命改変プログラム

ファーストなサイコロ

再び夢の舞台へ

 チチチと鳥のさえずる声――で起きるなんて風情のある一日の始まり方をここ最近してない。てかこの時期は目覚まし変わりに成りそうな程の声が、窓の外からしてるんだ。
 それは一週間という命を精一杯生きる声。短い命に全力を注ぐ蝉達の叫び。まあそう言えば聞こえも良いけど、実際この時期の間ずっと聞かされて来るとうんざりするよね。
 種類が違わないと声の違いなんて分かんないし「おお、アイツ今日も頑張ってるな。今日でもう五日目か」とか思えない。
 昨日まで聞こえてた鳴き声とはもしかしたらこの声は違うのかも知れない。だけどやっぱり僕の耳には違いなんて分かんない。


 はてさていきなり朝っぱらから、なんで蝉に思いを馳せてるのか……自分でも不思議だけどさ、なんか『命』って奴を最近実感してるんだ。
 LROもそうだし、今のこの体もそう……そして昨日のあの夫婦の事も。胸に手を当てれば鼓動が聞こえ、息を止めれば苦しくなる。当たり前だけどさ、それが生きてるって事を感じるのとはちょっと違う。
 命を感じる瞬間ってそうじゃないんだよ。命を懸けた戦い、譲れない思い、そして大切な人の死……そう言うので命って強く実感できると思う。
 この長い休みに入ってそんなのばっかだから、感慨深くも成るよ。それについ最近、墓にもいったしね。誰かの死を思い出すと、自分が生きてる実感になるって言ったらそれは不謹慎なのかな。
 まあ僕はまだ生きたい。昇りかけの太陽と、今日も澄み切った青空に思うのはそういう事でOK。


「――で、なんでお前が僕のベットでうずくまってるんだ?」


 僕は外に向けてた視線を室内に戻してそう言った。ベットの上には僕の枕に顔を埋めてるアホが居る。そんなアホは足をパタパタさせながらこう言うよ。


「今日一日のスオウ分を摂取してるんじゃない。これをしないと一日持たないんだよ。まぁ枕をモフモフして欲しくないなら――」


 そういいながら、日鞠は枕から横顔を見せながら、その白く細い指をツヤツヤしてる唇へと持っていく。


「キスでも良いよ。それなら一発で百パーセントに充電出来るから」
「ふざけるな。僕の成分なんて無くても死ぬわけ無いだろ。そんな物、人体の構成要素に入ってねーよ」


 僕は投げやりにそういってやる。実際こんな会話、もう何度も繰り返してるしな。何度言ったってやめないんだもんコイツ。


「私の構成要素には入ってるもん。炭水化物にタンパク質、リンに亜鉛に、脂肪にカルシウム。そしてスオウチャージャー」
「変な名称付けるな!!」


 僕の叫びなんてどこ吹く風。日鞠は枕に精一杯顔を埋めてる。どこの変態だよこいつは。端から見てると相当ヤバいよ。僕はもう慣れちゃってるから引かないけど、流石に学校の奴らにここまで知られると、コイツの人気も危ういなと思う。
 てか良く本人の目の前で出来るな。そういうのは隠れてやるものじゃないの?


「昔は隠れてやってたよ。だけど私はわかってるもん。スオウはこんな事で私を嫌いに成らないって。だから平気。スーハースーハー」


 まあ確かに嫌いには成らないけど……毎回毎回、付き合いを考えたくは成ってるぞ。そんな事を思ってると、日鞠は横目で僕を見て、ニヤリと口を上げて更にこういう。


「それに、スオウだってこういうの嬉しいでしょ?」
「自分の臭いを目の前でクンカクンカされる事がか? それは一部のマニアックな趣味の方々だけだろ」
「違うよ。可愛い女の子が、自分のベットに寝転がってるシュチュエーションだよ!」


 バチコーイとウインクをかます日鞠。こいつやっぱ相当頭病んでるよ。


「朝は私がスオウの臭いで元気になるでしょ。で、夜は私の臭いでスオウが元気になれるという一挙両得だと思うんだけど」


 さも当たり前の様になに言ってるんだコイツは。そんな事――


「してないの? クンカクンカしてないの?」
「…………」


 ――あれ? 答えられない自分が居るぞ。日鞠のどこか確信してるような瞳がうざったいな。ニヤニヤしてるし。そこまで計算づくか? てか、寧ろちゃんと利用してた事に感謝して欲しいくらい。
 てな訳で、僕は開き直る事に。


