命改変プログラム
思い出の宇宙
たった一つ、僕の足音だけが空しくこの場に響く。一本の大きな木……その枝が周りを包んでて、青々とした葉の一つ一つが、風もないのに何故かザワザワとざわめいてるように感じる。
無数の鳥居が頂上目指して道を示すこの場所……僕はクリエを背負って言われた建物を目指してます。視線の少し先には建物内で丁寧に迎えてくれたモブリの一人が案内人としてその給仕服を揺らして歩いてくれてる。
てかあのモブリ、普通に歩いてる筈なのに足音とかしない。小さいからかな? とか思ったけど、和服で歩いてるからの方が理由的には大きいかも。
和服で綺麗に歩くには歩幅を小さくした方が良いらしいから体を揺らさずに歩くらしいです。スッスッスって感じだね。
だからこの場に響く足音は僕のだけ。気が付いたら、いつの間にあんな所まで!? って感じでモブリのその人は進んでるよ。
まあ実際、見事に優雅に歩いてると思う。あの給仕服、袖も長く地面に付きそうな程なのに、それをさせずにグングン進む。ある意味スゴいよ。スゴい技術だよ。
「ねえ、あとどれくらいですか?」
「もう疲れたんですか? そんな小さな子なんて負担にもなりそうでは無いですけど……余計なお世話ですけど、もう少し鍛えた方が宜しいですよ。
ついでに目的地はあと少し行けば見えます。道が分岐してるのでそこを行けば直ぐです」
むむ……最初の方は完全に余計なお世話だと思います。それに別に疲れたなんて言ってねーし。クリエなんて重さ感じないほどに軽い……なんて事はないけど、リアルのガキよりはよっぽど軽いし、この位で苦になるわけ無いだろ。
それに実際さっきから「後少し、後少し」言いながらかれこれ20分は歩いてるような気がするんですけど……だからこう何度も訪ねてる訳じゃん。
いやまあ、僕の辛抱が足りないのかも知れないけど……たく、この木デカ過ぎ。元が規格外だったけどさ、街とか一つまるまる入りそうだよ。
背中に居るクリエの息づかいが小さく感じれる。一刻も早く目覚めさしてやりたい。起きてる時はウルサかったけど、こうやってずっと眠り続けてる様を見るのって、流石に辛くなってきたよ。
全然違うんだけど、ダブって見える時がある……リアルで眠り続けてるセツリとさ。ずっと起きない様が、僕には怖く思えるんだよ。だからそろそろ限界だと思ってたよ。
でも僕には何も出来なくて……そこら辺はリアルでもLROでも結局は同じだったな。ここでは戦う事が出来る……そう思ってて、戦う事が自分に出来る『救い』だと思ってたけど、実際僕が救えた人が居るのか微妙だと気づいたよ。
でも結局、僕にはここで戦う事しか手段は無いわけだ。幾ら無力だと感じても、それを止めたらLROに居る意味さえ見失う。
だから僕は誰かに頼って、僕はこの剣を振るい続ける事しか無いんだよな。それさえ無駄と諦めたら、本当に僕に出来る事は、何一つ無くなる。
そんな事を考えながら黙々と上がってると、不意に「こちらです」と言われた。顔を上げてみると、鳥居が二つに分岐してる。一方はまだまだずっと上へ、そしてモブリの居る方は横に逸れてる。中腹って言ってたし、まあこっちだよね。
僕は黙って横道に逸れます。するとあれ?
「案内してくれないの?」
「ここからはその必要がありません。一本道ですから。それにそれぞれの建物には、姫様の許可無しには近づいてはいけないのです。
今回許可されてるのは貴方様と、その子だけ。受け取ったお札は二枚だけでしょう?」
そう言われて僕は無造作にポケットに突っ込んだお札を取り出した。そう言えば貰ってたねこんな物。何の意味があるのかわかんなかったけど、通行証みたいな物なのかな?
