命改変プログラム

ファーストなサイコロ

庭違い畑違い



 目の前に……というか、画面の向こうに現れた異物に、僕はどう反応して良いのかわからずに固まった。暑さもある意味この一瞬だけ飛んでいったし、この都会のどこにいるの? 的な蝉の鳴き声さえ奴の声の前にどこかへ去った……様な気がした。


「あれ~? お~い。反応薄いぞ☆ トゥットゥル~~の方がこの時期的に掴みとしては良かったかな?」


 画面の中の見たくない奴がなんか言ってるけど、僕の脳はこれがアリかナシかを必死に論争してた。
 いやいや、だってシクラだよ。ある意味、最大級の敵で色々と僕達は因縁というかそんな敵同士の思いがあるじゃないか。
 それなのになんだってこんな明るく現れるのこいつ? 僕がそんな事を考えてる間に、画面のシクラは「コホン」と喉の調子を整える。
 そして改めて言い直す様に――


「トゥットゥ――」
「許されるかぁぁぁあああああ!」


 僕は思わず電源を落とした。画面は真っ暗になって、そこに悪魔の様な女は消えた。言っておくけど、別に許されるかってのは、ここにこうやってこいつが現れた事ね。別に「トゥットゥル~」事態は、お金を取ってる訳じゃないから許されると思う。
 まあ、でも流石に焦ったけどね。なんであんな楽天的な顔で現れたんだあの野郎? 敵なんだからもっと気まずくしておけよ。


「ふう……」
「ちょっと酷いじゃないスオウ。こんな所まで出向いてやったってのに、この扱いは不本意なんですけどー☆」
「うお!? 何で復活してんだよ!」


 確かに電源切った筈なのに……シクラの奴は何気ない風に言葉を発して来やがった。流石規格外の存在……まさか自分で電源を入れ直すとは……なんて恐ろしい奴だ。


「それはほれ~~、シクラちゃんって特別じゃん☆ 最高じゃん☆ ジャンジャンステーキ大好きじゃん☆ て、言うことじゃんよ☆」
「じゃんじゃんじゃんじゃん、うるせえよウザったい。もう一度電源落としてやろうか」


 絶対途中からは「じゃん」が気に入っただけだろ。しかもジャンジャンステーキって何だよ。無理矢理だろそれ。じゃんじゃん言うキャラなんていいんだよ。いらないの。
 それは大人気ライトノベルのナイスボディだけど色気がない先生が担当してるよ。てか、普通に「じゃんじゃん」聞いてるとイラッとくる。
 まあこいつが言ってるからなのかも知れないけどさ。


「ふっふ、電源を落とすなんて行為、シクラちゃんには無駄な抵抗だね☆ それは今し方証明したはずだけど?」
「うるせぇよ。お前がそこに居る以上、何回だって落としてやる」


 そもそも、今僕に出来る対抗策がそれしかない。僕とシクラは今は、画面の中と外に存在してる訳だからね。でもリアルに居るのにこいつの顔を見ることになるとは……予想外過ぎる。


「あ~あ、そんな事したら困るのはスオウでもあるよ。ここは大らかな気持ちで私を受け止めて欲しいかも☆ 美少女が画面の中から話しかけて来てくれてるんだよ?
 世の男子の夢みたいな物でしょ?」


 何真顔で言ってんのこいつ。しかも最初の一文で僕が電源ボタンから手を離した事を知ってるこいつは、完全に計算して言ってやがるのが更にムカつく。
 こいつの言葉は、言ってしまえば何一つ信用できない。てか出来るはず無い。だってアルテミナスをあんなにしたのは……そしてアギトとアイリ、ガイエンの三人の関係を引っかき回した裏にだってこいつが居たはずだ。
 シクラの奴が出てきたら、ろくな事は無いだろきっと。


「言っておくけどな、お前じゃ悪夢にしかならないんだよ!」
「ああ~~酷~~~い☆」


 折角ビシッと言ってやったのに、シクラの奴は無駄にテンション高めだった。別に全然堪えてないな……てか、普通に会話で遊んでるだけだこいつ。 


「それにスオウイタ~~イ」
「は? 痛いって何が……」


 訳の分からない事を唐突に言う奴だ……とか思ったけど、なんだか視線が痛い事に僕は気付いた。周囲の人たち……通りすがりの人達の視線がなんか僕に刺さってる。確かに傍目には携帯と会話してる痛い奴だったのかも……


