。そんな事を思ってると、ただ弾かれただけのモンスターどもが再びノームへと向かって行ってる。
 流石に全員仰々しいだけあって、召還獣でも一撃で倒せる……とかはないみたいだな。


「エアリーロ、フォローしよう。ニ体でやればあの数にだって引けはとらないだろ?」
『そうでしょうか? あのモンスター達はかなり強いです。ここで私達がヤることは聖獣達の戦滅では無く、奴らを後退させる事。
 私達召還獣は、実際にその力の全てを発揮できる訳でもないですし、複数体の召還は主の精神へ多大な負担を掛けます。
 私達には最初から彼らを戦滅出来る時間的猶予も実力も揃ってません。突発的な事だったので、条件が悪いのです』
 なるほど……エアリーロはホントきちんと説明してくれて助かるよ。ローレの奴にもエアリーロの真心の一割でも良いから持ってほしいよね。
 まあ今は、そのローレに助けられてるも同然だし、下手な文句は言えないけど。


「でも、召還獣だけで勝てそうな気もするけど……無理なのか?」


 めっちゃ強いじゃん。エアリーロだって聖獣数体相手に出来てたし、イフリートだって互角に戦ってる様に見える。ノームも倒しては無いけど、あのクラスのモンスターを一体で相手に出来るのは凄いことだ。
 だけどエアリーロはやっぱり首を振る。


『無理ですよ。確かにモンスターだけならどうにか出来るかもですが、今は聖獣が居ます。感情と言う物はモンスターにもある。
 その高まりは力へと結びつくでしょう。聖獣の復活はこの地のモンスターにそういう力も与えてるのですよ。それに彼ら事態は本当に厄介ですしね。私達でもそう簡単に勝てる相手ではありません』


 無理……はっきりとそう言われちゃったな。エアリーロの言葉は悲しいけど、なんか素直に納得してしまう。でもだからって助けに来てくれたって事は、どうにか出来るはずだから……だよね?


「じゃあどうするんだ?」
『彼らには一端引いてもらいます。私達は彼らを森へ追い返す事が目的です。そしてその間に準備を整える。それが主の考えですよ』
「確かに、倒せなくてもそれなら……」


 希望はある――――か。準備を整えてリア・レーゼで向かい打つ。それがローレの考え。ここで最後まで戦うのはリスクが高いって事だろう。僕たちもボロボロで、瀕死状態だしな。足手まといが居ると戦い辛いだろう。状況は変わってしまったんだ。
 だからそれに対応する時間が必要。このまま聖獣達がリア・レーゼに攻めてきたらそんな時間もとれずに終わるだろう。
 僕たちにはもう期待なんて出来ないから、自分でローレは動くしかなかった。こう考えると、やっぱり僕たちは追いつめられてる。 僕たちだけじゃなく、このリア・レーゼの街そのものが。
 欲は言えない。ここで倒せるかもなんて、考えるのはダメなんだ。みんなボロボロで限界を越えてる。HPだって減り続けてるんだろうし、一刻も早くこの戦闘を終わらせるべき。それには聖獣共を撤退させるのが一番なんだろう。
 召還獣達は一筋縄では押し切れない……それを分からせば、知恵が多少ついた聖獣なら引くことはあり得るかも知れない。
 でも……それも一筋縄では行きそうにないな。


『こちらも優雅にやってる場合ではないですね』
「そうだな。なら、さっさとどうにかして退かせないとだし――」
『いえ、そうじゃなく私達も当然の如く狙われてると言うことです』


 その瞬間、地面を抉る程の高圧な水のレーザーをエアリーロはかわす。だけどそのレーザーは軌道修正して僕たちを追いかけて来る。しかも更に大量の武器も下から僕たちめがけて飛ばされてくる。
 聖獣も全員が動き出したみたいだな。僕達の担当は魚とスレイプルの奴か? 


『いえ、それだけじゃない様です』


 エアリーロの言葉に前を見ると、どこから現れたのか、メドゥーサ野郎が上から降ってきてる。これはヤバい。どんどん近づくしかない僕ら、直前で石化攻撃されたら、幾らエアリーロでも石になるんじゃないか? 


