命改変プログラム

ファーストなサイコロ

沈まない敵

 立ち上った水は大きくせり上がり、聖獣を囲む。聖獣の放った石化の光、それは水に反射して行ききっと自信に戻った筈だ。
 取り合えずいえることは、天井へ向かって伸びる一本の大きな光の柱。これがきっとその証だって事。
 大きく立ち昇った水は、一瞬の内にはその姿を再び地面へと落としてく。大きな音と大量の水しぶき。それらが僕達に掛かるよ。


「みなさん!!」
「ノウイ……どうだ? やったか?」


 ノウイは僕達の位置を正確に知るために、ミラージュコロイドを使って空中にいたんだ。だからこそみんなの正確な位置に鏡を出現させて、そして全員の出現する鏡の位置も完璧だったと言うわけだ。
 そんなノウイはどこまで見てた? 気になる。


「やったかどうかはわかんないっすけど、みんなの現状がこの作戦の成功を物語ってるっすよ!!」


 力強く拳を握りそう告げるノウイ。確かに僕達は全員無事だ。そして水の壁の中から上がったあの光……それらを考えると上手く行った気はする。だけどその姿を確認するまでは安心なんて出来ないよな。
 僕達は聖獣を探す。細かな水滴がなんだか空中に僅かに漂って、周りが白く成ってるような気がする。まるで霧が発生してるかの様なさ。
 そんな中、聖獣が居るはずの位置を僕達は見つめるんだ。


「何の音?」


 セラが耳に手を当てて何かの音を聞いてる。僕達も耳を澄ますと確かに何かポチャボチャと言う音が聞こえた。そしてそんな音に混じって何かが呻くような声も僅かだけど聞こえる。
 ポチャ……ボチャチャ――と次第にその音の感覚は早くなって行く。白い霧で覆われた向こうで、僕の想像ではきっと聖獣がハゲに成ってるはず。
 これは蛇が石化して落ちて行ってる音だと僕は思う。そして白く立ちこめてた霧は次第に足下の水面に溶けるように消えていく。それと同時にようやく聖獣が足下から姿を現し出す。
 だけどその足下がわかるだけで僕達の行動が成功したのかはわかった。だってその足下には、蛇の残骸らしき物が水から顔を出してる。


「これは……」
「ええ、成功と言えるわよね」
「はい!」


 テッケンさんにセラ、シルクちゃんもその足下を見て確信したようだ。足下から下半身、そして胴も見えて、最後にはきっと見窄らしくなった顔だろう。
 すると丁度最後の蛇が崩れ落ちる所だった。ポチャンという音が空しく響く。広がる波紋は僕達の所まで届くけど、それは何の驚異もないただの振動だ。
 僕達はそれぞれ再び戦闘態勢に入る。一気に畳みかける為だ。奴の驚異の攻撃の術は絶った。それなら今度はこっちが攻める番だろ。


「反撃開始だ!!」


 僕達は恥ずかしいサングラスを放り捨てて、一斉に四方から聖獣に迫る。水面をバシャバシャと蹴り、動かなく成った聖獣を目指して走るんだ。遠距離攻撃が出来る面々も今回は走る。
 何故なら奴はまだ盾を持ってるからだ。遠距離攻撃は何をやってもあの盾に弾かれる。だけどそれは遠距離だからってのが僕達の見解。
 だからこそ今度は近距離戦で行くことにしてるんだ。今まではあの蛇の石化の攻撃で近付けなかった。だから必然的に遠くから攻撃するしかなくて、本当に上手くやってたんだと思う。
 だけどその一角が崩れた今、近距離戦を阻む手段は聖獣にはもうない。あの石化の攻撃がプレイヤーを近づかせない意味も担ってたとしたら、この攻撃は普通に通る筈だ!!
 僕とセラと鍛冶屋とテッケンさん、それぞれが一斉にその武器を振りかぶる。


「「「うおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」


 大きな音と共に再び水柱が立ち上る。その衝撃に周りからは「やったっす!」とかの声が聞こえる。だけど僕達はわかってた。手応えが無かったことに。


「まだだ!!」


 僕がそう叫んだ瞬間、水柱の中から石膏の腕が出て来た。そして一気に全身と共に、僕の上に落ちてくる。


「ぐはっ!?」


 この野郎、きっと攻撃が当たる直前にジャンプしてかわしてたんだ。そして立ち上った水を利用して、死角から攻めに転じた……そういうことだろう。
 僕を押し倒した聖獣が顔を間近に近付ける。仮面で隠されたその顔で唯一生気を持って光る物が僕には見えた。それは瞳……淡い光がその目の部分には幾つも光ってる。