「くっ……」


 僕は逃げるように路地の奥へ。影になってる路地の入った所で携帯にむかってガヤガヤ言ってるから目立ったんだ。もっと奥に行く事に。なんで僕がこんな恥ずかしい思いを……ここがアキバじゃなかったら、通報されててもおかしくは無かったかも知れない。
 アキバには路上にメイドさんとかが客引きやってたりするし、普通に強靱な精神を携えてた人達が一杯だからね。でもその一種に見られてたかと思うと、なんか泣けてくる。


「あはは☆ ね、痛かったでしょ?」
「誰のせいだよ!! なんか可愛そうな目をしてる人と、同類だねって目をしてる奴らがいたわ!」


 どっちの目にもゾッとしたよ。ある意味痛い人達が集まった様な街だけど、そこに自分までもが同じ目で見られるなんて……なんかこう、ただの変な人を見る目とは違う何かがあるんだよね。
 オタクを周りに公言してる奴らはスゲーな。あんな目と日々戦ってると思うと、素直に驚嘆出来る。僕は路地の奥の青いポリバケツがある所に身を隠す。ここなら通りの方からは見えないだろう。


「はぁはぁ……所で、何でお前が僕の携帯を侵略してんだよ? どういう理屈でここに居るのか言ってみろ」
 僕は携帯画面の中の女に向かって目を細めてそう言った。
「う~ん、理屈ね。簡単に言うと、ここもLROの延長だから――かな☆ まあ情報量的にはここは重すぎるけどね。私が存在するには」
「じゃあとっとと出てけよ。迷惑だろうが」


 ホント、よくよく考えたら絶対にこいつがここに居たら不味いと思う。そりゃあ、大容量の通信してるとは思うけど、でもそれってあくまで携帯機器でって話だからね。
 LRO自体と比べてしまったらべくもないよ絶対に。こいつのメモリは絶対にデカい。だって心って奴を宿してるAIだよ。
 こんな携帯端末では受け入れるのは大変だろ。それに今はただでさえ、大容量の通信を行ってるってのにさ……今度はこっちのサービスに深刻な問題を起こす気か?
 実はLROのダウンもこいつの仕業なんじゃないかと疑いたくなるな。出来そうだし。


「なによその言い方。幾ら私だってちょっと傷つくかも。それにちょっと重いけど、私一人位はまだいけるから大丈夫☆
 LROの技術を使った通信なんだからその位当然でしょ。なので出ていかないもん。絶対にね」


 なんなのコイツ? なんでこんな風な会話をシクラの奴としなきゃいけないんだ? すっげー複雑なんだけど……


「ウッザ」


 僕はボソッとそう紡いだ。ただでさえ、この暑さが拷問の様なのに、なんで今度は精神の方にダメージを与えそうな奴が出てきてんの? どっかの誰かの嫌がらせか?
 けど、電源を落としても意味はなくて、これじゃ手出しだって出来ない。まあLROで出会ったら、こんな会話が出来るとも思わないんだけど……


「諦めて諦めて☆ 今日は私ここに居るから。それにきっと役に立つと思うな~。なので休戦しましょうよ。
 過去のいざこざは今は水に流すとしましょう」
「あれを水に流せと? 何やったかわかってんのかお前?」


 どんだけの事をやったと思ってるんだ。それを水に流して敵と楽しくアイテム集めって……出来ると思ってんの?
 その無駄に長い髪をショートヘアにしてやろうか。けどそんな僕の言葉に対して、なぜかシクラの方が不満そうにしてこう言った。


「わかってるよ。けどあれって結局はこっちが引いた形だし。寧ろ気さくに話しかけちゃった私のこの心の広さに敬意を払うべきだと思うね☆
 負けたのに、どんな遺恨も表さずにスオウと接してる私ってば偉い偉い」
「はっ、負けたなんて微塵も思ってない癖に良く言うな。流石は良く回る舌だ。これから三枚舌のシクラと呼んでやるよ」


