命改変プログラム

ファーストなサイコロ

宣戦布告



 携帯を翳しながら、僕の横を通り過ぎて行ったチンピラ二人。そいつ等は二人で入念にこの通路を調べてる。


(気づかないでくれよ)
 僕はそんな事を祈りながら、奴らの動きを注視してた。人がこない通路……別に裏路地ってわけでもない、この場所で、今この事に気づいてるのは僕とメカブだけ。
 コイツ等にその存在を悟られる訳にはいかないよ。


「ゲンさん、やっぱりここも何もないみたいです!」
「……」
「ゲンさん?」


 ゲンさん呼ばれるハゲの人は、返事をしない。それに疑問を持ったチンピラ二人が顔を見合わせて、困ったような感じになってる。
 てか、ないって言ってんだから、さっさと諦めてくれれば良い物を……なんでさっきからずっと僕を見てる。するとそんなハゲがようやく口を開く。


「お前……なんだか焦ってないか? 今も周りを調べだしたあいつ等を見てたし……」
「なんの事だよ?」


 うっわ、怪しまれてるし。どうしようか、このままここにとどまり続けたら、コイツも怪しんでここに止まり続けるかもしれない。
 ここは一端引いて、何もない事を気にしてないアピールをして、コイツ等が諦めて帰った所で戻ってくる戦法が有効かな。
 まあでもリスクもあるけどね。このままコイツ等が気付かないままで居てくれるかどうか。まあ基本、携帯の画面はそれほど大きくないし、視野もそれに対して狭くなってるから、そうそう見つからないとは思うけど……これは賭だな。
 僕は一度暑っ苦しい息を吸って吐いて、そして爽やかな顔を作ってこう言った。


「まっせいぜい頑張ればいいさ。無駄な場所で無駄な努力をさ。僕たちはその間にも、レア度の高いアイテムへ近づく事にするよ。行こうぜメカブ!」


 僕はそう言ってメカブの方へ歩き出す。背中にはまだ視線を感じるけど、ここでふと宝箱の位置を確認するように見上げるなんてやってはいけない事だ。
 人は自分達の目線より上は注意が散漫になるらしいから、見つける確率も減るだろうけど、今ここで僕が何となくそうすることで、奴らの頭に「上」と言う選択肢を与える事になるかもしれない。
 それは不味いから、僕は颯爽とメカブの元まで歩く。


「ちょ? えっ? いいの? 無限の蔵?」
「余計な事は喋るな。取り合えず今は一端離れて、奴らを諦めさせる。目的の物はそれからだ」
「……わ、わかった」


 納得してくれたメカブと共に、僕たちはこの道路から離れる事に。人混みに紛れてこの通路が見える所に居れば問題ない筈だ。


「やっぱり何もないですよゲンさん」
「俺達も別の所を探した方が……」


 離れる時に、そんな声が聞こえた。しめしめだ。このままどっかに行ってくれれば……とか思ってると、ハゲの奴の携帯の音が鳴るのが聞こえた。


「ちょっと待て」


 そんな言葉が聞こえたとき、なんだかちょっと気になった僕は足を止めてそちら側を覗いてた。すると最悪の情報がそのメールからもたらされたようだったよ。


「上……」


 そんな言葉が僅かに聞こえた思ったら、もう片方に持ってる携帯を上に翳した。その瞬間不味いって僕は思ったよ。
 そして遂に予想は最悪の展開へ。ハゲの声が大きく響く。


「上だテメェ等!!」
「上?」


 その瞬間僕は走り出した。後ろから「無限の蔵!」って声が聞こえたけど、こうなったらもう悠長な事はやってられない。


「あんな所に……」


 モヒカンが携帯を上に翳してとうとう宝箱を発見してしまったみたいだ。


「けどどうやってあんな場所の――って、うわ!!」


 金髪が猛スピードで突っ込んで来る僕に気付いて驚いた。だけどそんな事気にしてられない。僕は丁度良い所に居る、モヒカンめがけて地面を力強く蹴る。


「どうし――ぶっ!?」
「ちょっと背中借りるぞ」


 金髪の驚いた声で振り返ろうとしたモヒカン。僕はその背中を足場にするために踏みつけた。そしてそこから更にもう一ジャンプして宝箱に一気に近寄る。


「もらったああああ!!」


 僕は携帯を翳し、宝箱に手を掛ける。そう手を掛けた筈だった。けれど宝箱は反応しない? 普通なら触れた瞬間にロックは解除されて、中身が出てくる筈……けれど、そんな様子はない。
 僕はあらがえない重力に引っ張られて地面へと着地する。三メートル位は跳んだからなかなかの衝撃が膝を襲った。
 やばいやばい、マジで疲労骨折しちゃうよ。


