命改変プログラム

ファーストなサイコロ

覚悟の戦い



 歌が聞こえる。土砂降りの雨の向こうに聞きなれない声と、聞き覚えのある旋律……それはきっと聖獣達の進化の証。そして奪われた力が幼いクリエの物だという証だろう。
 奴等が合唱してる歌。それはクリエが時々歌ってた歌だ。どうして奴等がここでその歌をこれみよがしに歌ってるのかはわかんないけど、それだけで今までの聖獣とは違うと分かる。
 まともな言葉も持たなかった聖獣がコミュ力を手に入れたって事だからな。僕達にも認識できる術での……って事だけど、実際言葉発する前には奴等は奴等なりの対話の手段を持ってたはず。
 僕達にも理解できる様に成ったのは、実際メリットかも知れない。


「クリエの歌……ノウイ、急いで行ってくれ。クリエを頼む」
「ええ? 言っとくっすけど、自分はまだスオウ君が残るのは賛成してないっすよ。だって死ぬ確率めっちゃ高いっす。
 わかってるっすか?」
「分かってるっての」


 僕はそう言いながらノウイの肩に手をおくよ。何されるか理解できてないノウイ。僕は力を込めてノウイを引き寄せると、自身の後ろにある鏡へとノウイを投げる。


「ちょっ……うわっわ!?」
「お前の言葉もありがた~~く、受け取っておくさ。絶対に生き延びる。だから戻るまでクリエを頼む。お前が側に居れば、安心できる。だってお前の逃げ足は、僕の意識じゃ世界最速だ」
「なんかそれって、嬉しくないっすううううう!!」


 そんな叫びと共に、自身が表した鏡へと入ったノウイ。これで一瞬の内に二人はリア・レーゼの街へと戻ったんだろう。これで心おきなく戦えるな。


「ようやくか……待ちくたびれたな。まだ辞世の句を読む暇くらいあるぞ」
「縁起でも無いこと言う奴だな。逃げることは許されず。死ぬまで戦い続けないと行けないのかもしれないけど、僕は諦めてここに残ったんじゃない。希望が全く残ってない訳じゃない。
 僕は増援を信じて戦い続けるんだよ」


 そう、リア・レーゼから援軍をローレが出してくれれば、どうにか出来る……かも知れない。死ななくても済むかも知れない。
 そんな可能性が一パーセントも無い訳じゃないんだ。てか、この状況で希望を抱くにはそれしかない。
 雨が地面を打ちつける音に混じり聞こえてくるその合唱。だけど奴等事態の姿は実際、全然見えないな。石化の光以降何もしてこないし……もしかしたら、あの石化の光は攻撃じゃなかったのかも知れない。
 体が復活してフレッシュな気持ちになった聖獣が、伸びをする感覚で放った光。それがたまたま撤退してた僧兵に当たっただけ……とも考えれるよ。
 もの凄く都合良く考えればだけど……


「奴等、歌なんか歌っちゃってるし、本当に来るのか? まだそっと森に帰る可能性も無い訳じゃないよな」
「本当にそんな可能性があるなら、我も祈りたいな」


 僕の言葉にリルフィンの奴がそんな返しをする。なんだかまるでその可能性は皆無みたいな言い方だな。僕はもの凄く期待してるんだけど。
 だって、奴等のスペックを考えれば、僕達がうだうだやってる間に襲うことも出来た筈だぞ。だけどそれをしなかったって事は……いや、それどころか歌なんて歌いだしてるし、期待はある意味大きいんだけど。


「お前にはこの歌が何の意味もなく紡がれてるとでも思えるのか?」
「意味ね……確かに合唱してる時点でおかしいけど……お前にはこの合唱の意味がわかるのか?」


 リルフィンはこの合唱に意味があると言う。まあ何の意味もなく歌ってる……とは思えない気持ちも分かる。だけどもしかしたら、せっかく得た言葉って奴を聖獣なりに堪能してるのかもしれないじゃん。


「流石にそれは無理があると思うよ」


 シルクちゃんにダメだしされちゃったよ。セラにならまだしもシルクちゃんに言われると、反論の余地もない。そういえばさっきからシルクちゃんはピクと共に何かやってる。何をやってるんだろう?


