命改変プログラム

ファーストなサイコロ

最強の味方

「ラオウさん……」


 それは見間違う筈もない、その人の姿。僕がこのアキバで出会った最も印象の強い人と言っても過言じゃない人。シスターなのに、その実見た目だけは全然シスターっぽくない人。
 もしかしてチンピラ共を倒し回ってたのって……そんな事を思ってると、まだ残ってたチンピラの一人が雄叫びと共に僕に迫った。
 けれどもそんなピンチは一瞬で解消される。あの人が肩から下げてる大口径の銃……と言うか大砲みたいな感じの武器からドバン!! と地面を震わせる音が聞こえたと思ったら、目の前のチンピラの体が変な具合に曲がって飛んでった。
 流石にゾッとするような光景だった。死んでないよね?


「くっそ……なんだあの化け物?」


 そんな声が前方から聞こえたと思ったら、既に道路上の遊歩道に差し掛かってる赤髪ライオンも眼下の異様なシスターをみてた。
 そして恐怖って奴をちょっとは味わってる様だった。まあわかるよ。僕も初めて相対した時は、死ぬかもと思ったもん。初対面ならしょうがないよね、うん。
 てか、あんな格好でよく外に出れたな。速攻で通報されそうだけど……大きな銃を背中に一杯背負ってるし、さっきの大口径とか、既に投げ捨てて違う奴を構えだしてる始末。
 ヤバいよ、あの人戦争やってるよ。そんな事思ってると、彼女はこちらに(銃が)似合わない笑顔を向けてこう言った。


「大丈夫、敵は私は皆殺しにするので、安心してください。エマージェンシーは確かに受け取りましたから」
「あっ……」


 そう言えばそうだった。僕があの人に助けを求めたんだ。僕が知ってる中で一番頼りになりそうだったから、思わずね。だってチンピラ共と相対するなら、秋徒とかでも弱いじゃん。
 それに愛さんを巻き込むとかしたくなかったし、それならアキバに居ることが確実で、そして強そうなのはこの人が僕の中では一番だった。
 そりゃあ、ちょっと不安はあったけど、そんなの考慮してる場合じゃなかったし、まさか町中で銃をぶっ放すとは思わないじゃん。


「これは全てレプリカですよ。死にはしないですからご安心を。まあ、かなり改造してますけど」


 違法だよね!? それって違法だよね!? この人の場合、人を殺せる位に改造しててもおかしくない。


「ちっ!」


 僕が色々考えてると、赤髪ライオンがアイテムを目指して走り出す。そうだ、今は敵の安否なんかに気を配ってる場合じゃない。僕も急がないと。
 体が何かのきっかけでバラバラになりそうな位に、いびつな感じ。足に力を込めて踏み込む度に、関節部分から崩れていくようなさ……変な恐怖がある。
 だけど前に進まない訳には行かない。僕も遊歩道に差し掛かる所でスマホを前に掲げて見る。するとこの道の先、道路の真ん中直上に胸の高さ位に浮いた宝箱があった。


「アレか……」


 分かりやすい位に、今まで見た宝箱とは違うな。今まで見たのは浮いたのも全部木箱だったけど、アレはなんか違う。メタリックと言うか……デザインがそもそも違うかも。
 今までのは誰もが宝箱とわかる、それこそ一度でも某有名なRPGをやった事がある人なら一目でわかる宝箱の形してたけど、今見えるのはもっと簡素だ。
 銀色した外装に、厚さは二十センチ程度。見える装飾は箱の上側に加えられた物だけ。まあそんな所だな。言うなれば、お中元で貰うクッキーの詰め合わせ的な箱が近いかも。
 けどそこまで安物っぽくもなく、ちゃんとミステリアスで高級感は放ってる。ようやくたどり着いたレアアイテムの箱としては相応しい。
 既に赤髪ライオンは半分くらいまで迫ってる。これは死ぬ気で走るしか……


「くきゃははははははは! もう遅い! 俺様の勝ちだ!! くあっはははははっはは――ん?」


 不意に途切れる笑い声。それはきっとアイツの視界にも変な物が映ったから。何故か空にあがったロケット花火。そう、ロケット花火だと僕も赤髪ライオンも思える物が空を昇ってる。だけどロケット花火よりも鈍いプシャーと言う音を出して空を昇ったソレは、弾ける事なく万有引力に従って落ちてきた。
 しかも狙い定めたみたいに赤髪ライオンの元へだ。