「これが無くちゃここから先に行けないの?」
「いいえ、行けますけど意味がないんです。私は一緒に中に入る事が出来ないと言うことです。どうせ外で待つのなら、ここで待つか先で待つのかの違いですから」
「ようは楽をしたいと?」
だってそう言う事にならないか。本当は建物の傍まで行けるのに、面倒だからここで待ちます……みたいな事だよね。
「いえいえ、楽をしたいなんて事じゃないですよ。こういう決まりなんです。一つの道に一つの建物があります。迷うこともなく、ここからの道はその方々の心構えの為の道です。
ですから当人様方でどうぞ――と言う事です」
そう言って着物の袖をピンと広げて、僅かに頭を下げると同時にその方向へ促す感じのモブリ。心構え……なんだかそう聞くと、これから何が起こるのか気になるな。
まあ何が起こるにしても後戻りなんかしないけど。クリエを僕が起こせるのなら、それはとっても嬉しい事だしな。
まあ実際、本当に僕で良いのかは微妙だけどね。ローレは一番親しい、或いは関係が深い人が良いって言ってた。だからミセス・アンダーソンが起きてれば確実にそっちだったと思う。
まあNPCで良いのかは微妙だけど。取り合えずプレイヤーの中では僕って事で満場一致したわけだよ。僕は鳥居が続く道を見つめる。そして一回背中のクリエ位置を正して、いざ出発した。
なんだか話せる相手がいないってだけで、ちょっと周りが不気味に感じる不思議。風がないのに枝や葉がザワザワしてるのがやっぱり気になる。なんだか世界樹に見られてるような……変な感覚だ。
既に幾つ鳥居を潜ったかもわからない。知らない内に違う世界にでも迷い込んでもおかしくない感じだな~とか思ってると、枝と葉に埋もれるように赤い屋根が見えた。
どうやらとうとう着いたらしい。たく、結構歩かされたぜ。建物は思ったよりもデカくない。てかなんだか小さな寺? みたいな感じかな。でも賽銭箱もなければその上から垂れてる鐘もないし……ある意味ただの蔵と言う感じもしなくはない。
思ってたよりもショボイと感じる僕は何を期待してたんだろうか。まあ取り合えず中に入ってみよう。そう言われてるからな。
「え~と、これってどこから入るんだ?」
段差を上って壁沿いに作られてる通路を回ったけど、扉らしき物がない。木で出来てるし、そこら辺の装飾を握ってスライドしてみたけどどうやらそういう作りでは無いらしい。もちろん全部押しても引いてもみた。だけど外れでした。
何なんだよこの建物は! 正方形で木の柵な感じの壁だから日本らしくスライド式だと思ったのに……おかしいだろ。入れないぞ。
一体どうしたら……そう思いながら僕はローレから貰ったお札を取り出す。
「そう言えばこれが無いとダメとか言ってたよな。もしかしてこれが扉を開く鍵か?」
そう思ってお札を表裏とじっくり見る。でも別に使用方法とか記載されてるわけ無い。てかなんて書いてあるかさえわかんないし……なんだかイライラして来たぞ。
ちゃんとどうやって入るか位教えてろよ! あのバカ、ホントにテキトーだな。僕は半ばやけくそ気味に、お札をどこも代わり映えのしない壁の一つに押しつけた。
「たく……戻って文句言いに行く……か?」
そんな愚痴をこぼしてると、壁の方からなんだか淡い光――がとっても眩しくなって……
「なんだ? まさかお札に反応――」
口を動かしてる間にも光は強くなって、いきなりお札が僕の腕から離れた。そして空中を旋回したかと思うと、僕とクリエ、それぞれの頭にキョンシー風に張り付いた。そしてその瞬間だ。一気に視界が歪んで、変な浮遊感と共に、僕は真っ暗な暗闇へと放り出された。
「うげぇぇ……なんだ今の? 酔うかと思った……」
頭がガンガンする。地面に向かって吐く動作をやってるとふと気づいた。
「あれ? そう言えばこの空間真っ暗なのに、やけに自分の姿ははっきり見えるな。まるで光ってるみたいな……」
普通は周りが真っ暗なら自分の姿だって確認できない筈。それなのに今の僕は周りからどう考えても浮いてる。辺りは漆黒を称える程に真っ暗で、一筋の光さえも見えないのに……どういうことだこれ?
