命改変プログラム
目的のハイジャック
優雅にその姿を空へと上らせた大きな船。複数のプロペラが回ってる。だけどその実、船の所々から光る青い光がこの飛空挺の動力で空へ浮かべる為の役目を担ってたりしてるのを僕は知ってるよ。
僕達はそんな木造建築の海の上にありそうな船の中にいる。そして僕達だけじゃないプレイヤーの面々。彼らにだって目的があって、きっとやるべき事もあるんだろう。
実際クエストやミッションはLROでのやるべき事。やらなくても良いんだけど、普通にLROを楽しんでる人達はその為にだってやるはずだ。
そして今、彼らが言うには僕もまたクエストの対象らしい。きっと元老院が仕組んだ卑劣な罠。だけど彼らにはそんな事関係ない。
彼らはクエストとしてゲームの一イベントとして僕達の前に好奇心で立ち塞がる。各の武器が淡いランプに照らされて煌めいてる。これはどうやら避けられない戦いみたいだ。
僕と鍛冶屋、そしてシルクちゃんも数十人居るプレイヤーを見据える。
「どうする?」
「どうするだと? 蹴散らすしかないだろう。捕まるわけにはいかんだろう」
僕の言葉に、鍛冶屋がそう言う。コイツいつの間にか背中に背負ってた筈のミセス・アンダーソンを、括りつけてる感じにして両手を空かしてる。
まあ、鍛冶屋の武器の大鎚は片手で扱える代物じゃないから何だろうけど、ある意味やる気満々だな。
「でも待ってください。ここでこれ以上時間を割くわけには行かないですよ。それに本格的な戦闘なんて、どう考えても不味いです。
目的を見失ったらダメです。目の前の事に流されず、私達は私達のやるべき事を!」
シルクちゃんは力強くそう言う。勿論それも分かるんだけど……
「コイツ等、易々と見逃してくれそうにないよ」
「だけどまともにぶつかるなんて……ここでぶつかり合ったら、それこそ元老院の思う壺です。どうにかしてここを切り抜けないと」
戦わずに? それは流石にもう無理だろ。出来ればそうしたいけど、あちらさんはこちらに飛びかかる五秒前位だよ。
そうこうしていると、いきなり足下がフラツいた。船体が揺れてる? いや、これは――
「方向転換してるのか!?」
「まさか、サン・ジェルクに戻る気なんじゃ?」
おいおいこれは不味いぞ。
「くっ、そこをどけええええええ!!!」
僕はフラツいてる奴らに突っ込む。それに続いて鍛冶屋も後ろから来た。二人しての突撃。だけどそれは無謀だったのかも知れない。
向かい来る僕達に向けて放たれた魔法の光。それを交わす為に、僕と鍛冶屋は左右に分かれた。そして一人ずつにしてから一気に攻め込まれる。
近接と魔法の打ち込み。背中に居るクリエを庇いながら、しかも剣一つじゃ防御で精一杯。武器と武器とがぶつかり合う音がこの空間に響いてる。
「ははははは! 最初の威勢はどうしたよ!? ここを通りたいんだろ? もっと気張って見せろ!」
そんな事を言いながら、プレイヤーの一人の剣が僕に迫る。ヤバい、これは避けれないぞ。既に別プレイヤーの攻撃を防いでるから空きが無い。一撃を食らう覚悟。それを決めた時、だけど予想外な事が起きた。
「邪魔するな!!」
「ぐは!?」
そんな声と共に、更に横から入って来た誰かによってさっきのプレイヤーが吹き飛ばされた。え? 一体何が? そう思ったけど取り合えずこの瞬間僕は距離を取る。そして苦戦してた鍛冶屋に割り込んで、二人してシルクちゃんの場所まで下がる。
どうやらシルクちゃんはピクと共に障壁を張ってたみたいだな。
「何するんだテメェ!!」
「アイツを捕まえるのは俺達だ!」
前方でそうやってモメてるのはさっきぶつかりあった奴ら。なんか手柄の取り合いでもしてるようだな。
「取り合いじゃなくて実際そうなんだよ。人間の醜い欲望を丸出しにしてるんだ」
「どういう事だよ? アイツ等の目的は一緒だろ」
僕がそう言うと、後ろのシルクちゃんが教えてくれるよ。
「確かに彼らの目的は一緒です。クエストとして指名手配されてるスオウ君の確保。だけど目的が同じだからって彼らは仲間じゃないんです。
考えてもみてください。お金にしてもアイテムにしても、それが全員に行き渡ると思いますか? 普通の戦闘でも人数分のアイテムが出るわけじゃないから、運でランダムに振り分けられるんですよ。
それを納得できるのは、元がそれ前提でパーティを組むから。だけど彼らは誰もがその報酬を受け取りたいと思って戦闘を開始したんです」
ようは誰も彼も譲る気はないって事か?