「いっつぅぅぅ。くっ、確かに触れたのに何で開かないんだよ……」


 このチャンスはきっと一度きりだぞ。もう奴らの背中使えそうもないじゃないか。


「おいテメェ、何人様の背中を無断で利用しちゃってんだオラァ」


 なんかこんな感じで大変ご立腹してるみたいだもん。


「ははは、丁度良い感じで足場に出来そうだったからさ……つい」
「ついじゃねぇ! テメェはホントに俺らの事を舐めきってんな! マジで締めるぞコラァ!!」


 たく、何もそこまで切れなくてもいいのに。ちゃんと背中を借りるときだって声を掛けてやったじゃないか。それなのにこんなに切れるなんて……ホント心が狭い奴らだ。
 背中の一つや二つくらい、快く貸してみろよ。どうせ他には役になんてたたないんだし。


「ああもう、めんどいな。今はお前の相手をしてるほどこっちは暇じゃないんだよ。結局役に立たなかったんだから安心しろよ役立たず」
「て……テメェは……マジで殺してぇぞ……」


 僕の言葉を受けて、額に青筋を浮かべながら拳を握りしめるモヒカン君。体もなんだかワナワナ震えてる。だけどそこでハゲの人が僕の言葉を否定する様にこう言ったよ。


「安心しな。お前は役立たずなんかじゃねーぞ。お前が背中を使われた事でわかった事もある」
「げ……ゲンさん、それは本当ですか?」


 震えが止まったモヒカンに、ハゲの人は自信有り気に言葉を紡ぐ。


「ああ、本当だ。それに悔しがる事もあるめぇよ。まだアレはどっちかの物になった訳でもなければ、入手方もわかっちゃいない。
 一足早くと思ったんだろうが、残念だったな」


 そう言って僕を見てニヤリとほくそ笑むハゲ。ちっ、やっぱこいつはマトモだな。まあ少なくともバカではない。厄介だよ。
 そしてハゲは勝ち誇った様な感じで更に続けてこういう。


「お前さん等はここで引いた方がいいんじゃねぇかな? 言っとくが、さっきの先制でアイテムが取れなかったんじゃお前さん等に勝ち目はねぇぞ。
 俺達は数十人の団体だ。頭数が違うのよ」


 数十人の団体だと。じゃあこいつらが乱獲野郎共か? 確かに頭数が違うのは情報とかに差が出る事。さっきの一発でアイテムゲット出来なかったのは痛い。
 不意打ちはもう通用しないんだからな。数十人対二じゃね……そう思ってると、メカブが後ろにようやく来た。


「もう、やっぱりバレちゃったじゃない」
「そんな事より、なんであの宝箱は開かないんだよ。ちゃんと触れた筈だぞ」


 僕達とハゲ達は双方を権勢しながら、にらみ合ってる。向こうは既に携帯で何かやってるな。あの宝箱の入手方法を数十人の仲間を使って探る気か。


「あの宝箱は特殊だから、それだけ入手方法が固定されてるって事じゃないの? 少なくともどこにでも現れるタイプじゃないんなら、それくらいは予想出来るわよ。そもそもさっきの無限の蔵はチート過ぎ。
 二メートル程度はモヒカン分の身長だとしても、なんであんなに飛べるのよ。まさかその力もゴールデンボールの……」
「違うっての」


