命改変プログラム

ファーストなサイコロ

謎ときと最燃焼



 画面に表示された地図に青い点がある。ここに力場が有るって事だよな。これを地図と照らしあわせれば……僕は道路上に広げた紙の地図と、スマホの地図を重ねて見る。


「確かにあの光が上がってるのは人喰い通路の場所っぽいな。だけどここって……」


 僕は画面と照らし併せて付けた印を見て、ちょっと考え込む。だってこれは流石に……


「どうしたのよ? 場所がわかったんなら急ぐわよ。ハゲたちだってこの場所には直ぐに気づくわ」


 まあ、そりゃそうだろうね。第四が検知出来る数値を第一の最新鋭の技術で捉えられない分けないし、確かに急がなくちゃいけない。
 メカブは僕を引っ張って走り出しそうな雰囲気だけど、僕はなんか頭に引っかかってる感じがして動き出せない。別に体が痛いから動きたくない訳じゃ決してないからな。
 ただ問題なのは地図上の力場の位置だよ。僕がなかなか動こうとしない間に、ハゲ共はチンピラに何やら指示を出してる。
 それから直ぐに奴らは通路の向こうに消えていった。きっとこの印の場所へ向かったんだろうな。


「どうしたんだ? ほらほら、急がないとアイテムは俺たちの物になっちまうぞ」


 そう言って僕らを挑発してくる赤髪ライオン。てかなんでお前たちはここに残ってるんだよ。一緒に行けば良い物を……こいつらも「もしかしたら」を疑ってるのかも知れないな。
 だから数人のチンピラに先行させて、様子見をさせると。


「ほら、無限の蔵! あんな目に痛いに頭してる奴に言われるだけでいいの?」
「おいおいお嬢さん、言ってくれるじゃねーか」


 目に痛いと言われた事がちょっと気に入らなかったのか、赤髪ライオンは指をポキポキ鳴らし出す。メカブは僕を間に入れて、そんな赤髪ライオンを睨んでた。おいおい、僕を間に入れるなよな。


「たく……ちょっと落ち着けよメカブ。そっちの目に痛い奴よりこっちを見ろ」
「そんな奴見てないで自分だけを見ろなんて……大胆ね無限の蔵」


 なんでそんな解釈に発展してるんだ? ちょっと照れくさそうに目を伏せるな! そんな事一ミリも言ってないから。僕はただ、地図を見ろって言ったんだ。


「まあわかってるけどね」


 そう言ってフフフと笑うメカブ。わかってたんなら妙なもの入れて来るなよな。実際こっちはちゃんと急ぐ気なんだぞ。
 ただこの場所を目指さないのは疑問が有るから。それをお前にも見せてやろうと思ったらこれだよ。


「おいお前等、二人して俺様をバカにしたのはスルーか? 何気に一番傷ついてるぞ」


 なんか赤髪ライオンがそんな事を言ってる。僕もメカブに便乗して悪口言ったのをイチイチ根に持ってたみたいだ。
 たく、それもどうでもいいっての。僕とメカブは二人揃ってそいつにこう言ってやる。


「「なら、染め直せ」」


 思わずフラリとよろける赤髪ライオン。すると周りのチンピラ共がいきり立つ言葉をあげた。


「テメェ!」「なんて事言いやがる!」
「やめろ!! きゃはははは。面白いなやっぱテメェ等は。これならまだまだ楽しめそうだ」


 そう言って赤髪ライオンは余裕をかましてる。ほんと常に他人を下に見る奴だな。言っとくけど、さっきの戦いはこっちが勝ったんだよ。


「その余裕がどこまで持つかこっちも楽しみにしといてやるよ」
「俺様に余裕がなくなったら危ないぜ。俺は切れると怖いからな」


 自分で言うかそれ? まあでも切れた状態が危ない奴ってのはわかってるよ。今は幾分落ち着いてるけど、戦闘始めはテンション高かったもんな。
 ヤバい奴だと思ったもん。


「それで、何を私に見てほしいのよ?」


 そう言って道路に広げた地図を腰を屈めて見るメカブ。てかようやく戻ってきたな。僕は地図上の印を付けた部分を指さした。


「これが力場の集中点らしい。丁度魔法陣か紋章の中心部分だな。人喰い通路でも丁度真ん中。まあこれは当然か」
「で、なんでこれをそんなに疑ってるのよ。そんなに遠くないし、自分の目で確かめれば良いじゃない。体はきついだろうけど、今そんな事言ってられる?」


