命改変プログラム

ファーストなサイコロ

人生は選択肢の連続



 僕達は秋葉原駅前へ来た。ここで第四研究所の連中が盗み見たメールの相手が居るはずなんだ。名前は確か『ジェロワ』だったな。
 僕とメカブはそれぞれ携帯を翳して、行き交う人々の中でその人物を捜す。流石駅周辺は人が多い。ぶつからない様に気を配るだけで大変だ。
 普通に歩いてる人たちにとっては僕達は邪魔だろうからね。せめて迷惑を掛けない様に気をつけないと。


「あっ、ねぇアレじゃない?」
「おお、でかしたメカブ――っておい!」


 メカブの奴は急ぎ足で駆け出すし、視線はスマホの狭い画面に釘付け。よってもの凄く危ない感じで進んでる。僕は慌ててメカブの服の襟を鷲掴みにしたよ。


「ととっ、ちょっと何するのよ無限の蔵」
「何じゃない。危ないんだよお前は。ちゃんと周りも気にしろよ。何も知らない人だって居るんだ。その人たちに取ったら僕達は非常識だろ」


 だからこそ最大限注意を払わないといけない。イベントの参加事項にも書いてあっただろ。【周りへの迷惑を理解して最大限の配慮をお願いします】ってさ。


「小さいわね無限の蔵。自分を押し殺して楽しいことが出来ると思ってるの?」
(こいつ全然分かってない)


 このつまんないって顔のメカブを見て理解した。こいつ自分が全てか。てかこんな個性的な格好してる奴が、人の目なんて気にしてる訳そもそも無いよな。
 恥ずかしいとか思ってたら、生足全露出はしないだろ。ファッションを気にしてるにしては、便所サンダルはおかしいし……自分を見てほしいんじゃなく、自分が興味あるものしか見たくないから、周りなんてどうでもいい……か。


「私はね、人生楽しく生きたいの。長く生きてきて、他人に振り回せれるのなんてバカバカしいと気づいたわ」
「バカバカしいね……」


 なんか浸ってるけど、あんまり年変わんないだろお前。だけどこいつの言動にはいちいち設定がつくから、長くってのもあれだろ? 時の監視者として……とかだよな。うん、めんどくさい。


「お前な、別に個性を持つのは良いけど、最低限の協調性は持ち合わせてろ。これは他人に併せるとかじゃない、思いやるって事だ。
 そういう所は無くすなよ。幾ら長い時を生きてるとしてもな」


 僕はメカブの言葉を流すんじゃなく、さり気に入れてへそを曲げるのを回避する事を忘れない。これも学習って奴だな。
 するとメカブは納得してくれたのか、こう言った。


「まっ、無限の蔵がそう言うなら歩み寄っても良いかもね。これも私の無くしてた物かも知れないし」
(だろうな)


 と、心で呟いた事は胸にしまっとく。決して口には出さないよ。けどさ、なんかイベントの他に、メカブの再教育みたいになってない?
 確かに落とした物を取り戻せとか言ったかもだけど、あれは別にこういう事じゃなかったんだよね。適当だったし、メカブの電波に合わせただけだ。
 案外本気だったのかな? 自分で周りとズレてるのは自覚してるとか? でもそれを分かった上でやってる筈だとも思うけど……自分がおかしいのか、世界がおかしいのか、メカブにとってはどっちなんだろうな。




 今度はちゃんと周りに気をつけて僕達は行き交う人々の波を進む。駅の構内に入る一歩手前ぐらいの所に居るものだから、ほんと大変だったよ。
 もうちょっと場所を考えろよな。今日は特に人が多いんだから。特にこの駅周辺は常に飽和状態みたいな感じ。人の熱気と、日光でサウナ状態と言っても良いくらい。後はビルから照り返される日差しもあるから、もうヤバい。
 ヤワな機械とか壊れるんじゃないか? と思うくらい。絶対に精密機械には悪い環境だよ。そんな中で僕達は『ジェロワ』さんに話しかける。あっ、ちなみにこの人は女性でした。
 白衣に眼鏡のいかにも研究者っぽい人……ではなくて、眼鏡はそのままだけど、服はローブで研究者って言うより、魔導士って感じだ。
 まあもしかしたらLROの研究装束がローブなのかもしれないってだけかも……あの所長が白衣を翻してたから、こっちもやっぱり白衣なんだとシックリ来てた訳だけど、そもそもLROの世界観にはこっちの方が合ってるか知れない。
『あ、貴方があのメールを……で、何を要求するつもり?
 呼び出したからにはそれなりの覚悟あってでしょうね。私は国家研究員なのよ。
 その情報を取ろうとする事がどういう意味を持つか、無さそうな頭で考えなさいよひぇ』


