命改変プログラム

ファーストなサイコロ

顕現のテトラ



 淡い橙色の光源に薄暗く照らされるこの場所。金色に輝く世界を支える樹と二人の神の神壇が奉られてるここが今、神聖というか、不気味な感じで静まり返ってしまった。
 何故なら、邪神テトラの像から湧き出た黒い影。それに参拝に来てた人達は怯えて一斉に逃げ出したからだ。ドタドタバタバタと、きっとこの場所ではあり得ない位の騒々しさだったろう。開け放たれた、後ろの引き戸は外れてるし、床に散らばった座布団が、彼らの慌て振りを物語ってる。
 そしてその後が今な訳だ。参拝客が居なくなって、残ったのは僕達だけ。邪神の像から染み出す様に溢れてる黒い霧もまだ収まってはいない。


「わわ、どうしたのかな? クリエはとっても面白いと思うのに。楽しいよねこう言うの!」
「クリエちゃん、これはアトラクションじゃないんだよ。起こるはずのない事が起きてるからみんな慌てたの」


 クリエの相変わらずな脳天気な言葉に、シルクちゃんがきちんとした説明をしてくれてる。だけどクリエの奴は「あとら~くしょん?」とか変な所でつっかえてるよ。
 そんな中、激しく音を立ててどっかに言ってたリルフィンが姿を見せる。


「どうした? 随分騒がしいが何が――――ぬぁ!? なんだこれは!!」


 奥から現れたリルフィンはこの惨状(言うほどでもない)を目にして驚愕してる。騒がしい音に釣られて出てきた割には覚悟って物が足りないな。何かある――とは思っておけよ。
 それともこれは想定の範囲外だったと言うことか? 


「おい貴様、そんな所で膝を付いてないでどう言うことか説明しろ」


 何故に僕に説明を求める? 苦しがってる様に見えないのか? テッケンさんとかに聞けよ。まあ実際痛い訳じゃなく、なんだか内側がウズウズするというか、モゾモゾするというか、ジンジンするというか……そんな感じなんだよね。
 そう疼いてる感じだ。まあ僕もよく分かってないけど、見えることだけ教えてやろう。


「見ての通り、信者が目を覚ましただけだろ」
「殺されたいらしいな」


 ポキポキ指を鳴らしながら迫り来るリルフィン。う~ん冗談にしては場が悪かったか。流石にここで言うと不味いよね。
 僕はしょうがないから慌てて言い直すよ。


「ちょっと待て待て。今のは無し。周囲に黒い霧みたいなのが出てるだろ。それがそこの邪神の像から出てきたものだから参拝客がパニックに成って逃げ出したんだ」
「まさか……そんな機能は搭載してないぞ」
「だろうね」


 そんな機能を搭載してたら、信者から批判続出だろ。神をバカにしてると思われかねないよね。神聖な物にカラクリなんて無粋なだけ。


「だけど実際この有様だ。テトラの像からこの霧が出てきてるだろ」
「誰かのせいで災厄が始まる……その前兆みたいだな」


 イヤな事を言う奴だな。僕のせいだとでも言いたいのか? そんな確証全くないだろ。たく、なんでもかんでも僕と関連付けるなよな。


「だけどスオウ君のその呪いに反応してる様にも見えるっすよ」


 うるっせ。ノウイの奴余計な事を言うなよ。まるで僕が疫病神みたいじゃないか。リア・レーゼに来るときも言われてたけど、今の状況じゃ強く否定できないと自分で自覚してるぞ。
 聖獣の件もある意味僕のせいだし……そんな事を思ってると、この場にクリエの変な声が響く。


「あうあうあうあうあ……」
「どうしたのクリエちゃん?」


 クリエのおかしな声に反応するシルクちゃん。何をアイツは見てるんだ? すると突然、この場に溢れだした霧がモコモコと蠢きだした。そしてどこからともなく吹いてきた風に霧は一カ所に集まり、なにやらその姿を形作っていく。