「まあそう言う事になりますね。元がリア・レーゼに行くための船だし、知り合いと乗り合わせた人もきっと少ない。
自分の腕に自信がある人は個人で攻めて来るだろうし、通常の五人パーテェならクエストの報酬も五分の一の確率になります。
だから知り合いだけのパーティか、速攻の中途半端なパーティしか出来なくて、残りは個人で報酬を狙う人達に分かれてるんでしょう。
だから彼らに連携とか協力は無いんです。たとえ目的は同じでも、自分の為にを誰もが思えば、そこに繋がりなんて生まれない」
「確かに、それはシルクちゃんの言うとおりだね。ならそこら辺にここを抜ける光明がありそうだね」
だけど問題もあるよな。コイツ等は僕を倒す直前になると手柄の奪い合いを始める様だけどさ、基本獲物を逃がしたくないと思う意識は大前提として一つなんだ。
だからここを抜けるのが難しい。ずっといがみ合ってれば楽なのに……
「とにかくさっさとここを抜ける。出ないと、モタモタしてたらサン・ジェルクにとんぼ返りする羽目になる。何か良い案ある?」
僕は他二人に託す。だって今の僕は単純に戦闘力半減してるんだ。それにセラ・シルフィングを使うことしか脳がないし。そこで半減しちゃってたら、不味いのは自分でもわかってるんだ。
だから二人の経験と僕にはない豊富なスキルに期待だよ。
「そうですね。取り合えず全員を一斉に捕まえる事が出来れば良いんですけど。それならその間にここを抜けれます」
確かにそれが出来れば良いんだけど……逆にちょっとこれはあいつ等の連携が無いのがネックだよ。動きが読めないし、そもそも後衛の奴らは滅多に前には来ないしな。後衛でしかも最後の一撃を狙って詠唱準備してる奴も居るみたいだし……そう言う奴はきっと意地でも動かないだろう。
この場の全員を一斉に捕まえるのは実質不可能と考えた方が良い。そして同時に一斉にケチらすのもちょっと無理あるよな。
余りにも強力な攻撃したら飛空挺がどうなるかわかんない。普通はきっと町中と同じで傷つかない仕様の筈何だろうけど、前の時に墜ちてるし……それにやっぱり許容範囲以上の攻撃には耐えられないだろう。
町中でもそうだったしな。てか既に、鍛冶屋の大鎚の攻撃で所々凹んでるし。あんまりダメージ与える攻撃……特にイクシードとか使えない。
そうなると僕って結構役立たず。自分で言うのも何だけど、きっとそうだと思うんだよね。
「ここを抜けるのは難しい。それは同意だな。そこで思うんだが、本当にここを抜けるだけが上へ行く道か?」
なんだか変な事を言い出した鍛冶屋。どう言うことだよ。ここ以外に上へ行く道が無いのを良く知ってるはずだろ? お前もシルクちゃんも。
「中から行く分にはだろ。危険を承知なら外からだって登れるだろ」
「!! それってつまり、外の壁づたいに上へいけって事か」
確かに外から無理矢理入る事も出来たんだから、それが出来ない事は無いのかも。でも……それはかなりの勇気が必要だよな。
映画じゃあるまいし、墜ちたら一巻の終わり。特に僕の場合洒落に成らない。
「じゃあどうする? ここであいつ等とドンパチやってる間にサン・ジェルクに戻られて更に僧兵に乗り込んで来られるのとどっちが良いんだよ?」
「それは……」
確かにここでドンパチをやってたんじゃいつ上へ行けるのか目処も立たないか。リスクなんていつだってある。死と隣合わせなのもいつもの事と思えばそうだし、シルクちゃんも言ったよな。目的を見失うなって。
「それは責任転嫁ですよ。私はいつだって命を懸ける事に賛成なんかしてません!」
「だけど僕の場合、いつだって命懸けだからね。モンスターが居るこの世界で、亡くしたら終わりのこの命は一つだ。
後悔をしないために、目的を見失わないってだけ。それにピクが居れば万一の保険には成るしね」
つまりは墜ちたときはピク頼みって事で。そもそもピクに運んで貰う事は出来ないのだろうか? シルクちゃんはそれやってたよね?