「んな!?」


 その軌道を目で追っていた赤髪ライオンもビックリした。だけどそんな驚きはまだ序の口。床に落ちる直前にそのロケット花火の様な物は、バチバチバチバチと周囲に広がる爆発を見せた。


「うおっ!? とっととっと!」


 思わず足を上げて慌てふためく赤髪ライオン。さっきのには爆竹でも仕込んであったんだろうか? よくわからないけど続けざまに二・三発もう一度上がってる。僕はこの隙に少しでも距離を縮めようと足を動かすよ。
 爆竹が弾ける音が凄く耳に痛い。しかも近距離でやられてる赤髪ライオンはもう踊り狂うしか無い状態。しまいには尻を床に着く始末だ。
 きっとこれもあのラオウさんの手助け何だろう。てか、これがあの人じゃないとか考えられない。僕は味方の手助けを受けて、確実にアイテムへと近づく。


「はぁはぁはぁ」


 肺が苦しい、火薬の臭いが鼻孔を擽って息苦しい。僕と赤髪ライオンの距離はあと数メートルにまで迫ってた。だけどロケット花火モドキは既に打ち止め。奴も再び動き始めてた。


「ちっ、尻餅なんて恥ずかしかったじゃねーか!!」


 そんな事を言いながらアイテムへ僕よりも早く迫る。だけどその時、地を這うようなうめき声が聞こえた。ソレはまるで地獄の番犬でも鳴いてるかの様な声で、僕達は互いに震え上がる。
 なんかもの凄いイヤな予感……と言うか怖い予感がした。そして僕達は声のした方を恐る恐る見る。するとその瞬間にガシッと遊歩道の柵から手がでてきた。そして黒い銃口が見えてきて、その後に大きなシスターの姿が這い上がってくる。これで夜だったらまさにホラーな光景だよ。
 てか、味方の筈なのに僕も怖がってしまった。


(なななな、なんだってええええええええええ!!!??)


 と思った。心で叫んだ。だってここは道路の上に架かってるんだぞ。デッカい車もぶつからないように余裕を持った高さの筈だぞ。てか、この人が上がってきた場所は間違いなく道路上だろ? 
 もうなんか色々と疑問が沸きすぎるけど、取りあえずラオウさん凄い。凄すぎる。なんか人ととしての常識が当てはまらない。
 でも流石にジャンプ一発とかで昇ってきた訳じゃないよ。どうやらいつの間にかフック付きのロープをこの遊歩道の柵に引っかけて登ってきたみたいだ。
 フックはきっと爆竹がうるさく鳴ってた時に引っかけたんだろう。だから僕達は気づかなかった。ラオウさんは頭がまだ出たくらいだったけど、僕達の様子を見ると背中の銃に手を伸ばした。
 そして背負ってる銃の一本を取り出すと赤髪ライオンに狙いを向ける。


「おいおいマジかよ……」


 冷や汗と同時にそんな事を言った彼。でも彼は「逃げる」では無く、アイテムをいち早く手に入れる事を選んだ。
 その執念は立派だ。だけど手が伸びる前にガガガガガガガと足下を撃たれた。本物じゃないらしいけど、思わず足が止まる赤髪ライオン。
 まあそりゃそうだ。実際人吹っ飛んでたし、音は妙にリアルだし、それにレプリカなんてラオウさんの申告でしかない。実際僕だってこの人は本物を所持しててもおかしくないと思ってる。


「それ以上動いたら殺す」


 怖い! 怖すぎるよこの人! 静かに言ったのが逆に怖かった。僕の為なのに……失礼なことは重々承知だけど、何故か安心感より恐怖が勝ってる。
 一体何故? そう思ってると、なんと赤髪ライオンがその答えをくれた。


「お前……殺すとか笑わせるなよ。ここまでしたら流石に殺さなくたってサツの世話になるぞ」
 なるほど、僕は犯罪の域に足を踏み入れてる事に恐怖してるのか。まだまだ警察のお世話にはなりたくないからな。だってこれって僕も関係者だよね? 知り合いだし、助けに呼んだの僕だしね。