 僕は嫌みをたっぷりと込めてそういった。だってそうだろ。確かにシクラたちはあの時引いたけど、向こうには実害なんて殆ど出てない。主要な戦力を削ぎ落とされたのはこっち側なんだよ。
 ガイエンだってそうだし……サクヤだって取られた。こっちには実害以上に、心の傷ってのが植え付けられた。とても手放しで喜べる勝ち方なんかじゃない。
 まあだからってそれが意味ないなんて言わないけどな。あれは全員が頑張って得た勝利だ。どれほどボロボロになっても、諦めずに守りきった、得難い勝利。


 負けてた方が良かったなんて思わない。思う訳ない……けど、こいつから負けたとか言われると、そうでもないだろと言っちゃうんだよな。


「三枚舌とか……私ってそんなに嘘っぽいかな☆」
「嘘っぽいって言うか、お前が見せてるそんな顔全部に裏があるんだろ。だから聞いてんだ。何しにきたって」


 僕は真剣な声を出して画面の中のシクラを見据える。だけど相変わらず奴は仮面の笑顔を崩さない。もうそんなのいいだろ? 僕はコイツの本性に触れてるんだしさ。まあどこまで行っても、フザケた様な奴ではあったけどな。


「それはさっきも言わなかったかな? いややっぱり言ってなかったかも知れないから、教えてあげる。私はスオウに協力してあげる為に登場しました!! ハイ拍手☆」


 なんか求められたけど、僕は白い目をもってそれをスルーした。てかなんて言ったよシクラの奴? 協力がどうとか言った? 聞き間違いじゃないだろうか?


「なんか思ってた反応と違うんだけど~~ぶぅ☆」
「どういう反応期待してたんだよ……」


 寧ろこうなる事の方が予想しやすいと思うんだけど。しかもぶぅとか……頬を膨らませてわざわざ言うことか? あざといんだよ。可愛いと思うよりもムカつくっての。


「私的には『まさかそんな! シクラほど頼りになる存在なんていないじゃないか! まさに神光臨!?』だと想像してた」
「お前の中での僕の存在定義が疑われるなそれ……」


 誰がそんな事言うかっての。誰にもそんな事言わないよ。寧ろ敵を神と崇める奴はいないだろ。絶対にこいつ僕の事おちょくってるよ。


「で、協力ってなんだよ。そんな気あるわけお前にはないだろ。本当の事言えよ」
「たく、スオウは疑り深いんだから。女の子の本心を探ろうとするなんて……もういけずだなぁ☆」


 何こいつクネクネ体をクネらせて頬を染めてる訳? 何を狙っての行動だよ。僕のお前を見る目はメッチャ冷たいぞ。


「いいからささっと目的吐け。揺らしまくるぞ」


 僕はそう言って、携帯を上下に振りまくる。すると携帯からは「あわわわ――――!!!」ってな声が聞こえてた。


「ストップストップ! フザケないからそれ止めて!」
「たく、初めからそういいやが――」
「プフゥ、てか実は全然平気でしたぁ☆ だって携帯揺らしたからって、ブリームスが揺れる訳じゃないんですぅ。アハハハ」


 シクラの高笑いに頭がプッツンとなった。コイツに笑われると他の誰よりも数倍上増しでムカつく。理由はわかんないだけど、何故かそうなんだ。
 きっと僕がコイツの事を本当に大嫌いだからだろうな。高笑いしてるシクラを懲らしめたい。だけど電源落としても意味ないし、振っても意味ないし……画面の向こう側の存在にはどうやったって触れられないなら……指をくわえて歯ぎしりするしかないのか?
 ギシギシギシギシ――僕は歯を食い締めながら何とはなしに、指で画面の中のシクラに触れてみた。すると――