「お……前は……」


 震える声を出すリルフィン。だけどそれも無理もない事だ。だってその霧が集まって形作った姿は……どう見てもそこの像と同じ、邪神の姿。


「テトラ……」


 なんだか随分懐かしく思える姿だな。実際それほど日にちは経ってないんだけど、日々が濃いせいでそんな風に思う。
 僕は腕を押さえながら立ち上がる。この腕の疼きは、術者に反応してたって事か? 霧によって淡く形作られたテトラはまるで、水墨画が飛び出してきた様な感じ。
 ユラユラと揺らめいて、吹けば簡単に消えそうな危うさがある。随分とお些末な感じで姿を現した物だ。僕の声に反応したのかどうか知らないけど、霧となって姿を現したテトラの瞳がゆっくりと開いて僕を捉える。
【よう、どうだ調子は? もう期限は迫ってる。遊んでる暇はないぞ】
「遊んでねぇよ。僕は真剣にやってる。てか……一体どうやって出てきてるんだよ」


 こいつが変な登場をするものだから、沢山の人が怖がったじゃないか。もっと普通に登場出来ないのか?


【そう言うな。今の俺はこちらに顕現する事はしたくないんだよ。ここには丁度良い寄代があったからこういう形で出てきたんだ】
 よりしろ……それがあの像って事ね。まあ確かにこの気を逃したら、僕に次ぎ会うのはそれこそ暗黒大陸にもう一度行く位しかないだろう。
 だって邪神とされてるテトラの像なんて、そうそう有る訳ないもんね。シクラ教では明らかな敵らしいし、実際ここに飾られてるのって奇跡に近いことだよ。
 だから多少強引にでも出てきたと。僕の進捗具合が気になって?


「――で、出てきたんなら何か有るんだろうな? てか、そもそもお前が与えた情報無さすぎるんだよ。金魂水使わせたいのなら、何かヒント出せ!」


 僕は神に向かってあり得ない態度してます。まあだけど、テトラは邪神だし問題ないよね。


【ヒントか。出してやろうにも、ルートが決まってる訳じゃない。どんな道筋を辿って目的地に着くかはお前次第。お前がこの世界の本当の神に愛されてるのなら……道はそこへきっと収束するさ。
 それにお前だって、俺が金魂水で何をしたいのか、少しはわかってるだろう?】


 そう言ってその長い黒髪を揺らすテトラ。みんなはなんか初めて見る神と言う存在に言葉を出せないで居る様だ。よってこの場には僕とテトラだけの声が響く事に。


「何をしたいか……ね。神様が考える様な事は僕には想像出来ないけど、予想するにもう一人の神に関係あるんじゃないのか?
 お前とシクラ……二人の神の問題とかさ」


 僕がそう言うと、テトラは不意にシクラの像の方を向いた。そして物思いにふける顔で【良い線はいってる】とだけ言ったよ。
 まあ実際、こいつと一番関係深そうなのってもう一人の神であるシクラ位だと思うから、誰でもきっと当てれると思う。
 まあ実際、シスカ教の教えを受けてるNPCとかなら、こいつの現れた目的を世界滅亡とか考えてもおかしくないんだろうけど、初めに会ったときからそう言うイメージが僕にはなかったんだよな。
 こいつも何かを願ってた。それが世界滅亡とか世界征服とかとは違うと思うんだ。だってあの時のこいつは無理矢理で強引だったけど、それだけしてでも――という気持ちが感じれたよ。
 それを僕は悪人のそれとは違うと感じたんだと思う。だからこそこうやって話せるんだしな。こいつを真の邪神とか思ってたら、流石の僕でもこんな風に会話できない。
 みんなと同じようになっちゃうよ。するとその時、意を決したように口を開く者が一人。


「邪神テトラ……まさかこんな所に現れるとは、随分図太い神経だな。流石だ。だが飛んで火に居る夏の虫と言わざる得ない」


 そう言ってリルフィンは自身が纏ってたローブを勢い良く脱ぎ捨てた。現れるはその特異な姿。白銀の髪に同じ白銀の毛で覆われた上半身。そして蒼碧の瞳がテトラを真っ直ぐに見つめてる。すると次の瞬間突然に、テトラの煙の体に数カ所穴が空く。リルフィンお得意の攻撃が炸裂したようだ。


