命改変プログラム

ファーストなサイコロ

灼熱だけど止まらない



 ドンキのお馴染みの曲と、スマホの画面の酒場が全然あってないこの場所で、僕は多分繋がれた言葉を聞けた筈だ。その内容はこんな物だった。


『国はあれの存在を知ってるのに……知ってるのに隠してるんだ。奴らが俺の息子を浚ったも同然なんだよ。アイツ等はきっと世にも恐ろしい実験をしてる。
 確かに少しして帰ってくるかも知れないが、国が人さらいをして良いはずがないじゃないか!』


 とか興奮気味に言われた。いや、これは相当精神に来てるね。この三十代半ばのおじさんNPCは、かなりいろんな所まで寝る間を惜しんで駆けずり回ったんだろう。目の下には凄いクマが出来てたし、服もなんだか皺クチャだった。
 それこそ設定なんだろうけど、この人の絶望感は伝わってくる。まあ確かにどうせ戻ってくる……とかこの人を前では言えないな。


「どうだったの? 次のNPCのヒントは得た?」


 そう言ってペコペコとサンダルを鳴らしてメカブが聞いて来た。なんかこいつって、役に立ってるかどうかわかんないよな。そもそもなんでついて来てるんだっけ?
 まあそれも今更だからどうでも良いけど。僕は大量のピンで止められてもっさりした黒髪を一瞥してこう紡ぐ。


「まあ、それらしく繋がってきた感はあるかもな。でも具体的に次はどいつだって事はわかんない。まあ研究所の連中が有力だけど……」


 けどこれ曖昧過ぎだよな。一度ミスると最初からになる訳だよね? それを考えると、一度のミスは大きなタイムロス。しかもここはリアルだから、これがきつい。
 まあそりゃあLROの街も変わらずに広いんだけど、体力とかは町中ではあんまり考えなくて良いからね。けどリアルは違う。何をするにしても体力とよう相談だよ。


「研究所ね……」


 そう言って思案顔するメカブ。もうテイクアウトしたデザートや飲み物も空箱に成ったのか、ようやく考える気になったみたいだな。
 メカブは二台の内の一台を使って常にネットに検索掛けれる様にしてるから、地図ギルドのサイトにでも行ってるのかも。
 そんな事を横から考えてると、画面の中のシクラがこんな事を言ってくる。


「もう一度声掛けてみたら良いじゃない。てかそれ基本でしょ? 一度だけじゃ話さない事があるかもってのは☆」
「いや、それはそうだけど……大丈夫なのか? 二回聞くのはNGとかだったらどうするんだ?」


 リスク高いよ。また第四研究所の所まで戻って、あのビルの屋上まで行かなきゃいけないんだろ。地味に大変なんだぞあそこ。エレベーター無いし。そんなのは御免被りたい。
 だけどシクラの奴はあくまで軽いノリでこう言うんだ。


「大丈夫大丈夫。私が覗いた情報によると、同じNPCには何度も聞けるから。だから進むまではリセットされないから安心して良いよ☆」
「ホントかよ……」


 イマイチこいつの言葉って信じられないんだよね。画面の中で自身の前にいくつかウインドウを表示させてカタカタ言わせてるシクラだけれども、その情報がそもそも怪しいんだよ。
 どっから入手したんだ?


「そんなの運営側からプロトプログラムをヒョヒョイってね☆」


 こいつはまた……恐ろしい事を事も無げに……


「まあ私、ハッキング得意だし。てかマザーの外部リンクに組まれたアドバンスジェネレーションなんて、私たちは見放題だもん☆」


 なんかサラッと言ったけど、理解できない単語が混じってたぞ。なんだって? アドバンスなんとか……は?