 ひぇ? なんかテンパってるなこの人。


『ちちちち違う! 今のはひゃし! ってこれもダメ。なしなし!! ああもう、要求は何よ!!』


 なんか良く分からない内に逆ギレされた。てか要求は言ってなかったのかあいつ等? 入ったばっかりの僕の事信用し過ぎ。ええと、ここで選択肢があるわけね。


『金渡せ』『奴隷になれ』『アイテム』の三つの選択肢。誰だこんなふざけた選択肢作った奴。おかしいだろ。金渡せとか奴隷になれとか、欲望でしかない。流石にこれは無いだろう。
 でも最後のアイテムもちょっと良く分からない。けど選択肢の筈なのに逆にこれしか選べないというおかしさ。それが変な葛藤を生む。
 余りにも選択肢の意味が無さすぎて、深読みするというか……これでいいのか? みたいなさ。


「どうしたのよ?」


 迷いあぐねてる僕をみて、横からメカブが入ってくる。僕の画面を見ようとするから、慌てて横に逸らした。これはシクラを見られないようにする配慮ね。
 けどよく考えたら今は画面内にシクラの奴いないな。一体どこに行ったのなら、思い返したら投げ捨てて戻ってきた時から一言も発してない。
 もしかしたら投げ捨てたのを根に持ってたのかも知れない。そんなヤワな性格はしてないと思うけど……基本なに考えてるかわかんないから、変な報復がこないかを警戒しとこう。


「ちょっと何で見せないのよ。わかんないじゃない」


 そう言ってグイグイ僕に体を寄せてくるメカブ。暑苦しいのにくっつくなよと言いたい。それに無駄に大きな部位が当たってるし、こいつワザとやってるんじゃないか?
 それともやっぱり全然気にしてないのか……僕はもう一度画面にシクラがいないか確認して、選択肢を見せてやる。


「ほら、これがなんかおかしいから悩んでたんだよ」
「ふ~ん、こんなのアイテムしかないじゃない」


 だろうな。あっさり言ってくれるなこの野郎は。


「そうだとは僕も思うよ。けど、なんだよこの選択肢の意味の無さは。変に勘ぐらないか?」
「まあアホらしい選択肢だとは思うけど、他に何があるのよ。金渡せとか奴隷になれって今までの流れ意味ないじゃない」


 まあ確かしにそれは……てかそんな事は心の中で前に言ったっての。だからその意味の無さが逆に不気味なんだよ。


「別に大丈夫と思うけど。じゃあ私が保証してあげるわよ」


 そんな事を何故か自信満々に言ってくるメカブ。どっから沸き上がる自信だよ。


「ふふ、その自信の裏付けはアンタも知ってるはずよ無限の蔵。なんてたって私には天寿眼があるんだからね。忘れたとは言わせないわ」


 ああ~と僕は思ったよ。その設定ね。確か天寿は全てをメカブに教えてくれるんだっけ? そりゃ凄い。でもここで使って良いの? 今まで世界への影響を考えて控えてたんだろうに。


「特別よ、特別。知り合った記念に今日は特別サービスで、この一度きり天寿の力を見せてあげる。全く、無限の蔵は用心深いというか、小心者なんだから。
 ほんと私が天寿を持ってて良かったわね」