「あ……ああ……あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」


 耳障りなうめき声が仮面越しで籠もって聞こえる。なんだか狂気じみたその声に、僕は恐怖を感じるよ。首を押さえられた状態で、倒された僕……聖獣は顔を離したと思ったら、今度はその盾の下の方の尖ってる部分を僕へ向ける。
 ヤバいと思った。コイツ、武器が無くなったからって盾を武器に使う気か。顔面をその盾で突き刺す気だ。だけどその腕が落ちてくる前に、僕と聖獣に大きな影が落ちるよ。
 それは大鎚を振りかぶってる鍛冶屋の影。


「よお、そいつにばっかり構ってるんじゃねーよ!!」


 その言葉と共に、フルスイングをした鍛冶屋。目の前でベキャっと言う音が聞こえて、聖獣は僕の上から吹き飛んだ。
 水を弾きながら転がっていく聖獣。鍛冶屋は「ホームランにはほど遠いか」とか呟いてた。確かに今のフルスイングの勢いほど聖獣は飛んでない。せいぜいヒットって所だろう。
 やっぱり石膏みたいな体してるから、飛びにくいのかも知れない。


「けほごほ……助かったよ鍛冶屋」
「油断するなよ。石化はなくなっても、奴は聖獣だ」


 そう言って鍛冶屋は聖獣の方を見る。丁度聖獣は水から立ち上がってる所だ。効いてるみたいで、その動きは少しカクカクしてるように見える。
 しかもようやく、HPが崩れてるしな。


「ていやああああああああ!!」
「はあああああ!!」


 立ち上がり際を狙って、テッケンさん×3とセラがそれぞれの方向から聖獣へ攻撃を仕掛ける。これには思わず聖獣も下がらざる得ない。
 だけど二人とも素早く聖獣を追いかけるよ。セラは今度は近接用の武器に組み替えてるな。両側に刃が付いてる、長刀の豪華版みたいな武器だ。
 テッケンさん達はそれぞれが違う武器を装備してる。一人はナイフで、もう一人は小刀、そしてナックル? ただでさえリーチが短いのに、なんでそれを選択するの? って武器だなナックルって。
 だけど計四人からの攻撃に聖獣はタジタジだ。さっきから避けきれずにHPは削られ続けてる。行ける……これは行けるぞ!!


「鍛冶屋!」
「ああ、俺たちも行くぞ!!」


 僕達二人も水を弾いてテッケンさん達に加わる。入れ替わり立ち替わりで攻め続ける僕ら。最強の攻撃手段を無くした聖獣にこの僕達を止めることは出来ない。
 攻撃が当たると次第に聖獣の体の石膏に傷が付くように成ってきた。弾け飛ぶのは踏み込んだ時の水だけじゃない。奴の体の破片が僕達の攻撃の有効度を物語ってる。
 テッケンさん三人が様々な方向から攻撃して、セラがその黄金の武器で奴の体を切り刻む。そして更に僕が雷撃を纏わせたセラ・シルフィングでその体に傷を付けてその傷跡が光を持っていく。
 その最後に鍛冶屋が破壊力抜群の大鎚で聖獣をブン殴るんだ!! そして聖獣が吹き飛んでる最中にさっき仕込んでたスキルを僕は発動する。
 僕が付けた奴の体の傷。そこから発生する雷撃。切り刻めば切り刻むほどにその威力を増すスキル。雷撃の光が聖獣の体を包み込み辺り一面に青白い光が行き渡る。そしてそのまま水面へと落ちる聖獣。


