命改変プログラム

ファーストなサイコロ

幸か不幸かの出会い

「ぬ……ぬぬぬぬうあああああああああああああ!!」


 夜空に響きわたる絶叫。それはもう耳を覆いたくなるほどに強烈だった。だけどここで、耳を押さえてる訳にも行かない。
 だってこれは不味い。祭りの喧噪で聞き取り辛いだろうけども、これだけの叫びなら向こう側に届いてたっておかしくない。
 僕はすぐさま、砕けた盆栽を見て絶叫してるモブリの口を塞ぐことに。


「ふがふが……ふがががあが!!」


 メッチャジタバタするモブリ。てかなんかこいつも、僕達と同等に怪しいんだけど……なんで黒いコートにフード何だよ。顔が見えない。するとついには危険を感じたのか、怪しげなモブリの足下に現れる魔法陣。そして宥める間もなくそれは炸裂した。
 ボカアアアンと祭りの最中のサン・ジェルクに大きな煙が立ち上る。流石にこれに気付かない奴はいないだろう。頭の周りで回ってるお星様……爆発の衝撃で倒れ伏してる僕達の耳には迫り来る大量の足音が聞こえてた。
 これはやばい……さっさとこの場を離れないと。姿を見られるだけでも不味いんだ。まだ僕達は湖にでも居ると思わせておきたい。
 ここで見つかったらそれこそ、もう休憩する暇なんて無くなる。


「おい、みんな大丈夫か?」


 僕が周りにそう尋ねると、みんなももぞもぞと体を起こしながら答えてくれる。


「なんとか……」
「ええ、こっちも無事よ」


 みんなそれなりのダメージを受けてるけど、大事は無いようだ。どうやらここで一番ダメージを受けてるのはやっぱり、あの盆栽落としたモブリっぽい。


「うっう……こんな姿にしてしまってごめんよ。必ず立派な鉢に植え変えてあげるから許しておくれ」


 そう言ってそのモブリは、砕けた鉢から本体を取り出してる。なんだかその姿が余りにも惨めというか、可哀想だったから、僕は頭を下げて謝った。攻撃受けたけど、まああれは仕方ないといえる。こっちが不審者過ぎたし、自己防衛だったんだろう。


「あの……すみません。僕がよそ見してたせいで……」


 するとその人は訝しげにこちらを向いてこう言った。


「あれ? 君たち意外と頑丈……うん? 今謝ってくれたのかな?」
「ええ、まあその筈ですけど。許せませんか? でも今は急いでるからこうする事しか……全財産置いていきます!」


 なんだかこのモブリの人は、頭に疑問符を浮かべてる様だけど、こっちはあんまり誰かと関わりたくないからお金で解決を図った。
 ウインドウを表示させてアイテム欄からカードを取り出す。LROはちゃんと独自の硬化と札もあるけど、プレイヤーにはカードが発行されてる。
 モンスターを倒した時のお金は自動的にこっちに入るし、買い物もオークションも全てこれで出来る優れ物。しかもその場で現金を表す事だって出来るのだ!
 カードをそのまま渡す訳には行かないからね。だからお金の形に変える為にカードをタップして取り出す金額を入力……


「ちょっと! 早くしなさいよ!」
「わかってるっての!」


 セラに急かされたせいでちょっと焦るじゃないか。僕はとりあえず全額を入力。確認画面が出るけど、出た瞬間にOKを叩いてやった。
 するとカードからニュキニョキとお金が出てくる。するとその時、両サイドから提灯の灯りが見えた。これはヤバい。


「それで勘弁してください!」


 僕はそう言うと直ぐ様背中を向けて横の更に狭い路地へと入る。多分あの提灯を下げて走ってきてた連中は僧兵だろう……見られてなきゃいいけど……財布もスッカラカンになったし、これで捕まったら割に合わない。