 プププ――ってな感じで何故か笑われる僕。設定程度にそこまで自信満々になれるとは……期待なんかしてねーよと言いたい。
 しかもある意味ここで正解を見せようとするなんてあざといというか。確かに実際、この選択肢はアイテムの一択だと思われるから、この正解により天寿の設定をより強くしようとかそう言う事だろ。
 くっそ~さっさと選んどくべきだったか。僕はしょうがなく、アイテムを選択。まあだけどこれだよねきっと。これじゃなかったらおかしいと思える程、これしかない筈。


「うわ、マジで押してやんの」
「お~い、さっきまでの自信はどこいった?」


 何ここで不安に駆られてるんだよ。もう後戻りは出来ないぞ。いきなり弱気な一面見せやがって不安が増すだろうが。


「だってだって、無限の蔵が余りにもあっさりと信じるから。もっと慎重になりなさいよ」
「どの口がそれをいうんだ!」


 ふざけんなよこの野郎。もう押しちゃっただろ。どうせなら最後までその自信を貫き通せよ。変に不安にさせるな。もう祈るしかない僕とメカブは画面を凝視。一体これで正解なのか?


『それは……流行の奴ね。もしかしてこれを私に? まさか貴方……』


 まだ判断できない。なんか意味深だけど、はっきりしないやりとり。


『私のファンね』
「「はい?」」


 二人して画面の中のジェロワさんへそんな声を出した。ファンって、どうしてそう言う結論に至った?


『脅迫なんてしてきて何かと思ったらそう言う事。まあエリートの私に目を付けるなんて良い眼力してるわ貴方』
「ど……どういう事なんだ? これで良いのか判断出来ないぞ」


 僕は隣のメカブへと判断を仰ぐ。だってどうみても変な方向へ行ってる気がする。


「ファンとか、この女も相当思いこみ激しいわね。なかなかやるわ」


 そんな事きいてねぇ。何ちょっと同じ臭いを感じ取ってんだよ。確かにお前とこの人ちょっと通じる部分がありそうだけど、そんなの今はどうでも良いことだ。


『確かにちょっとここの所あの人怪しいのよね。あんまり構ってくれないし。やっぱり家族の方が大事って事よね。私なんてもう三十路になるのに……結局遊ばれてただけ。
 そもそも奥さんと別れる気なんて小心者のあの人には無理なのよ。ねえそう思わない?』
「ここでまた選択肢だとぉぉぉぉぉぉ!?」


 僕は思わず声を張って叫んでしまった。周りの人達が「何事か」とこっちにいぶかしんだ視線を向ける。しまったしまった、迷惑だよねこれは。声は極力抑えよう。だけど、もうなにがなにやらで声を出さずには居られなかったというかね、どういう事?
 何をいきなり聞いてくるんだよこの人。おかしいだろ。こんな重い話、今し方出会った奴に話すか? しかもまた選択肢って、判断を仰いでいいのかよ。


「凄い斬新ね。プライベートに切り込んでるわよ」
「切り込み過ぎだろ。イベントに関係を持たせろよ」


 いっとくけど、この人と誰かさんの不倫関係なんてどうでもいい。こっちの狙いはこの人から、アイテムの情報を聞き出すことだ。素直に流せよ。
 僕がそんな事を考えて悩んでると、隣から頭を入れてるメカブが勝手なことをする。


「今度の選択肢イエスかノーか。これはもうイエスで良いわよね」


 そう言ってピッと勝手に選択肢を決定しやがった。


『やっぱりそう思う? 私はきっとあの人の慰み物で、都合の良い女でしかないのよね。ありがとう目が覚めたわ。あの……えっとね、貴方はその……私の事どう思う?』


 そう言って僕が渡したアイテムを胸に抱いて訪ねてくるジェロワさん。なんだこの人、こっちに乗り換えようとか言う気か?
 てか、展開的にそうさせろと? ここで画面には再び選択肢が出てきてる。


『幸せにして見せます』『どうって言われても……』『三十路って(笑)』


 最後の選択肢バカにしてるよな!? (笑)ってどんだけふざけてんだよ。取りあえず最後の選択肢は除外しておこう。正解って気がしない。
 でも一個目の『幸せにして見せます』ってのもおかしいよな。それはプロポーズか何かか? 一番無難なのは二番目か。まさに僕の今の気持ちを表してるしな。
 けど、このジェロワさんが求めてる答えは一番の奴みたいな気がするんだよね。ここでお茶を濁す選択肢は実は一番気に障るとかあるかも知れない。これは流石に、僕一人じゃ判断できないな。


