命改変プログラム

ファーストなサイコロ

壊れかけの籠



 クリエを庇ってモンスターに吹き飛ばされたシスター。彼女を助ける為に僕は動く。セラ・シルフィングを振りかぶり、うねりを敵へぶつけて吹き飛ばす。


「おい! 大丈夫か?」
「シスター!!」


 僕たちは声を掛けながら彼女へと近づく。命に関わる程じゃないと思うけど、クリエの顔は真っ青って感じに成ってた。


「はい……大丈夫です……この位。それよりも……クリエが無事で良かった。大袈裟なんですから。この程度じゃ……私は死にませんよ」
「シスタ~うくっ――違うよ……クリエ庇って怪我しちゃってる……それだけで嫌だよ……」


 案外大丈夫そうなシスター。だけどクリエは既に涙を流してる。案外こういう事には脆い奴なのかも……いや、当然だよな。
 だってクリエにとってシスターは、もっとも近しい人だろう。その人が自分の盾に成って負傷した。それは泣いちゃう事だ。


「私のせいですね。私が守護を解いたから……」


 そう言って自分を責めるのはミセス・アンダーソン。だけどそれを言うなら、ミセス・アンダーソンに守護を解かせるまでに追いつめられた僕だって同罪だ。
 助けるって言っておいて、誰かの犠牲無くしてそれが出来ないなんて……もう嫌なのに。


「嘆くのなら、回復薬の一つでも分けてやれよ。それか回復魔法とか出来ないのか?」
「私の十字架は他者を救ったりはしない。私にはそう……才能って物がないからね。そもそも、その存在に回復薬とかが効くかどうか……」


 自虐してるアンダーソンは、なんだか意味不明な事を言った。効くかどうかだって? 彼女はここに確かに居る。クリエの頭を撫で撫で今もしてる。その存在があるのなら、回復薬はちゃんとシスターを回復してくれる物だろう。
 僕はアイテム欄から回復薬を取り出して、一個をシスターへと渡した。シスターの手は震えてたけど、なんとかちゃんと体は動かせるみたい。


「ありがとうございます。こんな貴重な物を、私の様な者の為に……」
「そんな、何かなんて言わないでください。貴方が居なくなったらクリエがもっと泣く。泣いてくれる人が一人でも居るのなら、自分の事をそんな風に言うのはおかしいと、僕は思います。
 それに僕がもっともっと強かったら、貴女が怪我する事も無かった」


 偉そうな事言っといてなんだけど……結局はそこへ戻っていってしまうんだ。幾ら嘆いたって仕方ない事だとわかってる。
 だけど僕達は、後悔せずにはいられない。荒れ狂う天候の中、大きな落雷が二・三発続けざまに起こった。大きな音と衝撃……それに伴い、地面までも地割れを始めた。
 これはヤバい……もう時間が無い。それに既に大量のモンスター共に僕達は囲まれてる。
 当然だよな……これだけ立ち止まってるんだ。奴等が追いつかない訳がない。


「そうですね……私はもう十分に恵まれてます。私が見える友達が、この子に出来て嬉しいですし。それに貴方は十分に強くらっしゃいます。
 私はこの子を見守り、育て、守るのが役目。気にすることはないんです。私は私の役目を全うしてるだけ。それも今日で終わりに成るでしょう」
「何? どういう事……シスター? これからもずっとクリエの傍に居てくれないの? 終わりなんて嫌だよ。諦めないで!」


 クリエはシスターに抱きついてそう言ってる。確かに今の言葉はなんだか……嫌な予感しかしない。今日で終わりにしないために僕達は走ってる筈なのにだ。


「クリエ……私はね……」


 何かを紡ごうとするシスター。だけどその時、ミセス・アンダーソンが声をあらげて警告を発する。


「来るわよ!! このままじゃ何度だって追いつかれるわ。それじゃあ間に合わない。もっと効率の良い道は無いの?」


 確かにこのままじゃとてもじゃないけど、間に合いそうもない。地割れまで起こりだして……本当にこの場所が無くなりそうな雰囲気だ。
 これじゃあまるで、箱庭じゃなくなるってだけじゃ済まない様な……この場所もろとも元老院の奴等は消せるのか?
 ミセス・アンダーソンの問いかけに、荒い息を吐き続けるシスターが最後の希望ともいえる道を示してくれる。


