命改変プログラム

ファーストなサイコロ

知恵と勇気を絞り出せ!

 ブリームスの空に青い光が上る。直線状の先から昇ったその光は僕達の場所からでもよく見える。


「これって……もうあの装置発動しちゃったんじゃない?」


 確かにそうっぽい。そりゃあ僕達色々やってたもんな。バカラさんの後追わなかったし、イベントは随時進行してる。だからこうなってもおかしくはない。
 遅かったのかも知れない。でもまだ終わった訳じゃないだろ? そう願ってると、スマホからドデカい声が飛び出て来た。


『なぁああああにをやってるか! 戦士フィフティィィィィンよ!! まだ間に合う。急いで装置を止めろ!! 一機は破壊できた様だが、残りの二機でも十分事足りるだろう。
 元々三機持ち出したのは奴らの保険だ。全て破壊しろ! あの光が最大限増幅されるまでの時間は五分だ!』


 五分……ようはそれがタイムリミットって事か。無駄に大きな声だったからか、所長の言葉はどうやら僕以外の人達にも聞こえてたらしい。


「五分ですか。それはなかなか厳しいですよ。リアルの弊害。物理的な距離でという意味で」


 そう言われて光の柱があがってる空を見つめる。実際光の柱があがってる場所は、この道の先っぽいんだけど、五分で三つ目の場所まで行くのは確かに厳しいかも知れない。


「大丈夫よ。次のポイントを二分でクリア出来れば移動距離を除いても、一分は残せるわ。それでどうにかしましょう」
「二分ってお前な……大体二回攻撃しないとあの装置は壊せない。それもどうやら半径五メートル以内に入らないと投げれないし、そこら辺まで近づくと、どうやってもチンピラ共に見つかるぞ」


 そうなると再び乱闘が発生するのは必至だ。どうにかして戦うのは最小限に済ませたいんだけど……


「そんな事言ってる場合じゃないわ。みんなでアンタをそこまで近づけさせるから、一気に二個投げたらいいのよ。そしてそのまま走り抜けなさい。
 足が動かないとか言うのは無しね」


 おいおい厳しい事いってくれるなメカブの奴。ようは二個まではみんなでどうにかしてあげるけど、最後は一人でどうにかしなさいと? 流石にどうなんだよそれは! 作戦なんて言えないぞ。


「こうやってる時間だって惜しいの! 作戦なんて早々出ないわよ」


 そう言って頬を膨らませるメカブ。まあ、それはそうなんだけど……流石に闇雲に突っ込むのはどうかと思う。こういうのの常ってさ、進むごとに敵の数も多くなる物だろ。そもそも最初の場所に居たチンピラ共は向こうに合流しただろうしな。
 今回よりもこの先はずっと困難になるって考えた方がいい。


「そうですね。おそらく向こうの物騒な人達も雇った人やお抱えの下っ端な人達を集結させてもおかしくありません。この人数でもどこまで渡り合えるか。
 そもそも君を一人で行かせてもそこに賭ける確率は限りなくゼロに近い」


 ハッキリ言ってくれるなこの人。このロン毛の人は良い人だから、そこら辺は濁すかと思ってたけど、そんな無駄な気遣いをやってる場合じゃないか。
 まあ良いんだけど、それはその通りだし。僕だけが通り抜けたとしてもその先は無い。それは自分が一番よくわかってる。今の僕じゃ、歩く事は出来ても、走る事すら不安な位だ。
 でもだからこそ考えないと……


(知恵を使って――)


 ここであのシクラの言葉が脳裏を掠める。本当にあの野郎の言うとおりの状況だ。今こそ知恵が必要だよ。逃げる言い訳じゃなく、前を切り開くための知恵を僕も捻り出さないと行けない。


「取り合えずえ~と――」
「無限の蔵こと、スオウです。この人は」


 なに認めてもいない二つ名付きで紹介してんだメカブの奴。紹介された方も「無限の……え?」とか成ってるじゃん。ロン毛の良い人は正直に受け止めようとしてくれちゃってる。
 そこは流してくれて結構です。