「きゃうわ!?」
「ん?」


 別に僕には何の感触も反映されない訳だけど……画面の中のシクラはどうやら僕の指に何かをされた様だ。


「なななななな……どこ触った今?」


 すっごく顔を真っ赤にして画面の向こうから僕を見てるシクラ。よくよく考えたらさ、向こうでは僕がどういう風に見えてるんだろうか? やっぱりウインドウが表示されてるのかだろうか?
 まあどうでも良いことか。取り合えずこの高飛車で人を常におちょくってる奴に反撃出来るのなら、そんな事は粗末な事でしかない。
 真っ赤な顔でこっちを睨むシクラを見てると、なんだかこう、心のどこかから黒い自分が沸いてくるぜ。


「さあな、どこ触ったかなんてこの小さな画面じゃ判断できないなぁ? 感触だって無いし……僕は一体どこを触ってるんだろうなぁ」


 僕は次々に画面の中のシクラをつつきまくる。


「ちょ――やっ……だめ! んっ……あん!」


 うお、なんだかシクラのそんな声を聞いてたら指が止まらなくなってきた。こんなビルとビルの隙間の路地裏で何やってるんだろう僕。だけど……やばい、止められない。
 おかしいなムカつく筈のシクラが今は妙に可愛く見える。てか一体僕はシクラのどこを触ってるんだろう……これほど感触が伝わらない事に憤った事はないかもだよ。くっそ、せめて今はシクラを苛め倒してみよう。
 もっとこう……なんかイヤラシイ感じの声が聞きたい。


「とりゃとりゃ! ん? そう言えばツツくだけも芸が無いよな。こう、指でスクロールするみたいにしたらどうなるんだ?」


 僕は思いついた事を実践するために、画面の中のシクラに指で触れる。その瞬間も「ハァハァ……もう……許して」とか言うから、ちょっと男としては堪らないかも。しかも瞳も潤んでる感じだし……あれ? これってシクラだっけ? みたいだよ。
 さてこの指をシュパッと凪いだらどうなるのだろうか? なんだか指で触れてると、シクラは動けなく成るようで、もう僕の思い通りだね。


(ケヘヘヘ、今までの恨み分存分に遊んでやるぜ)


 とか心で涎を垂らしてる僕。なんか目的を忘れてるような気がするけど、今はそれよりも大事な事が目の前にある!! 男ならここで引くわけには行かないじゃないか!


「だ……め……」


 うおおおおおおおおおおおおおお!! やばいシクラが凄く可愛い。元は良いから、顔を染めて涙を溜めて、熱い吐息を吐きながらそう言うのは反則だろ。
 なんだか綺麗な月光色した髪から、粒子が放出されてるのかと思うほどに可愛い。いや、実際そう見えるけど……


「ふっふははは、今ここで止まれねぇな!」


 僕はそう言って画面に置いていた指を下にスッと凪いだ。すると「あっ」と言うシクラの僅かな反応と共に、シクラの服の胸元が大きく引っ張られたようになった。
 それによって普通よりも大きいだろうそのマシュマロがモロに見えた。なんか谷間が素晴らしかった。


「きゃっ……きゃああああああああああ!! 何々? 何したよ今! ヒドい! 最低!」


 もの凄い罵倒を受ける僕。だけどそんな言葉は簡単に受け流す事が出来る。けどまあ言う成れば、リアルと仮想の隔たりが最大の残念要素だな。
 幾ら今この瞬間に、シクラの服がはだけたからって、画面の向こうじゃ、なんだか残念な気分が拭えない。自分もLROにいれば、揉みしだく事だって……いや、それは無理かな。
 きっと殺されるだろうな。リアルと仮想の隔たりのおかげで僕達は敵同士ながらこんな緩い事出来てるんだもんな。


「う~ん、じゃあ今度は下から上にしたらどうなるんだろう?」


 僕はシクラの罵倒を受け流して、もう一度指を向ける。下はスカートだし、もしかしてめくれるかもね。それか上着がペロ~ンてな感じに……グフフ。これじゃあ変態言われても仕方ないな。
 でも男なら誰だって多少なりともそこには興味あるわけで……僕の様に女の子と付き合った事のない男子にとっては今の状況は自我を狂わせるには十分なんだよ。桃源郷じゃんか、男のロマンじゃんか。
 てかコイツ、わざと語尾につけてた☆が無くなる位に余裕がないみたいだな。
 まああれは、見る度にイラッとしてたから良いけどね。