「あーはいはい、してました。ベットや枕に染み着いた日鞠の臭いをクンカクンカしてました! これで満足か?」
「うん! 臭いの等価交換だね」
「上手くねぇよそれ」


 てか明らかに変態っぽい会話だ。お互いの臭いをクンカクンカしてるなんて……頭を抱えずには居られないな。くっそ、僕は日鞠の策略にまんまと引っかかってた訳だな。今更だけど、朝からなんて会話してるんだろ僕達。気が滅入るな。


「よっし! スオウ分ほぼ充填完了! 今日も一日頑張れそう!」
「それはなによりだよ」


 なんだかんだ言ったって結局僕は、コイツには元気で居て欲しいからな。だけど枕から顔を上げた日鞠は何故かベットから降りようとしない。今度は仰向けに成ってこちらに手を伸ばしてくる。


「何やってるんだよ? そろそろ飯にしようぜ」
「まだ直接接触してないよ。お手を取ってよ執事君」


 なんかまた始めだした日鞠。妖しい笑み浮かべちゃって、朝からホント元気な奴。今度は何なんだ? お嬢様ごっこ?


「別にそうじゃないけど、ただスオウに起こして欲しいの。手と手を触れ合って……それで私のスオウ分は満タンになるの!」


 そう言って掲げた手を揺らして催促してくる日鞠。僕は面倒だから扉の方へ歩き出す。


「さぁて飯にするか」
「ああ!? ダメだよスオウ! 一緒に食べれる時は二人でがルールでしょ?」
「だってメンドいし……」


 僕がドアノブに手をかけると、日鞠は上半身を起こして叫ぶようにこう言った。


「お味噌汁に具を入れてやらないからね!」
「自分でよそうからいいよ別に」
「じゃじゃあ! 大根下ろし卸して上げない!」


 今日の朝飯はどうやら焼き魚だな。まさしく和食って感じ。だけどそれなら大根下しは必須。無いのは困るけど……


「自分でその位出来るな」
「それじゃあスオウのご飯は炊く前の米をだしてやる!」
「鬼かお前は!!」


 そんなの食えるか! さらさらの米が茶碗によそわれて出てきた時点で、食欲失せるわ。


「ふっふ、炊いた後の米を食べたいのなら、私のこの手を『お手を拝借』とかっこつけながら取る事ね」
「なんか付け加わってないかおい」


 僕は死んだ魚の目をして日鞠を見る。すると日鞠は頬を膨らませながらこういう


「ふ、ふん! スオウが私を放っておこうとするからだよ」


 プンプンてな擬音が似合いそうな顔してる日鞠は、もう一度ベットに上半身を寝かせる。おいおいそこからしたいの?
 別に寝転がる必要性はないだろ。まあだけど、ここでまた文句言ったら今度は味噌汁を味噌にされそうな気がしたから素直に聞いてやることに。


「え~と、お手を拝借」
「却下で」


 触れかけた手をかわす日鞠。何でだよ!!


「言ったよねスオウ? カッコつけながら、そしてスオウは執事なんだよ。それっぽさを出してよ」


 たく、その設定は本気だったのかよ。めんどくさ~と、心の中で呟いた。


「早く~セバスチャン早く~」


 手をフリフリしながらそんな事を言ってる日鞠。セバスチャンって誰だよ。執事の代名詞みたい名前セバスチャンってか? 僕はもう諦め気味だから、さっさと合格を貰う事にするよ。
 恥ずかしいけど、結局ここには二人しかいないし、我慢我慢。え~と執事っぽくすればいいんだろ。取り合えず姿勢を正して、表情をキリッとさせて、余裕を持ってやってやろう。勝手な印象で、執事には余裕が大切だと思ってる。


「お嬢様」


 僕はそう優しくいって、包み込む様に日鞠の手を握る。それはもう赤ちゃんの手を握る位の気持ちで行ってやった。すると一瞬ピクンと日鞠が反応して「ふぇ?」とか言う間抜けな声を出した。
 そして僕は下から握った手に、今度は上からもう一方の手を添えて、頭を下げてキーワードを口にする。