LROだし、ありと考えればこれもありだけど……なんだか変な感じだな。LROの中で言うのも変だけど、まるで現地味が無いような……
「ってそうだ! クリエ? どこだクリエ!?」
僕は背中に居た筈のクリエが消えてる事に気付いた。こっちの方が重要だな。暗闇の中、ここがどこなのかもわからないけど僕はクリエの名前を叫んでみる。けどどこからも反応はない。
こんな真っ暗な場所で一人じゃ、流石にあの脳天気な子供でも泣くだろ。寝てるけど泣くだろ。一刻も早く見つけてやらないと。
「……だけど、これって下手に動いて大丈夫か?」
僕はこのどこまでも続いてそうな暗闇を見据えてそう呟いた。だって、もしも全く反対に行ったりしたら……そもそも自分の姿は見えるけど、これって先が見えてるのか実際わかんないからな。
自分の姿は見えてても、数メートル先も実は見えてないんじゃないか? 真っ暗だからそこら辺の感覚がわからない。一応手を伸ばして二・三歩進んでも何かにぶつかるとかはないけど……ある意味、自分は見えるけど、自分以外は見えないみたいな状況じゃないかこれ? 一体どうすれば……そんな事を思ってると、何か僅かな振動が感じれるような。
「なんだ? 近づいてきてる?」
僕は警戒を強めて、真っ暗闇に目を凝らす。何が見える訳じゃないけど、警戒せずには居られないだろ。そう思ってると、いきなり暗闇の中、眩しい光が僕の目を襲う。いきなりの強烈な光に目を閉じたその瞬間、僕の横を大きくて長い物が通ったみたいに感じた。
てか、強烈な風に踏ん張るので精一杯。
「ぐっぬぅ……ああああああああああああああ!!」
ついには踏ん張り効かずに僕の体はその風に巻き込まれて飛ばされる。そして僕は空中に投げ出されて、そこであの風の正体を見た。
「新幹線……か?」
何系とか鉄オタじゃないからわかんないけど、あれはきっとそうだろ。何両も繋げられてる新幹線が暗闇の中、そのライトで前方を照らして滑走してる。ガタンゴトンという特徴的な音が無いからわかんなかったけど、あの長さであの速さ……踏ん張りきれる筈がないと納得です。
てか、あっと言う間に再び暗闇に消えていく新幹線。そもそも何故に新幹線がこんな場所に? そんな事を思ってると、今度は何かフワフワした物の上に僕は落ちた。
「おお、柔らかくて助かった……って――ええ!?」
マジでびっくりの声が響く。いやいやだってだって、なんか僕が落ちた場所は某有名なアニメ映画の怪物のお腹辺りなんだ。
こいつが肥満体質で助かったけどさ……こうやって見ると、良く映画の中のあの女の子は、自分を飲み込めちゃいそうな口を持ってる化け物の上で無邪気に居れたな。
具体的にこの怪物を説明すると、まん丸ボディに尖った小さな耳、つぶらな瞳と、人を丸呑み出来そうな程の大きな口が特徴的。
こいつは特大サイズだけど、周りを見るとちっちゃい存在もちゃんと居た。いや……その表現はおかしいな。周りを見ると、特大サイズのこの化け物が寝転がってて、その周りを沢山の小さなサイズの奴らがひしめき合って埋めてる……が正しい。
「圧巻の光景……だな」
あの映画のファンなら失神してもおかしくない光景だぜ。なんだかいつの間にか風景まで書き足されてる感じだし……まるで大きな木の幹の中に居るみたいだ。
光が上から差し込んで、緑を照らしてる。
(てか、一体これは何なんだ?)