「スオウ君ですね。私も自己紹介……と行きたい所ですがそんな時間はありませんね。ロン毛でもエセ紳士でも好きな様にどうぞお呼びを。
 取り合えず、その体で走るのは辛いでしょうから、力自慢に背負って貰ってください。あの方などどうでしょう」


 そう言ってロン毛の人が指し示したのはタンクトップに浅黒い肌。ツンツン尖った短い髪が特徴的な筋肉マン。その人はロン毛エセ紳士の人が話すと爽やかな笑顔で了承してくれた。
 てか、ロン毛もエセ紳士って悪口っぽくないか? 笑顔で好きなようにって言われたけど、この執事みたいな人には似合ってないよな。エセ紳士どころか、本物の紳士っぽいもん。
 なんかそう呼ぶ度に罪悪感が募るというかね――って今はそんな事より、この逆境をどう乗り越えるかか。そっちを考える方が、よっぽどこの呼び方を気にするよりこの人に為にも成るだろう。


「取り合えず足は確保出来たわね。後はどうやって勝利を引き寄せるか……考える時間さえ惜しいから、もう走りながら考えましょう。
 取り合えず、あの装置を壊せるのは無限の蔵のスマホでだけなんだし――」
「ちょっと待て!」
「――何よいきなり?」


 何かさっき、頭に雷光が走ったぞ。僕は自身の手の中にあるスマホを見つめる。そうだった……なんで気づかなかったんだよ。僕は力が入らない腕に力を込める。こんな自分にも、まだ役に立てる事はある。


「メカブ、地図を出してくれ。それと誰かそこら辺で大きな布を買ってきてくれませんか? 予備をあわせて四枚ほど。姿を隠せる程度のが良いです。
 それともう一人、力自慢は居ませんか? 人一人を背負っても余裕でこの直線を走りきれる。そんな人。まあこれは、一人じゃなくても現密には良いですけど」
「何々? どうしたのスオウ? ちゃんと説明してよ!」


 僕の突然の指示に困惑するみなさん。まあ当然だよね。大丈夫今から説明してやるよ。取り合えず適当な人がそこらの雑貨屋で布を調達してる間に概要の説明でも。


「なあメカブ。僕達は確かに圧倒的に不利だよ。けど、やりようはある。守る側と攻める側の意識の違い。そして奴らと僕ら、共通して持ってる情報を上手く使う。 
 まあ、ようは奇襲だな」
「だからその、奇襲をどうやって成功させるのよ」


 眉をつり上げて勿体ぶる僕を睨みつけてくるメカブ。よしよし、布も到着したし、教えてやるよ。


「鍵はこの『僕のスマホ』だよ。だけどこんなのは『僕の』をとればただのスマホなんだよ」
「は?」


 明らかに疑問符を頭に浮かべるメカブ。こいつ結構察しが悪いな。そんなメカブに対して、ロン毛の人は「なるほど、そう言う訳ですか」と笑顔で言ってくれた。


「え? え? 何でわかるの?」
「取り合えずお前も誰かの背に乗れ。そして布をかぶってろ。作戦は走りながら伝える。いっとくけど、この作戦の要はお前だ。聴き漏らすなよ」


 僕はメカブのスマホに表示された地図を確認。やっぱり大通りだけあって、問題はないな。どの道もここには続いてる。大丈夫……いけるさきっと……そんな言葉を自分に言い聞かせる。