「こうなったら、外を目指すしかやっぱりないかな?」
「それも仕方ないかも知れないですね」


 先頭を走るテッケンさんとシルクちゃんがそんな会話をしてる。テッケンさんはクリエを背負ったままでもスピード落とさないのがスゴいよ。


「スオウ君、後ろから追ってはきてるかい?」


 先頭のテッケンさんを見ながら走ってると、そう言われたので後ろを確認。そうだよな。もしも追っ手が居ないのなら、まだここに止まれる可能性はある。
 今から街の外をしばらく移動するなんて、クリエやミセス・アンダーソンの体に悪そうじゃないか。危険だとしても、休ませてやりたい所だ。
 それに逃げるだけでどうにか成るとも思えないしな。クリエの事も結局全然分かってないし……こんな事なら、箱庭で聞いてるんだった。
 ミセス・アンダーソンがこうなった今、後悔しかないよ。
 そんな考え事をしながら後ろを見た僕は「ん?」と怪訝な声を出す。


「どうしたの? やっぱり追っ手が?」


 僕の怪訝な声にセラがいち早く反応して、取り合えず武器の暗器針を構える。だけどこれは……え~となんと言えば良いんだろうか?


「まあ取り合えず追っ手って訳じゃないと思う」
「はあ? どういう事よ」


 どういう事かは僕だって聞きたいよ。だって何故か知らないけど、僕達の後ろを着いて来てるのはさっきの盆栽モブリだ。
 しかも僕の全財産を透明な泡に包んで浮かして一緒に持ってきてるし……その行動は何故に? だよ。


「あのあの! すみません!」


 僕がその人を見定めたのがバレたのか、盆栽モブリは必死に自己のアピールをしてるよ。少なかったのかな? あれで全財産何だけど……それで追ってきてるとしたら質悪すぎだろ。
 こうなったら無視を貫き通す……とも思ったけど、気付いたの気付かれてるしな。僕は取り合えずもう一度振り返ってみる。


「あの、これ返しますよ。え~と貴方達は別に私を狙ったんじゃないんですよね?」
「貴方を狙う? そんな事してどうするんですか? 僕達はただ大声出されるのが不味かっただけです。まあ意味は無かったですけど」


 爆発させられたからな。けど、この人はこの人で誇大妄想してたって事か? 自分が狙われたとか思うなんて、よっぽどやましい事でもあるんだろうか? しかもいきなり魔法をぶっ放すなんて相当だよね。
 けどわざわざお金を返しに来てくれる辺り、なんか印象と行動が矛盾するな。すると盆栽モブリの人は、申し訳無さそうに俯いた。


「そうですね……無意味でしたよね。貴方達はきっと訳有り何でしょう。なのに私が追ってきた事で――」
「もういいですよ。こっちも悪かった事に変わりないんだし。お互いが悪かったって事でチャラにしましょう」


 なんだか随分落ち込んでるから、僕は気を使ってそう言った。だけどそれでも彼は顔を上げない。そして言葉の続きをポツリと紡ぐ。


「――後ろから僧兵もついて来ちゃって……それでもチャラで良いですか?」
「何やってくれてるんだよアンタは!!」


 負債だよ負債。負債を抱え込んだよ今この瞬間! たかが盆栽が大きく響き過ぎだろ。ついつい大声で怒鳴ってしまったじゃないか! 
 盆栽モブリは、腕に抱えた松をぎゅっと抱きしめてプルプルしてる。言い過ぎたか? だけど確かに後ろの方では、微かに迫る光が見える。マジで引っ張って来ちゃってるんだもんこの人。


「てか何でアンタまで? そのお金はあげるって言ったでしょ?」


 まあ見た目の怪しさから思わず逃げたとも考えられるけどさ。はっきり言って迷惑だよ。すると盆栽モブリは言いにくそうにしてる。
 顔を隠すフードが取れそうで取れないのももどかしい。