「スオウの頭でもわかる程度に言うと、マザープログラムに組み込まれたそもそものシステムじゃなく、外から付け足されたシステムって事。
 マザーは強固な障壁で守られても居るけど、それは中枢だけなのよね。LROの概要とかの部分は比較的簡単に覗けるの☆
 そして端の端っこを使って、このマザープログラムの末端部分だけをイジってマスター以外の人は色々とやってるのよ」


 そう言って一息つくシクラ。僕はしばし考えてこう言った。


「ようは核心には触れられないけど、触れられる所から、枠組みを大きくしようとかそう言う事か?」
「まあ間違っちゃいないよ。アドバンスジェネレーションは一種の可能性だよね☆ 凡人が天才のスネをどれだけかじって、追いつけるか……みたいな」


 んん? その変な例えは良く分からん。なんでちょっと意地悪く言うんだよ。凡人が頑張ってるなら良いじゃないか。天才だけじゃ世界は回らないんだ。その他大勢が世界を実は支えてるんだ。


「それはどうだろう? エジソンがいなかったら今の文明は無かったかも知れないよ。その他大勢は、天才達が作った基盤に苦も無く乗っちゃってるだけだと思うけど☆」


 ニコリ顔で世界中の大半の人達を敵に回す発言だそれは。別に天才を否定してる訳じゃないんだから良いじゃないかって僕は思うけどね。
 エジソンなんて偉大だーって称えられてるし、僕達がその基盤の上で発展し続けても発明の父を名乗ってられるんだから、文句は言われないさ。


「てか、そもそもそんな事じゃない。天才がどうとかはいいんだよ別に。本当に二回も聞いて良いんだろうな?」


 僕の疑いの言葉に、シクラは証拠とか言って妙な物を見せてきた。それは黒い画面に浮かぶ白い文字が、妙な感じで羅列してる物だ。
 ああ、あれね。きっとその覗いたって言うアドバンスジェネレーションだろ。ようはこのイベントの際に組んだプログラム。
 ふっ……僕は一度肩の力を抜いてこう言ってやったよ。


「よ・め・る・か!」


 こっちは何となくこれがプログラムか~てな程度の知識しか無いっての。そんな訳の分からんプログラムだけ見せられて理解出来るかよ。
 いっとくけどな、C言語とか知らない奴が見たら異次元の文字だ。あれでどうやってゲームが動いてるのか、僕には理解出来ないよ。


「全く、これだからスオウは……」


 そう言って首をガックシ下げてため息を漏らすシクラ。何だよその反応は。もの凄くバカにされた気がする。そもそもプログラムを理解できる奴なんて早々いないっつうの。そんな能力をただの男子高校生のである僕に求めるなよ。


「自分の無知を私に押しつけて、他人を疑うなんてあんまりだよね☆」
「うぐっ……」


 グサッと胸に刺さる様な事を言うじゃないか。だけど同じ知識を共有してるわけないじゃん。それにプログラムを理解できないのが無知かと言うとそうじゃないよね。そんんな専門知識で無知言われてもどうしようもない。
 でもそう言うと、どうせ屁理屈をこねるのがシクラだ。良いからかいのネタが出来たとか思うに決まってる。ここは不本意だけど、乗るしかないか。


「わかったよ。今回だけ……今回だけだからな!」
「貸し二つ目ね☆」


 くっそ~~この野郎、このつもりでここまで出向いたんじゃ無いのかとか思えてきた。これからの為の布石だろ完全に。
 まあ貸しとかぶっちぎれば良いだけ……今に見てろこの野郎。てな訳でもう一度画面の中で飲みつぶれてるNPCをタップした。


『んあ? そう言えばそろそろ行かないと……へっへ、俺達もただ黙って失踪から帰って来るのを待つわけにはいかねえよ。一人がダメなら集団だ。
 あんたもくるかい? 俺達被害者の会へ。国の連中へ一斉に抗議しようぜ。リーダーは「バカラ」って若造なんだが、これがなかなか頭が切れるヤツでよ。
 紹介しといてやるぜ』


 会話はそこで終了。被害者の会ね。まあ一人でやるよりは効果は期待できるかもね。それに人名も名指しで出てきたし、ようはこいつが次のNPCって事ね。


「誰よバカラって、てか最初の研究所員は引っかけじゃないこれじゃあ」
「はは、まあそう言うなよ。ゲームなんだし、引っかけくらい有るだろ」


 まあ僕も引っかけじゃねーか! って心で叫んだけどな。危ない危ない。また無駄に歩かされる所だったよ。
 良かった良かった……けど、画面の隅でシクラがしたり顔で威張ってるのはムカつくね。まあ今は何も言わないでやるけど。