「おいリルフィン! ちょっと待て!」


 僕は慌ててそう叫ぶ。だけどリルフィンは止まる気がないようだ。


「うるさい! 貴様も邪神の手下だったとはな。どうりで災厄をもたらす者な訳だ。私は主とこの街に不利益になる輩を許しておく気はない!」


 そう言って奴の白銀の髪の毛がザワザワと逆立ちしだした。おいおい、また敵認識されちゃったじゃないか。


「少し落ち着けよ。僕がここに居ることはお前の主が認めてる事だ! それに僕達はこれから聖獣を倒さないといけないんだぞ! 戦力が減って良いのかよ!?」
【聖獣?】


 僕の必死の言葉に、何故かテトラがちょっと反応したけど、そこを気にしてる場合じゃない。これでだめならマジで戦闘する羽目になるぞ。止まれよリルフィン。


「ちっ……貴様の命は聖獣を倒すまでは保留にしといてやる。だが、そこの邪神は別だ。そいつはこの世界に闇をもたらす存在。ここで滅っすれば世界は救われる」


 なんとか僕の方の問題は保留になったけど、依然としてテトラのことは倒す気満々なリルフィンだ。だけどそんな言葉を聞いて高笑いしだすテトラ。
 穴が空いてる癖に……神の余裕と言う奴か?


【くっくはっはっはははは! 貴様その姿、五種族ではないな。世界の外れ者が、世界を語るとは甚だおかしい。貴様も俺と同じだ。ここにはいない方が良い存在だろ?】


 空いていた穴が煙が再び集まると同時に消えていく。どうやら実体じゃないこの虚像にダメージを与える事は出来ないみたいだな。てか、五種族じゃないって……いや、確かにリルフィンの姿は異質だけど……じゃあ何だって言うんだ?
 それに居ない方が良い存在って……自覚してたんだな。


「笑わせるな邪神が。貴様と私は同じじゃない。お前は世界の誰からも必要とされないが、私は違う! 私には必要としてくれる主が居る!! 
 実際世界がどうだろうと、私は主さえ居ればいいんだ。あの方がこの世界を、この街を好いている。だからそれを脅かす輩は私が排除する。それだけの事」


 そう言うと今度はお尻の所から、尻尾まで現れた。マジで何なのこいつ? 獣人か? てか、そこまでローレの事を思ってたんだな。意外だよ。そしてそんな思いを熱く語ったリルフィンは、尻尾を掴むとその尻尾がズポッと着脱した。
 ええええええええええ!!?? だよ。 僕達みんなその様子に驚愕。するとその尻尾部分が、セラとの対決で見せた剣へと変わりゆく。
 まあ実際、剣と言って良いのかは微妙だけどね。どっちかって言うと、あれは棍棒なのかな? 斬れそうに無いし、寧ろあの沢山のトゲで叩いて串刺しにするのが正しい使用方か。


【ふん、契約でしか絆を確かめられない分際が、よくもまあ吠えるな。いや、実際犬だから当然か。大層な武器を取りだしたようだが、この俺を叩いても効果はないぞ】


 懇切丁寧に嫌みと共にそう告げるテトラ。だけどそれをわかってないリルフィンじゃないと思うけど。それより犬とは……それはリルフィンの立場とかを言い表してるんだよなきっと。確かに犬……なのか?


「効果なんて期待していない。ただ貴様を排除するために使うだけだ。ここは主の統治する街。邪神に好き勝手やらせるわけにはいかん!!」


 そう言ってリルフィンはその武器をテトラに向かって突き立てる。先端も鋭利なトゲが出てるから、それでぶっさそうと言う魂胆か。いや、実際には刺さらないとわかってるだろうから、さっさと追い出すための威嚇。
 だけどテトラはその攻撃が届く前に、突如自身の姿を霧へと戻した。黒い霧は床に蔓延して個体を無くす。どこを攻撃して良いのかわからないリルフィン。僕達もキョロキョロと辺りを見回すよ。


【邪神邪神とさっきからうるさい奴だ。自分との格の違いがわからん訳でも無いだろうに……そんなに今の主が大事か? その感情……行き過ぎだ。
 だが、なかなか持って面白い】