「お金は受け取れません。それは教義に反する事です。それにですね、私も彼らに見つかるのは不味いと言うか……」


 どうやらやっぱりやましいことがあるみたいだな。まあ格好だけで十分やましいもんなこの人。だから思わず、僧兵が迫ってるのを知り、僕達の後に付いて来たって事か。


「所でみなさんはどうして……」


 何とも話しづらい事を聞いてくる人だ。ある意味図々しいな。てか喋る必要なんて無いよな。この人とは同じ状況でも仲間とかじゃ全然ないんだし……


「それは止めときましょう。お互いにとって言いづらい事の筈ですよ」
「まあ……そうですけど……」


 お互いにとってって言葉が効いたな。こうやって追われる者どうし、無闇に教えたく無いことで一杯だよ。僕達も、そしてこの人も。それに僕達が教えたとしても、そっちがそっちの事情を教えてくれるのかって事だしね。
 興味なんて無いけど、聞かれたら聞き返す事に成ることを念頭に置いとけよって事だ。で、お互いに言いたくない事情があるから、これ以上の詮索は無しが暗黙の了解だ。


 てか、そろそろ着いてくるのを止めて欲しい。横道に反れるとかして欲しいんだけど。それならある程度、追ってきてる僧兵が分散するかも知れないしな。
 するとその時、クリエが僅かに反応したのかどうか分からないけど、テッケンさんが興奮気味にこう言った。


「スオウ君! クリエ様が目を覚ましつつあるかも知れない。さっき耳元で何かを言ったよ!」
「なっ! マジですかテッケンさん!?」
「大マジだよ!」


 そう言って確信めいた顔をするテッケンさん。この人は嘘なんて言わない。それにこのタイミングで吐く嘘に意味なんて無い。
 て、事はクリエはちゃんとこっちに戻ってるって事だ。心と体が繋がるのに時間が掛かってるぽいけど、ちゃんと連れ戻せてたんだよな。託されたのに、自分だけが意識を取り戻すなんて、そんなのイヤだったんだ。
 こうなったら一刻も早く落ち着ける所に寝かせてやりたい。そしてちゃんと呼びかけたい。でもそれが一体いつに成るやらの状況なのが歯がゆい所だ。
 もう僕達だってバレてるんだろうか? そうなるとかなり厄介だよな。すると僕達の会話を聞いてた盆栽モブリが確かめる様にこう言った。


「クリエ? それはクリューエルの事ですか? と、いう事は貴方達はもしかして……」


 しまった……と思った。不用意にクリエの事を口に出すのは不味かったかも知れない。てか、クリエの事を知ってるって事は、この盆栽モブリも聖院の関係者か何かか? でもクリューエルなんて呼び捨てにしたのはこの人が初めてだな。
 そんな信仰心が厚い訳じゃないのかも。それか、それなりの立場とか……いやいや、あり得ないな。


「あははは、一体の何の事ですか? 僕達は急いでるんで後ろの僧兵達を任せちゃいますね!」


 僕は追求を逃れる為に、多少強引でもこの盆栽モブリから逃げようとする。でも何故かこの盆栽モブリは、予想以上にしつこく絡んで来やがる。


「ちょっとそれは困るよ! 私だってあの人達に見つかりたくないし……それに君達は、どこか隠れる宛でもあるのかい?」
「ああもう、アンタがどんなやましい事をしたか知らないけど、お互いを詮索しないって暗黙の了解をしたじゃないか。
 放っておいてくれないですか? こうなった以上、僕達はサン・ジェルクの外に出ますから、きっと方向が違いますよ」


 まあ適当にそう言ったけど、こうなったら多分そうなるよな。サン・ジェルクに止まるのはもう危険だ。しょうがないけど、クリエ達には後少し位我慢して貰わないといけないだろう。不本意だけどな。


「うう~ん、外へ? でもそれこそ難しいと思うけど。だって君達が僕の思ってる通りの人達なら、元老院は逃がさない。
 しかも戻って来てるって一応は知られてるんだよね?」


 懲りずにどんどんこっちを探り出してるんだけどこの人。もの凄く迷惑……不可侵条約はどうしたんだよ。なんだかもの凄く興味を惹かれてるみたいだ。
 てか外へ出るのが難しいって……それは気になることだ。


「まあ湖の上で見られてるけど……僕達は上手くやってここに居るぞ」
「上手くやったとしても、君達の方へ全兵力を投入してる訳じゃないでしょう。街の中にだって普通に巡回の役目をしてる僧兵は居るし……取り合えずこんなサン・ジェルクみたいな周りから直接出れない様な場所で、どこをまず押さえるか。それはとっても簡単だよね。
 取り合えずそこさえ押さえて置けば、外には絶対に出れないって場所がある。そして外に出さない限り、追いつめる事が出来るんだよ」