「お手を拝借させて頂きます」


 極めつけはそう言った後に、顔を上げて目を見て優しく微笑む事。すると日鞠は目をパチクリさせて、顔を左右に動かしてる。なんだか面白く成ってきたな。僕がいつまでも遊ばれる側に居ると思うなよ。


「では起きあがりましょう」


 日鞠は何回も首を縦に降る。この反応は見てて楽しいな。僕は優しく力を込めて、日鞠をベットから離した。地に足が着いたけど、なんだかちょっとフラフラしてる日鞠。それにやけに下を見て僕を見ようとしない。
 僕は目にかかりそうな日鞠の髪を指ですいて、こう言った。


「どうだった?」


 すると日鞠は、下を見たままポツリとこう呟いたよ。


「……………………惚れなおした」


 赤くなった顔で上目遣いで僕を見上げてくる日鞠。それは今の言葉と相まってなんだかちょっと異様な雰囲気。僕も暑くなってきたかも。
 だけど日鞠は直ぐに冗談めいた感じでこう言った。


「これからはセバスチャンとスオウの事を呼ぼうかな?」
「それは止めろ。学校の奴らに聞かれたら、この休みが終わった後に、いきなり学校中からそう呼ばれそうで怖い」


 日鞠の発言力は、本人が思ってる以上に絶大なんだ。セバスチャンとして残りの高校生活送りたくない。


「そっか、じゃあやっぱりスオウで。だけど良かったよ。それなりに体、回復したみたいで」
「お前、それを確かめる為にわざわざ?」
「う~んそれはどうかな? どっちが建前でも実は良かったり。だけどまだ完全じゃないんだし、無理はダメだよ」
「わかってるって」


 僕がそう言うと日鞠は一つため息をついて僕の鼻の先に指を押し込んでくる。


「わかってるってそれは分かってない。いや違うね。スオウは理解してくれてるけど、無茶をやるのは時と場合によりけりって感じでしょ?
 そんなの分かってたって意味ないよ」


 う~ん流石に日鞠にはバレバレだな。僕はとりあえず押し込まれる指を退かす事に。


「まあだけど、無茶も無理も思いを通す為には必要だよね。苦労しないで手に入る物なんか、この世にはそうそうないし……けどねスオウ、一つだけちゃんと覚えてて。
 私はスオウが居なくなった世界になんて興味ない。だから絶対に帰ってきて。それは絶対の絶対の約束だからね」


 真剣な日鞠の表情。コイツの顔を思い出すだけで、死ぬわけには行かないって絶対に思える。だから僕は約束するよ。帰ってくるって。


「了解」
「うん!」


 朝日に咲く日鞠の笑顔。こいつは知らないだろうけど、僕は一体何度、この笑顔に救われたか分からない。


 朝食を済ませ、日鞠は今日もどこかへお出かけ。アイツ一体、何個バイト掛け持ちしてるんだ? まあアイツが大人しくしてる方が気味悪いから、慌ただしくしてるってだけで今日もいつも通りだなっては思うけど……アイツも自分の身を省みない所あるからな。
 どこかで釘を指さなきゃ……と考えるけど、この休みも後半に入ってるのに今更か。てか、あんなに毎日どっかに出かけてるのに、毎年毎年良く宿題を消化出来るよな。
 なんか僕とかとは、時間の使い方が違う。バイトした後に勉強とか、やる気出ないだろ普通。まあだけど、宿題なんて物は日鞠に取っては片手間なんだよな。
 でもその日の内にやるかやらないかはやっぱり人間性の問題かな? 日鞠なんてその気になれば幾らだってダラケれるのに、そんな姿見たことないもんな。結局は、僕が日鞠並の頭を持ってたとしても、きっとのこの現状は変わりはないって事だろうな。
 自分の体たらくぶりが身に染みるな。とりあえず、現時刻は七時半だから、LROに入るのに後三十分位猶予がある。この間にやれることを……


「うう、体の節々の痛みのせいでやる気が削げ落ちる」


 昨日はこれの比じゃない位に辛かったわけだけど、地味に痛いのも結構うざいよな。今は全身の痛みが、筋肉痛とかに変わってるんだよね。
 これもある意味昨日の代償……そんな風に思ってると、イヤな事を思い出した。


