命改変プログラム

ファーストなサイコロ

雨は続く



 砕け散る空間と、消えていく柊にシクラ、そして悪魔を含めたモンスターどもの姿。雨の打ち付ける音が戻り、その感触も感じれる。僕の周りには頼もしいみんなの背中が見える。


「みんな……どうして?」


 僕がそんな的外れな声を出すと、僕の名前を呼んでくれたみんなの中のセラがこういうよ。


「どうして? そんなのアンタがいつものようにバカばっかりやるからに決まってるでしょ。一人で行かないでよ。私達を……仲間をなんだと思ってるのよ!!」


 セラの言葉の後に、みんなが僕を見る。その暖かな視線は、雨で冷えた体に染み渡るよ。


(そうだ……セラの言うとおりだ。みんなはこうやって僕にいつだって付き合ってくれるのに……僕はまだわかってなかった)


 僕は顔を俯かせて、こみ上げてきそうな何かを隠す。するとその時、再び指を鳴らす音がリズミカルに聞こえる。僕はすぐさまあのモブリ型の聖獣の攻撃の合図だとみんなに伝えるよ。


「この音、あの小さな奴の詠唱短縮の手段だと思います。きっとまた魔法が……」


 かけられた事に気づきも出来なかった魔法だ。僕は十分な警戒を促す。すると周りに打ち付けてる雨がどんどんゆっくりに成ってるような。
 まさか目が良く成りすぎてこんな風に見えてる……とかじゃないと思うし、ならこれはやっぱりウサ聖獣の魔法効果。ゆっくりと空中でスローモーションの様になってた雨がついには制止する。
 それはまるでカメラでこの瞬間を切り取ったみたいな世界だ。


「雨が止まったっす……」


 ノウイがこの異常な光景を見てそう発する。


「これは……迂闊に動かない方が良いのかしら?」
「いや、寧ろこの状態が攻撃の前段階だとしたら、今の内に動くのが正解かも知れないよ」


 セラとテッケンさんがそれぞれどうするべき話してる。確かに迷う所だよ。雨は土砂降りだったから、少しでも動けば触れる位の所で止まってる。動くべきか動かないべきか……


「スオウ君はどう思う?」


 ここで僕に振るんだ。経験豊富な二人の見解を期待してたんだけど、どうやらどっちを選ぶのが正解かなんて、経験でもわかるものでもない。
 だからここの判断は僕に委ねてくれるって事だろう。


「そうですね……」


 僕はこの停止した雨を無視してクリエを抱える背の高い聖獣をみる。そして決めたよ。


「僕は動きます。臆病風に吹かれた時の自分を後悔なんかしたくない。何が起こるのかなんかわからないですけど、今僕は一人じゃない……だからきっと大丈夫ですよ」
「――よし、なら行こうじゃないか!!」


 僕の言葉に納得してくれたみんな。僕たちは一斉に動く。実際一番怖かったのは最初に雨粒に触れる時。爆弾にでも変化してたらどうしようかと思いながらヒヤヒヤしてたけど、そんな心配は実際なかった。
 僕たちは普通に雨粒を弾いて進むことが出来たよ。僕とセラと鍛冶屋とテッケンさんはクリエを取り戻す為に、最後の聖獣の元へと向かう。
 ウサギな感じの聖獣はなかなか姿を現さないからこの際無視だよ。いちいち探してなんかいられない。シルクちゃんとピクは後方支援。いざという時の要員として待機するのがノウイだ。
 僕達四人は止まった雨の粒を弾けさせながら前へと進む。不思議な感覚だ。雨が空中で止まって、そして目の前の聖獣も動かないから時間が止まってるのかの様な錯覚に陥る。
 だけどそうじゃないってのは確実。それに実際時間を止めるのなら、なんで雨と仲間を止めて、敵である僕達が自由に動ける仕様なんだって事になる。
 そんなの絶対におかしいからな。普通逆だろ。でもそれならこの雨を停止させた意図が謎だな。一体なんの為にこんな事を? 
 まあわからない事に頭を使ってる場合でもないな。僕達は今から最後の聖獣とのバトルに突入するんだ。余裕ぶって微動打にしないけど、せいぜいそうやってるんだな。