 別にゴールデンボールは関係ないさ。てか、そんな力ない。このゴールデンボールは男の夢と希望しか詰まってないんだよ。


「じゃあやっぱりちゃんとした手順を踏みなさいって事よね。そもそも入手方法がジャンプして届かせろなんて無理なのよ」
「まあ確かに、入手方法は必ずあるはずだもんな」


 それを無視して手に入れる事は出来ない……そう言う事だろう。けどそうなると、ますますこっちは不利に成るんだよね。僕は一応こんな事をハゲに言ってみたよ。


「おい、あれは僕達が先に見つけたんだ。だから別の所へ行きやがれ」
「それは出来ない相談だな。それにこれは戦争だ。イベントと言うなの戦争。見つけた奴が勝者じゃない。手にした物が勝者なんだよ。
 そもそもそんなイベントだろ? その言葉はお門違いだ」
「ぬぬ……」


 まあそう返されるのはわかってた事だけどな。手にした奴が勝者……僕だって目の前にアイテムがあるなら諦めないだろうし、それを否定は出来ないよな。
 けどズルいじゃんそっちは。何十人と二人なんて……


「不満そうな顔だな。が、俺たちは真剣なんだよ。お前達もこのイベントに勝ちに来てるんなら、それなりの人数を用意しておくべきだった。それだけの事だ。
 俺たちの他にも居るぞ、チームを組んでやってる奴らはな」


 やっぱりそう言う奴らはこいつらだけじゃないのか。勝ちに来てる奴らね……きっとそいつ等と僕達の考えは違うんだ。意識の違いでもある。
 お遊びとそっち側からしたら思うだろうけど、こっちはやりすぎと思うんだよ。まあ実際、無理にレア度の高いアイテムを狙う必要なんてそもそも僕には無いわけだけど……(役に立つかな~)位の気持ちだった訳だし。
 けどどうせ狙うなら、それなりの物が欲しいじゃん。役に立つかもしれない確率だって、そっちの方が高いかもしれないしさ。
 この今の感じじゃ、この真剣の度合いの違う奴らしか、レアアイテムは取れない感じだけど、それって反抗したくなることだ。
 既にアイテム一個を手放したしな。ここで諦めたらそれも無駄になるんだよ。普通に考えたら真剣にやってる奴ほど、良い物を手に入れるのは普通で当然だけど……こいつらはなんか違う。
 ただ純粋に楽しいから真剣にしてるって感じじゃない。そもそもヤクザとチンピラだし……真剣ね。その裏に何があることやらだよ。


「あんたらの真剣は何か違う気がする。僕達は純粋に興味あるからやってんだ。アンタ達みたいな人種がそもそも何で数十人単位で参加してレアアイテムを狙ってんだよ?」


 僕がそうハゲに向かって言うと、案外近くから答えは返ってきたよ。


「どうせ金でしょ? レアアイテムは高値で取引されてるわ。それこそビックリするくらいの金額でオークションに掛けられてたりする。
 LROは取り分け入手困難で肉体労働的でもあるから、金が余りあるほどの娯楽家は、はぶりよく金を積んで金で買った武器や防具で身を固めるのよ」


 そう教えてくれたのはメカブ。なるほどね。それもLROの闇の部分なんだろうか? まあ、小さい物とか友達の間で位なら良いんだろうけど、売ることを目的に取るアイテムってどうなんだろう?
 てかそもそもそれって儲かるのかな? 僕には想像出来ないんだけど……


「ゲームの中でしか使えない武器にどれだけ出す奴が居るわけ? 僕にはわからないんだけど……」


 僕は今度はメカブに言ったつもりだったけど、なんかハゲが答えてくれたよ。


「そこの彼女も言っただろう。文字通りビックリする位の額だ。金はあるところにはあるんだよ」
「ようはそれを商売に出来る程度に儲かせてるって事か?」


 でもリアルで白い粉を売る利益には勝てないと思うんだけど。まあでも、全てのヤクザがそんな物を売買してるって訳じゃないのかな? ヤクザは大抵白い粉を売買してるってのは僕の勝手な偏見か。
 でも他に何やってんの? って感じでもあるんだよね。銃の密輸とか? 闇金とか? どれもこれも無駄に儲かりそうじゃないか。
 そんなのよりもLROでのアイテム売買が儲かると? それはないだろ。だってLROで勇者になっても、リアルにそれが反映される訳じゃない。どこまで行ったって、LROの中の栄光はLROの中だけの物だ。けどハゲは、僕のそんな考えを否定することを言う。