「ふふふ、警察が何よ。私は神の言葉で動く従順な戦士。友を助けるのは当然の行い。悪を滅するのも神の戦士の勤め。誰に邪魔される言われも無いわ!」


 そう言ってラオウさんは柵から大きくジャンプした。その巨体と背負った銃の数々を感じさせない大きな跳躍。それはマジで人の体の限界を超えてた。
 超ハイスペックだよこの人。時代が時代なら英雄とかになれたかも知れないな。


「化け物め……」


 忌々しげにラオウさんを見据えてそう吐き捨てる赤髪ライオン。対してラオウさんはデッカい銃をもう一方の腕にも抱えてこう言った。


「神の意志に反した異端者に鉄槌を……」


 完全にこちらが優勢。ここに来て初めての事だ。銃口を向けられた赤髪ライオンは流石にもう動けないだろう。僕はラオウさんからの視線を受け取って息を整えて歩き出す。
 箱はもう目と鼻の先だ。


「これで済むと思うなよテメェ等!! 例えレプリカでも銃口を俺様に向けた事、後悔させてやる。イベントのルールで縛られた戦争なんてここまでだぞ!」


 そんな事を言って脅しをかけてくる赤髪ライオン。だけど直ぐにその口を閉じる事になった。何故なら一発の銃声がこの空に響いたからだ。
 それは赤髪ライオンのタテガミを一部吹き飛ばした。強引に本体からちぎられた赤い髪が、パラパラと床に落ちる。そしてラオウさんがその野太い声で嬉しそうにこう言った。


「戦争。そうなったらどっちがより多くの血を見るか楽しみですよ。お忘れ無く、今の私はあなた方を殺す気がない事を。
 ですが、戦争となれば私は異端者に容赦はしません。骨の髄までしゃぶり上げて、その頭蓋骨でビールを仰ぐ事を至上の喜びとしましょう」


 背筋がマジでぞっとした。それは僕だけじゃなく抗争とかに馴れてそうな赤髪ライオンまでそうだった。冷や汗が見てとれる。
 まあ無理もない。この人の迫力は異常だ。それにそんな光景が見えてしまうんだ。戦争なんてこの人にとって特でしかない。
 暴れたいみたいんだもん。戦場に十字架背負って行って出張教会とかやればいいのに。悟れそうだよねこの人なら。


 僕は銀の箱の前に立つ。数メートル離れた位置に赤髪ライオン。もうここらで終わりにしようぜ。僕はスマホを掲げて前を見た。表面に施された装飾はどうやら空に現れた紋章と同じ模様みたいだ。
 対応してるって事かな? 


「後悔する事になるぞ! 向こうで必ずフルボッコにしてやる」


 最後の悪あがきにそんな事を言ってくる赤髪ライオン。僕的にはこっちで何もしなくて、向こうでやってくれるんならまだありがたいけどね。体動くだろうし。


「いっとくけど、僕は向こうの方が強いぞ」


 まあ大抵誰でもそうだろうけど、僕は得意気にそういってやる。まあ向こうなら、こんな不甲斐無い気持ちで戦う事も無いだろうから、向こうであったらリベンジ位はしてやるよ。
 僕の言葉に赤髪ライオンは「俺様はその十倍は強いぞ」とか言い返してくる。どれだけ負けず嫌いだよ。子供か。僕は「へいへい」と言いながら画面へ指を伸ばす。そして遂にその箱へ手が届く。
 どれだけこの瞬間を求めて来ただろう。この炎天下の中、どれだけの人がここを目指してただろうか。歩いて走って探して、今や自分だけの思いだけでここに立っちゃいないよな。
 だからこそ、僕はそんな脅しに屈する事は出来ないんだよ。無機質な画面に指が触れる。


「よし、これで」


 そう呟いた瞬間、画面内の箱に異様な動きが。ボコボコと銀色の箱が沸き立つように膨張していく。そしてそれは大きな足となり腕となり翼となり、その姿をモンスターへと変えていく。