 僕達はそれぞれの武器にスキルをまとわせる。それぞれ纏ったスキルの特色が現れる色の光が武器から輝く。そんな光が線を帯びて一体の聖獣へと向かってるんだ。
 そしていざ攻撃――そんな時に、再び聞こえたパチンと指を鳴らす音。だけど僕達は今更それを気にする余裕なんてなかった。
 でもその時、後ろに行るシルクちゃんんとノウイ――よりも更に後ろで動けなくなってたリルフィンが何かに気づいたのか、声をあらげてこう叫ぶ。


「今直ぐその場から離れろ!!」


 僕達は視界の端でそんな事を叫ぶリルフィンを確認したけど、その意味は分からなかった。何をそんなに慌てる事があるかわからない。相変わらず目の前の聖獣は微動打にしないし、ここで攻撃を中止したらクリーンヒットが決まりそうなこの状況を不意にする事になる。
 それは余りにもおし……ん?
 一瞬目を離した隙に、聖獣の背中から石膏の羽が現れた。そしてそのコウモリっぽい羽を羽ばたかせて、聖獣は一気に僕達の間合いから離れてく。


「くっそ――――ん、何だ?」
 悔しい言葉を噛みしめる前に僕の視界には何かが映る。というか映るべき空がなんかおかしく見えるような。羽を出して羽ばたいた聖獣の姿を追って視線が上に向いたから気付いた。
 気付いた……けどこれはなんだ?


「ちょっ――これって――」


 セラは一瞬でこの空から大量に迫る物の正体を理解したらしい。だけどそれを聞く前に、僕達の声は叫びに変わり、周囲はその何かに埋め尽くされる。
 体を潰しかねない信じられない位の水圧が僕達を襲ってそして、何故か今は上も下もわからない無重力の渦の中で僕の意識は薄らいでた。


(なんだこれ……水? いつのまに海に……)


 そう思うほどに大量な水の中に僕はいるようだ。朦朧とする意識の中で、僕は必死に手を伸ばす。上も下もわからないけど、ただただ離したくない手を探すように。


(クリエ……クリエ……クリ……エ)


 この水の流れが僕とクリエを離してる様な気がする。いや、実際離してるんだろう。このまままた僕は、離してしまうのだろうか。セツリと同じように……クリエも。


(そんなの…………)


 僕は水中で水の流れに逆らう。歯を喰い締めると力を入れすぎて空気が漏れていく。だけどそれでも、この思いは変わらない。
 僕は両のセラ・シルフィングに力を込める。そしてこの思いを吐き出した!!


(絶対に認めるかあああああああああああああ!!)


 二つの風のうねりが僕の周りの水を押し退ける。荒い息を吐き、僕はその羽根を広げて空を舞ってる聖獣を見据える。
 そしてフラフラのまま一歩を踏み出して、左側のうねりを聖獣へと向けた。再び降りしきる雨を貫いて迫るうねり。だけどそのうねりは奴らが持つ盾に寄って阻まれる。イクシードのうねりもその盾へと吸収されていくんだ。
 だけどそれ位はこの朦朧とした頭でもわかる。わかってた事だ。だからこそ、僕は残りの力をありったけ込めて右側のウネリを振り抜いた。


「イクシードを舐めるなああああああ!!」


 盾は左側のイクシードを防いでる。だからこそこの攻撃を防ぐ事は出来ない。イクシードのウネリが聖獣へと直撃する。その瞬間、奴は腕に抱えてたクリエを落として、空を突き抜けて行く。
 空から地上に真っ逆さまに落ち出すクリエ。僕は攻撃を途中で切り上げて、フラフラの足を前へ前へと無理矢理動かす。
 流石にここまで来ると両腕のセラ・シルフィングが重い。


「ハァハァ――ツッ」
 次第に足で力強く地面を蹴り、更に早く走る為にセラ・シルフィングをその手から離す。ゴメンよ、セラ・シルフィング。だけどクリエの為だ……だからこそ理解してほしい。
 鞘に戻す時間さえ惜しかった。僕はクリエが落ちてくるその場所に先に居なきゃいけないんだ。そしてちゃんと受け止める。それは僕の役目のはずだから。