さっきの新幹線と言い、この○トロと言い。良くわからないぞ。僕はモフモフの腹の上を進み映画の女の子と同じ位置まで行ってみました。するとやっぱり鼻息の凄さ分かる。
まあ僕は高校生だし、吹き飛ばされるなんて事は無いけどね。取り合えずこの化け物は妖精とかでもあるんだよな? 何か知ってるかもしれないから僕は鼻の頭をペシペシやってみる。
「お~い、ちょっと聞きたい事があるんだけどぉ。起きろよオイ」
反応がない。やっぱり図体がデカいから神経が鈍いのかもしれん。てか下手したら、ズボって手が鼻の穴に侵入しそうだな。
そう考えたら、鼻をペシペシやるのはリスクが高いな。僕は両の頬から三本ずつ伸びてる髭に着目した。その片側を握りしめ、外側にウラーウラーと引っ張ってみる。
顔の皮膚が引っ張られて、口元が上がる。なかなかにキモい顔になって面白いぞ。てか、ホントに寝てばっかだなこの化け物。マジで全然起きない。
「おい! いい加減に反応しろ! この! せあ!」
僕は髭を引っ張りあげたり捻りまくったりしてみる。するとプチンと一本髭が抜けた。
「あっ……」
まさか本当に抜けるとは……スッゴい頑丈そうだったのに。なんだか一本抜けて間抜けな顔が更に間抜けに……ってここにきてこの化け物その短い手で目を掻き始めたぞ。不味い、起きるんじゃないか?
線みたいに成ってた瞳が僅かに開きだして黒い瞳がこちらを捉えようとしてる。僕は慌てて後ろに髭を隠すよ。するとおもむろにこの化け物、頬の辺りをポリポリと掻きだしやがる。
(やべぇ……やべぇよ)
違和感に気付くかもしれん。僕はヒヤヒヤドキドキだ。もしも気付かれたら食べられるかも……人間くらい丸呑み出来る口の大きさだからな。
そんな事を思ってると、おもむろに鼻をホジホジしだす。そして取り出した黒くて大きな汚物を、何故かピンと僕へ向けて弾く。……ぺちゃってした……ぺちゃって――
「うらあああああああああああ!!!」
プッチン来た僕は思わずコイツの髭で鼻を叩いた。ダメージは全然無いようだけど、その髭を見た瞬間にこの化け物は一瞬その小さな瞳を見開いた気がした。ざまぁみろだぜ。
だけどその時、叩いた髭がこの化け物の鼻の穴へニュルンと侵入。そして僕が慌てたせいで鼻の中でグリュングリュンと鼻孔を擽る事に。その結果――
「ブッバァアアアアアアアアアア!!!!!!」
――唾と共に爆弾みたいな風が僕を襲いました。僕は虚しい叫び共に、再び飛ばされる事に。そして今度はゴン! と普通に地面に落ちた。
「イッテテ……全く今度から絶対にロードショーでやってもチャンネル変えてやる」
そもそも元から汚そうだと思ってたんだ。僕はあんなデカい奴よりも、小さくて白い方が好みなんだよ。あんな茶色か灰色か分かりづらくて熊と狸でも足したような奴、願い下げだね。
「それにしても……なんだか臭いな。体を洗いたいかも」
クンクンすると、あの野郎の鼻くそと唾が混ざった臭いが……臭いのせいで頭痛までしそうだよ。水を求めて歩き出す僕。だけど再び真っ暗になった空間は、やっぱり何も見えない。
僕が絶望に打ちひしがれてると、なんだか下から泡がボコボコと上がってきた。
(ん?)
僕はこれまでの経験を生かして警戒を強めて下を見る。するとその瞬間、鋭利な突起物をつけた魚が大量に僕の周りを駆け昇っていった。
「なんじゃこりゃあああああごぼぼぼおぼのお!?」
途中から声が声に成らなくなった。何故なら、魚が僕の横を泳いで行ったと認識したら周りがいきなり海中に成ったからです。死ぬ死ぬ!! 僕も取り合えず上を目指すよ。マジでどうなってるんだろうこれ?
流石に体が持たないぞ。そんな事を思ってると、昇って行った魚共が戻ってきた。尖った鼻を持った結構デカい魚だ。なんだっけカジキマグロ?
(なんだっていいけど、あんなのに突き刺さったらひとたまりも無いよな)
僕は回避するために横に逸れる。すると何故か奴らも逸れて来た。
(何でだよ!!)