「なっ……ちょ、これって……倒せって事か?」


 おいおい戦闘は基本このイベントじゃ無いんじゃなかっったのか? ちょっとだけ、ブリームスの兵士とやり合った位だったけど、あの位ならと思ってた。
 だけど、これはガチじゃん。普通にバトルってるよ! 多分倒せればアイテムが手には入る。そういう事なんだろ。まあRPGにはよくある展開だけど……ここに来て……いや、ここまで来たからか。
 そう言えば宝箱に一度襲われてたな。僕じゃないけど、ジェロワさんが。それを考えれば、この展開は予想出来たかも知れない
 ボコボコと膨らんだ宝箱は、四枚の羽を背中に生やし、見た目はドラゴンっぽい強力そうなモンスターになった。これを倒せと?


『第一の奴らが集めてた資料の中にありました。アイテムの防犯の為に仕掛けられた最後の罠。多分それがそうです!』


 防犯ってレベルじゃない気もするけど、どうにかするしかないな。何か方法は無いのか? 僕は画面の隅に現れてるジェロワさんをタップする。


『倒し方は残念ながら乗ってません。ですが、バカラさんから貰った武器がありますよね? あれは有効な筈です! 頑張ってみてください! あなたがアイテムの暴走を止めないと、この街は……』
「? ジェロワさん?」


 画面の中から不意に彼女が消えた。通信が切れた訳じゃない、彼女の居た画面自体は消えてない。なら……これは、そう言うことか? 彼女もまた、このアイテムの影響に巻き込まれた。
 この目の前のモンスターだけを倒してどうにかなるのかは不明だけど、でもとりあえずやるしかないよな。僕の武器はあの卵型の奴だけ。
 バカラさんが残した忘れ形見が思わぬ所で役に立つことになるな。てか、元から多く渡してたのはそのためか。十個あったうちの六つは既に使ってる。あと、僕が知らない間に更に二個ほど減ってるから、残りはたった二個しかない。
 メカブの奴に渡してた時、ブリームスの兵士の妨害にあったとかなんとか言ってたから、その時にでも使ったんだろう。実際かなり痛いけど、残り二個でやるしかない。倒せる仕様になってる筈……だよな?


「どうしたんですかスオウ君? 目的は果たせましたか?」


 そう言って来るラオウさん。ラオウさんは僕達がLROのイベントで争ってるらしいことは分かってるみたいだけど、見えてないからね。こればっかりは彼女に頼る事が出来ない事だ。


「ちょっと不味い事になってます。けど、やって見せますよ」


 僕はそう言って目の前のモンスターを見る。銀色の体に宝石の様な赤い瞳が獰猛に輝いてる。これを倒す……倒さないといけない!


「はは、そう言う事か。これなら俺にもまだチャンスはあるって事だよな?」


 そう言ったのは赤髪ライオン。こいつも一応何かの武器を持ってるのか? だけどこいつは動けない筈だ。今もラオウさんの銃口に狙われてるんだからな。


「いつまでも、自分達が有利で居られると思うなよ」


 口元を釣り上げてそう呟いた赤髪ライオン。するとその時「若!」と言う声と共に、ドタドタした音が視線の先から聞こえた。
 そして現れるのは、チンピラ風情を引き連れたハゲ。なんかあの装置を守ってた人数よりも多くないか? もう見張らせる必要も無くなったから、今度こそ全員を召集したか。


「てっめぇ若に何を向けてる!!」


 ハゲは赤髪ライオンに銃口を向けてるラオウさんに気づいたんだろう。彼も懐から拳銃を取り出した――――って、おい! それは本物なんじゃ無いのか?
 そんな事に驚愕してると「無限の蔵! モンスター来てるわよ!」とかの声も聞こえた。その言葉にハゲから画面に視線を移す。
 するとモンスターは大きな口を広げて、僕に迫ってた。


「ぬあ!!」


 僕はとっさに地面を転がる。そんな様子を見てラオウさんが「どうしたのですか!?」と驚きの声。彼女にはモンスターが見えてないから、僕の動きは全然把握できて無いのか。
 端からみたら、いきなり前転をしたってだけだもんな。すると一瞬、自分から視線が外れた事を見逃さなかった赤髪ライオンが、高らかに下部共に指示をだす。