「女の子は大丈夫と思いますけど、重量制限があるんですよね。今のピクは五十キロを越える物や人は運べません」
「五十キロか……」
確かにそれはちょっと無理っぽいな。てかシルクちゃんって五十キロも無いの? 超軽いね。
「それじゃあ外を伝う覚悟は出来たかスオウ?」
鍛冶屋のそんな声に、僕は「それしかないのなら」と答える。そろそろプレイヤー達のゴタゴタも収まりそうだし、そうなったら戦闘は再開される。
その前に動き出さないとな。
「ならさっさと行け、コイツを持ってな」
そう言って鍛冶屋は、背中に縛ってたミセス・アンダーソンをコチラに投げる。扱い酷すぎだろ。だけどさっさといけって……まさかコイツ。
「お前、何する気だ?」
「追われたら面倒だろ? 引き受けてやるって言ってるんだ。だからさっさと行け」
なんか随分格好良い事を言うじゃないか鍛冶屋の奴。だけど流石にあの人数相手にしたらただじゃ済まないぞ。
「それはどうにでも成るさ。あいつ等の狙いはお前だ。獲物が消えれば、俺が襲われる事は無くなる。そうだろ?」
「そう……かな?」
その理論にはちょっと首を傾げるぞ。だけどそうこうしてる内に前方では「じゃあやったもん勝ちだからな。文句付けるんじゃねーぞ!」とか言ってコチラに視線が集中する。
そして一斉に襲い来るプレイヤー達。その武器には様々な色の帯が纏ってる。スキルを宿した証しのその光が僕へと一斉に向けられる。
「さっさと行け!!」
そう言いつつ鍛冶屋は宙空に何かを出す。それは鉱石か? 向かい来るプレイヤーの数々、その攻撃がコチラに届く前に、その鉱石が僕達と奴らの間の壁となる。
壁の向こうから聞こえる甲高い音や、爆発音。どうやら向かってきてたプレイヤーの攻撃がこの壁の向こうで炸裂してるみたいだな。
僕は一瞬で天井や、壁まで延び早業に感心だよ。
「凄いなそれ。鉱石操作って奴か」
久々に見た。確か前に麒麟との戦いで見たとき以来。でもあの時は地面に手を付いて、まるで地面を操ってる様だったけど……
「飛空挺は木造だろ。俺たちスレイプルに木を操作する能力はない。良いからさっさと行けよ。あれだけの鉱石じゃ、硬度が足りない。直に破られる」
まあ確か見えた鉱石は四つ位だったな。それをこの場所の天井やら壁やらまで伸ばしてる訳だから、確かに強度は心許ないかもしれない。
すでに所々からピキパキという嫌な音も聞こえてきてる。
「それならお前も今の内に僕達と来た方が良いんじゃないか? あの人数を相手にするのは無謀だろ?」
僕がそういうと、鍛冶屋は乾いた声して笑ってこういう。
「スレイプルが戦闘型じゃ無いからと舐めるなよ。俺たちスレイプルには俺たちなりの戦い方があるんだよ。それに甲板に先回りされたらどうする。結局誰かがここで奴らの相手をしなきゃだろ」
「……いいんだな?」
「信じろよ。仲間だろ?」
それは予想外の言葉だったと思う。だって鍛冶屋が仲間とか言うとは。こいつ今までそんな事一度だって言わなかっただろ。でもその言葉で確信したよ。
「わかった。直ぐにこの船を乗っ取って助けに戻ってやるよ」
「はは、悪者の台詞なのかどうかわかりづらい発言だなそれは」
うるさい。悪いことをしようとしてる良い人集団が僕らだろうが。てな訳で、ここは鍛冶屋に任せる事に。僕とシルクちゃんは上がった階段を下りて丁度良さげな部屋へと入る。
「大丈夫かな? 鍛冶屋君」
心配気な顔で斜め上の天井を見つめるシルクちゃん。まあ実際、大丈夫かどうかは怪しいけど……でも――
「僕は信じるよ。それに心配なら急げば良いだけだ」
「そうですね!」
僕はいったんクリエとミセス・アンダーソンをベットに寝かせて、窓へと近づく。軽く二・三度小突いて見て、次におもいっきり叩く。
だけど飛空挺の丸い窓は案外頑丈だった。てかやっぱり普通は壊せない仕様に成ってるから、ただのパンチ程度じゃビクともしない。
やっぱりセラ・シルフィングでないと駄目だな。僕は腰から二対の剣を抜き、その刀身に青い雷撃を纏わせる。そして小さな窓に向かってその二つの剣を真っ直ぐに突き立てる。
窓にぶつかった所で雷撃がスパークして、青い光がこの部屋一杯に広がる。だけどまだ突き抜けてもいない。
「うおおおおおおおおおおおおおお!!」
僕は声を張り上げながらセラ・シルフィングを少しずつだけど押し込んでいく。ぶっ壊さないと先には進めないだ。だから意地でもここは破壊する! 溢れ出す青の雷。それが少し刀身自体に帯電していく。溢れでてたそれが、刀身の周りにもう一つの刃を形作りそして――その刃がシステムで守られていた薄い窓を突き破る。
そしてその瞬間、僕は両のセラ・シルフィングを左右に凪いで穴を広げる。一回システムを打ち破ったからか、窓周辺も結構すんなり切れた。
まあ勿論そんな大きな穴はあけてないよ。せいぜい人が一人余裕で通れる位の大きさだ。
「ふう」
「やりましたねスオウ君」
親指を立ててそう言ってくれるシルクちゃん。だけど思うけど、これでこの船には穴が二つに……極力小さくしたけど、マジ危ない事やってるよな僕ら。大丈夫なのかな?