「クリエエエエエエエエエ!!」


 僕はぬかるんだ地面を蹴ってダイビングヘッドよろしく、おもいっきりジャンプする。きっと受け止められる、僕はそう信じてる。だけどその時、クリエは僕の腕に落ちてくる少し上で何故かピタリと止まったんだ。


「ぬなっ!?」


 そんな声を出しても、空中で止まったクリエが僕の腕に落ちてくる事はない。僕はクリエの下を通り過ぎて、ぬかるむ地面へとまさにダイビングヘッドした。
 ビッシャビシャになる体。泥で全身覆われた感じ。まあだけどこの雨で、気にせずとも洗い流してくれるだろう。それよりも空中で止まったクリエだ。
 口に入った泥を吐き出しながら僕はクリエを見る。良く見るとクリエの体には細い糸の様な物が絡まってるのがわかる。
 あれがクリエを中空に釣り上げてるのか。それならあの糸を切れば――ってセラ・シルフィングがない! そうだ、途中で投げ捨てたんだった。
 僕は急いでセラ・シルフィングを取りに戻ろうとするけど、そこで再び上へと上がってくクリエに気付く。どうやら聖獣がその糸を手繰り寄せてるみたいだ。
 このままにしておくとまたクリエが聖獣の手の中へと行ってしまう。僕は地面の上に放置されたセラ・シルフィングとクリエを見る。確実なのはセラ・シルフィングを拾ってクリエを助ける事だろうけど、そんな時間的猶予はない。
 僕は上昇していくクリエに飛びつくよ。


「行かせるか! 絶対にお前の事は守ってやる! それは……絶対なんだ!!」


 僕がクリエに抱きついた事で、一瞬ガクンと下がった糸。だけどそれでも地面につくほどじゃない。それに再びその糸は僕ごとクリエを持っていこうとしてる。
 細い癖になんて頑丈な糸だ。僕はウインドウを表示させて、アイテム欄の中から、ナイフを取り出す。何の変哲もない……ただ敵を倒した時にたまたま手に入ったナイフ。念の為に売らなくてよかったよ。
 僕はそのナイフでクリエを縛ってるその糸を切ろうとする。だけど糸は想像以上に頑丈だ。やっぱりただの糸なんかじゃない。そう思ってると、再びあの音が聞こえた。
 パチンパチンと指を成らす音。すると水の固まりが僕の体を目指してぶつかって来るじゃないか。しかも水だからって思ってるととんでもない威力でビックリだ。
 体に当たる度に激しく弾けて、体の内側にまで衝撃を伝える――そんな感じ。


「ぐっ――づあ!――がっは!?」


 四方八方から次々と迫るそんな攻撃。どうやら僕を落としたいらしいけど……そうは行くか!! 僕は攻撃を受けながらも必死にクリエの体にしがみつく。


(離してたまるか……)


 そんな思いで僕はただただ攻撃に耐える。HPがどんどん減っていくけど、それでも自分から離す事なんか出来ない……してたまるかよ。
 そうやって必死にしがみついてると、ピタリと衝撃が止む。耐えきったって事か? そう思ってると後ろの方から羽根の音とそれに伴う風が感じられる。視線を後ろに向けると、そこには最後の一体の聖獣の姿があった。
 尖った長い耳と長身の体……こいつはエルフを模した聖獣か。て、事は僕達が最初に追いつめた奴が人型だった訳だ。メドゥーサみたいな奴だったから、良くわかんなかった。
 こいつは一体どんな力を持ってるやつなんだ? エルフもあんまり予想出来ない。特徴っていったら、さっき行った所位で人よりも体が大きくてスタイルがいい位しか思いつかない。
 その分、ウンディーネやスレイプル、モブリは分かりやすい。魚に武器を生み出す体質に、魔法徳化のウサギの様な体型。
 でもこいつはみる限りおかしな――と言うかモンスター的な外見が余り見つからない。普通にそこら辺のエルフと混じっても、もしも体の色が同じなら見分けなんかつかないかもしれない。
 それほどモンスターっぽくないんだ。特徴は背中の羽根と腰の後ろ側に幅を取って差してる長刀くらいな物。まあ後は忘れてはいけない仮面。
 聖獣は何もいわずにその腰にある刀へと腕を伸ばす。どうやら邪魔な僕を切り捨てようって腹らしいな。くっそ……なんでクリエなんだよ。


(ん? 待てよ……)


