命改変プログラム

ファーストなサイコロ

神の姿をうつす物



 僕達を包む光が収まっていき、吹き付ける風と、辺りに響く雨の音が聞こえてくる。やっぱりこの場所はもの凄く風の勢いが強いな。
 油断してると飛ばされるよマジで。僕達はあの宇宙空間みたいな場所から、再びこのLROの星の中へと降りてきた訳です。
 今まで居たのが樹の傘の部分なら、今居る場所は幹で支柱の部分だな。まあここもかなり高いんだけど、今まで居た場所が別格過ぎて、今や「こんなもんだったか」位にしか思えない自分が居るよ。
 まあここはここでは地平線が見えるから、世界を中から見る分には良い場所だよ。今は土砂降りのせいであんまり遠くまでは見えないけど……


「うひゃーーー! 雨すごーーーい!」


 そんな事を言ってるクリエは真っ先にこの風に飛ばされそうだから、ここに戻る時から既に僕の腕の中だ。でもクリエの言うとおり、なんかこれは雨ってよりスコール!! って感じ。
 ここには屋根あるけど、風が凄いせいで横から全然雨粒が入ってくるという仕様だね。屋根の意味がない位に横からの雨が凄い。
 まるでバケツに溜めた水を被らされてるみたいな……その位の量が常時僕達の体を襲うよ。


「うおおおおおおお、酔いが醒めるうううう!!」
「自分もっすううううううう!!」


 だけどどうやらこの雨の襲来は酔っぱらい二人には良い酔い覚めになりそうだった。気持ちよさそうに寝てるのを叩き起こして、半ば無理矢理連れてきたもんな。
 面倒な酔っぱらいの酔いが醒めるのは良いことだよね。僕達にとっては災難以外の何者でもないけど……


「あばばばば――ぺっ!」
「クリエお前! 雨で何ウガイしてるんだよ!」


 きったないだろ。


「あぶぶぶぶ、だって水が沢山だからもったいないでしょ?」


 既にびしょ濡れなのも関係なくハシャいでるなコイツ。てかもったいないならゴックンすれよ。吐き出すな。まぁそれもお勧めは出来ないけどな。


「みんな大変そうだね」
「ちょ!? 何でテッケンさんは全然濡れてないんですか?」


 軽い感じの声が聞こえたと思ったら、テッケンさんが余裕の顔してこちらを哀れんでるよ。てか、テッケンさんが掴まってるリルフィンもなんか全く濡れてなくない? コイツ絶対何かしてる。


「どうやらリルフィン君が雨避けと風避けの障壁か何かを張ってるみたいだね。おかげで僕もこの通りだよ」
「「「そんな! ズルい!!」」」


 僕達びしょ濡れ組が一斉に声を出して抗議する。だけどそう言えば、ここで僕達を襲ってきたモブリも風の影響を受けてなかった。
 それにはこういう理由があったんだな。てか、雨なのはローレの予報でわかってたし、そもそもこの風自体が危険なんだから、僕達にもその障壁を掛けてくれる優しさがリルフィンには必要だったよな。全く気が利かない奴だ。


「これはこのリア・レーゼに住むものだけに与えられた慈悲なのだ。余所者はその都度一回使いきりの護符を購入しろ。向こうの本殿にも販売してあるぞ。
 まあ普通は一階部分で買うわけだがな。買わなかった貴様等が悪い」
「おい……僕達は買わなかったんじゃなく、買えなかったんだよ!! わかってる癖に言わせんな!!」


 だって僕達はその一階部分なんて知らないからな。幽閉されて、いきなりここだよ! どうやってそんなの買えと? 言えば良かったのか? ここまで案内される前に「ちょっと護符が欲しいんですけど……」と!? 
 きっとあのサン・ジェルクの手先共はそれでも買わせてくれなかっただろうし、そもそも幽閉されてた奴らにそんな権限どっち道なかった!
 僕の反論に、周りからは「そーだそーだ!」の応援の声。ここはお前が責任もって全員にその護符を渡すべきだ!
 ここは直ぐに通り抜ける訳だけど、これからこの雨の中、聖獣とまで呼ばれるモンスターと戦闘しに行かなきゃいけないんだからな。視界が奪われるのは痛いだろどう考えても。
 この雨は絶対に目を開けるのも辛いよ。まだここは上からじゃなく、横からバシャバシャ来る感じだから、頭から水を被ってる感じになってない分だけマシだけどさ、下に行けばそうは行かないだろ。
 外へ出れば屋根なんてないんだし、この雨が脳天を直撃するのは目に見えてる。