「なんか良くわかんないけど、ちゃんと説明しなさいよ! それと……もっと汗臭く無い人でお願い」


 おいおい、折角の力自慢の人も目に涙が貯まり出したじゃいか! なんて酷いことを言う奴だ。それにこの暑さだぞ。汗をかいてない人なんか居るか。


「じゃあちょっと待ってよ」


 そう言って、メカブは清涼剤をシャカシャカ振ってプシャーと勢い良くその人に噴射させまくる。おいおい、そこら辺でやめてあげろ。ゴホゴホ咳込んでるじゃないか。


「変な所触ったら警察に突き出すから」
「了解であります姫!!」


 なんか下の人はこれをプレイと受け止めてるのか、あんな事されて言われてるのに随分ノリノリだ。首輪でも付ければ、もう従順な犬に成りそうな程。


「さて、それでは行きましょう!」
「そうですね。行こうみんな!!」


 僕の号令と共に、このアキバの地に吠える様な叫びが木霊した。周りの関係無い人たちは、何かのお祭りでもやってるのかと、変な檄を飛ばしたりもしてる。
 迷惑そうにしてる人も勿論いるけど、それよりもこれだけ騒いでて警察がこないのがちょっとおかしい。アレかな? やっぱりイベントで街を舞台にするわけだから、勿論無許可じゃないんだろう。
 イベント関連の事は極力無干渉で打ち合わせてるのかも。まあそれでも暴力沙汰は流石に見過ごしてくれないと思うんだけど……どうだろう。だけど既に引けないんだ。もう一度の決意をした。なら、勝つまでもがいてみようと思うんだ。
 体が上下に揺れる。周りはもう僕に見えない。何故なら布を上から被ってるからだ。僅かに見えるのは前方の景色だけ。少しすると前方に人だかりが見えた。なんだか交通がそこだけ途切れたかの様に成ってるって事は……奴らの物騒な面構えに、一般人は迷惑を被ってるって事だろう。


「まさかアレ全部……かかっ上等! アンタもそう思うだろ?」


 僕を運んでくれてる人がなんかやけに楽しそう。まあネガティブ思考よりはマシだな。それに本当に力強いんだよね。
 この筋肉、暑苦しいけど、頼りに成る感じは十分過ぎる程ある。まあ今日見たどっかのシスターはこの数倍は迫力あったけど、あれと比べるのは酷ってものだろう。
 てかこっちの方が人間味がある。


「まあ確かに……とは流石に言えないけど、頼りにしてます」


 そう言って僕はこの人の肩を掴む手に力を込める。目の前に迫るチンピラ共。奴らもこちらの接近には既に気づいてる。殺気だった感じが肌に伝わってくるよ。
 そんな時、スマホの画面からバカラさんの声が聞こえた。


『くっ、しくじっちまったぜ。頼む戦士18号!』


 そんな事を謙虚に言ってくれるバカラさん。僕が追って来てなかった事には成ってないんだな。僕のせいなんだけど……


「って、ん?」


 画面を見てると、正面からチンピラじゃない奴らが迫ってくる。それは大きな槍を手にして鎧に身を包む兵隊。ブリームス側の妨害だ。
 そうだった、敵はチンピラ共だけじゃ無かったんだ。


「目の前のから三人、ブリームス側の妨害。指示通りに動いてくれますか?」
「了解!!」


 力強い返答。本当に頼もしい人だ。僕の指示に従って大きく体を左にずらす。態勢を低くしてもらい、向けられた槍を交わす。
 そして交差際に手に持ったまま例の卵型武器で昏倒だ。まずは一人目。続いて止まらずに真っ直ぐ前進。あっけなく仲間が倒され、一気に迫る僕に動揺してる間に、もう一人もノックダウン!
 これでブリームス側での邪魔者は一応排除。後はバカラさんが引き受けてくれてるしね。


「敵の排除完了です。作戦通りに、左右に展開してください」
「おう!」


 僕達はそれぞれ人数を分散させて、左右に分かれる。メカブ側に比べてこちらを少数にしてね。チンピラ共は当然僕を捜してるだろうけど、どっちかはまだ分かってないはずで、当然この布を被ってるどちらかだと考えてるだろう。そして当然、守りの堅い方を重要だとおもってくれれば……
 まあ実は、さっきの兵士との一戦を見られてたら、布被ってても諸バレだった訳だけど、ここのチンピラ共は既にスマホを持つこと放棄してやがる。
 暴れる気満々ってな感じだ。助かったけどね。ここで僕がどっちに居るのかバレたら、布で姿を隠してる意味がない。
 のっぺりとして妙に暑っ苦しい空気をかき分けながら進み、僕達は左右同時一斉に仕掛けた。


「「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」
「「らああああああああああああああああ!!」」


 チンピラとこちら側、それぞれの努声がぶつかりあう。前面でみんなが僕の道を造る為にがんばってくれてる。狙い通りにメカブ側の守りの方に人数を割いてくれたみたいだな。まあだけど、さっきの場所とは違って、僕達の人数差はほぼ無い。
 普通に喧嘩してこっちが勝てる割合は低いんだ。だからみんなには無駄に仕掛けない様に言ってるよ。バカなチンピラ共を一人二人ずつ引きつけてくれたら十分だ。
 戦闘を率先してやるのは腕自慢の数人だけ。それだけで十分道は開ける筈だ!