「おい、アイツはあの頭の蛇が石化の攻撃をしてくるぞ。離れないと不味い!!」
『それはそうなんですが、どうやら下の二体は逃走ルートを絞らせる様に攻撃を仕掛けてきてる様です。そのルートから外れれば串刺しですね』
「なっ!?」


 そんなに頭良くなってたのかアイツ等。変な仮面を揃ってつけてアホッぽさ満点の癖して、頭使いやがったな。


「じゃあどうする? このままじゃ奴の石化の攻撃を諸に受ける事になる。あんなの食らったら一発で終わりだぞ。それとも無効化出来るとか?」
『私が無効化出来るのは風系の魔法だけですよ』
「風系の魔法は無効化出来るんだ……」


 適当に言っただけなのに、案外的を得ていたぞ。全種の召還獣を呼び出せば全ての魔法を無効化出来ると言うことか……だけど複数召還は術者への負担が大きいんだっけ? なかなかそんな事は出来ないって事だろうけど、流石は召還獣って言った所だな。


『石化は厄介ですね。ですが、どうにかして見せます』


 どんな状況でもエアリーロは冷静な口調。それがなんだかどうにかしてくれそうな気がするな。でも実際どうする気? そう思ってると、キラキラと煌めく風がエアリーロの口の先に集まり出す。
 そしてある程度集まった所で一気にそれを放つんだ。風の固まりみたいなのがメドゥーサ聖獣向かっていく。だけど効果あるのかな? だって聖獣が標準で装備してる盾は、大抵の攻撃を吸収してしまう。
 それのなんと厄介な事か……現にメドゥーサ聖獣は、冷静に盾を構えてる。


「こんなもの――」
『それはどうでしょうか?』


 吸収されると思った煌めく風。だけどその風は吸収されずに吹き荒れた。ええ? どういう事だ? そしてそんな僕の思いと同じ……いやそれ以上に驚いてるのがメドゥーサ聖獣だ。


「なっに!? ――くっ……」


 そんな言葉を紡いで、風の勢いのままにあらぬ方向へと飛ばされていく。一体どうして風は吸収されなかったんだ?


『簡単ですよ。今の風は誰かを攻撃する目的で放った風ではないと言うことです。ああいうアイテムはは攻撃を感知して吸収してますから、体力を削らない物には反応もしないでしょう。
 本当にあの盾が全てを吸収するのなら、この降りしきる雨を常に吸収しててもおかしくはないですからね』
「なるほど、確かにそうだな。ようは攻撃じゃない攻撃をしたって事か」


 流石エアリーロ、なんか頭良さ気だね。


『ああ言う吸収系の盾や防具は厄介ですからね。狙うなら間接攻撃ですよ。直接的な攻撃じゃなく、自分のスキル後の影響で攻撃を加える。
 それなら吸収の対象外になり得ます。まあですが起こせる自然災害程度ではあのクラスの敵には効果は薄いかも知れませんが。
 HPを削れないと倒すことは出来ないですからね』
「やりようは分かるけど……それだけを狙う事もやっぱり無理って事か」


 やっぱあの盾は反則だな。どう考えても聖獣なんかに持たせちゃいけない。ただでさえ強いのにさ。あんなの持ってたら出来る攻撃が限られるんだよ。
 基本接近戦を狙うしかない訳だけど、あのメドゥーサ野郎がバリバリなら、近づくことすら困難になる。実際あいつが一番厄介な能力持ちだもん。石化って!! それに一番バランス的に優れてるしな。
 そんな事を考えてると再びパッチンパッチンと指を鳴らす音が聞こえた。思ったんだけど、この指を鳴らす音って絶対にそんな大きくないよな?
 それなのに指を鳴らす度に絶対に聞こえるって……まるでそれが義務づけられてるみたいだな。敵に「これから魔法打ちますよ」って宣告してるからこその、詠唱無効とかなのか?
 下からの攻撃はいつの間にか病んでる。もしかして今度はあのニ体が降ってくるとか? あり得そうで身構えてたら、なんだが雨が痛い事に気付いた。
 勢いが強いから……とかじゃ無く、なんかこうジンジンする痛さが雨に打たれた所から広がるような?