「やった……か?」


 今度こそ勝利の雄叫びを上げても良いんだろうか? 僕は周りのみんなにも確認するよ。


「まだ勝利宣言には早いよスオウ君。黒こげに成ってるとは言え、奴はまだそこに存在してる。HPも僅かだが残ってる」
「じゃあ、これで終わりにしましょう」


 その僅かを削り切れば完全勝利って事だろう。実際石化の攻撃を防いでも他に何かあるだろうと思ってたけど、拍子抜けだったな。
 警戒し過ぎたのかも知れない。あの盾と石化のコンボがこの聖獣の最強手段だったって事だろうな。僕は聖獣に近づいて行き、セラ・シルフィングを掲げる。これを振り卸して終わり。
 僕達の勝利だ。所々から煙を上げてる聖獣を見下ろして僕は一回息を吸って吐き、そしてセラ・シルフィングを振り卸した。だけどその剣の勢いは途中で止められた。奴の素手によってだ。


「なっ!? コイツまだこんな力が……」
「ああ……ああああああ・ああああ・ああ・あ・あああああああ・あ・ああああ……ああ・ああ・あ……あ・あ」


 僕は聖獣の腕から剣を引き抜こうとしてるけど、いかんせんピクリとも動かない。そう思ってると、いきなり僕の視界がぶれた。どうやら奴が強引に僕ごと剣を引っ張ってるみたいだ。
 そして軽々と、僕ごと放り投げられた。


「ぬあああああああああ!?」


 水面を弾けさせて数回バウンドする。何とか態勢を整えて、顔を上げると、水が目に入ってボヤケる視界の先で聖獣の体から激しい閃光が炸裂する。


「しまっ――」


 閃光がボヤケてた視界までをも奪い去る。手でのガードなんて意味をなさない。サングラスを投げ捨てた事を本気で後悔した。
 何も見えない中、音だけは聞こえてる。だから状況判断はそれに頼るしかない状況だ。聞こえてくるのはみんなの叫び。それと激しく響く水の音。どういう訳か、今僕には雨が降ってるよ。
 僅かに目を開けると、真っ白な視界に僅かな色の違いを確認出来る程度しかまだ見えない。これじゃあまだまだ視界に頼る事は出来なさそうだ。
 素直に音に頼った方がいいのかも知れないけど、普段から見る事に馴れてるから、音だけじゃ実際不安しか募らない。
 だから見えなくても、必死に目を凝らそうと僕はしてる。するとその時、近くからジャポジャポという音が聞こえた。
 足音? だけどやっぱり誰か確認出来ない。味方か? だけど嫌な感じしか感じれない。足音はこちらに向かって速まってる。


「くっそ!」


 僕は自分の直感を信じて、セラ・シルフィングを振りかぶる。その瞬間、セラ・シルフィングに伝わった感触はまるで石でも叩いたかの様な感触。やっぱりコイツは……そう思ってると、いきなり頭を殴打されて、続けざまに横っ腹に内蔵が飛び出るかと思うくらいの、強烈な衝撃が走る。
 そしてその衝撃の勢いのまま再び水面を転がることに成った。雨が降ってるかの様な音が周囲に響く。口の中に血の味が広がっていく。
 視界の片方もただ見えないだけじゃなく、何となく黒ずんでる様になってしまった。きっとさっきの攻撃で血が流れてるんだろう。
 そんな状況把握をやってると、どこかから水面が爆発するような音が聞こえた。こっちに向かってきてるとか正直わかんないけど、嫌な予感がした僕は、セラ・シルフィングを取り合えず振るう。
 だけどその行為も空しく、衝撃は背中側から来た。


「ぐわあああああああああああああああ!!」


 背中の肩胛骨辺りを抉ったその衝撃で、僕はまた水面にダイブする事に。顔から行ったから、一気に水が口へと進入して呼吸困難へと陥る羽目に……体に走る激痛もヤバかったけど、それよりも水を排出したい僕は、急いで水から体を上げる。


「がはっ! ごほっほ――っがっが」


 空気を求めて僕は必死に水を追い出す。僅かに瞳を空けると、四つん這いに成ってる自分の姿が水面に僅かだけど確認できた。
 視界は戻ってきてる。いつまでも調子に乗ってるんじゃ――っづ!!