「不本意だけど聞いてやる。どれだと思う? 僕的には三番目はあり得ないんだけど」
「三十路って(笑)って奴ね。う~ん私的にはそれが一番良いと思うけど」
「三十路って(笑)が!?」


 なんでそう思うのか理解できない。こいつの感性はホント謎だよ。だってあり得ないだろ。普通にバカにしてるよその選択肢は。


「でもでも、私的にあり得ないのは二番目だと思うけど。迷うとしたら、突き抜けたどっちかよ」
「その理由は?」
「中途半端な答えは中途半端な結果しか生まないわ」


 なんだか名言っぽく言ったメカブ。随分得意気にね。まあそれは有ると思うけど、どっちも極端じゃね? 


「そうかな? 別に断言してる訳じゃないんだし、いいんじゃない? いい、私思うんだけど、これってこのジェロワさんを落とすのがきっと目的よ。
 脅すよりも従順に使えるわ。なんかこの人、恋愛になるとバカになるタイプと見たわ」
「へぇ~、なるほど落とすね。でも何で三番の奴なんだよ。落とすのなら一番の選択肢の方が良いだろ?」


 落とすのが目的なら、バカにするような選択肢はダメだと思うけど。けど僕のそんな言葉をメカブは「ちっちっち」と舌を鳴らして否定する。


「ホント無限の蔵はお子さまね。彼女は今、恋愛に悲観的になってるわ。結婚が出来ない相手との関係を終わらせる為には、新たな恋しかないと思ってるの。分かる?」
「だから優しい言葉を掛けて、こっちに気持ちを寄らせるんだろ? やっぱ一番じゃん」


 ますます一番説が強くなった気がする。けどメカブはブレない。


「優しくて甘い言葉、それだけで女が落ちるなんて思っちゃ駄目なのよ。それに最初から優しい男にはきっともう懲り懲りしてるわよこの人は」
「どうしてそんな事が分かるんだ?」


 ジェロワさんの何を知ってると? この人の性格とか人間性とか全然僕ら分かってないだろ。


「だって不倫してたんでしょ。その相手はきっとこう言ってた筈よ。『妻とは別れて君と一緒になるよ』とか。定番句ね。だけどそれは無いとそろそろ気付いた。男の優しい言葉は求めてる。だけどそれを素直に受け止められない自分ができちゃった……みたいな」
「随分具体的だな」


 まるで経験でも有るみたいな言い方。まさか援交でもやってるのか? 流石にその年で不倫とかは無いだろうけど……って良く考えたら不倫も援交もあんまり変わんないよな。
 援交なんて年の差だけで、実際おじさん側には家族居るだろ。意識の違い? まあ取りあえず、メカブは以外とビッチだったと言うことで。


「誰がビッチよ誰が! 私はまだ……その……しょしょしょ……」
「ああ! わかったわかった!! 理解したからその先は言うな!」


 顔を真っ赤にして、何を口にしようとしてたよこいつ。公衆の面前で赤面だけじゃすまない事を言おうとしてただろ。


「結局どれにすればいいんだ? 一番か三番か? 自分的には二番もやっぱり捨てきれないんだけど」


 ジリジリと照りつける太陽の下、頭を使うのはきつい。そろそろマジでクラクラしてきそうだしさ。メカブが無駄にくっついてるせいで、体感温度以上に暑いんだよね。少しは気にしないのかな? 女の子なんだから汗の臭いとかそこら変には敏感だと思うけど。
 日鞠の奴は、良く体育の後は「あんまりくっつかないでね」とかおかしな事を言っていた。いつだって付きまとうのはそっちの癖にだ。
 まあ普通はその程度には気にするはず。だけどメカブに普通を求めるのがバカバカしいか。別に臭く無いしね。僕が普通にちょっとドキドキしてる中、メカブは「ふっ」と口元をあげて、「しょうがないから、この一言で背中を押してあげるわ」と言った。
 なんだなんだ? どんな名言を知ってるって言うんだ?