 そう言って僕をのぞき込む様に睨むメカブ。別に体がきついからじゃないっての。今更そんな事を言うかよ。


「だって無限の蔵は一度諦めたわ。私からしたらサボる体質が見え隠れするのよ」


 逃げ癖がついたと? 僕はあれを逃げだなんて思っちゃないけどな。あれだって一杯考えた末の結論だったんだ。だけどもう一度……それを決めたんだから、今更体使う事を躊躇ったりはしない。
 それもちゃんと決めてる。


「そっ、ならいいけど。で、この力場の集中点に行かないのはどうしてなのよ?」
「少しは自分で考えろとも言いたいけど、簡単に言うとここどこだ?」
「アキバでしょ?」


 大雑把過ぎる答えに僕は愕然とするよ。何? この流れで「ここはどこ?」とでも聞いてると思うか普通? アキバなんて誰でもわかっとるわ!! 
 質問の受け取り方が雑すぎる。


「お前な……この力場の位置を言ってるんだよ僕は。アキバなんて答えは求めてない」
「そうなの? それならそうと……まあなら、道路上にあるのかなこれは?」


 僕が睨み返してやると、メカブはちゃんと答えてくれた。やっぱりふざけてたんだろこいつ。まあだけどそう言うこと。
 これって完全に道路上なんだよね。いや、実際には正確な位置って訳じゃないだろうし、この点の道路上のどこかなら歩道だって考えられる。
 でも考えてもみてほしい。ようやく辿りついたアイテムが、歩道にちょこんとあるって……なんかヤだ。


「無限の蔵……アンタね『なんかヤだ』で行かなかったわけ? あったらどうするのよ!」
「そんなアイテムはお呼びじゃないな」


 僕はきっぱりとそう言ってやる。まあ冗談だけど。お呼びじゃないわけない。だって沢山の人に協力して貰ったしね。だけどメカブの奴はそんな僕の冗談を真に受けちゃってこういう。


「あ、あんたね! そんな事言って良いと思ってるの? どんな形だろうと、私たちはアイテムを手にするの! そうでしょ!」


 グイグイ近づいてくるメカブ。メガネが僕の息で曇る位の距離なんだけど……


「落ち着いてください。何もスオウ君が根拠も無くそんな事を言うとは私には思えませんが」


 そう言ってくれたのはロン毛の人。おお、流石この人は話が分かる。


「根拠? そんなのが有るなら言ってみなさいよ」
「その目……どんだけ僕は信用されてないんだよ」


 悲しく成るくらいのジト目で見据えられてるんですけど。まあいいや、僕は咳払い一つと、メカブを腕で押し戻して説明してやる。


「え~と、まあ実際感覚的な事が大きいんだけど……一番の理由はここに有るのなら、必要のない情報があったんだなって事に成る。
 特に人喰い通路で消えた人達が別の場所から戻ってきたその位置とかさ。宝箱にあった数字の意味。引っかかるんだよね。それにやっぱりここに置くかな? ってのもある。
 だって交通量が多い場所だよ。こういう争いを想定してイベント事態が組まれてるのなら、万が一の事態が起こり得る場所に、最重要アイテムを置くかな? てかこのこの歩行者天国にした方が絶対にいい
 なんだかまだ、全部がちゃんと組合わさってない感じがする」
「難しく考え過ぎなんじゃないの?」


 それを言われるとおしまいだろ。可能性が有るなら考えるんだよ。考えることが出来るのは人の特権だぞ。それにLROのイベントなんだから、裏を読みすぎる位で丁度いいんだ。
 いつだってめんどい事を隠してやがるんだからな。