「がぼばああああああああ!!」


 唐突に顔が水へ落とされた。突然の事で訳が分からないけど、取り合えず頭がもの凄く痛いのはわかる。現在進行形で踏みつけられてるしな。
 起きあがろうにも、聖獣のハンパない力には対抗の術がない。寧ろ何故か地面にめり込んでいきそうな勢いだ。これはヤバい……こんな浅い水場で窒息死なんて冗談じゃないぞ。
 だけど力を入れれば入れる程に、苦しくなる一方だ。何とか歯を喰い締めて空気がこれ以上漏れていくのを耐えていたけど、ある一定のラインまで行くと、そこに空気がないとわかってても、口を開けてしまう。
 苦しくて苦しくて……息を吐き出してしまう。白い泡が目の前に広がる。淡い緑色に光ってる水面が段々と黒く沈んでいく様な感覚に襲われる……これはヤバい。
 手の先から……足の先から底冷えするような冷たさが這い上がって来てる。
 僕はこれを知ってる……これはいつか感じた『死』と言う感覚だ。


(ダメだ……こんなのダメだ。クリエに信じて待ってろって言った……だから……こんなのは……ダメ……なん……)


 視界に映ってた光が小さく……小さく……そのとき、意識の向こう側で、小さな音が聞こえてた。ピシピシと言う変な音。するとその音は一気にはじける様に大きく強くなって、気付くと僕は水責めの刑から解放されてた。


「――――――――がはっは……あれ?」


 もう一度瞳を開ける事が出来た僕はそんな声を出す。だってあのまま意識は無くなったと思ったんだ。だけど今僕は、どうやらまだ生きてるらしい。それに地面に溢れてた水と一緒に僕と聖獣は空中に浮いてる。
 これは一体……そう思って顔に手を当てると、そこで僕は気付いたよ。視界が戻ってる。ようやくまともに見える様になってくれたらしい。


「風? 竜巻?」


 なんだか灰色の風が渦巻いてる様に見える。その中に僕と聖獣は囲われてる。この竜巻が水と一緒に僕を持ち上げてくれたのか。でも一体誰の魔法だ?
 順当に考えるとシルクちゃんだけど――一人で考察してると、無様に浮き上がってる聖獣がその盾を上に突き出す。すると竜巻の回転が次第にその盾へと集まり出すじゃないか。


「アイツ、この竜巻も吸収する気か」


 竜巻はみるみると盾へと消えていき、僕は勢いそのままに水と共に地面に落ちる。無様に落ちた僕と違い、聖獣はその頑丈そうな足で、地面を踏みしめて着地した――と同時に、盾をある方向に向けて吸収した竜巻を解放する。


「「「うああああああああああ!?」」」


 響く僧兵達の悲鳴。彼らも小さいから良く飛んでる。てか、彼らが助けてくれたのか。流石に僕たちのやられ様を見て、リルフィンが我慢できなくなったんだろう。で、そのリルフィンはどこに? 
 と思ってると、上からトゲいっぱいの武器を携えたリルフィンが盾を構えてる聖獣の腕を力一杯に叩く。その瞬間聖獣の腕が微妙に上へ反動でズレて、竜巻の軌道も逸れた。
 更にリルフィンの奴は、僅かに力が弱まったこの時を見逃さずに、聖獣の腕を叩いた武器をそのままスライドさせて、手から盾を弾いたんだ。


「これで貴様を守る物は何もない!!」


 そう言ったリルフィンは素早く聖獣から距離を取って、準備させておいたのだろう僧兵達の別部隊に合図を送る。


「今だ!! やれ!!」


 その合図を皮切りに、聖獣の足下へ現れる魔法陣。これは実際僕もその範囲に入ってそうな……そう思ってると、いきなり襟首を捕まれて引っ張られる。
 すると一瞬の内に聖獣から数メートル離れた位置に僕は居た。


「大丈夫っすかスオウ君?」
「ノウイ……これは?」
「リルフィンさんの大策っすよ。彼はこれで決めるみたいっす。ああ、そう言えばこれも回収しときましたっすよ」


 そう言ってリルフィンはセラ・シルフィングを僕に渡してくれる。そうか、意識が一瞬途切れた時に手から放れてたみたいだ。
 流石ノウイ、良い仕事をしてくれる。散々自分は何も出来ないって気にしてるけど、やっぱりそんな事は全然ないよ。感謝してもしきれない位に、実は影で僕たちをいっぱいいっぱい助けてくれてるんだ。