「買えなかったんだから仕方ないと? なら今買えば良いことだろ。丁度本殿に用があるしな」
「いや、だからそういう訳じゃ――アブブブブ!?」


 クッソ……横殴りの雨に邪魔された。てか、どうやっても掛けてくれる気はないらしいな。な~んかリルフィンってどこか僕達と距離を置いてるよな。
 ローレの奴は無闇に近かったけど。まあ物理面で言えばローレの方が顔も知らない分遠いけどさ、心の距離で言うと近づいた気はする。あれだけ言い合いしたからな。
 それなのにリルフィンは常に離れた距離で僕達を達観してる感じがあるよ。まあ馴れ合いたくないのかな? とも思うけど……障壁掛けてくれる位いいと思うんだ。


「しょうがないですよスオウ君。本殿に行くんですし、そこで買いましょう。そんなに高くはないでしょうし」
「うん、そだね――て!?」


 僕はここでとんでもない事に気付いてしまった。シルクちゃんも当然びしょ濡れ……その服が体に張り付いてなんかエロい。可愛らしいシルクちゃんが更にエロカワイイ。
 やばいな悩殺ものだよコレは。
 しかも服が白いから肌も……そしてブラとかもその……透けてるね。まあ輪郭と色が薄く見える程度なんだけど……体のラインが出るってだけで良いじゃん。
 シルクちゃんの装備はゆったりフワフワの服だから今までそういうのは見えなかったもん。うん、女の子の濡れた姿とは良いものだ。
 まさか、これを見せるためにわざとリルフィンの奴……ってんな訳ないか。


「どうしましたスオウ君? 早くついてかないと、もっと一杯濡れちゃいますよ」
「ああ……うん」


 僕はなるべくシルクちゃんを見ないようにしてそう言った。いや、なんかシルクちゃんにはいつもいつもお世話になってるし、そんな下心全快の瞳で見るってのには抵抗がね。そりゃあじっくり見て目に焼き付けときたいけど、それをしたらシルクちゃんの好意を素直に受け取れなくなりそう。


「スオウどうしたの?」
「何でもない……」


 クリエの言葉に僕はそう返して大きく息を吐く。てか、先に出ていったリルフィンもシルクちゃん達も既に雨で見づらくなってるな。この転送魔法陣の場所から出るって事は、この雨……いや、スコールを諸に被るってことなんだよな。気が重くなる。まあ今のため息はそれに関してじゃないけど、クリエはどうやらそうだと思ったらしい。


「もうスオウは……雨ぐらいクリエ平気だよ。もっと楽しく考えれば良いんだよ。こんな大雨なかなかないもん、一杯濡れてるし、もっと濡れる事を楽しんだらいいの!」
「楽しめるかコレ……」


 音とか聞く限りなんか床に穴でも空けそうなほどにダバダバ鳴らしてるぞ。しかもこの本殿の方へ続く一本道の回廊……何故か手すりもなければ、両サイドに壁もないんですけど。
 上でも思ったけどさ、リア・レーゼには安全意識がないのだろうか? そりゃあ普通は障壁を張るから風とかも問題無いんだろうけど、万が一に備える物だろ普通は。
 安全には安全を重ねる……それが万一に備えるって事だ。なのに、リア・レーゼはそこら辺が凄くお粗末。どんなに高くても、落下防止用の壁やロープを設置しないのには、何かポリシーでもあるのだろうか?
 僕が不安に思ってると、残ってた最後の一人が隣に立つよ。


「楽しむんじゃなく、アンタはその伸ばした鼻の下を引き締める気持ちで行きなさいよ。修行とかと思って全力でね」
「セラ……てか、別に鼻の下なんか伸ばしてないし」


 僕は片手で鼻の下辺りを隠してそう言うよ。てか、セラも濡れてるから妙にエロいな。エルフだから体型はモデル並だし、なんと言ってもメイド服が濡れてる様はなんか背徳的。
 するとセラは突如自分の肩を押さえてブルッと震えた。


「今何か、アンタの視線から悪寒を感じたわ。まさか、私でも鼻の下伸ばしてるの?」


 ギクリだね。こういう所、女の子って妙に鋭い。まあセラはニュータイプってのもあると思う(個人的希望でね)。
 だけどそれを認めると、関係が悪化しそうだしここは誤魔化して――ん?