「きっと大丈夫ですよ。それよりも急ぎましょう。取り合えずスオウ君は壁伝いに頑張ってください。私は先に上の様子を確かめますから。
安全ならピクにクリエちゃんと、ミセス・アンダーソンを運ばせます」
「分かった。頼むよシルクちゃん」
僕はセラ・シルフィングを鞘に戻し、早速穴の外へ……と思ったけどやっぱり覗き込むと相当怖いぞ。ちょっと僕がビビってると、シルクちゃんがピクと共に大空へと出た。いいな~スッゴい優雅にピクは飛んでるよ。
僕もピクと飛んだことあるんだけど。よく考えたらどれもこれも直ぐに地面に付く状況だったんだ。てか上に上がって貰った事がないな。それは重量制限のせいだったのね。
ピクを目で追ってると、大空から簡単に甲板へ――って、おお!? 僕は思わず身を乗り出してしまった。あれは……まさか……その……水玉の……あれで……ラッキーとか思った。すると甲板から顔を出したシルクちゃんが「大丈夫、OKだよ~」と無邪気な顔で言ってくる。なんだかいたたまれない気分になるな。なんて良い子なんだろう。そして自分の罪深さを思い知る。僕はあんな良い子のパンツを……
(くっ、心の奥に閉まっておこう。大切に大切に)
僕は静かに心の大切な場所にさっきの光景を保存しつつ、ちいさなとっかかりに足を掛ける。おお~~超怖い。はっきり言って、モンスターと対峙するより百倍位怖いぞ。
風も強くて体持ってかれそうだし、足掛ける所も掴む所も辛うじて過ぎる。だけど覚悟決めなきゃ何だよね。それにさっき良いもの見れたから、元気は一杯だ。
僕は覚悟を決めて一個上の窓へとジャンプする。出っ張りに手を掛けて足を掛けれる場所を探す。そんな僕の側を颯爽とピクが飛んで行く。まずはクリエを咥えて再び甲板へ。
何という早さ。僕はようやく取っかかりを見つけて、更なる上を見据える。ジャンプして届くかな?ここから上へと成ると距離がある上に窓も無いんだよね。きっとここら辺があの大広間部分だからだろうな。
一飛びで甲板に行けるかは微妙な所だよな。上へとクリエを届けたピクが再び下へ。今度はミセス・アンダーソンを咥えて上へ行くんだろうな。
僕も急がないと行けない。こうなったらジャンプじゃなく、斜めに走る方法はどうだろうか? 案外出来そうな気がするんだけどな。
まあやってみるしかない。僕は覚悟を決めて一回ジャンプした後に、壁を斜めに走る。
「うおおおりゃああああああああああ!!」
もの凄く必死で足を動かす。船の形をした船体を走り走り、僕は甲板が見えた時点で再度ジャンプして、甲板へと身を投げた。ゴロゴロと甲板を転がる僕。
「あっぶねぇええええ! マジで死ぬかと思った!」
心臓のドキドキがやばいよ。まだ足震えてるよ。てか良くあんな事出来たよ。リアルじゃ絶対に無理だな。LROだからやれる気がしたんだもん。
「大丈夫スオウ君?」
そう言ってクリエを両腕で抱えたシルクちゃんが駆けてくる。傍らにはミセス・アンダーソンを加えたピク。やっぱり早いな。
「なんとか……」
僕は息を整えながらそう紡ぐ。そして視線を甲板の盛り上がった部分。操舵室へと向ける。あそこにこの飛空挺を操ってる奴がいるんだ。さっさと脅して、リア・レーゼを目指して貰わないといけない。
「行こう!」
僕は立ち上がり、そう促して操舵室を目指す。階段を上がり、スパイみたいに扉の両脇にシルクちゃん共々張り付いた。僕は再びセラ・シルフィングを抜いてるよ。脅しをかけるんだからね。武器は必要だろ。
僕はシルクちゃんと視線を交差させてドアに手を伸ばす。開いた瞬間に中に押し入り、艦長を捕虜にするのだ。みまごうことなき悪人だな僕ら。だけどそれを分かった上でやってんだ!
僕の腕がドアにかかろうとしたその時、扉が横にスライドして開いた。
「それでは頼むよ艦長。このままサン・ジェルクへと戻ってくれたまえ。万一に備えてバトルシップも出向したから心配しなくても……」
途切れた言葉。それはきっと僕たちと目が合ったからだ。出てきたのは僧兵。しかもちょっと偉そうだから、この飛空挺内ではリーダー格の奴か? そして流石リーダー、僕たちを見定めた瞬間には既に腕が武器へと延びた。だけど僕はそれを許さない。
セラ・シルフィングを奴の槍へと当てて強制排出。さらに足で蹴りあげて、束で腹を殴り、甲板部分の先まで吹き飛ばす。
その一瞬の出来事に目を疑う様な表情をしてる艦長モブリ。僕たちは流れる様に部屋へ進入して、セラ・シルフィングの切っ先を艦長へと向ける。
「さて、方向修正して貰おうか? 行き先は当初の予定通り『リア・レーゼ』で頼む」
「こんな事をして……おまえ達の目的は何だ? 逃げられると思ってるのか?」
なんの事情も知らないモブリが、決まった様な台詞を言うじゃないか。
「逃げ続ける気はないから安心しろよ。それに目的を関係ない奴に話はしないだろ? お前はただ、言われた通りの街へこの船を向ければ良いんだよ。間違ってもサン・ジェルクなんかに着いた日にはどうなるか……分かるだろ?」
僕は雷撃を纏わせたセラ・シルフィングを一凪する。すると丁度、急いで戻ってきた僧兵に当たったじゃないか。なんてタイミングが良い奴だ。壁に傷の一つでも付けてビビらせるつもりが、予想以上の効果になりそうだ。
「くっ……すみません。乗客の安全には変えられません」
艦長はきっと僧兵にそう言って、再び飛空挺の進路を戻してくれた。僕が相当の鬼畜にでも見えてくれたんだろうな。タイミング良い僧兵のおかげでさ。そこだけ感謝しとくよ。
取り合えずこれで、どうにかなった……かな?