 む……不本意だけど、確かにこの盆栽モブリの言ってることは正しいな。確かにこんな孤島みたいな街なら、真っ先に出口を押さえるのが効果的。僕達がどこへ向かおうと、そこだけは警備の手を増やす事はあっても、薄める訳はないんだ。


「テッケンさん、ヤバいですよ。外に出る道は防がれてると思った方がいいです」
「ああ、まあそれは分かってた事だよ。飛空挺も転送場所も、きっと僧兵が居る事だろう。だけど今なら、無理矢理突破する事がまだ出来るとも思う。
 指名手配はされたみたいだけど、でもまだ大々的に追いかけてる訳じゃないみたいだしね。まだ聖院の兵力の半分もきっと出てないよ。
 このくらいで十分と思われてるのか、ただ余り騒ぎにしたくないのかは知らないけど、今ならまだ外にでるチャンスはある」


 なるほど……確かに暗い空に飛空挺がまだ飛んでるしな。本気で僕達をここに閉じこめたいんなら、あれの出航を止めたって不思議じゃない。
 取り合えず飛空挺も転送場所も押さえとかなくちゃいけない場所だしな。


「それに今ならまだ、湖で僕達を捜索してる奴らも居るだろうし……騒ぎを起こさない為にも、そこにだって普段よりもちょっと多めの警備しか配置してないかも知れない」
「そうですね。もうここに止まるのはどっち道無理ですよね。宿屋でも、踏み込まれないとは限らないし……」


 基本宿屋の部屋はプライベートルームに成って他人の侵入は出来ない筈だけど……それがNPCにまで適応されるのかは正直分からない所だ。
 向こうは一応大義名分があるし、クエスト対象とかだと特殊な事が適応されてたりするからな。幾ら探しても見つからない様なら、宿屋だって探すことは考えられるよな。


「てな訳で、僕達は多少強引にでも外へ目指すんだけど、アンタは一体どこまで着いてくる気だよ」


 僕はそう言って後ろを必死に走る盆栽モブリに声を掛ける。


「う~ん確かに君達が本気で外へ出ようとするのなら、今の兵だけでは止められないかも知れない……けどやっぱりお勧めは出来ないな」


 そう言って頭を左右へフリフリする盆栽モブリ。どういう事だよ一体。ここの方が安全だとでも?


「外に出て、君達は近くの村か町を目指すんだろうけど……言っておこう、そこもノーヴィス領だよ。もしも本当に追跡を逃れたいのなら、ノーヴィスと言う国から出た方が良いって忠告だよ。
 まあだけど、案外一つの国から出ると言うのも大変だよ。アルテミナス程じゃないけど、ここも広いからね。それに転送場所は至る所に設置してあるし、それは聖院が管理してる。
 サン・ジェルクには五カ所を結ぶ転送陣があるけど、どれを使ったかなんて直ぐに分かる。そしてその先にある村か町には、すぐさま連絡が行くだろうし、追いかけるのだって簡単だ。
 ようは、ノーヴィスを出ない限り君達は休む事だって出来ないんだよ。それに外の方が派手に動きやすいしね」


 ぬぐ……確かにそうなり得ない事もないかも知れないな。国家権力から逃れるには国外逃亡しか無いって事か。僧兵がここで派手に動かないのは、自分達の街を壊されたく無いからってのもありそうだな。
 それなら外で追いつめた方がやりやすくもあるのかも知れない。どこへ行っても敵だらけ……これじゃあクリエやミセス・アンダーソンを休ませるなんて出来ないな。
 国境を目指すにしたって、町や村を通らないルートとなると途端に、険しく成ったりするらしいし……でも近づき過ぎたら追っ手がって事になるし……これは気が休まる暇なんて無い。
 犯罪って本当リスクしかないな。リアルじゃ絶対にごめんだと思う。