力の限り心でそう叫んだ。水中で人間が魚に速さで勝てるわけもない。僕は体を小さくしてやり過ごす事に。僕の周りを魚がもの凄い速さで通り過ぎていく。
ヤッバ……魚ってこんなに速く泳いでたんだって思った。だけどその時、僕を通り過ぎて行った魚達が突然分散しだした。
なんだ? 今までは大量の群で一斉に泳いでたのに……なんだかイヤな予感がする。そんな事を思ってると、青い海の先が暗く成ってるような……そして突然分散してる魚を一気に喰いちぎる凶悪な顔が現れた。
(なんじゃこりゃあああああああああああ!!!??)
だよ。開いた口が塞がらない。蛇のようなフォルムしたそいつは僕の直ぐ側を、その胴体で掠めて魚を荒喰いしてる。やべぇよ、なんだよこれ……全長何メートルあるんだよ。なんだか神話に出てきそうなモンスター来ちゃったよ。てか、見たことある魚が居たから、リアルの海みたいな感じだと思ったら、LRO側かよ。
こんな奴が居たら船に乗ってたって危ないよ。海水浴なんて絶対にできないな。そんな事を考えて震えてると、今度はどこからともなく歌声が聞こえてくる。海の中なのにやけに美しく響く声は下の方から?
僕は閉じてた目を開いてその声の方へ目を凝らすと、なんと今度は人魚の楽団が昇ってきてるよ。ウンディーネ? 彼らは楽器の演奏とその美しい歌声で禍々しい化け物を追い払う。人魚凄い……てか、マジで見取れる位の美女揃いでヤバいね。しかも一つ脱がせれば裸みたなその姿がね……なんともいえないよ。
まあ魚部分は残念だけどね。自分的には女の子は脚なんで。でも実際そこら辺もちゃんとお洒落してる。キラキラした宝石や貝を下半身部分に巻いたりしてるし、そんな事をしなくても鱗だけで十分光っても居るよ。
化け物が居なくなって落ち着きを取り戻した海は、よく見ると凄く綺麗だった。
「ぐば!!?」
だけど残念な事に息が続かない事に気付いた。僕は急いで上を目指す。そして勢い良く顔を出すと、そこは大海原でした。空がとっても高く見える。てか岸がどこにも見えないぞ。
「……はぁはぁ、これは死ぬかも知れないな」
冷静にそう自己分析してみた。だってどう考えたって泳げる訳ないよ!! そもそもどこ!? だし。まあこれまでを考えると、別に岸を目指す必要もない気がするけど、それってまた酷い目に遭いそうだからな……なんか気が進まないよね。
てか、もしかしてこれって嫌がらせ? とかそろそろ疑いたく成ってくるよな。ローレならやりそうだし……くっそ、ここでクリエが目を覚ますとか、マジで信じられん。既にクリエどこにもいないし!
そんなグチをコボしてると、不意に大きな影が僕を覆う。なんだ? と思い顔を上げるとそこには大きく立派な船が航行してた。
なんだかマジでいきなり現れたな。普通こんな船がここまで近づいたら、その前に絶対に気付くだろ。だって波とか出来るだろうし……だけどあたかも最初からここにあったかの様に船は佇んでる。
もしかしてこれはこの船に乗れと言うことだろうか? 僕は取り合えず船の周りに沿って泳ぐことに。どこかに入り口があるかも知れない。
そんなことを思ってると、いきなり服が引っ張られる感覚が!
「来たあああああ! 大物だぞ!」
そんな声と共に船の上の方が騒がしい。そしてグイグイと引っ張られる僕。これってまさか……僕が釣られるのか?
「おい! 僕は魚じゃない!! 引っ張るなこのバカ!!」
僕は必死に上に居る奴らに訴える。だけどどうやら聞こえてないようだ。僕の体の半分以上が既に海から上がってるよ。するとそこで僕は気付いた、海からこの船の上部を見つめる一人の人魚に。
だけどそんな事よりも、この自分の状況が大変。僕は力の限り暴れるよ。するとこんな声と共に何かが落ちてきた。
「うぬ!? 凄い引き……引き……だぁああぁあぁl!!???」
ボッチャ~~~ッン!! 僕は素知らぬ振りして船からソ~と離れるよ。
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