「この近くに鍾乳洞があります……もしかしたら、反対側に続いてるかも知れません」
「鍾乳洞……」


 確かにこんな大荒れの外を走るよりはマシだろう。外だとこちらが不利に成ることはあっても、得は無さそうだし、鍾乳洞なら山の中を通るって事だから、単純に考えてもこのまま進むよりは速いはずだ。


「クリエそこ知ってる! 昔は良く二人で行ったよね。それにクリエはちょくちょく探検してる!」


 クリエが昔を懐かしんでちょっと笑顔を見せる。こいつでも探検できるレベルなら、一気に通り抜ける事だって可能かも……いや、そもそも……僕達には迷ってる時間さえ無い。


「鍾乳洞……それに賭けてみましょう」
「だな。けどそれよりもまず……ここをどうやって抜けるかだろ」


 随分と良くない程に囲まれてる。大量の赤い瞳の色が、この雨で見えにくい筈なのに、それでも爛々と光ってるのが見えるんだ。
 ようはそれだけ大量って事だろう。どう考えても、今のイクシードだけじゃ越えられない数。僕の頭の中には最後の選択肢……それが点滅する。


(イクシード3を使うしか……)


 でもまだ条件が揃ってない。それにあれは……リアルにだって影響する。僕の体が持つかどうかも問題。だけどグダグダ言ってると、ここで全員お陀仏。結局クリエを助けられないって事になる。
 イクシード3なら、この天候にだって影響されないだろうし、やるしかない。そう覚悟を決めた。条件は一回突っ込んで、そこで雷放を使えば上手く自分もダメージを受けるだろう。
 でもその時だ。僕とミセス・アンダーソンの間に挟まれたシスターが、荒い息を吐きながらこう言った。


「お二人で……お二人で道を作ってください。大丈夫、クリエは私が絶対に守ります! ですから……どうか生きる事を考えて」


 それは……まさか僕に言った? いや、彼女がイクシード3を知ってる筈はない。でももしかしたら、いらない覚悟をしたのを感じ取ったのかも知れないな。
 死ぬ気なんて無いけどさ……あれを使うって事は、少しはそれを考えない訳には行かないから。


「クリエは生きるよ! スオウもアンダーソンもシスターだってそうだよ!! 誰も死なないで! それもクリエは願ってる!」
「……はっ、願われたらしょうがないよな。叶えたくなる。行けるのかよアンタは?」


 僕はそう言ってアンダーソンの背中をみる。


「そうね。クリューエル様の願いを無碍には出来ないわ。もう少しだけ、気張ってくれるかしらシスター? 道は確かに作ってあげるから、その間、その子をお願いするわ」
「はい……」


 アンダーソンはそう言って胸の十字架を等身大まで大きくする。攻撃態勢。定かじゃないけど、きっと圧倒的に向こうが多い。それをたった二人で……でも一人よりは断然マシだな。
 生きるために、それぞれが精一杯出来る事をやる。それはクリエやシスターまでも、やれる事をやろうとする事で少しだけ高まった数パーセントの可能性。
 守られるだけだった自分達の身を、自分で守ろうとしてくれてる。まあ本当は、そこまでさせたくなかったってのが本音だけど……きっとそれはアンダーソンも一緒だろう。


「クリエは私が守るからね」
「クリエだって、シスターを守る! シスターはけが人なんだから!」


 なんだかクリエは使命を見つけたようにやる気を見せてる。大切な人の危機の方が先に迫ったから、何かしなきゃって思いがクリエにも募ったのかも知れない。
 暴走しなければ良いけど、そこはシスターがちゃんと押さえてくれるだろう。


「私よりも貴方が攻撃力は上でしょう。私が攪乱してあげるから、貴方は彼女から鍾乳洞の位置を聞いて、最短の道を作りなさい」


 背中越しにそんな言葉がかけられる。確かに沢山の十字架を一度に放れるアンダーソンの方がそういうのには向いてるかもな。
 小さな十字架だって使えるし、それだけであの狼共は、爆発させる事が出来るだろう。それになんてたって遠距離型だしな。
 だけど奥の方まで貫通させる威力は無いから、僕のイクシードでそれをやるわけだ。確かにそれしか無いだろう。