「テッケンさん……みんな……」


 僕はどうする? って意味でみんなの意見も求めるよ。だって……ね。


「僕は例えどこまで行っても追われる事に成っても、サン・ジェルクからは出るべきだと思う。聖院の総本山……ここは危険すぎるよ。
 それに元老院の力が絶大に振るわれる場所だしね。ミセス・アンダーソンがこうなった今、抑止力がなくなったみたいな物だよ」
「アンダーソン? アンダーソンもご一緒ですか?」


 テッケンさんの言葉に、盆栽モブリが反応する。だけど僕たちは揃って口を噤んだよ。だってこれも、不用意に教える事じゃないと思う。
 てな訳で、盆栽モブリを無視して走りながらの話合いは続く。


「僭越ながら私は、ここに居ても良いと思います。サン・ジェルクから出たら、元老院の奴らはそれこそ安心しますよ。
 今はある意味、奴らの喉元にも刃を突きつけた状態です。私たちも追いつめられてるけど、逆転の材料はここにある気がします。
 それに私たちが尻尾を巻いて逃げるのを期待してるのかと思うと、どうしても反抗したく成ります」


 そう言ったセラは目が怖い。まあセラの言い分も分からなくはない。ここに止まって、元老院を蹴落とす材料を見つける訳だ。
 そしたら指名手配も無くなるし、とりあえずの危害はクリエに及ぶことも無い。でもそれは難易度高いよな。元老院を落とす事にしても現状は何も手ゴマがない。
 向こうは国をバックにしてる……というか、国を食い物にしてるような連中だろ。そいつ等と張り合うには余所者の僕らだけじゃどうしたって弱い。
 殺して行けば良いって訳じゃないしな。結局意見はまとまりもしない。喧噪から遠い所を走り続けてる僕達。自然と会話は途切れて、息の音と足音だけが周囲に響くだけに。


 どうしたらいいのか……どうすればいいのか……何が最善なのかなんて誰にも分からなかった。どれも正しいようで、どれも裏目に出そうでもある。だけど僕たちは選ばなくちゃいけない。
 そして絶対に変わらない事は、クリエを守り抜くって事だ。守り抜いてこいつが望んでた事をしてやりたい……だからこそ、元老院は邪魔。だけど今の僕達じゃ奴らを倒せない。
 それなら逃げるしかない……のかな。すると沈むような空気の中で、まだ着いてきてた盆栽モブリが手を挙げる。


「みんなどうすればいいか分からないって顔してますね。何が正しかったなんて、きっとこの場合は答えなんて無い。結果を良くするために動くしかない。
 だけど私なら、その選択肢にもう一つの可能性を与える事が出来る。どうだい? 乗ってみる気はないかい?」
「可能性?」


 その言葉は魅力的に響く。だけどこの怪しいモブリを信用して良いのか? それが問題だな。そもそも一体どんな手が?


「君達の為にもきっと成るよ。着いて来たまえ、クリューエルを助けたいのならね」


 そう言って盆栽モブリはいきなり道を変えた。僕達は立ち止まりその背中を見据える。そしてみんなと顔を見合わせた。


「どれを選んだってマシな事にはきっと成らないんだし、良いんじゃないの? 可能性」
「だな!」


 セラの言葉にみんなが頷いて僕も決めたよ。そうだよな、どこだってマシには思えない。あの人の事なんか知らないけど、悪い奴って印象は無い。
 罠の時はその時で考える。僕達は彼の後を追うことに。するとどんどん市街の中心へ向かってるような。ドデカいお社と言うか御殿が近づいてないか?


「一応聞くけど、どこに向かってるんだ?」
「勿論、聖院――その場所だ。灯台もと暗しだよ」


 マジで大丈夫かメッチャ不安に成った。だけど彼は手慣れた様子で、人のいない秘密の通路っぽい所を進んでいく。そして外のある一角で、これも秘密の転送陣を起動させた。
 僕達は偉く豪奢な部屋へと現れる事に。そして彼は不意にこう言う。


「ようこそ、第八十二代教皇ノエイン・バーン・エクスアルドの部屋へ」


 僕達は固まるしか出来なかったよ。

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