僕達はそんな木造建築の海の上にありそうな船の中にいる。そして僕達だけじゃないプレイヤーの面々。彼らにだって目的があって、きっとやるべき事もあるんだろう。
実際クエストやミッションはLROでのやるべき事。やらなくても良いんだけど、普通にLROを楽しんでる人達はその為にだってやるはずだ。
そして今、彼らが言うには僕もまたクエストの対象らしい。きっと元老院が仕組んだ卑劣な罠。だけど彼らにはそんな事関係ない。
彼らはクエストとしてゲームの一イベントとして僕達の前に好奇心で立ち塞がる。各の武器が淡いランプに照らされて煌めいてる。これはどうやら避けられない戦いみたいだ。
僕と鍛冶屋、そしてシルクちゃんも数十人居るプレイヤーを見据える。
「どうする?」
「どうするだと? 蹴散らすしかないだろう。捕まるわけにはいかんだろう」
僕の言葉に、鍛冶屋がそう言う。コイツいつの間にか背中に背負ってた筈のミセス・アンダーソンを、括りつけてる感じにして両手を空かしてる。
まあ、鍛冶屋の武器の大鎚は片手で扱える代物じゃないから何だろうけど、ある意味やる気満々だな。
「でも待ってください。ここでこれ以上時間を割くわけには行かないですよ。それに本格的な戦闘なんて、どう考えても不味いです。
目的を見失ったらダメです。目の前の事に流されず、私達は私達のやるべき事を!」
シルクちゃんは力強くそう言う。勿論それも分かるんだけど……
「コイツ等、易々と見逃してくれそうにないよ」
「だけどまともにぶつかるなんて……ここでぶつかり合ったら、それこそ元老院の思う壺です。どうにかしてここを切り抜けないと」
戦わずに? それは流石にもう無理だろ。出来ればそうしたいけど、あちらさんはこちらに飛びかかる五秒前位だよ。
そうこうしていると、いきなり足下がフラツいた。船体が揺れてる? いや、これは――
「方向転換してるのか!?」
「まさか、サン・ジェルクに戻る気なんじゃ?」
おいおいこれは不味いぞ。
「くっ、そこをどけええええええ!!!」
僕はフラツいてる奴らに突っ込む。それに続いて鍛冶屋も後ろから来た。二人しての突撃。だけどそれは無謀だったのかも知れない。
向かい来る僕達に向けて放たれた魔法の光。それを交わす為に、僕と鍛冶屋は左右に分かれた。そして一人ずつにしてから一気に攻め込まれる。
近接と魔法の打ち込み。背中に居るクリエを庇いながら、しかも剣一つじゃ防御で精一杯。武器と武器とがぶつかり合う音がこの空間に響いてる。
「ははははは! 最初の威勢はどうしたよ!? ここを通りたいんだろ? もっと気張って見せろ!」
そんな事を言いながら、プレイヤーの一人の剣が僕に迫る。ヤバい、これは避けれないぞ。既に別プレイヤーの攻撃を防いでるから空きが無い。一撃を食らう覚悟。それを決めた時、だけど予想外な事が起きた。
「邪魔するな!!」
「ぐは!?」
そんな声と共に、更に横から入って来た誰かによってさっきのプレイヤーが吹き飛ばされた。え? 一体何が? そう思ったけど取り合えずこの瞬間僕は距離を取る。そして苦戦してた鍛冶屋に割り込んで、二人してシルクちゃんの場所まで下がる。
どうやらシルクちゃんはピクと共に障壁を張ってたみたいだな。
「何するんだテメェ!!」
「アイツを捕まえるのは俺達だ!」
前方でそうやってモメてるのはさっきぶつかりあった奴ら。なんか手柄の取り合いでもしてるようだな。
「取り合いじゃなくて実際そうなんだよ。人間の醜い欲望を丸出しにしてるんだ」
「どういう事だよ? アイツ等の目的は一緒だろ」
僕がそう言うと、後ろのシルクちゃんが教えてくれるよ。
「確かに彼らの目的は一緒です。クエストとして指名手配されてるスオウ君の確保。だけど目的が同じだからって彼らは仲間じゃないんです。
考えてもみてください。お金にしてもアイテムにしても、それが全員に行き渡ると思いますか? 普通の戦闘でも人数分のアイテムが出るわけじゃないから、運でランダムに振り分けられるんですよ。
それを納得できるのは、元がそれ前提でパーティを組むから。だけど彼らは誰もがその報酬を受け取りたいと思って戦闘を開始したんです」
ようは誰も彼も譲る気はないって事か?
