命改変プログラム

ファーストなサイコロ

自分勝手の先

「だっしゃああああああああああああああ!!」


 元気一杯のヒマワリの声が響く。ヒマワリが一歩を踏み込む度に町には激しい砂埃がキノコ雲の用に立ち上ってます。
 それだけ感情を高ぶらせてヒマワリは海へと向かって走ってる訳です。真っ青な空にある大きな入道雲が、落ちてきてると錯覚するようなそんな砂埃をまき散らして、ヒマワリはただ夢中で走ってます。
 そのスピードたるや街に居るプレイヤーの人とかは既に気づかないレベル。一体何が起こったか分からずに、砂埃で目の前真っ白ってな感じ。
 街に何本ものキノコ雲を作ってあっと言う間に見えてきた海。だけど実際、今の私には感動に浸る余裕がありません。何故なら、ヒマワリの背中にしがみついてるので精一杯だから。


「セツリ様! もちょっとスピード上げちゃうぜ!」
「ええ!? まだ上げるの? 無理無理! 絶対に振り落とされちゃうよ!」


 明るい色のポニーテールを激しく振り回しながら、とんでもない事をさらっと言うヒマワリ。私は断固拒否するよ。てか既に腕痛い。ヒマワリにおんぶされてる格好だけど、そのスピードのせいで全然楽じゃない。やっぱり優雅に空を選ぶんだった。
 シクラが速攻で私を担ぐ様にヒマワリに命令したから、素直にこんな形になったけど……絶対的にシクラに運んで貰ってもよかったと思うんだ。
 だってだって、シクラが人一人位、運べない訳無いもん。それなのに私をヒマワリに託すなんて……これじゃあヒマワリへの罰じゃなく、完全に私が罰を受けてるみたい。


「ええ? 良く聞こえないよ? ようし、じゃあ海に突っ込むよ!!」
「ちょっと待ってよおおおお!!」


 ダメじゃん! ヒマワリ自身のスピードで周りの音を追い越しちゃってるよ。既に音速だよ! 人が窓もない吹きさらし状態で耐えられる速度じゃないよ! マッハだよマッハ! 
 だけどそんな私の思いがノリノリ状態のヒマワリに伝わる訳もなく、彼女は港へ続く坂道から一気に海へ駆け降りる。
 そのスピードは既に凶器の域。シクラのやってる空間の点移動なんかと違って、純粋なスピードでの移動のヒマワリは音速を超えてる時点で衝撃波を放ってるみたいなものだよ。一足にパワーを込めすぎるから、踏み出した場所にはキノコ雲さえ立ち上るんだし、ヒマワリが通った後の周りの建物の窓とかは例外無く、バンバン割れてる。
 実際それで済んでるのがマシな方だったりして……町は基本壊せない設定の筈だし。一応はシステムで耐えてるのかな? 
 だけどそんな事を思うのも、そんな惨状が視線に映るのも結局は一瞬。瞬きをした次の瞬間には、私の目に水しぶきが見えました。
 それと同時に港に繋がれた船が宙に浮く様も確認できます。それはきっとヒマワリが海を踏んづけた影響。ドッバーーーン!! と言う水窯をひっくり返した様な音と共に大きな水柱が出来上がるのです。それによって船がヒックリ返ってる。てかヒマワリは普通に海の上を走ってる。
 本当にこの姉妹はスペックが普通とは桁違いです。普通は出来ないか躊躇う事を躊躇無くやってのけます。まあだからこそ味方ならこれほど心強いのは居ないよね。
 本当に、全く最高な私の友達です。


「うらららららあああああ!! 僕に走れない道などなあああああい!!」


 そんな叫びを上げながら、海を疾走するヒマワリ。水柱をボンボン上げながら、盗人が乗ってる船を探します。ゲームでもやっぱり広大な海。ここから一隻の船を見つけるのはそう簡単じゃ無いかも……なぁんてそんな事は無いのです。
 盗人が脱出に使った定期船は、この町と別の町を繋ぐ便。ルートは予め決まってる。それなら遭難でもしてない限り、必ずそのルート上を船は進んでる筈なのです! ルートなんて普通のプレイヤーでも知ってる事。検索を掛ける事をせずに私達は出発したわけです。
 それはきっとシクラもヒマワリも知ってるって事だよね。私は信じてるよヒマ。すると次の瞬間、ヒマワリがこう叫んだ。