「布を剥がせ!!」


 そんな声がチンピラ共からあがる。どっちが僕なのか確認したいんだろう。だけどメカブは強固な守りと多い人数に任せた勢い突破でズンズン中へ進み、こっちはこっちで、僕の目を生かして指示することでチンピラ共の魔の手をかいくぐり装置に向かってる。
 失敗するわけには行かない。体を張ってくれてるみんなの為にも、ここで失敗したら、自分は殴られて無くても痛いんだよ。きっとそうだろ。
 射程圏内まで後数メートル。そこかしこで乱闘が繰り広げられる光景はやっぱり古いヤクザ映画の様な感じ。けどこれは銀幕の向こうの光景じゃない。
 実際に目の前で起こってる事で、僕はその当事者だ。体を張ってくれてるみんなは名前も知らないけど、仲間なんだ。


「きゃあ!」


 甲高い声がこの場に響く。女の子のそんな声は良く通るから分かりやすい。視線を向けると、遂にメカブの被ってた布がはぎ取られた所だった。
 これでこっちが僕だとバレた事になる。視線が一斉に向けられた気がした。


「バレたみたいだぞ」
「そうですね。こうなったらしょうがない。メカブは直ぐに離脱するだろうから、こっちは一気に前へ!!」


 僕はそう言って自身で布を脱いだ。燦々とした太陽が体全体に降り注ぐ。白い布が風にたなびいて揺らめいた。そしてこっちに注目してるチンピラ共に、その布を目隠し代わりに投げつける。


「いっくぞおおおおおおおおお!!」


 布を被ってジタバタしてるチンピラに僕を背負ってる人がタックルをかました。その勢いは凄まじく、一斉に雪崩の様に倒れ込む。僕は背中にいたから、彼の背中を転がり、チンピラ共を越えて、残り数メートル圏内をクリアする。
 素早くスマホを向けて、僕はロックオンされてる画面を二度タップする。放たれる二個の卵。それらが青白い光を放つ装置にぶつかり、激しい雷撃が弾けた。
 てか、ここに居たら、僕のブルームス側のHPは無くなるんじゃ……そう思ってると、後ろから首根っこを捕まれて強引に後ろに引っ張られた。


「成功……だよな?」
「ああ、成功です!」
「よし!!」


 太い拳を握りしめて噛みしめる様にするその人。強引だけどおかげで助かった。まだ布の下でモゴモゴモやってるチンピラを無視して僕はこういう。


「もうここには用はない。予定通りに最後のポイントへ行きましょう!!」
「よおおし、全員この戦線を離脱だ!! 最終地点を目指すぞ!」
「「おおーー!!」」


 僕は再びこの人の背を借りて一斉にバラバラの方向へ捌けていく。チンピラ共は意外にも追ってこない。奴らは僕らが捌けていくのを観ると、直ぐに最終ラインまで下がり始める。
 それはまだ余裕があるみたいに見える行動。本当の戦いは次の場所でって事か。結局ハゲはここにも居なかったしな。上等、どのみち次で決着だ。




 僕たちは追ってがなかった事で簡単に集合場所に集まれた。


「良くやった。誉めて使わすわ無限の蔵」
「何キャラだよお前は。良いからそれ渡せ。直ぐ行くぞ。時間はもう二分半も無い」
「わ……分かってるわよ」


 ん? なんだかちょっと上擦った様な声にメカブが成った。こいつもしかして……


「なんだ? 緊張でもしてんのか? 声が震えてるぞ」
「うるさい! ようやく時代が私に追いついて来たって思ってるだけよ。ここからは私が主役なのよ」


 そう言って精一杯そのたゆやかな胸を強調するメカブ。でも良く見れば分かるよ、僅かに指の先とか震えてる。僕はしょうがないから、頭をポンポンしてやった。メカブのクセッ毛気味だけど、サラサラしてる髪が指の間で良い感触を伝えてくれる。
 だけど大量のピンは止めた方が良いな。日光浴びて暑く成ってるぞ。まあだけど、やっぱり女の子の髪の毛はなんか出来が違う。