 そんな声が辺りに響くと思ったら、黒い霧の上に魔法陣が複数現れては消えていく。しかもなんだかいつも見るシルクちゃんとかプレイヤーや普通のNPC、それにモンスターが使う時に出る魔法陣とは何か異色だ。
 まず色も黒いし、ただの円じゃなくまがまがしい感じにその円を飛び出して文字が這うように広がってる。


「なんだか不味い感じがします」
「同意見だな。リルフィン武器を納めろ!」


 なんかどう考えても不味そう。不吉な感じはシルクちゃんだけじゃなく、みんな感じてた。だけどリルフィンは意地でもテトラを追い出したいのか、足下の霧に向けて武器を降り続けてる。
 なんかその姿はいつものリルフィンっぽくない。飛空挺で戦った時、こいつは冷静に燃え上がるタイプだった気がしたけど、今は誰よりも周りが見えてない状態だ。
 なんだかまるで、ここに居る誰よりもテトラと言う存在に怯えてるかの様……そう思ってると、クリエが何かを感じたのこう叫ぶ。


「来るよ! 気をつけて!!」


 その瞬間、大量の霧がリルフィンの足下から一斉に吹きあがった。そしてその勢いは凄まじく、手元から武器を払い落として天井までリルフィンを持ち上げた。
 吹き上がった霧は天井で拡散すると、再び一カ所に集まりその姿を形作る。黒い漆黒の髪が大きく揺らめいてテトラがその存在を表した。


「きっさま……」
【お前に貴様呼ばわりされる謂われはないな。様をつけろ。それが正しい立場だろ】
「だれが邪神などに……ぐぅ!」


 どうなってるのか分かりづらいけど、リルフィンがピンチなのは十分に伝わってくる。アイツの神懸かり的な強さは僕も良く知ってる。そりゃあリルフィンも強いけど……テトラは神の名を体現する程に強い。どうあがいたってアイツは一人で倒せる次元には居ない。
 まさに神なんだ。その称号は伊達じゃない。


【いつからこんな風になったか知らないが、これでは良くない。それをお前は知ってるはずだ。その存在を正しく見つめれる様にしてやるよ】


 そう言うとテトラの腕に幾重にも重なった魔法陣が現れる。あれは不味い! 僕は直感でそう感じたよ。かなう筈もない……だけどこのまま放って置くことなんか出来ない!


「ノウイ!!」
「分かったっす!!」


 僕の意志を足りない言葉だけでも受け取ったノウイはその場に鏡を出現させる。ノウイの唯一の必殺スキル『ミラージュコロイド』どんな距離だってこれを使えば一瞬だ。そりゃあ限界距離は有るけど、ここの床から天井までは余裕。僕はすぐさま飛び込んだ。
 そして次に現れるはテトラの側に出現した鏡からだ。僕は現れたと同時に、リルフィンに向かって伸ばされてた腕を叩き斬る。


「その辺にしとけよテトラ!」
【ふっ……】


 イヤな笑いを漏らしたテトラ。その顔はまだ諦めてない感じ。そして何かリルフィンの様子がおかしいことに気づいた。二人の視線が真っ正面からぶつかってる。そして何故かリルフィンは瞼を見開き瞬き一つしない。
 まだ何かやってる。僕は重力に従って落ちる前に、体を回転させてリルフィンを掴んでる腕も斬った。するとその瞬間、リルフィンの体も僕と同じように床目指して落ちることに。


「おい! 大丈夫かおい!」


 僕は落ちながらリルフィンに声を掛けるけど反応がない。やっぱり何かされてたらしい。このままじゃ受け身もまともに取れないぞ。この空間は結構天井高いから、流石になにも出来ずに床に激突は不味いと思う。
 実際僕も気が気じゃないけどさ、今はリルフィンの奴の方が心配だよ。そう思ってると床と僕たちの間に大きな魔法陣が現れた。そこに落ちると魔法陣事態がゴムみたいに伸びて勢いを吸収してくれる。
 そして殆ど勢いがなくなったら、ブチンと切れて、伸びた所から床に落としてくれた。