「居たあああああああ!!」


 私はその言葉を聞いて、ヒマワリの肩越しにその船を確認します。確かにあれだ。決して豪華とは言えないこぢんまりとした船。収容人数三十人位の定期船。きっと間違いない。
 ヒマワリは今でも十分なのに更にスピードを上げて定期船へ迫ります。下に鯨がいっぱいいて、ヒマワリが通る度に潮を吹き上げてるんじゃないかと言う程の水柱をあげまくって迫るから、定期船からはこちらに気付く人がそれなりに見える。
 まあこれだけ分かりやすい目印を上げながら迫ってるんだもん、気付かない訳がないよね。だけど例えあの盗人に気付かれても全然困りはしないのだ。
 ここはなんたって海の上。逃げ場所なんてどこにもない。
 ヒマワリのスピードと船のスピードは雲泥の差だからあっと言う間に私達は船の後部に迫った。白い波を立てながら普通のスピードで進む船。それに向かって一気にジャンプするヒマワリ。
 その衝撃で波が激しく乱れて大きく揺れてる船。無駄に高くジャンプしたヒマワリがそんな船の甲板に強引に着地します。周りがざわざわだか騒然とする雰囲気。だけどそんな周りの視線を気にせずに、ヒマワリはこう言っちゃうのです。


「とうちゃ~~~く! 今の着地は百点満点だったね」


 あっけらかんとそう上機嫌に言うヒマワリに周りは呆気に取られてるよ。まあ分かるけど……海の上を走って来た不可解な女の子二人組だもん。


「さて、じゃあ卸すねセツリ様」
「あ……うん」


 甲板に足を付くと、波の揺れでフラツく私。おお、本当に揺れてるよ。正直海の上って初めてです。船に乗ったのも初めてかな。
 こうやって普通に立つと、潮を乗せた臭いも風も気持ち良いものだね。船の上から海を見ると飛び込みたくなる不思議な感覚が沸くよ。泳いでみたいな。本当にしょっぱいのかな? 
 私がそんな事を思ってると、今まで完全に固まってたプレイヤーの方々がようやく目の前の状況を受け入れ出したのか、僅かに「スゲェ」とかが聞こえだした。
 ヒマワリは盗人を捜すようにそんなプレイヤーの面々を見てる。


「ねえセツリ様? ここに居るんだよね? 中の方かな?」


 そう言ってヒマワリは船内へ繋がる扉へ目を向けます。だけどその時、一人のプレイヤーが興奮気味にヒマワリへと歩を進めます。


「すげえ……スゲェよ! 今の何だ? なんで海の上走れちゃってんだ? どんなスキル? 教えてくれないかな? 頼む! この通り!!」


 そう言ってヒマワリに向かって手を合わせて拝み倒すその人。なんだか思ってたのと反応が違う。もっと恐れられたりする物だと思ってたけど、そんな一人の行動がきっかけで、他のプレイヤーもヒマワリへと集まってく。


「本当にスゴいよ! どれだけ鍛えればあんな動き出来るようになるの? それともその装備の賜? もの凄く軽装で防御力なんて皆無に見えるけど、それらを犠牲にすることであの運動量をもたらしてるとか?」
「自分達にもあの動きの詳細を!」
「俺だって聞きたいことが!」
「こっちだって!」


 なんだかもの凄い事に……みんな恐怖よりも好奇心が強いみたい。それはやっぱりここがLROだからなのかな? みんなそれなりの経験をしてるんだろうし、リアルでは得ない耐性でも付いちゃってるのかもね。後は私達がこの人達と変わらない姿をしてるのも大きいのかも。
 今のがまがまがしいモンスターなら、こんな事には成らないだろうしね。その時はきっと恐怖感が優先される筈です。
 だけど私達にはそんなの感じる訳ないか。シクラには感じるかもだけど、いつもの状態のヒマワリは可愛い系の女の子に変わりないもん。
 だからこそみなさん気さくに話しかけてる。てか、私には眼中ない感じなのがちょっと腹立つんですけど。そりゃあ私はおぶられてただけですよ。
 だけど関係を気にしたりしたって良いじゃん。もしかしたら私にも隠された力が有るかもとか思ってくれる神秘眼を持ったプレイヤーは居ないのか!