「ちょ……ちょっと何するのよ」
「まあ、取り合えず頑張ろうぜお互いさ。大丈夫、必ず成功する。成功させてみせるさ」


 ちょっぴり頬を赤らめるメカブが抗議の眼差しで僕を見てきてた。そして僕の腕を弾いて捨てると、メカブは僕を見ないようにしながらこう言った。


「バッ……カ……そんなの当然でしょ」


 それは最初大きく徐々に弱くなっていく音量で紡がれた。僕は弾かれた腕をどうしようかと考えて、そう言えばまだやってなかった挨拶があったことを思い出したよ。
 シェイクハンド……まあ握手。手を取り合った事はあったけど、ここで初めて繋げて見るのも良いんじゃないか。物理的な事じゃなく、心の方をね。


「お前と出会えて楽しかったよ。思いでは勝利で飾ろうぜ」


 僕は右手をメカブの前に差し出す。ちょっと重量感が増したように感じる手だけど、ここで僕まで震える訳にはいかないよ。
 だから僕は涼しい顔をしてみせる。そんな僕の手を見て
メカブも自身の手を出してくれる。そして重なって力を互いに込めたとき、メカブは数回スーハーと深呼吸を繰り返した後に強い光を宿して凛としてこう言った。


「ま、私の悠久の時の一ページに刻む価値はあったかもね。最後次第でもあるけど、刻める一日に私もしたいかな」


 僕たちは互いを見つめて、素早く互いに握りしめた腕を引き合った。カシャっとちょっとした音が聞こえたけど、そんなの気にしてる場合じゃ無いから、どっちも何も言わない。
 メカブを運ぶ人は交代で、新たな馬の背に身を預ける。僕はさっきと同じ人。まだまだ走り足りないみたいだし、スゴい体力してるよこの人。
 僕とメカブは後は何も言わずに、互いに頷いて走り出す。もう時間が無い。僕たちは最短距離で青白い光が聳える場所を目指す。




 視界が上下に揺れる。そのたびにちょっと心臓が飛び出しそうになってた。強烈に差し込む日差しが、この大きな道をそのカーテンで白く覆ってる様に見える。
 周りから受ける奇異の視線も、そんなカーテンに覆われてどうでもよくなる。立ち並ぶ様々な店舗のビルと大きな道。そこを走る僕たちは妙に浮き立つ存在で、だけど今この瞬間は、自分達とそして……少し先に見える柄の悪い連中しかこの目には映ってない。
 僕は再び被った布を握りしめる。アイツ等の多さ……あれは予想外だろ。四・五十人は居るぞ。装置から三十メートル付近から、防衛線を築いてやがる。
 こっちは二十人強って所なのに、これは明らかに不利だ。まあそんなのは分かってた事だけど……それでもこんなのを見せつけられるとね……僕は少し離れた所を走ってる、もう一体の騎馬を見る。
 僕と同じようにたなびく布。きっと大丈夫だろう。


「かっははは! 燃えて来る展開だ!!」


 そう言うのは僕の騎馬となってる人。本当にこの人は……だけどその前向きというか、ガムシャラな言葉で、無理矢理にでも自分達を奮い立たせる人達も少なくない。
 彼は意図せず、怖じ気付きかけた仲間の心を立て直した。
 そして向こうもこちら側の接近に気付き、臨戦態勢へ。その時、ガヤガヤと動く奴らの向こうに一際光る頭が見えた。あれは間違いなくハゲだ。
 一瞬目が合った……様な気がしたけど、それはきっと気のせいだろう。向こう側からはこの布の奥まで見える訳がない。
 するとそこでハゲよりも偉そうにしてる奴を発見。リアルで赤髪でライオンみたいな頭の奴が、拡声器を向けてこう言った。


「さあ! テメェ等がどれだけ愚かか分からせてやんぞ。最終決戦と行こうじゃねぇか!! きゃっっはあああああああ!!」


 澄み渡った空に似合わない声がこの戦いの最終幕を開ける。

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