「スオウって本当は女の子なら誰でも良いとか……そう言うのじゃないの? だってシルク様ならわかるけど、私でもなんて……嫌ってる相手になんて興味ないでしょ」


 どうしたんだセラの奴。いつもなら体を押さえた直後に「見るな変態!」とか言って鉄拳制裁が来てもおかしくないのに、今は妙にしおらしい。


「別にお前の事を嫌ってるなんか言ったか? そりゃあ理不尽な罵倒中傷や暴力はイヤだけど、最近はそこまで酷くないし、付き合い方も段々分かってきた感じもする。
 てか、仲間なんだし嫌いじゃないぞ。関係良好を目指すんだよ」
「だけどそれって私の事が嫌いだから……マトモな関係で落ち着きたいって事じゃないの?」


 なんだか雨と風の混じりあう中で、僕達は外へ飛び出すタイミングを逃したのか、この話題を終わらせないと本殿へ行けない感じになってしまったな。
 てか、案外深刻そうにセラがしてるのにびっくりだよ。関係良好? 上辺だけ取り繕ってあげるわ……位かと思ってた。


「バカ言わないでよ! 私だって言ったでしょ。その……嫌いだけど嫌いじゃないって。だから一応ちゃんと関係改善は目指してるのよ」
「そっか……それはありがたい。少しづつだけどちゃんと僕達進んでると思うよ。最近はそこまでズガーンって心を砕かれないしな。まあ今まで酷かったから、耐性が付いたってのもあると思うけど」
「そんなに私酷い事してた?」
「自覚無しかよ!?」


 おいおい、どれだけデフォルトでSなの。やっぱりセラが今も普通にキツいこと言うのは、コイツの中ではキツい事の中に入ってないんだろうな。凄い事実を知ってしまったよ。


「昔の事より今よ今! 私たちってこのまま頑張ったらどこまで行けるのかな?」
「どこまで? ……う~んかけがえのない仲間の位置までいくんじゃないか? セラが居ることはキツい事を言われるのも含めて、LROじゃ日常化してるし、実際お前が居ると安心するよ」


 僕がそう言うと、セラは何故か勢いよく顔を逸らすよ。


「あん……しん――って……それは喜べは良いの? それとも仲間の部分に悲しめば良いの?」


 なんか背中向けてボソボソ言ってる。どうしたのかな? とか思ってると、腕で抱えてるクリエがこんな事を言った。


「ふふふ、スオウとセラちゃんは二人してスキスキーーだよ!」
「はぁ? 何言ってるんだおま――」
「――ちょっとクリエ! 私は別にスオウの事とか好きなんて感情は!!」


 僕の言葉を遮る勢いで言葉を発するセラ。だけどそこでクリエは手を挙げて元気一杯にまたこう言った。


「スキスキーーだよ! クリエは二人の事スキスキ!!」
「――へ? アンタの事?」
「うん! クリエはクリエはスオウもセラちゃんも好き――はっ!? ききき嫌いだよ。セラちゃんは嫌いね」


 そう言ってセラに必死にウインクを送るクリエ。嫌い=好きでないとセラには伝わらないとクリエはまだ思ってるらしい。そしてそんなウインクになんかプルプル体を震わせてるセラ。


「あ……あ……アンタなんか……」
「ん?」


 漏れ聞こえる声はギリギリ聞こえる程度。雨と風のコラボレーションの中だと聞き取るのに苦労するよ。そう思ってると、真っ赤な顔を上げて、セラはこの場所から飛び出す。


「アンタなんか大っきらいよ!!」


 パシャパシャと雨を踏み付ける音を出しながらセラの背中が遠ざかる。何だったんだセラの奴?