 私が心の中でそんな悪態付いてると、ドタドタと言う音と共に船内に続いてる筈の扉が開き、また数人のプレイヤーが甲板に姿を現した。


「なっ、何事だ!?」


 そんな声を一人が放って、そして直後にワイワイガヤガヤしてたこの現状を見て「え?」と成ってた。面白い顔の変化だったよ。
 まあ中に居た人たちには何もわからないだろうね。


「えっと……あのモンスターは? スゴい音して衝撃も来たから、モンスターかと思ったんだけど……」


 哀れなプレイヤーがそんな事を言うと、みんなして「違う違う」と首を振りつつ言う始末。なんでそこで息が合ってるかわかんないよ。


「えっと……じゃあ今の衝撃は一体?」


 自分の無知さにごめんなさいして、教えを請うみたいな感じでそんな事を言うその人。他にもわかってない人居るのに、なんだかその人だけ、いたたまれない感じに成ってるよ。
 だけど私にはどうすることも出来ないよ。そもそも見ず知らずの人に話しかけるなんて難易度高い事、引きこもりだった私には無理です。
 哀れなその人に、プレイヤーの方々は端的に「今の衝撃はこの子が海の上を走ってきたからなんだ」てな感じで事実を伝えます。
 だけどついさっき出てきたばかりの人たちは当然それでは飲み込めない様子。頭に疑問符が浮かんでるのが見えます。


「いやいや、海の上を走れるとか聞いたことないし……そんなの信じれる訳――」


 そんな言葉を船内から出てきたプレイヤーの一人が紡いでる時、私には後ずさりして船内に戻ってく一人のプレイヤーの姿が目に留まりました。
 それは見間違える筈もない犯人の顔。きっとモミクチャにされてたヒマワリを見つけて、慌てて船内に戻ったんでしょう。
 私は急いであの盗人の後を追います。


「セツリ様!?」
「盗人を発見したの! 追いかけるね!」
「待って待って! 一人じゃ危険――」


 私はそんなヒマワリの声を背に盗人を追いかけます。だけど船内に続くドアの前には複数のプレイヤーが立ちはだかってます。早くも関門が! どうしよう、階段を駆け降りる音が聞こえる。
 逃げ場はないけど、こういう時の為の対策とか取ってると面倒。ほら、アイテムだけをどこかに飛ばせるとか隠せるとか。
 だけどこんな見ず知らずの人になんて言えば良いのか……オロオロしてる私に、目の前の人も困ってる感じ。勇気を振り絞って私!


「ど……退いてください!」


 精一杯頑張ってそう言った私。そのままの勢いで扉の前に居た集団を突破して船内へ。下に続く階段。これを降りていったよね。
 確かに一人じゃ危険だけど、ヒマワリはプレイヤーのみなさんに捕まってるし、私がいかないと。何故かシクラは姿現さないし……体が震える。だけどこれからの為にあのアイテムは必要で、それは私の為にシクラが苦労して手に入れた物。
 それを取り戻すのなら、私だって頑張らないとだよね。決意を決めて私は一歩を踏み出します。階段の下のどこかに居るであろう敵に向かって。


 揺れる船内の階段を一気に二・三段飛ばして私は掛け降ります。踏み外しそうに成ったり、バランスを崩し掛けたりしたけど、なんとか転ばずに下まで降りれました。ただの定期船だからどうやら部屋は一つしかないみたい。船内の大部屋に、私が居る甲板とを結ぶ通路。そして甲板の三カ所で成り立ってるんだね。
 これはどこにも隠れようもないよね。私は大部屋へと続く扉を開きます。
 するとその瞬間、私の頬を掠める何かが――


「え?」


 鈍感な私がそんな声を出すのと同時に後ろの方でカッと言う小気味良い音が。今の態勢を維持したまま首だけで振り返ってその場所を見ると、なにやら丸いギザギザした鋭利な物が壁に刺さってる。
 あれは手裏剣って言うんじゃないのかな? かな? 私がそんな事を思ってると、空気を切るようなヒュルルルルと言う音が前方から聞こえてきた。視線を前に戻すと案の上、回転しながら迫る手裏剣が四つ程見えます。