「これですか? ストック魔法の整理と更新です。何個かは使っちゃったので補充しないと。それにどんな魔法をストックしとくかも重要です。スオウ君を死なせない為には」
「色々とご迷惑をおかけします……」


 本当に全く……そろそろ「勝手にやってろ」と愛想尽かされてもおかしくないと思ってます。だけどまだみんな許してくれた。優しいよねみんな。
 シルクちゃんは幾つか魔法を詠唱する。だけどそれは発動しなくてピクヘと吸い込まれていく。ああやってストックしてるんだね。


「――で、奴等は何をやってるって言うのよリルフィン。わかるんなら教えなさい」


 セラがそんな風にリルフィンへ奴等の行動の真意を求める。確かにそれは知りたい所だな。聖獣共はあの歌に一体何を込めてるのか。


「そろそろ貴様達にも見えると思うぞ。奴等は既に動き出してる」


 リルフィンがそう言うと、地面に激しく落ちてた雨が、再びスローモーションの様に流れが遅くなる。それと同時に歌声がピタリと止んだ。するとその時、足下の地面が揺らぎだし、所々から泥が盛り上がり出す。


「これは……」
「来るぞ!」


 リルフィンの言葉の瞬間、大量のツタが地面を抉って飛び出してくる。やっぱりこれか……二度目だから何となく想像付いた。だけどこいつ等も森へ帰ってなかったか? それにツタの量がなんかとんでもない。
 雨が落ちてないから今は良く見える訳だけど、なんだか見える範囲一面にウネウネとしたツタが生えてるぞ。これを一体のあの貝だけで出来るとは流石に思えないな。
 そんな分析してると、近くのツタ共が早速僕達を襲い出す。だけどこの程度の攻撃は、幾ら増えようがって感じだ。
 元々がそんなに強くなんてない。確かに数が多いのは厄介だけどこいつらには効率的にダメージを与える方法がある。僕はセラ・シルフィングに雷撃を纏わせて、切りつけると同時に、雷撃を解放する。こうすることによって奴等はその本体にまでダメージを受けるんだ。
 雷撃を受けたツタは煙を上げて、ぐったりした感じになる。すると遠くに本体らしき物が地面から顔を出したのが見えた。だけどそれで確信した。やっぱり今は一体だけじゃない。雷撃が伝ったツタも今出てるのの半分もなかったし……少なくともあと数体は地面に埋まってる筈だ。
 そう思ってると、いきなり後ろから別のモンスターに首を噛まれる事に。


「つっ――こいつどこから!?」


 肩と首の付け根辺りをガブリと行かれてる。狼みたいなモンスターだから、牙がやばい。振り解こうにも勢い良く食い込んでるみたいだ。


「ジッとしときなさい!!」


 そんな声と共にセラがその武器でモンスターを一刀両断する。なんとか助かった。でも本当にどこから。視界は良好……とまでは行かないけど、土砂降りじゃないだけで、かなりマシになってるから気づかないなんてあり得ないと思うんだけど……


「油断しない。幾らこいつらが雑魚だからって、いつどこから聖獣が手を下すとも限らないのよ」
「わかってるよ。そもそも既にこの雨が止まってる時点で聖獣は動いてるしな」


 そうなんだよな。これはあのモブリ型の奴の魔法の一種。上を見ると、既に止めた分の雨が空に貯まってる。なんだか海と地面が逆転した様な光景だ。それか空中に浮いてるプールを見上げてるみたいな?
 とりあえずあれだけの水を落とされたらやばい。だけどだからってあれの止め方もわからない。モブリ型の聖獣は早々姿現さないしな。
 そう思って上を見てるととんでもない事に僕は気付いた。


「おい……あの空のプールからモンスター共が流れてきてるぞ」


 死角からどうやっていきなり現れたのかと思ったけど、そう言う事か。空中から現れるモンスター共は千差万別。聖獣はあの森のモンスターの頂点にいるってのはマジみたいだな。ウッドール共も性懲りも無く再び現れてるし。