 自分の中で言った一言……僕は今まで考えて無かったことに気付いた。そうだ、なんでクリエにこうもこいつら拘ってるんだ?
 最初のあのメドゥーサ野郎は逃げるために利用出来るクリエを人質に取った。そう思ってた。だけどもしかしてその時から違ったのかもしれない。
 だって今は奴らの方が何倍も有利だ。今の僕達の戦力じゃあ、どう考えたってこいつらと相対するのは厳しい。それなのに、わざわざ人質を取る必要なんてないじゃないか。
 でも奴らはこうやってクリエを狙ってる。そう……聖獣はクリエにこだわってる。これはきっと紛れもない事実だ。いままで巻き込まれただけと思ってたクリエだったけど、そうじゃない。
 明らかに聖獣の狙いはこいつへと化してる。
 僕は力が抜けそうな腕に必死に力をかき集めて落ちないようにしつつ、聖獣へとその疑問をぶつける。


「貴様等はなんでクリエを狙う? こいつはお前たちにとってなんなんだ?」


 答えなんか期待しちゃ居なかった。だって聖獣だしな。喋った奴も居たけど、それはかなりお粗末な言葉だった。だけどそれでも知りたいじゃないか。聞かずにはいられない。
 自分を頼ってくれる奴を狙う不届き者共の理由。知っておいて損なんてないだろう。まあ教えてくれたらで、こいつが喋れたらだけど……雨のカーテンが僕達の間に降り注いでる。音の激しさは時間が経つごとに増して言ってるような気さえする。
 そんな中、僕の言葉を理解するの為の間なのかどうかわかんないけど、変なにらみ合いの時間が続く。答える気があるのか? そんな期待が少し募る。
 だけどその時だ。下から僕とクリエを包む光が昇ってきたのは。


「なんだ?」


 そんな声を出し下を見てみると、残りの聖獣が勢ぞろいして、複雑な魔法陣を地面に描いてる。おいおい、何をやろうとしてるんだこいつらは……
 聖獣があわさって作る魔法陣から不気味な紫色した光があふれてる。そして周囲ではビキバキとその力の影響か変な音が聞こえてる。
 僕の頭に警報が鳴り響く。どう考えても不味いことが起きる。てかそれしか考えられない。僕は羽根付き聖獣から視線を逸らしてクリエを解放するために、糸を切る作業に戻る。


「くっそ……切れろ! 切れろよ!!」


 幾ら引いても押してもクリエに絡まってる糸は切れそうにない。と言うか、傷一つ付きやしない。本当でたらめな強度だな。
 それかやっぱりナイフがショボ過ぎるかのどっちかだな。後者ならこれを気にもっと良いのに変えると心に決めたよ。
 だけど問題は今この瞬間なんだよな。今、この糸を切れないとクリエを救う事は出来ない。すると今までおとなしく眠ってたクリエに異変が……


「うぅ……あぁあああ……」
「クリエ? おい、どうした!?」


 突如苦しみ出すクリエ。するとその時、僕の左腕にも異変が。


「づっ!」


 テトラに受けた呪いの痣が色濃く浮き出て来る。そしてざわざわと体を浸食する感触がわかる。まさかクリエもこれと同じような事が?
 そう思って苦しんでるクリエをみると、その全身には背中にあった筈の二人の神の模様が行き渡って来てた。


「これは……」


 ざわざわする呪いを必死に押さえつけながらそんな事を呟く。そして気付いたら、何かよくわからない……理解できない言葉がこの光の内部で紡がれてる。
 それは聖獣の声? こいつら本当に一体なにをする気なんだ?
 次第に激しさを増していくクリエの声。僕は何も出来ない自分の無力さが悔しい。こんなに苦しんでるのに、僕はしがみついてる事しか出来ないんだ。
 全身に広がった二つの模様。それは次第にクリエの臍あたりから空中へと流れ出す。どんどんどんどんその二つの模様が流れ出し空中で球体を作り出してる。
 するとその模様が流れ出すのと連動するように、クリエの叫びは大きくなり、一定のラインを超えた辺りから、声を出す力もなくなったのか、不自然に力が抜けた様に体がぐったりとした。
 それはもの凄く不安に成る姿。だってまだ模様は流れ出てるのに、さっきまでの叫びが嘘の様に静かで、それに顔色も蒼白に成っていく様に見える。
 僕は一か八かその模様が溢れだしてる箇所を押さえ込む事に。だけどそれは容易じゃなかった。この模様はもしかしたら神の力その物を表してるのかもしれない。だからその流れを妨げようとした僕の手にはもの凄い力の奔流が押し寄せる。