「きゃあ!」


 私は頭を抱えながら部屋の斜め前方に飛びます。床にドゲシと叩きつけられると同時に、カッカッカッカと言う音が聞こえました。またまた振り返ると、私が飛んだと同時に閉まりだしてた扉に手裏剣が刺さってる。むむむ~


「ちょっと! 何するんですか! 危ないじゃないですか!」


 私はこのいきなりの攻撃にプンすかプンすかだよ。大胆にも文句を言います。すると部屋の一番遠いところに居る二人組は警戒心露わにこう言います。


「危ない? 当然だろ! こっちは倒そうとしてるのよ! あんた達、あのアホな子の仲間なんでしょ? 言っとくけど、アイテムは返さないわよ!」


 うぬぬ、やっぱりバレてたか。だけど言ってやるもん。私のこの超正論を聞きなさい!


「アイテムを盗むなんて悪いことなんだよ! 盗んだ事に罪悪感を感じてるなら、返してよ。貴方達がヒマから取ったあの本は、とっても大切な物なの!」


 心に訴えるようなこの叫び。届いたかな?


「ふん、罪悪感? そんな物私達にはありはしないわよ! そもそもスキルでそれが出来るんだから何の問題もないじゃない。てかあのヒマって子は自業自得よ! あのアホ差を呪いな!」
「ヒマはアホだけど、貴方達がそんな事を言わないで! あの子は貴方達よりも言い子なだけよ。何十倍も!!」


 スキルでそれが出来るからって、何の苦労もなく他人の苦労をかすめ取る事に味を占めてる貴方達にはヒマの事をアホなんて言ってほしくない。


「良い子なんてなんの特にも成らないわよ。今のうちにずる賢さでも会得してた方がよっぽど人生上手く過ごせるわ。
 教えて上げよっか? ガキのあんたにさ。よく聞きな! リアルもLROも素直に生きてる奴程、大バカを見る羽目に成るの。損をしたくなかったら賢く生きる事が大事なのよ」


 そう言って今度はクナイを構えるその人。接近戦なんて挑まれたら私、あっと言う間に切り刻まれちゃうよ。武器なんて持ってないし、そもそも戦闘なんて、そんなに経験してない。
 どうにかして会話を引き延ばしてシクラかヒマワリが来てくれる事を願わないと……


「じゃあ、貴方達のやってる事が賢く生きる事ですか?」
「そうよ。リアルならまあ犯罪だけど、ここでなら出来るんだから、危険を犯して貴重なアイテムを自分で取りに行く必要なんて全くないのよ。
 それでウハウハに成れるんだから賢いでしょ?」


 そう言いつつ彼女は何かのスキルを発動したようです。体が緑色に淡く光り、彼女が構えるクナイにもその光が広がる。すると何か水滴の様な物がポタポタと落ちだした。ドスグロい色をしたその水滴は床に落ちると、なんだ沸騰でもしてるかの様にブクブクなってる。それに煙も上げてるし……毒か何かなのかな? あの水滴に触れるだけでもやばそうです


「誰だって楽をしたいもの。誰にも私達の行いを咎める権利なんて無いわ」
「確かに……その気持ちは分かります。楽をしたいし、つらい事なんてやりたくない。私だってそう! 確かに誰にもとは言わないけど、私には貴方達の行いを咎める事なんて出来ない。
 私だってずる賢い女だもの。助けてくれようとした人を見捨てた。苦しいのが辛いのがイヤで……見たくない物をこれ以上見ないために、私は夢の中に居続ける事を選んだの」


 私達以外誰もいないこの場所で、私は自分自身の酷さを再確認です。船の揺れと、海を進むための動力の音が僅かばかり響く。


「ふ~ん、可愛い顔してエグい事をやってるじゃない。だけど良いのよそれで。自分の人生は自分だけの物でしょ? そもそも他人の決めた法律に縛られて、誰かの倫理を押しつけられる方がおかしいと思わない? ここはLRO、夢の場所でしょ?
 夢の様な思いをさせてくれる場所。それなら全ては私主観で物を見て私基準で行動していいじゃない。誰にも文句は言わせない。だってここはLROだから。
 だから私は貴女の行動をおかしいだなんて思わないわよ。恩を仇で返そうが、イヤな物はイヤで上等じゃない」
「…………」