「確か、食べられた人達の帰還地点はそれぞれ違うんでしたか? ちょっと待ってください、スレに書き込んで情報を集めてみましょう」


 そう言ってロン毛の人がスマホに目を落とす。後のみんなでそれぞれ仕入れてる情報の位置に×印を付けていく。


「おお、凄い数の反応です。やっぱりイベントが終盤に向かってるとみなさん気付いていられるみたいですね。まあ私たちが勝利の叫びを書き込んだのも原因ですけど」


 そんな事いつのまに……いや、みんなピコピコやってかな。そんな事より情報だ。


「はい、ええと既に書かれてるのを選別して……後は同じ場所の書き込みを一つにまとめて行くと、後はこうでしょうか?」


 スマホを見ながらロン毛の人が×印を付け足していく。結構僕たちの情報は重なってたんだな。後四カ所程書き込まれたじゃないか。


「ん? ちょっと待てよ。これって……人喰い通路の数と同じで、形もなんだか似てないか?」


 人喰い通路はこっち側とブリームス側で微妙に地理的にちょっとズレてた訳だけど、帰還する場所は別にそれに当たらない。
 だから統一性なんか無く建物であったり道路であったりでも有るんだけど、こうやって地図で見ると見事に形がリンクしてるぞ。


「線とかで繋げるともっと分かりやすいんじゃない?」
「なるほど――って待てよ。あの宝箱についてた数字ってまさか! あの宝箱に書かれてる数字も聞き出してください!」


 僕はロン毛のそう言って再び情報を集める。そして数分後、全ての宝箱の印の横に数字を添えた。


「もしかしてこの数字って、この順に線を繋げるって事?」
「多分な」


 僕はマジックで地図の印を数字の順に結んでみる。すると丁度力場の場所でその線が交差する。


「ビンゴね! て事は、こっちの帰還時のバツ印にも同じ事が言える。こっちの人食い通路とリンクしたバツ印に同じ数字を打っていって、それを数字で結べば――――――――ほら!」
 テンション高めにメカブが線を引き終える。そして交差したその場所は……


「これって……UDX? でもやっぱりちょっとずれてるよな。これじゃあ道路だし、ここはホコ天じゃないぞ」
「UDXっていうか、クロスフィールドそのものを指してる感じ。それでもちょっとズレるけど……確かこの道路って、遊歩道あったわよね? 道路の上に歩道橋みたいに架かってる大きいの」
「なるほど、それなら道路の真ん中でも大丈夫だな!」


 僕達はみんなここに賭ける事にした。反論する奴は誰もいない。みんなきっとここだと思えてる。沢山の情報を統合した結果なんだよこれは。
 ちゃんと出口をふまえての場所。今までが無駄に成らない最後の場所としてなら、これ以上ふさわしい場所はない。問題は……あいつ等に気付かれずにどうやってここを離れるか。
 僕達が動き出せば、宝箱の位置を見つけたと奴らは思うだろうし、けどだからってのんびりしてたら、向こうだってこの事に気付くかもしれない。
 チンピラ共はともかくハゲとかは案外頭切れそうだからな。それに、一番の問題は向こうについてるのが第一研究所の奴らだって事だ。
 ハゲもチンピラも無能でも、逆にNPCの奴らが答えを持ってきそうじゃないか。そんな事を思って、事を慎重に起こそうとしてた僕ら。
 だけどその時だ。


「ゲンさん! 星はUDXへ続く遊歩道です!!」
「よし! でかした!!」


 僕は思わず「ぬあ!?」って叫んじゃっよ。いつのまにこの金髪野郎紛れ込んでたんだ? こっちにスパイを送り込むとは……あいつ等相談してるフリしてこっちに聞き耳立ててたって事か。
 なんて横取り精神旺盛な奴ら。自分で考える事を放棄してやがる。
 言葉を受け取った瞬間に、赤髪ライオンがその野生の動きをこれでもかと言うくらいに見せつけて走り出す。どうやらあいつのスマホでこのイベントを進めてきてたみたいだな。


「って、んな考察してる場合じゃ……っつ!」


 僕は慌てて立ち上がろうとした。だけど膝に力が入らずに前に倒れ込むように体が崩れる。もう本当にヘナチョコだな僕の体は!
 そんな事を思ってるとガシッと腕を捕まれて倒れきるのを防がれた。そしてすぐさま「乗れ!!」の声。視線を向ける間もなく、僕は反動を利用されて、その声の主の所に遠心力を利用されて方向転換された。