「シスター、鍾乳洞はどっち方面ですか?」
「ここからなら――」
「クリエ知ってるよ! これを使えば良いよスオウ!」


 シスターの言葉を遮ってクリエが渡して来たのは地図だ。なんだか随分手作り感があふれる地図だけど、そこにはこの箱庭の全景が書かれてる。
 自分達の家の位置から、遊び場一二三とか、穴場とか書かれてる。これはこのA4サイズの紙に書いてあるっていうよりも、元の紙に書いた物をこの不思議な質感のペラペラした物へ写し替えた感じ何だろうか?
 スクロールだって出来るぞこれ。しかも自分達の位置……いや、正確にはクリエの位置が表示されてるから、鍾乳洞までの距離とかが分かりやすい。
 これは確かに、今の状況でなら役に立つ。


「やるなクリエ。これは助かる」
「えっへん! ただ端っこに行くだけなら、使わないと思ったけど、役にたって良かった」
「本当に貴女って子は……いつのまにそんな物を持って来てたんですか」


 呆れ気味にシスター訊ねてるけど、これには鍾乳洞内部の構造もあってかなり便利。位置も分かったことだし、そろそろ行動開始と行きますか!


 僕達は固まって行動が前提だ。はぐれない様にするためにもそれが絶対。僕は真っ先に先行して道を作る係りで、クリエとシスターはその間で僕に付いてくる。最後は後ろの警戒も兼ねて、アンダーソンが後方支援をしてくれる。
 大量の敵は基本囲む様に攻めて来てるけど、こうなったら一カ所集中突破で、周りが迫る前にここを抜ける! 僕はただ前を見据えてセラ・シルフィングを振り続ける。


 クリエ達はそんな僕に置いて行かれない様に必死に走る。ミセス・アンダーソンは周りを牽制しながら、僕達に及ぶ危険の排除をやりながら駆け抜ける。
 幾重にも折り重なる水と爆発の音。それが途切れない程に続いて続いて……僕達は目的の鍾乳洞を見つけた。そしてそこへ飛び込むやいなや。ミセス・アンダーソンが十字架で入り口を破壊。
 これで、出口が無かったら僕らは生き埋めだよ。


「出口はあるわ。そうでしょシスター?」
「ええ、きっと続いてます」


 二人の力強い言葉に、僕は振り返り洞窟の奥をみる。そこは暗い暗い闇へと続いてた。大丈夫……かな? まあもう、入った道を塞いだ以上、奥に進むしかない訳だけどね。
 するとその時、瓦礫と化してる入り口が、パラパラと微妙に揺れていた。これは……


「どうやら奴等は、まだ諦めてくれない様だな」


 きっとこの振動は向こう側で、敵が突っ込んでる振動だろう。突っ込んで爆発してを繰り返して瓦礫を吹き飛ばす気なんだ。


「行こうスオウ! クリエが案内してあげるよ!」
「そうだな。ここにとどまってたって仕方ない。知ってる所まででいいから、頼むぞクリエ」
「うん!」


 取りあえずの驚異をやり過ごしたからか、クリエはいつもの調子が戻ってた。僕的にも、クリエには元気で居て貰いたいから、ちょっと安心だよ。
 シスターも何とか大事無かったのが良かったんだろう。僕はクリエに手を引かれて鍾乳洞の奥へと進む。そしてその後からシスターと、ミセス・アンダーソンが付いてくる。




「こっちこっち!」


 そう急かしながらクリエは進む。しばらく暗闇を進むと、急に広い場所へと出た。それに明るい? 暗がりを歩いてたから、その明るさが目に眩しい。


「んっ……」


 目を細めて慣れて来るのを待つ。眩しいと思った光は、慣れてくるとそこまでじゃない事に気づく。なんというかここに満ちてる光は、太陽や月のどれよりも淡いと思える光を放ってた。