「はぁぁ! やっぱりセラちゃんはツンデレだね」


 なんか目をキラキラさせてセラの背中を見つめてるクリエ。今の大嫌いもコイツは大好きと受け取ってるんだろうけど……きっと今の言葉は本音だぞ。まあ言わなくても良いかな。誰も幸せになれないし。


「さて、僕らも行くか」
「うん!」


 僕達は最後にセラの後を追うように転送魔法陣の外へ出る。スコールは痛いくらいに体に当たり、風は僕達をこの通路の外に押し出そうとする。油断したらマジで、足を踏み外すかもしれないから、急ぎながらだけど慎重に歩みを進める。そして何とか本殿前の広い空間へとたどり着く。


「遅いぞ全く……」
 広い空間から、更に本殿へと近づいて屋根のある部分まで来るとリルフィンにそう言われたよ。そしてそそくさと中へと入るリルフィン。僕達もそんなリルフィンの背中を追って中へ。
 扉とかなくて、なんだか四角く光ってる部分を潜ると中へ行けるみたいな感じで、その光を潜ったよ。するとかなり広い空間が広がってた。神社仏閣の広い場所みたいな。
 本殿だけあって流石に広いな。天井高いし。しかも訪問する人が多いからなのか靴箱が学校みたいにズラッと並んでる。
 どうやらここも土足厳禁みたいだ。


「へくちっ!」
「クリエ大丈夫かお前? 靴箱よりも、どうにかして全身乾かしたいよな」


 だって靴脱いだってこのままじゃ床はビシャビシャになるぞ。


「よし、それなら少し待っててくれ。僕がどうにかしよう!」


 そう言ってリルフィンと共に居たおかげで濡れてないテッケンさんが、内部をトコトコ走り出す。そして少し先に見える、売店? みたいな所まで行ったかと思うと直ぐに戻ってきてくれた。


「さあ、これを使えばびしょ濡れの体も服も一瞬で乾くよ」


 そう言って差し出されたのはお札だ。中央に魔法陣と、その上から、グニャグニャした字がしたためられてる。なんだかこれ見たことあるような……似たようなのをさ。


「これが風や雨から守ってくれる物ですか?」


 確か売ってるっていったし、それならコレかもだろ。そして僕の予想通りテッケンさんは首を縦に振るよ。


「ああ、その通り。この街では魔法をこうやってお札に宿して色々と役に立ててる。こうしとけば、厄介な詠唱とか必要ないんだよ。
 まあ制約も色々とあるらしいけど、単純な魔法を使うだけとか、詠唱がやたら長いのを一発ストックしとくとか利用方法は色々とあるんだ。
 これに封じられてる魔法は周りに影響されない状態維持の魔法だよ。一番のデフォルト状態を維持してくれるからきっとその濡れた体は元通りに成るはずだ」
「なるほど」


 別に雨や風を遮ってる訳じゃなく、干渉を受けない様にしてるのね。まあこのびしょ濡れの状態を元に戻してくれるなら何だっていいよ。僕達はテッケンさんの手から一人一枚ずつお札を貰う。


「すみませんテッケンさん。お金は後で払いますね」
「ははは、別にいいよこの位。そんなに高い物じゃないしね。僕だけ濡れてない分のお詫びだよ」


 そう言って気前よく支払いを断るテッケンさん。まあ確かに消耗品だし、そんなに高くないのかな? それならいいけど。


「ありがとうございます。じゃあありがたく使わせて貰います……」


 僕はそう言ったけど、実際困った状態に陥ってるよ。これってどうやって使うんだ? よくよく考えたら知らない。使い方を聞こうにも、なんだか一般常識な感じがして聞きづらいし……こうなったら、横目でみんなの行動を……って既にみんなやり終わってやがる! 一瞬か、一瞬の方法なのか。僕が思案してると、腕の中のクリエが「ねーねークリエにもやらせて」と言ってきた。おお、そう言えば僕は二枚貰って、一枚はクリエ用なんだよな。
 クリエは使い方を知ってるみたいだし、助かった。流石は魔法の国の住人。幽閉されててもそこら辺は経験あるんだな。


「ほら」
「よーし、解放!」


 ビシっとお札を持った方の腕を伸ばしてそう宣言するクリエ。するとお札に光が走って、クリエに溶けるようにして消えていく。それと同時に、クリエの体に淡い光が灯って、次の瞬間には収まった。