「今だ! あの化け物シスターをお前達をぶっ潰せ!! 全力でいけよテメェ等!! 俺様はアイテムを手に入れる!!」
「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」


 その言葉で一斉にチンピラ共がこちらに押し寄せてくる。


「ラオウさん!」


 たった一人に、五十人以上の軍勢が迫ってる。僕はラオウさんの身を心配してそう叫んだ。だけど彼女は逆にこう言ったよ。


「どうやら、私では力に成れない部分があるようですね。なら私は私の力に成れる部分で協力するまでです。心配は無用。彼らは私が、全て叩き潰しましょう!!」


 その瞬間、両脇に構えた銃をぶっ放すラオウさん。勢いよく走ってきてたチンピラどもが次々と吹き飛んでいく。本当にレプリカだよねそれ!? と言いたくなる威力だ。
 ガトリングガンの弾が無くなると今度は散弾銃みたいな物を構えて、ガシャコン・ドバアアアアアン!! と前方に進みながら敵を吹き飛ばしていくラオウさん。その姿はまるで、未来から来た殺人ロボット……ターミネーターだよ。
 もの凄い安心感。あの人はなんだか大丈夫だろうと思える。問題はこっちだな。


「うらうらどうしたあああああ!! さっさと倒れろや、このデカブツがあああああ!!」


 そんな事を言いながら、僕と同じタイプの武器を投げまくってる赤髪ライオン。向こうはどうやら、沢山持ってるみたいだな。
 でもあんまり効果がみられない。効いてるのか効いてないのかわからない。それに装置の時に出てた耐久値、まあこのモンスターで言えばHPの表示がない。これって倒す条件がある……とかじゃないだろうか?
 そもそもHPを削っていくんなら、二個じゃどうしようも無いし、赤髪ライオンの様なやり方されても困るって事なんだろう。
 このモンスターを倒す条件。それを見つけないと。もう今や、ジェロワさんからの情報もない。自分でやるしかないんだ。
 画面の中でモンスターが雄叫びをあげる。そして赤髪ライオンへ向かって突進していく。どうやらターゲットが無駄に攻撃しまくってた奴に変わったみたいだな。
 てか、あれだけごっついのにしてくる攻撃は、全部直接攻撃だけ……これはイベントにあわせてるって事だろうか。まあ全包囲攻撃とかやられても困るだけだし、魔法も使われちゃ、どうしようもない無いからな。
 取りあえず、直接攻撃は避けれるどうにか出来そうではある。だけどどうやればいいかが問題だな。


「無限の蔵!!」


 そんな声に後方へ振り返ると、メカブを含めたみんながこの遊歩道の手前ぐらいに集まってる。こっちにこないのは、邪魔になるとか思ってるからかな? てか、ラオウさんが圧倒的過ぎるから、来れないのかもしれない。
 邪魔になるとか思ってね。それに僕の方も彼らは手助け出来ないし、後はただ信じる事しかみんな出来ないんだ。こんなボロボロで頼りない僕を信じることしかさ。


「絶対……絶対絶対絶対絶対絶対絶対絶対、勝ちなさい!!」


 顔を真っ赤に染めて、精一杯の大きな声で激励をくれるメカブ。それに続いてみんなが僕を応援してくれる。すると不思議と、痛みや疲れがちょっとは軽くなる気がするんだ。
 みんなのお想いが僕の体に力を与えてる気がする。僕は力強く頷いてモンスターに相対する。まあ赤髪に向いてるから背中に側になるわけだけど。
 するとその時、モンスターは爆発の影響か、その大きな体を持ち上げた。その時、翼の根本あたりが光ってた様な。僕は前に回り込んで確認してみる。
 こっちはバカが投げまくる爆弾の粉塵でよく見えないけど、微かだけど光を確認出来た。あれは多分紋章の形をした光だと思う。
 僕はスマホを握る手に力を込める。違うかも知れない。もっと情報を集めた方がいいかも知れない。だけどこのバカがそれに気付いたら……有り余る武器で強引にそこを攻めるだろう。
 僕の武器はたった二つ。この二つで勝つには、ここに賭けるしかない! 僕は全ての力をこの瞬間に込めて動き出す。

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