「まあそう言う事になりますね。元がリア・レーゼに行くための船だし、知り合いと乗り合わせた人もきっと少ない。
自分の腕に自信がある人は個人で攻めて来るだろうし、通常の五人パーテェならクエストの報酬も五分の一の確率になります。
だから知り合いだけのパーティか、速攻の中途半端なパーティしか出来なくて、残りは個人で報酬を狙う人達に分かれてるんでしょう。
だから彼らに連携とか協力は無いんです。たとえ目的は同じでも、自分の為にを誰もが思えば、そこに繋がりなんて生まれない」
「確かに、それはシルクちゃんの言うとおりだね。ならそこら辺にここを抜ける光明がありそうだね」
だけど問題もあるよな。コイツ等は僕を倒す直前になると手柄の奪い合いを始める様だけどさ、基本獲物を逃がしたくないと思う意識は大前提として一つなんだ。
だからここを抜けるのが難しい。ずっといがみ合ってれば楽なのに……
「とにかくさっさとここを抜ける。出ないと、モタモタしてたらサン・ジェルクにとんぼ返りする羽目になる。何か良い案ある?」
僕は他二人に託す。だって今の僕は単純に戦闘力半減してるんだ。それにセラ・シルフィングを使うことしか脳がないし。そこで半減しちゃってたら、不味いのは自分でもわかってるんだ。
だから二人の経験と僕にはない豊富なスキルに期待だよ。
「そうですね。取り合えず全員を一斉に捕まえる事が出来れば良いんですけど。それならその間にここを抜けれます」
確かにそれが出来れば良いんだけど……逆にちょっとこれはあいつ等の連携が無いのがネックだよ。動きが読めないし、そもそも後衛の奴らは滅多に前には来ないしな。後衛でしかも最後の一撃を狙って詠唱準備してる奴も居るみたいだし……そう言う奴はきっと意地でも動かないだろう。
この場の全員を一斉に捕まえるのは実質不可能と考えた方が良い。そして同時に一斉にケチらすのもちょっと無理あるよな。
余りにも強力な攻撃したら飛空挺がどうなるかわかんない。普通はきっと町中と同じで傷つかない仕様の筈何だろうけど、前の時に墜ちてるし……それにやっぱり許容範囲以上の攻撃には耐えられないだろう。
町中でもそうだったしな。てか既に、鍛冶屋の大鎚の攻撃で所々凹んでるし。あんまりダメージ与える攻撃……特にイクシードとか使えない。
そうなると僕って結構役立たず。自分で言うのも何だけど、きっとそうだと思うんだよね。
「ここを抜けるのは難しい。それは同意だな。そこで思うんだが、本当にここを抜けるだけが上へ行く道か?」
なんだか変な事を言い出した鍛冶屋。どう言うことだよ。ここ以外に上へ行く道が無いのを良く知ってるはずだろ? お前もシルクちゃんも。
「中から行く分にはだろ。危険を承知なら外からだって登れるだろ」
「!! それってつまり、外の壁づたいに上へいけって事か」
確かに外から無理矢理入る事も出来たんだから、それが出来ない事は無いのかも。でも……それはかなりの勇気が必要だよな。
映画じゃあるまいし、墜ちたら一巻の終わり。特に僕の場合洒落に成らない。
「じゃあどうする? ここであいつ等とドンパチやってる間にサン・ジェルクに戻られて更に僧兵に乗り込んで来られるのとどっちが良いんだよ?」
「それは……」
確かにここでドンパチをやってたんじゃいつ上へ行けるのか目処も立たないか。リスクなんていつだってある。死と隣合わせなのもいつもの事と思えばそうだし、シルクちゃんも言ったよな。目的を見失うなって。
「それは責任転嫁ですよ。私はいつだって命を懸ける事に賛成なんかしてません!」
「だけど僕の場合、いつだって命懸けだからね。モンスターが居るこの世界で、亡くしたら終わりのこの命は一つだ。
後悔をしないために、目的を見失わないってだけ。それにピクが居れば万一の保険には成るしね」
つまりは墜ちたときはピク頼みって事で。そもそもピクに運んで貰う事は出来ないのだろうか? シルクちゃんはそれやってたよね?