「そう言えばシクラの奴に『法の書』取られたんだっけ」


 苦労したのに……あの野郎。確かにアイツの協力無しではアイテム一つもゲット出来なかっただろうけど、だからって一番レアな奴持っていくか? どんだけ図々しいんだよ。
 とりあえず秋徒や愛さんには言った方が良いだろうな。二人とも一緒に頑張ったんだし、持ってるものと思わせておくのもね……いずれバレちゃうだろうし、それなら素直に言った方が良いだろ。
 僕はスマホを取り出して、ピコピコ文章を打つ。そして送信。ふう、約一分も掛からずに作業は終了してしまった。食器は日鞠が洗ってくれたし……昼食も既に作ってあるし……洗濯は一人暮らしだから、毎日する必要ないし……掃除は体が痛いからパスで。
 僕はソファに腰掛けて取りあえずテレビをつけた。テレビでは代わり映えのしないニュースをやってる。何となく流し見してると、不意にLROという単語が耳に入ってきた。


 どうやら、LROの復旧を大々的に伝えてるみたいだな。そして昨日のイベントの事も言ってた。おいおい映像にチラチラ自分が映ってるのが見える。
 うわぁぁ~って感じの何とも言えない居たたまれなさに苛まれるよ。何という恥ずかしさ。てか、テレビカメラなんかあったっけ? 気付かなかったぞ。
 まあそんなの気にしてる場合でもなかった訳だけどさ。


『昨日行われた秋葉原でのイベントは大変多くの参加者で賑わい――』


 暢気にあのイベントをそんな風に紹介していくアナウンサー。そこにちょこちょこ横から口を挟むコメンテーター。なんだか見てる側とやってた側とじゃ結構印象違うな。
 てか、あれがただの賑わいに見えたのか本当に? 死闘だったんだけど。流石にラオウさんが銃を乱射してるシーンはないけど、僕達とチンピラどもの衝突の映像は、所々流されてる。
 まあでもこれを何も知らずに見れば、お祭り的に見える……かもしれないね。本当はそんなに暢気にやってないけどね。
 そんな事を思ってると、スマホに振動が。秋徒かと思ったらそれは愛さん。よく考えたら、秋徒がこの休みにこんな朝早くに起きてる訳ないか。


『おはようございますスオウ君。メール拝見しました。やっぱりシクラには裏があったんですね。スオウ君にアイテムを手に入れさせる為に出てきてた。
 それは結局自分の狙いがあったから。悔しいですけど、シクラに踊らされてたんですね。だけどこのままじゃ終わらせません。
 アレの事は私達にお任せを。スオウ君はセラ達と示し合わせて入るんですよね? 今はそちらに集中してください』


 流石愛さん。育ちの良さがにじみ出てるかのような文章だ。僕は返信を打って、それからまたテレビに視線を戻す。LROの事をまだ言ってる。なんだか既に国の調査は始まってるとか、LROは危ないんじゃないかとか、色々と問題点をあげてるよ。
 まあ突く所は一杯あるからね。だけどまだ停止されるわけには行かないよな。最悪の決定が下されたとしても、直ぐにサービスが完全停止する訳じゃないと思うけど、摂理を連れ戻す前だったら、もうあいつはこっちに戻ってこれないって事になるからな。
 アイツはそれで良いとか思ってそうだけど、そんな事にはさせない。そう宣言してる。なかなか好き勝手に言ってくれてるテレビを消して、僕は二階に上がる。取りあえず、ベットに転がってリーフィア装着して、疑似仮想空間で準備してるさ。
 一体LROはどうなってるのか? あの瞬間から始まるのか……それとも時間は進んでるのか。だけど全員一斉に弾き出されたのなら、その瞬間からの方がいいような。そこら辺は明言されてないんだよね。


「ん?」


 疑似空間に手紙が一つ浮いている。朝っぱらからメールとは珍しい。しかもセラじゃん。内容は簡素に『起きてる?』だった。
 まさかみんなにこうやってメールを送って連携を取ろうとしてるのか? 案外面倒見良いんだなセラって。もっと大雑把かと思ってたけど……でもよく考えたらメイドなんだよな。
 大雑把な訳ないか。僕は『起きてる』って返してやる。すると直ぐに返信が来た。