「神ニート様が言ってたわ。嫌いは好きに変換可能だってね!」


 超自信ありげだけど、まず神ニート様じゃないし、神にー様だろそこは。とか、それってギャルゲーでの格言だろとか言いたい事一杯。


「何よその目は。本当なんだからね。だって新世代恋愛バイブルにそう書いてあったわ」


 まさかその売り文句を本気にしてる奴が居るとはビックリだよ。あんなのあのマンガの主人公しか出来ないっての。


「とりあえず! 好きと嫌いは表裏一体。嫌いの反対は好きって良く言うし、昔の人も言ってたわ。だからこの格言は本当なの。安易に好きになられるより、まずは嫌われろって事よ。わかった?」


 わかった……と言われても。どっちかって言うとわかんないな。そもそも恋愛展開なのこれは? てか話の持って行きかたはそっちで本当にいいのかな? って感じだし。まあ好きの反対は嫌いとか良く言うけど……この人を長々と攻略してる暇は無いぞ。


「取り敢えず、ここは三番で。大丈夫、今度は先人と神ニート様を信じなさい」
「だから神にー様ね」


 そんな訂正をしてる間に、メカブはポチリと決定しやがった。あ~あ、これで駄目ならどうする気だ。


「迷い続けるより生むがやすしってね」


 それなんか違うくね? なら僕は覆水盆に返らずと言うぞ。


『三十路(笑)だなんて……酷い! 貴方も私をバカにすすすするのね!!』


 そう言って走り出したジェロワさん。その時画面には『追いかけろ!!』の文字が赤々と表示されてた。既に選択肢でも何でもない、強制的な指示。何これ? 追いかける事が必須イベント的になってる訳?


「何やってるの無限の蔵、早く行かないと見失うわよ!」
「ああ、もう! 周りには気を付けろよメカブ!!」


 僕達は逃げ出したジェロワさんを追って走り出す。だけどリアルではあの人は見えてない訳だから、僕達は見えない誰かを追いかける痛い人に見えてるに違いない。
 なんてこった……遂にメカブと同類に。家族連れの人が僕達を見て「あのお兄ちゃんたちは何を追いかけてるの?」って質問を母親が「見ちゃ駄目です」と言ってる所で、目に暑い何かがこみ上げた気がした。
 僕達はデジタルの世界の住人を追いかけてるんだ! 決してこの暑さで気が狂った訳じゃない。そんな弁解を心で呟きつつ、遠くに見えるローブを追う。


「ちょっ――人混みうざい! 画面を見ながらじゃスピードも出せないし、このままじゃ巻かれるわよ」
「それよりも僕は画面に出てる数字が減ってるのが気になるんだけど!?」


 追いかけるんだ! の強制文字と同時に現れたこの数字。どう考えてもアレだよな?


「数字って……まさかカウントダウン? ゼロになったら終わりじゃないの? それか元の場所に戻って最初からまた追いかけっことか……そんなの絶対にイヤよ!」


 そんなの僕だって同じだ。こんな炎天下の下、そう何度も走れるか。でもこのままじゃマジで見失う。どうにかしないと。
 するとメカブが僕に向かってこう言った。


「アンタ先行しなさい。私のペースに合わせてたら逃げきられちゃう。後でちゃんと追いつくから、絶対に捕まえなさいよ!」
「任せろ!!」


 僕はメカブからの言葉を受け取って、スピードを上げる。実際ペースをメカブに合わせてた訳じゃなく、結構限界だったんだけど……ここでもう無理とは言えないだろ。
 メカブは僕が激しい運動は控える様に言われてるって知らないし、散々暴れてるからな。だけどマジで骨と筋肉がヤバい。ギシギシいってる気がする。
 僕は大きく息を吸ってスピードアップ。スマホを確認しつつ、人混みを潜り画面に映る小さな背中ををタッチ!


『エラー! もっと近づいて!』


 もう一度ブン投げようかと本気で思った。l

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