「完全回復!」
「はは、完全回復って別にダメージを負ってた訳じゃないだろ」


 だけど使い方は分かったな。実際んな叫ばなくても成るだろう。恥ずかしくない程度で、今の行動を再現だ。


「え~と、腕伸ばして……解放」


 控えめに言ったけど、なんか何も起こらない。何でだよ! おかしいだろ。誰しもがノリノリで解放! っていうか? 言わないよ。


「もう、もっと元気に言わないと、お札さんもやる気が出ないよ」


 腕から飛び出してそんな事を言うクリエ。お札の機嫌なんか知ったこっちゃないぞ。だけど僕だけびしょ濡れな訳にもいかない。ここは思い切って叫ぶしかないか。


「ええ~い、解放!!」


 すると今度は認識してくれたのか、お札がクリエの時と同じように消えていく。それに体も一瞬光に包まれて、その一瞬で水気が一気に飛んでった。おお、消耗品とはいえ凄いな。気分さっぱりだよ。
 なかなかいい気分に成ってると、横からノウイがこんな事を言ってくるよ。


「ははノリノリッっすね。まあ分かるっす。自分も初めての時はそうしたっす。だけど後から知ったっすけど、このお札って胸に当てて小さく解放と言っても使えるんっすよね」


 なんだってーーー!! どんな恥ずかしい思いしてるんだよ僕は。先に言えよこの野郎。まあよくよく考えたら、僕とクリエ以外から「解放」なんて言葉聞こえてきてなかったけどさ。
 うう……途端に恥ずかしく成ってきた。


「何痛い思いしてるんだ。さっさと行くぞ」
「痛い言うなこの野郎」


 リルフィンの奴、顔見えないけどあれは笑ってるんじゃないのか? そんな被害妄想をしてしまう。




 僕達は長い廊下をくねくね進み。庭園やら何やらを通り抜けて、でっかい仏壇……と言うのはおかしいか。神壇とでも言って良いものかわかんないけど、取りあえずそんな豪華に神が奉られてる所まできたよ。
 金色に光輝く装飾をされた世界樹が中心にある。そしてその両サイドに、彫刻なのか、同じく金色した二人の神の姿。だけど見つめあってたりはしてない。互いに世界樹を間に入れて、背中を向けた……そんな構図。
 なんかやっぱりサン・ジェルクとは違うな。向こうではテトラの影も形も無かったのに、ここには世界樹とそしてシクラと同等の扱い受けてるもん。これは良いのか? テトラってシスカ教じゃ邪神だろ。
 金ぴかでシクラに背中を向けてるとは言え、同じ位置。なんだかコレって……仲違いしたみたいにも見えるよな。それにそれぞれ顔がなんか悲しそうと言うか……


「これって……」
「貴様も一応拝んどいた方がいいかもしれんぞ。聖獣の強さは計りしれんからな」


 ぬぬ……僕はそう言うことを聞きたかった訳じゃないんだけど。まあだけど拝んでてはやろう。周り見るとそれなりに拝んでる人居るし。座布団の上で瞑想してる人とかも……熱心な信者なんだろうね。ここに居るのは。だけどこの人達は果たしてこの人達は二人の神と樹……どれを拝んでるんだ? 世界樹? それとも二人の神のどちらか? 


「その右の奴に祈っても意味はないぞ。それは戒めの為の邪神だ」


 そんな事を言うリルフィンはどこか奥へ。邪神か。随分な言われようだな。でも戒めって……これはそんな感じには見えないんだけど。


「ふわぁふわぁ! シクラ神かっこいい!!」


 なんだか随分興奮してハシャいでるクリエ。しかも格好良いって……格好良いかこれ? わからん感性だ。そう思って神壇を見つめてると、突如腕を浸食する呪いが疼きだした。
 僕は思わず床に膝を付く。


「なんだ……」
 腕を押さえながらそう呟くと、周りから大きな悲鳴が……


「きゃあああああ! 邪神から黒い霧が出だしたわ!!」
「不吉じゃ! 不吉がやってくるのじゃあああ!!」


 そう言って数人が騒ぎ出すと一気にその恐怖が周りに伝染。参拝客の人達は一斉に出口から部屋の外へと押し出て行く。その間もテトラの像からは黒い霧が出続けてた。

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