「よし、じゃあ早速そのバカラって人を捜すわよ」
「おおーー!!」


 僕達はそのバカラってNPCを探すために、用も無くなったドンキ――もとい酒場を後にしようとする。てかよくよく考えたら、場所くらい教えろよ。そんな事を思ってると、雑多な商品が酒に変わってる画面の下の方に文字が現れた。


『ちょっと待ちな、そこのダンナ』


 随分格好良い呼び止めの言葉。思わずダンディーな声が聞こえた気がした。僕は振り返ってレジの方へスマホを向ける。すると店員がイヤ~な目つきで見てくる。
 いや、分かるよ。ホントウンザリしてるんだろう。だけどゴメン。これは外せない。だってこんな事今まで無かった。
 NPCから話しかけて来るなんて異常事態……って程でも無いけど、重要なのは分かる。僕は店員――じゃなくマスターをタップする。


『ダンナはその人がどこに居るか知りゃしないでしょう? 昨日もここの来たんですが、何やら少し危険な事をしようとしてる様でした。出来る事なら止めてやってくれませんか?
 そこで倒れてる人も、仲間内もちょっと過激に成りすぎて来てるんで、止める奴が居ないんです。赤の他人でしょうけど、一個頼まれてくれませんか? 物で釣るとかじゃないですが、これを』


 そう言って渡されたのは流行アイテムの中の一つ。完全に物で釣ってる。まあありがたいけどね。それにどうせそのバカラさんにはどの道会わないとだし……止めるかどうかは別として。
 てか、そんな事出来る訳ないよね。話聞くしか僕達は出来ないし。シクラが縄でふんじばるとかしたら話は別だけど……けどそんな事したら、そっちがイレギュラーだしね。
 まあ話を聞くだけで良いんだろう。


『バカラさんは第二研究所に行くと言ってました。頼みます』


 格好良いマスターが綺麗なお辞儀をしてる中、僕は背を向けてドンキ――いや酒場――もうどっちでも良いか。とにかく外に出た。空からの熱と、一日中この熱気を吸い込んだアスファルトの熱気でちょっとだけ風景がボヤケて見えた。


「うっわ……ヤバいだろこれ」
「今年の最高温度に達してるっ……ホントここの所毎日最高気温更新してるわよ。ちょっとは自重しなさいよ太陽」


 もう今日何度目かも分からない文句を太陽に言いつつ、僕達は第二研究所を目指す。てか、ホントいつまでこの暑さをキープし続けるつもりやら……太陽ここ何年か頑張り過ぎ。
 そろそろ秋の足音が聞こえだしても良いんじゃないか? 何年も前から言われてるけどさ、これが温暖化って奴だね。ドンキから出た僕達は第二研究所の場所を地図で確認。どうやら近くの小学校の側らしいな。中央通りを向かいに渡り、ガチャポン会館とかを真っ直ぐ進むとそれは見えてきた。ビルとあんまり変わらない外観……だけどここは教会らしいです。神田キリスト教会――そう書いてある。
 そしてここがブリームスでは国立第二研究所みたいだ。でも実際言うと、この教会の建物だけって訳じゃない。この建物周辺の土地、芳林公園位までは第二研究所みたいだ。
 まあ第四研究所が小汚い建物一棟だった事を考えると、流石は第二だけはあるよ。けど大きさや外観なんて物は実際どうでもいい。問題はバカラなるNPCがどこに居るのかだ。


「何かやる気って言ってたわよね……周辺の様子を伺ってたりするんじゃ無いの?」
「あり得なくもないな。じゃあ一回りするか?」


 僕達はそう言葉を返して、取り合えず第二研究所周辺を探ってみる事に。ここら辺もまだまだ人一杯だよ。まあショップが一杯あるから当然なんだけど……だけどすぐそこに小学校があるって言うのは驚き。
 教育上、問題ないのかな? そんな関係無い子供達を心配してると、スマホからこんな声が聞こえた。