「うぎゃ!」「くっ……」


 イテテ、正気でも普通に着地ミスった。


「大丈夫ですか?」
「ははは何とか……助かったよ。ありがとうシルクちゃん」
「いえ、そんな……でも無茶しすぎです」


 やっぱりあの魔法はシルクちゃんだよね。流石頼りになる子です。フォロー態勢万全だね。僕の突然の無茶もシルクちゃんが居てこそだよ。


「っつ――私は一体……」
「おお、正気に戻ったかリルフィン」


 どうやら今の着地の時に頭を打ったのが良かったらしい。怪我の功名とはこの事だね。


「まさか貴様が私を?」


 リルフィンの視線は僕が出してる剣へ向かって、そんな推測を出した。理解が早いね。僕は肯定したよ。


「どうして貴様が危険を冒してまで私を助けた? そこまでする必要性があったか?」


 おいおい折角助けてやったんだから素直に喜ぶか礼でも言えよ。まあリルフィンはこう言いそうだったけどさ……別にそこまでおかしい事かな? と思うんだけど。


「必要性とかじゃない、知り合いがやられてるのに黙ってられるか。僕たちはもう知らない仲じゃないんだぞ」


 僕が真剣にそう言うと、なんだかポカ~ンとしてるリルフィン。なに? そんなに意外な返答だったか? 普通だろ。なんだか余りのリルフィンの反応にこちらが恥ずかしくなってきてると、不意にリルフィンが視線を落とす。


「バカな奴だな全く。私は貴様を助ける事なんてきっと無いぞ。優先順位が貴様等は低いからな」


 あらら、なんて奴だ。ハッキリ言うな全く。まあ別に良いんだけど。元々リルフィンにそんな事期待してないしな。


「別にそれでも良いよ。助けられたい訳じゃないし、お前を助けたのも僕の勝手だ。それでいい」


 僕は軽くそう言ってやるよ。そして問題の奴が居る上方に視線を向ける。


「それよりも問題はアイツだろ。まだ倒したいのか?」
「くっ……」


 僕がテトラを見つめながらそう言うと、悔しげな声が聞こえたよ。自分では勝てないと理解したらしい。まあ実際、神なんかとまともにやり合おうなんて考えない方が良い。
 アイツはそれこそ天災みたいな物だよ。ぶつからなくて良いのなら通り過ぎるのを待った方が良い。別にどこかに被害を与える訳でもないしな。
 だけど既に僕まで手を出したし……どうなるか分からない。怒ってたら不味いけど……


【良い動きだったじゃないか。この俺から仲間を助けるとは大した物だ。初めにぶつかった時から思ったが、俺を神と知りまたぶつかるとはやっぱりお前にして良かったみたいだ。
 まあそもそもぶつかる気も無かった訳だが、そこの身の程知らずが来るから、少しお灸を据えだけ。十分だろ】


 どうやらテトラはこれ以上やり合う気はないみたいだな。良かった良かった。テトラは空中から降りてくる間、僕の腕に視線を集中させてた。きっと呪いの進捗状況でも確かめてるんだろう。
 そして降りてきた所で、僕これを聞いたよ。


「じゃあ何で現れたんだよ?」
【言っただろ、丁度よりしろが会ったから状況を知りたくて顕現したんだ。お前が私の願いを叶えられるか、見極めたくてな】
「それって、最初にした事じゃないのかよ。てかダメそうだと思ったらどうなるんだ?」


 もしかしてダメだと分かったら、呪いを解いて解放してくれるとか? マジお願いします。淡い期待に胸を膨らませる僕。


【最初はただ何となく……だ。マザーもあのイレギュラーな連中もお前を気にしてたからな。だが期待外れなら、ここで終わらせる気だった。
 お前を殺して金魂水を奪い返してな】
「おいおい、なんで殺すんだよ。そんな事しなくても返すぞ」


 僕の期待は砕けたよ。物騒な事は良いから貰っていってくださいと言いたい。


【安心しろ、お前にはまだ期待してる。契約は続行だ。お前の願いと私の願い。それが掛かってる事を忘れるなよ】


 なんか知らないが認められてるし……結局僕の命は後僅かかよ。そう思ってるとテトラの姿が段々と薄れていく。


【ああ、そうそう言い忘れたが聖獣を相手にするのは気をつけろ。お前たちではきついと思うぞ。あれはただのモンスターじゃない。使命を勝手に持った世界樹の傀儡だ】


 傀儡? そんな不吉な言葉を残してテトラの姿は消え去った。

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