「どう? 凄いでしょ!」


 そう言ったクリエは、僕の手を離して先に駆けだしてしまう。そしてピョンピョンと楽しそうになんか踊ってる。僕は感嘆の声を漏らしながら、そんなクリエの後に続いた。
 洞窟なのにえらく天井が高い。それに洞窟と言うよりは、空間と呼べる場所が広がってる。そして至る所に、数十メートルはあろうかという程の白い柱が延びていた。
 天井に向かって確かに延びてるその白い物が、きっと鍾乳石。天井の壁にも、同じ様な物が幾重も垂れてきてるのが分かる。
 そして一際ドデカいのが数本あった。それは既に、天井から垂れてきたのと、地面から伸びて来たのが合体した様に、一本の柱として存在してる。


 てか、よく見たらここは壁もなんか白いな。鍾乳石が壁自体にも浸食してるのかも知れない。てか、これって光源は一体どこなんだろう?
 鍾乳石事態は、光ってる訳でも無さそうなんだけど……ただ波打つ様な白い模様は綺麗だけどね。途中までは暗かったんだから、ここでは何かが光ってないといけないんじゃないか?
 でもどこもビカカってしてないし、松明っぽいのも無い。


「何でこんなに明るいんだ?」


 僕は自分では解決出来ない事を、口に出して言ってみた。するとクリエがそんな僕の言葉を聞くなり、物知り顔でこう言った。


「ふふふ、スオウは頭悪いからね。クリエがクリエが教えてあげる! この周りの全部が白っていう光を放ってるんだよ。
 それは一つじゃ小さく弱い光だけど、これだけ集まればこの場所一帯を明るく出来るんだよ!」
「ふ~ん――」


 成る程ね。この鍾乳石事態が僅かに白い光を放ってる訳だ。それが集まりに集まってるから、あたかも光源がない光が成立してると……リアルには無い鍾乳石の機能だな。
 所で、僕はさっきのクリエの失礼な発言を聞き逃しちゃいない。確かに良くは無いけど、悪いって程じゃないっての。だから得意気にしてるクリエにちょっと意地悪を言ってやる。


「――で、誰からの受け売りだよ」
「シスターがそう言ってた!」


 元気一杯に応えくれたクリエはそれを言った後も「ふふふ」と何故かまだ得意気だった。どうやら、誰かに教える行為事態に優越感があるようだ。その手段はどうでも良いらしい。
 シスターの方を見ると、なんだか余所余所しく会釈をされた。なんだか、やっぱりってな感じだな。さっき必死に助けてる時は、ちょっと近くに寄れた気がしたんだけど、僕とシスターの距離間は元のままの様だ。


 まあ殆ど初対面だし、そういきなり仲良くフレンドリーに成れる筈もないか。ついさっきは、僕が強引に近寄ったから、ある意味言葉を返してくれたのかも。
 キッカケ……くらいにはその程度の衝撃も必要なのかも知れないな。だけど僕も日本人だからね。初対面の人にはなかなか緊張するよな。それを外に出さない自信はあるけど……それにまだまだ切羽詰まった状況には実際変わり無いし、あんまり軽い感じでもいけない訳だ。そんな考察を自分の頭で繰り広げてると。いつの間にか勝手に進んでたらしいクリエが、遠くで僕達へ手を振ってた。


「早く早く~!」


 そう言ってクリエは大きな鍾乳石へと消えてしまう。僕達は取りあえず急いでクリエ追いつくことに。たく、アイツは自分が最重要人物だと言う自覚が足りないな。一人であんまり遠くへ行くなっての。
 まあ、急ぐのには反対しないけど。雨も風も、雷さえもここだと感じないから、危機感がなんか薄れちゃったけど、まだあの状態は続いてるんだよな。
 いや、寧ろ進行してる筈だ。鍾乳石に感動してる場合じゃない。


「クリエ!」


 僕達はクリエが見えなくなった柱を曲がる。するとクリエの奴は既にその先へとトコトコ走ってる。相変わらずチョコマカとすばしっこい奴だ。


「こっちだよ! こっち~~!」


 そう言いながら、ズンズン先へと進むクリエ。僕達は白い鍾乳石の間を通りながら、その小さな背を追いかける。なんだか奥に進むに連れて、鍾乳石が密集しだした様な……壁みたいになりつつあるから、これがそのまま通路に成ってるって事なんだろう。