「ちょ……まだやる気……」


 震えるシクラは完全に普通の女の子みたいだった。てかこれって僕がまさに犯罪者だよね。よくよく考えたら、向こうには反撃する術も無いわけで……この状態は僕が絶対強者じゃないか! 
 ますます調子に乗れるな。


「これ以上は……絶対に嫌!」


 そう言うなりシクラは背中を向けて逃げ出した。まあ確かにそれしか選択肢はないだろう。けど無意味な事だ。だって僕のカメラはシクラというNPCにロックオンしてある。どこへ逃げようと、僕も携帯かざして追いかければ、済むことだ。


「ほれほれ、どうだこの野郎」
「んっ! あっ!」


 僕はシクラを追いかけて路地裏から出た。そしてそのまま人通りのあるところを走る走る。絶対に変な目で見られてただろうけど、このときの僕には関係無かったよ。
 だって後ろからシクラの背中をツツくのに夢中だったからね。ツツく度にピクピク反応するのが堪らない。やばい、変な感じにテンションが上がってる。


「はははははははっははは! ほれほれほれほれほれ」


 自分でも自分がどうなってるのわからない。だけど止まれない。きっとシクラの女の子らしい一面と、この日差しに脳がやられたんだと思う。
 けど次第に、テンションに体がついて行かなくなる。


「ははははははっ……ははは……はぁはぁ……はっ」


 息が続かない。そして足も回らなく成って僕はその場に倒れた。ベチャッって感じで。てか、アスファルトまでクソ熱い。これじゃあ鉄板だ。


「はぁはぁ……がっは――くっ」


 やばい、力が入らないぞ。うう……鉄板で焼かれるお好み焼きの気分。てかこの程度走った位で体にガタが来るなんて……ちょっと情けないぞ僕。通行人の人達が僕を見てるのがわかるんだけど……止まってくれる人がいない。
 おいおい、人が倒れてるのに、それはあんまりではないか? それともさっきの僕の異常なテンションのせいなのかな? 確かにあれを端から見たら、危ない人だったかも。携帯に向かって走りながら話しかけてるなんて、想像したら僕も近寄りたくないかも……
 でもそれじゃあ困る……マジでこのままじゃ人間一人焼け死ぬよ。都会の真ん中で、日差しに焼かれた焼死体が一つ……そんなニュースが流れる事に。


 この位置からだと、世界が陽炎に包まれてる様に見えるな。車も人の足も熱気で歪んでる。まるでさっきまでの僕の心の様だぜ。これこそ天罰か……


「ふん! 死ね! そのまま死ね!!」


 なんか携帯の方からそんな声が漏れ聞こえてくる。僕は最後の力を振り絞って携帯を顔上の方へ持ってくる。するとそこには、僕を何度も踏みつけてるシクラの姿があった。まあ実際には踏むことなんか叶わない訳だけどね。すると僕が見てる事に気づいたのか、いつもの余裕たっぷりの表情を浮かべるシクラ。
「良い気味ねスオウ☆ ほんと良い気味! 乙女の体を弄んだ罪はこんなものじゃないわよ!!」


 いや……いつもよりも数倍質悪くなってらっしゃる。でも僕はそれよりも気になるものを実は見つけてたこの態勢でスカート姿のシクラを見上げるってことはつまり、例のアレが見えてる訳だ。


「黒のレース……意外な様で、しっくりくるかも……」
「――っつ!!!」


 シクラは腕でスカートを直ぐに押さえた。だけど遅いな。僕の頭には今の映像が鮮明に記憶されたよ。ミニスカートで足上げて蹴りに来るから見えるんだ。


「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す……」


 なんか呪いの言葉を呟き出したシクラ。案外純情だったんだな。うう……でもこれは殺される前に死ぬかもしれん。這ってでも影に行かないと、まだ死ぬわけには行かないんだ。
 ずりずりと芋虫みたいに道路這う僕。するとそこで僕の進行方向に邪魔者が……立ち止まって明らかに僕を妨害してる。そんな誰かが、こう言った。


「ほんといつもバカみたいな事しかしてないのね」

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