「急ぎなさい!! 私たちも後から追いかけるから!!」


 そんな声を聞きながら僕の体はドサリと力強い背中にのっかる。この力強さ、知ってるぞ。


「大丈夫なのか? もう限界来てるだろ?」
「言っただろ。限界なんて筋肉で越える!!」


 それは聞いた覚えないな。だけどこの筋骨隆々の人は、僕を背中に乗せて、一気に走り出した。マジで人を一人背負っての走りとは思えないスピード。筋肉スゲー。
 僕はチラリと後ろを振り返る。そこではみんなが沸き立って「いっけええええええええ!!」と叫んでる。確かに行くしかないよな。
 謎を解いたのは僕達なんだ。それを漁夫の利よろしく持って行かせるか!!


 僕達は自分達が走ってきた道を逆走する。蔵前橋通り近くまで来てたから、実際このペースで持つのか不安だけど、こうなればこの人を信じる以外ないだろ。
 大丈夫、筋肉自慢はきっと凄い根性を持ってるはずだ。なんたって毎日、自分の体に鞭を打ち続けて来たはずだからな。


「頼みます!」
「それも二回目だが、頼まれた!!」


 そう言って声を発しつつ赤髪ライオンの背中を追う僕ら。暑いなんて言ってられない展開。すると示した目的地と反対側へ行ってるのがバレたのか、スマホからうるさい声が聞こえてきた。


『戦死フィフティィィィン!! どこに行ってる!? まさか逃げる気ではあるまいな?』
『バカな事を言わないでください! あの人が逃げる訳ないでしょう! そんな意気地なしじゃないわよ! 私が宝箱に襲われた時だって助けてくれたんだから!』


 所長とジェロワさんの言い争いはいつもの事だけど、今回は所長は引かない。何故なら、友の死に直面したんだ。バカラさんの姿はあの後直ぐに消えたけど、この一回きりの様なイベントで死んだから、もう会えないんだろうとか思えるよ。
 そしてそんなバカラさんと旧知の間柄だったらしいこの所長が、もうガムシャラに成るのは無理もない事だ。


『本当に逃げてる訳じゃないないんだな? どういう事だ戦士フィフティィィィン!! お前が向かう先にアイテムがあるとでも?』


 僕は画面に出てきた『ああ』と言う文字をタップする。


『その根拠を聞かせて貰おう! 今現在も増幅してる紋章の中の力場ではなくそちらを目指す根拠をな!』
『もしかしてそれは今までの情報を照らし併せての決断ですか?』


 二人のそんな言葉の後に、画面には三種類の選択肢が現れる。それは僕達の考え通りのものと、別の考えが記された物が二種類。僕は当然、自分達の行き着いた考えをタッチした。


『成るほど、人喰い通路に喰われた人たちの出現場所に注目したわけですね。確かにそれは言い考えかもです。賭けてみる価値はあります』
『フワハハハハハハハハハ!! 流石はバカラが見込んだ奴だ。その着眼点は素晴らしい。素晴らしい……が、本当に大丈夫だろうな?』


 なんで最後まで自信満々な姿を見せてくれない。こっちまで不安に成るじゃないか。


『私は彼を信じますよ。大丈夫。よくよく考えたらどうして今まで第一の技術力でも見つけられなかったのか……それはいろんな裏があったからでしょう。
 今回もそれなら、あの紋章事態が囮なのかもしれない。裏は別の場所に……それを考えるのなら、この推測は最適です。
 がんばってください。私はあの人の事を知らないけど、でも悔しいとは思ってますから!』


 ジェロワさんの言葉が僕に自信を与えてくれる。そして所長も、いつもとは違う感じでこう言った。


『そうだな……信じてみよう。あいつが信じたお前を! 頼む……アイツの願いを叶えてくれ!』


 頭を下げたこの人は、もうどこにもマッドサイエンティストの風体は無かった。ただ友達の為を思う、普通のおじさん。
 ここで再び選択肢が現れる。それは【任せとけ!】と【出来る限り全力を尽くします】の二種類。どっちもあんまり変わらないような感じだけど、個人的に後者はあんまりここに似合わないよな。
 この今の感じにこの言葉じゃ役不足だ。僕たちは今、願いと祈りと希望に満ちてるんだ。それを濁す様な文はいらないだろ。だから僕は前者をとるよ。