「次から次へと現れるぞ!」
「ここから後ろには絶対に行かせるな! 死守するんだ!!」


 鍛冶屋とリルフィンの声が響く。この数を僕達数人で足止めしろってか……無謀だけどやるしかないんだよな。そもそも無謀なのはわかってた事。それでも僕はみんなの心配を余所に残ったんだ。
 なら文句なんて言ってられないだろう。
 僕達はそれぞれ連携してモンスター共に向かう。最初は順調だった。幾ら多くても雑魚は雑魚。修羅場を潜ってきた僕達と相対するのはやっぱりどこか役不足。
 けど、そんな雑魚の中に少し違う奴が混じりだしてた。
 ウッドールの別タイプみたいな奴等に、岩だらけのサイみたいな奴。それと二メートルくらいある。クチバシがデカい鳥。ダチョウみたいな体してて、素早くて攻撃も強力。しかも一番厄介なのは、そのダチョウみたいな奴の声だ。
 どうやら補助魔法を打ち消す効果があるみたいで、掛け直してもらってもその度に直ぐに解除されてしまう。
 補助魔法があるかないかは地味に効く。それに長期戦が予想される今の状況では、補助ってスゴい重要だ。心の支え部分で。
 だけどこれは素直に諦めるしかないっぽい。補助を掛けて貰う位なら、回復に回って貰った方がよくなってきてる。敵の質も次第に上がってる。
 数に任せただけの攻撃じゃない……ちゃんと重い奴を貰う回数は徐々に増えて行ってた。


「くっ……この数は流石にきつい。それに敵も厄介なのが増えてきてるしな」
「確かにね。しかも不気味な事に聖獣が姿を表さない。それが気になる所……だね!!」


 鍛冶屋とテッケンさんも流石にキツくなってきたのか、徐々に後ろに下がり初めてる。てかこのモンスター共、まずは目の前の敵を倒すのを義務づけられてるのか、先に進もうとしないな。
 ありがたいのか、そうじゃないのかちょっとわかんないけど、僕達の立場からしたらラッキーと思った方がいいんだよね。
 どんどん追い込まれる程にそう思わないといけないのは残酷だな。


「大丈夫スオウ? 大口叩いといて既にへばりましたとかやめてよね」
「うるさい。こんなのまだまだ全然余裕だっての。寧ろ歯ごたえがこんなもんで残念に思ってた所だな。聖獣の奴等、僕達に恐れをなして逃げたか?」
「ふん、いたたまれないわねその強がり、詭弁は。息切らしてる奴が何余裕ぶっこいてるのよ。言っとくけど、アンタにじゃなく、私に恐れおののいて聖獣は逃げ出してるんだから」


 おお、まさに強がりで言った言葉にセラの奴が乗ってきた。意外だな。だけどまあ、この状況……冗談でも言いから強がってないとやってられないんだよね。
 そんな事を背中合わせで言い合ってると、地面がモゴモゴと蠢き出す。またツタか? と思ってたけど、出てきたのはツタなんかよりもよっぽど強そうなモンスターでした。


「うおおおおおおおおおおおおお、なんじゃこりゃあああああああ!!?」


 僕は思わずそんな叫びをあげるよ。だって出てきたのはツタなんかよりもよっぽど凶悪そうなモンスターだ。蛇みたいな体してるんだけど、鱗がなんか凶悪だし、太さもツタの何倍もある。しかもデカ! 全長何十メートルあるんだこいつ。どうみてもボスクラスです。


「ちょっと……どれだけのクラスの敵が現れるのよ。鬱陶しいわね。ダンジョンの奥で構えてないと稀少性が失われるわよ」
「言ってる場合か!!」


 それは思うけど、こいつらは聖獣の命令を受けてるんだろ。でもまさかこんな奴等も動かせるとは……いや、もしかしたらこのクラスのモンスターでもあの森では普通に居るとか?


「ふざけるな!」


 おお、いきなりリルフィンの奴が横からこのモンスターに攻撃を加えた。例の白いトゲトゲした武器で、こちらに向いてた顔を側面から分殴った形だな。周りを巻き込んで倒れるモンスター。デカいからその衝撃も凄まじい。


「おお、リルフィンやるじゃん」
「このクラスはあの森にも数体しかいない。それだけ稀少性の高い奴だ。それだけにこの程度の攻撃では……」


 そう言ってると、地面の泥が壁の様に立ち上って迫ってくる。どうやら奴の尻尾が地面の表面をなぞりながら迫ってるみたいだな。
 てか、仲間の筈の他のモンスターも吹き飛ばしてるぞ。可哀想なモンスター共は空中に投げ出されてるよ。