『意外ね。もっとルーズかと思ってた。勝手な印象だけど――ってああ、可愛い幼なじみが毎朝起こしに来てくれるんだっけ? 羨ましい限りだこと』


 何だ? この文章は普通に受け取って良いんだよね? ちょっとヒネクレた見方をすれば、なんか嫌味にも聞こえるけど、セラ相手にそれをしてると、全部がそうなっちゃうから、僕は無理矢理良い方向へと考えるんだ。
 そうしないと僕とセラの溝は縮まらないからな。


『まあ幼なじみが起こしには来てくれるけど、朝は元から苦手って訳でもない。それよりもセラの方が苦手っぽいけど。低血圧そうじゃん?』
『うるさい。私とアンタの付き合いはまだLROだけだから、プライベートは詮索するな』


 うう、なんか一蹴されたな。だけどここで注目するべきは「まだ」ってあることだろう。まだって事はこれからがあるって事。ポジティブに行こう、ポジティブにね。LROの掲示板を見てると、一足先に入った人たちからの報告とかが一杯。
 そっか、そういえば既に入れるんだし、落ちた瞬間からってのは既にない選択肢だったな。少なくとも一時間は経ってる事になる。
 どうやら大きな時間経過はしてない感じらしいし、本来のサービス開始が午前七時からだったから、やっぱり失った時間は一時間だな。リアルの実時間でってことね。LROはもっと経ってるだろう。その間に何も起こって無ければいいけど。
 さて、そんなこんなで時間も近づいてきた。僕は一日振りにこの言葉を口にして、再び夢の世界へと舞い戻る。
「ダイブ・オン!」




 体が引っ張られる感覚。光の波が押し寄せて、LROでの体を構築していく。そして突如として地に足が着いた。水のせせらぎと、気持ちの良い風が肌を撫でる。そしえ腰には二つの剣。その柄を握ると、なんだか実感する。ここがLROなんだと。
 体の痛みも消えてるし、快適快適。


「スオウ君」
「テッケンさん! それにシルクちゃんにセラ、ノウイに鍛冶屋……全員揃ってるね」


 やっぱりこうやってお互いが見えると安心するな。いきなり落ちたもんなホント。


「おはようございます皆さん。結局なんだったんでしょうねアレは? 一体何が原因であんな事……」


 シルクちゃんが挨拶の後に不安気にそういう。するとそこでノウイが気軽にこう言ったよ。


「やっぱり幽霊の仕業じゃないっすかね? あの時確かに声が聞こえたし……奴ら大量にLROいるらしいっすよ」
「や……やめてください。そんな幽霊なんて」


 カタカタとあの時の声を思い出してだか小刻みに震えてるシルクちゃん。一日ぶりだけどさ。相変わらず可愛いな。


「取りあえず教皇様の部屋に戻ろう。クリューエル様も心配だしね」
「そうですね」


 僕達はテッケンさんの意見に賛同した。落ちた場所が灯籠を流した社の下層部分だったから、入った場所もまたここだったわけだ。既に教皇ことノエインもいないし、確かに部屋に行ってみた方が良いよな。
 ノエインに教えても貰った通路を逆走して僕達はその部屋へとたどり着く。そして勢い良く扉を開けてそこへ押し入った。


「クリエ!!」
「やあ、君達か。あんまりバタバタしない方がいいよ。誰かがどこかで聞いてるとも限らないしね」


 僕の叫ぶような声に反して、教皇様は暢気に菓子と茶をすすってた。なんか一気に緊張感が削げたよ。


「え~と、あれから変わりないですか?」


 僕は取りあえずそんな事を言ってみる。現状把握は大事だろ。


「そうだね。取りあえず今晩は大丈夫だろう。だけどいつまでもバレないとは限らない。それに君達は逃げ続ける気は無いだろう?
 それなら早く行動を起こした方がいい。クリューエルを休ませておくにも、サン・ジェルクは元老院の力が強い。私は星羅せいらの地へ行く事を進めよう。あそこなら元老院も派手には動けないからね」


 星羅か……それは僕達の新たに目指すべき場所なのかも知れない。

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