「ああ、まあな。LROは世界になってる。誰もが一度は夢見た異世界。そこで自分が冒険出来るのなら、大枚をはたく奴は予想以上に居るんだよ。それに用はなんだってやりようってこった。だからこのイベントでのアイテムも譲れねぇ。限定品が高く売れるのは、リアルもゲームも同じだからな」


 確かに限定品って言葉に日本人は弱いよね。自分が好きなものなら限定品が欲しく成るじゃないか。初回限定版とかね。


「まあお前達にだって、金を払えば売ってやるぞ。家は客は選ばない。金さえ落としてくれればな。だからここで勝ち目のない戦いをするよりも、金の工面でもしてた方がいいと思うがな」


 ハゲは再びタバコに火を付けながらそう言う。ここでタバコを吸うなんて……余裕の現れか? 自分達がたった二人……いや正確には秋徒と愛さん入れての四人程度に遅れを取る訳がないって自信の現れだろう。
 でも思うけど……替えのサングラスはないのかな? さっきの騒ぎでサングラスは実際曲がったりしてるからさ、ハゲの瞳が見えてるんだよね。
 その容姿にあって無さ過ぎるつぶらな瞳がさ……まあ気にしなければ良いんだけど……それがなかなかハードル高いと言うか。
 本人は全く気にしてないみたいだけど、こっちはまだその衝撃になれてないんだ。油断したら笑いがこみ上げてきそうに成るから、いつも異常に顔の真剣さを二割り増しで作ってる。
 てか、目の前にあるアイテムの金の工面って……


「どうせバカみたいな金を取るんだろ?」
「家は良心的な価格で販売はしてるぞ。超高額になるのはそれだけレア度の高い奴だ。リアルオークションはウハウハなんだぞ」


 ハゲが上機嫌に煙を空へと吹かす。煙が上る空中にある宝箱……あれの中身をわざわざ買う? そんな選択肢はないだろう。別に必要かどうかなんてわからないし、そもそもまだ奴らの物にアレが成るとも、僕達が手に出来ないとも決まった訳じゃない。
 数の差は確かに痛いけど、だからって諦める理由にはならないよ。時間が許す限り、誰でも手にする権利はあるんだからな。


「さてと、いつまでもここでにらみ合いをしててもしょうがないだろうな。諦めないのなら、競争と行こうじゃねーか。まあ結果は見えてるも同じだが」


 僕はハゲの言葉に少し眉をつり上げる。結果が見えてる? 今から見えてる物は結果なんて言わないんだよ。結果ってのは絶対に後から出る物だろ。
 今の段階ではどんなに良い未来が考えれたとしても、それは予想でしかないんだよ。そして予想に百パーセントなんかない。だから僕は目の前のハゲとモヒカンと金髪にこう返してやる。


「結果なんて知らないけど、僕は途中で諦める様な事はしない。そう決めてる」
「なら、正々堂々といこうじゃねーか。俺たち『ドグレインファミリー』が相手になろう!!」


 そう言ってハゲが吸いかけのタバコを指で空中に弾いた。回る赤い炎。そしてそれは地面に落ちて僕の足下まで転がった。
 タバコの独特の臭いが鼻につく。僕はそのタバコを踏み潰して、こう言った。


「上等だ!」






 さて、宣戦布告をしてあの場所から取り合えず少し離れた訳だけど……どうしたものか? こうやってる間にも、向こうはどんどん情報集めて、そして人海戦術を使ってるんだろうな。


「なあメカブ、何か考えないか?」
「え? あ……そうね……」
「??」


 なんかさっきからメカブはあんまり僕の言葉に反応しない。何かを考えてるみたいに右から左に受け流されてる。しかもなんだかちょっと怖い顔をして考え込んでるから、気になる所だよ。


「おい、何そんなに考えてるんだ? 勿論イベントの事だよな? ほら、ここはご自慢の天寿眼でやれる事はないのか?」


 僕はちょっと気を使って、自分から痛い言葉のキーワードを入れてみたんだけど……


「はあ? 天寿? その設定も飽きたかも」
「ええええええええうぇええええええええええ!」


 言っちゃいけない事を言ったよな今! なんてこっただよ! どうしちゃったんだメカブの奴!