「くっ!」


 リルフィンは腕を伸ばして見えない攻撃を繰り出してるみたいだ。だけどその攻撃は尻尾に至る前に、泥の壁に阻まれてる。まさか泥があんな役目をするとは……そしてそのまま僕までも巻き込んで奴の攻撃は炸裂した。
 今まで哀れと蔑んでたモンスターと同じ状況に陥ってしまったよ。尻尾に弾かれて空中に打ち上げられた僕とリルフィン。下を見ると、大きく口を開いた本体が見える。僕達を丸飲みしたいらしいな。
 けど、それは安易な選択だ。僕達はまだやられた訳じゃない!!


「リルフィン! 咥内めがけてさっきの攻撃を頼む!!」
「我に命令するな!! それが出来るのは主のみ!!」


 そんな事を言いながら、ちゃんと攻撃してくれるリルフィン。全く誰かに仕える奴等ってなんでこんなにツンデレなのだろうか?
 セラもそうだしこいつも……


「クシャアアアアアアアアアアアアアア!!!」


 リルフィンの攻撃でその長い舌が弾け飛ぶと同時にそんな断末魔の叫びが上がる。だけどまだだ! HPは減ったけど倒すまではまだまだ全然至ってない。
 今度は僕がセラ・シルフィングを使って咥内に飛び込むよ。それと同時にこのモンスターの体内から攻撃をする。外側は堅い鱗に覆われてるみたいだけど、中はどんな生物でも鍛える事なんか出来ないからな。
 攻撃が通る通る!! HPが見る見る減ってくぜ。このまま一気に倒す!! そう思ってると、なんだか地響きのような音が体内に響く。


「何だ?」


 そう呟くと同時に、口の方から声が聞こえた。


「やばいぞ、こいつのお得意の攻撃が来る。今直ぐ脱出するぞ!」


 むむむ、良いところだったのにな……だけどリルフィンの慌て様を見る限り、なんかやばそうだしここは素直に言うことを聞いとくか。僕は出口を目指して走り出す。
 すると後ろから何かの液体が同時に迫ってきてる事に気付いた。なんか黒く毒々しい液体だ。


「急げ! それに触れたらおしまいだぞ!!」


 なんだって!? 僕はスピードアップして喉の部分を駆けあが――あがっ!? ――うおおおおおお、なんか急に傾斜がキツく……このモンスターが液体の発射態勢でも整えてるのか、頭を持ち上げたせいでかなりヤバい事になった。


「くっ……急げスオウ!」
「そんな事言ったって……」


 ほぼ直角なんだけど!? 幾らなんでもこれは無理が有りすぎるだろ。体内にへばりつくので精一杯。だけどそれもどこまで持つか……なんかヌメヌメした液体が体内を膜の様に覆いだしてる。このままじゃマジで下の毒々しい液体の中へ落ちそうだ。
 今はなんか上へ昇ってこなくなったけど、下ではその液体を大量生成してるように見える。これを一気に外へ放出する気か? 確かにヤバそうだ。


「うおおお!?」


 いきなり左右に揺さぶるモンスター。すると上方からんな声が。そして暗くなってしまった。僕はリルフィンの名前を呼ぶけど反応がない。どうやら振り落とされたみたいだな。
 取りあえず上を目指すしかない。間に合うかわかんないけど、一歩一歩進むしかないんだ。ここじゃあ他の誰かのサポートも期待できないし、何とか外に出ないと。
 だけど上手く上れない。と、言うかこのヌメヌメした液体が致命的に邪魔だ。手を離そうとするとそれだけでヤバいとわかる。


(どうする……)


 そう考えてると、ゴゴゴゴとイヤな音が響く。そして蛇の体がグニャングニャンと動き出した。


「うおっうおっ――んぎっ!?」


 手を空かせる為にセラ・シルフィングを口でくわえてたけど、限界でした。グニャングニャン蠢く体内のせいで、僕は体内の肉から弾かれる。そして目指すは真っ逆様に毒々しい液体。
 絶対にこれは死ぬだろ。しかもタイミング悪く、向こうからも迫ってきてる!! 僕は意を決して口にくわえてたセラ・シルフィングを両手に戻す。そしてグニャングニャンしてる肉を渾身の力で斜めに傷を入れる。そしてそこに体を滑り込ませた。
 僕の考えが正しいのなら、この体内を包む液体はきっと……その瞬間毒々しい物が上昇する音とその量のせいか、一気に真っ暗になった。僕は外のみんなの無事を祈るしかできない。
 そしてそれは外のみんなもきっと同じだろう。うう……だけどなんか背中が焼けるように熱い。本当に僕は耐えられるのだろうか。わかんない……わかんないけど、自分を信じるしか今はない。




(勢いが収まった?)