『これは! 雨の質が変わってます。酸を含んだ雨です』
「酸!? どうりで痛いわけ……ってヤバいだろそれ!?」


 そんな雨降ったら一気にハゲちゃう――じゃなくて誰もがダメージを受けそうな物だぞ。雨なんて避ける術ない。いや待てよ。僕はウインドウから取り出したお札を見つめる。
 案外これを使えば解決じゃないか? だけど背中にいる僕の考えを見透かすようにエアリーロはこう言うよ。


『無理でしょう。それはあくまで何の変哲もない雨避けで濡れるのを防ぐ為の物です。攻撃の手段と化したこの酸の雨は防げません』
「そうなのか……残念。じゃあどうにかしないと、瀕死のみんなはこの雨でヤられるかも知れない。どうせ雨何だし、防いでくれれば良かったのに……」


 僕はお札をクシャっと潰す。


『そこまでの機能を求めたら、今の値段で提供は出来なくなります。しょせんは雨風避けと思わないとでしょう』
「それはわかってるけど……」


 ついついね。それが贅沢だってのはわかってる。でもそれなら高いバージョンも売ってていいじゃないか。まあ、こんな事そうそうあり得ないから売れそうにないけどね。費用対効果が薄いか。
 エアリーロは自身の周りに風の防壁を張ることでこの酸の雨を防ぐ。煌めく風が常に周りで守ってくれる。ノームはどうやら自身の力でみんなをドーム上の土の塊の中に避難させてくれてる様だ。
 てか……なんか普通にボコられてる様に見えるんだけど……流石に一体であの数はないよな。急いで救援に向かった方がいい。ついでに言うと、イフリートの奴は全然雨が酸に変わったことなんか気にしてない様だった。
 てか気付いて無いと思う。元々蒸発させてたから、酸だとしても変わらないんだろう。


「エアリーロ!」
『年寄りをリンチとは酷い奴らですね』


 そう言ってエアリーロは地上を目指す。だけどそこで待ちかまえてたニ体の聖獣の歓迎を受けることに――


「貴様の相手は我らなんだよ!!」


 そう言って魚聖獣が大量の水を壁の様に噴射する。それは一瞬で津波を作り出したかの様な光景。こいつ、こんな事も出来たのか!? 一瞬で目の前には大量の水が僕達を包み込むように落ちてくる。このビックウェーブを体に纏った風で防げるのか? そう思ってると、流石に不味いのかエアリーロは落ちてくる波の頂上から逃げる様に横に移動する。だけど後ろから水は確実に迫ってた。
 このままじゃ僕達はこの波に飲み込まれる事に……


『必ず突破してみせます!』


 そう紡いだエアリーロは更に羽を羽ばたかせて加速する。だけど唯一の進行方向に、もう一体の聖獣の姿があった。


「キシャシャシャ……吹き飛べえええええええ!!」


 スレイプル型の聖獣はその両腕を砲芯へと変えてた。そう言えばあいつ自身が武器そのものなんだよな。無尽蔵にその体から武器を生み出せたりしやがる奴だ。そしてそれは剣や斧とかの近接武器だけじゃない。
 奴は砲芯へと変えた己の腕を尽きだして、その両腕にエネルギーを収束しだす。これはどう考えても不味い。後ろには迫る水、上だってその津波によって防がれてる。巻き込む様に迫る水に、この場所は一本道だ。つまりは逃げ場所も避ける余裕もこの場にはない。


「エアリーロ!!」


 僕は叫ぶ。どうするんだ!? ってそんな思いを込めて。すると簡潔な答えが返ってきたよ。


『耐えます!!』


 そう言ってエアリーロは煌めく風の障壁を全て前方へと集中させる。その瞬間溜まりに貯まった力を両腕から一斉に放出する聖獣。
 両腕から同時に放たれたその力は、僕達めがけて来る間にグルグルと交差して、一つになった。そして大きさもデカくなって完璧に逃げ場をなくした。
 耐える……僕はそのエアリーロの言葉を信じるしか出来ない。周りが放たれたその力に染まる中、煌めく風の障壁は何とか僕達を守ってくれてる。