「女の子は大丈夫と思いますけど、重量制限があるんですよね。今のピクは五十キロを越える物や人は運べません」
「五十キロか……」
確かにそれはちょっと無理っぽいな。てかシルクちゃんって五十キロも無いの? 超軽いね。
「それじゃあ外を伝う覚悟は出来たかスオウ?」
鍛冶屋のそんな声に、僕は「それしかないのなら」と答える。そろそろプレイヤー達のゴタゴタも収まりそうだし、そうなったら戦闘は再開される。
その前に動き出さないとな。
「ならさっさと行け、コイツを持ってな」
そう言って鍛冶屋は、背中に縛ってたミセス・アンダーソンをコチラに投げる。扱い酷すぎだろ。だけどさっさといけって……まさかコイツ。
「お前、何する気だ?」
「追われたら面倒だろ? 引き受けてやるって言ってるんだ。だからさっさと行け」
なんか随分格好良い事を言うじゃないか鍛冶屋の奴。だけど流石にあの人数相手にしたらただじゃ済まないぞ。
「それはどうにでも成るさ。あいつ等の狙いはお前だ。獲物が消えれば、俺が襲われる事は無くなる。そうだろ?」
「そう……かな?」
その理論にはちょっと首を傾げるぞ。だけどそうこうしてる内に前方では「じゃあやったもん勝ちだからな。文句付けるんじゃねーぞ!」とか言ってコチラに視線が集中する。
そして一斉に襲い来るプレイヤー達。その武器には様々な色の帯が纏ってる。スキルを宿した証しのその光が僕へと一斉に向けられる。
「さっさと行け!!」
そう言いつつ鍛冶屋は宙空に何かを出す。それは鉱石か? 向かい来るプレイヤーの数々、その攻撃がコチラに届く前に、その鉱石が僕達と奴らの間の壁となる。
壁の向こうから聞こえる甲高い音や、爆発音。どうやら向かってきてたプレイヤーの攻撃がこの壁の向こうで炸裂してるみたいだな。
僕は一瞬で天井や、壁まで延び早業に感心だよ。
「凄いなそれ。鉱石操作って奴か」
久々に見た。確か前に麒麟との戦いで見たとき以来。でもあの時は地面に手を付いて、まるで地面を操ってる様だったけど……
「飛空挺は木造だろ。俺たちスレイプルに木を操作する能力はない。良いからさっさと行けよ。あれだけの鉱石じゃ、硬度が足りない。直に破られる」
まあ確か見えた鉱石は四つ位だったな。それをこの場所の天井やら壁やらまで伸ばしてる訳だから、確かに強度は心許ないかもしれない。
すでに所々からピキパキという嫌な音も聞こえてきてる。
「それならお前も今の内に僕達と来た方が良いんじゃないか? あの人数を相手にするのは無謀だろ?」
僕がそういうと、鍛冶屋は乾いた声して笑ってこういう。
「スレイプルが戦闘型じゃ無いからと舐めるなよ。俺たちスレイプルには俺たちなりの戦い方があるんだよ。それに甲板に先回りされたらどうする。結局誰かがここで奴らの相手をしなきゃだろ」
「……いいんだな?」
「信じろよ。仲間だろ?」
それは予想外の言葉だったと思う。だって鍛冶屋が仲間とか言うとは。こいつ今までそんな事一度だって言わなかっただろ。でもその言葉で確信したよ。
「わかった。直ぐにこの船を乗っ取って助けに戻ってやるよ」
「はは、悪者の台詞なのかどうかわかりづらい発言だなそれは」
うるさい。悪いことをしようとしてる良い人集団が僕らだろうが。てな訳で、ここは鍛冶屋に任せる事に。僕とシルクちゃんは上がった階段を下りて丁度良さげな部屋へと入る。
「大丈夫かな? 鍛冶屋君」
心配気な顔で斜め上の天井を見つめるシルクちゃん。まあ実際、大丈夫かどうかは怪しいけど……でも――
「僕は信じるよ。それに心配なら急げば良いだけだ」
「そうですね!」
僕はいったんクリエとミセス・アンダーソンをベットに寝かせて、窓へと近づく。軽く二・三度小突いて見て、次におもいっきり叩く。
だけど飛空挺の丸い窓は案外頑丈だった。てかやっぱり普通は壊せない仕様に成ってるから、ただのパンチ程度じゃビクともしない。
やっぱりセラ・シルフィングでないと駄目だな。僕は腰から二対の剣を抜き、その刀身に青い雷撃を纏わせる。そして小さな窓に向かってその二つの剣を真っ直ぐに突き立てる。
窓にぶつかった所で雷撃がスパークして、青い光がこの部屋一杯に広がる。だけどまだ突き抜けてもいない。
「うおおおおおおおおおおおおおお!!」
僕は声を張り上げながらセラ・シルフィングを少しずつだけど押し込んでいく。ぶっ壊さないと先には進めないだ。だから意地でもここは破壊する! 溢れ出す青の雷。それが少し刀身自体に帯電していく。溢れでてたそれが、刀身の周りにもう一つの刃を形作りそして――その刃がシステムで守られていた薄い窓を突き破る。
そしてその瞬間、僕は両のセラ・シルフィングを左右に凪いで穴を広げる。一回システムを打ち破ったからか、窓周辺も結構すんなり切れた。
まあ勿論そんな大きな穴はあけてないよ。せいぜい人が一人余裕で通れる位の大きさだ。
「ふう」
「やりましたねスオウ君」
親指を立ててそう言ってくれるシルクちゃん。だけど思うけど、これでこの船には穴が二つに……極力小さくしたけど、マジ危ない事やってるよな僕ら。大丈夫なのかな?