「効率悪い」
「ああ?」


 なんか掲示板に上がっくる作業に再び戻ってた筈のシクラがメンドクサそうな顔してこっちを見てる。なんか「アンタ達それマジ?」とかの目だ。
 何が不満なんだよ。いや、不満は一杯か。だけど適材適所。出てきたからには手伝って貰うのは道理。そんなこんなで働かされてるシクラは続いてこう言った。


「何で二人してデートみたいに散策しないといけないのよ。二人分かれた方が早いじゃない。一人は外、一人は中! 何の為に遠距離通信手段があると思ってるのかな?
 二人ともごく自然に一緒に居すぎ。これはデートじゃないんだぞ☆」
「デートって」


 何ふてくされてるのコイツ? まあ言ってる事はシクラの割に至極ごもっともな指摘だけど……


「デートがどうかしたの――って、言ってるけど、これはそう言うのじゃないわよ! 協力してやってるだけ。変な勘違いしないでよね!」


 僕の呟きが聞こえてたみたいなメカブが突然にそんな事を言い出す始末。勝手に変な妄想するなよな。僕は全然そんな事思ってないての。むしろそんなに生足晒して、パンツを見せたがってる様な格好のメカブが、この程度で狼狽してるのが驚きだ。
 まあ格好の奇抜さに相反する様に、顔には黒縁眼鏡だからな……大胆な子なのか、そうじゃないのか分かりづらい。でもこの奇抜な格好の中にある、一点の真面目さ……堅さみたいな物が見えるのもなかなかおつに入ってて良いのかも。
 こういう奴がそのうち、ファッションリーダーとか言われるかもしれないよな。僕はプンプンしながら先に進み出したメカブの背中を見てた。
 黒い髪を押さえつけてるピンが、歩く度に日光を受けてピカピカしてる。


「ど、どうしたのよ? 不本意だけど今は一緒に歩くことを許してやってるんだから早く来なさい。でもこれはあくまでイベントの為であって――」


 なんかグチュグチュと言ってるみたいだけど、ここで僕は切り出した。


「なあ、ここは二手に分かれて探さないか? そんな天の声が聞こえたんだ」


 取り合えず痛い事を言っておけばメカブの食い付きが良くなるという算段で、天の声を入れてみました。


「天の声――ヘヴンズボイスを聞き取れるの? 流石スオウね。まあそっちの方が効率的だし良いわよ」


 思惑通りにあっさりOKしてくれた。てか、ヘヴンズボイスって……いや、別に意味はないだろうから特に何も言うまい。
 まあだけど、二手ね。二手……問題はどっちがどっちを探すかだよね。実際こうする事が効率的なのは最初から分かってたさ。だけどぶっちゃけ言うと、一人で教会とか入りづらいから、この流れでいいか~みたいな感じだった訳だよ。
 そしてどうやら、教会に一人で入りづらいと思ってたのは僕だけじゃなかった様だ。


「じゃあスオウは中の方頼むわね。私はしょうがないけど、このくそ暑い中周りを回ってみるわ」


 メカブの奴、妙に「しょうがない」を強調して言いやがった。恩着せがましいな……ただ単に教会が自分の鬼門みたいな物だからだろ。
 その格好じゃやっぱアレだもんな。まあそんな自覚があった事がちょっと驚きなんだけど……こっちだって教会に入りづらいのは一緒な訳でだからここはもうちょっと意見交換を……


「って、もういねえ!!」


 僕が心の中で色々考えてる間に消えやがった。逃げたなアイツ。いや、まさか食べられた? 通路に?