 私はちょっと言葉を失いました。だってこの人、なんて言うかその……滅茶苦茶自己中だよ。自分が世界の中心ってな感じ。
 普段はそんな事思ってないんだろうけど、ここでだけはそう思っても良いじゃない的な。それでそれを実行してるんだね。


「私はもう……辛いのも苦しいのもイヤ。リアルで送る人生って物に興味も期待も持てない。だから沢山の心配してくれた人達を捨てた私は、貴女のその自分勝手な理論を否定しない。
 だけどこれだけは言ってあげるわ。貴方達のやってるソレ……ズルくは有っても賢くは無いわよ」


 そんな言葉を放ったとたん、彼女はクナイを構えて迫ってきた。ちょっと挑発するように言葉を向けたからそれが効いたのかな?


「はっはああ! 言ってくれるわね。だけど良いのよこれで! こういうスリルと興奮に私は満足出来てるんだからそれでいい! 大切なのはそう言う事よ!!」


 そう言うことね。ホント、気持ち良いくらいにサバサバしてる人です。私は何とか避けようと試みるけど、ここで体が動かない事に気付きます。え? ええ、何? 


「私達がただの盗人風情だと思った? にわかじゃない。やるときはやれるのよ!」


 そう言って上段から私に向かって降り卸される毒の付いたクナイ。だけどその時、船の天井部分が大きく崩れます。
 薄暗かった船内に太陽の光が射し込む。白い煙が床を這い、そこらじゅうに瓦礫が散乱してる。


「もう、セツリ様が一人で行くから、ちょっと慌てちゃったよ。怪我でもさせたらシクラに怒られるのは僕なんだから――ってなんか背中痛い」
「ヒマ……背中にクナイがブスッて……」


 天井をぶち破って来たヒマワリの背中には私に刺さる筈だったクナイが有った。おちゃらけて言ってるけど、このタイミング……きっと私を助ける為に来てくれたんだよね。


「ちょっと何よいきなり? まあだけど、そいつは直ぐに動けなく成るわ。だから今度こそ貴女の番。あの本は諦めて頂戴」
「ふふ……あははは」


 自分の攻撃に自信を持ってる彼女がそう言うと、何故か思わず笑っちゃった私。


「何を笑ってるの? 次はアンタよ?」
「ふふ、いえ……自分の思うとおりに生きる。それはとても立派で、貴女はそんな自分を享受してる所も素敵です。
 だけど残念な事が一つだけ……貴女の理屈だと、他に自分勝手に生きてる強大な相手とぶつかったとき、貴女は誰にも救われない。求められない。
 それは自分勝手に生きる代償なのかも知れないですね。つまり何が言いたいかと言うと、今まさにそんな強大な自分勝手な子に遭遇してる訳ですよ」


 私がそう言うと、ヒマが自分に刺さったクナイをあっけなく引っこ抜いた。


「いったぁ。ねぇこいつらはぶっ飛ばしても良いんだよね?」
「ええ、だけどまず私の体を動かすようにしてくれる?」
「動けないの? え~っとね、このクナイが怪しい!」


 ヒマワリは私の影を縛ってたクナイを一足で吹き飛ばす。なるほど、影縫いとかそんなスキルだね。これで私は自由、やっちゃえヒマ!


「何なのあんた達? まさかあの毒を食らって平然としてるなんてアンタおかしいんじゃない?」
「僕をお前達と一緒にするなよ。だけどそんな事よりも……良くも騙したなこんちくしょ――!!」