「きっと大丈夫ですよ。それよりも急ぎましょう。取り合えずスオウ君は壁伝いに頑張ってください。私は先に上の様子を確かめますから。
安全ならピクにクリエちゃんと、ミセス・アンダーソンを運ばせます」
「分かった。頼むよシルクちゃん」
僕はセラ・シルフィングを鞘に戻し、早速穴の外へ……と思ったけどやっぱり覗き込むと相当怖いぞ。ちょっと僕がビビってると、シルクちゃんがピクと共に大空へと出た。いいな~スッゴい優雅にピクは飛んでるよ。
僕もピクと飛んだことあるんだけど。よく考えたらどれもこれも直ぐに地面に付く状況だったんだ。てか上に上がって貰った事がないな。それは重量制限のせいだったのね。
ピクを目で追ってると、大空から簡単に甲板へ――って、おお!? 僕は思わず身を乗り出してしまった。あれは……まさか……その……水玉の……あれで……ラッキーとか思った。すると甲板から顔を出したシルクちゃんが「大丈夫、OKだよ~」と無邪気な顔で言ってくる。なんだかいたたまれない気分になるな。なんて良い子なんだろう。そして自分の罪深さを思い知る。僕はあんな良い子のパンツを……
(くっ、心の奥に閉まっておこう。大切に大切に)
僕は静かに心の大切な場所にさっきの光景を保存しつつ、ちいさなとっかかりに足を掛ける。おお~~超怖い。はっきり言って、モンスターと対峙するより百倍位怖いぞ。
風も強くて体持ってかれそうだし、足掛ける所も掴む所も辛うじて過ぎる。だけど覚悟決めなきゃ何だよね。それにさっき良いもの見れたから、元気は一杯だ。
僕は覚悟を決めて一個上の窓へとジャンプする。出っ張りに手を掛けて足を掛けれる場所を探す。そんな僕の側を颯爽とピクが飛んで行く。まずはクリエを咥えて再び甲板へ。
何という早さ。僕はようやく取っかかりを見つけて、更なる上を見据える。ジャンプして届くかな?ここから上へと成ると距離がある上に窓も無いんだよね。きっとここら辺があの大広間部分だからだろうな。
一飛びで甲板に行けるかは微妙な所だよな。上へとクリエを届けたピクが再び下へ。今度はミセス・アンダーソンを咥えて上へ行くんだろうな。
僕も急がないと行けない。こうなったらジャンプじゃなく、斜めに走る方法はどうだろうか? 案外出来そうな気がするんだけどな。
まあやってみるしかない。僕は覚悟を決めて一回ジャンプした後に、壁を斜めに走る。
「うおおおりゃああああああああああ!!」
もの凄く必死で足を動かす。船の形をした船体を走り走り、僕は甲板が見えた時点で再度ジャンプして、甲板へと身を投げた。ゴロゴロと甲板を転がる僕。
「あっぶねぇええええ! マジで死ぬかと思った!」
心臓のドキドキがやばいよ。まだ足震えてるよ。てか良くあんな事出来たよ。リアルじゃ絶対に無理だな。LROだからやれる気がしたんだもん。
「大丈夫スオウ君?」
そう言ってクリエを両腕で抱えたシルクちゃんが駆けてくる。傍らにはミセス・アンダーソンを加えたピク。やっぱり早いな。
「なんとか……」
僕は息を整えながらそう紡ぐ。そして視線を甲板の盛り上がった部分。操舵室へと向ける。あそこにこの飛空挺を操ってる奴がいるんだ。さっさと脅して、リア・レーゼを目指して貰わないといけない。
「行こう!」
僕は立ち上がり、そう促して操舵室を目指す。階段を上がり、スパイみたいに扉の両脇にシルクちゃん共々張り付いた。僕は再びセラ・シルフィングを抜いてるよ。脅しをかけるんだからね。武器は必要だろ。
僕はシルクちゃんと視線を交差させてドアに手を伸ばす。開いた瞬間に中に押し入り、艦長を捕虜にするのだ。みまごうことなき悪人だな僕ら。だけどそれを分かった上でやってんだ!
僕の腕がドアにかかろうとしたその時、扉が横にスライドして開いた。
「それでは頼むよ艦長。このままサン・ジェルクへと戻ってくれたまえ。万一に備えてバトルシップも出向したから心配しなくても……」
途切れた言葉。それはきっと僕たちと目が合ったからだ。出てきたのは僧兵。しかもちょっと偉そうだから、この飛空挺内ではリーダー格の奴か? そして流石リーダー、僕たちを見定めた瞬間には既に腕が武器へと延びた。だけど僕はそれを許さない。
セラ・シルフィングを奴の槍へと当てて強制排出。さらに足で蹴りあげて、束で腹を殴り、甲板部分の先まで吹き飛ばす。
その一瞬の出来事に目を疑う様な表情をしてる艦長モブリ。僕たちは流れる様に部屋へ進入して、セラ・シルフィングの切っ先を艦長へと向ける。
「さて、方向修正して貰おうか? 行き先は当初の予定通り『リア・レーゼ』で頼む」
「こんな事をして……おまえ達の目的は何だ? 逃げられると思ってるのか?」
なんの事情も知らないモブリが、決まった様な台詞を言うじゃないか。
「逃げ続ける気はないから安心しろよ。それに目的を関係ない奴に話はしないだろ? お前はただ、言われた通りの街へこの船を向ければ良いんだよ。間違ってもサン・ジェルクなんかに着いた日にはどうなるか……分かるだろ?」
僕は雷撃を纏わせたセラ・シルフィングを一凪する。すると丁度、急いで戻ってきた僧兵に当たったじゃないか。なんてタイミングが良い奴だ。壁に傷の一つでも付けてビビらせるつもりが、予想以上の効果になりそうだ。
「くっ……すみません。乗客の安全には変えられません」
艦長はきっと僧兵にそう言って、再び飛空挺の進路を戻してくれた。僕が相当の鬼畜にでも見えてくれたんだろうな。タイミング良い僧兵のおかげでさ。そこだけ感謝しとくよ。
取り合えずこれで、どうにかなった……かな?
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