「ダメだ! 戻れよ!! いや、出ていっても良いけど、クリエの命ごとは止めろ!!」


 この力が無くなればクリエは普通にきっとなれる。誰にも狙われることも、利用されることもなく、同じ年代の子と一緒に学び笑えるだろう。
 時には泣くこともあるだろうけど、きっとずっと楽しい毎日に成るはずだ。だからこんな力はいらない。幾らでも持っていっていいさ。
 だけど……こいつの先まで奪うことは容認なんて出来ない!! だから僕は必死にその流れを止めにかかる。呪いが浸食した腕を強引にクリエの臍の線にするんだ。
 溢れ出す力の奔流に押し戻されそうになったり、その力で指の爪の間から血が流れ出たりしてる。
 けど、もう痛さなんて実際良くわからない領域に達してる。それにそんなの気にしてられるか。このままじゃクリエが……こんなに近くに居るのに、それを黙って見てるだけなんか出来るわけがないんだ。
「うおおおおおおおおおおおおお、そんなに力がほしいのなら、この腕の呪いもくれてやる!! 同じ神の力なんだから、満足だろ!? だからこいつの命の分は持っていくんじゃねええええええ!!」


 溢れ出す模様を僕は押さえる。だけど指の隙間から溢れ出すのを止められない。だけど僕は願うよ。


「行くな! 行くな行くな行くな行くな行くな行くな行くないくな!!」


 するとその時だ。クリエの白い方の模様が反応した。空中に飛び出したその片方の模様は僕の腕を直接通り抜け再びクリエの中へと入ってく。だけど黒い方の模様。僕の腕にある方と同じ模様はドンドン出ていく。そして空中には真っ黒な模様の球体が出来あがった。
 すると羽根付きの聖獣が鞘から抜いてない刀で僕を殴り飛ばす。かなり強烈な一撃。一瞬の内に、クリエに巻き付いていた糸が引き伸ばされて切れた。解放された訳だけど、僕はそれを知る間もなく地面を転がる羽目に。僕は眠ったクリエを守って地面にぶつかる。背中に伝わる衝撃に空気が強制排出された。
 だけど……なんとか離さずにすんだ。僕はそれに満足してクリエを抱きしめる。良かった……のかはまだわからない。だけど両方の力が吸い取られていた時よりも顔色は良いし、何よりも息をしてる。
 クリエはまだ生きててくれてるんだとわかる。だからいいんだ。するとその時僕は気付いた。お札の力で雨に濡れない筈のクリエ。その瞳から涙が一滴流れてる事に。


「スオウ君!」
「テッケンさん……」


 何とかあの水流から復活してみんながこちらに駆け寄ってくる。


「クリエちゃんはどうなりましたか?」
「この通り、なんとか取り戻したよ」


 僕は腕に抱えるクリエをシルクちゃんへとみせる。するとホッと安心した息を吐くシルクちゃんは、隣に膝をついてクリエの頭を撫で撫でするよ。


「良かった……」
「まだですよシルク様。アレはどういう事か説明しなさい」


 セラの奴が僕達の優しい空気を壊して状況説明を求めてくる。全く……その通りまだ終わっちゃないな。気を緩めるには早かった。
 僕は空にある球体を見つめ口を開く。


「アレはクリエの中にあった神の力……だと思う。それを奴らが特殊な魔法で抜き出したんだ」
「なっ!? じゃあ奴らはその力を手にしてますます強く成ると言うことか?」
「そこまではわからないけど、不味いことは確かだよな」


 鍛冶屋の奴の言葉に僕はそう答える。そしてそんな時、強大な神の力を抜き取った聖獣達は、その力を一斉に取り込み始めた。球体からそれぞれの聖獣に向かう模様を奴等は食べだす。紫の妖しい光の中と外で、その力はきっと離されて行ってるんだと思う。

コメント

コメントを書く

「SF」の人気作品

書籍化作品