 しばらくすると辺りが静かになった事に気付く。そして自分の体の生存も確認だ。HPが微妙に減ってるのは背中側の痛みのせいだろう。一体どうなったんだろうか? 僕は慎重に一歩を踏み出す。すると僅かにジュワーと靴が溶ける感覚が……ヤバいなこれ。
 だけど僕が無事だって事は自分の予想は当たってたと言うことだ。やっぱりあの体内を覆ってたヌメヌメしたのはこの強力な酸から体内を守る為の物だったんだろう。それを僕も利用したのだ。
 僕はさっきよりも傾斜が緩くなった体内を上がる。どうやら僕も僅かだけどダメージを受けた様に、あの液体でも完全に体内を守る事は出来ないみたいだな。口や喉の辺りが爛れてる。
 牙の隙間から僅かに見える光。どうにかしてこいつの口を開かせないといけないな。丁度弱ってるし、これで決めれないかな? 僕は頭が近そうな部分目指して剣を突き立てる。


 今の攻撃のせいで肉自体が爛れてるからか、速攻で骨にぶち当たる。だけど肉の抵抗が少なかった分、余力をこっちに回せる。僕は勢いを付けて、一気にセラ・シルフィングを押し込むよ。
 そして刺さった感触を確かめて、僕は雷撃を放つ。その瞬間、大きく口が開き、喉の奥から鼓膜を破る様な声が響く。大きく反り上がり、激しく体全体を揺らしてる。ここで外に出るのは簡単だけど、それだけどこれだけ効いてる攻撃を投げる事になってしまう。
 外からは効率よくダメージ与えられないし、ここはHPが無くなるまで粘ってやる!! グワングワンと揺さぶられても雷撃を与え続けて、しばらくすると一気に地面へと倒れた。どうやらHPが無くなった様だな。
 案外耐久力無かったな。やっぱり体内からの攻撃が効果的だったのかもしれない。僕は半開きになってる口から外へと出る。するとそこには信じられない光景が広がってた。
 おかしな臭いが充満してて、溶けた泥からは煙があがり、モンスターの苦しむ声が響いてる。地面も変に凸凹してるし、この蛇の毒々しい攻撃は恐ろしいほどのこの場を浸食してた。


「セラ! シルクちゃん! 鍛冶屋、テッケンさん……リルフィン!!」


 僕は地面に倒れてるみんなの元へ。何とかHPは残ってるけど、みんな瀕死状態じゃないか。シルクちゃんの傍ではピクもがっくりとうなだれてる。


「よかった……スオウ君無事だったんですね。なんとかストック魔法を使いきって守ったんですけど、どうやら今の攻撃は浸食型だったみたいです。HPじゃない別の所にダメージを残す……リカバリーをもっと用意しておくべきでした」


 良くわかんないけど、この惨状はあの蛇の攻撃が特殊だったからってことだろう。くそ……どうすれば……幸いにもモンスターも殆ど動けない状態だから良かったな。そう思ってると、聞こえるパチンと指を鳴らす音。
 すると空中に溜まってた水が一気に下へと流れてくる。大量の水が再び僕達を津波の様に襲う。僕達は更にリア・レーゼへと近い場所へと流される。そして再び響く雨の音。だけど何故か今までと違う感じがする。
 そう思ってると、空が光ってる? いや違う、何かの光が空を染めてる。僕は後ろを振り返る。するとその光の正体を知った。雨の向こうで、世界樹が輝く光を放ってる。そしてそんな光に誘われる様に森の方から響く大量の叫び。聖獣……そして引き連れるモンスターはこれまでの比じゃない数と禍々しさを誇っている。

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