「頼む! 耐えてくれ!!」


 僕はそんな願いを必死に口にする。精一杯の力で背中にしがみつく事しか出来ないけど……それでもエアリーロに気持ちを上乗せしてやるんだ。それで何かが変わるかなんてわかんない。だけど何も出来ないからって、何も出来ない事に胡座をかいたりしたくない。
 気持ちだけじゃ何も救えないだろうけど、気持ちが無いと何も起こせないんだ。奇跡だって最初の努力は気持ちからだろ。
 だから奇跡も幸運も引き寄せるのは気持ちだ!! 僅かだけど砲撃の一部が体を擦る。だけど僕もエアリーロも諦めてなんかない。
 そして次の瞬間、僕達は気持ちで勝ったんだ。聖獣の砲撃を耐え抜いて、津波の外へ!! だけど「やった!!」と思ったのも束の間、パチンと再び聞こえる音。その瞬間、空中に現れたのは張り巡らされた蜘蛛の巣だ。もの凄い勢いで出てきたエアリーロにそれを避ける余裕は無かった。
 勢いそのままに蜘蛛の巣へ飛び込んだ僕達はその糸に絡め取られて、ぬめった地面へ落ちる。そして勢いが衰えるまで地面を滑る事になった。


「っつ……大丈夫か?」
『私はなんとか……ですが動けません。ここに居ては危険です。離れてください』
「何言ってるんだよ! このままお前を見捨てても、僕には既に奴らに勝てる確率なんて一パーセントも残っちゃない! 待ってろ、絶対に助けてやる!」


 ここでエアリーロがやられたら、僕だって終わり。召還獣を一体倒すだけでも聖獣共を調子付かせる要因になる。そうなったら、こいつらは益々勢いをつける事に成ってしまう。
 そんな事になったら、一端引かせる事なんか出来なくなってしまう。やらせる訳にはいかない。


「あははははは、やったーーー! こいつは僕のペットにしよう!!」


 どこからともなく現れたのはウサミミをその頭に着けてる小さな聖獣だ。まあつけてるって言うか、仮面と連結してる? 感じかな。こいつってそうそう姿現さないから、実際ここまで近くで見るのは初めてかも。
 くっそ……モブリ型でウサミミとか反則だろ。まあ仮面が可愛らしさってのを消してる感はあるけどね。


「何をいってる。こいつはここで始末する。我ら最大の敵の一体を削るのよ」
「そうだそうだ。折角捕らえたんだから消さないとな。その前に力を頂いて、置くことも忘れちゃいけねぇ」
「どっちでもいいが、さっさとやれよ。俺はまだまだ暴れたりねぇんだよ!! 早く断末魔の叫びとかを聴きてぇじゃねぇか」


 ヤバいな……聖獣共が周りに集まりだした。一体どうする? こいつら一体にさえ勝てない僕に何が……


「わかってないねみんなは。こいつを殺したって僕たちの最大の敵の星読みの御子にはダメージになんか成らないよ。だって所詮こいつは召還獣なんだ。
 消えたら再び呼び出すだけ。それよりももっと面白い事をしようよ」


 ウサ聖獣が何か変な事を企んでるみたいだな。何をするっていうんだ? 僕は背中から降りて、エアリーロの腹の方へ回って隠れてる。


「まあ何だっていい。だが力は貰う。その後にすればいい」
「もちろんそのつもりだよ」


 くっそ……このままじゃまた、聖獣が強く成ってしまうじゃないか。これ以上のパワーアップなんて許容出来ない。なんとしてでも防がないと。だけど誰も彼も手一杯っぽいし、ここで動けるのは僕しか……


「そう言えば背中に居た奴はどこに言ったの? アイツは私がこの手で殺さないと気が済まないわ」


 僕の体がすっげぇ震えた。やっばい……めっちゃ目を付けられてるよ。


「ふん、貧弱な人間などそこら辺に落ちてるんじゃないか? それか奴らの事だ、早々に見捨てて逃げたとかな」
「アイツは私達が良くしる人とは違うわ。そうね……ムカつく事にアイツを見てると、テトラ様を思い出す。あの人の陰が重なる奴。
 でもそんなの許せない……だから私がこの手で殺すわ」


 怖っ――僕が何したって言うんだよ。その時僕の腕に何かが当たる。それはとても僕の手に馴染む物で、今一度ここで戻って来た事にきっと意味がある物だ。

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