 そう言うとヒマの周りの瓦礫が浮いてヒマの腕にくっついてく。そして光と共に姿を変えてガントレットみたいになった。


「アーマドトランス第一段階発動! さぁお礼参りしたげるぞ!」


  激しい爆音と共に、ヒマの姿が消える。そして次の瞬間、盗人Aさんの体が激しく吹き飛んだ。


「がはっ!?」


 船内の壁にめり込んだ盗人Aさんの衝撃で船内が大きく揺れる。慌てて盗人Aに駆け寄る盗人Bさん。


「くははははは! どうだい僕の攻撃は? ただの人間程度が僕を騙すからこうなるんだよ」


 そう言いながら歩を進めるヒマワリ。船内にヒマワリの足の音と、盗人さん達の声が響いてる。


「大丈夫殺さないよ。だってそれはシクラに止められてるしね。だけど僕が受けた分の罰は返す。それが嫌なら、さっさと本を――んっ!」


 ヒマワリの言葉が途中で途切れた。どうやら男の方が反撃に出たようだ。何個か手裏剣が見える。だけどあんなのじゃヒマワリに対抗出来るなんて思えない。ヒマワリもそう思ってるのか、進む事をやめはしない。


「こんな物で僕を――」
「ふん! 馬鹿正直に貴様を狙いはしないさ! 知ってるか? 獲物を前に舌を良く回す奴は三流だ!」


 何故か途中で加速をして、ジグザクに動きヒマワリをよけた手裏剣。それが私へと迫ってきます。これまでの言動で私が弱点ってバレてる。最初から狙いは私!! ヒマは慌ててこちらを見ます。だけどこれはコンマ数秒の内に私に刺さりそう。
 幾らヒマワリが速く動けてもこれは……そう思った時、私の目の前の空間に、不思議な模様が現れました。そして次の瞬間、そこから現われたシクラが全ての手裏剣を髪で撃ち落とします。
「何!?」
「ヒマ、安心していいわよ。セッちゃんは私が守るから。だからさっさと教えてあげなさい。セッちゃんが言ったとおり相手が悪かったって事をね」
「ねぇねぇ、それが出来たらお仕置き考え直してくれる?」
「そうね、考えてあげてもいいわよ☆」
「よっしゃああああああああ!!」


 シクラの言葉で気合いが入ったヒマワリ。ヒマの攻撃で崩れた盗人周りの瓦礫も集まって来て、腕全体を覆う防具へとなる。そして拳を勢い良くぶつけてこう言います。


「さあ! 僕の罪の贖罪になって貰おうか人間!!」
「「くっ!?」」


 盗人二人はまずはヒマワリ……そう判断したんだろう。ヒマワリと対峙することを選ぶ。二対一だしきっと行けると思った。私もその気持ちは分かるけど、でもそれは大きな間違いと彼等も直ぐに気付きます。
 ヒマのスピードと攻撃は圧倒的。見えない攻撃が次々と炸裂して、それと同時に絶え間なく衝撃が船を襲う。砕ける船内の破片や瓦礫は、例外なくヒマワリへと吸収されて更にヒマワリは堅牢な姿へと変貌してく。


「あれが……ヒマの力」
「ええ、あれがヒマの『アーマドトランス』の能力。あの子は無駄に軽装をしてる訳じゃないのよ。あの能力は何だって自身の力に変えられる。それを体に纏わせる為に普段はあんなに軽装なの。あの子は敵を砕き、周りを壊せば、それらを取り込んで自身を強く強化出来る。それがあの子の力」


 凄い……素直にそう思う。ゴクリと唾を飲み込んでると既に盗人二人は滅多打ち状態。HPがグングン減っていく。そしてヒマの体を覆う防具は既に両腕から胸位に来てた。決していかつくはない造り。ヒマの細い腕にしなやかに沿うような形で形作られてる。
 一見みすぼらしい様にも見えるけど、威力はただの腕とは段違い。彼らの攻撃も強引に受け止めて跳ね返す程。ヒマはここで一旦距離を取った。多分これで終わりにする気だ。


「これが僕を騙した代償だああああああああああああああああ!!」


 床板をはがしながら進むんだヒマ。武器をなんとか構えた二人を関係無しに蹴り飛ばし、壁に激突する前に追い越して両腕捕まえて今度は天井にぶつける。更に砕ける船の内部。それらがどんどんヒマの体を覆ってく。腕から体、そして足を覆い最後の方は顔にまで。戦隊物のヒーローみたいに成りつつあるヒマは何度も彼らを天井に叩き付け、最後は一緒に外まで突き破った。
 太陽の光が差し込む。空高く昇ったヒマは青い空に向かって女の子らしからぬ雄叫びを上げて勝利を表してました。もっと女の子らしく……と言いたいけど、まあなんとか一件落着かな?

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