「アホな事考えてないでさっさと中に入ろうよ☆ 大丈夫あの痛い子よりはマシだから」
「むむむ……」


 何故か考えてた事が筒抜け何だけど……そんなに分かりやすい顔してるのかな? それにメカブよりマシって、あんな人目をはばからない奴と一緒にしてほしくない。僕はちゃんと周りにだって気を使える子なのだ。まあそんあ事コイツに言ったって意味ない事だけど……もうメカブの奴は逃げたし、言いだした僕が行かない訳には行かない。
 なのでいやいやながら、教会の扉をくぐることに。なんだか背筋が思わず伸びてしまう。そんな感じだよ。外の喧噪とは一線を引いて存在してるって言うか……静寂がここにはあった。
 やっぱりイベント参加者の人達もここには入りづらいのだろうか? 人の姿がないな。入った先がいきなり礼拝堂……って訳じゃない様だけど、流石にここではギャーギャー騒げないよな。
 ここでアニメのキャラみたいな奇抜な修道服に身を包んだシスターが出てきてくれたら、一気に緊張もとけるんだけど……なかなか歴史が深いらしいこの教会ではあり得ないか。
 そこら辺は流石に自重してるだろう。いくらアキバといってもね。ちなみに歴史が深いとかの知識はシクラに教えて貰った。いや、コイツ単体でネットに接続出来るらしいから、情報取り放題らしい。
 羨ましい頭をしてやがる。光が射し込むロビーで、僕はスマホを翳してヒソヒソしてた。端から見ると怪しさ抜群だ。てかなんだかスマホ使うのもはばかれてしまう様な雰囲気。
 これが神の御前って奴か。


「御前はもっと奥でしょ。礼拝堂位まで行かなきゃね☆ ま、こっちはありがたみなんてこれっぽっちも無いけど」
「だろうな」


 だってそっちは研究所じゃん。てかこれって嫌みか何かか? 神に対するさ。教会に重なる様に研究所っておかしいだろ。まあこの建物だけって訳じゃないから、たまたま入ったとか? いや、アキバには建物なんて幾らでもあるし、やっぱり狙ってるだろこれ。
 神がなんぼのもんじゃ! とか言ってるよきっと。さてどうするかな。取り合えず画面内には数人のNPCが見えるけど、そこにはバカラなる名前の奴はいない。ここのNPCは研究者っぽくみんな白衣着てる。
 でもバカラは研究者じゃないから着てない筈だよな。それを目印に出来れば良いんだけど……そう思いながらスマホを翳したまま中をクルッと見回してみる。
 だけどやっぱりここには……そう思ったとき、ヌオッてな感じで黒い陰が画面一杯に入ってきた。なんだなんだ? また電源が落ちたのか? そう疑ったけど、よく見ると黒くなった画面の中にシクラが見て取れる。って事は、これはリアルであらぬ物がカメラ前に立ってるって事……


「礼拝希望でしょうか?」


 野太い声が頭上付近から聞こえた。僕はスマホから顔を上げて、視線を上へ。黒い服は修道服……だよね? それは分かるんだけど……なんかデカくね?
 それにやけに体が太い様な……丸っこいじゃなくガッチシな感じでね。男? でも修道服は女物……の筈。けどこの目の前にいらっしゃる神の使いというより、神の守護者の方がしっくりきちゃう程の体格はまさしく男。
 それに現代っ子の僕なんかよりも――というか、そこら辺の大人より鍛え上げられた体は女とは思えない。けどさけどさ、髪長いし、よく見ると胸あるし、やっぱり女性? あれ? 性別ってなんだっけ? 頭が混乱してきたぞ。


「礼拝希望ではなければ懺悔ですか? 何か大きな悩みを抱えてそうに見えますが? 私でよければその懺悔を受けましょう」
「え……ええと……」


 まさに今大きな悩みに頭がパンパンだよ。目の前の貴方のせいで! 僕の中の女性像が崩れそう。えっと……野太い声してるけどなんか女性らしさはやっぱりある。女と認めた方がいいのかな?
 なんか下手なこと言ったらこの筋骨隆々な腕で成敗されそうだから言葉がでない。でもあんまり沈黙を続ける訳にも……何か……何かこの空気を和ませる話題は無いのか? 僕は心の隅で死を覚悟しながら、視線を上下左右全てに這わせ。するとその時、シクラが「あれはどう?」といってシスターが抱える本を指す。なるほど、よし、それでいこう!


「あ、あの、その分厚い本は筋トレ用ですか?」
「聖書ですが何か?」


 僕の人生が終わる音が聞こえたよ。

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