【任せとけ!】
『その言葉、忘れるなよ戦士フィフティィィィンよ!!』


 精一杯の自分のアイデンティティを保とうとする所長。ジェロワさんは呆れながらも、優しい顔でそんな所長をみてた。僕もやっぱりこの所長はこうでなくちゃなと思う。
 僕はスマホを握り締めて大きなUDXのビルを見上げた。ここがきっと最後の場所だ。




 ゼハァゼハァゼハァ……ともの凄く荒い息づかいが聞こえる。流石にもう限界だ。僕は背から降りる事を提案するけど、彼はせめてあの階段を登った所までと聞かなかった。
 もう十分なのに、それでも彼は最後まで、いやちゃんと約束したUDXの所までは送り届けたいと思ってるみたいだ。
 先行してた赤髪ライオンとは結構距離が縮んだ。流石に人混み全員を睨みだけで退かせるのは無理があったから、向こうが人混みで悪戦苦闘してる間に、僕の指示で進めんだ彼の方が早かったのだ。
 でもここに来てまだ傷害はあった。目の前の遊歩道へあがる階段には明らかにチンピラっぽいのがいるぞ。どうやら、近くにいた奴らを急いでここに集めたみたいだな。
 いけるのか? この人のこの状態で? 蒸せるような熱気を放つアスファルトを踏み込んで、赤髪ライオンが登る階段へ僕達も足をかける。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 もの凄い叫びを上げて気合いを入れてる彼。でもそうでもしないと体が動かないって事でもある。目の前には立ち塞がるチンピラの姿。
 けど彼のもの凄い叫びに既にビビり気味だ。覚悟って奴が、お前たちとは違うんだ! 例えゲームの一キャラだとしても、僕達は裏切れない思いを背負ってるんだよ! 
 彼の腕が強引にチンピラを押し退けて上階へ。その時最後の段に足を引っかけて僕達は転がりながらそこへでた。すると雑踏の中から、明らかにこちらに敵意を向けて来る奴らが数人見える。僕はチラリと赤髪ライオンへ視線を送る。
 向こうもバテてるみたいだけど、でも既に道路の上に架かった場所へ足を踏み入れよとしてる。どうやってもコイツ等を突破して追いつかないと……そう思ってると、倒れてた筈の彼がチンピラの一人に突っ込んだ。


「ぬぅ……ああああああああああ!!」


 そんな声にならない声を出しながらだ。


「うわっ、なんだコイツ? 退けよオラアアア!!」


 そう言ってその拳で彼を殴り飛ばすチンピラ。バテバテの彼になんて事を! 僕は歩み寄ろうとしたけど、その瞬間スゴい眼光で睨まれた。そして――


「行け!!」


 ――そう叫ばれた。再び彼は立ち上がる、そしてチンピラへと迫る。そんな姿を見せられたら、僕だってやらない訳には行かない。体調なんか、ひとまず頭の中から追い出そう。
 そうしないとこの体はウスノロ過ぎる。僕は歯を食いしばって走り出す。けど目の前には彼が押さえきれなかったチンピラ共が!


「どっけええええええええええええええ!!」


 僕は、気合いで乗り切る気だった。勝算なんて考える暇なんてなかった。だからコイツ等を交わす事だけ考えて、威嚇のパンチを放った筈だった。
 だけどその瞬間だ。チンピラの頭が僕の拳の前から消えたのは。何が起こったのかわからないでも取りあえず前へ進もうとする。
 だけど更に迫るチンピラ共。両側から何やら叫びながら僕へと拳が迫る。避けるか駆け抜けるか……僕が一瞬迷ってると、空気が弾ける様な音と共にチンピラ二人の体が飛んだ。その光景に周りに居た人達が激しい叫びをあげる。
 だけどそんな複数の叫びに負けない大きな声がこの場に響く。それはきっと僕に向けての声だった。


「進みになってください!! 貴方の道に立つ敵は、私が全て排除しましょう!!」


 それは身長百八十以上あるかのような、大柄なシスター(銃付き)の姿だった。

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