「ちょっと待てクリエ! 先に行き過ぎだ。危ないからもっと近くに居ろ!」
「そうですよクリューエル様。独断先行は危険です」


 僕のそんな言葉に、ミセス・アンダーソンがそう続けた。そしてシスターが「クリエ~言うことを聞いて」って小さな声で言ってた。
 だけどそんな僕らの言葉に耳を向ける奴じゃない。


「大丈夫だよ! 取りあえずは、クリエが行った一番奥まで行くの!」


 そう言ってズンズン進んでいく。全く、本当にマイペースな奴だ。そんなこんなで僕達はただクリエの後に付いていく事に。
 まあ、ここにはまだ敵も来てないし、箱庭にはモンスターが沸いて襲ってくる事もないんで、取りあえず行かせる事に。
 だけど結構、ついていくのも大変だった。クリエは自分の小ささを生かした道とか進んでるんだから、僕としてはたまった物じゃないよ。
 鍾乳石と鍾乳石の隙間とか、モブリのシスターやミセス・アンダーソンはいいけど、実質僕は通れないから! そんなこんなで色々と大変思いをしつつ、僕達は進んでると、なんだか不思議な場所へと出た。
 そこは鮮やかな緑色の泉が、五つある縦長の場所だ。白くなってる地面に、まばらにそんな泉が点在してる。そしてついでに言うと、行き止まりだった。


「ここまでだよ。クリエはここまでしか来たこと無い」
「寧ろお前が、ここまで深入りしてたのがビックリだ」


 結構大変だったんだけど。まあ、クリエにとってはこういう冒険が一番の遊びだったのかも知れないな。


「この先があるとか行ってなかったっけお前?」
「あるよあるよ! ちょっとこの緑の水をのぞき込んで見てよ」


 クリエの言葉に従って、僕は水の中をのぞき込む。緑だからって別に藻とかが張ってるわけじゃない。きっと光の反射とか屈折率とかの影響でこういう色に見えるだけだから透明度は抜群だった。それにしても綺麗なエメラルドグリーンだ。
 そしてそんな水の中には、横穴が空いてた。他の穴をのぞき込んでた二人も同様の反応……どうやら、これが先へと続いてる様だな。
 って事は……


「これって、続いてる場所がそれぞれの池で違うんじゃないか?」


 そうなるよな? だってどれもが同じ場所に続いてる訳無い。きっと僕達が望む場所へ続くのは、有るとすれば一つだけだろう。どれに入れば反対側へ行けるんだ? 良心的な設定がここには一つもないぞ。


「どれを選ぶかが重要ね。え~と、神~様~の~言う通り――」
「――ちょっと待て! それって適当だからな! 神様選んでくれてねーよ!」


 なに小学生みたいな事に頼ろうとしてるんだよこの人。それにしてもこれは困ったな……確率は五分の一か……するとその時、この場に挙手があがった。
 そこに僕達の視線は集中する。


「はいシスターどうぞ!」


 クリエが教師を気取って挙手した彼女を指名する。すると辿々しくシスターは言葉を紡ぐ。


「ええっとですね……私達が入って来た所だけが入り口じゃありません。少なくとも私達の為には二つの出入り口が必要な筈で……私が確認してるだけでも三つはあります。
 それが繋がってるかなんて分からないですけど、これはもしかしたら……」


 シスターが言いたいこと、それは直ぐに分かった。成るほどだよ。確かにその可能性は大きい。だけど、この泉のどれがどこに繋がってるかまでは、皆目見当もつかない。
 結局は一個ずつ確かめるしか……いや、そんな時間はない。するとその時、泉に泡が上がった――――様な? 次の瞬間、緑色の泉の四カ所から一斉にモンスターが飛び出してきた。


「きゃあああ!」
「この狼共、やっぱりまだ諦めて――ん?」


 あれ? 待てよこれって……僕の視線は波紋を広げてない泉へと注がれる。宝石の様なその美しさに、僕の視線は釘付けだ。

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