「サンキューノウイ。で、実際倒せるの……」


 不意に視線を聖獣の方へ戻してみると、その様子にビックリだ。魔法陣はなんだか凄いことになってるぞ。地面に現れた物と、そこからもう一つ分離して空中に魔法陣が出てる。
 そしてその間で赤黒い光線か雷撃みたいな物がスパークを繰り返してる。


「なんだか凄いな」
「あれは合唱魔法です。特定人数で使うことが出来る強力な魔法の一種なんですよ。こう言うのを見ると、流石魔法の国だと思いますね」


 僕の体に回復魔法をかけながら、シルクちゃんがそんな説明をしてくれる。合唱魔法……そんなのもあるんだね。まさに切り札と言った魔法って事か。魔法陣の間の光が徐々に強くなっていく。
 中の聖獣の苦しみの叫びがこの空間に響いてる。どうやら合唱魔法の特徴は詠唱が終わって発動するんじゃなく。発動中も全員で詠唱を続けなくてはいけないみたいだ。
 僧兵の魔法担当の人たちは淡い光を称えながら、必死に詠唱を続けてる。空間全体が揺れる様な振動も響いてきて、その光が空間を埋め尽くす程に輝き出す。声にさえならない叫び。僅かに見える魔法陣内部では聖獣が必死に蠢いてるのがわかる。
 だけど流石に今の聖獣にこの魔法からの脱出手段はない。石化の蛇も失い。自身を守る縦も既にその手にない。これで本当に終われるかも知れない。
 そう思ってると、魔法陣の範囲から腕が一本飛び出て来た。なんとかして脱出しようとしてる。あれだけのエネルギーの中を動けるってだけで信じられないけど、奴は聖獣。そんなあり得ない事をやれる奴なんだ。


「おいリルフィン!!」


 僕は不安に刈られてそんな声を出す。だけどリルフィンは落ち着き払ってこう言うよ。


「心配するな。これで終わりだ!!」


 その言葉の直後、一瞬凝縮するようにエネルギーが収まって、それに伴ってこの空間全体が暗くなった様に感じた。だけどその一瞬は本当に刹那。凝縮されたエネルギーは今まで放出してた数倍の規模で爆発を起こす。
 空間全体が揺れると言うか崩れる様な衝撃。鼓膜を一気に通り抜けた感じの音が脳を激しく揺さぶった。一気に弾け飛んだ水は僕たちに届く前に蒸発して消えていく。
 これは凄い……凄いけど……自分達まで吹き飛ばされそうな勢いだ。何とかみんな耐えたけど、爆風だけで死ぬかと思ったわ!!






「どうだ?」


 爆炎の向こうに視線を凝らす。だけど、その様子を伺い知る事はまだ出来ない。魔法を放った僧兵の皆さんは流石にゼイゼイ息を切らしてるな。
 流石にあれだけの魔法を使うのは疲れるらしい。


「疲れると言うか……あれだけ長い詠唱が大変なんです。間違う訳にはいかないし、息を吸って吐くタイミングも難しいです。乱す事は出来ないですから」
「凄いシビアな魔法なんだね」


 まあだからこそのこの威力。条件が厳しい程に強力になるのは世界の常だよな。薄緑色の水が、蒸発して無くなった場所へと流れて行って、焼けただれた地面を冷やしてる。
 その音なのかジュジュジュジュ~と熱したフライパンに水を落とした時の様な音が聞こえるよ。するとそこに変な音が混じってるのに気付いた。
 なんだかバシャンボションと重たい物が水に落ちてるような……そんな音だ。僕たち全員に緊張の糸が張りつめる。そんなバカなって思う。今の聖獣にアレを防ぎきれるなんて思えない。
 だけど元から石膏の様な体の奴だった。元々の頑丈さで耐え抜いたのかも知れない。そう思ってると周りからもボチャボチャと言う音が聞こえて来て、天井から水滴が降ってくる。
 上を見上げると、天井部分の空間が壊れかけてるみたいだ。その隙間から雨が入り込んでる。
 壊れかけの空間。そこに気を取られてると、ジャボンと言う一際大きな音が前方から聞こえた。視線を向けるとそこには満身創痍の聖獣の姿がある。


「まさか……耐えたと言うのかアレに!?」


 リルフィンの驚愕の声。だけど確かにまだ、ヒビが入った仮面の下の瞳は強く輝いてる。

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