「お……おい! 本当に大丈夫かお前? 何をそんなに考えてるんだよ?」


 僕はマジで心配になったから、メカブの肩を掴んでそういった。するとメカブは大きく溜息を吐いて、僕をうざったそうに見上げて来た。


「無限の蔵……」
「ん? ってかやっぱりその設定は持ち越して行くのかよ」


 さっき飽きたとか言わなかったっけ?


「うるさいわね。なんかバカにしてるようで良いじゃない」
「バカにしてたのかよ!」


 こっちは善意でメカブの電波に付き合ってたのに、バカにされてたってどういう事だよ。超ショックだよ!


「うるさいわね無限の蔵。それよりも今はイベントの事。引いてはあいつ等の事よ」


 あいつ等ってのはきっとハゲ達だろうね。


「あいつ等が何だよ? まあ確かに数の差は問題だけど……」
「あんたはその無限の要領に何を詰めてるのよ。あのハゲ、自分達を『ドグレインファミリー』って名乗ったわ」


 そう言えばそうだったね。まあ名前ぐらいあるだろうと思うけど。何々組、や何々一家ってのはヤクザじゃよくある事だろう。
 それをLROで横文字にしてみたんじゃね? ドグレインはわかんないけど、ファミリーってそう言う事だろう。


「ドグレインファミリーってLROじゃそこそこ有名な犯罪ギルドよ。主な活動はまああいつ等が言ったとおりアイテムの転売ね。
 組織だっていろんなアイテムを集めてるのよ。需要がある奴とかレアな奴とかね。しかもそのやり方がえげつない事で有名よ。
 極端な話で言えば、奴らはPKでアイテムを奪ってるっても聞くわ」
「あいつ等が……」


 なんだかそこまでには見えなかったけど……それはリアルだからって事だろうか? リアルで人を殴れば傷害罪とか暴行罪とかの犯罪に成るからな。言っちゃえばリスクがでかい。
 でもLROならPKプレイヤーキラーがどこでも出来るからな。それに別にそれを咎める事も出来ないし。でもだからってそれが思い悩む理由に成るかな?


「悪名高いのはわかったけど、何で不味そうな顔してんだ? ビビったとか?」
「違うわよ。まあ確かに犯罪ギルドがリアルでも犯罪者集団だったのは驚きだけど、だからってビビったりしないわ。寧ろ逆ね」
「逆?」


 僕が頭に疑問符を浮かべてると、メカブは拳を目の前で握りしめてこう言った。


「あんな奴らの資金源を与える事はないってことよ。ああいう地の底から沸き上がって来るような奴らは、私のこの天寿の毒にしか成らないもの」


 ようは見たくもない奴らだからみすみすアイテムを渡してたまるかって事らしい。てかやっぱ天寿の設定続けてるし。さもあの発言が無かった風に。まあ別に良いけど。


「ふ~ん、じゃあその偉大な天寿眼で活路を見いだしてくれたら嬉しいんだけど」


 そう言うと、メカブの鋭い視線がメガネ越しでもわかったよ。そしてズイッと近寄って来て、指で額をコンコンつつかれた。
「あんたのここには何が詰まってんのよ? 少しはそのオツムで考えなさい。天寿眼は安売りしてないのよ」
「あーはいはい、そうかよ。別に期待なんかしてないけどな」


 どうせ設定だしね。妄想ともいえる。機嫌をとってやってたのに、こっちの気分を害するんなら、もういいさ。


「い、いっとくけどこんな事で天寿を利用すると、幾重にもある未来へのカタストロフィーが崩れちゃうから……」


 なんだか僕の言葉が急に冷たくなったからか、後付けの理由で天寿眼を使用出来ない説明に入ったメカブ。だからごめんと言いたいのかな? 面倒くさい。


「わかったよ。天寿眼は切り札だもんな。それに頼るのはいけないってこったろ。じゃあ考えよう、二人でさ。何かないか? 気になること」


 僕はフォローを入れて、本題へと入る。どうすればあのハゲ達よりも早くアイテムを手にする事が出来るか……それが問題だ。


「気になる事ね。結局あのNPCが言ってた『人が食われる』とかは何だったのって位かな。私たち別に食われてないし……」


 そう言えばそんな事を言ってたな。でもそもそもここはリアルなんだからね。データがリアルの人間を食うなんて不可能だろう。取り合えず――


「あのハゲ達を付けて情報を盗むってのはどうだろう?」

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